【X】解明へ
マスター名:KINUTA
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/23 01:24



■オープニング本文


 ジルベリア首都、ジェレゾ。機械ギルドが所有する工場。巨大なガレージ群が立ち並ぶその一角では、空から落ちてきたという謎の物体Xについて、研究が進められていた。
 3時間おきに天窓を開け刺激を与え、強力な破壊光線を空へ放つようにし、安全性を確保して作業を進めているのだが、いっこうに進展がない。
 Xの外殻が硬すぎ、通常の分解器具では全く歯が立たないのだ。といって、通常でない手段――例えば宝珠を使った武器による切断、銃撃など――を試すのは危険すぎる。なにしろ小突いただけでこれだけの過剰反応(としか思えない)をしてくるのだ。大きな刺激を与えれば、その分また反撃が大きくなるのでは。射出口全てから光線発射とかいう事態になるのでは――むろん実験した結果それが見当違いだったいうこともあり得るが、そうでなかった場合のリスクがあまりにも巨大すぎる。
 そんなわけで目下最も注目されているのが、Xの表面に一箇所だけついている窪み。
 恐らく「何か」をはめ込むために、作られた箇所。



 ぴったりはまるよう作られた三角の金属板が窪みに押し込まれた。

 バヅィ

「ぐあ!」

 作業員は分厚い手袋をはめた手を押さえ、転げ落ちるように物体から離れた。

「大丈夫か!」

「うわっ、ひでえ火傷だ! 早く医務室行け、医務室!」

 作業チームの長を務めるボスコイは遮光ゴーグルをかけたまま物体に近寄り、窪みを確かめた。
 はめ込んだ金属板は影も形もない――一瞬で蒸発したのだ。
 顔をしかめ唸る彼に、同じくゴーグルをかけたファティマが言う。

「やっぱりバッタもんではあかんかー。何度やっても弾かれるだけやわ。本体と同じ組成のもんやないと受け付けんのちゃう?」

「…そんなことは言われんでもわかっとる。しかしそういうものが手に入らない以上、他のもので試すしかあるまい。鋼の配分を色々変えてみよう。どれかは拒否反応が起こらないかもしれない」

 無愛想に応えるボスコイの肩をファティマは、親しげに叩いた。

「頼もしいこっちゃ。ま、ほしたらあたしはボーさんの役に立ちそうなもん見繕ってきたるわ。基本機械は専門外やからね。ここで一緒になって見とったって、たいして役には立たんさかい」

 軽い足取りで離れて行く彼女の背に、ボスコイが呼びかける。

「あまり妙なもの持ってくるなよ」

「分かっとるよー」



 ファティマが開拓者たちを連れてきたのは、アル=カマルの端。果てしなく広がる砂漠が途中から断ち切れ垂直な絶壁となっている場所。
 さらさら、さらさら音を立て、砂が虚空へ落ちていく。とめどなく。

「流砂や。まあ、そんなにビビらんでもええで。流れゆるいから、普通に歩いて抜けられる。まず一緒くたに落ちること、ないわ」

 彼女は飛空船の操縦席から、崖付近まで到達しかけている一つの物体を指差す。

「せやけど動かへんもんは別やねえ。流されるままや」

 そこにあるのは、何かの外殻の残骸、と思われるもの。

「あたしがあれを見つけたんは、一ヶ月かそんくらい前かな。なんやろなーてそん時は素通りしてん。で、今回機械ギルドからの要請受けてな、そういうたらなんか似たものあったわー、て思い出してん。いやしかし、あんな端までいってもうとるとはなー」

 ピュウ、ピュウと鳴き声がしてきた。
 砂の中からずぼっと細長いものが出てくる。2メートルほどの蛇…といいたいところだが体の両側に無数の節足が生えているので絶対違う。アヤカシである。
 それが1、2、3、4匹…。

「なんやわいとるのがアレやけど、ひとまずあのブツを回収してほしいんよ」



■参加者一覧
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
成田 光紀(ib1846
19歳・男・陰
華表(ib3045
10歳・男・巫
バロネーシュ・ロンコワ(ib6645
41歳・女・魔
霧雁(ib6739
30歳・男・シ
御巫 光一(ib7547
14歳・男・シ
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
ナザム・ティークリー(ic0378
12歳・男・砂


■リプレイ本文

 飛空艇の窓から見えるものに、鈴木 透子(ia5664)は釘付けだ。
 砂に埋もれているため全体は把握出来ないが、この前回収したXと見た目が酷似している気がする。

「あれも光線とか出すのでしょうか」

「んー、そこは大丈夫やと思うで? 直に降りて確かめたわけやあらへんけど、どうもガワだけみたいなんやわ。ほら、この角度からやと中身がないのがちっと見えるやろ…」

 彼女とファティマの会話を聞く霧雁(ib6739)は、物体とまるで別のところに注目している。
 崖っぷちからさらさら落ち続けている砂と、その下にある虚空の深淵。崖の側面は見事に垂直であり、どこにも出っ張りがない。

「落ちたら最後でござるな…恐ろしや。仕事を片付けて早く帰って寝たいでござる」

 ぼやきながら彼は、準備してきた即席橇(矢盾製)を、後方格納庫から引っ張り出しにかかる。

「うーむ…相変わらずあの謎物体は謎のままか」

 ラグナ・グラウシード(ib8459)は、背負っているうさみたんに話しかけた。

「…せめて、うさきちくんの犠牲が報われるような、すばらしい何かであってくれよ。そうでなければうさきちくんがかわいそうではないか、なあうさみたん」

 前回の依頼でご臨終させてしまった友について思い返し、男泣き。
 成田 光紀(ib1846)は『混元傘』を早くも開き日差しを防ぎながら、早く降りたい早く触りたいと、アヤカシなどそっちのけにしうずうずしている。

「あれ程の珍奇と同じ物が二つとあろうとは、まさにこの世は奇々怪々」

 破片が見つけられたなら、本体を解体する手掛かりが得られるかも。
 思うバロネーシュ・ロンコワ(ib6645)は、ふとファティマに顔を向けた。

「それにしてもファティマさんは、今回の件でどのような関わりで参加するに至ったのですか?」

 カラカル獣人は房毛のついた耳をぴくぴくさせ、陽気に答えた。

「あー、技術班の上が顔見知りやねんよ。そっからこの話聞いてな。あたしが欲しいな思てるもんを作る、ヒントにならへんかて…ま、後にしよか。目的地についたで」

 飛空艇が空中停止した。
 機影を見上げるアヤカシたちは小鳥のような声で鳴き交わしている。
 フェネックの大きな耳を動かすナザム・ティークリー(ic0378)が「あ」と手を叩き、皆に忠告した。

「あのな、こういう流砂ってのは滝と一緒で端に行けば行くほど流れが早く強くなってくるから、そこ気をつけといたほうがいいぞ。まあ、水の流れほど極端じゃねえけど」

「お、せや。うっかりしとった。それ言うの忘れとったわ。あんがとさん。えーと、名前は…」

「ナザムです」

「そうそう、ナザムくんな。いや、立派なフェネック耳しとるねえ」

「ファティマさんこそ、カラカル耳の反りかえりっぷりが見事だな」

 華表(ib3045)は下方に視線を落とす。
 砂の上をさりさり歩き回っている蛇のアヤカシ――アヤカシの形態と能力とは必ずしも一致しないが、有毒の可能性を視野に入れておいた方がよさそうだ。
 目標は参加者全員が無事に帰還すること、及び残骸を無事に運ぶ事。

「皆様がお怪我をされないように頑張ります。」

 御巫 光一(ib7547)は屈伸運動を切り上げ、水筒から水を飲む。アル=カマルの熱気に備えて。

「無事に…回収…できるように…頑張ります…」

 飛空艇のハッチが開いた。
 流砂の上に乗っている残骸はゆるゆると、しかし確実に流れていく。あまり悠長にしている時間も無さそうだ。



 開拓者たちが流砂の上に降りるのを見届け、飛空艇は上昇した。
 4匹のアヤカシたちは彼らを獲物と認識し、近づいてくる。小走りに寄ってきては止まり、止まっては寄ってという動きを繰り返し、間合いを詰めてくる。
 かざした『混元傘』の下で光紀が、顔をあおいだ。

「早速ヤツの元に向かいたいが、足のついた蛇とな。これも珍奇、正しく蛇足。少しばかり面白いが…」

 しかしとどのつまりただのアヤカシ。Xに比べれば何ほどのことやあらん。
 早くあの物体を回収し思う存分いじくり回したい。
 その願望一つで彼は、熱砂を蹴って走りだした。

「わざわざ無駄な熱気に当てられてまで足を運んだのだ。邪魔はしないで貰おう」

 透子も大急ぎでついていく。

「お伴します!」

 中指と人差し指で『罪業』を挟み呪を唱え、接近してくる1匹のアヤカシに向け白蛇を放つ。同じ蛇の姿をしていると言っても差異は明らかだ。後者には足がないのだから。
 2匹はもつれ合いかみ合い砂煙を立てた。アヤカシの喉笛が食いちぎられる。
 白と砂色2つの長い輪郭が絡み合ったまま消し飛んだ。
 ラグナは前面に出て、透子らの援護を担当した。流されにくくするため装備してきた重量級の『カーディナルソード』を鞘から引き抜く。

「さあ…久々の出番だぞ、我が大剣よ」

 持ち前の膂力で難無く刀身を持ち上げ、不適に言い放つ。

「あのアヤカシどもを斬り飛ばしてやろう、それがお前の望みだろう?」

 揺らめく大気を貫き咆哮する。

「おい、貴様ら! 私が相手になってやるぞ…まとめてかかってくるんだな!」

 殺到してくるアヤカシ2匹目がけ、鋼の塊が、猛速度で叩きつけられた。
 最も接近してきていた蛇の顔が鼻先から真っ二つになり、後続の奴は足を数本切り飛ばされる。

「はっ! 貴様ら惰弱な蛇どもなど、ただの荒縄に等しいわ!」

 高らかに彼が言い放つそこへ、もう1匹が走り寄る。
 バロネーシュはそれ目がけ『神霊の書物』をかざし、猛吹雪を叩きつけた。
 ついぞ味わうことのない冷たさに驚いたアヤカシが身をよじって固まる脇を、手製の橇を曳いた霧雁が駆け抜けて行く。いち早く輸送班と合流するために。

「失礼するでござるよ!」

 光紀は陰陽術で残骸の回りに黒い壁を立てていた。それはアヤカシに対しある程度の防御壁となっていたものの、残骸の動きを止めるには至らない。一緒の流れに乗ってしまっている。

「うーん、こればかりはいかんともしがたいか」

 早々に目論みを放棄した彼は、霧雁、透子と協力し、持ち込まれてきた橇へXを乗せにかかる。
 寸法は残骸の方が大きいのだが、足としての役目は十分。あるとないでは曳く際の効率が全然違う。
 光一は、切り落とされた足を再生させ接近を図ってくるアヤカシに、『マキリ』で応戦している。

「そちらが…戦いを…挑むなら…こちらも…全力で…」

 アヤカシは電光のように素早く首を伸ばしたり引いたりし、どうにか噛もうとしている。
 ナザムが共闘に打って出た。

「ほらほら、よそ見してると危ないぞ!」

 『ゼロ・ブレイブ』で地を払う剣劇を行い、相手の目に砂を入れ、反応してくる前に飛び離れる。ヒットアンドアウェイは腕力にやや劣ると自覚している彼の得意技だ。
 華表は運搬班の近くに陣取り、前衛にいる彼らの力となるよう、『神楽鈴』を盛大に鳴らして応援を行っている。

「フレー、フレー、光一様、ナザム様! フレー、フレー、バロネーシュ様!」

 バロネーシュは冷気にひるんだ蛇を眠らせたところで、状況を把握し直す。

(透子さんに倒されたのが1体、ラグナさんに倒されたのが1体、私が眠らせているのが1体、光一さんたちが相手して――今倒したのが1体…)

 ひとまず周囲に他のアヤカシはいない。まだ。
 見て取ったラグナは橇の手に回った。今回の依頼は第一に、Xを回収すること。そちらに力を注いだほうがいいとの判断だ。

「私も手伝おう!」

 荒縄を手に物体の上へ駆け上がり、反対側からの縄と結び合わせる作業を行う。
 また発射口などあったらと危惧しないでもなかったが、幸いファティマが見立てた通り抜け殻だった。
 胸を撫で下ろし、では何かしら手掛かりとなるべきものがないか探る。例えば文字とか――解読は不可能だろうが。

「それにしても…これは、いったい誰が造ったのだろう? そうして、何故…ここで静かに朽ちていたのだ?」

 一人ごち彼は、眩みそうな光線の照り返しに目を細める。

「皆さん、足元に気をつけて下さい」

 透子が白壁を黒壁の反対側に出現させ防御に努めているところ、霧雁がはっと顔を持ち上げる。
 ナザムの叫びが上がった。

「まずい、アヤカシが周囲から集まり始めてる!」

 今戦っているのと同種のアヤカシが、砂丘の向こうから次々わき出てくる。
 五感で周囲を探っていたバロネーシュも彼と同様に、迫り来る気配を捕らえた。
 ごぼっと右の砂の中からアヤカシが顔を出した。続けて左から。
 その前へ木の葉が大量に舞う。霧雁のめくらましだ。

「急ぐでござる!」

 橇が引っ張られていく。流砂の流れに逆流し、縁から遠ざけられて行く。
 ナザムは上空に向け腕を回し、声を張り上げた。

「おーい、回収、回収したから降りてきてくれー! やべえ!」

 それから素早く意識を地上に戻した。あっちからこっちから顔を出してくる敵に『アクケルテ』を放ち、とにかく近寄らせないようにする。
 光紀もまた氷の竜を放ち、進行方向及び周囲にいる障害の排除に努めた。

「邪魔だ」

 飛空艇は下降し、開拓者たちの真上でハッチを開ける。そこからフックを複数投げ下ろす。

「皆、それに早うこれ引っかけて捕まり! 一緒に吊り上げるさかい!」

 華表、透子、光紀、霧雁がフックを、Xに張り巡らした綱の間に引っかける。
 その間他のメンバーは、たかってくるアヤカシの排除に努めた。
 ラグナは『カーディナルソード』を振り回し、物体にかかろうとする足を片端から叩いて行く。

「馬鹿者! お前らは来んでいい!」

 浮き上がり始める残骸の上に、前衛班も素早く飛び乗る。
 後から後からわいてくるアヤカシたちは我も我もと積み重なり、上昇して行く獲物を追いかけようと躍起になった。
 この数に張りつかれでもしようものなら重みに耐えられず飛空船が転覆する恐れがある。あるいは綱が切れるか。
 光一は『マキリ』だけでなく『黙苦無』も駆使し、取りすがろうとする蛇に攻撃を続け――ぐらりと体を傾けた。
 バロネーシュが彼の襟首を持ち落下を止める。
 華表が即座に、噛まれた足首の解毒を行う。

「光一様、しっかり!」

 『バトルヒール』でアヤカシを蹴りつけていた霧雁は顔を歪めた。
 顎が外れるほどの蹴りをアヤカシに入れた際、脇から出てきたもう1匹の牙が腿を掠ったのだ。
 痺れが体全体を襲う。咄嗟に口の中を噛み意識を保たせ、己自身で解毒に努めた。絶対に落ちられないと肝に銘じて。
 飛空船は断崖に向かって加速する。
 『マキリ』を蛇の鼻づらに食い込ませ一緒に落下しかける光一の腰を、ラグナが捕まえ、残骸に足をかけ踏ん張る。

「ふんぬっ!」

 あわただしく光一の応急手当をする透子は見た。断崖から離れて行く獲物を追おうとするあまり引き返せなくなったアヤカシたちが、団子状に固まったまま砂に押され、雲間へ落ちて行く様を。
 光紀がふん、と鼻で笑う。

「愚かな。やはりアヤカシはアヤカシでしかないな」

 ハッチから縄ばしごが降りてくる。ファティマも顔を覗かせてくる。

「皆、ご苦労さんでした。早う上がってきいな」



 帰還中の飛空船内。



「何か変わった部分とかはありますか? 前のXには窪みがあったそうですし」

 だったら今度は突起とかないだろうか、というのが透子の期待するところである。
 光紀は首を振った。
 警戒と調査の意味を込め、宙づりにされている物体にトンボ型の式を張り付かせているのだが、そこから得られる情報によると、彼女の求めるものは見あたらない。

「いや、そういうものはないな」

「そうそう都合よくは…ない?」

 透子はやや、がっかりする。
 試しに今回の残骸と、前に見たXの形を思い出しながらこっそりスケッチしていたのだが、今一つ繋がる感じはしなかった。
 朱藩のさる王様がバラバラになっていた巨大な人型カラクリを発見し組み立てているという噂も聞くから、もしやそういう類いのものではないかと思ってみたのだが…。

「…ただ」

「ただ?」

「この前のと同じく三角形の部分があった――しかも窪んでない。他の部分と色違いになっている。こう、同型の何かがはまっているという具合でな」

 彼がそう言ったところ、ファティマがぬっと顔を出してきた。運転は同乗員に任せたらしい。
 透子のスケッチブックをのぞき込み、かけている眼鏡のふちを持ち上げる。

「ほほう、なかなか上手な絵やね」

「…見ないで下さい。」

 恥ずかしかったので透子はスケッチブックを閉じ、別の話題にもって行く。

「あの、ファティマさんにお聞きしたいことがあるんですが、よろしいでしょうか?」

「ええよ。何やろ?」

「はい、あのですね、普段からこの辺りをよく通られるんですか? あと、他にもXっぽいものが落ちているところを知らないですか?」

「第一の質問にはイエス。あたしの本拠地てアル=カマルやし。こういう辺鄙な場所て人の手入ってへんから、自然観察には持って来いなんよ。ほんで第二の質問にはノーやね。今ジルベリアにあるのんと、ここにあるのんとしか見たことあらへんわ。ほんま、けったいなもんやなあ」

 けらけら笑う相手に捕らえ所のなさを感じつつ、透子が首を傾ける。

「…一月前ということはX1号と2号は同じ時期に全く違う場所…どころか儀に落っこちてきたということになるのでしょうか」

 ファティマが顎に手を当て、眉根を寄せた。

「…いや、それは多分違う。あたしはこっちの残骸の方がずっと早うに落ちてきたんやと思う。長い年月の間潜ってたもんが、砂の流れに乗って顔出してきたんかなー、て」

 Xについての考察をしていたバロネーシュが、口を挟んでくる。

「そう思う根拠はなんです?」

「んー、こんだけ中身が吹っ飛んでしもうとるということは、相当な衝撃が加わったものと思うんよ。とすれば、この前ジルベリアで起きたどころじゃないひと騒ぎがあってしかるべきやったと思うんや。せやけどそういう話、この付近で一切聞かへんかった。やから…少なくとも近々に落ちてきたもんやないねえ」

 透子は人差し指で、己の額を押さえる。

「謎は深まるばかりです」

 生成姫が倒されてから、なんだか世界が変わってきてるように思える。ぼんやり考える彼女の前で、バロネーシュは、ファティマに、出掛けにしていた話を蒸し返した。

「そういえばファティマさん、先に話されていた「欲しいもの」とはなんです?」

「ん? ああ、それな…あたし博物学ゆうもんやってるから、あっちゃこっちゃの儀を調査する機会が多いんや。で、是非とも試してみたいなーて思うことが出来たんよ」

 続いた言葉に、バロネーシュのみならず透子も、光紀も、その他の人々も目を丸くした。

「超小型の人工儀作ってやな、生態系ちゅうもんが一からどんな経過をたどって確立されていくかの実験してみたいんよ。そのためには莫大な浮遊力を持つ宝珠が入用や。Xん中にそれが入ってるかもしれへんなあて、思うてん、あたし」