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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ● 精神支配された叢雲との戦いより数日後。目覚めた叢雲はある情報を皆に告げた。 それは――魔神ハルファスの存在。 「意識がはっきりしてないから、あんまり確かなことは言えないけど……」 叢雲は苦虫を噛み潰したような顔で当時の記憶を思い浮かべる。 自分ではない何者かが思考に侵入し、無感情な合成音声が指示した通りに、己の体はコントロールされていた。 『ハルファス・コントロール。AよりFを3番で起動――』 音声の具体的な意味は分からなかった。だが、理解できた部分だけを拾い、繋いでいくと。 「ヘパイトスが僕を支配するに際して、ハルファスってやつの機能を利用していたことは分かる」 「おいおい、ちょっと待てよ」 しかしそれに異を唱える者がいた。武蔵だ。 「えーっと、ハルファスっつう糞野郎がいるのは分かった。だけどよ、なんでそいつが魔神だなんて言い切れんだ?」 「あー……」 その言葉に、何か言おうとする叢雲だが、はっきりとした答えが出るでもなく口を閉じる。そのまま目を伏せ、数秒の沈黙が場に訪れた。 「叢雲?」 「……ん、いや、だいじょぶ」 叢雲は一度大きく深呼吸して心を落ち着かせると、意を決したように目を開く。 「僕はね。あの遺跡――剣庭で生み出された……創られた龍なんだ」 「……え?」 その告白に、その場にいた武蔵以外の面々が目を丸くする。 「ちょっと……待って。創られた種の系譜とかでなく……つまり、第一世代って……こと!?」 扇姫の問いかけに、叢雲は首を縦に振って肯定する。 剣庭が作っていたのは新世界に適応する為の強き種。それらが、剣庭が落ちた後の十塚の地で繁殖し、今この地に棲むケモノの祖となっただろうことは理解できる。 成る程。それならば十塚が他よりもケモノが強く、多い理由が分かる。『そうなるように創られた種』だからだ。強力なヌシが生まれるのも納得できる。 だが、叢雲は、一切世代を重ねていない、原種そのものだというのだ。 「……つまり、叢雲は……その時代からずっと生きてるってことなの……?」 「さすがにそこまではねー。なんかよく分からないけど、僕、生まれて暫くすると凍結食らっちゃったみたいでさ」 「凍結……?」 「まぁ、強制的な冬眠みたいなもんだと考えてくれれば。ほら、前にそれっぽいの見かけたでしょ?」 言われて、開拓者達が遺跡に潜入した時に撮った写真や情報を思い出す。確かに凍らされたケモノがいた。 「で、僕が凍結から溶けて目覚めた時には、剣庭は影も形もなく、十塚の大地でただ1人……って状況だったわけ」 推測ではあるが、剣庭が落ちた段階では凍結機能は生きていたものの、長い年月を経て凍結機能が停止し叢雲が目覚めることになったのだろう。これなら古代に創られた叢雲が今の世に生きているのも納得できる。 「あー、ほーぅ、ふぅむ。成る程なぁ」 「武蔵本当に分かってる?」 「おうあんま分かってないぜ。……いや、でもよ。おめぇが剣庭生まれだっつうなら、なんてもっと早く剣庭のこと言ってくれなかったんだ?」 「あー……」 再び言い澱む叢雲。ただ、今度はバツが悪そうに頭を掻いている。 「すっかり忘れてた」 「は?」 叢雲曰く。完全に封印されていた記憶なのだが、ヘパイトスとハルファスが精神に介入した刺激で、記憶の扉が開いたのだという。 「いや、だって考えてもみてよ。生まれてすぐのことなんて普通忘れてるでしょ? 君達人間だってそうじゃない? むしろ思い出したのを褒めてほしいぐらいだよ?」 「……そうかもしれねぇけどさぁ」 「よし、じゃあ話を本筋に戻そう」 なんだかなぁという空気の中、叢雲が大きく手を叩いて話題を変えようとする。 「ともあれ。僕は剣庭で生まれて、まだ起きている時に管理してる人間……えぇと監視者だっけ? それからいくつか話も聞いていてね」 曰く、剣庭の全てを管理しているのはヘパイトスという中枢機構である。 曰く、ヘパイトスを安置している場所こそ最重要区画な為、番人がいる。 曰く、その番人こそ――魔神『戦将鳥ハルファス』である。 それを聞いて、今まで顔を赤くしてうんぬん唸っていた武蔵の顔がぱあっと明るくなる。 「おぉ、つまりはハルファスをどうにかしてヘパイトスをぶっ潰せば全部解決じゃねぇか! ヘパイトスが全部管理してるんだろ? 話が早くていいじゃねぇか」 「……そう、単純に行くかしら……。なにせ、相手は……魔神でしょ?」 扇姫の危惧は正しい。例えば今まで開拓者たちが戦った魔神といえば、牌紋や不死鳥、美狐龍……いずれも強敵だ。 「加えて……遺跡に眠る、全兵力……。とても、全部は……相手できないわ……」 それを聞いて、今まで話を聞く側だった天尾 天璃がおずおずと手を挙げる。 「あの……正攻法が難しいのなら、遺跡を埋めるなり破壊するなりで、なんとか封印する方向に持っていくのはどうでしょうか?」 その提案を、しかし彼女の父親である秀正が却下する。 「その手段で封印可能かどうか分からない上に、根本的解決にならない。十塚の現状を鑑みるとあまり悠長な手段は取れないだろう」 十塚の現状――各地のケモノが暴走し、人々に危害を加えている状況。ヘパイトスの言葉を信じるなら、この地から人間を追い出すためにそう動かしているのだろう。 剣庭による精神支配の被害は日々拡大している。今この場にいる叢雲が平静を保っているのも、天尾家が雇った巫女達が交代で叢雲の治癒をしているからだ。 求められるのは即座の撃破。 「そうなると……武蔵の言ったことが正しいってことになるのかな?」 叢雲の視線を受けて、秀正が頷く。 「はい。狙うは……一点突破」 ● 「おっと、俺達も十塚剣庭攻略に参加か」 「とはいっても露払いがメインのようでござるな」 「えー、あれー、斬りたいですー」 「私は絶対嫌っすよ、あの化け物鳥と戦うの!」 ● 十塚剣庭、最深部。 他の部屋より一際広いその部屋には、半ば壁に埋め込まれている巨大な白い円柱があった。その中心部には巨大な宝珠が埋め込まれているのが何より目を引く。 宝珠に光が宿ると、それに合わせて部屋に無感情な音声が響く。 『ハルファスに確認。稼動に問題はありませんか』 「モンダイナーシ。オールグリーンッテェ、ヤツデスヨ」 その質問に答えたのは人ではなかった。部屋の中央に聳え立つ鋼鉄の止まり木に足を預けている巨鳥。 「フェザーソードノコントロールモカンペキー」 鈍色に輝く翼を勢いよく広げれば、抜け落ちた鋼鉄の羽根が辺りに舞い落ち――ない。 羽根は空中でぴたりと静止したかと思うと、意志を持っているかのように周囲を飛行し空を切り裂いていく。 「ネェー? バッチシダヨォ」 『確認完了。侵入者の排除とここの防衛はハルファスに一任します』 「オマカセアレー」 巨鳥の赤き瞳が爛々と輝きを放つ。 この鋼剣羽の巨鳥こそが戦将鳥――ハルファス。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
水月(ia2566)
10歳・女・吟
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
以心 伝助(ia9077)
22歳・男・シ
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●箱庭 十塚剣庭最深部。 魔神との戦いが、始まる。 ●戦闘 ハルファスが広げた翼から6本の煌く線が空中に描かれていた。 「あれは、羽根を射出したんですか……?」 柚乃(ia0638)は目を細めて線の正体を見極める。6本の剣羽は広間のあちこちに散って空中で停止する。 「……嫌な配置ですね」 部屋の観察に注力していたジークリンデ(ib0258)は相手の狙いを推察する。迂闊に踏み込めば待機させていた剣羽が背に突き刺さることだろう。 「かといって、留まるわけにも――いかないな!?」 開拓者達の先頭に立っていたリューリャ・ドラッケン(ia8037)はハルファスが翼をはためかせようとしたのを見て、直感的に盾を前に構える。 次の瞬間、目にも留まらぬ速さで飛来する数本の剣。盾でなんとか受け流すが、完全に防げたというわけでもなく二の腕に赤い線が走った。 まず動いたのはリィムナ・ピサレット(ib5201)だ。 「……っう、はぁっ!」 意識を集中させた彼女が扇を振るうと、彼女の身体が蜃気楼のようにぶれはじめていく。そのブレは次第に大きくなり、次の瞬間にはリィムナと全く同じ姿のもう1人のリィムナがそこに立っていた。 「ふぅー」 これぞ彼女の奥義、無限ノ鏡像――自分の分身の式を作り出す術だ。安定判を押して痛覚を麻痺させているから外見からは分かりづらいが、相当身体に負担をかけている筈だ。 彼女は再び同じ行動を取り……更に全く同じ分身式を作り出す。 「だけど」 「心配」 「ご無用!」 本体であるリィムナが走り出し、空中を動く剣羽へ鑽針釘を投擲する。素早い動きで釘を避ける剣羽だったが、耐久力は無いのか、そのうちの1発が命中してしまいあっさりと壊れてしまった。 生命を削った状態での攻勢に出るのは危険に思える。が、それをカバーしたのが彼女の分身だ。分身はリィムナと全く同じ術を使うことができる。回復の術……レ・リカルもだ。 分身のレ・リカルで体力を元通り回復させると、分身の2人の式は揃って扇を空中のハルファスへ向ける。 「「轟け雷鳴!」」 重なった声と共に放たれる二条の雷撃――アークブラストがハルファスを襲う。 「アッギャピェー!?」 「だいぶ効いたと思うけど……」 水月(ia2566)は止まり木付近で泥まみれの聖人達を歌いながら、ハルファスの様子を観察していた。 今の雷撃は相当堪えるはず……という推測は、次の瞬間にあっさり否定された。 「シビレルノキラィ〜!」 一応今の攻撃を嫌がってるような口ぶりだが、声色もその動きも先ほどと何も変わっていない。さすが魔神の耐久力というべきか。 ――正攻法での撃破は、ちょっと骨が折れそうなの。 同じことをジークリンデも思ったのか。部屋を見て得た情報を統合していく。 ……魔神は強大ですが、故に何らかの制御方法がある筈。 それらしいものはぱっと見た感じではなかった。止まり木にも宝珠などが仕込まれているようには見えない。 「……いえ、中にという可能性もありますね」 そして、ヘパイトスの本体。 ならば―― 「狙うは、両者!」 元よりヘパイトスは破壊対象だ。 ジークリンデは止まり木とヘパイトスの両方を射程に収めた上でデリタ・バウ=ラングルを放つ。 放たれた灰色の光は止まり木をぶち折り、ついでに範囲内の剣羽を消滅させ、ヘパイトスへと届かんとしていた。 だが、 『防壁展開』 透明の壁が展開され、灰色を遮った。灰色の殆どはプリズムを通る光のように七色に拡散した上で消滅する。 「さすがに一撃で片付くほど容易くはありませんか」 とはいえ止まり木は破壊できた。これが制御装置なら、とジークリンデはハルファスを見やる。 「アッ……」 ――効いた? 「ヘパイトスダイジョウブゥ?」 『ハルファスに警告。番人としての務めを果たすこと』 違った。ヘパイトスへの被弾を心配していただけだった。止まり木の破壊は意味が無かったと考えるべきだろう。 しかし、今のジークリンデの行動が無駄に終わったわけではない。 「今のうろたえ……!」 以心 伝助(ia9077)は飛来する剣羽をすれ違いざまに刀で叩きおりながら、今得た情報から考察する。 ハルファスが危惧するのはヘパイトスへの攻撃。 「なら、これはどうっすか!」 伝助がハルファスへと向けて苦無を投擲する。それは彼の手を離れると同時に巨大化し閃光を放ちながら、一直線にハルファスへと飛んでいった。 「ウォッ、マブシッ」 「よし――つっ!?」 肝心の苦無は舞うように避けられたものの、ハルファスが光で一瞬怯んだのを好機だと判断した伝助は追撃しようと跳ぶ――その瞬間、右腿に激痛が走っていた。 なんだと見やれば、そこにはハルファスの剣羽が刺さっていた。 「いつの間に……!?」 最初に射出された剣羽は全て破壊していた筈。その疑問に答えたのは、伝助の少し後ろを走っていたリューリャだった。 「苦無を避けると同時に撃ったんだ!」 そんなことまでできるのかと驚愕すると同時に、伝助は目の前のハルファスにどう攻撃すべき逡巡する。 「だ、ったら!」 伝助が忍刀を振り上げた瞬間。伝助以外の万物の動きが止まっていた。 夜――彼は停止したハルファスと空中ですれ違うその一瞬、高速で首に向かって刃を振るう。一撃必殺の高速忍技――影。急所をつくことで血や瘴気が吹き出すのが常の絶技。 だが、その手に伝わったのはまるで鋼の塊に刀をぶつけたような感触。 伝助が着地すると同時に、止まった時が動き出す。 「ン――アイタァー!?」 不意の衝撃で空中制動を乱すハルファス。彼の鳥の首筋から吹き出したのは、血や瘴気ではなく鋼の欠片であった。 やはりというか物理面も相当に硬い。だが、伝助の最初の狙いは達成されていた――目の前には聳え立つヘパイトス。 「せいぃやっ!」 忍刀を振るう……が、先ほど同様透明な壁が刃を防ぐ。届かない刃。しかし、 「ストォップゥ!」 ハルファスが凄まじい勢いで突撃してきた。伝助は再び夜で回避する。 あわよくばヘパイトスへ激突してくれれば……といった誘導だが、ハルファスはヘパイトスに激突する寸前でぴたっと動きを止めた。 伝助同様ヘパイトスへ近づいていた柚乃は、その動きに半ば呆れながら術を発動する。 「物理法則に真正面から喧嘩売った動きですね……!」 地面から伸びた蔦がハルファスの身体に絡みつく――アイヴィーバインドだ。 「せっかく地面近くまで降りてきたんです……! このまま着地して休まれてはどうですか!」 「ヤァダァー! タカイトコガァスキナノォ!」 もがきながら再び放たれた剣羽。狙いが逸れ気味になっているものの、しかし開拓者たちの体力を確実に削っていく。 「っと、これは回復にシフトした方が良さそうだね……!」 それを見て、リィムナは再び分身を2体作成する。だが今度は攻撃ではなく、分身にレ・リカルを行使させてパーティーの立て直しを重点した行動だ。リィムナ本人は釘で仲間に刺さった剣を破壊する。 「がんがん!」 「治す!」 あっという間に回復を終えるリィムナの分身。しかも分身の式が術を行使しているので本人は練力を消費しない。 しかし、 『――ハルファス。O−ES7』 弱点もある。 ヘパイトスの指示を受けて、ハルファスの動きが変わった。 ●破撃 ――動きが、遅い? 先ほどまでの苛烈な攻めは鳴りを潜め、ゆったりとすら思える動きで空を飛ぶハルファス。 しかし、相手が攻めてこない以上、これは攻撃のチャンスでもあった。 「よぅし――」 再びリィムナが分身を作る。1体。2体目。体力の消耗は激しいが、当然分身に即座に回復させる―― ――つもりだった。 「ケェェェェ!!!」 「!?」 ハルファスが叫ぶと同時に、大量の剣羽が射出され、その全てがリィムナへと向かう。 「ま――ずい!」 危機だと判断したリューリャがすかさずオーラの障壁を展開するが、とても全てを防げる量ではない。すり抜けた剣羽が雨となってリィムナに降り注ぐ。 「う、そ」 安定判により痛みは無い。だが、彼女の意識が急速に途切れていくのを防ぐことはできなかった。 ……作り出した分身で消耗した生命を回復させるのは強力な戦術だ。だが、消費と回復は同時ではない。分身が動き出すにはタイムラグがある。そのタイムラグの間に行動を割り込まれたら、僅かな体力で攻撃を受けるしかない。 ハルファスの待ちの姿勢はこれを狙ってのもの。ヘパイトスがリィムナを危険視した故の指示であった。 倒れるリィムナ。だが、これはハルファスも全力を投じての行為。当然、隙は生まれる。 水月が式を放つ。それは、 「ネ、ネコニャァー!?」 「止まってくださいなの……!」 子猫が甘えるように纏わりつく、水月なりの呪縛符。猫を嫌ってか、それとも普通に邪魔なのかハルファスの動きが鈍る。 そこに、更に伝助が瞬速の絶刃を再び突き入れる。 「今度は――どうっす!?」 やはり硬い感触。だが、先よりは深く刺さった手応えがある。 「ンモゥ!」 ハルファスは弾かれるように天井近くまで一気に飛び、翼を大きく広げる。 「ト、ツ、ゲ、キィー!!」 そのまま急降下して、勢いのまま開拓者たちへと突っ込もうとする。 だが、騎士が勇敢に前に出る。 「魔神を超える――」 盾を構えたリューリャが巨大なオーラの障壁を展開して開拓者たちを護る――フォルセティ・オフコルト。 「越えなきゃ、ならない!」 突進の衝撃に血を吐きながら、ハルファスの顔面をかち上げるようにオーラを纏った剣を叩き込む。無色の炸裂が巨鳥の顔面で起き、鉄片が散乱する。 「たかがスペックが高いだけの生物を強き種なんて認めない――!」 生命は、進化は自ら選ぶ……その矜持が、ハルファスの突進を受けたリューリャに膝を突かせないでいた。 「魔神が相手でも……やるしかない、ということですね」 弾き飛ばされたハルファスに対して、ジークリンデが追い討ちのように灰色を連射する。全てを消滅させる灰色がハルファスを包む度に、剣の羽毛が少しずつ削れていった。 開拓者達の渾身の連撃を受けたハルファス。 しかし、 「ウググ、マァダ……!」 倒れない。 「想像以上に厄介ですね、これは」 再びハルファスに灰色をぶつけようかと構えるジークリンデ。ハルファスはゆっくりと地面に着地し、そのまま翼で体全体を覆うように隠す。 「これは――」 「……」 先ほどまで雄弁だったハルファスが初めて沈黙する。この意図は―― 「――あっ。もしかしてハルファスさん、休憩してます……なの?」 「ウッ」 図星を突かれたかのような声を上げるハルファス。ぼろぼろの剣羽が床に落ち、生え変わるように新しい剣羽が即座に生成されていく。 「って、ちょっと休憩されただけで回復されちゃ本当に手に負えませんよ……!?」 柚乃が叫ぶ。今のハルファスは無抵抗だが、それを攻撃し続けても回復されるなら倒しようがない。これが魔神の真の力か。 魔神の撃破が無理ならば、 「本来の目的に集中する――!」 ハルファスが沈黙している、今のうちに。 ●強き種 開拓者たちはヘパイトスの前に立つ。 『警告します。アーク4を破壊すれば、新世界の礎が失われます』 その言葉は、リューリャが抱いていた違和感の正体をはっきりさせるに十分すぎるものであった。 ――こいつらは「自分で作ったもの以外」認めていない。 自分達の作った強者以外は無力だと思い込む傲慢。だが、それは人が本来持つ未来を選び取る力を否定している。 だから、 「新世界の礎なら、目の前にいるだろう?」 言うと同時に、リューリャは奥義『斬神』を発動させ、オーラの剣を障壁にぶつける。 『目の前?』 「きっとお前には判らねーよ。強い種を作るという名目で、無数の生命の可能性を否定したお前には」 オーラは七色の光に分解されていたが、しかしリューリャは変わらず剣を押し込む。 同様に、他の者も想いを、力をヘパイトスにぶつける。 「ヒトとケモノの絆を絶たない為にも……破壊させていただきます!」 柚乃は払串に練力を込めて障壁にぶつける。 少しずつできる障壁の歪みに、伝助も刀を重ねる。 「あなた達には感謝するところもあるっす……」 剣庭が無ければ、十塚はこうならなかったし、叢雲と出会うこともなかっただろう。 だが、 「今の時代に、今の十塚に、貴方達のプロジェクトは不要っす!」 強大な1つの個よりも、多くの個々が互いに手を取り合える方がずっとずっと強い――伝助が得た実感。それを後押しするように、開拓者たちが重ねた刃はヘパイトスの障壁を大きく抉っていた。 「今度こそ――終わりです」 その歪みにジークリンデがララド=メ・デリタを炸裂させる。 『ハルファス!』 「ヘーイ!」 休憩を終えたハルファスが剣羽の嵐を起こす。特に危険だと判断されたリューリャとジークリンデの2人に集中的に攻撃が叩き込まれる。 だが、開拓者たちは怯まない。 「お前達の望む『強き種』に壊されるんだ、歓喜の内に消えるがいい!」 リューリャが叫ぶと同時にオーラの剣が障壁を切り裂き、直後灰色がヘパイトスの本体を抉る。 一度、二度、三度。 ……ハルファスが攻撃対象を沈黙させるより、ヘパイトスの宝珠の光が失われる方が先であった。 ●新世界へ ヘパイトスが沈黙すると、ハルファスは意気消沈したように翼を下ろす。 「マモレナカッタァ……」 ハルファスに戦闘の意志が無いことを確認した開拓者たちは、意識を失った仲間たちの息を確認していた。 だが、 『最終プログラム起動――機密保持の為、アーク4はこれより自爆します。カウントダウン――』 「は!?」 治療などは逃げてから行うしかないだろう。アナウンスされているから、対人形兵の仲間も脱出を始めている筈だ。 脱出の準備を始める開拓者たち。そんな中、水月はハルファスへと声をかける。 「ハルファスさん……一緒に行きませんか、なの」 「……ナンデェ?」 「友達に……なれると、思いましたから……」 縛り付ける使命は今はもう無い。だから。 その言葉に、落ち込んでいたハルファスは笑った……ような気がした。 「ヤサシィネェー」 「じゃあ……!」 「デモゴメンネェー。シメイハァ……ソンザイイギダカラァ……」 存在意義を失った魔神はどうなるのか。ハルファスの体が少しずつ崩れていく。 「あ……」 「オワカレダネェー。……ナカレルトォコマルナァ」 「……ごめん、なさい……」 「ジャアァ――」 ――最後の言葉を言い終わると同時に、ハルファスの体が完全に崩れ落ちる。たった1本の輝く剣羽を遺して。 「……ん」 水月はそれを手に取ると、走り出す。約束を守る為。新しい世界へと。 こうして十塚剣庭は崩壊し、『強き種』を巡る騒動は幕を下ろすことになる。 『――コアヲォモッテッテェ、シンセカイヲミセテ……ネェ?』 |