【X】目覚め
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/06/22 00:29



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


 前回アル=カマルから回収され運び込まれた残骸――仮にX二号と呼ぶ――は、やはり先にジルベリアで発見されたと同じものだった。
 注目すべきは、表面についている例の三角部分。そこにはめ込まれているプレート。

 Xにおいて欠けている部分にそれを埋め込めば、なんらか変化が起きるのではないか。

 機械ギルドの技術班はそのように考え、残骸が到着した直後から、本体とその部分との分離を試みていた。



「ボーちゃん、やっと取れたゆーて聞いたけど、ほんまかー!」

 ガレージに駆け込んできたファティマに、技術班長ボスコイが、少し自慢げに頷いた。

「ああ。残骸の方は粉々だがな」

 しゃくりあげた彼の顎の先には、なるほど細切れになった残骸の姿。宝珠を利用した高圧力の器具で、周囲から慎重に削り取り、やっとここまでこぎ着けたのだそうだ。

「へえ、分解なんとかなったんや。ほしたらあのX一号もいけそうやねえ」

「そこは分からん。これはいわば、もう死んでいるものだから…あれに比べて強度が弱かったのかもしれない。刺激した際何がどう動くか分からないから危険性も大きいしな」

「ふん、ふん」

 相づちを打ちつつファティマは、三角のプレートを相手の手から抜き取った。
 銀色でつるつるしており、真ん中に目玉みたいな模様が入っている。

「なあ、理屈はともかく、とにかく早速コレ、はめてみいひん? いかにも何ぞおきそうやないの」

 わくわくしながら言う彼女の手から、今度はボスコイがひったくる。

「お前はいつも慎重さが足りん。これを与えた結果がどうなるかまだ誰にも分からんのだ。暴走を考えて、それなりの準備をした後でないとダメだ」

「相変わらず用心深いんね。あたし大丈夫やと思うねんけど」

「何を根拠に」

「いや、まあ根拠ていうか勘ていうか希望的観測」

「話にならんな」

「まあそう言わんと。中の宝珠がとれたらあたしに頂戴よ」



 万一の暴走の際は、すぐさま破壊するように。
 という依頼を受けた開拓者たちは、天井から床から壁から伸びた鎖で固定されているXの周囲に待機し、実験の推移を見守っている。

 薄く小さなプレートが窪みにはめ込まれていく。

 直後Xの表面全体に電光が走り、めまぐるしい素早さで行き交い繋がりあい消え、代わって発射口に青白い光がともる。

「…なんやのこれ」

 ファティマは目を見張る。
 Xの周囲に、四角く区切られた映像が無数に浮かび上がったのだ。
 それは上空から見た儀の姿だった。
 ジルベリア、アル=カマル、天儀、泰国、それからどうも見覚えがない中小の雑多なものまである。
 後は雲、夜空…とにかく数が多いので、ざっと見ただけではとても全てを網羅出来ない。


■参加者一覧
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
成田 光紀(ib1846
19歳・男・陰
華表(ib3045
10歳・男・巫
バロネーシュ・ロンコワ(ib6645
41歳・女・魔
霧雁(ib6739
30歳・男・シ
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎


■リプレイ本文

「…?!これは…このXの記憶、か?」

 ラグナ・グラウシード(ib8459)の目に、あたかも窓のような無数の画像が映る。

「しかも、こんなにたくさん…」

 どの窓も見せているものは共通している。上空から見た儀の姿だ。
 華表(ib3045)は、ひとまず手近な窓の一つに顔を寄せる。

「すごいですね…」

 龍に乗ったとしても飛空船に乗ったとしても、こんなものはまず見られない。儀は広大なのである。現在到達出来る高度からは全景を眼下に収めるなど、不可能だ。

 成田 光紀(ib1846)は呟く。

「これは、やはり空を飛ぶものなのか」

 同じものがまだ多数あるのか、そもそも論としてどこから来たのか。謎は尽きない。

「はてさて、まだ見ぬ儀の姿でもあろうかね」

 既存の儀の姿になど興味はない。必要なのは見たこともないモノ、知りたいのは書にもないモノだ。

「…見てみろ、うさみたん。あれが…私たちのいる世界を、空高くから見た姿だぞ」

 ラグナは背中からうさぎのぬいぐるみを引き出し、抱き上げ、ふとまじめな顔になった。

「こいつは、一体…何のために造られたものなのだ?」

 バロネーシュ・ロンコワ(ib6645)は、ファティマらに問うてみる。何と言っても彼らは、専門家なのだ。

「これについてどう判断なされますか? ボスコイさんも今までの試みの中で解明のヒントが見出せたでしょうか?」

「そこそこ、そこやね。とりあえず思い浮かんだこと、言うてみてええかな? ええかな?」

 ボスコイを差し置き喋り始めるファティマは、眼を輝かせ興奮している。
 分野はどうでも学者というのは未知の事態に対し、順応性が高いらしい。

「ええ、何かあるなら是非」

「さよか。ほしたら言おうか。儀に対する偵察もしくは監視装置やないかなて思うんよ、これ」

「…偵察、監視とは…誰が? まさかアヤカシではないでしょう。彼らがこんなものを作れるなど、聞いた試しが」

「さあさあそこはどうやろなー。アヤカシかて人間以上に知恵のある奴かておんねやからなー。あたしらに見えへんところでなにしてるやら分からへんよー?」

 そこでボスコイが、ファティマの頭をはたく。

「いったいわー。何すんのボーちゃん」

「無駄に他人を脅かすな。お前の悪い癖だ。おいあんたら、こいつの言うことは話半分に聞いておけ」

「ちょっと、あたしの信用貶めるの止めてえよ。別に脅しとらへんよ。ただ可能性としてやな、そういうこともあるんちゃうのってことやん。経験則に捕らわれとったら、新たな発見とかないでー」

「しかりでござるなファティマさん」

 脇から生えてきた霧雁(ib6739)の言葉に、ファティマはうれしそう。

「おっ、ご同意あんがとさん♪ 霧雁はん。あんたさんの意見はどない?」

「拙者思うに、これはきっと中の人が記録したものを映し出しているのでござろう。或いは…こちらの映像の方がオリジナルかもしれぬでござる。造物主たる大精霊がこの世界を創るために、手本とした設計図、それがこのX…飛躍が過ぎるでござるかな」

「そんなことないがな、ええよ、ごっつ面白い意見やん!」

 人間たちがわいわい騒いでもXは知らん顔、動きを一切見せない。

(だけど、油断は禁物ですね)

 どういう仕組みなのかまだ見当がつかないのだ。いつ暴走を始めないとも限らない。そう考えて鈴木 透子(ia5664)は、ボスコイに提案する。

「あの、とりあえずプレートは、いつでも外せるようにしていたほうがよくないでしょうか。何かあった際、すぐ元の状態に戻せるように。後危険そうだったときには、叩いてエネルギーを逃がすとか…あ、もちろん技術班の方々、既にお考えのこととは思いますが」

 あわてて付け加える彼女にボスコイは、にっと歯を見せた。

「いや、かまわんよ。重要なことは、誰からでも何度でも念押しされるべきだ。ついうっかりということがないように」

 バロネーシュはまず、ムスシュタイルを発動させる。透子たちと同様、何事か起きた際の安全確保のために。

「ジルベリアとアル=カマルとの結びつきにより起動とは、これも何かの縁ですかね」

 言いながら彼女は手を後ろにし、窓の一つに歩み寄る。

(そういえばこれ、どちらが表でどちらが裏かもよく分かりませんね)

 何しろ、どう見れば正しい文字の形なのかもはっきりしない。

「映像自体はXが蓄えたもので間違い無さそうですが…」

 であればどこかに記録するための「目」が存在するはず。
 あの光線発射口がそれかとも思わなくもないが…決めつけない方がいいだろう。

「まだ物言わぬ鉄の塊よ。お前には、私が見えているのか?」

 ラグナは小さなうさみたんの手を、物体に向かって振らせてみる。

「私の姿も、うさみたんの姿も見えているのか?」

 反応は相変わらずない。異変が起きる兆候も。
 そのことに少し安堵した透子は、余裕をもって窓を観察する。
 かつて知ったる天儀の姿があった。季節は秋頃なのか方々色づいている。和んでみた後、不意に疑問が浮かんだ。

「ここに映ってる地図は、いつのなのでしょう。」

 『地図』と表現したのは、現在各儀の全景を完全に再現できる媒体が、それしかないためだ。
 映っている姿が最新のものなのか、そもそも正確なものなのか。それさえあやふや。

「確認には、世界地図がいりますねえ…」

 指で画面に触れれば、再度文字が流れてくる。

「ファティマさん、読めませんか?」

「んー、あたし考古学専門やないからねえ、参考資料なしで読むのは難しいわ…古代文字いうたて、今と一緒でいろんな種類あるさかいな…大まかに言って二系統あってな、表音と象形と…」

 解説を聞く間も透子は、指をさまよわせる。

「そうなんですか…あっ!?」

 突然儀の姿が拡大された。
 びっくりして手を放すと、また元に戻る。
 恐る恐る幾度か試し透子は、触り方次第で窓の画が遠近切り替えられるということを発見した。かなりの近さまで――町の形を確かめられる程度まで接近できる。
 加えて文字とは別の図形も重なり浮かんできた。丸や棒や線を多用した、表のようなもの。

「ほお! こいつは大発見! でかしたで透子ちゃん、いよいよきな臭くなってきてんで!」

 はしゃぐファティマを横目にラグナは、紙とペンを取り出す。文字を記録するために。

「私たちには読めなくとも…誰か、知っている者がいるのではないか?」

 何度も何度も浮かび上がってくるのだから、何事か伝えたがっているのに違いない。

「少なくとも、…この世の何者かが造って、空に放ったのなら」



「参考になりそうな文献は、これで全部やね」

 作業現場に山と運ばれてきた書物を前に、ファティマは満足げ。
 華表はこそっと聞いてみる。

「いいんですか? こんなに図書館から持ってきてしまって」

「ええがなええがな。なんちゅうたて皇帝陛下から研究のお墨付きもろてるもんなー、優先権は我にありやで。な?」

 話しかけらたボスコイからジロッと見られても彼女は一切気にせず。きびすを返す。

「えーと。ほしたら後は古代文字の件か。ちっと知り合いの学者さん呼んでくるわ。そっちのは資料だけやと心もとないからなー。すぐ戻ってくるさかい、その間は皆でやっとってなー」

 長丁場になりそうだと踏んだ華表は、念のため甘いものを用意し、誰が取ってもいいよう盆に載せ置いておく。
 それから、早速作業にとりかかる。



 霧雁は辞書を片手にXの間近まで接近し、話しかける。

「ハッピーうれピーよろ…」

 自立して動くなら知性を有しているかも。中に精霊や小さいおじさんがいる可能性もある。と考えて。

「貴方は誰? どこから来た? 最高ですかー?」

 敵意を表す言葉は厳に謹む。どれが通じているか分からないので。
 後は言葉でなく、光や物音などの形で反応があるかも知れないので、聴覚に神経を集中させる。



「えーと、これはアル=カマルですね。こっちは泰国、冥越」

 透子は華表と一緒に一つ一つチェックしながら、スケッチして行く。
 先頃大アヤカシが倒された際沈んだ群島の姿を見つけたいのだが、何しろ数が多い。すぐには目当てのものまでたどり着けそうにない。

「ゆっくり探しましょうか…それにしても同じ場所が、幾つも重複しているんですねえ…」

 途中で2人の足が、ぴたりと止まる。

「…え?」

 窓に映っているのはアル=カマル。形は間違いなくそう。だが、景色が明らかにおかしい。

「あれ? なんでこんな…緑…」

 アル=カマルといえば熱砂とオアシスの国。これが常識。しかし映像では、かなりの部分が緑で覆われている。
 念のため透子が手持ちの世界地図を広げ、確認を取る。

「おかしいですね。ここ一帯すべて砂漠のはずですよ」

「これは…アル=カマルにそっくりな形の儀が他にあるということ…なんでしょうか?」

 その場ではそう思ったが、続けて見ていくにつれて彼らは、別の可能性を思うようになった。
 ジルベリアの映像にも同様におかしいものがあったのだ。
 どこからどう見てもジルベリアだが、ジェレゾがあるはずの場所に全くなにもなく、その代わり中央付近に見慣れぬ都市の姿が見える――かなり大規模な。
 いくら何でもここまで形が酷似した儀が二つもポンと存在するだろうか。
 そう考えてみたとき、改めて次の疑問が浮かび上がる。

 映っている地図は、『いつ』のものなのか。

 そこを確かめるため透子は、バロネーシュに助力を求めた。

「バロネーシュさん、お忙しいところ申し訳ないのですが、少し探してもらいたいものが…」

 華表はその間作業班の許可を取り、本体について少し調べてみた。傷や、あるいは手を入れられる程度の透間などないかと。
 …両方とも、どんなに目をこらしても見当たらない。



 光紀は見覚えがあるものには振り向かない。専ら初見と思われる画像を担当している。筆が折れ尽きても自身が折れない限りは書き続ける所存で。
 人魂というのはこういうとき非常に重宝だ。手も届かない上の方にまで、難無く目が届く。
 ラグナはノートを片手に映像を見回り、「見覚えがない」儀の場所などを割り出せるよう、儀の位置取りを整理。
 参考とするのは飛空船の行路図だ。

「この世界には、まだ我々の知らない儀があるのだ…」

 空を自由に行き来出来るようになってからかなりたつが、それでも自分たちが移動できる場所など、全体から見ればほんの一部でしかない。

「ならば、見知らぬ儀の何者かがこれを造った、という可能性もあるな」

 思いを馳せるラグナは、はたとある窓の前で立ち止まる。
 あるのは一面の灰色。嵐のただ中であるらしく、雲以外何も映っていない。

「ん?」

 そのことが逆に気になって、手を触れてみる。
 画が動き始めた次の瞬間、目を見張る。
 渦巻く激しい嵐の中から儀の影が浮かび上がってきたのだ。
 それは動いている。体にまといつく重みを振り千切るように上へと昇っているように見える。
 つい最近儀が落下するという大事件が起きたばかりだが、これはまるで――その逆?



 現在使用されている言語のあいさつをし尽くした霧雁は、思いつく限りの、重要と思われる単語を聞かせた。各国の名前、有名なアヤカシ、もしくは精霊の名前なども口にしてみる。
 にもかかわらず反応がない。

「困ったものでござるな…」

 言語には応答しない仕様なのか。
 休憩の意味を込め彼は、リュートを弾いた。特に曲は決めず適当に。
 しばしの後、耳慣れぬ微かな音が聞こえてきた。Xの内部から。

 ブゥン…

 はっと手を止めた彼は注意深く探り始める。一体相手がどの節に、いや、どの音階に反応したのかを。



 光紀は妙な画像を見つけた。
 儀でもなければ風景でもない。複数の人間が映っている。
 状態が悪いのか輪郭がはっきりしない。触れてみればこちらに向かって、つまりXに向かってなにか言って――と言っても他のと同じく、音は一切入っていない――いる。
 目を凝らし確かめようとした途端、動きは終了し、また最初の画像に戻った。



 透子の頼みにより検索を行ったバロネーシュは、次々書物を手に取り、ようやく目当の情報が記されているものにたどり着く。『天儀の昔話』という、ほんの小さな本。その出だしの一行。

『神代の昔、まだ世界が作りかけの時代にはあちこちが今のようでなかった』

 神話とか言うものはおしなべてそうだが、あまりに漠然とした言い回し。

(あちこちが今のようでなかった)

 あいまいな一文に思いを馳せるところ、ファティマが戻ってきた。

「おーい、皆、進み具合はどないー。考古専門の人連れてきたでー」



 皆が書き留めた文字を注意深く見比べ、考古学は言った。

「ふむ…窓には全部同じ文が出ている、ということじゃな…最後の部分は疑問符…」

 学者は眉間にしわを寄せ専門書と突き合わせ、たどたどしい解読を行う。

「…『これ』……『再び』…『動く』…『動かす』…『ため』…『これまでの』…」

 それを聞きながら透子は、Xを見上げる。

「地図が映っていて、もし場所を指定することができて、あの光線が放てて…」

(破壊兵器?)

 脳裏をかすめた単語に、急いで首を振る。だけれど一度浮かんだイメージは、なかなか消えない。

(空に浮いていたら強力かもしれないです…でも一体何と戦うのでしょう…)

 彼女が考えている間にも、学者の解読は続いている。

「『これまでの』…『これらの』…『知ったこと』…『消す』…『望む』…」

 バロネーシュが急いで聞き返した。

「待ってください。もしかしてそれは、Xを動かそうとすれば、今目にしている映像が全て消えてしまうということですか?」

「恐らくそうじゃろうな」

 ファティマが耳の後ろをかく。

「うーん、痛し痒しなこと聞いてきてるんやねえ…」

 霧雁は急いでリュートを置いた。
 Xの反応を確かめる過程で、『はい』と言っていると受け止められては大問題なので。
 光紀はぶつぶつ言っている。

「…これまでの…か。いつから始まっているのだ…これまで、とは」

 そこは誰しも気になるところだ。
 探して探してつい最近の、落下していく儀の姿も見つけはした――だが、見知っていながら異なる儀の姿、あれはいつとられたものなのか。記憶にも残らぬほど遠い昔――ひょっとすると――。
 押し黙る一同に透子は、キャンディーを配り始める。

「とりあえず、一休みしましょう?」

 そして、Xを見上げる。

「そろそろ名前が必要だと思います。」

 口の中で飴を転がすファティマは、ふむ、と頬をかく。

「‥‥せやね。ほしたらー、アスワッドにしよか? あたしのお国言葉で、『黒い』ちゅう意味」

 ラグナはしょぼつく目を擦り、考古学者へ、機体に記されている模様の写しを見せる。

「忘れるところだった。これが何と書いてあるか、分かるだろうか?」

「うむ…これ、は……文字ではないのう…数字の羅列じゃな…」