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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ● 時は、熊ケモノによる襲撃事件より前に遡る。 「お、おぉぉぉぉぉ!?」 陰陽師の少女は、目の前の光景に驚愕して大口を開けていた。そこには地面に開いた大穴と、覗き込む彼女の仲間達。 「あははー、やっぱりでしたねー」 嬉しそうに笑うサムライの女性は、この穴を作るきっかけになった人物だ。彼女が地面の違和感を訴えたので、それを確かめる為に仲間が地面を吹き飛ばしたのだ。 地面の下にあったのは、舗装された人工的な通路だ。間違いなく遺跡の類だ。 「よし、あとはこれを報告すれば完璧っすね!」 「何を言ってるじゃんヨォ。この中も調べなきゃヨォ」 「え、まじっすか」 「当然でござる。この遺跡が何の遺跡なのか確認するぐらいはしておかないと、この先の調査も進まんでござろう」 「っつーわけでいくぞー」 仲間がどんどんと穴から遺跡の通路に飛び込んでいくのを見て、陰陽師の少女も意を決して後をついていく。 ……振り返ってみれば、やはりここで引き返すべきだったのだが。 遺跡内部は実に不思議な空間であった。 タイルが敷き詰められた通路が基本だったが、扉を開けると透明なガラスのような鉱石でできた管のような通路を歩く羽目になったりもした。尤も地中だから見えるのは土だけなのだが。 途中、ある部屋に入ってみたところ、何に使うか分からない機材の残骸や、動物の骨らしきものが散乱していた。また別の部屋には、古代文字で書かれた本が本棚から飛び出すようにぶちまけられていた。 「へぇー、いつの時代のかはわかんねぇけどヨォ。結構残ってるもんだヨォ」 「完全に封印された空間だったのが吉と出たのでござろうな。それに紙は意外と保つと耳に挟んだことがあるでござる」 「あ、本がバラバラになっちまったヨォ」 「ちょ、もう、触れないようにしてほしいっす!」 内容は分からないが貴重な資料だ。知識の無い自分たちが触れるより、後からやってくる調査隊に任せた方がいいだろう。 というわけで、遺物にはなるべく触れないように歩を進める調査隊たち。しかし思った以上に遺跡は広く、中々全容を把握することはできない。 「……ふーむ。ここは一旦退いた方がいいかもしれんでござるな」 「えー、もっとー探検してみたいですー」 「また今度な」 志士の男性が、駄々をこねるサムライの首根っこを掴んで、道を引き返そうとする。 だが、その瞬間明らかな変化が遺跡に起きた。通路の天井に仕込まれていた宝珠らしきものが光を放ち、灯りとなったのだ。 「え、えぇ!? ま、まさかこの遺跡……今も生きてるんすか!?」 驚きも束の間、辺りに甲高い音が響き渡り、それに伴って感情の篭ってない女性らしき声がその場に流された。 『警告。F49ブロックにて侵入者を探知。侵入者を抹殺』 「は?」 「わー、これはー、大発見じゃないですかー?」 「それはそうっすけど、この状況は明らかにヤバイっすよ……!?」 やばい。なんだかよくわからないが、とにかくやばい。調査隊は慌てて外に出ようとする……が。 『第17隔壁閉鎖』 「げげっ!?」 通路に鋼鉄の壁が下りて、通ることができなくなってしまった。回り道も道を把握していないので難しい。 ならば、 「ふっ飛ばしてやればいいんだヨォ!」 弓術士の男が自慢の大弓を構える。 『迎撃人形投入』 「へ?」 天井がスライドするように開き、そこから蜘蛛のような多脚を備えた人形が降り注ぐ。それも何体もだ。通路を埋め尽くす程の蜘蛛人形は、多脚を活かして壁や天井に張り付くことで、後続の人形が降りてくるスペースを確保する。 あっというまに場を埋めつくす大量の蜘蛛人形。勿論、埋め尽くして終わるわけではない。 「あいつら撃ってきたヨォ!?」 蜘蛛人形に備え付けられた2門の砲から射出される弾丸。敵の数も相まってとんでもない弾幕が形成されて調査隊へと襲い掛かる。 「ぐっ!? や、やべぇ……逃げるぞ!」 一撃一撃は大した威力ではないが、いくらなんでも数が多すぎる。悠長に隔壁を破壊できる状況ではないと判断し、一旦別の場所に避難することを選択する。乱射される弾丸を背に受けながら通路を走り出す調査隊。 『ギロチン投入』 「まだ出てくるでござるか!?」 音声が響いた直後、先ほど同様に人形が降りてくる。先と違うのは、普通の人型……敢えて言うのであれば可愛らしい服を着た少女のような人形だ。 しかし、その少女の人形は、その身よりも大きい巨大な鋏を抱えていた。破壊力なら、蜘蛛人形の射撃など比べ物にならないだろう。幸いなのは蜘蛛と違い、白と黒の2体だけしか出てこなかった点だ。 だが、 「んなもん相手にしてられっか!」 当然逃亡を選択。首狩り人形だけならまだしも、大量の蜘蛛人形もさっきから後をつけてきているのだ。 とにかくあっちこっちへ逃げるのであった。 逃げに逃げた結果。 「……なんとか撒くことができたか」 薄暗い部屋で腰を下ろす調査隊。この部屋にも明かり用の宝珠は備えつけられているが、灯ってはいない。 「恐らくっすけど、全ての区画が生きてるわけじゃないようっすね。今、私達が見つからないのもそのお陰かと」 「けどヨォ、これからどうすんだヨォ?」 「そりゃあ……。暫くここで救援を待つしか無いだろうよ」 それに、奥の方には明らかにやばい存在がいた。一目見た瞬間、見つかる前に全員揃って踵を返すレベルのだ。 「えー。あの鳥の化け物ー、斬ってみたかったですー」 1人を除いて。 「一応、道中にて目印をいくつかつけておいたでござるが……」 救援が来るなら、それを辿ればこの部屋まで来ること自体はできる筈だ。 問題は、 「いつ来るかっすね。……何週間も留まる余裕はないですし」 「あー、何年ものかは分かりませんけどー、凍ったケモノっぽいのがありますよー? これー、食べちゃいますー?」 「……それに手をつけるのは、色々な意味で最終手段にしとくでござるよ」 ● 前回の事件解決より数日後。 開拓者達が調べた結果分かった空白荒地の調査隊に関して改めて調べてみると、帰還していないことが判明。 追加の調査隊を向かわせたところ遺跡の入り口を発見。ただし中には武装した人形がいたのですぐに撤退。 改めて調査隊の救援が依頼されることになる。 ● 僕はぼんやりとした意識の中で、聞こえてくる声に耳を傾けていた。 「B――体・タ――七四九・――クリア」 ただ、何を言っているかはまったく分からない。僕の知能が追いついてないのか、元から理解不能な言語なのか。多分両方だ。 だから、きっと。僕は生まれたばかりなんだろう。 「コードネーム:――叢雲――。――を考慮し、――凍結――フラガラッ――ラドボルグ――」 意味の分からない音声が途絶えると同時、視界の中がどんどん暗くなっていく。 ……なんだか、眠くなってきたな。あぁ、それにしても寒い……。 「っ!? ……夢、なの?」 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
水月(ia2566)
10歳・女・吟
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
以心 伝助(ia9077)
22歳・男・シ
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●潜入 何も無いが故に空白荒地と呼ばれた場所。その地に空いた大穴を開拓者達が覗き込んでいた。 彼らの視線の先には、先に穴から降りて周囲の警戒をしている以心 伝助(ia9077)の姿があった。 「ん、大丈夫みたいっす」 伝助の合図を受けて、他の開拓者達も順番に中に入っていく。その様子を眺めながら、伝助は皆より先に触れた遺跡について素直な感想を抱く。 「今まで見た遺跡の中でも更に異質な感じっすね……」 事前に聞いていたとはいえ、灯りの宝珠などが今もなお稼動している点については驚愕せざるを得ない。生きている遺跡。それが自分達の立っている場所なのだ。 最後に降り立ったジークリンデ(ib0258)も感嘆の息を漏らす。 「知識の宝庫であることは確か――」 だが、 「――ろくでもないのも確かなよう」 なにせ、この遺跡には謎の人形が徘徊している上に調査隊が行方不明になって帰還していない。危険度は相当高いと考えていいだろう。 そして危険だからこそ。 「この遺跡の事も気になりますけど、今は早く助けに行ってあげなくちゃ……」 「はい、まずは人命を優先ですね」 水月(ia2566)の意気込みに、柚乃(ia0638)も同意する。 「そうと決まればもたもたしてられないかな。人形達の巣だとしたら早く助け出さないと拙いね」 今も生きている遺跡となれば稼動している人形も相当な数になる筈だ。リィムナ・ピサレット(ib5201)の言う通りのんびりしていられないだろう。 幸いなことに、行くべき道を指す目印はある。 「……臭いはこっちだな」 リューリャ・ドラッケン(ia8037)の鼻を刺激するのは、遺跡には似合わない植物の実を潰した臭いだ。 臭いを辿れば、壁に赤黒の丸が描かれていた。調査隊がつけただろうマーキングだ。 開拓者達は、それを追って遺跡の探索を開始する。 ●怒涛 潜入から間もなくは問題もなく進んでいた。 「うーん……力の流れは……」 リィムナは精霊力と瘴気を見るとされる片眼鏡で周囲を観察しながら歩を進めていたが、これといった反応はない。せいぜい灯りの宝珠に精霊力が通っているのが分かる程度だ。 「アヤカシも、特殊な精霊がいるわけでもなし、か」 「それならこの遺跡にいるのはやっぱり人形だけってことに――」 同様にド・マリニーで計測していた柚乃の言葉が途中で止まる。疑問に思った仲間が彼女の方を見ると、柚乃は口を真一文字に閉じて、何かに集中しているようだった。 「足音……近づいてきます」 彼女の超越聴覚が察したのは人形の足音。その情報を聞いて、リューリャは眉間に皺を寄せる。 「このままでは鉢合わせか」 二次調査隊はこの人形を見かけたから即座に撤退したとのことだが、自分達は切り抜けて前に進む必要がある。 人形が徘徊していることは二次調査隊のお陰で分かっていた。人形との戦闘指針は、立てている。回避という選択肢は無かった。 「先手、必勝……!」 人形が視界に入ると同時、柚乃がアイシスケイラルを発動する。人形に突き刺さる氷の槍が、その体躯を貫き、破壊していく。 思った以上にあっさりと、人形は機能停止し、その場に崩れ落ちた。 「増援の様子は……ありませんね」 ジークリンデの言葉通り、新たな敵がやってくる様子は無い。 開拓者達は胸を撫で下ろし、再び探索を始めた。 だが。 『警備兵CH8244が破壊されているのを発見。セキュリティレベルを2から3に上昇』 「!?」 暫く歩いていると、辺りに響く甲高い音と共に、作られたかのような女性の声が聞こえてきた。内容は遺跡に潜む者に警戒を促すものだ。 ――しまった。 人形が破壊されたことで異常を知らせる機能を失っても、『破壊された人形』が在るだけで、異常を知らせるには十分だ。通路に残骸が残っている時点で、いずれ他の徘徊している人形が発見することになる。 せめて残骸を通路から排除するか、もしくは最初から戦闘を回避していれば、侵入がばれるのはもう少し後になった筈だ。 俄かに遺跡内が慌しくなる。見つかるのは時間の問題だ。 「強行突破しか……無さそうっすね」 伝助の言葉に、開拓者達は覚悟を決める。前に進む。そこに敵がいることがわかっていてもだ。 開拓者達が走るその先、曲がり角から3体の人形が姿を見せる。二足歩行の人型だ。 「効くかどうか分からないけど……!」 リィムナが『魂よ原初に還れ』を歌う。演奏により魂を無に還す楽曲であるが、人形に効いている様子は無い。魂が無い存在だからだろう。 「ならば、直接叩く!」 リューリャが懐に飛び込み、剣を振るう。一撃、二撃と攻撃を入れるごとに人形の部位が吹き飛び、そのまま倒れる。 他の人形も伝助と水月が攻撃を入れることであっさり破壊された。脆い……が、問題は目の前の敵ではない。 「後ろからも来ました!」 後方からの足音に柚乃が振り向けば、そこには同様に人型の人形が3体。人形たちは仕掛けてくることなく、一旦止まる。 だが、彼らは稼動している状態で開拓者達を捕捉した時点で、役目を果たしたのだ。 『F47ブロックにて侵入者を発見。セキュリティレベルを3から4へ上昇。侵入者を抹殺』 再び聞こえてくる合成音。それから察するに、警戒の度合いも上昇している。 『隔壁閉鎖。迎撃人形投入』 続けて聞こえてくる音声と共に、付近の天井が開いてそこから蜘蛛脚の人形が、次から次へと現れる。後方にも、進行方向にもだ。 「こういうわけか……!?」 この事態に、リューリャは調査隊が何故帰還できなかったのかを悟る。 「……しかもあれは、アル=カマルの遺跡で見たのと同じものか?」 蜘蛛人形にはどこか見覚えがある。かつてからくりの騒動で探索した遺跡にいた人形に似ている、と。だが、細かい造詣などは違う。同コンセプトで作られた別系統のものだろう。 ともあれ敵の種類は些細なこと。問題は敵がどんどん投下されているということだ。 「さすがにこれをまともに相手するのはしんどいかな……!」 後方に配置された大量の蜘蛛が展開する弾幕を、結界呪符の白壁で防ぐリィムナ。だが、そう保たずに破壊されるだろう。 進行方向にもやはり同じく大量の蜘蛛。その砲門を全て開拓者達の方へ向け、砲口が瞬く。 「く――っ!!」 伝助が被弾覚悟で弾幕の中に飛び込む。体中を弾丸で貫かれる痛みに耐えながら、床を蹴り、壁を蹴り、蜘蛛の陣中に飛び込む。 「吹き、飛べぇ!!」 放つは風神。伝助が一瞬空気の渦を纏ったかと思うと、渦は真空の刃となって周囲の蜘蛛を切り裂き、吹き飛ばす。 「無茶をする……! だが、そのお陰で活路は開けた!」 リューリャも伝助に続き、蜘蛛陣形の崩れた最前線の砲身に剣を乱暴に叩きつける。この際倒せなくても攻撃能力を奪えれば十分だ。 こうしてなんとかこじ開けた陣形の穴を、開拓者達は銃撃にその身を晒されながらも、進む。 調査隊のつけたマーキングはまだある。それを辿れば、彼らに追いつけると信じて。 ●破壁 しかし。 彼らの目の前に立ちはだかるのは鋼鉄の壁――袋小路であった。 「そんな馬鹿な……!? マーキングはここに続いていた筈っす!」 伝助は確かにこの道に続くようマーキングがあったのを確認している。だが、事実としてこの先に道は無い。 開拓者達が動揺するのにもお構いなく、来た道から破裂音が響く。リューリャが仕掛けた爆裂撒菱が追いかけてきた蜘蛛に反応して炸裂しているのだ。音から察するにあっというまに近づいているようだ。 引き返すべきかどうか……。逡巡する開拓者達であったが、リューリャがあることを思い出す。 「いや待てよ。……さっきの警報、確か」 そう、『隔壁閉鎖』――と。 つまり、目の前の壁は新たに降りてきた壁。破壊すればこの先に道はあるということだ。 開拓者達は知らないことだが、これは調査隊が脱出を拒まれた隔壁だ。侵入が発覚した位置の問題で、開拓者にとっては進行を拒む壁となっているのである。 「壁の破壊ですか……ふむ」 ジークリンデが隔壁に向けてララド=メ・デリタを放つ。あらゆるものを朽ち果てさせる灰色の球体は、鋼鉄の表面を削るに留まった。 「……破壊するには時間がかかりそうです」 「なら、あたし達がすべきは、時間稼ぎだね!」 リィムナが結界呪符の壁を作り、蜘蛛の追撃に備える。他の者もみなジークリンデが壁破壊に専念できるように援護する態勢だ。 「――きた!」 床を、壁を、天井を、まさしく虫のように這って現れる大量の蜘蛛脚人形。また、それだけではない。 『ギロチン投入』 白と黒の可愛らしい少女型――しかし凶悪なまでの巨大な鋏を抱えた人形が2体追加される。 「負けられないの……!」 更なる強敵だと確信し、水月はハイテンションなリズムの歌を歌う。歌に合わせて開拓者達の周囲を踊る猫の幻影。歌の加護を得た者の素早さを大きく上昇させる黒猫白猫だ。 その歌をかき消すかのような轟音と共に、弾幕が再び展開される。殆どはリィムナの結界呪符で防げるが、しかし彼女が休まず張り替えなければあっという間に飲み込まれるだろう。 「さすがにきりが無いですね……!」 柚乃がアイシスケイラルを敵陣に撃ち込めば、その部分は弾幕が弱まるが、あくまでも一時的なものだ。根本的な解決にはならない。 更にギロチンの2体は軽やかな足取りで、床を蹴る。2体の少女は遮る壁をまるで踊るようなステップで回り込もうとする。 「そうは――」 「――させないっすよ!」 だが、白き少女は刃を蒼白の両手剣で受けられることでそのまま弾き飛ばされ、黒き少女は振るった刃が空を斬りその隙を突かれてドレスが切り裂かれる。 白に相対するはリューリャ。黒に相対するは伝助。 少女と青年は、ペアを組んでダンスを舞う。鳴り止まぬ銃撃音と刃金のぶつかる音を曲にして、刃の煌きと飛び散る鮮血が舞踏を彩る。くるくるくるくると時折ペアも入れ替えて。 最初に脱落したのは、白の少女。リューリャのオーラを纏った剣撃が、大鋏の継ぎ目を破壊し2本の刃が吹き飛ぶ。 「うおおおおおおおお!!!」 だが彼は止まることなくそのまま振り抜き、少女は鋏だけでなくその身も分かたれることとなった。 それとほぼ同じタイミング。ジークリンデが9回目の灰色を隔壁にぶつけた時だ。 「これは――いけますね」 ついに灰色が分厚い鋼鉄に穴を空けた。穴は最初は小さいものであったが、穴をきっかけに砂城が崩れるように、壁は灰となって朽ち果てていく。 隔壁が破壊された先に、果たして道は――あった。 「なら、長居は無用だね……!」 リィムナが最後の防壁として結界呪符を張りなおしたのをきっかけとして、一気に奥へと進むのであった。 ●救援到着 再びマーキングを追って進む開拓者達が入り込んだのは、灯りがついていない区画。そのうちの一室に人の気配があった。 意を決して中に入ると、何人かにとっては見知った顔である傭兵たちがぐったりと座り込んでいた。 そのうちの1人がのろのろと顔を上げる。 「た、助けがきたあああああ――あああ?」 立ち上がろうとしたものの床に倒れこむ男。慌てて水月が駆け寄る。 「無理しないでなの……。お弁当もお水も持ってきてるから……どうぞ、なの」 「お」 「弁」 「とー」 「だヨォ!?」 水月の言葉に反応してか、他の者たちも一斉に顔を上げる。 それから数分後。水月が持ち込んだ食料は綺麗さっぱり無くなっていた。 「いやぁ、助かったでござる……」 食べっぷりから察するに相当追い詰められていたのだろう。水月が食料を持ち込まなかったらどうなっていたのだろうか。柚乃はやや呆気に取られながら疑問を投げかける。 「しかし……相当長い間閉じ込められていたと思いますが、よく生き残れましたね……?」 「食えなくはないものがー、ありましたからー」 サムライの女性が刀の鞘で部屋の隅っこを指し示す。そこにあるのは、 「動物の死体……? こんなもの一体どこで?」 「そこでー」 次に指し示された巨大な箱の中を覗く。そこには氷漬けにされたケモノがあった。 「何年物かは知らないけど食えて助かったっす」 「……加工もできず中々地獄だったけどな」 資料を食うのも緊急時だから仕方ないと考えるべきか。氷漬けのケモノを前に伝助を腕組をしてうーんと考え込む。 「これ、持ち帰れたらすごい情報になりそうっすけど……大荷物になりやすね」 「私に練力が残ってればなんとかなったかもしれませんが……」 しょんぼりと落ち込む様子を見せる柚乃。プレスティディヒターノならば苦労無く持ち帰れたかもしれないが、ここに来るまでに練力を消費しすぎた。 せめて何とか情報を持ってかえれないかと頭を捻っていると、リィムナが任せろとばかりに手を挙げる。 「こういう時の為に写真機を持ってきてるんだ。撮影は私に任せて!」 リィムナが部屋にあるケモノや機材などを撮影している間、開拓者と傭兵はカンテラの灯りを頼りに地図と睨めっこして脱出経路を考えていた。 「あっ、この部屋それっぽい資料が結構あったヨォ」 傭兵の1人が地図にチェックを入れるのを見て、しかし開拓者達は渋い顔をする。 「思った以上に、ここに来るまでに消耗しちまったからな……」 「はい。帰りの戦闘のことを考えれば、寄り道する余裕は無いかと」 難しい顔で現状を確認するリューリャの呟きに、ジークリンデも冷静に同意する。戦闘をもう少し抑えることができれば余裕ができたのかもしれないが。 「なら持ち帰れるのは、この死んでる区画の情報だけですね……」 柚乃は棚の中にあったファイルを手に取る。無いよりはマシだが、口惜しい。どことなく沈んだ彼女の口調がそれを如実に物語っていた。 「……ですが、何か引っかかるんですよね。この遺跡」 例えば、透明な管の通路。そんなものがあると過去にどこかで聞いた気がする。その引っかかりはリューリャもリィムナも覚えていたが、正体は分からない。 ともあれ、情報になりそうな資料をかき集め、あとは帰還するだけだ。 「あ、奥は絶対ダメでござる。鳥の化け物がいるでござる」 「鳥の化け物……っすか?」 伝助の問いに、傭兵たちはみな一同に頷く。彼らの反応からして本当に触れてはいけないモノがいるのだろう。せめて伝助に出来るのはそのバケモノが動いたかを事後に判断できるよう縄を張ることぐらいか。 こうして、開拓者たちは傭兵を護り外を目指す。 再び大量に迫りくる蜘蛛人形を、ジークリンデがデリタ・バウ=ラングルで殲滅し。 「後は帰るだけ……出し惜しみはしませんよ」 なんとかという体で動く傭兵たちに迫る、黒のギロチン……加えて、赤と青の少女の猛追を水月が凌ぎ。 「絶対に、手出しはさせないの……!」 誰一人欠けることなく。 彼らは遺跡を脱出した。 ●戦将鳥 『ハルファスに命ず。覚醒せよ』 |