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■開拓者活動絵巻 |
■オープニング本文 前回のリプレイを見る ●甘い物は敵! 「う〜ん……。ばれんたいんでーは女性が男性にチョコを渡して、ほわいとでーは男性が女性にアメやクッキー、マシュマロをプレゼントするからか……。今、この神楽の都には甘ーい香りが漂っているよぉ」 開拓者ギルドで受付職員をしている雛奈は、風に乗ってやってくる甘い誘惑に何度も負けそうになるが、店の前でギリギリ立ち止まってはギルドへ体の向きを変える――という行為を先程から何度も繰り返していた。 「ううっ……! 毎日こんなんじゃあ、いつかは遅刻しそう……」 悲しそうな顔でギルドに入ると、ちょうど荷物を届けに来た飛脚とバッタリ会う。既に仕事着を着ていた雛奈は飛脚の男から声をかけられ、黒塗りの漆箱を一つ受け取った。 「……んん? 何か甘い匂いがするわね」 首を傾げながら、ギルドの玄関で赤い紐を解いて開けた途端……。 『ソトだソトだー!』 『タべてもらおう! アマいワタシをタべてもらおう!』 『ぷっくぷくになっちゃえーっ!』 「ひっ……きゃあああっ!」 雛奈の絶叫で、その場にいた人々は彼女へ視線を向ける。 すると雛奈が持っている箱の中から、無数のお菓子が出てくるのを目撃した。 出てきたのは板チョコやケーキ、アメやマシュマロなどの洋菓子だ。しかしお菓子には爪楊枝ほどの細さの手足があり、二つの目に唇まである。お菓子達は喋りながら、外に出てしまった。 「あああアレって、アヤカシなのっ!?」 腰が抜けた雛奈は床に座り込み、眼を白黒させる。 ふと視線を箱に向けると、中には一通の手紙があった。震える手で手紙を持ち、開けて読んでみる。 ●妖志乃からの甘い挑戦状? いやはや、驚かせたかのう? 中から飛び出てきたのは、アヤカシの一種じゃ。しかし我のようなアヤカシとはまた違う。 この時期になると、人間達は甘味にただならぬ執着を見せる。 その執着心が、あのアヤカシを生み出したのじゃ。 アヤカシは動き回り、人間達の、甘味への執着心を利用するのじゃ。 人間を見つけると口の中に飛び入り、甘い菓子のように食せるのじゃが、食べた途端、体は風船のように膨らみ、宙に浮いてしまうのじゃ。 元に戻る方法は、ただひとつ。 素肌の部分を『つんっ』と突っつけば、そこから空気と共にアヤカシが排出されて元に戻る。 突っつくのは自分でもできることじゃが、体はパンパンに膨らむので不器用な者はやりにくいじゃろうな。そういう者は他の者に突っついてもらおうと良い。 だが、こやつらもまたアヤカシ、開拓者どもはともかく、風船になった者をそのまま放っておけばどうなるかのう? 今の時期にしか現れぬ、特殊な能力を持ったアヤカシじゃ。 じゃが多数、存在しておる。 さて、被害者が増える前に、開拓者達は全ての甘ーいアヤカシを倒すことはできるかのう? ちなみにあのアヤカシは人間から六尺(約一・八メートル)以内に近付くと【魅了】の術が発動し、かかった者は甘いアヤカシを自ら食べてしまうので気をつけることじゃ。 ●甘くない敵 「食べた者を風船にしてしまう上に、【魅了】の術を使えるなんて厄介なアヤカシね!」 激怒した雛奈は、ふと箱が二段になっていることに気付いた。 下の段を見ると、中には報酬らしき金がたんまり入っている。 「……思い出したわ。妖志乃とかいうアヤカシが、開拓者にちょっかいをかけているという話が出ていたわね。くぅっ! 甘い匂いで思考能力が鈍っていたから、すっかり忘れていたわ!」 悔しそうに言いながらも、箱を持ちながら雛奈は立ち上がった。 「お菓子達が逃げてまだ間もない。今なら被害を少なくできるわ。早く開拓者達を集めなければ!」 |
■参加者一覧
鳳・陽媛(ia0920)
18歳・女・吟
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
エクレール・カーリム(ib9362)
20歳・女・ジ
クリス・マルブランシュ(ic0769)
23歳・女・サ
サライ・バトゥール(ic1447)
12歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●開拓者VSアヤカシスイーツ! 開拓者ギルドで雛奈から爪楊枝を受け取った鳳・陽媛(ia0920)、エクレール・カーリム(ib9362)、クリス・マルブランシュ(ic0769)の三人は神楽の都を走り回っていた。 「妖志乃め、またふざけたことをしていますね!」 陽媛は怒りながら超越聴覚を使ってアヤカシを探していたが、いざその姿を見た途端、うっとりした表情を浮かべる。 「わあ……! なっ何だか可愛いですね」 アヤカシの意外な可愛らしさに、目が奪われてしまう。 だが実際のアヤカシは暴れまくっており、都の中は甘い匂いとクリームで大変なことになっている。しかも人々が悲鳴を上げながら逃げているので、地獄絵図にも見えた。 しかしエクレールもアヤカシを見ると、腕を組んで悩んでしまう。 「アヤカシを食べた途端、体が膨らんでしまうとは……。う〜ん……。乙女の尊厳と貞操の危機なんだけど、甘い物は大好きだし、お腹いっぱい食べたいわねぇ。……いえ、逆に考えてみましょう。アヤカシに【魅了】される前に、自ら食べてしまえば良いのよね! 人々を守る為に、そしてアヤカシを倒す為に食べるのならば、開拓者としてのプライドは守れるわ!」 「エクレールさん、『乙女の尊厳と貞操』の方はいいのですか?」 「……アラ?」 おかしな方向に結論を出したエクレールの隣で、我に返った陽媛が冷静にツっこんだ。 「うぅ〜む……。でもこの国のお菓子は、本当に美味しいんですよね。故郷のお菓子も美味しかったんですけど、この国のお菓子はまた一味違った美味しさがありまして、あのアヤカシもとても美味しそう……ハッ! いえいえ、危険そうですね!」 「……私達、すでに【魅了】の術にかかっているんでしょうか?」 クリスまでもアヤカシに熱い眼差しを向けているのを見て、陽媛はがっくり項垂れる。 「みなさん、気をつけましょう! アレでもアヤカシです! 私達が倒さなければならない存在ですから!」 陽媛は竪琴・神音奏歌を持ち直し、天使の影絵踏みを奏でて、自分の近くにいる人々の抵抗力を上げた。アヤカシの【魅了】の術にかかりにくくなるスキルを発動してもらい、二人は正気に戻る。 「おっと、いけない。仕事中だったわね」 エクレールは持ってきた縄を自分の足首に巻き、その先を演奏中の陽媛の腰に巻く。 「エクレールさん、一体何を……」 「もし私が宙に浮かんだら、引っ張ってね」 「ええっ!?」 戸惑う陽媛にエクレールはにっこり微笑んで見せると、ギルドから借りてきた網を手に持ち、アヤカシが密集している場所へ走る。 「そんなに食べてほしいのならば、私の前に集まりなさい! 全部食べてあげるわよ!」 言うと同時に網を投げて、アヤカシを一網打尽にした。 アヤカシはギャーギャーと騒ぎながらジタバタと暴れており、エクレールは網を持ち上げると地面に叩きつけてアヤカシを潰す。ボフンッ!と白い煙を出しながらアヤカシは消滅したものの、スイーツ特有の甘い匂いが周囲に広がった。 「う〜ん、甘い匂いは残るのねぇ……って、いけない! アヤカシはまだまだ残っているわ!」 エクレールは次にニードルウィップを手にすると、マノラティでアヤカシを次々に捕獲し、自身に引き寄せる。すると【魅了】の範囲内に入ってしまった上に、『甘い物を食べたい』という願望があったので、どんどんしまりのない顔付きになってしまう。 「ああんっ、もうダメ! ガマンできない!」 プッツンしたエクレールは、捕獲したアヤカシを両手でムシャムシャと食べ始めてしまった。 「ひぃいっ! エクレールさん、ダメですよぉ!」 そんな彼女の姿を見て、陽媛が声をかけるも届かず。 「うっぷ……、くっ苦しい……! もう、食べられない……。お腹が破裂しちゃうわぁー!」 徐々にエクレールの体は膨らんでいき、足が浮きだした。 クリスはアヤカシを食べて体が膨らんでしまった人々を、爪楊枝でつっついて元の姿に戻していたが、エクレールの変わり果てた姿を見て青ざめる。 「はわわっ! エクレール殿の体が風船のようにパンパンにっ……! ああ、でも服が破れなくて良かったです。アヤカシスイーツの作用なんでしょうけど、食べた人の体ごと服も大きくなったり、元通りになったりしていますから」 「それに足もパンパンに膨らむので、下着が見えずにすんで良かった……ってことじゃないですね! クリスさん、私がエクレールさんを引き止めますので、お願いします!」 「ハッ! そうでしたね!」 陽媛は腰に結ばれた縄を両手で掴んで必死に踏みとどまり、クリスは飛び上がって宙に浮かぶエクレールの足を爪楊枝でつっついた。 「いたっ!」 つっつかれた部分からぶしゅ〜っと大量の空気が出てきて、少しずつエクレールの体は元に戻っていく。やがて地面に足がついたエクレールは、大きなため息を吐いた。 「アヤカシの【魅了】の術、思ってたより強力ね。何より味がとても美味しいし、一度口に入れたら止まらなくなるわよ」 真剣な表情でエクレールは二人に注意するも、ふとクリスは何かの気配を感じて振り返った瞬間、薄く開いた口の中にアヤカシが飛び込んできた。 「んぐっ!? ……ああ、何て甘いんでしょう。可愛くて美味しいアヤカシなんて、反則ですっ!」 「ああっ、クリスさんまで!」 「言ってるそばから……。やっぱり女の子って甘い物に対しては、冷静じゃいられなくなるのね」 陽媛とエクレールの前で、しかしクリスは泣きながらアヤカシを口に運んでいく。 「普段、甘い物を食べないようにしている反動でしょうか? ダメだと分かっているのに、食べるのを止められないです! 師匠、ダメな弟子である私をお許しください! もぐもぐ……」 「……クリスさん、泣いて喋って食べていますね」 「乙女の苦しみは複雑なものよ。痛みをちょーっと感じてしまうし、ねっ!」 エクレールは素早くクリスに近付くと体当たりをして体勢を崩させ、その間にニードルウィップを振るってアヤカシを倒す。そして膨らんだクリスの頬に、爪楊枝をつんっと刺した。 「エクレール殿、ありがとうございます。ううっ……! どんなに可愛くて美味しくても、やはりアヤカシはアヤカシですね。放ってはおけません! 勿体無いですけど、全滅させましょう!」 「私はぽっちゃりした娘が好みだから、女の子の膨らんだ姿を見れるのは嬉しいんだけどね。流石に悲しんでいる姿は見たくないし、真面目にアヤカシを倒しましょうか」 本気になったクリスとエクレールに、陽媛は本音をかける。 「アヤカシには必要以上に近づかないでくださいね! お二人のぷっくぷくになった姿、もう見たくありませんから!」 「妖志乃の挑戦、受けて立つよ! 準備は整えてきたし、負けることはないからね!」 「おかしなアヤカシ……ですか。数は多そうですけど、倒さなければいけませんね」 リィムナ・ピサレット(ib5201)とサライ(ic1447)もまた、アヤカシスイーツを探して都の中を走っていた。 しかしサライは走りながら、リィムナの口元を見て質問をする。 「ところでリィムナさん、口を覆っているソレは何ですか?」 「ラーメンを湯切りする『でぼ』ってヤツだよ。取っ手の部分を外して、口に当てているの。紐を通してマスクのようにつければ、アヤカシが口の中に入ることはできないでしょう? ここに来る前に家にあった甘いお菓子をお腹いっぱい食べてきたから、【魅了】の術にかかることもないよ! 雛奈ちゃんから爪楊枝を貰ったし、準備万端!」 「そっそうですか。僕も手拭・竹林で口元を隠してきましたが、リィムナさんのは何だかまるで……犬用の口輪に見えますよ?」 「誰がワンちゃんなの? ウサギちゃんに言われたくないよーだっ!」 リィムナは兎の獣人であるサライの尻尾を、走りながらもギュッと掴んだ。 「ひゃああっ! 尻尾を触るのは止めてください! 集中できなくて、超越聴覚の効果が切れてしまいますぅ!」 「おっと、それはダメだね。あたしが使っているアヤカシの位置を把握できるスキル・瘴索結界と、サライ君の聴覚を研ぎ澄ませるスキル・超越聴覚でアヤカシを探している途中だしね」 リィムナはすぐに真面目な顔に戻り、サライの尻尾から手を離す。 「ぜぇぜぇ……。んっ? あちらの方向から、騒ぎが聞こえてきます」 「あたしの方も瘴気を感じ取ったから、行ってみるよ!」 二人は同じ方向に向かって、走る早さを上げる。 すると広場で数多くのアヤカシスイーツを見つけて、二人は慌てて立ち止まった。 「コレは一匹ずつ倒していたら、キリがないね。あたしのスキル・魂よ原初に還れで一斉に倒すから、サライ君は時間稼ぎをお願い!」 「わっ分かりました!」 リィムナはローレライの髪飾りを使用しながら、魂よ原初に還れを歌い始める。 その間にサライはウィップ・シークレットを手に持ち、近付いてくるアヤカシを叩いて潰していく。 リィムナのスキルが発動すると周囲にいたアヤカシは一斉に全滅するも、別の場所から悲鳴が上がる。 「くぅっ! あちこちにアヤカシがいるんだね! アヤカシを見つけてから、スキルを使い始めたんじゃあ時間が勿体無い! サライ君、あたしを背負いながら早駆で悲鳴が上がっている場所へ行って! 移動している間にあたしはまた、魂よ原初に還れを歌うから!」 「了解しました!」 言われるままにサライはリィムナを背負い、体中の気の流れを足に集中させて一気に走り出す。 そして現場に到着すると、タイミング良くリィムナのスキルが発動して、アヤカシは一斉に無へと還る。 「ふう……。ちょうどいい時にスキルが発動できて、良かったよ!」 ほっとしたリィムナは、サライの背中から降りた。 「……あのリィムナさん? 背負っている時にちょっと思ったんですけど、……何だか匂いませんか?」 サライはリィムナを背負っている時に、彼女の体から異臭がすることに気付いてしまった。 「アハハ、バレた? 最近、寒くてお風呂に入るのがおっくうでねぇ。サライ君と一緒なら良いかな?」 「かっからかわないでくださいよ! そもそも女の子なら、お風呂に入るのをめんどくさがらないでください! ……しつけの厳しいお姉さんに知られたら、またお尻ペンペンされますよ?」 「ふおっ!? あああ後で全身、ピッカピカに磨くよ! いいい今はアヤカシを食べてしまった人を救出しなきゃね!」 青い顔色で引きつった笑みを浮かべながらリィムナはテイマーズウィップを両手で握り締め、マノラティで宙に浮かんだ人を捕まえて引き寄せ、爪楊枝で腕をつっついて元に戻す。 サライもウィップ・シークレットを手に持ちながら、奔刃術を使って素早くアヤカシを倒していく。 「ああ〜ん! サライ君、木に引っかかった人がいて、あたし一人じゃ届かないよ。今度は肩車をして」 「あっ、はい」 リィムナは二メートルの木に引っかかっている人を助けようとピョンピョン飛び跳ねているものの届かず、またテイマーズウィップも木に絡まる可能性がある為に使えずにいる。 サライはリィムナを肩車して、リィムナは膨らんだ人の太ももを爪楊枝で刺した。元の体のサイズに戻った人は自ら木から下りて二人に礼を言うと、慌てて逃げて行く。 「さっきはおんぶ、今度は肩車をしてくれて、ありがとね。サライ君」 「いえいえ。昔は妹をよく、おんぶしたり肩車をしたりしていましたから。リィムナさんも軽いですね。何だか妹と似ていて、ちょっと……」 「二人とも、危ないわよ!」 「逃げてください!」 リィムナがサライから降りている途中、突然エクレールとクリスの注意する声が聞こえてきた。 二人は振り返ると、大勢のアヤカシに囲まれていることを知る。 次の瞬間、一斉にアヤカシ達は二人に向かって飛びかかってきた。 「きゃああっ!」 「うっうわああ!」 リィムナとサライは抱き合いながら眼を閉じるも、陽媛の奏でる精霊の狂想曲が聞こえてきた途端、アヤカシ達の動きがおかしくなる。陽媛のスキルによって、混乱状態になったアヤカシ達は眼を回しながらフラフラしていた。 「四人とも、今ですっ!」 陽媛の一声で四人は慌てて武器を振るい、アヤカシを倒していく。 ●苦い結末 「噂には聞いていたけどホントに変な敵よね、妖志乃ってヤツは。ねえ、陽媛……って、キョロキョロしてどうしたの?」 「この近くで、妖志乃が見ているのではないかと思いまして……」 戦い終えたエクレールと陽媛は周囲を見回すも、アヤカシの姿や気配はない。 「本当に何を考えているのか分からないアヤカシです! ……しかし中途半端に甘い物を食べたせいか、何だかイライラします。みなさん、安全な甘い物をこれから食べに行きませんか?」 妖志乃へ対する怒りはどこへやら、クリスの顔には期待が満ちている。 「あら、良いわね。今日はよく働いたし、ちょっと食べ過ぎても良さそう」 「油断は禁物ですよ、エクレールさん。でも確かに、甘い物を食べたい気分ですね」 エクレールと陽媛も行く気になり、リィムナとサライも賛同する。 「いいね! あたし、知り合いから甘味食べ放題をしているお店、教えてもらったんだ! 今から行こうよ!」 「じゃあ僕も一緒に行きます。みなさんと、もっとよくお話をしたいですから」 こうして五人は甘味食べ放題の店へ行き、二時間後――。 「うわーんっ! 食べ過ぎて、お腹が痛いよぉ! サライ君、おんぶして厠に連れてってー!」 「はっはい!」 腹痛を起こしたリィムナを再び背負いながら、サライは厠へ行く。 「リィムナさん、大丈夫ですか?」 サライは男なので、厠の外からリィムナに声をかける。 「……サライ君はともかく、陽媛さん、エクレールさん、クリスさんはあたしより食べてたのに平気そうだったなぁ。やっぱり大人の女性は凄いなぁ……」 女性用の厠の中で、涙ぐみながらリィムナは呟く。 しかし数日後、体重をはかった三人の大人の女性は、それぞれ別の場所で悲鳴を上げるのであった。 <次へ> |