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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ●カレヴィリア城 「ったくもう‥‥。牢屋は男女別じゃないし、こんなのまで付けられるし‥‥」 投獄されて恐らく1日は経ったはずだ。重たい手枷をじっと見つめる女性開拓者は『気分悪いわね』とぼやいている。 「ユーリィさんは、これでも少し加減してくださったかもしれませんよ。だいたいこういうものも男女別になるはずですから」 ずっと座ったままの響介は、他の牢屋を見つめて呟いた。しかも、術だって封じられてはいない。 むろんここで使えば囚人たちにも騒がれてしまうから、それを見越しての事もあるのだろうが…… (多少は、僕らを信じてくださっているとみていいのでしょうかね……) そう思っていると、女性開拓者が「誰か来るよ」と言った。 「あらまぁ、一緒くたに詰められてるん? 一人一人にご挨拶もできへんなぁ‥‥」 小麦色の肌にぴんと立った猫耳‥‥神威族か。開拓者たちに向かってニコニコと微笑んでいるが、響介には友好的に思えなかった。 「どのようなご用件ですか?」 「たいしたモンじゃあらへんのよ‥‥ね、礼拝堂を荒らしたん、自分らよな?」 鈴の音のような声と、微妙なイントネーションで尋ねてくる女性。 「‥‥もう一組、取り調べを受けた人たちもいましたでしょう」 「ああ、おったけど、あれはええのよ。一応一緒に働いてるお城の人やよ? 役目もこなせへんかったから、キッツイ叱りもらわんとならんようやけど‥‥」 その言葉に、響介はじろりと女を睨む。あら怖いわぁ、など大仰に驚かれたが、どうせ本心からではないだろう。 「‥‥成程。一人ではないと思っていましたが、同等に動ける人がいたのですか‥‥! 依伯はどうしたのです?」 「――ご無沙汰やったから、ご挨拶に行く言うてたよ‥‥。それに坊ちゃんがた、当分出れへんし。この機会に【土】は言わずもがな【金】も【水】だって頂くよって。邪魔せんといてね?」 女も目を細め、凄惨な笑みを見せるとその場を離れて行く。 「‥‥みんな、大丈夫なのかな‥‥」 女性開拓者が心配そうに漏らすと、響介は信じるほかありません、と言いながら【土】は何処を狙ったのか、依伯はどうしているのか。 それを考えると――怒りに拳が震えた。 「‥‥」 近くでそれを見ていた開拓者も、かける言葉を無くし、目を伏せる。 そして、牢獄に再び近づく人物が現れた――‥‥ ●ティーラの家 「だいぶ傷も癒えましたわね」 あれから彼らは苦心して城から逃げ出し、ティーラの家で疲れと傷を癒していたのだが、 響介から渡された手紙を見た開拓者がこれからの行動をどうするかと聞いた。 「依伯を捕らえたとしても、彼らの弟子がいる。何らかの組織形態なら依伯の上司に当たる者がいるかもしれない。 我々にできることは‥‥【土】の見回りと【金】の目星をつけること‥‥そして、仲間を救出するための作戦を考えること、でしょう」 しかし、ティーラは『土はもう手遅れですわ』と悲しそうに呟いた。 どういうことかと視線を向けられると、ティーラはあの子が教えてくれましてよ、と言って――窓辺にいるカラスを指した。 そのクチバシには、血のついた千切れた符が咥えられている。 思わず息を呑む開拓者だったが、悲しみではなくじわじわと怒気が広がっていく。 「奴め‥‥!」 だが、邪魔が入らないのなら――やりやすい方を好むのは仕方あるまい。 「どうしますの? 金の目星をつけるか、仲間の救出作戦。わたくしは――」 そこまで言った途端、突然家のドアが叩かれた。 音に反応した開拓者とティーラは、ドアの方を振り返って睨むように見つめる。 『駆竜騎士団長、ユーリィ・キリエノワです。お話があります』 思わぬ人物の来訪に、ティーラも一瞬緊張を解いたようだが――罠かもしれない。 皆にそこへ残るように言いながら、ティーラは居間に繋がる扉を閉め、玄関を開いた。 だが、ユーリィは単身ここに来たようだ。どうやってここが、と尋ねると、ユーリィは『聞いた方も貴女の特徴を言うだけでわかってくださいましたよ』と返した。 ユーリィを渋々家に上げ、取り囲んでから何が目的かと聞いてみる。 「――お仲間の救出に、一役買っても良いと申し出に来たのです。あなた方とて心配でしょう」 それはそうだが、と男性開拓者が言えば、ユーリィは頷いて大まかな作戦を切り出した。 まず、陰陽師が大龍符や火輪でも何でも良いので、城の近くで一気に解放する。 それを見張りが見つけ、アヤカシだと騒ぐ。一般兵が見れば、陰陽師の術もアヤカシの姿も見分けがつかない。 だいたいユーリィのところに報告が来るので、数はできるだけ多く見せてほしい。しかし、使い終わった符は即座に回収すること。 数が多いように見せられれば、増援がほしいと進言し、一時的な措置として認められれば開拓者である響介らをユーリィの監視下に置くことを条件として引っ張りだすことができるはずだ――と説明する。 「ただ、難しいのが‥‥数と措置の取り方。御神本君たちが大人しくしていればいいのですが、なにか暴れたりトラブルを抱えていれば許可が下りにくくなります」 響介達の行動によるところも大きいようだ。 「つまり、わたくしたちが人為的にアヤカシを作って‥‥誘導させればいいんですわね?」 「ええ。そのまま森の奥へ行ってください。人目につくとよくありませんから」 近衛団長さえ言いくるめることが出来れば、開拓者たちは監視という制約がつくが、牢屋からは解放される。 そこはユーリィに任せる他ないのだが、開拓者達は顔を見合わせて頷き合う。 「では、大まかな概要はわかりましたわ。細かいところはこちらで詰めさせて頂きます」 「ええ。ではそのようにお願いします。私はこれにて失礼致しますね」 背を向けたところで、ティーラは『どうして貴方自らこのような提案を?』と投げかけると、実際に城で破壊行為はあったにしろ、死亡者は誰一人なかったので礼をしたいということと―― ユーリィは困ったような顔をして『私もあなた方を信じたいからですよ』と言って、竜に跨がると帰還していった。 「‥‥ふん。だったら解放して連れてきやがれってんですわ」 ティーラは悪態をつくと、開拓者たちに向き直る。 「一応聞きますけれど‥‥やらないという選択はあるのかしら?」 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
小伝良 虎太郎(ia0375)
18歳・男・泰
氷海 威(ia1004)
23歳・男・陰
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
海月弥生(ia5351)
27歳・女・弓
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰
雪刃(ib5814)
20歳・女・サ
朧車 輪(ib7875)
13歳・女・砂
炎海(ib8284)
45歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●夜:カレヴィリア城外 今宵は半舷、鼠色の空には月光を隠すように広がる叢雲。時折地上は暗くなる。 ちょうど、作戦を実行するのには良い状態だった。 「‥‥そろそろ、実行するとしようか」 森の入口、木陰に潜み望遠鏡で覗いていた羅喉丸(ia0347)がそう口にして後方を振り返る。 緊張した面持ちで氷海 威(ia1004)が頷いた。 「決行するにあたって夜まで待ったが‥‥いよいよか。ユーリィ殿の御好意を無駄にせぬよう、きっちりと事を運ばねば」 「ユーリィ‥‥彼の事は良く存じませんけれど‥‥これが罠だったら笑えませんわね」 ティーラが呟くと、そんなはずはないと小伝良 虎太郎(ia0375)と炎海(ib8284)がその考えを否定する。 「あの人も、皆を助けたいって思ってるから持ちかけてくれたんだよ!」 「そうとも。人が誰かを助けたいと思う当然の気持ちを信じないでどうするというのかね?」 信じるにしても、少しは疑いを持ちなさいな――と言って、ティーラは外套を被る。 城壁の見張は2人。多すぎず、少なすぎず‥‥これも適度だ。 「では‥‥行こう!」 城壁の端を狙い、羅喉丸は空破掌を打ち込んだ。 どん、という音と共に衝撃で外壁の一部から小さな破片が跳ぶ。 「‥‥ん?」 見張り台に立っていた兵士は、身を乗り出して音がした外壁を確かめ‥‥森のほうに何の気なしに目を向けた。 「あっ、兵士がこっち向いたよ!」 黒い布をすっぽり被っている虎太郎と、白い部分を黒く塗りつぶされた呪術人形『もーすけ』を掲げる威。 カエルのぬいぐるみがあればちょうどよかったのに――とは誰も思わなかったようだが、 ともかく2人の大龍符と天呼鳳凰拳を組み合わせた技に加え、炎海の火輪も併用して打ち出す。 兵士からすれば、突如森に出現した首が3つもある黒い竜‥‥アヤカシが、周囲に轟くような叫びをあげながら炎を吐いた――ように見えた。 「‥‥ア‥‥アヤカシだー! アヤカシが出たぞ! 早く駆竜騎士団にお知らせしろ!」 注意を促す鐘を鳴らし、もう一人がユーリィに知らせるため駆け出していく。 「よしっ、行ったみたいだね!」 天呼鳳凰拳の着地後、すぐに瞬脚で戻ってきた虎太郎は木の影に身を潜め、そこから城の様子を伺いながら口元に笑みを浮かべた。 羅喉丸と炎海は素早く符を回収し、姿を顰める。 「‥‥アヤカシが多くいると見せておこう。上手く引っかかってくれるといいが‥‥」 威が夜光虫も漂わせ、ティーラは樹の枝を揺すってアヤカシが移動しているように見せている。 やがて鐘を叩いていた兵士も、違う方向へとかけ出していく。 「‥‥後は、運を天に任すのみ、か‥‥」 こちらでは言われたとおりに行動した。あとは――彼らの行動だけ。 羅喉丸は拾い上げた使用済みの符を握りこみ、仲間とともに森の中へと移動する。 ●牢獄にて 「姉ちゃんたち、別嬪さんだなぁ。ヒヒ、女のいい匂いがプンプン匂ってくるぜ」 向かいの囚人から下卑た笑いと言葉が投げかけられ、雪刃(ib5814)の耳がぴくんと動いたが、敢えて無視を決め込むことにした。 「その『いい匂い』はあたしたちじゃないんじゃないかしら。どうせ、さっきの女でしょ」 綺麗に着飾ってたしね、と呆れ顔の海月弥生(ia5351)が呟いた。 潜入するのに、香水などふりかける馬鹿な開拓者はいないからだ。 「さっき、私たちの所に来た獣人‥‥いったい誰なのかな‥‥」 朧車 輪(ib7875)が、誰ともなしに呟くが、それに対する答えを出せるものはない。 「誰だか知らないけど、わざわざ宣戦布告なんてしに来てくれるとはね。 あの猫女、中々いい性格してるじゃない!」 腹に据えかねたらしいリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)は、先ほどの神威人の事を思い出して不機嫌そうな顔をする。 「勝ち誇るつもりか知らないけど、顔を出した以上は覚えたし‥‥こっちも負けるつもりはないんだよね」 あまり表だって出さない雪刃も、その顔に不快感を示している。 この牢獄と他の囚人共が、女性たちに下品な言葉でちょっかいを出してくるという不愉快な環境のせいかもしれないが‥‥。 『猫女』の挑戦的な言葉も、かなり不評なようだ。 (獣人の彼女‥‥どうも引っかかる気がするのよね) 弥生は考えつつ壁にもたれかかろうとしたが、苔むしていて清潔でなさそうなので傾けていた姿勢を正す。 ブツブツと文句を言っていると、見張りの兵たちが何か話し始めている。そこで、超越聴覚で音を拾ってみると―― 『相変わらずノエル様は美女だなぁ』 『イイ身体つきなのに露出も割と高いしな! 眼福だよ。囚人も騒いでたから煩いけどな』 『そういや、税が数パーセント上がる噂。あれ、ホントになるかもしれないってよ』 『えぇ?』 そんな話が聞こえてくる。 「牢屋の番人さんとかに聞いたら、いろいろ話してくれないかな」 鉄格子に頭をぴったり押し付けて聞き耳をたてている輪が呟くと、リーゼロッテはフッと口角を吊り上げた。 薔薇色の唇はいたずらに微笑んだようにも見える。 ――分からなければ、調べる時間はたっぷりとあるみたいね。 リーゼロッテは急に、しなを作って牢の近くで見張っている兵士たちを見つめた。 「ねぇ‥‥兵士さん? お仕事お疲れ様‥‥。毎日大変なお仕事よね‥‥街の平和を守ってくださってありがとう」 イシュタルの効果も上乗せし、甘い声と上目遣いで兵士に呼びかける。 色仕掛けなどに乗るかと口では言いつつ、チラチラとリーゼロッテを見やる目は滞在時間が長くなっている。 「‥‥ま、まあな。カレヴィリアを守るのは当然だし!」 おだてられたり微笑まれ、いい気分になったのだろう。兵士の一人は胸を張った。 ――かかった。 「うーん。やっぱり異性の力は凄いなぁ‥‥」 九法 慧介(ia2194)は哀れな兵士に同情しつつも、聞こえないように呟いて様子を伺う。 退屈でもあったらしい兵士は、慧介の折り目正しい態度やリーゼロッテの艶めかしい様子に気を良くして、 いろいろと勝手に話し始めて‥‥結果的に有益な情報を提供してくれた。 依伯は既に解放されていて、涼しい顔で『開拓者は怖いですねぇ』とのたまっていることや、領主の側には先ほどの猫のような獣人がつき従っているという。 かれこれ半年以上前に補佐へ就任したというのだが、兵士たちの間ではその容姿から人気もあるようだ。 手腕のほどはといえば、そこそこ良くやっているらしい。 尚も慧介が向かいの囚人にも尋ねてみたが、どうやら彼女がここに来たのは初めてらしく、有益な情報は出なかった。 「でも‥‥領主の補佐? それって――」 よりによってまずい位置にいるんだね、と雪刃は渋い顔をした。 彼女が一つ領主に口添えすれば、彼らを捕まえることはたやすくなるのではないか? 中でも、最近行方不明者リストに載っているような者が執務室に入っていくのを見かけた、という言葉には、響介も反応を示した。 「それは、確かなのですか?」 「遠くからだけど、リストに載ってる知り合いに似てたんだよ。確証はない」 そう訊くと、再び響介は黙って目を閉じ、何かを考え込んでしまった。 「‥‥依伯も仲間が居るようだし、あの女の人が何かを仲介しているかもしれないね」 じゃり、と手枷の鎖を鳴らして、慧介は眉を寄せた。 「阻めないのは、少し悔しいね‥‥」 漏らす言葉が辛そうで、雪刃も唇を噛んで頷く。 そこで、雷鳴が轟くような大きな音が鳴って、敵襲を知らせる鐘が鳴り響いた。 「‥‥?」 輪が窓の下に来るが、位置が高くて背伸びをしても届かない。 城外を飛び交う声が窓から入ってくるのをリーゼロッテは捉え、アヤカシが出たらしいわよと告げた。 「‥‥こんな時に、アヤカシ‥‥」 何とかしてあげたいのだが、こうなっている今、何も行動はできない。 この中では一番高い慧介が立ち上がって外を覗きこんでみると―― (ん? アヤカシ‥‥じゃ、なさそうだけど‥‥) 「‥‥妙に整ったアヤカシねぇ」 「うん‥‥あれは私も見かけた事がある‥‥ような‥‥?」 背伸びをして、慧介の両脇から弥生と雪刃がヒソヒソ相談する。 すると、上の階からまた誰かがやって来たようだ。 「身元引受証と開拓者ギルドの書状を持ってきた。そこの開拓者たちを引き渡してもらう」 有無を言わさない口調で何者かがそう命令すると、牢番が揃って敬礼する。 すぐに牢屋が開かれ、手枷や足枷も外されると――そこに立っていたのはユーリィ。 「君等の装備です。すぐに支度し、アヤカシと対峙して貰います。何しろ数が多いようなので」 「分かったわ」 弥生がそう頷いて各々装備を携えると、注意を促すまでもなく数分で素早く着けていく。 「私が指揮を執ります。くれぐれも――勝手な行動は謹んでください」 命令です、と言い切ってマントを翻すと、着いてきて下さいと合図をした。 ●再会 「――皆さんが大人しくして下さったので助かります」 ジルベリア城を駆け抜け、暫く走った頃に――ようやくユーリィは口を開き、再び龍が森から姿を見せ、すぐに引っ込む。 「‥‥あれは‥‥大龍符じゃない?」 「ええ。そうだと思います」 リーゼロッテと響介の陰陽師2人が顔を見合わせ、ユーリィの背を見つめる。 「‥‥タイミングよく現れたから怪しい気がしたけど、何か――」 あるの? と言おうとした雪刃へ、シッと人差し指を口に当てた響介。 「‥‥誰か来ては困ります」 「今のところ、来そうな気配はまだないわね」 時折後方を振り返って進む弥生は、安全を確認した後皆に言う。 カレヴィリアの城を出て西、森の方へと近づいていった弥生は、微かに残るアヤカシの気配に矢を慎重に番えた。 「ここですか? なんだか、思ったより邪悪な気配がないけど‥‥」 慧介が周囲を見ていると、ユーリィが『約束は果たしましたよ』と森の奥へ声をかけた。 そこから出てきたのは――アヤカシではなかった。 「すまないね。出現したアヤカシとは、私たちの事だ。‥‥慌てさせてしまったかい?」 柔和な表情で、リーゼロッテと慧介を見つめる炎海。 「思ったより元気そうですわね。憔悴していたらおぶって帰らなくてはいけないところでしたわ!」 暗闇から現れた、久しぶりに見る仲間たち。 それはとても頼もしくて、城から出てきた彼らに安心感を与えるには十分だった。 「きゃーっ、御機嫌ようティーラ! 愛してるわー♪」 両手を広げて、ティーラに駆け寄ると抱き着くリーゼロッテ。イシュタルまで使っている。 「‥‥リーゼ!? あ、あなた何か変な術使いましたわね!? わたくし、妙にドキドキするんですけどっ」 「うふふ、しーらなーい♪ もう疲れちゃった。肩も凝ったし歩けない〜」 じゃれあう二人をよそに、助かりましたと響介は威らに頭を下げた。 「御神本殿もご無事で何よりです」 「皆さんの協力があってこそです。信じてくださり‥‥ありがとうございます」 「困ったときはお互い様だよ。尤も我々は‥‥ユーリィ殿が提案した事に乗っかったまでだがね」 そうして優しい瞳をユーリィへと向ける炎海。 「炎海さんっ‥‥!」 姿を見つけ、たたっと走りだした輪は炎海の胴に抱きつく‥‥のだが、身長体格差によりしがみ付いているようにも見える。 「やっぱり‥‥ちゃんと来てくれた。待ってたよ。信じてたんだよ」 「私は人間を助けるためだと何度も言っているのだがね。これはお前のためにした事ではないと言っているだろう。 ‥‥嬉しそうな顔をするな、腹が立つ。いいから離れたまえ‥‥離れろと言っているだろうっ‥‥!」 先ほどの温厚な表情や態度はなりを潜め、語気を荒げつつ輪を引き離しにかかる炎海だが、輪も慣れているのかよほど嬉しかったのか離れようとしない。 「まぁまぁ、いいじゃない。よっぽど怖かったんじゃないかな? 子供好きって、好感が持たれますよ」 慧介がニコニコと微笑んで口添えしたのだが、炎海はまだ納得できないというように心底嫌そうな目をして、輪を見ていた。 「でも本当に良かった、みんなが無事で‥‥!」 鼻の下をこすりながら、安堵に金の瞳を細める虎太郎。 「誰かと思えば、小伝良さん。あなたも巻き込まれてしまったのですか?」 「響介さん留守だったから、話はティーラさん家で聞いたんだ。 それに、そんな酷い事が起きてるなんて許せないし、放っておけないよ!」 おいらだって開拓者だし、と握った拳を反対の掌に力強く打ち付けた。ばしっと重い音が響く。 力を貸したいと申し出た彼の眼には強い決意が見えたし、響介もそれは実にありがたい事だった。 そうして、簡単に響介は救出に携わった羅喉丸らに分かったことを説明する。 「‥‥その、ノエル、という神威人が領主の側近で依伯らの仲間か‥‥ 己の姿を晒した上での鷹揚な物言い‥‥雄弁は銀、沈黙は金というのに」 羅喉丸の言葉に、一同は頷いた。 「話の腰を折りますが‥‥近衛兵長にはわたしから話をつけました。 かなり渋っていましたが、あなた方の素行もよく‥‥今までの良い働きもギルドで残っていましたから、 うまく説き伏せることが出来ましたよ。しかし申し訳ないことに、自由にはさせられません。 あなた方の行動は、監視という名目でできうる限りわたしが共に動きます」 ご了承くださいとユーリィは言い、彼らも動きは取りづらいだろうが仕方ないと渋々承諾してくれた。 「次の【金】への対策も必要ですし、移動して話しませんこと?」 「あ。昔、父ちゃんから大雑把には聞いた気がするけど‥‥【金】っていうのは確か鉱物を指すんだっけ?」 うちの父ちゃんは泰国人なんだ、と言うと、響介は軽く頷いた。 「その通り【金】は鉱物を指します」 「――【金】はじわじわ腐食して【水】に還っていく――それが相生の流れだな」 威が響介の言葉を引き継ぎ、次も止めなければいけないんだな、と口にした。 「うーん、まだ彼らとの戦いは続きそうだよねぇ」 慧介が周囲を気にするように視線を投げながら呟く。 「そーねー。いい加減、仕返しもしてやりたいところだわね‥‥!」 そう言って、城を振り返る弥生。つられて、数人がその方向を見た。 (‥‥静かになったな。見張りは‥‥いない?) 城からは増援が来る気配もない。そこをユーリィは訝しむ。 もしかすると‥‥ノエルがどこからか視ているかもしれない。 「早く、戻りましょう。ここに長く留まると危険だ」 ユーリィが促し、落ちている符がないのを確認してから、皆に声を掛ける。 また、すぐに奴らとの戦いが始まるだろう。 そして、ノエルという領主補佐の脅威を感じながら彼らは見つからぬよう、森の中を移動していった。 |