【娘守護隊】天儀巡り3
マスター名:陸海 空
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/25 20:01



■オープニング本文

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●タベタイ、たべたい、食べたい!
 それに名は無かった。
 瘴気が凝り、小さな意識が芽生えただけの取るに足らないアヤカシとも言いきれないちっぽけなものだった。
 いずれ風化するか、別のアヤカシに取り込まれて消える。そんな運命を辿るのが関の山。
 だが、それは消えなかった。
 小さな動物の内側に入り込んだのは、偶然だったかもしれないがそれにとって身を守る手段になり得た。
 そして、入り込んだ物の内部から喰い少しずつ力を貯えた。
 徐々に大きい動物へ、さらにはケモノに到るまで。
 食べたいという欲望は満ちることは無く、食欲の対象は人間へ移るのは必然だった。
 それまで人に取り憑かなかったことは、運が良かったのか悪かったのか‥‥。
 ちっぽけな存在であった頃に人間の内側に入り込もうとしていたならば、簡単に倒されてしまっていただろう。
 傍に小さな動物しかおらず、僅かずつ力をためていったことが、それを瘴気の凝りから下級アヤカシ‥‥果ては中級アヤカシと呼ばれる存在にまで押し上げた。
 人間に取り憑き喰らい始めてからは、力がどんどん増していくのをそれは実感していた。

――もっと、モットたべたい。力が欲シイ。

 欲望のままに人を喰らっていたら、開拓者と言う人間がやってきた。
 その時の戦いは、それにとって初めて恐怖のようなものを与えた。
 倒されてしまう、自分が消されてしまうと思った。
 それほどに開拓者の力は強かった。
 しかし、それにとって幸運なことに開拓者は取り憑かれた人間を助けようとして、本気で戦えなかった。
 だからそれは、喰らいつくした人間の器を捨てて開拓者と言う人間の中に入り込んだ。
 開拓者は、普通の人を喰うよりも力を与えてくれた。
 それはさらに欲した、もっと食べたいと。

――タベタイ、人間。かいたくしゃ、食べたい。

 それは取り憑いた人間の内側から食いながら、次なる獲物を求めて彷徨っている。

●急げ!
「陰殻の開拓者ギルドに取次ぎを!」
 鳴瀬寺から強行軍で安積寺にとってかえした一行は、即座に開拓者ギルドに乗り込んだ。
 今まで得た情報を全て提示し、人に取り憑く中級アヤカシが陰殻に向っていることと、それを追っている開拓者が危ないこと。
 そして、自分たちがそれを倒しに行くことを告げた。
「陰殻か‥‥少し待ちなさい。すぐ連絡をしますが、あそこはほぼ鎖国状態だから難しいかもしれない」
 ギルド職員は、深刻な表情をして風信術を使うと身を翻した。
「急がねば‥‥やつは人を食い続けます」
 紫翠の呟きに、同じようなことを思っていた一行は慄然とする。
 このまま人を喰らい続ければ、中級よりもさらに厄介な上級アヤカシへと成長してしまう。
 そうなれば、今のメンバーで倒すことも難しくなるだろう。
「時間との勝負ですねっ」
 拳を握り締めて智は、はやる気を抑える。
 鳴瀬寺で聞いた話では、東房と陰殻の国境付近に小さな村があるという。
 どちらかと言えば東房の所領なのだが、陰殻のすぐ傍にある故にシノビが多いらしい。
 方向的にそちらに向った可能性が高いとのことだった。
「東房から追うには、時間が掛かりすぎる。陰殻の根来寺からなら、ギリギリ」
 急がなければ、ユンの父親どころか村が全滅してしまう。
 時間が無い。
 じりじりとした焦燥が、一行を苛む。
 その時、漸く風信術を使いにいっていた職員が戻ってきた。
「‥‥一応、入国許可のようなものは得た。ただ、根来寺を出て件の村に辿り着くまでは、出来るだけ慎重に行動すること。陰殻ギルドからは支援を行わないといわれてる。こちらも余裕はないが、出来るだけ支援をするから準備はここで」
「とりあえず通り抜ける許可があれば、もんだいないですっ」
 拾の言葉に同意して一行が頷く。
「ユンさん、とても厳しい道程になるけど、ここが正念場よ」
 薫の言葉に、ユンは神妙な面持ちで「はい、頑張ります」と応えた。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
樹邑 鴻(ia0483
21歳・男・泰
嵩山 薫(ia1747
33歳・女・泰
水月(ia2566
10歳・女・吟
平野 拾(ia3527
19歳・女・志
一心(ia8409
20歳・男・弓
霧咲 水奏(ia9145
28歳・女・弓
鯨臥 霧絵(ia9609
17歳・女・巫
ハイネル(ia9965
32歳・男・騎
龍馬・ロスチャイルド(ib0039
28歳・男・騎


■リプレイ本文

●陰殻を駆け抜ける
「二人乗り出来る馬を三頭に、一人用の馬を五頭ねぇ。ちょっと厳しいが‥‥通り抜ける場所が陰殻なら、出さないわけにはいかんな」
 物資は有限であるが故、緊急事態に備えて貸し出しを渋るのが開拓者ギルドの基本だというのに、今回は渋りつつも馬の貸し出し要求は比較的あっさり認可された。
 それほど、東房にとって陰殻は警戒すべき場所なのだろうか。
「通り抜ける道は、一応整備された街道だからな。今度は荷馬車とかも考えてくれよ」
 急ぎとはいえ、早馬八頭はさすがに痛いとギルド職員は何度も念を押す。
 そんな一幕もあったが、開拓者一行はなんとか人数分の馬を借り受けることが出来た。

 用意してもらった馬を連れて精霊門を抜け、入国及び通り抜けの手続きを済ませると一刻の時間も惜しいとばかりに全員は馬に飛び乗った。
「ユン殿、少々急ぎます。しっかりつかまってください」
 相乗りをするメンバーの中で、ユンを乗せることになっていた一心(ia8409)は、先に馬に乗りユンを抱えあげるように前に乗せて告げる。
「はい、よろしくお願いしますなの」
 掴み易く作られた鞍を握り締めて、ユンが同行してくれるメンバーを見回す。
 体の小さい水月(ia2566)と拾(ia3527)もそれぞれ同乗してくれる霧咲 水奏(ia9145)、鯨臥 霧絵(ia9609)と共に既に馬上にある。
「よろしくおねがいしますっ、いさふしさん!いそぎましょうっ!」
「あの、よろしく‥‥おねがいします」
 それぞれの出発準備が整ったことを確認して、馬を駆るならば騎士とばかりにハイネル(ia9965)が号令をかける。
「出立、それぞれ全速で目的地へ」
 その言葉を合図に、拍車を入れて開拓者一行は猛然と駆け出したのだった。
 出来るだけ急いで、だが馬と己らの体力を鑑みながら休憩を忘れないように。
 単純ではあるが、気が逸っている時にそれを徹底できる者はそう多くない。
 事実、休息を取りながらもじわじわとこみ上げる焦燥感に言葉数は減り、落ちなげに身じろぎする者もいた。
 だが、誰も休憩前に決めた時間を短縮しようと言うものは居ない。
(「…ここで慌てたら…きっと後悔するはず」)
 龍馬・ロスチャイルド(ib0039)は、自分が焦る余りに雑な動きをしてしまい大失敗してしまう部分があることを知っていた。
 だからこそ、己に言い聞かせて焦る気持ちを必死で抑え込んでいる。
 馬が調達できなければ、自らの足で駆け抜けるつもりだった嵩山 薫(ia1747)も、霧絵と共に馬に水を飲ませながら淡く苦い笑みを浮かべる。
「たとえこの脚を潰してでも、必ず間に合わせてみせる。でも、馬を借りれて良かった。これで全力で戦える」
 ただ、休憩を取っているとは言っても強行軍、馬が潰れてしまったときは走るしかないという覚悟も決めていた。
「皆さん、水分補給は大丈夫ですか?脱水症状は自覚した時には既に遅いのですから、余り乾いていないと思って居ても飲んでおいてください」
 声をかけて確認を取るのは気配り屋の滋藤 御門(ia0167)で、ユン、水月、拾は幼い分特に声をかけてもらっている。
「ありがとうです、飲みました!‥‥そろそろ出発のじかんですね」
「肯定、皆速やかに騎乗し出発の準備を」
 拾の言葉にハイネルが同意し、一行は陣を払い再び馬上の人となる。
「‥‥ったく、急ぎの時に限って現れるかよ」
 鐙の締まり具合を確認していた樹邑 鴻(ia0483)は、不意に前方に目を向けて毒づいた。
 鴻とほぼ同時に気付いたのは、半数。残る半数もさほど間を置かずに前方から来るそれを察知する。
「ケモノ、ですね。数は多くないです、これなら振り切れます」
 人魂で確認した御門の言葉で、時間をかけないために倒さず面食らわせてまごついている間に振り切ることに決定した。
「騎射で牽制します。道を開いてください」
 水奏が言うと心得たとばかりにハイネルと龍馬が、馬に拍車をかけ前に出る。
「先頭は任せてください!切り拓きますので、嵩山さんと樹邑さん突っ込んで!」
 防御の高い騎士が牽制して、秦拳士がまず突っ切る。
 続いて御門と霧絵が通り、矢で牽制していた一心、水奏が突っ込んだのを確認して騎士の二人が殿を守る形となって駆け抜ける。
「前回も、こういう場面があったわね」
 追いすがってこないよう、水奏が威嚇射撃するのを見て薫が呟く。
 ともあれ、ケモノをやりすごした一行は時折街道をすれ違い訝しげな‥‥敵意の混じった視線を向けてくる陰殻の民ともなんとかトラブルを起こすことなく、国境付近まで辿り着いたのだった。

●再会
 国境を抜けて再び東房に入った一行は、一路エンカクを目指した。
 その付近にある集落はエンカクしかないため、すぐに辿り着くことができた。
 陰殻がすぐそばにあるせいか、僧侶よりもシノビを生業にする者の方が多いらしい。
 エンカクに到着してまず、村人の安全保持の為にアヤカシが近づいていることへの警告と助言をするため御門、水奏、水月が村長や村人に伝えるため一旦村に入った。
 その他のものは、ユンの父とアヤカシを捜索を即座に始めた。
 一心の鏡弦で大まかな位置と方向を捕捉する。
「ここから、北西の方角。こっちにアヤカシの反応があります」
 同じく鏡弦を使用した水奏も、その見立てが間違いないことを肯定する。
「じゃあ、次はわたしが。瘴索結界をつかいますので。水月さんたちは、村をおねがいします」
 時間を惜しみ馬に乗ったまま打ち合わせた一行は、二手に分かれそれぞれの使命を果たすべく動き始めた。

 村の安全保持に向かった三名は、日中だというのに外を出歩く人影が居ないことに首を傾げる。
 人がいないわけではなし、アヤカシに喰われてしまった後と言う最悪の状況でもない。
 家の中で息を殺して隠れている、そんな雰囲気がある。
 このままでは埒が明かないので、水奏が適当な民家の戸をホトホトと叩き声をかけた。
「突然で申し訳ないが、村長殿にお会いしたい。私たちはアヤカシを追っている開拓者なのだが」
 開拓者と言う言葉に反応したのか、警戒を解かないまま家の中に居るらしい住民が問うてくる。
「ほんとに、開拓者か?アヤカシに取り憑かれてねぇだろうな」
 取り憑く、という言葉には顔を見合わせる。
 住民がそれを知っているとなれば、考えられることは二つ。
 既に一般人に被害がでているか、鳳鳴が先に到着して警告したか。
「咬まれるな、と言われているのでしたら。我々はそのアヤカシを追っています」
 御門の言葉に、漸く閉ざされた戸が開かれる。
「あんたら、俺らにアヤカシのことを教えてくれた開拓者の知り合いか?」
 恐らくそれは鳳鳴のことだろう、既に村人に注意喚起をしていったことに水月は安堵する。
「はい、わたしたちは‥‥アヤカシを退治しに、きました」
 その言葉に警戒と解いた村人が、既にアヤカシを追っているという二人組の男がアヤカシについて警告して北西の荒野に向かったことを教えてくれた。
「あそこは、だだっ広く岩っころしかねえ。多分行けば、すぐ見つかる」
 村人の示した方角は、先ほど一心たちが見当をつけたものと同じだった。
 そして引き続き注意を怠らないよう言いおいて、三人は先行した仲間を追うため再び馬を駆るのだった。

 一方、先行しているアヤカシ捜索組は、瘴索結界と周囲の状況を把握することによって鳳鳴達を探索していた。
 ハイネル、龍馬は周囲に争った後や血痕がないかを確認しながら、拾は術を行使している間少々無防備にな霧絵に変わって馬の手綱を握りながら周囲を警戒。
 鴻を薫は、突然アヤカシが飛び出してきても対応出来るように左右を固めて警戒する。
「ちかいです」
「同意、新しい足跡が三つある」
 仲間のその言葉に、力量不足で結界を維持出来ないユンは固唾を呑んで霧絵が指差した方向を凝視する。
「あら、早いわね。御門さんたちがきたわよ」
 後方を確認していた薫が、追いついてきた三人を視認して呟いた。
「慌てた様子はねえようだし、安全確保が順調だったんかな」
 鴻の予想は的中で追いついた水奏の説明で、自分たちが追っている方向で間違いないと確証を得ることもできた。
「霧絵さん、かわります」
 少し疲れの見えた霧絵に、合流した水月が言って瘴索結界を張りなおす。
「いさふしさん、おつかれさまです。少しやすんでください」
 意識を集中していた霧絵を気遣い、拾は手綱を握ったままでいる。
「あれは‥‥、人だ!」
 前方を見ていた龍馬の言葉に、全員が一斉に目を向けた。
 そこには、憔悴した様子の二人の男と、対峙している怪しい人物がいた。
 怪しい人物は、線の細い男に見えるが纏う気配が禍々しい。
 あれが人に取り憑いたアヤカシというのならば、なるほど既に何人もの人を食って強くなっているようだと理解する。
「おとぅさん!」
 ユンが突然、憔悴した男の片割れ‥‥短髪で長身の男性に向かって声を張り上げる。
 その必死な声音が耳に届いたのだろう、振り返った男はこちらを確認して瞠目する。
「…ユン!?」
 遠目だが、何とか判る少女と似た面差し。
 ユンの様子から、間違いなくあの人物こそがずっと探し続けていた支倉鳳鳴であると、居合わせた全員が思った。
 だが、こちらに意識を向けたのは、名を呼ばれた鳳鳴だけではなかった。
「マた、えさガキタ。オイシそゥだ」
 細身の人物――アヤカシはぎょろりとした目をこちらに向けてゲタゲタと笑う。
「感動の再会は後回し、ってか。行くぜ!」
 馬から飛び降りて、まずは鴻が突出する。
 続いて、ハイネルと龍馬。
「ひろい、すけだちいたしますっ!」
拾も刀を構えてアヤカシに向かっていく。
「ユンさんも援護、しっかりね。まさかここまで来て何も出来ない役立たずを連れて来た覚えはないわよ?」
 薫はユンや水月が馬から下りる手助けをしてから、そう言いおいて前衛の後を追って駆け出す。
 ユンは硬い表情で頷いて、水月や霧絵と分担して加護法を唱えた。
 そうして、再会の感動を分かち合う暇もなくアヤカシとの戦いが始まったのであった。

●新たなる犠牲
「咬まれるな!そいつは咬み付いた者の内側に入り込む!」
 ずっとアヤカシを追っていた、タイガと鳳鳴が口をそろえて注意する。
 あらかじめ情報収集していた「咬まれるな」という言葉から推測していたが、その通りだったらしい。
 加護法と神楽舞を身に受けた鴻がアヤカシと鳳鳴らの間に割ってはいる。
「今のうちに後ろに!」
 ほぼ後ろに続いていた龍馬がアヤカシと切り結び、ガードする。
「‥‥っぐ、重い」
 細身の男とは思えないほどの膂力は、サムライと志士を喰らったせいだろうか。
 渾身の力をもって、押さえ込むがじりじりと押し戻される。
「助力、こちらにも相手はいるぞ」
 しかし、流石は防御を主体とするだけありアヤカシは龍馬の足を止めるのに意識を向けすぎていた。
 死角から仕掛けたハイネルのスタンアタックに、数瞬目眩をおこした。
「グぅゥ‥‥」
 その隙を見逃すことなく、水奏と一心が立て続けに矢を放って牽制する。
「おふたりとも、いまのうちにうしろにっ!」
 拾が鳳鳴とタイガに声をかけ、薫が後衛の居る場所に先導する。
「こっちよ。すぐに手当てをするわ」
「かたじけない」
 鳳鳴とタイガは一番近い位置に居た巫女、水月の元に先導され神風恩寵を施される。
「ほんとうは、少し休んだ方がいいんですけど‥‥」
 その言葉に、二人は同時に首を振った。
「仲間の無念を晴らすためにも‥‥、引導は我らが」
 タイガの決心は固く、鳳鳴すら引く気はなかった。
「少し休めば、回復の補助くらいは出来る。共に戦わせてくれ」
 そこまで言われてしまえば、水月の口からは何も言えず助けを求めるように水奏を見る。
「決して、無理はなさらぬよう」
 話を聞いていた水奏の言葉に、二人は戦線離脱を免れた。

「グォゥぉオお!じゃま、スルナ‥‥。オレ、くイたイ。かいたくしゃ、クイたい!」
 中級アヤカシにランクが上がったとは言え、開拓者らが見習いを含めて総勢13名いるのだ。
 多勢に無勢で、アヤカシはどんどん追い詰められていく。
 何とか、逃げ出そうとするが。
 何度も回り込まれて退路を絶たれたアヤカシは、追い込まれて苛立っていた。
 そして追い込まれたアヤカシは、後方にいる一番小さい巫女、水月とユンに狙いを定めた。
「ヤワラカいコドものニク、はじメて。くッテやる!」
 そんな叫び声を上げて、恐ろしいほどの素早さで獲物に向かって駆け出した。
 一番近い場所に居たのは、ユンで。
「あぶない!」
 傍に居た一心が咄嗟に庇うが、アヤカシは細身の体のどこからそんな力が出しているのか、あっけなく払い飛ばしてしまった。
「ユン、逃げろ!」
「ユンさん!」
 鳳鳴の叫びにユンは身を翻し駆けだし、薫は叫び瞬脚で駆け寄ろうとするが、アヤカシの動きの方が早かった。
「いたダきマス」
 腕を掴まれて噛み付かれてしまうと思った刹那。シノビのタイガが練力を振り絞り早駆けを使いアヤカシからユンを庇った。
「お嬢ちゃん、大丈夫か?・・・・よかった。それなら、そこの吹っ飛ばされた兄ちゃんとこいって、一緒に離れろ。出来るだけ早くだ」
 ユンが無事でいることを確認したタイガに言われたとおり、ユンは一心の傍に行き、助け起こして皆の下にいく。
 タイガは、己の腕をアヤカシに差し出してユンを守ってのけた。

 だが。

――咬まれるな。

 その真偽が今明かされる。

「鳳鳴!俺は、他の誰に倒されることも望まない!俺の体が、開拓者や一般人を喰うことなんて、望まない!だから、頼む!俺が俺で居られる間に、倒せ!躊躇うなよ!」
 叫んで、タイガは沈黙した。
 それをただ、見るしかできなかった鳳鳴は。
「‥‥‥‥タイガ‥‥!!」
 疲労困憊していなければ、喉が裂けんばかりに絶叫していただろう、血を吐くような声。
 一同が固唾を飲んで見守るなかで、タイガに咬み付いていたアヤカシであった肉体はばたりと地面に力なく倒れこむ。
「動きがないなら‥‥いましかない!」
 鴻がそう叫んで、破軍7回重ねたうえ極地虎狼閣を使い、脊髄と心臓を完全に破壊する様に貫かんとする。
「破軍七式――雷枝穿幹!!」
 だがヒットの瞬間、タイガの体から黒いもや・・・糸のようなものが吹き出し己の身を包み込んだ。

 サムライを喰った。
 次に志士を。
 さらには陰陽師。
 それ以外にも一般人を何人も喰っている。
 特に開拓者はアヤカシに大きな力を与えた。

 そして、今まさに。
 幼いユンを庇って、鳳鳴の仲間であるシノビがアヤカシに咬まれ黒い繭に包まれた。
「陰陽師の時と同じだ‥‥。奴は進化した、喰ったものの力を確実に手に入れるため‥‥あの繭の中で新しい体を馴染ませているんだ。あの繭から出てくるとき、タイガはもう‥‥いない」
 鳳鳴の言葉が、重く響いた。