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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ● 城に行かなくてはいけない――そう伝えた響介だったが、場所だけに、怪しまれずに入る方法はない。 きちんと見張りも立っているし、迂闊に潜入しようものなら宮廷魔術師の感知に引っかかり、問答無用で捕まるだろう。 「大丈夫‥‥とは言い切れませんが。 先ほどユーリィさんにお願いして、入城許可を人数分頂きました。ただ、これで問題が起きると彼にも迷惑がかかります」 「御神本さん。問題を起こすなと言っても、目的があるのですから無理じゃありませんこと?」 ティーラの指摘に、響介は『そうならないことを願いますけど、回避できないでしょう』と眉を顰めた。 「依伯‥‥か。先回りできればいいが、いつ来るかも分からなければ待ち伏せも長くはできないだろう?」 男性開拓者の指摘に、心配には及びませんと響介は答える。 「龍脈も、陰陽も、力というのは弱まったり高まったりするのです。それは季節・月齢・時間によっても同じ。 恐らく、依伯らも行動を急いでいるはず。遅くとも明日までには行うでしょう。そして、夜10時を過ぎると兵の数も減ります。 打ち捨てられているような礼拝堂ですから、見回りも手薄です」 響介の後を、ティーラが引き継いだ。 「龍脈は春に芽吹く木々へ気を分け与える為、今が一番蓄えられていますの」 「つまり、深夜から真夜中にかけて行われるという事‥‥なんですね」 開拓者の確認に、そういうことですと頷いた。 「ただ、向こうもこちらの行動を警戒しているのは同じです。城に入る前に狙われることも考慮しなくてはいけません。 まだ時間もだいぶありますから、準備に費やしたり、交代で仮眠をとっておくことを勧めます」 そうして、響介は城を睨むように見つめた。 (止めることは難しいでしょうね‥‥) 依伯と戦闘を開始した時点で‥‥いや、見つかった時点でこちらはとても不利な運びだ。 狙いは間違っていないはずだが、まだ胸中の嫌な予感は消えず、さらに大きくなっていた。 ●幕間 依伯は、夢と現をさまよっていたような浅い眠りから覚め、まぶたを開いて傾いていた上半身をまっすぐに戻す。 椅子に腰掛けたまま、暫し眠ってしまったようだった。部屋は瘴気で昏く、淀んだ空気の中で深く息を吸う。 「‥‥お師匠様」 濃密な瘴気が立ち込めているので、視界が芳しくない。 躓かないようにゆっくりとした足取りで、依伯と行動を共にしていた青年が茶を運んでくる。 「ありがとう。丁度喉が渇いたところです」 程よい温度の茶を一気に飲み干し、一息ついた依伯は早速状況を尋ねた。 街中で、以前響介と行動を共にしていた開拓者たちを見つけたらしい。途中で数人巻かれてしまったようだが、 先生のことを聞き込みしていたし、ほぼ間違いないだろうと答えた。 「黒の術師に忠告をしたにも関わらず、邪魔をするつもりですか‥‥」 忌々しい鴉だ、と吐き捨てて、依伯は椅子から立ち上がる。 「そろそろ準備しなくてはいけませんね‥‥あの御方のため、今度こそ失敗は許されない‥‥札は持っていますね?」 依伯の言葉に、弟子は暗い顔をして数枚の札を取り出した。それを満足そうな顔で見つめ、頷きを返す。 「よろしい‥‥」 弟子は再びそれを大事にしまうと、依伯の後について出ていった。 ●カレヴィリア城 内密の件で詳しくは話せない、許可証もあるので押し通ると言って、響介は開拓者たちを引き連れて城に入っていく。 夜だったし彼以外は多少顔を隠すようにしていたので、名前は知られたが――正確な人相は分かっていないだろう。 「大丈夫、なのかな‥‥」 不安そうに女性開拓者が口を開いたが、響介は『なんとかするしかないのです』と眉を寄せる。 そして皆に被せていたフードつき外套を脱がせると、なるべく人目につかぬように礼拝堂へと急ぐ。 重厚な扉を開くと、カビ臭い匂いが鼻に届く。暗いかと思われた室内は、ガラスの器に入っているキャンドルが幾つも揺らめいていて、明るかった。 「礼拝堂‥‥誰かがまだ使ってるのかしらね」 開拓者が周囲を警戒しつつ、ロウソクが用意されていることに疑問を抱いたようだ。 だが、響介は凶悪なまでにその顔を歪めた。 「‥‥僕らが見た時には、用意されていなかったんですよ‥‥何もね!」 そこで、一同の中に緊張が走り――‥‥ムスタシュィルで気配を感知したティーラが大声で叫んだ! 「――御神本さん!! 上ですわっ!!」 咄嗟にその場から後方に飛び退る響介。動作から一秒かからぬ後には、依伯が降ってきた。 振り下ろされた刀は、響介の羽織の一部を切り裂く。怪我は無いようだったが、もう少し遅ければ殺されていたかもしれない。 「‥‥助かりました。ありがとうございます」 「御神本さん。お礼をいうのは‥‥まだ早いですよ‥‥!」 きゅっと唇を結んで、ゆっくり立ち上がる依伯を見つめる開拓者達。 「――ようこそ。黒の術師と、開拓者達。邪魔をしなければ命だけは助けて差し上げたのに‥‥無益な血をここで流させるのは残念です」 どうせなら、他のところで使えるように捕らえましょうかね、と剣を構えた。もはや、話し合いは通じないということだろう。 依伯の背後、聖壇の影から先日の弟子が姿を見せる。彼もまた、待ち伏せしていたのだろう。 「お出迎えは丁寧だな。涙が出そうだ」 男性開拓者が二人を睨みつけ、戦闘態勢に入る。 礼拝堂は質素な作りで、全長50メートル、横は20メートルほどだろう。広く見えるがそう広くはない。 何故なら、礼拝堂の中ほどから前方にかけては木製の長椅子が幾つも置かれている。 これを障害として使うのも可能そうだが、志体持ち同士の戦いともなれば、紙同然の耐久力にしかならないだろう。 逆に追い込まれて、椅子に足を取られてしまえば形勢は一気に悪くもなる。 「‥‥御神本さん、ヌリカベはありまして?」 「無論です」 じゃあ、危なくなったらそれで隠れてなさいな、とティーラは言って、皆に目くばせをする。 「言われなくてもわかっているでしょうけれど、油断は禁物ですわよ」 そうして、近づいてくる依伯を注視した―― |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
氷海 威(ia1004)
23歳・男・陰
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
海月弥生(ia5351)
27歳・女・弓
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰
雪刃(ib5814)
20歳・女・サ
朧車 輪(ib7875)
13歳・女・砂
炎海(ib8284)
45歳・男・陰 |
■リプレイ本文 「待ち伏せされていたとは‥‥!」 氷海 威(ia1004)は悔いるような口調で漏らすが、その表情は反対に戦う意志を宿していた。 「先手を打とうと乗り込んだつもりなんだけどね‥‥」 でも、手数じゃ負けないわよ、と海月弥生(ia5351)が鏡弦で索敵を行うが、特にアヤカシがいる様子はない。 やるしかないんだね、と言いながら朧車 輪(ib7875)は戦陣を使用し、炎海(ib8284)に縋るような眼を向けた。 「弟子の人‥‥なんとか、してみるね‥‥」 「‥‥」 話しかけられて不機嫌そうな顔のまま、炎海が依伯たちの方を見ていると、輪より袖をクイクイと引っ張られる。 それを払いながら、今回だけだと炎海は低い声で呟いた。 依伯たちを警戒しながら各自それなりに間合いを調整させていると――敵の弟子は符を一枚取り出し、詠唱をし始める。 「――すまないが、その詠唱を続けさせるわけにはゆかぬ!」 炎海は符を指先に挟むと、弟子へ向かって素早く突き出す。符より毒蟲が現れて、目標に向かっていく。 しかしそれは素早く避けられ、弟子は瘴気の霧を室内に溢れさせる。 瞬時にリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)が早駆で弟子へ肉薄したが、依伯が真空波を放ってきたためやむなく横に跳んだ。 「くッ‥‥!」 そして『念』を発動していた菊池 志郎(ia5584)は眉をひそめ、額の中心で『気』が揺れるような意識を味わいながら、それでも位置の特定をと神経を集中させている。 「絶対、発動なんかさせない!!」 犠牲、ましてや彼らの所思など成し遂げさせてなるものか。雪刃(ib5814)は咆哮で彼らの意識を自分へと向ける。 依伯はゆっくりと雪刃へ向き直り、その正面から羅喉丸(ia0347)が一足の許飛び出してきた。 飛んだ瞬間にフロストマインが発動し、氷晶が大気に浮かんで散る。 依伯を見据える羅喉丸と、金髪の志士の視線が絡み合う。先に動いたのは依伯のほうだった。 「――貴方にも、死んで頂きましょう」 正眼の構えからゆっくり逆手に刀を構え、向かってくる羅喉丸を斬り払おうとしたが、既に九法 慧介(ia2194)が間合いを詰めていた。 「これ以上の失敗は怒られちゃったりするのかな?」 「ええ。怖い人に怯えて暮らしているんですよ」 互いは穏やかな口調で言葉を交わしていても、その太刀筋は鋭い。 慧介の円月を受け止めた後に五月雨で切りつける。 羅喉丸の喉元を狙う打撃には、軸をずらして鎧で防ぐが、鎖骨付近に強い衝撃を食らった依伯は咳込みつつ数歩よろめき、長椅子の上に着地した羅喉丸と、近づきつつ剣気を放ってくる雪刃へ意識を向けた。 腕を狙う雪刃を避け、何が何でも組み付こうと手を伸ばす羅喉丸に、依伯は煩わしいと吐き捨てて攫もうとする手を払って防いでいたが、払った腕を取られて逆にねじりあげられる。 「ッ……!」 捕った、と手応えを感じる羅喉丸とは反対に、このままでは不利と悟った依伯は、その場で跳躍しつつ羅喉丸の腕を下から強く蹴り上げ、空中で体勢を変えるとなんとか腕から脱出した。 「剣が握れなくなっては困ります」 「安心したらいい。ここで決着もつけてやるつもりだ」 その間、弟子の元へ向かった輪の援護を後方から弥生が矢を連射することで行い、炎海は呪縛符で行動を阻害しようと試みる。 「――お弟子さんから、随分強い瘴気を感じます!」 志郎もようやく霧に惑わされず、瘴気の立ち昇る範囲を突き止めた。 「‥‥そうと分かれば、分断を図る必要がありますね」 響介は符を2枚取り出してそれぞれ別の指に挟むと、結界呪符「白」を依伯と弟子の間に2枚横並びで出現させた。 「あなたの相手はこっち!」 弥生が瞬速の矢で依伯の足元を狙うが、素早い身のこなしで回避したと思うと、依伯は杖を手にして既に詠唱を始めていた。 左右から慧介と雪刃が、正面から羅喉丸、彼らの後方からはティーラが術を詠唱し、弥生も再び矢を放った。 そして後方には壁――。逃げ場もなく集中的に狙われているはずなのだが、依伯が詠唱を終えた瞬間。 真空の刃を持った竜巻が吹き荒れて彼らを薙ぎ払い、結界壁をも打ち崩す。 飛ばされた身体は障害物や壁に激突して多大な苦痛を与えたが、依伯も無事ではない。左腕の籠手から血が一筋流れて床に滴っていた。 「――!」 倒れ伏す仲間たちの姿に、威が息を呑む。だが、キッと弟子を睨むと隷役と幻影符を使用する。 弟子が札を持っているのなら、ダメージの大きい仲間たちに近づけてはならない。時間を稼ぎつつ、相手の隙を作る必要がある。 「すぐに傷を塞ぎます!」 大きな怪我を負うわけにはいかない。血ですら彼らには欲するものだから。 志郎が閃癒で傷ついた仲間を癒し、彼らも痛む身体の悲鳴を無視して起き上がる。 「‥‥術師然としていなくても、効くモノは効くわよね‥‥!」 脈動する痛みに顔をしかめつつ、弥生は弓を握る手に力を込め、矢を放つ。 「元々危ないのなんて承知の上だから、気にしてられないよっ‥‥!」 雪刃も顔の砂や血の汚れを腕でごしごしと拭き取ってから、機を伺うため身を低くした。 弟子は祭壇の陰に身を寄せて迫る攻撃をやり過ごしつつ、呪文の詠唱を行っており、 開拓者達の猛攻にさらされるのも覚悟の上で立ち上がると、魔杖を自分に向ってくる開拓者へかざし、術を発動させた。吹き荒れる風と氷が椅子やガラスを粉砕する。 その破砕音は聴力を一時的に奪うほどにけたたましい。 弟子が放ったブリザーストームはリーゼロッテと輪を巻き込んだが、彼女たちは氷片を堪えながらも、目の前の男を無効化すべく動いた。 「人間たちがいがみ合うのも嘆かわしいが、目障りな修羅に手を貸す形になるとは、何とも癪だ‥‥」 全ては人間の平穏のためと言い聞かせながら、炎海は後方から再び呪縛符で行動の阻害を実行し、動きが鈍ったところへ輪が抜刀して足を斬りつける。殺すためではなく、行動力を奪うために傷は浅めにしている。 そこに翻る赤い髪。リーゼロッテが、アゾットを弟子に向かって振り下ろすと、年若い男も短刀で受け止めた。 「――術師だからって侮ってたワケじゃないけど、師匠が師匠なら、弟子も同じって事かしらね」 敵も多少は剣術も齧っているらしかったが、ふふっ、と彼女は笑った。 「もはや目的のためなら手段を厭わない‥‥それほどの覚悟を持ってるのは、あなた達だけじゃないわよ‥‥!」 ――今しかない! これだけ距離も詰め、弟子の片手が空いた僅かな瞬間をリーゼロッテは無駄にできない。このまま『夜』を発動させた。 1秒にも満たない短い時間ではあるが、制御者となったリーゼロッテは弟子の懐へ白い指先をすべり込ませ、札を掴んで引き抜く。 「あら、なんか怪しいモノもーらい♪」 同時に夜の効果時間は解除され、懐から札が数枚抜かれる瞬間を見た若い男は驚愕の色を浮かべた後、忿怒の形相で手を伸ばす。 「返せ!!」 だが、当然それを返すはずはない。弥生が渾身の力で放った矢は伸ばされた弟子の腕を貫き、その腕を押さえて悲鳴を上げる。 その騒ぎに依伯も気づき、後方に視線だけを送って状況を把握し顔を歪ませる。 「‥‥よそ見をしている暇があるとは、さすがに余裕だなあ」 慧介が横薙ぎに刀を振ると、依伯も刀で受け止める。金属同士の甲高い音に加え、激しいぶつかり合いに火花がばちりと散った。 その時、入口の扉が強く叩かれた。 「ここで何をしている! 開けなさい!」 どうやら、ジルベリア兵のようだ。 しかし、響介は想像より速すぎますね、と結界壁を発動させて扉を塞いでしまう。 「今介入されて、逆に人質にとられては困りますからね‥‥」 どうせ彼らは依伯のほうにまで走るだろう。そうなれば、ここまでやってきたことも無意味になってしまう。 雪刃も『後で説明が大変そうだけどね』と同意した。 施錠は壊され、扉自体は開かれたようだが、その先で『なんだこれ!?』『壁?』という声と、白くしっとりした物体をぺたぺた叩く音が聞こえた。 「‥‥‥‥」 依伯はその壁を一瞥してから、刀で慧介を受け流した。その刹那割り込んできた羅喉丸の拳を左頬に食らう。 倒れはしなかったが、ぐっと踏みとどまるまでには胴もがら空きで、後方から接近した雪刃の剛腕に押し倒される。 「くっ‥‥!」 「観念してくださいな」 起き上がろうとしたところに、喉元に剣を突きつける慧介。羅喉丸が武器を取り上げ、志郎が荒縄で手際よく縛って猿轡も噛ませると、ほうっと息をついた。 「――お師匠様!!」 その様子に、弟子も思わず取り乱す。自分が第一に行うことを考え、余裕の表情のリーゼロッテを睨む。 こうなれば、発動するしかない。そう思った時、思惑に気付いた弥生は、よく狙って‥‥彼女の指先、札だけを射抜いた。 「わっ‥‥と」 射抜かれた札は聖壇に矢ごと突き刺さり、ひらひらと揺れる。 「もう、逃げられないよ‥‥」 それに、命は大事だよと輪に告げられ、弟子は苦虫を噛み潰したような表情をしたが、そう簡単に諦めはしないようだ。 「『先生』はもう捕まえた。まだやるっていうなら‥‥ううん、投降しても同じ目に遭ってもらうけど」 依伯を床に転がし、雪刃らがガラスや木片を踏みしめて向かってくる。 ぐっと唇を噛み、杖を強く握ったところで、強烈な痺れが襲った。がくりと膝をついた彼が見たのは、小さな蟲と‥‥ 「――ようやく、か」 符を発動した威の姿だった。 依伯と弟子を捕縛し、床に転がして――ようやく響介も『なんとか、ですね』と息を吐きながら答えた。 (威は未使用だと言っていたが、もふんどしの猿轡使用は不憫なのと子供の教育に悪いからとティーラが止めて、自分のタオルを使用した) 志郎が敵味方問わず傷を診て、もうこんなことやめてくださいねと依伯に言った。返事は当然できないのだが、依伯の眼は志郎にでさえ憎しみのようなものを向けている。 「――さて」 辟易した顔で、弥生は扉の方に顔を向けた。 そこでは、ペチペチガリガリと忙しなく聞こえる音。壁に何かしているらしい兵士たちの様子が見て取れる。 「‥‥ここは僕が引き受けます。皆さんは、そこの‥‥窓から外へ。海月さん、念のため索敵をしてくださいませんか」 任せて、と弥生は告げて注意深く外の様子を伺う。 「んー。誰かがいる気配はないわね。大丈夫よ」 「外には堀がありますが、よく見れば岩などの隙間に足ががりになりそうなところもあります。厳しいことを言いますが、なんとか見つからぬよう脱出してください」 先ほど回収したローブをティーラに渡し、響介は割れた窓を指して頷いた。 早く、と声をかけられたティーラは頷いて仲間‥‥輪の手を引こうとする。 が、輪は首を傾げてティーラを見上げながら、足を踏ん張る。 「‥‥もし牢屋入らないといけないなら、私は構わないよ」 ずっと入っているわけじゃないだろうから、とあっさりした返答をする。響介も驚いたような顔をしたが、他の仲間も頷いた。 「そうよ。気分は嫌だけど、数人は捕縛されておいた方が判断としては賢明でしょうね」 破り捨てた札をひらひらさせながら、リーゼロッテは肩をすくめる。 慧介は雪刃を見つめ、彼女も大丈夫だという意思を載せて頷いた。 「氷海さん、あなたも脱出してください。行動できる陰陽師も多いほうがいい。あと、これを」 懐から紙片を取出し、威に握らせると『後は頼みます』と頭を下げた。 「‥‥すまない、御神本さん」 「炎海さん。さっき、助けてくれてありがとう。また、助けてくれる、よね‥‥待ってる」 「図に乗るな。わたしは人間たちのために動いているだけだ」 「‥‥必ず助けに参りますわよ。誰か一人でもくたばってたら承知いたしませんわ!」 炎海の代わりにティーラは一瞬悲しげな表情を浮かべたが、すぐに脱出するため他の仲間を引き連れ、窓の外へと駆けていく。 走り去っていく仲間たちを見送った後。響介はその場に転がされた依伯たちを見下ろしながら、壁を解除する。 雪崩れ込むように入ってきたジルベリア兵たちに取り囲まれ、抵抗せぬよう両手を肩の幅まであげた開拓者達。 「御神本君‥‥なんの騒ぎです。それに、依伯君まで」 瘴気の反応があったからだろう。近衛騎士らと一緒にやってきたのはユーリィだった。 「このような場所で争ったことや非礼はお詫び致します。ですが、ここで邪な儀式を執り行う為、依伯たちは城に入り込んだのです!」 威がそう言い、リーゼロッテは聖壇に刺さっている矢と札を見せた。 「お弟子さんの懐に入っていたわよ。まだ入ってると困るから、ちゃんと調べておいてね?」 「‥‥あなた達には取り調べを行わせて頂きます。依伯君もそのつもりで」 ユーリィは厳しい口調で『彼らを投獄しろ』と騎士たちに命令し、ほんの一瞬だけ響介にすまなそうな表情を見せた。 そして捕縛した人数は少なかったので、響介があの時、自分に嘘をついていたのであれば容赦なく逃亡者の追跡をかせる必要もある。 遠ざかる彼らの足音を聞きながら、ユーリィは既に原型を留めていない椅子の残害やガラスの破片を眺める。 (どちらかが我々を陥れ、そのどちらかが救おうとしている。犠牲を出す訳にはいかないにしろ、傍観してもいられない‥‥) だが、わかっていることとしては――この場は双方の小競り合いで、結果的に被害は礼拝堂の破損以外何もなかったという事実だけだった。 |