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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 「大きすぎ! こんなの、多少の手入れじゃ済まないって!」 伊鈷(iz0122)はびしりと指を突きつけながら、焚き火前の錫箕(すずみ)を問い詰める。 「やや、素敵な腕飾りですな? 鈴の音も可愛らしく、伊鈷殿に似合っておりますぞ」 それはそうだしアタシも気に入ってるけど、と腰に手を当て威張る伊鈷を不思議そうに眺めながらも。 「皆様方、お疲れでござろう? とりあえず一息入れてくだされ」 そう言って、錫箕は軽く薬の香りのする鍋の中身を得意げに皆へと振舞った。 霧の中で飛骸を降して高台に達した一行は、山の中腹に佇む砦を見つめていた。高々と積み上げられた石垣、扉まで石造りの頑丈そうな門、そしてその奥に覗く無骨な建物。幸い門までの道はあるようだが、一旦沢まで降りてから登る必要はあり。そして石畳らしきものは随分木の根に侵食されて捲れあがっている箇所も多い。 「それでも石垣は無事なのね。建物も見える限りは大丈夫そうだけれど‥‥ 中まではどうかしらね」 「そうだな。そして今の装備では出来ることも限られる。中はざっと見る程度にして、出直したほうが得策だろう」 幸いここに来るまでの道すがら、目印として色とりどりの布切れを結び付けている。それを辿れば多少遠回りにはなるが、村と寨とを行き来するにも迷うことは無いだろう。 「ただ問題は、このような遺跡といって良い建物ですね。修復するには何から手を着ければよろしいのでしょうか」 「確かになぁ‥‥ ああ、それに『遺跡』っていやぁ、ギルドに届出が必要なんじゃねえか?」 届けが必要なのは宝珠絡みだけ、だったか? などと一行は思わず顔を見合わせてしまう。 「まずはそれから、村で待ってるギルドの受付さんに確認かねぇ。‥‥全く。土偶が見つかったら見つかったで、面倒くせえ事になりそうだ」 大げさにため息をついてみせる様に、皆釣られて苦笑してしまうが。伊鈷が錫箕を問い詰める声が聞こえると、何事かとそちらに向かうのだった。 「内部の探索は開拓者の人に改めて頼むとしても。石工の人とか、修繕に必要な資材とか、とにかく色々必要になると思うの」 薬湯を冷ましながら飲みつつ、伊鈷は誰にともなく呟く。開拓者の方々を雇うのも色々掛かりますぞという錫箕の突込みには、それはアヤカシ調査の名目で何とかなると思うのよと悪びれなく答える伊鈷。 「だがこれほどの規模。一体どれだけの費用が必要になるやら‥‥」 考え込む者がいる一方で、明るく素朴な疑問が投げ掛ける者もいる。 「ねえねえ、砦の中に宝物とかあったりしないの? それを見つけて万事解決、とか!」 「そうよ! 錫箕の家にある本だって、元々はここのじゃないの? 書とか絵とか、そういうものならあるんじゃない?!」 伊鈷はあんなに達筆なんだからと勢い込んで掴みかかるが、錫箕は何やら照れつつ答える。 「残念ながら、金銀財宝の類とは無縁の砦でござる。それに本は某が修繕したり計名殿が模写されているもの故、歴史的な価値は無いと思うでござるよ」 伊鈷がそのまま絶句してしまえば、代わりに錫箕へその先を尋ねるしかない。 「では諸々人に頼るしかないとして、話を持っていく先に当てはあるのかな?」 そうでござるな、と腕を組み考え込む錫箕。 「まずは某が住む『次瓶(じへい)』の村。この辺りの大きな村というなら麓にある『両分(りょうぶ)』。諸侯に直接陳情するとなると‥‥ 都の朱春に出向くことになりますかなぁ」 村の格で言えば、次瓶は寒村、両分は分水嶺を持つ地主的位置付けになるという。この両分、元々この辺りの氏族にして諸侯に取り立てられた『双和(そうわ)』の本拠地でもあったらしいのだが、政治に携わるために一族主だったものは都に進出してしまっているとのこと。 「相談ということなら、この辺りの村を回っている先生もありかな。うん、色々智慧は貸してくれると思う」 何とか立ち直った伊鈷が家は多分両分じゃないかなと選択肢を増やせば、老齢ですが中々学識と経験を積まれた御仁でござると錫箕も頷く。 「あとは某たちに面識のあるギルドの方でござろうか? そして何より、大事なのは『名目』でござりましょうなぁ」 うむむと唸る錫箕と伊鈷。焚き火を囲む一行も、とりあえず村に戻って依頼の報告を終えるまで、一緒になって頭を抱えるのだった。 |
■参加者一覧
花脊 義忠(ia0776)
24歳・男・サ
深山 千草(ia0889)
28歳・女・志
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
千古(ia9622)
18歳・女・巫
煉谷 耀(ib3229)
33歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●訪問? 先に戻る者に東湖(iz0073)への一報を任せ、残る面々は早速白霞寨(はっかさい)の検分を始めてはどうかという話となった。 「私たちは専門家ではないけれど、相談するにも規模くらいは確かめておいた方が良いんじゃないかしら?」 それにしても大きな話になったことと、深山 千草(ia0889)も流石に困惑する様子を隠せない。 「『戦立』にもある『まずは敵を知らなければ』ってやつだよね。うん、一旦戻ってからまた調べに来るのは大変だよ」 腕を組んで頷きながらも、敵じゃないかな、と言った後で気付いた伊鈷は照れ笑い。当然賛成すると思われた錫箕は、だがしばらく考え込む素振りを見せる。 「‥‥今はまだ、案内することが出来ぬ場所がありまする。とはいえ、やはり一度見て貰っておいた方が良いのでしょうな」 一人納得して頷く様子に、顔を見合わせる一行だったが。 「何、危険があるとかそういう話ではござらんよ」 からから笑った錫箕は、早速一行に先立って沢へと下っていった。 「っと、随分急な流れだな。それでも川幅が狭いのが救いってとこか」 錫箕に続いて岩場の急流を渡る中、川下側に仁王立ちする花脊 義忠(ia0776)が呟く。不意に視界の端を動くものに目を向ければ、何の事は無い、鋏を振り上げ威嚇する蟹と視線があった。鞘で軽く小突けば泡を吹いて引っくり返り、そのまま流れていってしまう。 「中々大振りな蟹だったが‥‥ この辺の名物だったりするのかな?」 ぴくりと耳を動かした煉谷 耀(ib3229)が尋ねれば、振り向いた瞬間に足を滑らせる伊鈷。後ろを歩いていた皇 りょう(ia1673)が慌てて襟首を掴んで事無きを得るものの、まるで悪戯をし損ねた子猫の様子。 「美味という話でござるが、別に珍しいものではないですな。この辺りは流石に獲る者が居ない故、大物が期待できそうでござるが‥‥」 朽葉蟹(くちはかに)って名前、水に沈んだ落ち葉の色から付いたんだって、と伊鈷がその格好のまま口を挟む。 「紅葉蟹とも呼ばれるでござるが、そうそう、茹でると丁度伊鈷殿が照れている顔色な感じになるでござる」 振り向いた錫箕が、照れ隠しに解説してみせる伊鈷をにやりと笑う。むぅ、と膨れる伊鈷にその感じでござると更に言を継げば。暴れる伊鈷に対して、一向は思わず苦笑いするしかなかった。 思ったよりもしっかり残っていた石畳を踏み締め登ると、目の前に五メートルには達そうという城壁と、その奥ではなく上に、五段の狭間を構えた無骨な門が聳えていた。切り揃えられた石で組まれた壁は、見える範囲でどちらも軽く百メートルは崩れることなく続いており、その先も霧の中へと紛れているだけだと思われる。流石に苔むしてはいるものの、長い年月を放置されていたようには思えないほど、保存状態は良い。 「錫箕様。『曹』と呼ばれる前の時代の砦とおっしゃっていましたが、一体どのくらい昔のものなのですか?」 驚く様子で千古(ia9622)が尋ねれば、指を折りつつ人名を挙げていく錫箕。計名から始まったそれは、両手を折り返してもまだ続く。 「確か十五代は下らぬはずでござるが、正確なところは戻って調べなければ判りませぬ」 心底申し訳なさそうに告げる錫箕の言葉に、りょうは感嘆の声を零す。 「心血注ぎ、よほど精緻に造られたのであろう。‥‥その当時の義の礎そのものと、今まさに対面しているのだな」 ただの物でござると応える錫箕の声は、誇らしげでもあり寂しげでもあったのだが。 「では案内いたしましょうぞ?」 扉に手を掛けつつ、振り返った錫箕が問えば。一同心持ちを引き締め頷くと、ぎしりと音を立てて開く扉を潜った。 ●探検? 扉の先は、閲兵にも訓練にも使われる大きな広場になっていまする、と錫箕は皆に告げていた。 「真ん中に石畳を敷いた道がありましてな? そこをまっすぐ進めば『雲龍舎』と呼ばれる営舎に突き当たるでござるよ」 だが扉を潜った先、示された広場とやらは荒れ果て草花が生い茂るばかりか、所々に幹が一抱えもあるような木まで生えている。それでも辛うじて石畳は残り、その先の山肌に添うように建物が見え隠れしていた。雲のように白く、龍が翼を広げたかの様、と言われてみればそう見えないこともないのだが。今はその大半が蔦に絡まれ埋もれており、完全に名前負けしているというところである。 「ま、思ったよりは大した事ねぇみたいだな。『鍵』を探しに行った時は、完全な森になってたんだろ?」 斬馬刀で己の肩を叩く義忠が振り向いて声を掛ければ、確かにと顔を見合わせる千草と千古、りょうの三人。 「そういえば、そうだったわね。この霧のおかげ、なのかしら?」 「山の影にもなっているようですし、そもそも日照が少ないのでしょうね」 「何にせよ、この程度ならまだ人の力でどうにか出来るだろうな」 辺りを見回し、切り倒した木は資材にも使えるだろうなどという明るい話題も出る中、耀は首を捻って錫箕に尋ねる。 「寨の規模に対して、兵舎の規模が些か小さいように思えるのだが。建物はあれしかないのか?」 懐かしそうに内側から城壁を眺めていた錫箕は振り向くと、そんな手落ちはござらん、と自慢げに胸を張る。 「一般の住居や生産拠点は山の裏側に広がっているのでござる。畑や牧場、それに鍛冶場や窯まで完備していたでござるよ」 だが答えてから事の重大さに気付けば『森』を思い出して錫箕は黙り込み、一行は生暖かい目でそれを見つめるしかない。 「ま、行ける所まで行ってみるしかないよね。ほら、固まってないで案内してよ」 伊鈷がその背を思い切り叩いて喝を入れれば、っていうか錫箕固すぎっ、と手を押さえて間髪入れずに突っ込みが入る。その一言に笑いが起きる中、寨の奥へと歩を進める一行だった。 一行は途中で石畳を外れて、山の裏側へ向かう唯一の道、山腹を掘り貫いた通路を目指したものの。完全に崩れて塞がっていたために、現状の様子を見ることすら出来ずに戻るしかなかった。だがその気まずい雰囲気は、雲龍舎に近付くにつれて薄れていく。 「‥‥こいつは、中々の代物じゃねえか?」 中央の入り口は、背の高い芒を書き分けた先に現れた。それは四本の柱で支えられるほどに広く屋根が付いており、その上には差し渡し数メートルはあろうかという彫像らしきものが載っている。中央はもう一層ある三階建て、左右には約五十メートルも広がっているだろうか。建物の大きさを掴みにくいのは、両翼の先に行くほど敢えて屋根は下げる造りとしているから、であるらしい。 「仕来りに従って部屋の大きさを変えておりましてな。入ってすぐは両脇共大部屋、凡そ五十人は席に着くことが出来るでござるよ」 両翼それぞれ五つずつ、並ぶ部屋は徐々に小さくなっていき、最後は三人も入れば手狭になる程とのこと。地面に簡単な見取り図を書いて説明した錫箕は、早速中に入ろうとする一行を慌てて押しとどめた。 「待ってくだされ! まだ準備が済んでおりませぬ故、皆様をお通しする訳にはいかないのでござる」 今はまだ訳も言えませぬと口まで閉ざす錫箕に、透かさず伊鈷が猛反発すれば。口を挟み損ねた一行は、それを収める側に回るしかない。 「でも、アヤカシやケモノが居ないことだけは確認させて欲しいの」 もっともな千草の言い分には、義忠が入り口近くで咆哮を使ってみせる案でお互いが妥協することになった。結果的に営舎からは鼠一匹出てこなかったが、懸念で済むに越したことは無い。そうして手持ちの装備と手段で出来ることを終えた一行は、改めて営舎の前で車座になった。 「さてと。念のため確認だが、伊鈷と錫箕は白霞寨をどのように使おうと考えている?」 耀の言に、それは勿論と意気込む伊鈷は、だがそのまま言葉を詰まらせてしまった。邪魔の入らない、誘惑も少ない学問所として、この雲龍舎が最適なのは確かである。だが個人でどうこう出来る程度は軽く越えており、仮に一行の手を借りて建物や広場を整備したとしても、それだけで片がつく問題ではない気がする。 「金があれば済むって話でもなさそうだが‥‥ 選択肢は広がるんだろうなぁ」 義忠は頭を掻きつつ、それでも寨は手に余るかねぇと呟く。 「何があれば良いんだろう。‥‥心意気、だけじゃ足りないかな?」 自信無さそうに答える伊鈷に、一行もはっきりと返せる言葉は無い。だがどの顔にも、手を貸さない訳にはいかないと大書きしてあった。 「やっぱり、何をするにも人手は必要よね。この辺りの村でどれだけ人を養えるか、確認しておいた方が良いかしら」 千草が思い付いた事柄を口に出せば、やはり聞く相手は村の長が良いだろうかと耀が呟く。 「泰国は天帝に封じられた諸侯が土地を治めているのだろう? そちらに陳情をしてみる‥‥ 伊鈷殿か錫箕殿、手順をご存知だろうか?」 手を打つりょうが途中で疑問を投げるが、二人は顔を見合わせ考え込むのみ。 「それでは一旦村に戻り、情報を集めることにいたしましょうか。まずはお二人が知恵者であるとおっしゃられた、両分の先生を訪ねてはどうでしょう?」 千古が提案すれば、誰もそれに異論は無く。どうしても残ると主張する錫箕を置いて、一行は村へと戻るのだった。 ●如何? 両分に先生の庵を訪ねた一行は、その入り口で錫箕の主である計名(けいな)と鉢合わせていた。 「何だ、錫箕は見つかったのか?」 「それどころの騒ぎじゃないんだよ‥‥って、計名にも関係ある、大事件なんだから!」 錫箕は見つかったけど、だったら良いじゃないかと噛み合わない会話がしばらく続けば、その騒ぎを聞きつけたのだろう。伊鈷がおとないを告げる前に門が開くと、杖を突いた小柄の老人が驚きながらも人の良い笑顔で皆を迎えた。 「問題児二人が騒いでいると思えば、今日は大勢引き連れて何事かのう」 二人が恥ずかしそうに睨むのも構わず、朗らかな笑い声を上げる老人は史禅(しぜん)と名乗った。 「まずは話を聞くとするか。流石にこの人数では手狭じゃ、茣蓙を敷くので庭に回ってもらうとしようか」 史禅が杖で指し示す方向とは逆、水場に向かおうとするのを声を掛けて追い抜く伊鈷と計名。 「先生、お茶はあたしが」 「じゃあ、俺は茣蓙だな。禅爺、物置で良かったか?」 先生って言いなさいよ、と怒る伊鈷と計名が家の奥に走りこめば。やはり子供がいると賑やかじゃのう、と聞いたら二人が揃って憤慨しそうな台詞と楽しそうに呟き、一行にこっそり同意を求める史禅であった。 「ほう? やはり近くに寨はあったのじゃな」 錫箕を探しに行った際に白霞寨に辿り着いたこと、その規模や現状を伊鈷が告げると。史禅はそう呟き、茶を一啜りしてから考え込む。対する計名は、驚きこそすれ関心はあまり無い様子。 「史禅殿。もしや彼の寨に関する歴史、この辺りではあまり知られていないのでしょうか?」 恐る恐るといった風にりょうが問えば、思索を解いた史禅が苦笑いと共に答える。 「恥ずかしながら、わしも最近知ったところじゃて。四経にも三書にも、その辺りの歴史は載っていないでなぁ」 不思議そうな一行には伊鈷がこそりと、二つとも科挙の教科書みたいな書物のことで、読み書きの教材にも使っているんだよと教えてくれる。 「それにしても『学問所を作りたい』とは、また大事じゃ」 そのための知恵を借りたいと言い募った伊鈷に対して、史禅は湯飲みに視線を落とす。 「まずは一時的な合宿所でも良いのではないかと思っております。これだけの歴史です、学問所や研究機関の足掛かりとして十分なのではないでしょうか?」 寨やその系譜を埋もらせてしまって良いものでしょうかと、千古は居住まいを正して史禅へと問う。 「短期的には『寒村復興の評判』という利しかありませぬが‥‥ 場合によっては諸侯の心証を損ねることなく、協力を仰げるのではないだろうか」 やはり優秀な人材とは得がたいものであろうし、それを供給できるとなればとりょうは遠慮がちに尋ねる。 「社会へ出てからの協調性を学ぶことにもなるかしら。貴賎貧富を問わずに学べる場所なら尚更ね」 それは素敵なことだと思うわと、言を継いだ千草も頷く。 「‥‥『双和』も元はといえば学者の家系、筋さえ通せば協力も吝かではないじゃろうな。この辺りの村も、観光を目玉にしようなどと言い出さぬ限り、目くじらを立てることも無かろう」 人が集まり物が動くとなれば、むしろ感謝すらされるだろうな、と呟く史禅の顔つきは、だが厳しい。 「それ相応の人数が集まるとしよう。科挙に必要な六年という時間や場所も提供する目処が立ったとしよう。‥‥そこに絡む思惑、思想や政治、人の意思を受け止める覚悟が、お主にはあるのかのう?」 静かに面を上げて、伊鈷に問う史禅。他の者が口を開こうとする気配は片手を挙げるだけで制して見せ、その視線は伊鈷から片時も離さない。びくりと体を震わせた伊鈷は、一瞬腰を浮かしかけるが。ばしんと張られた背を振り返れば、安心させるように笑みを浮かべる義忠に、しょうがないと苦笑いをしてみせる耀の姿。りょうに千草、千古の三人も、静かに笑みを浮かべて頷いてみせる。しばらくそんな様子を見ていた伊鈷は、一行に確りと頷くと、正面を振り向いて居住まいを正してみせる。そして先生を睨みつけるように見据えて告げる。 「どうすれば良いかなんて分かんないし、保証なんて全然無いけど。‥‥でも、あたしは逃げたくないよ!」 言葉こそ頼りないが。その内容に心許無さを感じさせない、堂々とした態度で伊鈷は応えて見せた。 「‥‥よう言い切って見せた。計名、お主より先に伊鈷を試すことになろうとは思わなかったぞ?」 くつりと笑みを浮かべて雰囲気を一転させた史禅は、続けて計名を冷やかしてみせた。これも皆様と積ませていただいた経験のお陰かのう、と一行に対しては軽く頭を下げてみせる。 「あい分かった。この老いぼれの首に懸けて、諸侯に話は通してみせよう」 急変振りに戸惑う一行に、何、年の功という奴じゃ、伝ぐらいはあるのじゃよと澄ましてみせる。 「じゃが本題はここからじゃ。まずは『学問所に人は集まる』という前提の下、戦略から組まねばならん」 何のことかと首を傾げる皆に、史禅は呆れたように続ける。 「戦略を決めてから全てそれに従って動くというのが『徳治』にもある基本じゃろうが? ‥‥ふむ、やはりまずは人集め、じゃろうな」 伊鈷と計名には叱り付けるように言葉を投げつつも、楽しげに口調を崩さない史禅。 「そろそろ祭りの時期じゃしのう。余興ついでとなれば、都合も良かろうかのう?」 更に不可解な言葉に戸惑う一行を他所に、史禅は愉快そうに笑い声を上げるのだった。 |