【娘守護隊】天儀巡り2
マスター名:陸海 空
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/12 04:21



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


 行方不明の父を探してイリマ村を訪れた一行は、その足跡から次なる行き先に目星をつけた。
「東房かあ、あそこ結構アヤカシが出るのよね」
 神楽への帰路、次の目的地について薫がポツリと呟く。
 冥越に隣接する東房は、常にアヤカシの被害に遭っている。
 そこに、まだ幼く開拓者として駆け出しにもなっていないユンを連れて行かねばならないことは、薫以外も憂慮していた。
「なあ、ユンたん。俺らが調査に行ってくるから、神楽で待っておくってのはどう?」
 心配が高じたロックオンが、そう言ってユンを危険から遠ざけようとする。
 しかし、父を探してその足跡を辿るという確固とした目的を抱くユンは、それに頷くはずもなく。
「ユンも、行きますなの。危険な場所だからって、人任せにしておとぅさんを見つけても。おとぅさんは喜ばないと思うの。ユンが開拓者として働く時、依頼してくれる人が不安になってしまうの」
 だから、危険でも行きます。と真剣な瞳で答えるユンに、護衛として随行する開拓者は何も言えない。
「でも、ユンがまだ力不足で。皆さんに、いっぱい助けてもらわないとダメなのもわかるの。だから、無茶も無理もしませんなの」
 一人の暴走で、チーム全体が危険に陥るということを、ユンは幼い頃から父に何度も聞いたと言う。
 己が旅の間、常に足手まといになるということも自覚している。
 だが、それでも父を見つけるために何かしたいという気持ちを抑え切れないのだろう。
「判りました。支倉さんのなさりたいように、サポートします。ですが、危ない時は必ず我々の指示に従ってください」
 竣嶽の言葉に、ユンはパッと表情を明るくして「ありがとうございますなの!」と何度もお辞儀をする。
 その様子を微笑ましく眺めながら、紫翠は少し考え込む。
「東房‥‥となると、人を少し増やした方が良さそうですね」
 目的の村は、東房でも南寄りに位置する「鳴瀬寺」である。
 精霊門のある安積寺より、南下して二日ほどの道程なのでイリマ村に向った時より移動の負担は少ない。
 しかしながら、アヤカシの被害が少なくないため十分に注意しておかねばならないだろう。
 故に、人を増やすということが重要になるのだった。
「ユン殿の後学のために、巫女の方がいらしてくれれば良いですね」
 一心は、巫女を志すユンのために何かアドバイスをしたいと思っていた。
「ひろいもさんせーですっ! 戦闘になった場合も、支倉さん一人だと大変だと思うのですっ」
 同意する拾の隣で、同じく水奏も頷いている。
「では、神楽に帰還してから追加募集ですね」
 休憩ついでに己の弓を調整しながら呟いた鈴菜の言葉通り、神楽に帰還した一行はそのまま次に向う先に随行してくれる開拓者を追加募集することになった。

 神楽に帰還した一行は、まず開拓者ギルドで鳴瀬寺のことを調べた。
 確かに、イリマ村と同じようなアヤカシ被害があったと記述があり、討伐依頼も出されていた。
 だがこちらも、討伐報告は上がってきておらず「被害がなくなったため依頼撤回」ということで処理されている。
「どうにも怪しいね。行ってみる価値はありそうだ」
 誰ともなしに呟かれた言葉は、違わず開拓者一行が思っていることだった。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
樹邑 鴻(ia0483
21歳・男・泰
向井・智(ia1140
16歳・女・サ
嵩山 薫(ia1747
33歳・女・泰
水月(ia2566
10歳・女・吟
平野 拾(ia3527
19歳・女・志
神楽坂 紫翠(ia5370
25歳・男・弓
霧咲 水奏(ia9145
28歳・女・弓
鯨臥 霧絵(ia9609
17歳・女・巫
龍馬・ロスチャイルド(ib0039
28歳・男・騎


■リプレイ本文

●一路、鳴瀬寺へ
「おとうさんにはかくじつに近づいているはずですっ! あせらずにまいりましょうっ」
 前回に引き続き、父探しの手助けをするために依頼を受けた拾(ia3527)は、持ち前の元気さで不安を抱えているだろうユンに声をかけた。
「その健気さに、心を打たれましたッ! 私も、力添えしますッ!」
 向井・智(ia1140)は今回から参加するものの、ユンが父親探しの旅に赴く顛末を聞き感動を禁じえないらしくやる気満々である。
 恋人のそんな姿を見ながら、樹邑 鴻(ia0483)はぼんやりと「うちのクソ親父は今頃、何をしているのやら」と呟く。
 ユンと同じように父を探す拾を初め、人には色々事情があるようだった。
「今回こそ‥‥手掛かり‥‥見つかると‥‥良いですね」
 静かにユンに語りながらも、神楽坂 紫翠(ia5370)は調べたアヤカシの性質から、最悪の場合取り憑かれた父親を手にかけなければならないかもしれないな‥‥と口に出さないまま心に留める。
 その様子に気付いてか気付かずにか、女性のようにしとやかな滋藤 御門(ia0167)は優しく微笑んで「僕もお手伝いしますよ。速く、会えると良いですね」と告げた。
 そんな風に集まってくれた一行に、ユンは心からの感謝を述べて「今回もよろしくおねがいしますなの」と深く頭を下げた。

 精霊門を潜る前に、と一行は神楽の開拓者ギルドを訪れてイリマ村と鳴瀬寺のほかに「憑依型のアヤカシの討伐依頼」が出された記録があるか。
 また「討伐報告は無いが、被害がなくなったので取り下げられた依頼」があるかを調べてもらった。
 資料は膨大であるが故、イリマ村の事件以降から現在までの間でと限定することになった。
 結果、憑依型アヤカシの討伐依頼が他に三件ほどあったものの、全て討伐報告が上がっており途中で取り下げられたものは無かった。
 その三件の依頼についても、特徴が違うためユンの父親とは関連がなさそうであった。
 ただ、依頼があった鳴瀬寺は開拓者を派遣する前に依頼を撤回する時「アヤカシは逃げた。開拓者らしい人間が追って行った」との言葉を残したらしい。
「まあ、収穫はそれなり、といったところですか」
 今回が初依頼で、存分に護衛の役を全うすると意気込む龍馬・ロスチャイルド(ib0039)は、複雑な表情でギルドでの情報を胸に留める。
 そして、下調べを終えた一行は、精霊門を抜けて鳴瀬寺を目指して出発を相成った。

●ユン、初陣
 鳴瀬寺への道程は基本的に順調であった。
 前回の旅のおかげで、ユンも己のするべきことや心がけを学んだらしく開拓者達の言葉をよく聞き守っている。
 歩きなれても着たようで、一行との会話も増えた。
「ユンさんもそろそろ旅に慣れてきたかしら?」
 母のような心境で嵩山 薫(ia1747)がユンに言葉をかけると、明るい返事が返ってくる。
「はいなの。皆さんのようにはいかないけど、出来ることが増えてきたのよ」
 休憩で火を熾す手伝いなども率先してしていたユンを思い出し、薫は「そう、よかったわね」と微笑んだ。
 もともと喋ることが余り得意でない水月(ia2566)は、同じ巫女と言う立場で何か助言をしてやりたいと思うのだが、どう切り出すべきか考えあぐねて困った顔で鯨臥 霧絵(ia9609)に助けを求めるような眼で見る。
 霧絵も、同じく巫女で水月と共にユンに何か助言できればと思う仲間である。
「ユンのおとーさま、しんぱい、ね。‥‥何か、わかるといいのだけど」
 勿論アヤカシについても、との付け足しに、隣を歩いていた霧咲 水奏(ia9145)も難しい顔で頷く。
「件のアヤカシが退治されず、とあれば人を何人も喰らい、最早下級アヤカシとはいえぬ力を蓄えているはず。ユン殿の尊父も勿論ですが、周囲の被害も抑える為にも調査進めねばなりませぬな」
 深刻な内容ではあるが、下手に誤魔化したりせずあえて本当のことを告げる水奏にユンも真剣な顔で頷いたのだった。

 そして二日目、一行は魔の森の影響から来るのか、現れたアヤカシと切り結んだ。
 出現したアヤカシは狼を模した怪狼‥‥下級の獣系アヤカシ数匹であった。
「初陣としては‥‥手ごろでしょうか」
 眼鏡を指で押し上げ構えを取った智に、ガードを発動させた龍馬がユンほか後衛を庇う位置につく。
「さぁて、護り抜きますよっ」
「智、気を抜くなよ!」
 拳を握り一歩アヤカシに向けて智に合わせるよう足を進めながら、鴻が攻撃のスタンスを取る。
「支倉さんっ! ひろいたちからはなれないでくださいっ」
 仕込み杖を鞘走らせ、拾は後衛の中心‥‥守られる位置にいるユンに声をかける。
「アヤカシ相手に名乗る名は持ち合わせていないわ。来なさい」
 飛龍昇をグッと引き上げ具合を確かめながら、涎を垂らしこちらに襲い掛かろうとする怪狼を挑発する薫までが、前衛で戦う者たちである。
 いずれも落ち着いており、怪狼達がどのように襲い掛かってきても凌げるだけの余裕と力量を有していた。
 だからと言うべきか、水月と霧絵は比較的余裕を持って神楽舞・攻を三人で分担しかけていくことが出来た。
 初陣で極度の緊張状態にあるユンだけは、いっぱいいっぱいで気付かなかったのだが、それでも指示され助言されるままに神楽を舞い、加護を願い、神風の恵みを祈った。
「そうです。今の調子です」
 不意をつかれ攻撃を受けた御門に、神風恩寵を唱えたユンに指示を控えて見守っていた水月が頷く。
「は、はいなの!」
 御門が述べる「ありがとうございます」という言葉にも生真面目に返答し、霧絵と水月のフォローを貰いユンは仲間に支援をかける。
「そろそろ、終わりだ!」
 徐々に疲れの見え始めたユンの様子を見て、援護射撃に回っていた水奏が渾身の力を篭めた矢を威嚇ではなく本気で怪狼に射掛ける。
 同じく、紫翠が放った矢が性格にアヤカシの目玉を射抜く。
「一気に決めるぜ!」
 鴻の掛け声に元気良く返事をした智もそれぞれ退治した狼を切り伏せ、殴り倒した。
「これが、最後!」
 薫が裂帛の気合とともに拳を繰り出すが最後、アヤカシは瘴気となり大気に溶け消えていった。

 こうして、ユンの初陣は無事終えたのだった。

●鳴瀬寺、父の消息
 恙無く鳴瀬寺に到着した一行は、まず依頼を出したのは鳴瀬寺のまとめ役の僧正と面会した。
 小さな村なので僧正とはいえ志体は持たない一般人だが、アヤカシについての調査をしたいという願い出は快く受理された。
 アヤカシ調査組である一班はアヤカシについての調査を。
 二班は、アヤカシ被害にあった家族を初め被害者と接触のあった人物に念頭においてそれぞれ聞き込みを始めた。

 まず一班は被害にあった家族に話を聞けるか確認し、了承を得たので話を聞きにいった。
 被害にあったのは、薬草採りをしているギョウという男で、ある日突然人が変わってしまったと言う。
 その症状は前回のイリマ村にも赴いた薫が聞いた、アヤカシに取り憑かれた犠牲者と全く同じで、同一のアヤカシだろうと思われた。
 ギョウの様子が変わってしまった時に訪れた四人の開拓者に、アヤカシが取り憑かれたことを聞き僧正がギルドに依頼を出したとのことだった。
「開拓者は、アヤカシを追っていたのですか?」
 御門の問いにギョウの母という初老の女性は、神妙に頷く。
「何とか、取り憑かれたアヤカシを追い出すと言ってくれたのですが‥‥」
 女性は取り憑かれた己の息子が、既に人とは違うものになってしまったことを知っていた。
 もう、助かる見込みが無いことも‥‥それでも、助けるといってくれた開拓者に感謝の念を抱いていた。
「あの人たちは最後まで、何とか助けようとしてくれました」
 そう言って手ぬぐいで目元を拭う女性に礼を述べ、一班はギョウと言う被害者の隣家に聞き込みをした。
 主に問うたのは、やってきたという開拓者の職業構成と、その者たちがどのように戦っていたのか。
 しかし残念ながら開拓者がどの職についているかは、一般人しか居ない鳴瀬寺に判別できる人間は居なかった。
 だが、怪我した人を緑の光で癒してくれた男がいるとの情報を得た。
 符のようなものを使っていなかったことから、巫女――ユンの父親かもしれない。と、霧絵が目を輝かせる。
 ギョウに取り憑いたアヤカシは「あぁ、にんげんのないぞう、うまいぃ。なかから、くうときの、にんげんの叫び、うまいぃ」と奇声を発していたと聞き、智と鴻が眉を潜めて顔を見合わせた。
「‥‥趣味の悪いアヤカシね」
 薫の言葉に一同が、全くだと頷いた。
 そして数日後、ギョウを食い尽くしたアヤカシは体を捨てて逃げ出したらしい。
 開拓者が「逃げた! 追え、人に取り憑かせるな!」と追いかけていき、そのまま戻ってこなかったので住民はそう判断したらしい。
 そして、被害がなくなったためギルドに撤回を申し出たとのことだ。
「その方々が、どちらに向われたか。わかりますでしょうか?」
 御門の問いに、隣家の亭主がええと、と考えながら「多分だけど‥‥」と語ってくれた。
 曰く、方向は恐らく北側で、道なりに行けば陰殻へと続く街道があるのでそこではないか。
 他に道は獣道程度しかなく、住民ですら使わないとのことだった。

 一方、ユンの父親の行方に関する聞き込みを請け負った二班は、ギョウの友人等の交流が多かった人物をメインに聞き込みをしていった。
 一班と同じく、ギョウがアヤカシに取り憑かれた時、そいつを追っているらしい開拓者が現れたという証言を得た。
「四人‥‥五人ではなく、ですか‥‥?」
 イリマ村で聞いた時よりも、一人少ないことに紫翠が慎重に問う。
「ああ、四人だったよ」
 その言葉に、まさか‥‥とそれぞれ胸に不安を抱く。
 ユンの顔色も、紙の様に白くなってしまっていた。
「あの、この絵姿に似た方は‥‥いましたか?」
 水月が、あらかじめユンに話を聞いて書いてもらった似顔絵を取り出し、村人に尋ねる。
「あの、こういう組紐も腰に提げていた人ですっ!」
 ユンが父とおそろいで作ったという組紐を借り、拾も必死な顔で問いかける。
 それを見た村人は「うーん、この人かどうかはわからないけれど、同じような人はいたなあ。そうそう、今お前さんがたが言ってた組紐を腰につけた男の人ならいたよ」と証言してくれ、最悪の事態を想定していた一行は一様に胸を撫で下ろした。
「その人たちについて詳しく聞かせてください」
 龍馬の言葉に、村人は友人とあれこれ思い出しながら語ってくれた。
 四人はかなり疲れの濃い様子だったと言いながら、数日この村に滞在したという。
 父がこの村に滞在していたかもしれないという、明確な情報にユンの表情は明るくなった。
 そして、アヤカシについての助言をいくつか受けたとのこと。
 村人が四人から受けた助言は、かなり力をつけてきているアヤカシだということと、なるべく取り憑かれた人間に近づかないことだとか。
 何とかギョウを助けようとしてくれていたが、どうやら取り付かれてしまえばアヤカシに喰われてしまうのと同じらしく助からないらしかった。
 そして、逃げたアヤカシを追いかけていく直前に、何かのお札から小鳥を作り出していた恐らく陰陽師らしい人物が村人に「咬まれるな」と告げて去っていったらしい。


「水奏さんの言うとおりかも知れません‥‥」
 聞き込みを終えてそれぞれ情報交換をしたあと、水月は道中で聞いた「下級アヤカシとはいえないかも」という言葉を思い出し、暗い表情になる。
「ならば、急がねばなりませんね。中級アヤカシ相手に四人だけでは、荷が勝ちすぎます」
 同じく霧絵が深刻な顔で述べる。
「時間がねえな‥‥」
「そうね、明朝一番に発ちましょう。精霊門を使って急げば、ギリギリいけるかもしれないわ」
 出来るだけ急ぐべきだ、との考えは全員同じらしく。
「ユンさん。恐らく次の戦いは、辛く厳しいかもしれません‥‥」
 それでもいきますか?という御門の言葉に、一同の視線がユンに集まる。
 青ざめた顔で、それでもユンはしっかりと大きく頷いた。
「何があっても、開拓者のさだめって‥‥おとぅさんは言ったのよ。だから、ユンも最後まで‥‥絶対逃げません」
 小さく未熟ではあっても、ユンの心根は立派な開拓者であった。

●とある街道にて
 支倉鳳鳴は、積み重なる疲労、押し迫る焦燥と戦い続けていた。
 依頼を受けた当初はここまでてこずらされるアヤカシとは、仲間たちも自分も予想だにしていなかった。
 人を喰らい続けたアヤカシは思いのほか力をつけており、憑依タイプのアヤカシと対峙した経験がなかったせいで、とんだ事態に陥った。
 笑えない話だ、アヤカシ退治に出向いたてアヤカシに憑依されるなど。

 先ず取り憑かれたのが、戦闘力の高いサムライだったのがまずかった。
 何とか武器をへし折り、取り押さえようとしたが逃げられた。
 仲間はすぐさま追い、鳳鳴は村人に犠牲になった者の遺体がある場所を告げてから追った。
 常に移動する元仲間であったアヤカシを追いながら、何とか倒す方法を模索した。
 残った四人で後を追い監視し、他に犠牲が出ないよう注意した。
 アヤカシは疲れを知らず、絶えず移動するので身も心も休まらず、開拓者ギルドに助けを求める暇さえなかった。
 仲間の疲労が限界に達した頃、鳳鳴たちの努力も空しく鳴瀬寺で新たな犠牲を出してしまった。
 サムライを内側から食い尽くしたアヤカシは、仲間の隙を突いて一般人に憑依してしまった。
 非道なことを言えば、力の無い一般人に憑依した時に倒した方が一番苦労なく倒せたのかもしれない。
 だが、曲がりなりにも人の生活を守る開拓者たちは、アヤカシが憑いているとはいえ一般人を害することは出来なかった。
 何とか解放できないか、取り憑かれた人を助けたい。
 その思いは届かず、取り憑かれたものは内側から喰われ助からないと知った。
 だから、鳳鳴たちは己の身を囮に差し出した。
 まずは志士、そして陰陽師。
 囮になった仲間は「下手な感傷を持たず、一思いに倒せ」と強く言った。
 鳳鳴たちは必死に戦ったが、人を食い力を貯えたアヤカシは既に鳳鳴たちの手に負える強さでは無かった。
 志士を喰ったアヤカシは山中で、陰陽師の仲間に取り憑いた。
 残る戦力はシノビであるタイガと、巫女である鳳鳴。
 下級であったアヤカシは、今や中級に及ぶ力量を持ってる。
 アヤカシと戦えるほどの戦力があれば。
 鳳鳴は、傍で仮眠を取るタイガを見下ろして声に出さないまま呟く。
 戦力から言って、次に囮となるべきは自分だ。
 本来ならば、一番最初に囮となってしかるべきだったのに。
 帰りを待つ娘が居ると聞いた仲間が「娘を天涯孤独にするな」と言ってくれた。
 だが、もうこれ以上甘えるわけには行かない。
「次は、俺だ‥‥。ユン、ごめんな」
 鳳鳴は、娘が作った組紐を握り締め呟いた。