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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ● 朝廷三羽烏が一人、豊臣雪家は部下からある報告を受けていた。 「先日命じられました天儀周辺空域の調査報告をさせていただきます」 「ふむ」 「結論から申しますと、今まで何も無かった空域に新たな島が見つかりました」 ですが、と部下は前置きしてから言葉を続ける。 「その見つかった島なのですが……観測中に忽然と姿を消したそうです」 幻のように現れ、消えた島。 荒唐無稽といってもいい報告に、しかし雪家はまるで動じた様子を見せず、予想済みだと言わんばかりだ。 「消えた……か。時限で復活する結界か、もしくは岩戸から結界を張りなおすことができるのか……」 どちらにせよ、と雪家は心中で呟く。 ……やはり三成に働いてもらう必要があるようじゃのぅ。 その為にも、必要な要因は揃っているのかと雪家は部下に問う。 「舞照遺跡の方はどうなったかの」 「はっ。先日開拓者達の手により奪還し、現在は再びこちらの方で警備を続けております」 ならば、あとは三成が儀式を行うだけだ。 ……尤も、今のあやつが儀式を執り行うことができるとは思えぬがのぅ。 雪家は一家襲撃後の三成の様子を思い出し、溜息を吐く。あれから日は経ったが、三成が早々に立ち直れる心の持ち主だとは思っていない。 代わりとなる人物はいないわけでない。だが、その人物に動いてもらうのは事態をより大きく複雑にしかねない。そうなるのは避けるべきだと雪家は考えていた。 「ともあれ、先ずは三成と話をするべきかの」 今後をどうするかにしても、三成の意志が分からないことには考えようがない。 そう判断した雪家は腰を上げ、出かける仕度を始めるのであった。 ● 「おや」 一家に訪れた雪家は意外な人物と対面し、目を丸くする。 彼女を最初に出迎えたのは三成の従者であるからくりの瑠璃。暫く修理中だったが、先日復調したという報せを聞いていたのでこれは別に驚くことではない。 だが、その場に開拓者達が居たのは雪家の予想の外であった。 ――考えてみればそうおかしくはないことではあるのぅ。 三成の惨状を目の当たりにした開拓者ならばそれを見舞うことは至って自然なことであるし、舞照遺跡を調べた者なら雪家に会いたがるのもやはり自然な流れだ。 故に、雪家がこうして開拓者と向き合って座っていることも自然な―― 「――いや、何故こうなっておるのかの」 この状況に雪家は首を傾げる。 別段、自分が開拓者に話をする義務は無いし、三成と会うことを邪魔する謂れも無い。 なのに何故このような状況になっているのか。この場に案内してきた瑠璃に視線を送ることで、雪家は説明を請う。 視線の意味を察したのだろう。瑠璃は一旦頭を下げてから、理由を述べる。 「私は全てにおいて三成様を優先します。そして、今の三成様では豊臣様のお話に耐えるのは難しいと判断しましたので、こうさせていただきました」 「ほう……。私は三成の上役なのだがのぅ」 「失礼ですが、もう1度言わせていただきます。――私は全てにおいて三成様を優先します」 「ふむ」 並の貴族なら平伏せざるを得ない雪家の鋭い眼光を受けて、しかし瑠璃は変わらず無表情のまま。この様子を見る限り、彼女が意見を変えることはないだろう。 代わりにと、その場に居た開拓者の1人が口を開く。 その開拓者曰く、今、仲間達が三成と話をしている。それで三成が立ち直るまでの間暫く待ってくれないか……とのことであった。 「ふぅ……む」 その提案を聞いて、雪家は考え込む。 実際のところ雪家にとって三成の精神が安定することは非常に望ましい。その為なら少々待つことぐらいは十分許容範囲内だ。 尤も、開拓者達がこうして自分をこの場に押し留めているのはそれだけが理由ではないだろう。 「……まぁ、よいか。そなたらの言う通り、暫し待ってやらんこともない。――で、何が聞きたいのかの?」 雪家のその言葉に、開拓者達は話が早いと手を打つ仕草を見せる。 一連の事件に一体何が隠されているのか。開拓者達にとって、雪家と話せるこの状況は絶好の機会であった。 雪家としても、舞照遺跡を調べた開拓者が関心を向けてくるのは分かっており、さすがに全てを隠していられるとは思っていない故の判断だ。 ……くく、藤原のあたりは怒るかもしれんの。 こうして、開拓者と雪家の会談が始まる。 ● 同時刻。 同じ屋根の下、三成は1人考え込んでいた。 兄は死に、その身はアヤカシに堕とされた。 この状況において、自分は何ができるのだろう。何をすべきなのだろう。 いくら考えても答えは出ない。 ……あぁ、体が重い。 鈍る思考に釣られるように、身体の方も気だるさを覚える。 力の入らない身体に釣られて、思考が止まっていく。完全な悪循環だ。 ……私は、一体、何を――。 部屋の襖が、開かれる。 |
■参加者一覧
羅轟(ia1687)
25歳・男・サ
水月(ia2566)
10歳・女・吟
郁磨(ia9365)
24歳・男・魔
春原・歩(ib0850)
17歳・女・巫
ケロリーナ(ib2037)
15歳・女・巫
禾室(ib3232)
13歳・女・シ
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰
バロネーシュ・ロンコワ(ib6645)
41歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●雪家 豊臣雪家は開拓者達を見やった。 水月(ia2566)、禾室(ib3232)、バロネーシュ・ロンコワ(ib6645)といった三成を助け、遺跡制圧を成し遂げた開拓者達がいることは疑問に思うことではない。 だが、そうではない者1人に対し雪家は問いかける。 「そなたまでここに居るとはのう?」 「……お久しぶりです、豊臣様」 微笑で返すは郁磨(ia9365)だ。理由を問うと、小隊の隊長である羅轟(ia1687)から事件を聞き、三成の見舞いに駆けつけた……とのことらしい。 「それでですね。俺は直接此の件に関わってませんので、まずは経緯の確認をしても宜しいでしょうか?」 頷いた雪家は簡単に説明する。事件の詳細自体はその場に居合わせた開拓者達に説明を譲っていたが。 「――と、機密を知る正澄が喰われた事で厄介なことになっておるわけだ」 雪家の言葉に違和を覚えた郁磨が再び口を開く。 「……澄さんとは随分親しい様ですが、彼が朝廷の機密事項を知る程の地位に居たのは何故なんでしょう……?」 そう言われてみればと他の者達も顔を見合わせる。 「……正澄は元々朝廷の重臣での。私の懐刀と呼んでもよい男だった」 情報の閲覧権は雪家に近しいレベルという話もあり、正澄が如何に重用されていたかが伝わってくる。 「勿論あやつの能力を加味しての人事よ。……性格には多少難があったがの」 「……それだけ、じゃったのか?」 能力目的で採用したと言う雪家だが、それにしては言葉に親愛の情を感じると判断した禾室の問い。 対する雪家は苦笑を浮かべる。 「正澄とは……二十年来の付き合いだったからの。あやつは友として……まぁ、信頼できた」 「幼馴染、だったんですね」 水月の言葉に雪家は小さく頷く。 ……雪家様も大切な人を失った、ということなの。 だが雪家は感情に流されることなく動いている。その事実に、水月は改めて目の前の人物の強さを実感する。 ――でも、だからといってここで退いちゃ駄目。訊くべき事を訊かなくちゃ……。 話は本題に入る。 最初に切り出すは禾室だ。 「まず、舞照遺跡の役割とは何か。これがわからぬと正澄モドキの目的が見出せぬ。遺跡にあった文から岩戸を開くのが役割と推測出来るが……」 「うむ。まさしく岩戸を開ける為の舞台よ」 では、と次に問うは水月。 「舞照遺跡にあった「岩戸を開く鍵となる者」とは三成さん……一家の血筋、で間違いありませんか?」 「概ね間違いない」 「……解くべき封印を過去に施したのは、一家の方なんですか?」 鍵が一家ならば、封印を施したのも一家なのか。そう考えた郁磨の問いは、 「一という家系が施したというのであれば否だの。その祖となる者が行った可能性は否定できぬがな」 朝廷でも誰が封印をしたのか分からないぐらい昔のものということだ。もしくは封印を行った者自体は重要視されていないのか。 重要なのは、鍵が一家の『血筋』ということ。 ならば。 「澄さん……いえ、今の正澄なら封印を解く事も可能なのでは……?」 「あの祭壇は精霊力だけでなく、瘴気にも反応してましたの。それはアヤカシ正澄にも岩戸の封印を解く事が可能という事でしょうか?」 郁磨と水月の問い。それに対し、雪家は首を縦に振った。 実際のところ遺跡に瘴気の跡はあった。つまり、正澄は――既に封印を解いた。 そう判断した郁磨の再びの問い。 「奴が封印を解いているのなら、其の確認は……?」 「封印が解かれたことは確認しておる」 「なら、あのアヤカシは既に岩戸に辿り着いていると思うのですけど、雪家様はどう思われますか?」 「辿り着いておるだろうな」 封印が解かれたことにも、続けての水月の問いにも雪家は肯定で返す。 ――妙、なの。 この状況で朝廷がすべきは岩戸への兵の派遣だ。 だが雪家が取った行動は『鍵』である三成との接触。岩戸が開かれたのなら必要無い筈だ。 水月はこの疑問をそのまま雪家にぶつける。 「今は後を追いたくても追えない状況……再び封印が成されたといったところでしょうか?」 もしくは、と禾室が言葉を続ける。 「岩戸が容易に近付けない場所にあるとか、じゃろうか?」 果たして雪家の答えは。 「両方だの」 その答えに郁磨は思考を巡らす。 「――岩戸とは、人目に付かない浮遊した無人島でしょうか?」 郁磨の出した結論に、雪家は口元を隠し小さく笑う。 「くく。察しの通り、岩戸――岩戸島は浮遊島よ。天儀周辺を動き回る、な」 その上、 「結界により視認することもできぬ。故に封印を解かぬことには決して辿り着けぬ」 そこまでして封印しなければならないアヤカシが狙う『鏡』。 「……鏡とは、何なのじゃ?」 「ふむ。事の重大さを認識させるにはいい、か」 朝廷の重要機密は、意外にもあっさりと語られた。 「三種の神器が一つ――『八咫鏡』」 ●三成 三成の部屋に向かう開拓者を案内するは瑠璃だ。 復調した瑠璃の様子に、緋那岐(ib5664)は安堵しつつ声をかける。 「あぁ、瑠璃がいてくれてよかったな〜。これからもみっちゃんを頼むぜ」 「勿論です」 振り返ることなく淡々と返す瑠璃。これも以前と同じ。 ……いや。 現在の状況を作り出したのは瑠璃であり、その事実にからくりも成長していることを緋那岐は実感していた。 三成の部屋の、襖が開かれる。 「あ……」 そちらに視線を向ければ、見慣れた開拓者達の姿。 「こんにちは、三成様」 「皆さん……どうして……?」 笑顔で挨拶する春原・歩(ib0850)に挨拶を返すでもなく、何故ここに居るのかを問う三成。 「見舞い……といったところだ。……調子は……どうだ?」 羅轟の問いに、三成は無言で視線を逸らす。 そんな三成の様子を襖に隠れるように窺っていたケロリーナ(ib2037)が三成の傍にそっと近寄り、ぎゅっと手を取る。 三成の冷えた心を暖めるように。 さて、どう話を切り出したものかというこの状況。とりあえずは羅轟がこれまでの事態を報告する。 「……」 それを無言で聞く三成。そんな中動き出したのは緋那岐だ。 彼は三成の背後にまわると、三成の襟にそっと指をかけて何かを入れる。 「ひゃっ……!?」 突然の素肌に伝わる冷たい感触に声を上げる三成。そう、氷だ。 「いやー、ほんの差し入れ。みっちゃん、暑さにやられてバテてるんじゃないかと思って」 以前の三成なら顔を真っ赤にして怒りそうな悪戯。 だが、肝心の反応はというと、小さく溜息をついて静かに氷を服の中から取り出すだけだ。 「ありゃ」 「そういう……気分でもないので……」 「……正澄殿がいれば……もっと盛り上がったのだろうが……な」 羅轟の言葉に、三成は顔を上げて過去を思い出す。 確かに兄がこの場にいれば、もっとはしゃいでいただろう。 そんな三成の記憶を刺激するように、羅轟は言葉を続ける。 「そういえば……正澄殿と……瑠璃殿は……この屋敷で……出会ったのだな」 「……そう、ですね。今となっては瑠璃と会えたことは感謝……してますけど。あの時は……本当に困りました」 その言葉を皮切りに、三成はぽつぽつと語り始める。 兄がどんなに困った人物だったのかを。 兄がどんなに頼れる人物だったのかを。 だけども、 「兄さんは……もう居ません」 寂しそうに呟く三成。だが、ケロリーナが首を横に振る。 「ううん……正澄おじさまは、ここにいるですの」 「え……?」 「三成おねえさまは、三成おねえさまが関わったすべてのお人の想いが三成おねえさまを繋いでいるですの」 それは開拓者達も、瑠璃も、勿論正澄の想いも。 だから。 「人は独りではなくって、人は人の温もりと想いが繋がっていきてるですの」 ケロリーナは言葉を続ける。 「三成おねえさまは正澄おじさまやみんなの温もりと想いで生きているですの」 正澄がいなくなっても、正澄の想いは三成に生きている。 それが、遺志を継ぐ――ということ。 「けど……だけど……!」 例え兄の想いが生きていたとして。兄の遺志を受け継いだとして。 「私に、何ができるっていうんですか――!」 三成の叫びを。 「いいや、そうじゃない」 緋那岐が遮る。 「自分に何が出来るか……なんてばかり考えてたら、後ろ向きな思い込みで可能性を潰しちまう」 大事なのは『何ができるか』ではない。『自分がどうしたいか』だと。 そう、歩も促す。 「君は……どうしたいのかな?」 無理強いすることは、しない。 ――私達がどう言っても、どう望んでも、命をかけるのは三成様なんだから。 落ち込むのも、逃げ出したくなる気持ちも、歩には分かる。 ……とても辛くて悲しくて……閉じこもるのも当然、だよね。 だけど、三成は叫んだ。『何ができるか』と。 それは翻せば、『何かしたい』という意志の表れだ。 ――逃げ出したって仕方ないのに、まだ踏みとどまっているのなら……私はその気持ちを応援する。 だって、それは本当に凄いことだと思うから。 だから。 「言って。声に出して。君が、どうしたいのかを」 望みを外に出すことが、きっと力になるから。 「力なら私が、私達があげるよ。私は君の力になってあげたいから」 そう。1人で出来ることには限界がある。 力不足だと思うなら、周囲を頼ればいい。それは恥じる事じゃない。 緋那岐も言葉を続ける。 「みっちゃんは1人じゃねぇだろ?」 「迷った時や苦しい時は、けろりーなもみんなもいるですの」 だから、 「迷わず歩んでほしいですの。今は応えは見えなくても、歩いた先に答えはきっとみつかるですの」 自分達が力になるから進んでほしいというケロリーナの言葉。 それらを受けて、三成は―― 「私は……」 目を閉じて考える。 自分は、何がしたいのか。 「私は――兄さんを救い、兄さんの遺志を継ぎたい」 兄の体をアヤカシから解放し、兄が食われる直前に自殺してまでも護ろうとしたものを、護る。 「それが……私のしたいこと、です」 それは、羅轟の抱える想いと同じ。 彼は精神統一をすることで、普段と違った流暢な口調で話し始める。 「……三成殿。敵は正澄殿を殺しただけではなく、その身体と知識を今も利用している。俺は、友を殺め、友の慕う兄を奪った奴を絶対に許しはせん」 だからこそ、 「貴殿が望むなら俺は貴殿の刃となろう」 更に。 兄が護ろうとしたものを護る為に、三成だからこそできることがあるのだと、言葉を続ける。 遺跡の事、儀式の推測について、羅轟は説明をする。アヤカシの狙いが儀式の先にあることも。 故に、アヤカシを討つには三成が儀式を行う必要があり、雪家はそれが理由で訪れたのだろう……と。 「……三成殿、良ければ奴の目的を挫き、討つために力を貸してほしい。そのために俺は剣にも……盾にもなろう」 その言葉に、三成は。 「――いいえ」 首を横に振り、 「私が力を貸すのではなく。……一緒に成し遂げましょう」 これが、 「私のしたいこと、なのですから」 くぅー、と可愛らしい音が部屋に響く。 発生源は、三成の腹だ。 「あ、その、気合を入れましたら……!」 「……では、粥でも作ってこよう……」 「けろりーなも作るですの〜。瑠璃ちゃん、色々教えてほしいですの」 羅轟とケロリーナが腰を上げ、厨房に向かう。 顔を赤くして、どこか申し訳なさそうな三成に、歩が微笑みかけながら手を握る。 「ふふ、それじゃあまずはたくさん食べて元気にならないとね。そしたら……行こう。君の望む所へ」 「……はい」 まず向かうべきは雪家の居る応接間。 三成が立ち直ったのを見て、緋那岐は頭を抱えてがーっと唸る。 「……つか、偉そうな事は言えた立場じゃねぇ。俺は今、成績低下が深刻で……っ」 「成績に関しては……自分だけが頑張ること、ですよね」 この辛辣な返し。 ――いつものみっちゃんだ。 ●八咫鏡 三種の神器。 古の時代より受け継がれた剣、鏡、勾玉で構成されたそれらは朝廷が所持する筈のものだ。 むしろ朝廷は神器の所有を朝廷の正当性の一種だと喧伝している節がある。 だが、雪家の言葉が正しければ、朝廷の手元に三種の神器は存在しない。 衝撃の真実に開拓者達の間に動揺が走る。 そしてバロネーシュは内心で納得をしていた。 ――成る程、確かにこれは秘密にせざるを得ませんね。 ここまで秘匿するからには、多大な混乱を招きかねない秘密だと考えていた彼女だが、確かにその通りだ。 この事実は、天儀の主である朝廷の正当性に罅を入れるものであるからだ。 「朝廷の立場としては『環境』と『人』のどちらかを過去に選ばざる状況に陥り、なので結果として『環境』を選んだのがその選択肢を取った現況なのですかね?」 「うむ? 質問の意図がよく分からんの」 バロネーシュの質問には雪家は首を傾げる。 さて、問題なのは。『八咫鏡』にアヤカシが手を伸ばしていること。 「……『八咫鏡』がアヤカシに使われたら、どういった事態になるのか雪家様は知っておられますか?」 水月の危惧に、雪家が答える。 「神器は神器と呼ばれるだけあって強大な力を持つ。尤も、ここ数百年は3つ揃ったことがないゆえ、揃えた時に具体的に何が起こるかは分からんがの」 だが強大な力を持つ事は確かであり、 「アヤカシとの戦いを終わらせる鍵と成り得り――」 だからこそ失うことは決して許されず。 「もしアヤカシの手に渡った場合――天儀全土に大いなる災いが齎されるだろう」 具体的な答えではない。何が起こるか察してはいるが、話せないのか。 だが、それでも。 街1つ、国1つではなく、天儀全土が災厄に見舞われるというのだ。 バロネーシュは三珠島が落ちた事件を思い出す。 災厄とは、それが天儀全土に広がることではないか……と。 「生成姫討伐完了時に島崩落の報告が有りましたが、それが天儀全体に広がるとお考えですか?」 「さて、どうかのぅ」 どうとも言えない答え。雪家としては災厄の内容自体は何を言及されてもまともに答えないつもりだろう。 ここまで明かした雪家が敢えて伏せる。それは、更に大きな混乱を招く危機ということ――。 世界の危機を、仇敵の狙いも知り。 「わし等が岩戸島へ向かう許可を。奴を討つ機会を頂きたいのじゃ!」 禾室が、 「詮索や情報漏洩もしないと誓約いたします」 水月が、 「俺は以前、貴女に言いましたよね? 俺は友も世界も両方選ぶ、と。……此れ以上友達を辛い目に遭わせたくないんです。だから、遺跡や岩戸へは俺も……俺達も同行させてください」 郁磨が、頼み込む。 雪家の返事は、 「構わぬ。こちらとしても彼奴の討伐は急務なのでな。あぁ、鏡については公にしても良いぞ」 一部の開拓者に弱みを握られたままにしておくよりは、いっそ公開した方が良いという判断なのだろう。 「――しかし、それも三成の意志次第だがの」 雪家が応接間の襖に視線を送る。 部屋の襖が、開かれる。 |