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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 藪紫が睡蓮の城に入城すると、傭兵達はにわかに緊張した面持ちになる。 彼女が朧谷の里と敵対する犬神の里の人間である事は誰もが知っており、また錐の厳しい現状は、藪紫が暗躍した結果、と見る事も出来なくない。 風が吹けば儲かる桶屋的発想かもしれないし、錐がそういった安易な考えで人を責め立てるような事は無いとも思うが、それでも、錐は彼女に対しわだかまりがあるのではと思えるのだ。 彼女を迎え入れた錐からは別段敵意のようなものは感じられず、むしろ知人が来た、といった気安さで執務室へと招く。 錐と藪紫、二人は執務室の椅子に向かい合わせに腰掛けると、まずは錐が口を開いた。 「大河内様は城には来ない、永遠に」 藪紫とて一から十まで全てを読み通す事など出来はしない。 とはいえ、大河内と睡蓮の城で会談するという話が出た時、身の危険を感じなかったなんて事もなかろう。 藪紫は静かに頷いた。 「そうですか。私はこのままこちらの城で、成り行きを見定めます」 不思議な事を言う藪紫に錐が怪訝そうな顔をすると、藪紫は微笑を浮かべる。 「今回、思った以上に人材発掘が順調でして。私が自分でやらなきゃならない仕事、概ね終わってしまったんですよね」 ほう、と感心したように錐。 「良い傭兵でもいたのか?」 「ええ、とびっきりの傭兵とシノビです。風魔弾正という方と錐という方なんですが、このお二方のおかげで、私が直接指揮執る必要無くなったんですよね。ホント助かっておりますよ」 錐はこれでもかという程渋い顔をしていた。 錐の側で朧谷六鬼の内の一人、蒼鬼が耳打ちをする。 「護衛は居ません。無用心なのか我等を見くびっているのか……思い知らせてやりましょうか?」 「頼むから止めてくれ。言っただろ、藪紫に居てもらわないと城が守れない。里から応援は来ないだろうしな」 大河内の首を見て降参した六鬼は、中忍である錐の指揮下に入った。 といっても、六鬼が皆で相談し、錐の指示を仰ごうと決めたわけでそこに強制はない。蒼鬼などは自ら進んで錐の護衛を引き受けている。 残る五人は里へと戻り、睡蓮の城を巡る一連の動きを、里の有力者達に伝えて回る役目を行っている。 実は闇鬼は、錐にすら知らせず錐の為の影働きを行うつもりで睡蓮の城の側に潜んでいたりするのだが。 これは錐の人間性にうたれた、なんて話ではなく、六鬼はシノビらしい冷静さで、錐の力になる事が朧谷の為になる、と考えたためだ。 蒼鬼は眉根を捻らせる。 「わかってはいるのですが……どうにも犬神を頼るという事に抵抗がありますなぁ」 「ならこう考えろ。ウチに乗っ取り仕掛けた犬神の連中は皆責任取って引退し、今犬神を動かしているのは次の世代の、乗っ取りを企図した連中とは別人だと」 はぁ、と乗り気でない返事が蒼鬼から返ってくるが、錐はというと、適当な思い付きを口にしたのだが、案外これが真相なのでは、と思えてならなかった。 藪紫は与えられた私室にて、護衛の男、犬神疾風と会話を交わす。 「朧谷の錐ともあろう者が不甲斐ない」 疾風の不満げな言葉は、錐が疾風の隠行を見破れなかった事を言っている。 犬神の里でも飛びぬけた戦闘力を誇る疾風であったが、彼はそれ以上に、隠密活動に長けているのであった。 何でも武者修行の旅に出ていた間、延々人の目から隠れるような生活をしてきた経験が活きているとか。 この任務につく前は、里にて特殊隠密隊の育成を行っていた男である。 「まあ、開拓者の人には存在バラしちゃってますし、隠れてる意味半分も無いと思いますけどねー」 「ん? マズかったのか?」 「いーえっ、どの道疾風さんにもこの城の戦力として働いてもらうつもりですし、ああ、女性もいますけど、絶対に変な事しちゃだめですよ」 「俺はもう覗きはせん。ていうか瑞樹一人居れば他の女とかいらん」 死ねばいいのに、とか心の中だけで思った藪紫は、ちょっと躊躇った後、やっぱり口に出して言う事にしたのだった。 彼らは、一丸となって魔の森を突破にかかる。 彼らは皆シノビであったが、流石に数が百も揃っていると音を立てず気配も立てずとはいかない。 しかも犬神が作った道は通れぬので、太陽の位置のみを頼りに森の中を突っ切っているのだ。 食人植物アヤカシに一瞬で呑まれた者、沼人アヤカシに沼の底へと引きずり込まれた者、巨大な獣に食いちぎられた者も居た。 それでも彼等は足を止めない。 野太刀をかついだシノビは言った。 「けっ、だらしねえ奴等だ」 両手より分銅を垂らしたシノビが言った。 「分け前が増える。ありがたい話じゃねえか」 真上につんと立っている髪型のシノビが笑う。 「違いねえ。風魔弾正をぶっ殺すのはこの俺、竹野省三様だ」 極端に背が低く、ずんぐりとした体型の男が睨みつける。 「ふざけるな。アレは俺の獲物だ。は、早く、動かねえようにして、持って返りてぇ」 げひゃひゃと下品に笑う短髪の男。 「じゃあ残りの女は全部俺に寄越せ。居るって聞いたぜ。開拓者か? 傭兵か? どっちでも構わねえ、全部俺の物だ」 相手が元卍衆であろうとまるで恐れる風もない。 結局、百人居たシノビが睡蓮の城近くまでたどり着くまでに、半数の五十人にまで減ってしまっていた。 しかし彼らに怯えも恐れもない。弱い間抜けが死んだ事で、精兵が残ったとその程度にしか考えていないのだ。 五十の精兵、五十のシノビ、皆、志体を持つというのだから洒落にならない。 彼等はまず睡蓮の城を奪い、しかる後、ここに降りて来る弾正を待ち伏せ仕留める腹づもりであった。 所属もばらばらで連携も取れておらず、各々が好き勝手に戦う彼等は、風魔弾正が再び陰殻の王の座につかんとしているのを阻止する為に、または王の座につけなかった落とし前をつけるために、各陣営からよりすぐって集められた殺しシノビの集まりであった。 睡蓮の城は、遥かな昔そうされたように、人間に攻められた。 |
■参加者一覧
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
久我・御言(ia8629)
24歳・男・砂
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
ジャリード(ib6682)
20歳・男・砂
アルバ・D・ポートマン(ic0381)
24歳・男・サ
土岐津 朔(ic0383)
25歳・男・弓
水瀬・凛(ic0979)
19歳・女・弓
ナツキ(ic0988)
17歳・男・騎 |
■リプレイ本文 水瀬・凛(ic0979)は走る。 屋内であるから、遮蔽物もたくさんあり、凛の弓もその威力を存分に発揮しきれない。 それは投擲武器メインの敵方も同じであるはずなのだが、取り回しに便利な小型の苦無や手裏剣を用いる為、凛程苦労しているようにも見えない。 手投げ武器である分、威力は控えめなおかげで、背中やら足やらに色々と刺さっている現状でも、凛はどうにか走る事は出来ている。 途中何度か攻撃を仕掛ける凛だったが、この男、とにかく動きが速く凛の鋭い矢でもこれを捉える事が出来ない。 よほど上手く狙わなければならない。そうしなければ、このまま追い詰められるだけだ。 凛はこの男の見事な体術に、途中に仕掛けてあった罠の始動を諦める。当てられない可能性もある上、これが決定打にはなりえないからだ。 そのまま屋上に行き、そして、そこは当然行き止まりだ。 男は既に凛を弓術師と見破っており、投擲武器ではなく追い詰めたのならそのまま近接攻撃を仕掛けて来る。 『もうっ、ほんっと嫌な奴っ!』 現状は、控えめに見ても圧倒的不利。撃ち合いに持ち込んだとて、男の体術ならば優位な射撃位置なぞ取らせてはくれまい。 男の攻撃を、凛は何も考えず後ろに飛んでかわす。男は虚をつかれた。何故なら、凛の後ろにもう床は無いのだから。 そのまま屋上から落下してく凛。城内の主要建物の一つだ、かなりの高さがあり、落ちればタダでは済まぬ。 男はどれほど痛打となったか確認しようと端から首を出し、そして、片足に縄を通し逆さまにぶらさがる凛の姿を認めた。 すこんっ、と妙に軽い音がしたのは、放った矢が男の頭部に刺さったせいであろう。 逆さまになったままで凛は心底から呟いた。 「……怖かったぁ……二度とやんない」 二丁の短銃を手にしたジャリード(ib6682)は、留助の利点であるどの間合いでも戦えるという部分を共に持っており、だからかまるで臆する事なく前へと出ていく。 舌打ちしながら留助は後退を繰り返し、片開きの扉を開け廊下沿いの部屋に飛び込むフリをした所から反撃を開始する。 扉でジャリードから姿を隠しつつ、室内には入らず、分銅で蝶番を砕いた後、これをジャリードの方へ蹴り飛ばしたのだ。 扉をまず射抜くジャリード。しかる後、この扉を腕で受け止め、横に払い落とそうとする、が、留助の分銅が扉を砕き貫くのが先だ。 これを食らいよろめくジャリードにそのまま接近し、まずは分銅を回転させながら縦に。 ジャリード半身になってかわす。留助は分銅を床で跳ねさせ、ジャリードの股下から振り上げる。 咄嗟に足裏で踏みつけるジャリード。留助は逆側の分銅を横に薙ぎ、足を狙う。 踏みつけた分銅に未練を残さず後退するジャリード。留助は器用に分銅を回転させ、薙ぎを突きへと切り替える。 ここでようやくジャリード反撃。顔横を分銅がすりぬけざま、片腕を上げて銃撃。 ジャリードと全く同じ姿勢で留助もこれを回避。通り抜けた分銅は、急遽引っ張られ今度はジャリードの後頭部を狙う。 腕の挙動でその動きを読んだジャリード、片腕を上げこれに分銅を絡ませる事で防ぐ。 留助は力任せに分銅を引っ張り体勢を崩しにかかるが、これが勝負を分けた。 ジャリードの武器は銃。崩れた体勢でも威力を減じる事はなく、逆に引き寄せられる勢いを利して近接を果たし、強烈な一撃を見舞ってやるのだった。 秋桜(ia2482)は低く構える三造にも、それほどやりにくさを感じなかった。 最近はアヤカシとばかり戦っていたせいもあろう。あれらの突飛さに比べれば、三造もきっちり人間の範疇だ。 脛を狙って伸びる刀を、リズミカルに膝から下を大きく後ろに振り上げる事で難なくかわす。 簡単にかわされる事に驚く三造は、三度目の斬撃もまたそれまでと同じように仕掛けてしまう。 「三度も見せる人がありますか」 これを片足を引いてかわしながら、真上から伸びた腕を斬って落とす。 異様に太い腕のせいで、切り落とすまでは至らなかったが、かなりの深手であろう。 更に下段に固執する三造を、大きくその背を飛び越え背中を踏み蹴る。 その反応があまりに良かったので、ついでとばかりに三造の後ろ足を踏みつけつつ後方へと抜ける。 踵の上を踏みつけられ苦痛に喘ぐ三造は、本気でがまがえるにしか見えなかった。 充分腕の差は見せた。そう判断した秋桜は、剣を捨てるよう三造に勧める。 三造は躊躇した後、素直に剣を捨てる。 「い、命は助けてくれるんだろうな」 「無駄な殺生は好みません」 にへらーと笑う三造は、落とした刀を秋桜が足先で蹴飛ばそうとした時、更に口を開いた。 「おめぇ、いーい乳してんなぁ」 秋桜の全身を怖気が走る。それを、見越していたのか跳躍する三造。 両手の隠し武器を振るい、攻撃はずんぐりとした体躯で防ぎきる。そんな目測であったのだろう。 しかし、三造がはたと気付いた時には、そこに秋桜の姿は無い。 「……無駄でない殺生なら、致し方ありませんか」 一瞬の内にその背後を取った秋桜の刃が、三造の心臓を一撃で貫いた。 戦闘に際し、久我・御言(ia8629)がまずやる事は何かといえば、敵の挙動を見る事だ。 結果、盗賊レベルに下品であると結論付けた御言は、衣服と簡易な化粧で女性の見た目を作り上げる。 元々端正な風貌でもあり、それほど手間をかけず女性になる事が出来た。 ドでかい魔槍砲を抱えると女性らしさがそこはかとなく薄れはするが、戦場ならばそれもまたアリであろうて。 御言はこれを構えたまま、対峙した男に言う。 「あら……私の相手は貴方がしてくれるのかしら?」 敵は短剣使いの鬼丸だ。 「おおよ、天国まで面倒見てやるから楽しみにしてな」 魔槍砲とはいえ、砲撃を行わないなら基本的な取り扱いは長物と一緒だ。 これをきっちり振り回せば間合いの利は御言にこそあろう。 しかし、流石にここまで魔の森を突っ切って来た猛者だ、その動きはかなりの部分まともの枠から外れている。 また常の長物より重量がある事が、鬼丸の動きを捉えきれぬ一因にもなっている。 そして、一息の間に戦況は大きく動く。 鬼丸が突如間合いを詰めに動いたのだ。 これを防ぐべく薙いだ魔槍砲は、あまりに深くへ踏み込まれすぎた為、威力を出しえず。逆に腕を短剣に切り裂かれ、思わずこれを取り落とす。 「くっくっく、ケリだぜおじょーちゃ……」 流石に女好き、ここまで接近すれば匂いでそれを見抜いてきた。 「お、おまっ!」 御言は頭に刺したかんざしを抜き、これを鬼丸の首へ突き立てる。 「絶望したかね? ではそのまま眠るといい」 倒れた鬼丸は何事かを言わんとするも、喉に開いた穴からひゅーひゅー息が漏れるのみ。 そんな彼を見下ろしながら御言は顔色一つ変える事はない。 「しっているかね? 英雄というものは女装もできねば、ね」 アルバ・D・ポートマン(ic0381)のぼやきは、それが真意でない事は土岐津 朔(ic0383)には即座に見抜かれた。 「面倒事は断りたいとこだが……ま、掛かる火の粉は振り払っとかねェとな」 「面倒とか言いつつ楽しそうじゃねぇか、お前」 そう言ってる朔も随分と楽しそうに見える。 「さぁ行こうぜ、得意なんだろ? 蠅叩き」 突っ込んで来た男の一人に目を付けた朔は、やたら身の軽いその男に向けて矢を番えるなり即座にこれを放つ。 精霊の力満ちたこの矢は凄まじい速度で飛んでいき、その男をあっさりと射抜く。 「印はつけたぜ。せいぜい派手に叩いてやれよ」 「また厄介そうなの見つけてくれちゃって」 その男、矢が一本刺さった程度ではびくともせず、こちらに進路を変え突っ込んで来る。 迎え撃つアルバ。その男、竹野が空中にまだあるタイミングでぶつかるよう数歩踏み込んでからの片手突き。 竹野はこれを、空中で身をよじって回避。と同時に、剣を持つアルバの腕を取り、何と跳び付き腕ひしぎ逆十字固めを仕掛けてくる。 アルバが逆手の魔爪を振るって竹野をはがしにかかると、竹野は特に未練もないのかすぐに離れる。 あっという間に隠し武器を披露するハメになったアルバであったが、どうやら狙った通りに手強いらしいとわかり、やたら上機嫌のままだ。 アルバの剣が竹野を捉えるが、竹野は小手にて受け防ぐ。小手と剣との鍔迫りが始まるが、アルバは半身になりながらこれを竹野を引きにかかる。 すぐに竹野も立て直せる程度であったが、このタイミングで朔の矢がアルバの脇下を抜けるように飛来し竹野に刺さる。 アルバは次に屈みこみながら下段を薙ぐと、竹野は飛んで回避。そこにも、朔の矢が飛んでいって突き刺さる。 朔の位置はアルバの後方。通常はアルバの体が邪魔で矢なぞ撃てないはずなのだ。 流石に二度も受ければ竹野もこれが偶然などではないとわかる。 注意を朔にも向けながら動くようになった竹野に、やっとこっち向いてくれたかと煽りにかかる朔。 「きゃー竹野様カッコイー、隙だらけで体に弓刺さってるカッコイー」 二度と隙なぞ見せんと怒り顔の竹野であったが、アルバの連撃に晒されながらそうするのは竹野にとっても骨な作業だ。 仕方なく一矢分は目を瞑り、これを受けつつアルバを大きく蹴り飛ばすと、朔に向けて竹野は走る。 しかし朔は予めそうされても良い位置に居る。アルバを振り切ったのを見るなり、すぐに弓を口にくわえると背後の家屋の屋根に逆上がりの要領で乗り上がる。 「鬼さんこちらってな」 「なめるな!」 竹野は、一跳躍で屋根の上へと飛び上がる。 「こっちの台詞だっての」 朔は弓を躊躇無く投げ捨てると、予備兵装のシャムシールを抜き自ら竹野へと飛び込んでいった。 空中でこれを刺しつつ体当たりで跳ね飛ばす。 地上にて待ち構えていたアルバもまた、朔同様コケにするような口調であった。 「残念、無念、また来世〜」 一歩二歩はゆっくりと、三歩目から一気に速度を上げ、五歩目にて剣を一閃。 胴を深く斬られた竹野は、口惜しそうにな顔で逝った。 「ハイ、お疲れさんでしたっと。……オイタが過ぎたな」 すぐ横で綺麗に着地を決めた朔は、投げ捨てた弓を拾いつつ相棒を手招く。 「っし、終了。他の援護行くぞ」 ジークリンデ(ib0258)という稀有な魔術師の長所を挙げろといわれればそれこそ無数に思いつくものであろうが、戦闘の場においてのという前提がつくのなら、やはり容赦の無い所であろう。 勝つべくして勝つ。 敵が手も足も出ない状態になれば、おのずと勝利は転がりこんでこよう。そんな状況を立ち上げる為に、入念な下準備を行い、いざ敵が罠に陥れば一切の躊躇無く確実に殲滅しきる。 与平がその女を見つけ、これを追いかけようと決めた時、与平の運命は決したといっていい。 まず、片腕がこの世から消えてなくなった。 そこで剛毅にも更なる前進を行った事により事態は更に悪化する。 次の一撃は運悪く、与平の片足を奪っていったのだ。 与平の側まで来た彼女に、与平は最初与平がこれまでそうしてきたように拷問にかけ口を割らせる腹だと考えた。 しかし女は特に興味も無さそうに言った。 「敵の数も多いようですし、端役には早々にご退場頂きましょう」 呪文の詠唱、そして、与平の全てがこの世から消えてなくなっていった。 ジークリンデは、志体無しを守りながら皆が戦う一角に向かう。 形としては篭城に近い。城内の本丸に当たる建物の中に篭って侵入を防いでいるのだ。 この攻め手が押し寄せている入り口の、背後の大地が大きく口を開き、中から紅蓮の溶岩が噴出してきた。 入り口と溶岩とに挟まれる形になった彼等に、篭城組は銃眼より矢やら銃やらを射かけ徐々にこれを減らしていく。 強力な術者の登場に、シノビ達の幾人かがその場を離れジークリンデを狩りにかかる。 そこに、一人の威丈夫が姿を現す。 「良い度胸をしている」 犬神疾風である。 「誰かが来るだろうとは思っていましたので、それほど勇気は必要ありませんでしたよ」 ナツキ(ic0988)は大剣を振るう。 菊の助は野太刀を用いてこれを受ける。 双方長物と比べても遜色無い大剣大刀使いだ、その戦いは実に見ごたえのあるものだった。 ナツキは鍔競り合いをしながら怒鳴る。 「お前ら、何しに来たんだよ!」 菊の助は腕力でこれに抗しながら答える。 「てめぇらを皆殺しにだ。ま、風魔弾正なんぞと関わった我が身の不運を嘆くんだな」 「そんな事の為に、どれだけの犠牲を払うつもりなんだよ……!」 「犠牲? そんなもん出ねえよ。お前等が皆死んで終わりだ。弱っちい間抜けが死ぬのを犠牲たぁ言わねえんだよ」 再び大剣と野太刀が打ち合う。 盛大に火花が散り、両者弾かれた勢いを殺しきれずに胴がガラ開きになる勢いで剣を引く形になる。 そこから、また二人は打ち合った。 シノビとは思えぬ菊の助の剛剣であったが、やはり剣勢だけならナツキが一枚上手だ。 ナツキの矢継ぎ早の連撃に、菊の助は防戦一方になると、剣術勝負ではなくシノビらしい戦い方へと切り替える。 「この、逃げるなっ!」 菊の助が距離を取りにかかるとさせじと追いすがるナツキであったが、足の速さでシノビの相手は幾らなんでも分が悪い。 菊の助はその本領を発揮し、縦横に飛び回りながら大太刀の重量を生かした大振りを見舞ってくる。 この凶悪な剣撃に対抗する為、ナツキは騎士のオーラを全開まで漲らせ、速度を乗せた菊の助の剛剣を真っ向より力で迎え撃った。 どちらも一歩も譲らぬ盛大な打ち合いが続いたが、均衡が崩れるとそこからは速かった。 その場に留まって力を振るうナツキと、全身を駆使し走り続けながら戦う菊の助と、いずれが持久力に富むかは、火を見るより明らかなのだから。 藪紫は秋桜に請われ岩団扇城方面の様子を説明しながら、自分でも二つの城の状況を改めて確認してみる。 あちらは弾正の他にも多数優れた者を置いてあり、藪紫はその運営に不安を持っては居ない。 しかし、睡蓮の城は違う。 藪紫が、これは他の者からはそうとわかりずらいが、悉く予想を外してしまっているのが睡蓮の城とアヤカシの戦いなのだ。 だが、妙な確信があった。 きっとまた、敵アヤカシは睡蓮の城に仕掛けて来る、と。 この藪紫の予想が、想像もつかぬ形で的中するのは、ほんの少し後の話である。 |