【X】撒かれた種
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: シリーズ
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/08/20 01:24



■オープニング本文

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 皇帝直々の名によりアスワッドの調査に更なる余裕が与えられた。
 その間になされたのは映像資料の保存作業。
 あまりに膨大な数に上るので、ファティマを筆頭にした参加者だけでは到底間に合わず、急遽ジルベリア帝国に籍を置く多数の学者たちが集められた。最初から積極的な人もいたし、また呼ばれたので仕方なくといった人もいたが、とにかくこれが重要な作業であるという認識は、皆一致して持っていた。
 風呂も食事も睡眠も忘れての鬼気迫る数週間を経て、皆が血走った目と隈により半分怨霊のような様相を呈したところで、作業がついに完了した。
 何度もお互い同士作成したものを突き合わせ、間違いがないか総ざらえし、確認を取った成果である貴重な、『アスワッド・リポート』が、ついに完成したのだ。
 単調な苦しい作業からの解放感と、それを見事成し遂げたという満足感と、慢性的な寝不足によって発生した高揚感とで、関係者たちは抱き合い涙し万歳三唱を叫びまくった。
 そのうちでもファティマは、特にハイになっていた。「お疲れちゃんやー!」と大量にアル=カマルの蒸留酒アラックを持ち込み他人に飲ませ自分もがぶ飲みし、前後不覚なまま階段から落ちて足の骨を折った。

 全治一カ月。



「あたしでもこういうことあるんやねー」

 病院のベッドで目をぱちくりさせているファティマに、果物カゴを持ってきたボスコイが睨みをきかせる。

「折れたのが首の骨でなくてめっけもんだ。お前は前から飲み過ぎだ。まあとにかくこれで引き続きの厄介をかけられることもなさそうで、俺としてはほっとしている」

「あらー、冷たいお言葉やね。まあええけど。確かにやりたいことはやらしてもろうたし。あたしがおらんでも後は皆がうまく回してくれるやろ。とりあえずあの資料は皇室図書館に収められたさかい、失さすこともあらへんしな。ほんで、アスワッドは?」

「予定通り帝国軍に渡る。俺たち技術班は今後そちらに出向して、研究を継続することになるな。再起動より先に、なんとか技術の応用をという方向になりそうだが」

「さよか。まあそっちの方がまだしもええかな…直に使うとか言い出すよりは」

 顎に手を当て目をすがめるファティマは、はたと表情を切り替えた。

「ああ、せやせや。例の天儀移動説、学会で結構注目されてるらしいな」

「らしいな。俺はそっち関係のことはよく分からんが、歴史や地質やの若手教授連中が、早速資料を公開してほしいと言っているそうだ。後、関係者から直に話を聞きたいとかいう申し入れもあったな」

 聞くや彼女は我がことのように愉快がり、口笛を吹く。

「いやあ、実はあたしもあれには注目してるんよ。前々からな、思いはしとったんや。天儀っていつから今みたいな形で存在すんのかなーて。もっと言うと儀という固まりはどうやって形成されたんかなという根本的な疑問がやな、あるわけや。宙に浮いた塵が自然とくっついて固まったのか。だとするとそれはどこにあったのか。もしやあの嵐の雲が」

「いや、お前の講釈は聞きたくない。長いからな」



「世界は神代の昔から今あるように作られてそのままである、というのがこれまでの通説でした。今でもそうです。しかしもしかしたら近日に、それが覆るかもしれません」

 若手学者の言葉に老教授たちは、ははんと鼻を鳴らした。

「有り得ないね。儀が動くだと? アヤカシでさえ言わないだろう、そんな馬鹿なことは」

「しかし、つい最近現実に沈んだのです。そして今回それが浮かんで行くという資料も見つかった…」

「どちらも特殊なケースだろう。とても一般化して論じられるものではない。正常な状態にある儀は動かない。これが定説だ」



「とりあえず一旦このプレートを外してだな、光線についてもう一度調べよう。たとえ中を窺うのが難しいとしても、あの光を構成しているのがなんなのかというヒントさえ得られれば…そっくり模倣とは言わないまでも、模造の域までにはいけるのじゃないか」

 アスワッドを前に技術屋たちは、侃々諤々意見をぶつけ合う。

「待て。何もこの光線だけに注目しなくてもいいんじゃないか? この映像との音声の保存技術も、十分注目に値するんじゃないか? もしこれが真似られるものなら、我々は絵や文によるよりも、はるかに正確な記録方法を得られるわけで…」




■参加者一覧
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
真名(ib1222
17歳・女・陰
成田 光紀(ib1846
19歳・男・陰
霧雁(ib6739
30歳・男・シ
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎


■リプレイ本文

 病室で暇を持て余し、窓から紙飛空船を飛ばしていたファティマのもとに、見舞い客がやってきた。
 霧雁(ib6739)と鈴木 透子(ia5664)である。

「ファティマさん、大丈夫でござるか?」

「具合はいかがですか。」

「おー、お客さんか。いや、ありがたいわあ。まあまあ座りいよ」

 松葉杖をつきながらファティマは、がたがた病室の隅から椅子を引っ張り出す。
 怪我はしているものの、すこぶる元気である様子。
 ベッドに腰掛けた彼女を前に霧雁は梨を剥き始め、透子は持ち込んだ資料を提示する。
 ファティマはメガネをかけ直し、渡された紙束を高速でめくった。目に浮かんでいるのは、知的好奇心を刺激されることによる興奮だ。

「見れば見るほど興味深いなあ。はあはあ、なるほど…第三次開拓で、嵐の門の封印を解く鍵が、天儀朝廷の貴族の一人にあった…と。その人物は魔戦獣を鎮めるため育てられたらしい…と?」

 声だけでの問いかけに、透子が深く頷く。

「やっぱり朝廷が深く関わっているのだと思います。」

 この世界の秘密を解く鍵を持っているのは彼ら、隠しているのも彼ら。
 確信を胸にした透子は、本題に入った。

「アル=カマルには、嵐の雲についての言い伝えとかありますか。ぜひ天儀の成立に関する、ファティマさんの見解をお聞きしたいです。時間はいくらでもあります。だから」

 読みかけの資料をいったん置いたファティマが、待ってましたとばかり膝を叩く。

「せやせや、それ言いたかってんよあたしも。アル=カマルでは嵐の雲について――各地で違いはあるけど――大体『分かつもの』てな扱いやね。あたしの部族の間では、雲の下は悪しきものの世界。天の上すなわち儀は、良きものの世界。その真ん中にあるのが嵐の雲、ちゅうことやったわ」

 霧雁は段々早口になってくる話し声に、耳を傾ける。

「こっからは仮定の話やで。とりあえずこの言い伝えを前提としてみると、雲の下にも世界があるちゅうことになる。どういう形でかは分からへんけど、あの下にこそ、今の儀を形作る土や岩や砂の原料があるものとあたしは思う。それが何らかの原因で寄り集まり結合し、今ある巨大な形となり、浮かんできた…そうやないとしたら辻褄あわへんやろ。儀がもし最初から当然の理としてこうあるべき姿のものなら、アヤカシがいようがいまいが、沈むなんて現象起きるはずないわ。バラバラになったかて、宙に浮き続けるはずや。投げた石かて下には落ちへん。ちゃうか?」

 透子は息を飲み、次いで己の思案に籠もり、口を開いた。

「…陽州のことも気になります。あそこにはアヤカシがいなかったそうです。もし人類がアヤカシから逃れるために儀を天に浮かべ…それでも追いすがってきたアヤカシを振り払うために嵐の雲でさらに交通を断ったとかなら…だけどそうだったら、天儀の下はどうなっているのでしょう…」

 強く肩を叩かれ、はっと顔を上げる。
 霧雁から剥いてもらった梨を手にしたファティマが、真顔で言ってきた。

「あんた、天才やな。あたしもそこまで飛躍した発想は出てきいへんかったわ」

 梨半分をもらった透子は、照れて赤くなる。

「…あ、レポートに五行の青龍寮が協力したと加えて貰えないでしょうか。」

「青龍寮…て、天儀陰陽師の養成所ちゅうか、そんなんやったかな?」

「はい。廃寮が決まってしまった寮です…無理でしょうか。」



(天儀移動説とはな…)

 龍脈の存在とからめて大いに開拓の余地がある話だが、ひとまずそれは透子に一任すると、成田 光紀(ib1846)は決めていた。

(思案なら後でもできるが、弄り回せるのは今の内だ)

 かくして研究施設へと足を運ぶ。
 すでに場は機械ギルドから軍へと移行していたが、出張してきているボスコイの口添えもあって、これまで通りの接触を許された次第。
 先に来ていたラグナ・グラウシード(ib8459)の姿が見える。

「ふむ、ともかく…アスワッドが戦で無駄に破壊されるようなことはなくなったわけか」

 それはいいとして見慣れぬ女も一人いる。アスワッドの近くでボスコイから説明を聞いている。
 一体あれは誰だろう。醸し出している雰囲気からして同業者ぽいのだが。
 思っていると向こう側から、早速声をかけてきた。

「朱雀寮の陰陽師、真名(ib1222)。よろしくね」

 話を聞くに、噂と依頼を聞いてやって来たとのこと。透子からの紹介にて、何とか場に通してもらったのだそうだ。

「アスワッド…山の形を変える程の、ね。怖い話だわ。問題なのはそれほどのエネルギーがどうやって生まれるのかよね。精霊力とも違うみたいだし」

 こんな依頼にかかわってくるだけあって、彼女もまた研究者思考の強い人間らしい。積極的にアスワッドについての情報を得ようとしている。

「確か、アル=カマルに落ちていたもう一体の方から、鍵を入手したということだったわね?」

「ああ、ここにあるアスワッドの鍵は消失していたのだ。あるいはそれが原因で墜落したのかも知れん。ちなみに私はこのアスワッドを運ぶとき…」

 解説をラグナに預けた光紀は、アスワッドの実験に取り掛かった。
 一番に重要なのはやはり、あの光線。

「精霊術にて破壊の力と成す術はあるものだが…さて、何を持ってこうなっているのか」

 アスワッドのプレートは取り外されている。
 映像は消え、発射孔の光が、最初あったときの状態に戻っている。

「全く同じ物を作る必要などあるまいが、この光さえ知れれば…規模などどうでもよい、似たような状態を作れるのなら可能性を広げられよう…破壊する対象を複数持ち寄り、光線に当ててみるのはどうだ? その破損状態から何か掴めるかもしれん」

「…そうだな、当たった際、光線の力が分散しないように注意をせにゃならんが、悪くない提案だ」

「鉄でも宝珠でもなんでもよいが、一瞬通すだけに止めておいた方がよいかも知れない。全消滅しては何もわからんからな」

 着々と新しい準備が進められる中、ラグナは技術者を相手に、すっかり話し込んでいた。

「何よりも特筆すべきは、あの強力なビームだ。構造を調べ、アーマーなどの兵器への転用をすべきであろう。オリジナルは『一度撃ったらしばらくチャージが必要』であったが、威力を抑える代わりに連発するような仕組みにしてもよいかもしれない」

「溜めの時間は戦闘において致命的ですしね。シュベリア銃まではいかぬでも、フリントロック銃並の即射性が持てれば」

 真名は議論に物足りなさを感じ、口を挟む。

「うーん、破壊現象を引き起こしているのが、熱量なのかなんなのかによっても考え方が変わるわよね。正直、それほどのものを単に兵器として分析するっていうのはなんだか勿体無い気がするわ」

「と、いうと?」

 聞き返してきたラグナに、自説を展開する。

「中身を解析してそのエネルギーをどうやって生成するかがわかれば面白いと思うんだけど。飛行船の新たな動力に、とかね。後は、光そのものの利用法を考えるのなら、通信手段っていうのも考えられないかしら? 地形を変える程の威力なら、より遠くまで届く筈。それをいかせないかしらね?」

 どこまでも届く光とあれば、まず最適なのが飛空船を導く灯台。
 それを発展させれば、飛空船同士が通信する術になるかもしれない。
 現在遠距離間の意志疎通として使われている技術は専門性が高く、発信する側と受信する側に同じ技能を持っている人間がいなくては、どうにもならない。
 しかしこのように装置として最初から完成しているものなら、ぐっと万人にとって使いやすくなる。
 そこまで言って彼女は、本気とも冗談ともつかない口調で言い切った。

「もしかするなら、もしかして――儀の間での通信にさえも使えるかも知れないわよ?」



「しかし…拙者が帝国アカデミー名誉会員とは…ほとんど何もしておらぬでござるのに」

「あたしも…ええと、どうしたらいいんでしょう。」

 霧雁と透子は現在、ジルベリア帝国アカデミー――略してJ学会の本部前にいる。
 ツタの絡まる堅牢にして重厚な建物。もともと神教会だったものを、改装したものとの事だ。
 学会は地理、天文、歴史、法学、その他多岐にわたる分野の専門家を集めた、帝国の頭脳とも言える組織。
 この度アスワッドにおける研究の功績により、彼ら2人とラグナ、光紀が名誉会員として登録された。
 特典としては一般に解放されていない皇室図書館の利用、関係施設への出入り許可、アカデミー主催の各分野研究発表会における傍聴権などがある。
 有り体にいって大変な名誉。
 そんなものを貰ってしまって本当にいいのだろうかと惑う両者に、ファティマが、ちちちと指を振った。

「余計なことは考えんでええて。くれるいうもんは貰っておき。肩書はいつ役に立つか分からへんしね」

「でも教授方々に何をどうお話ししたらいいものやら。やっぱりついてきて欲しいでござるが」

「あかん。あたしはその称号もらえへんかってんよ。せやからこっから先禁足。ビビることあらへん。向こうさんから話を聞きたいゆーてお呼ばれしてるんやし。言いたいこと言うたらええがな」

 足を踏み入れた先に待ち構えていたのは、地理、歴史、考古学関連の研究員たち。『アスワッド・レポート』を作成する際に見た顔が多数ある。

「やあ、お待ちしておりました。早速天儀移動説についての話を、お聞かせください」

 歓迎されるのは有り難い。
 が、しかし。貫禄が髭に染み付いていそうな年かさの教授たちに限っては、文句を言ってくるでないにしても、友好と程遠い空気を漂わせている。

「君らはなんとも斬新な説を考えつかれたそうだが、それは一体どのような根拠あってのことかね? 少し聞かせてもらえるかな?」

(素人に口出しをされて、面白からぬようでござるな…)

 霧雁は彼らの気持ちを十二分察し、断りを入れる。

「拙者は学者ではござらぬし、見当はずれの発言で学者の皆さんに呆れられるかもしれぬでござるが…」

 アスワッドの記憶の最初に写っている、「何かをこちらに向かって話しかける人」について彼は、以下の見解を持つ。

「これはアスワッドさんを作った人でござろう。さらに言えば、天儀が分裂するに合わせて移動する様子を記録出来る様に、何らかの絡繰りをアスワッドさんの中に仕掛けたと思うでござる。最初の人は天儀の移動や分裂も予測していたのでござろう。でなければ、ここまで様々な映像を遺せないのではないかと思うでござる」

 教授たちは薄笑いを浮かべながら聞いていた。だが次の一言には、傍観しておれなくなった。

「恐るべき文明、技術力にござる。或いは…自ら創りだした世界である故に予測可能であったか」

 苦虫を噛む老人たちの顔と、落ち着かない若手たちのひそひそ声。
 教授の一人が目の前の蝿でも追うような仕草をした。

「…キミは我々の世界が精霊によってでも自然現象によってでもなく、人間の手によって作られたというのかね」

「あ、いや、飛躍がすぎるのは重々承知でござるが、この世界について、我々は知り得ている事が少なすぎるでござる。可能性の一つとしては考えられると思うでござるよ」

「そんな仮定、巷の三文小説のネタにもなりゃせんよ。話にならん」

 そこで、若手の席から声が上がる。

「しかし教授、遺跡を見るに、神代の人間はとてつもなく優れた技術力を持っています。今では考えもつかないような。とすればあるいは」

「それは全てこの儀が先にあってこそ発生しえたものだろう!」

 侃々諤々の論争がおっぱじまったので、透子たちは顔を見合わせ、会場を後にする。
 ファティマが、にやにや笑いを浮かべて待っていた。

「もめるて楽しいやね」



「黒の方がやや見えにくいか」

 アスワッドの映像を黒壁白壁に映しこむ光紀は、式で作った小さな羽虫を飛ばす。映像を出している間アスワッド内部がどうなっているか、確かめるために。
 真名はノートを片手に、あれこれ記録を取っている。

「何よりも記憶を映像として出せるっていうのが凄いわよね。空中に絵を出せてる所からすると、光のパターンを記憶して、それを再現してるのかしら?」

 光紀は煙管を吸い、煙の輪を吐く。

「光線、映像。この二点に関して共通するものは、光である。常日頃より我々が灯としている以上に、光とは力のある物なのかもしれんな。発射実験では、対象に光がぶつかった瞬間、莫大な熱に変換されるらしいことが示された…」

「パターンさえ再現できる方法があるなら情景や景色を留め、表示する方法もあるって事よね。文字で記録していた事を映像で留め置くとか…興味がつきないわ」

 ラグナは実際的なことに頭を働かせる。

「この仕組みが解明されれば、アヤカシなどがはびこる魔の森のような危険な場所、もしくは龍たちでも苦しい超高空、海の底等の偵察をするためのからくりを作れるかもしれんな。そうすれば人的な被害なく敵の実情を探ったり、危険な場所の状況を知りうることが出来る」

 光紀は目をこらす。
 式が小さいために、物体を把握するのがなかなか難しい。
 アスワッドの透けた発射孔からぼんやりと、無数の球状物体が螺旋を描き、規則正しく動いているのが見透かせた。

「これは、俺たちが知るパターンの技術とは…少し違うな…」

 呟きを耳にラグナの額が曇る。
 脳裏にあるのは吹き飛んだ山の姿。

(…あの技術を、一国が支配するのは…正直恐ろしい気もするがな)

 アヤカシのためだけにその技術が使われるか、定かでない。

(この世界のパワーバランスに影響するのではないか)

 考え込むそこに、透子と霧雁がやってきた。

「おお、鈴木君。どうだったね、青龍寮の名はレポートに刻めたかね」

「はい、明記してくださるとのことで…研究の方はどうですか? 映像のほかに本来は、音も記録していた可能性があるそうですが。」

「…吟遊詩人でも連れて来いと?」

 しらばくれた調子で言ってから光紀は、真面目に続ける。

「連中の術からして、音が振動の一端である事は知れているだろうが、それを記録するとなると…同じ振動を複製する事が出来るのなら或いはかね…とは言え、結果だけ見て真似るなどとは難しいものでな。最終的には中身を取り出して見る他あるまい」

「取り出せるかしら?」

「さあ、そこはまだなんとも言えないね、真名君」

 ラグナは小さくぬいぐるみに語りかける。アスワッドを運ぶ際、犠牲になったもう1つのぬいぐるみを瞼に思い浮かべて。

「…まあ、いいか。うさみたん、私たちは正しいことをしたんだよな? この世界のために…うさきちくんも、きっと許してくれるよな?」

 物言わぬアスワッドは、じっとうずくまっている。

「アスワッドが浮いていた技術は、謎とされている儀が浮く原理と同じものなのではないでしょうか。」

 周囲で交わされている会話を聞きながら、人々を見ながら。