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■オープニング本文 前回のリプレイを見る アヤカシ城との緒戦は人間側の勝利、と言って良い結果であったろう。 アヤカシ側は機動部隊の大半を失う結果となる。しかしそれだけで戦の全てが決した訳では無論無い。 今回は攻撃目標から外した、外さざるをえなかったアヤカシ城が迫っているのだから。 開拓者の働きでこれの正体が、無数のアヤカシの集合体であるという事が判明し、また合体術の特性上再分離が極めて困難だという事もわかった。 つまる所、超巨大なアヤカシの腹の中に、アヤカシ軍を詰め込んで移動してきている、といった話だ。ふざけてるにも程がある。 三つに分けられていた軍は睡蓮の城へ後退する。 三軍揃うと結構な数になるのだが、折りを見ては改修を進めて来た睡蓮の城は全てを受け入れ尚余裕があるように見える。 集まった人間達の中で最も大きな発言権を持つ犬神軍の藪紫は、風魔弾正と錐、そして傭兵代表として正邦を招きとりあえずの方針を相談する。 弾正が問い藪紫が答える。 「防衛線を下げ、更なる増援を呼ぶのはどうだ?」 「えっと、ヒドイ言い方になりますが、次に防衛線を引ける場所の候補は幾つかありますが、いずれの場合でも陰殻国内の何処かの里に食い込み、これらの大きな被害を許容しなければなりません。そうする事で、他所の里を脅して戦力を出させるのは、確かに手ではあります」 錐が続ける。 「援軍のアテは?」 「北條に動いてもらう事になります。開拓者ギルドが動ければありがたいのですが……今は絶対に無理ですね。朧谷の方で諏訪に頼む事は……」 錐の即答が返る。 「無理だ。というか、お前等の方で北條を動かせるというのは本当か? 正直、上忍四家を動かせると言われてもぴんと来ないのだが」 「前にもやった事ありますし。相応以上のものを持っていかれるので、そう何度も使いたい手ではありませんし、まあ今回の場合ですと、多分時間がかかりすぎるとも思います」 さらっと答える藪紫に、錐はやっぱりコイツにケンカ売るのは絶対に止めようと心に誓ったとかなんだとか。 弾正は、ああ、あれコイツの仕掛けだったのか、的な視線を藪紫に向けつつ、口を挟んできた。 「それ以外にも理由がありそうだな」 「敵の城です。アレ、どう見ても運用方法間違ってます」 あのアヤカシ城は、魔の森内で他の城を落とすのに使うのではなく、人間の領域に侵攻する際に用いるのが一番良いという話だ。 中に空戦戦力と砲戦戦力目一杯詰め込んで人間領域へと踏み込めば、人間側はこれを止める為常に攻城戦を強いられる。 そもそも質量がデカすぎて、止め方なぞ考えもつかない。中のアヤカシ全滅させた挙句、ちまちまと城自体を削り壊していくぐらいだろうか。 「アヤカシは人間と違って補給も必要ありませんしね。それで難攻不落の城砦持ち出した挙句これが移動するとか、もう、圧倒的戦力差ですり潰すぐらいしか手が思いつきませんて」 そんな無敵の城が、ほぼ同等の質量を持つこちらの城に向かって来てくれているのだ。ほぼ唯一といっていいアレの正面突進を受け止められるだろう城へ向かってだ。 しかも敵の機動兵力は軒並み削った後だ、敵城に残された手はあの城をこちらの城に叩き付け、城壁を無効化した上での決戦ぐらいであろう。 「あの城の能力を考えれば一番やっちゃいけない事ですよ。アヤカシ側はあの城を、こんな戦局で使うべきではないんです。それが今こうして出張っているという事は……」 弾正が言葉を継ぐ。 「アヤカシ達は他軍とは連携を取っていないという事か」 「はい。それは今後も連携がありえぬという状況を保証する事にはなりませんし、ここを抜かれ陰殻領内にあの城が侵攻した場合、今度は逆にあの城の利点を存分に活用出来る事になります」 藪紫の言葉を錐はばっさりと切って捨てる。 「色々と御託を並べてくれているが、俺達朧谷が戦うのに必要な理由は一つ。陰殻を守る、だ。睡蓮の城を突破されてはそれが敵わんのだし、現有戦力での勝機もある。なら、戦う事を恐れる者は我が里にはいない」 藪紫は錐の言葉にこれ以上の説明を止める。藪紫の説明は全て錐と錐が説得しなければならないだろう朧谷の者達に向けての言葉であった。 犬神軍はもちろん、傭兵軍も藪紫のものであるのだから。 だから錐が自身で皆を納得させられるというのなら、これ以上は無用だ。 「了解しました。では、主要な人間を揃えての軍議といきましょうか」 多数のアヤカシを合体させ城や船を作る。この技術の有用性がアヤカシ側で証明され各地のアヤカシも真似るようになれば、人間側にとってはかなりの痛手となる。 雑兵のような下級アヤカシを何十匹だか集めて船を作る、何百体だか集めて城を作る、これらを効果的に運用出来れば、間違いなく元のものより遥かに巨大な戦力となろう。 そうさせない為に、即座にかつ手早くこれらを粉砕する事で、この技術は人間にとってさして効果のあるものではないと、教えてやらねばならない。 人間側は、睡蓮の城を盾にアヤカシ城の突進を止め、これを殲滅する作戦を取った。 戦場とはとても思えぬ美味い飯をかき込みながら、新平は黙々とこれを食する正邦に言った。 「よう、遂に最初から居るのは俺達二人だけになっちまったな」 「……」 まるで他人事のようにおどける新平。 「で、次は誰だと思うね?」 「俺はずっと、真っ先にお前が落ちると思ってたんだがな」 「ひっでぇなおい。だが言っちゃ悪いが、剣の腕だけなら俺の方が上だぜ」 「馬鹿か、それで言うなら藤枝が頭一つ抜けているだろう」 「納得いかねえ話だよなぁホント……今回は開拓者の連中と一緒だって?」 「ああ、アイツ等と一緒の時はゲンが良い。死人はきっと、少なくて済むさ」 作戦も良い、環境も良い、指揮官も良い、戦力もある、それでも死ぬるが傭兵稼業だ。 二人は普段と変わらぬ調子で、もう何度目になるかわからない、これで最後になるかもしれない食事を終えた。 凄まじい轟音と共に、城壁が粉々に砕ける。 しかし、これあるを予想し職人達が必死に補強を続けていた城壁は、半ばまでアヤカシ城がめり込む形ではあったがこの侵攻を食い止める事に成功する。 敵城の中から飛び出してくるアヤカシ達。その中に、開拓者達が何度も目にした、鬱陶しいアヤカシが三体居た。 「おい、本当に良いのだな?」 滅がそう問うと、蒼が苦々しい顔で答える。 「てめえみたいなド低脳と一緒ってな剛腹極まりねえが、他に手はねえんだから仕方ねえだろ」 「良し殺す」 「やってみろクソが」 牙は二人の様子に、先が思いやられると嘆息する。 「いい加減にしろ。……さあ、行くぞ」 三体のアヤカシ、蒼、滅、牙は、同時に叫び、飛び上がった。 「アヤカシ合身!」 |
■参加者一覧
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
久我・御言(ia8629)
24歳・男・砂
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
ジャリード(ib6682)
20歳・男・砂
アルバ・D・ポートマン(ic0381)
24歳・男・サ
水瀬・凛(ic0979)
19歳・女・弓
ナツキ(ic0988)
17歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ナツキ(ic0988)は皆と一緒に敵城突入からの流れを確認している。 一つ一つ、大きな声で言い聞かせるようにそうしていると、久我・御言(ia8629)もこれに参加する。 透き通るようでいて朗々とした声で語る御言の語り口調は、聞く人間に安心感をもたらすものだ。 ジャリード(ib6682)の言葉少なな鋭い指揮とは好対照でありながら、いずれも優れたものであろう。 そのジャリードは城外に出ていたらしく、戻ってくると皆に小さく会釈する。何をしに行ったのかは言わずともわかるので、誰もこれを咎めたりはしなかった。 ナツキも御言も、何故殊更に声を出しているのか、皆わかっている。 時期に、新平もこれに乗って来る。正邦は無言のままだが、特に異も唱えない。 ゆみみは対城戦とかいう前代未聞の戦闘を前に緊張しまくっているので逆に大丈夫であろう。余裕が無いというのが逆に良い方向に作用している稀有な例だ。 ゆみみ以外はナツキの、無理にでも明るく振舞った方がいいという考えに同調しているのである。 ジークリンデ(ib0258)は特に会話に加わるでもないが、新平、正邦、ゆみみの三人の様子を観察している。 流石に傭兵。仲間が倒れた後であろうと、誰に言われるでもなく、戦の前ともなれば自分のポテンシャルを最大限引き出せる精神状態に持っていけている。 出来ていないのはゆみみぐらいだが、まあこの娘は腕の良さでカバーするスタイルなので、これはこれで良しとする。 ジークリンデの目に留まったのは、水瀬・凛(ic0979)であった。 随分と思いつめて見える。凛は迷い悩んだ挙句、堪えきれぬ言の葉を漏らす。 「新平さん、正邦さん……それにゆみみさん。……気を付けて、ね?」 その先の言葉は飲み込んだ。 自制が効くのなら問題は無いだろう、と次にジークリンデはアルバ・D・ポートマン(ic0381)に目を移す。 アルバはルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)の持つカラフルに彩られた大筒を見て眉根を寄せていた。 「それ、何だ?」 銃に関してはそれなりに知識のあるジャリードが説明してやる。 「手持ちの大砲だな。もちろん充分実用に耐えうる、というより威力だけなら魔槍砲よりも強力だぞ」 えっへん、と胸を張るルゥミに、アルバはげんなり顔である。 「……誰だよ、こんなの作った奴ぁ」 ここは特に問題なし、とジークリンデは最後に自問を行う。 アヤカシの中でも技術力を持つという特異な存在、一城規模の合体術、噂に聞く護大の欠片、いずれもアヤカシの神秘に迫る内容であろう。 だがそれらよりも仲間達の生死を気にかける自分を、魔法使いジークリンデが如何に考えているのか、余人に計り知る事は出来ない。 秋桜(ia2482)の問いに、藪紫は自身の見解を述べる。 「奇鬼樹姫なる敵首領が大アヤカシとして何かが欠けているという意見には同意します。とはいえ、大アヤカシのつもりで対処すべき、とも考えますが」 秋桜がアレはそれほどの大妖には見えない、と告げると藪紫は驚いた様子で視線を鋭くする。 「……打倒以上を望めると? 確かに護大の欠片を取り込んだアヤカシを捕え調査する事が出来れば、アヤカシの生態解明に飛躍的な進歩を期待出来るでしょうが……」 今度は秋桜が驚く番であった。 「いや、幾らなんでもそれは無理がありますでしょう」 「ですね。……本当にそれを調べたいのなら、護大の欠片を予め掴まえておいたアヤカシに埋め込んだ方が余程楽出来ますし」 秋桜は、この人ほっといたら本当にこういう事しでかすんじゃなかろうか、と思ったとかそうでないとか。 ナツキはゆみみと共に大猿を抑えにかかるのだが、何せ敵の手数が多いのと勢いが凄まじい。 その上ゆみみは背景に見える城壁をぶち破った敵城の姿が気になるせいか、少し焦っているようにも見える。 「ゆみみさん、まずは様子見!」 「は、はいっ!」 勢い良く暴れる分、単調になる時が必ずある。ナツキはその時に合わせて合図を送る。 ゆみみはこれを受け、大猿の攻撃直前に刀より精霊の輝きを放ち、大猿の動きを鈍らせる。構わず拳を振りぬく大猿であったが、ナツキへの一撃は彼を崩すまでには至らず。 逆に大猿の拳を弾きながら前進したナツキは、剣ではなく拳で、大猿の不意を打つ。 胴中央僅かに上。捻り込むような拳をまっすぐに叩き付ける。大猿の体内各所に体液を送り出す機関への貫くような衝撃に、意識は残ったままで大猿の全身が硬直する。 そして、大振りの一撃をナツキは、急所ではなく大猿の足へと放ち、これを深く傷つける。 すぐにゆみみもこれに続き、紅蓮の炎をまとった刀がやはり大猿の足を薙ぐ。 二人は同時に左右に散開。ここでようやく、満を持したルゥミの登場である。 アルバが一目見て大呆れたしたクラッカー大筒。宴会芸にも使用可能らしいが、もちろん人に向けて撃ったらお縄間違いなしの強力武装だ。 これを両腕で抱えるように保持する。明らかに大筒の方がルゥミより大きい。 ナツキが言いたい事は、ゆみみの表情が全て言ってくれた。君それ撃ったらものっそい勢いで後ろに転がってかない? 的な顔である。 だがルゥミはこれで、百戦錬磨と言って差し支えない程の熟練砲術士であった。 勝負所は理解しているし、手持ちの武器の利点と欠点も良くわかっている。 子供のおもちゃにしては物騒すぎる大筒に、莫大な量の練力を注ぎ込む。 大筒の中で、練力を帯びた弾丸が唸り脈動し、その鼓動の速さが頂点に達した時、ルゥミは強く引き金を引いた。 睡蓮城主砲、轟咆哮と比べても遜色無い一弾が大猿を直撃した。 反動にも倒れぬまま、あたいつよいっ、と拳を握っているルゥミ。 ナツキとゆみみは予想以上の威力に、お互いで顔を見合わせた後、うんと一つ頷きあう。 ともかくあの当てにくそうな一発を確実に当てさせる事を考えよう、という話。 「あたいに任せて! 一匹残らずやっつけちゃうぞ!」 口調も言葉の内容も子供のそれなのだが、何と言ったらいいのかわからない感情を、ナツキとゆみみの二人は抱くのであった。 アルバが単騎で前衛を務める麒麟という名の大虎戦線である。 術攻撃力、対術防御共に人外の域にあると言われているジークリンデとはいえ、接近戦は比較的向かないし当人にもそのつもりはないだろう。 ならば彼女が術に集中出来るかどうかは前衛のアルバ次第となる。 アルバはこの大虎と足での勝負に出る。 獣の俊敏さを持つ大虎であるが、アルバも虎の挙動を読む人の知恵にてこれに対抗する。 大虎も獣同然でありながら間合いの奪い合いを理解しているのか、アルバが一歩横にズレれば、大虎もそうしつつアルバの必殺間合いから半歩外れた位置を確保。 逆に誘うべく一歩後ろに下がる大虎。この虚々実々のやりとりを制したのは大虎である。その巨躯と俊敏さでそもそもが大虎に圧倒的に有利であったのだ。 両腕を開いての跳びかかりを、回避出来ぬ位置に押された後、これの飛込みを受けるアルバ。 と、そこに土岐津朔が曲刀を抜いて斬りかかってきたのだ。 「一旦下がれアルバ! 俺が引き付ける」 「っだァ! 前出るなっつの朔ちゃん、危なっかしいなったく……!」 一撃をくれた後、一瞬で二人は位置を入れ替わり、アルバは朔の後退を援護する。 大虎の注意は完全に前衛に向けられた。 ジークリンデは危なげない戦い方を続ける。 交戦開始時の巻き込みを気にしないで済む時に吹雪の術を用い、これをブラインドにアルバの接近を助ける。 近接戦闘が始まると少しの間術の行使を控え、大虎の注意が前衛に向けられた所で、灰色の精霊を作り出す。 ジークリンデの抑揚の少ない詠唱に、彼女の前方の空間が応える。 一瞬、景色が激しく歪んで見えたのは、そこだけ大気が圧縮されたからだ。光すら曲がって届く大気のうねりは徐々に小さくまとまっていき、ジークリンデの詠唱終了と共に質量を持った物質へと変化する。 ジークリンデが手にした布を波打たせながら前方へ伸ばすと、布の先がこの灰色に触れる。 撫でるような触れ方であったが、灰色は布よりの霊力を受け放物線を描きながら大虎に当る。それで削り取れぬ事に僅かに驚くも、ジークリンデは構わず再度この術を唱える。 複雑な詠唱と難解な術式を、瞬く間に構成していく様の何と見事なことか。 その艶やかなる詠唱から放たれた灰色は、錯覚ではあろうが、ジークリンデの美しき銀の髪そのもののように光沢を放って見えるようだ。 ただ、まあ、一般的に彼女に抱く感想は、アルバが脳内だけで発したそれであろう。 『……おっかねえの』 御言とジャリードの二人が二人共、先鋒は秋桜に任せるべきと考える。 シノビという職柄もそうだが、秋桜がかわせぬ攻撃は、他の誰にもかわせないだろうという一種の基準のようなものになるのだ。 蒼滅牙は一歩踏み出し回し蹴りを。秋桜はその一歩の速さに驚き、咄嗟に突入を停止する。 蹴りが伸びる。秋桜の肩を引っ掛ける形でこれが当り、しかし秋桜は自ら回転する事でその損傷を最低限に収める。 背後を取り踏み込んでいた正邦は、秋桜がいきなりもらったのを見てまずは間合いぎりぎりにて牽制に終始すべしと敵への強打を諦める。 蒼滅牙の回し蹴りは、振り抜かれた位置から魔法のように翻り、背後の正邦を見もせず後ろ回しに蹴りかかる。 ジャリードの銃が火を噴いたのはこの時だ。 蒼滅牙は体を打つ銃弾にも蹴りは乱れず、かわしたと確信した正邦の腕を浅くだが蹴り斬った。 秋桜は正邦と目が合う。そこでお互いを見たという事が、二人が疑念に思っていた事が事実であると確信させる。 正邦が声を上げる。 「秋桜! 俺が踏み込むから……」 が、これを秋桜は遮る。 「いえ、わたくしが行きましょう。概ね当りはついていますので」 言うが早いか再度踏み込むと、蒼滅牙の前蹴りが飛ぶ。これを、今度は完璧にかわした秋桜と、伸びる蹴りの正体を見切った正邦。 「軸足か!」 蒼滅牙は蹴りの最中に軸足を滑らせているのだ。巨体に似合わぬ繊細な技を使う。 あっさりと見抜かれた蒼滅牙であったが、特に焦った様子は見られず、牙はむしろ楽しげである。 「そうこなくてはな。だが、この程度我等が技のほんの一部よ」 後衛への攻撃を防ぐ意味で新平が取り囲む形で斬りかかるが、これにカウンターの拳を合わせる蒼滅牙。 続くジャリードの銃撃は、伸ばした手から放った瘴気弾にて撃ち返すと、蒼がジャリードを嘲笑う。 「格闘だけじゃねえんだよ!」 蒼滅牙は流れるような開拓者達の連携にも対応しているが、この連携を指揮しているのが御言である。 当然、御言は自分の持つ魔槍砲を上手く活用する術に熟達しており、連携を外されたとしてもこれだけはきっちり決められるように組み立ててある。 「水瀬くん!」 「任せて!」 凛は矢を殊更静かに射った。 この弓射は銃撃との対比であり、矢をかわすのと銃弾をかわすのとで異なる呼吸があるものだが、これを強調する意味があった。 すこん、という妙に軽い音と共に凛の矢が胴に刺さる。蒼滅牙は一瞬、完全に虚を突かれた顔をする。この一瞬の間を、御言は待ち構えていた。 「暑苦しいのだよ、君等は。もっとスマートに出来なかったのか」 魔槍砲神門の筒先から練力が収束していくのが傍目に見てもわかる。その重量から取り回しの難しい武器であり、なればこそ戦闘中の立ち回りが重要になってくる。 つまる所、御言には相応しい武器だという事だ。 まるで雷雲が地上に舞い降りたかのような閃光が走り、輝きは蒼滅牙を包み込み、そして、しかし、蒼滅牙はこれが収まった後、滅がじろりとそちらを睨む。 「我等を倒したくばその十倍は持って来い」 そして、蒼滅牙の本格攻勢が始まる。 真っ先にこれに晒されたのは秋桜だ。牙が特にご執心のようで。 「お前の動きは見切っている! 蒼滅牙となった我等が攻撃、貴様では決して防ぎえぬわ!」 嵐のような連撃。威力も速さも、技量すら備わった攻撃の群れが秋桜に襲い掛かる。 だが、牙の顔が驚愕に歪む。 「かわし……きっただと? 貴様! その赤い燐光は何だ!?」 紅の輝きを伴った秋桜は、全ての攻撃をかわした後、走り距離を開け、ゆっくりと手招きする。 激昂した蒼滅牙が踏み込むと、そこにあった、落とし穴に片足が深くハマってしまった。 この罠を用意した凛は、自分が技量において劣っている、そう考えていた。 それでも、何か出来る事を、何とかしなければと考えに考え、幾つもの準備をしていた。この罠はあくまでその内の一つに過ぎない。 これらは凛の必死さの表れであり、その必死さ故に罠に嵌った蒼滅牙を笑うだのなんだのといった発想がなく、ただ必死なままに、出来た隙に矢を滑り込ませるのみだ。 これ以上の犠牲者を、決して出さぬ為に。 この想いをジャリードも強く共有しており、好機に際して一切の躊躇が無い。 足の止まった蒼滅牙へ二丁の銃を手にジャリードが迫る。 蒼滅牙は、片足が沈み込んだ姿勢のままで器用に重心を操り迎撃の拳を放つ。 ジャリードは蒼も滅も牙も侮ってはいない。この体勢であろうと、来る拳は一撃必殺すらありうるものだと考えている。 そしてこの拳のみではなく、足を含めた連撃があろうと。だから、一発目で崩す。 迫る右拳の拳部に、右の銃を打ち込む。弾かれた腕に引かれるように、蒼滅牙の上体が揺れる。 この間に更に懐へと。 右手が銃発射の反動で流れるに任せると、自然と左腕が前方へと回ってくる。筒先を押し当てるようにして、これを撃ち込んだ。 すぐに離脱、しようとして、右腕を掴まれている事に気付く。 蒼滅牙はここで一人仕留めにかかろうとしたのだが、ちょうど蒼の額部に、一本の矢が突き刺さった。 その反対側から駆けて来た者達には、正邦が声をかける。 「何だ、もうそっちは終わったか。なら自分の分は自分で殴れ。俺は少しキツイんで下がらせてもらうぞ」 「はいっ!」 ナツキとルゥミとゆみみが参戦してきたのだ。 アルバを護衛に駆けてきたジークリンデは、早速皆に治療術を施し始める。 この参戦者に注意を向けている間に、御言がジャリードのすぐ側、つまり蒼滅牙の近くにまで走り寄っていた。 「さあ、私自ら引導を渡してくれよう!」 その強力な砲を向けると、蒼滅牙はジャリードを離し、距離を取りに動く。 これを読んで、その眼前に閃光弾を打ち込んだ御言。皆合図に従って閃光の影響を避けていたので、すぐに動ける。 「いまだ! 進撃せよ!」 ようやく蒼滅牙を打倒したと、安堵にへたりこみそうになる開拓者達の下に、錐の叫び声が。 「くっそ! 奇鬼樹姫が出たぞ! 皆一度下がれ!」 |