【貧乏旅行記】修理料金
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや易
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/02 05:32



■オープニング本文

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 龍の雄叫びが響き渡り、上空から降り注ぐ十数の真空の刃が森の一角を切り刻む。
「わーい」
「やったよー!」
 龍の背に乗る羽妖精達が歓声をあげ、急に静まりかえる。
 群れの長である大柄の龍は、羽妖精に問いただすことはせずに即座に散開を命じる。
 それから数秒後、龍の群れがいた場所に闇のように濃い瘴気がまき散らされた。
 開拓者との激戦から半日もたっていないせいか、瘴気の濃度は従前と同じだが量は半分にも満たない。
「やっちゃえっ」
「おー!」
 玩具程度の大きさの、しかし非志体持ち用の武具より明らかに凶悪な威力を持つ刃を手に、羽妖精達が一斉に突撃する。
 龍達は羽妖精の移動手段に徹し、己の体をアヤカシにぶつけるようにしてして背中の妖精達に攻撃機会を提供する。
 アヤカシがまき散らす呪いに冒され、若い龍から羽妖精ごと落下していくが、龍側の戦力低下よりアヤカシの本体が崩壊する速度の方が速かった。
「いっけー!」
 羽妖精の代表を頭に乗せた龍の長が、小型祟り神の中枢を体当たりで貫く。
 濃い瘴気の中央に空いた穴は塞がらず、やがて吹き始めた風に押され、形を失いながら流されていく。
 木々を緩衝材にすることで落下の衝撃に耐えた龍と羽妖精達が、一斉に勝利の雄叫びをあげるのだった。

●領主の屋敷にて
「おかしちょうだいー」
「黒いのやっつけたよっ」
「龍のおいちゃんが植林たのむって言ってたよー」
「おいちゃんたちとがんばったんだよ?」
 領主館を、ドライフルーツ等の甘味要求の意味で襲撃した羽妖精達は、応対に出た領主にまとわりつきながら好き勝手に遊んでいた。
「近くに住む龍と協力して祟り神にとどめを刺した。その過程で森を派手に壊したのでなんとかしろ、と言いたいのかな」
 領主はあくまで冷静に、誠意をもって羽妖精達の意図を把握しようとしているが、うまくいっていなかった。
「菓子は褒美のつもりで渡して良いのか? こちらとしては傘下に入ってくれるなら歓迎するが」
 羽妖精のまとめ役は真面目な話についていけず、領主の執務室の家捜しを始めていた。
「歓迎するが、まあ、その、なんだ。詳しいことは開拓者に聞いてくれ。手元にある甘味は土産として渡そう」
「わかったー!」
 お土産を持たされた羽妖精は、領主の館を出る前に全て食べ尽くして帰路につくのだった。

●飛空船
「機関の換装は完了。外装も同じく。ただし外装については民間仕様の最廉価版」
 外見だけは新品同様となった飛空船を確認しながら、開拓者ギルド同心見習いのからくりが各部の点検を行っていた。
「速度も含めて性能に変化無し。…壊れないという意味での性能向上も無しかな」
 ため息をこらえ、すみからすみまで徹底的に確認していく。
 前回の戦いで強力なアヤカシの撃退に貢献した…少なくともそう解釈可能な結果になったため、欠陥船…もとい性能に尖ったところのある船の設計者と発注者の首は繋がった。
 しかし未だに買い手は現れず、ほとんど押しつけるような形で貸与され続けている。
「飛空船の借り賃として破格でも凄いお値段だから、多分報酬からも引かれることに…」
 依頼の条件の悪化に頭を抱える華乃香であった。

●依頼
 前回の戦いで重傷を負わせたアヤカシが討伐されたという情報がある。おそらく嘘ではないと思われるが、念のため確認して欲しい。
 また、羽妖精をなんとかして欲しい。お願い。


■参加者一覧
茜ヶ原 ほとり(ia9204
19歳・女・弓
ベルナデット東條(ib5223
16歳・女・志
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
にとろ(ib7839
20歳・女・泰


■リプレイ本文

●戦果確認
 真新しい飛空船が大空をいく。
 果てが見えない青い空と、生命力に溢れた緑の森を同時に視界におさめ、茜ヶ原ほとり(ia9204)は華妖弓の弦を弾いてもの悲しくも美しい音を響かせていた。
 身にまとうのは水色の薄絹で仕立てられた着物に、明るい色の薄絹をふんだんに使った嫋やかな帯だ。
 美々しい装いに負けぬ美女が飴色の大弓を奏でる様は、実に幻想的であった。
「速度このまま。面舵お願いします」
「にゃ〜」
 地図を手に航海士役を務めるからくりと、操舵手役を務めるにとろ(ib7839)が慌ただしく進路を変えていく。
「まったく」
 直前まで義姉に見ほれていたベルナデット東條(ib5223)が、咳払いをして気を取り直す。
 アヤカシの気配は全く感じられないとはいえ、自分の目で安全を確認するまでは気を抜く訳にはいかない。
 防具ではなくおしゃれ着を着てきている義姉も、常に矢と大弓を手元に置き、変事に即座に対応できるよう気を張り詰めている。
 かのかとにとろが操船に集中して頼りにならない現在、ベルナデットも集中する必要があった。
「再度面舵お願いします。右舷から風がっ」
「にゃ」
 宝珠をぺしぺしと叩く音が、操縦席から聞こえてきていた。
「よし。万一に備えて…」
「これで主要なお仕事は終了」
 気合いを入れ直したベルナデットの前で、ほとりが伸びをして大弓を片付けにかかる。
「え」
「弓をならして挑発しても出てこないのだもの。少なくとも祟り神はこの場にいないと思うよ」
 万一に備えて小型の短弓を脇に抱えながら、ほとりはにこりとベルナデットに微笑むのだった。

●到着
 着陸した飛空船に、一斉に羽妖精たち襲撃をかける。
「木の赤ちゃんだー!」
「ちっちゃーい!」
「いいかおりー!」
 甲板に並べられた木の苗を見て歓声をあげ、根を包む袋に手を伸ばす。
 その中に、異様なまでに自然に、ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が紛れ込んでいた。
 ルゥミの背中には蝶の羽がある。羽妖精と比べると背は高いものの、摩れた人間からみると痛みを感じてしまうほど純粋な感情は、羽妖精たちに非常に似通っていた。
「ねえ、あなたたち? 猫弓って妖精みたいな小さい対象を射貫く時に使うものなのよ」
 心からの笑顔を浮かべたほとりが短弓を掲げると、ルゥミを先頭に羽妖精たちが逃げ出していく。
 もっとも途中で駆けることが楽しくなり、いつの間にかほとりに注意されたことを忘れて飛空船のまわりをくるくると回り始めていた。

●ぎぶみー
「あたいは〜羽妖精〜♪」
「はねよーせー!」
 くるり、くるりと妖精達が舞う。
「お菓子が〜大好きよ〜♪」
「あまいのだいすきー!」
 どこまでも無邪気な、しかし極めて高度な身体能力によるリズミカルな動きが場を華やかに盛り上げる。
「でもお金なくて買えないから…」
「からー」
 動きは動から静に。
 泣き真似を交えつつ一度溜めて。
「ギブミーギブミーキャンディ〜♪」
「きゃんでーくっきーわっふるだいすきー」
 喜びの感情を爆発させて一斉に散らばっていく。
 メインコーラス、振り付け担当、ルゥミ・ケイユカイネン。
 伴奏担当、地元羽妖精のみなさん。
 練習するたびに歌詞も曲も異なる、実に羽妖精らしい歌であった。
「どう?」
「どうー?」
 眩しい瞳をベルナデット達に向けるルゥミと大勢の羽妖精達。
 外貨獲得手段として歌踊を用いるつもりなので、主に羽妖精の視線が非常に真剣だった。
「ちょっとよく分からないかな」
 苗木を下ろし、破壊されていた木々を加工しやすいよう刃でばらしてから飛空船に積み込んでいたベルナデットは、歯に衣をきせまくってあたりさわりのないコメントをする。
 技術も見事で一見の価値はある。が、ここまで欲望を表に出しすぎていると観客にひかれてしまうかもしれない。
「もうちょっと飛んだ方がいいのかな?」
「くるくるって?」
「びゅんびゅんの方がいいよー」
「違うよ、ばびゅーんだよっ」
 相も変わらず脱線し続けていく羽妖精とそれに付き合うルゥミを眺め、ベルナデットはしかたないなぁと年上っぽい笑みを浮かべる。
「練習が終わったらめろぉんを切ってあげるから、遊ばずに練習しなさい」
「はーい!」
 妖精達が元気よく返事をする。
 欲望に突き動かされて、羽妖精達は高度な歌と踊りを身につけることとなる。

●夜
 地表からわずかに浮かび上がった飛空船の舷側に腰掛け、ほとりは薫り高く辛い酒を口元に運んでいた。
 杯を揺らして香りを楽しみ、口に含んで酒精を楽しみ、飲み下して身体が温まるのを楽しむ。
 杯を持つのは左手。
 逆の手は、ほとりの膝をまくらに目を閉じているベルナデットをゆっくりと撫でていた。
 義妹の銀の髪は半月に照らされ、美しくはあるがそれ以上にはかない存在に見える。
 ほとりは細い指の力だけで次の酒瓶の封を開け、新しく取り出した杯に華の香りのする酒をなみなみと注ぐ。
「ん…」
 唇を湿らせるより少しだけ多く飲まされたベルナデットは、唇に触れた杯とほとりの指の感触を記憶の底に沈めながら、ほうと熱いため息をつく。
 そしてほとりは、懐から直火焼裂きイカを取り出し嬉々として齧り始めた。
「おねえちゃん」
 雰囲気を壊すほとりの行為に、ベルナデットがちょっと拗ねながら目で抗議する。
 しかしほとりは月の光と虫の音を楽しみながら、愛おしむようにベルナデットの髪をなで続ける。
 義妹の拗ねたふりはそう長い間続かず、力を抜いて完全にほとりに身体をあずける。
「無事で良かった」
 前回の祟り神との戦いを思い出すと、今でも心身が緊張しきってしまう。
「この間はどうなる事かと思ったけど」
 覚悟の上で戦に臨んだのだから、自分が傷つくのは耐えられる。
 だが、あの戦場でほとりが傷ついたとき、耐え難い苦痛を感じてしまった。そしてそれは今も続いている。
「だいじょうぶだよ」
 ほとりは優しく背を撫でてやり、静かにベルナデットの傷を癒していくのだった。

●でばがめ
「ところでいつまで覗いているの?」
「えっ?」
 ベルナデットが慌てて身を起こして振り返ると、操縦席の影から申し訳なさそうな顔をした華乃香が顔を出す。
「あの、その、すごく良い雰囲気過ぎて声がかけられなかったというか、目が離せなかったというかっ」
 月の光だけでもわかるほど顔を真っ赤にして、両手を振ってごまかそうとする。
「か、の、か?」
 姉貴分の顔でベルナデットが注意すると、起動後1年も経過していないからくりが、しかられた子供のように肩を落とし正座をする。
「開拓者としてやっていける程度に成長したけど、そういう面はまだまだだね」
 反省の弁を述べようと口を開いた華乃香の唇に、三等分した白大福のうちの1つを押し当てる。
 かのかは目を丸くしながら、甘くとろける香りに負けて大福を口にしてしまった。
「まあ、ほどほどにね」
 ベルナデットは大福を愛するひととわけあい、静かなひとときを楽しんでいた。

●別れ
「練習は毎日しなくちゃ駄目だよ」
 甲板の上からルゥミが声をかけると、見送りに来ていた羽妖精達は涙目になりながら元気な声を出す。
「うん! ぼくらも毎日練習するよっ」
「いっちゃやだー」
 羽妖精と同じくらい元気で明るく、人としての辛苦を胸を張って乗り越えてきたルゥミに、羽妖精達はすっかり懐いてしまっていた。
「別れるときは笑顔で元気よく、だよっ。ほら、胸を張って」
 自身もうっすらと涙を浮かべながら、ルゥミは穏やかに自立をうながす。
「うん」
「おねーちゃん!」
 涙をこぼしながら、それでも笑顔で手を振る羽妖精達に見送られながら、飛空船は明るく晴れた空に向かって跳んでいくのだった。

 しばらくして天儀の都で元気な羽妖精の歌声が聞こえるようになったが、これはまた別の話である。