【貧乏旅行記】処女航海
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/21 01:08



■オープニング本文

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「確かに受け取りました。こちらが代金になります」
 地元貴族から派遣された兵士が、下手くそな絵と引き替えに袱紗で包まれた箱を差し出す。
「わーい!」
「僕が最初に食べるんだよっ」
「甘酸っぱいのはわたしのーっ」
 情報料代わりのドライフルーツ詰め合わせの封が解かれ、瞬く間に羽妖精達の口の中に消える。
「ではこれで」
 羽妖精達のすがるような視線に気付かなかったふりをしつつ、兵士は森の端から人里へ足早に移動するのだった。

●危険な依頼
 羽妖精の手による絵は、早馬を使って地元貴族のもとへ届けられ、予め呼び寄せられていた龍の乗り手によって開拓者ギルドに届けられた。
「祟り神ですね。標準よりもかなり大きい。おそらく動物やケモノを喰らって力を増したのだと思われます」
 天儀開拓者ギルド同心は、絵と証言から森の中に潜む脅威を特定した。
「羽妖精達の感覚を信じるなら、百間(約180メートル)より近づくと襲ってくるそうです。開拓者の最上位層の実力者なら攻撃に耐えつつ近付けるかもしれませんが、祟り神は60間程度(10スクエア)瞬間的に移動します。移動に朋友の力を借りた場合は威力のある破壊の術や状態異常系の能力で朋友ごと撃ち落とされかねませんし、地面をいくなら足場の悪い森を通る必要があるため速度を出しにくい。確実を期すなら数十人に討伐をお願いしたい相手です」
 開拓者ギルドの会議室に集まっていた同心達がうめき声がもれる。
 大規模な依頼は開拓者にとっても大変だが、道中の手当て等をすることになる開拓者ギルドにとっても大変なのだ。
「提案があります」
 普段とは異なり真面目な顔をした係員が挙手し、許可を得てから立ち上がる。
「何十人も集める前に、一度開拓者による偵察をお願いしてみてはどうでしょうか。現場からさほど離れていない街に、買い手の付かない小型飛空船が1隻保管されています。依頼人経由で話をすれば、おそらく安値で借りられるかと」
 アヤカシの脅威を知る者達による議論は、短時間で終わった。
 小型飛空船の所有権を持つ商家は、少し渋ったものの安値での貸し出しに同意する。
 飛空船は倉庫の中で、初めての実戦を心待ちにしていた。


●試作小型飛行船
 分厚い装甲とそこそこの速度、そして宝珠砲の複数搭載を目指して新造された小型飛行船。
 実際できあがったのは、空中に静止した状態では標準以上戦闘能力を持つものの、通常の装甲小型船より低速でしかも故障の頻発する欠陥船でした。価格が高い割に使い勝手が悪すぎて買い手がつく気配は全くありません。
 今は宝珠砲を外された上で、ある地方都市の倉庫に死蔵されています。持ち主である大商家内では欠陥船製造の責任を誰がとるかで揉めており、それが通常ではあり得ない低料金での貸し出しに繋がりました。
 以下の数字は現在の状態を示すもので、装備を変更すると数字も変わります。主に下方向へ。
 全長15m、全幅:5m、最大積載量2トン、巡航速度時速10km、最大速度時速20km(最高速度を10分出すと機関が停止し墜落します)。
 積み荷は甲板に載せる形式で、現在は爆発しない爆撃攻撃に向いた岩を限界まで載せています。


■参加者一覧
茜ヶ原 ほとり(ia9204
19歳・女・弓
ベルナデット東條(ib5223
16歳・女・志
スレダ(ib6629
14歳・女・魔
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
にとろ(ib7839
20歳・女・泰
棕櫚(ib7915
13歳・女・サ
ラビ(ib9134
15歳・男・陰


■リプレイ本文

●瀕死の森
 小鳥が目にしたのは、生気の失せた森であった。
 植物や虫に至るまで動きが鈍く、存在する力を何かに奪われているようにも見える。
 術により形作られた小鳥も、本来より短い時間で力尽き、消えていった。

●飛空船甲板にて
「あれがアヤカシかな?」
 ラビ(ib9134)が人魂による偵察結果をもとに発言する。
 森の上空、アヤカシが潜む場所からは死角になる位置に留まり続けている飛空船の甲板で、開拓者達は重苦しい雰囲気で作戦会議を開いていた。
「わかんない。もっと近づいてみよーよ」
 かのかの肩を足場にしている地元羽妖精が、元気に手を振りながら前進を主張する。
「地元民のくせに危機感ねーですか。地元民じゃなくて土着生物呼ばわりするですよ?」
 スレダ(ib6629)が冷たい視線を向けると、羽妖精は懲りずに歓声をあげつつ華乃香の背後に隠れる。
「まあ、怖じ気づくよりはずっとましです」
 スレダは軽くその場で足踏みする。
 軍船としてつくられただけあって甲板も舷側も異様に頑丈であり、これなら十分に武人の蛮用に耐えるだろう。
「速度はどの程度出そうですか?」
 スレダが問うと、操縦席で計器の確認をしていたベルナデット東條(ib5223)が難しい表情をしたまま口を開く。
「カタログ通り。いえ、それより拙いかも」
 宝珠から手を離し、厳しい表情を浮かべてスレダに向き直る。
「少し前から動きが不安定になっている。多分全力を出したら…」
 墜落か、あるいは空中分解か。いずれにせよろくな展開にはならないと思われた。
「参ったですね。投石攻撃も、威力はともかく精度は期待できないでしょうし」
「ほとりの弓とくらべられてもこまるぞー?」
 一抱えはある岩をボールのように軽々と構えながら、棕櫚(ib7915)は少し困惑する。
「ええ、ええ、分かっているですよ。けど遠距離である程度ダメージを与えられないと」
 祟り神は小型のものでも飛行能力と瞬間移動能力を持つ。不定形なので、飛行時の弱点になる翼のような部位はおそらくない。
「ヤバそうになる前から岩捨てておいた方がいいですね」
 ラビは萎えそうになる足に必死に力を込めながら、少しだけ引きつった笑みを浮かべていた。
「んー、なんだっけ。こういうのってあんずるよりうむがはえー、っていうんじゃないか?」
 緊張しているスレダを勇気づけるように抱きしめながら、棕櫚は明るく微笑んだ。
「ほとりの矢や岩でつついてたおせそーならたおす。むりそーならにげる。これでいいんじゃないか?」
 他の案は出なかったため、開拓者達は棕櫚の案をもとに動くことになる。

●攻撃
「いっくぞー!」
 細く、しかし凄まじく頑丈な腕に想像を絶する力がため込まれ、体の他の各部位と同時に力を爆発させる。
 爆発する力は1つの美しい流れをつくり、鉄を含んでいるらしい特に重い岩を、地表に向けて撃ち出した。
「かのかっ」
 城壁を一撃で砕けそうな一投を成功させたにも関わらず、棕櫚の厳しい表情で背後に呼びかけていた。
「はいっ」
 棕櫚に比べると鈍く弱々しい動きで、からくりが第二の岩を渡してくる。
 再び振りかぶるが、撃ち出されるのは茜ヶ原ほとり(ia9204)の矢の方が早かった。
 ほぼ垂直に打ち下ろされた矢は鏑矢に似た音を響かせながら直進する。
 棕櫚の第一の岩を追い越し、木々の間にわだかまっていた闇に見事に命中した。
「やったぁっ!」
 目に見えないこともない部位に命中したことに気付いた羽妖精が歓声をあげる。
 が、ほとりは物理的な力すらありそうな視線で敵を確認し、素早く手を振った。
「にとろっ、壊すつもりで最大速度出すですよ!」
「かのかっ! 運ばず外に蹴り出せ、狙いなんてつけるな!」
 つきあいの長いスレダと棕櫚は、ほとりの意図を察し高速で動いた。
 スレダに命じられたにとろ(ib7839)が全ての宝珠を無理矢理全力稼働させる。
 小型故か、意外と身軽に加速し始めた飛空船の上で、かのかが身体の機能を限界まで酷使して無理矢理岩を船外に蹴り出していく。
 敵に直撃しその2、3割を吹き飛ばした棕櫚の一投とは異なり、その全てが敵から離れた場所に落下していく。これでは高度を破壊力に変えた強力な一撃も、当たらなければ意味がない。
 それでも、ほとりが放った二の矢と三の矢を援護する効果はあった。
「今回ばかりは射程内まで踏み込まれないよう願うですよ」
 手持ちの術では手の届かない敵の姿を見下ろしながら、スレダは苦痛を堪えるように言葉を絞り出す。
 棕櫚の第二投が地表に到達し、盛大な土煙をあげて岩と敵の姿を隠す。
 そして。何の脈絡もなく。
 開拓者の頭上1メートルに、黒く濃い霧にしか見えない何が出現した。
「させない!」
 ラビは一切の遅滞なく符を放ち、小さな式でもって祟り神の行動を束縛しようとする。分の良くない賭ではあったが、ラビは確かに手応えを感じていた。
 ほとりは、矢を番えた状態からさらに強く弦を引き、練力と気を極度の集中力でもって矢に束ね、放つ。
 ほとりと棕櫚という、己が発生してから最も深刻な脅威を排除すべく動き出したアヤカシは、真正面から貫かれ重要な部分も含めた個所を吹き飛ばされる。
 が、アヤカシの動きは全く鈍らず、全力攻撃の直後で動きが鈍ったほとりを己のうちに取り込もうとする。スレダが真横から吹雪を叩きつけるが、それでは敵を削りきれない。
「させるかぁっ」
 祟り神がまき散らす濃厚な瘴気と悪意に、薙刀を振りかざしたベルナデットが踏み込む。アヤカシが義姉に触れるより早く両断しようとし、しかし宝珠搭載型薙刀は瘴気の一部を吹き飛ばしただけで虚しく甲板に突き刺さる。
「皆に手を出すなっ!」
 岩から本来の得物に持ち替えた棕櫚が、高速で緋色の槍を振り下ろす。
 手応えはあった。だが同時に、目の前の相手が痛覚やそれに類するものを持たないことに否応なく気付かされる。
 死が目前に迫った状態で、ほとりは外しようのない一撃をアヤカシの命中させる。それと同時に密度の高すぎる呪いが叩き付けられ、ほとりの両目から血の涙がこぼれた。
「たあっ」
 気の抜ける掛け声と共に、戦闘機械としての要素を全開にした華乃香が祟り神に刃を突き立てようとする。が、不定形の体から繰り出された腕じみた物に弾かれ甲板の上を転がっていく。
「祟り神のおっきい版、にしては、強すぎじゃない?」
 自分の体よりも大きなからくりを抱き留め、ラビは多少ひきつってはいたが辛うじて笑みにみえるものを浮かべていた。
 話は変わるが、彼等が現在戦っているのは正確に分類すると小型祟り神にあたる。小型祟り神の中で少し育ったのが、目の前にいるアヤカシなのだ。
「いざというときは脱出艇…グライダーに飛び乗れる奴は飛び乗るです。無理に他の奴を助けようとするんじゃねーですよ。共倒れになるだけですから」
 算術の解を示すような感情の欠落した口調で、スレダが事実だけを口にする。
 あらかじめスレダがかけていたホーリースペルの効果が切れ、ベルナデットとほとりの出血が酷くなっていく。
「そういうのは」
 ラビは、船倉の中に放置されていた大型弾薬を取り出し、握りしめる。
「最期まで戦ってからだよ!」
 頑丈な甲板で摺り下ろすようにして火薬に火をつける。爆音と強烈な光りが同時に発生し、至近距離でくらったラビを前後不覚の状態に陥れ、数メートルしか離れていなかった義理の姉妹とアヤカシの動きをほんの少しではあるが止めた。
「にゃっ」
 そのとき操縦席からにとろの焦り声が聞こえた。
 何かが折れる音が…具体的には操作用の宝珠が砕けるような音がしたのは、気のせいだったと思いたい。
 飛空船は本来出せる最高速の数割増しの速度で、激しく上下しながら森の外へ向かおうとする。
「まわるでやんす」
「甲板…装甲板の下の取っ手に掴まるです!」
 離陸前に飛空船の隅々まで確認していたスレダが、最終的に全員の命を救うことになる命令を下した。
 それから数秒後、飛空船は進路はそのままに回転を始める。
 開拓者達は死にものぐるいで船に張り付くことができた。それに対し、初めて飛空船に出会ったアヤカシは上手に反応することができなかった。
 装甲坂兼用の甲板に正面衝突して外にはじき飛ばされ、そして、完全に予想外の方向からかかった力に耐えきれなかった各種偽装と救命用滑空艇が飛空船から吹き飛ばされ、大重量の砲弾と化して小型祟り神に激突する。
 体の大きさを当初の数分の1にしたアヤカシが、無数の残骸と共に森の中に落ちていった。

●生還
「すげー。生きてる」
「浮いてるって言うべきじゃないかな」
 外装のほとんどが脱落し、船というより大型の滑空艇風の見かけとなった飛空船に掴まりながら、棕櫚とベルナデットが緊張感に欠ける会話を行っていた。
 短くも激しい戦いが中断してから、既に10分近くが経過している。
 祟り神の追撃はない。
 元飛空船は森を抜けた時点でほとんどの浮力と99パーセントの推力を失い、今は地表数メートルを這うような速度で近くの街に向かっていた。
「からだがおもくないっ。きっとたおせたんだねっ」
 ひゃっほーと歓声をあげる羽妖精に、ほとりが静かに言葉を投げかける。
「祟り神がまた襲ってきたとしたら、逃げるのに生け贄が必要かしらね。殿、する?」
 あくまで冷静なほとりに見つめられ、羽妖精は震え上がってその場で正座する。
 ほとりは相手が大人しくなったのを確認すると、ようやく緊張を解いて重く長い息を吐く。先程の言葉は本気ではない。大声を出し続けていた場合アヤカシを引き寄せてしまう可能性があるため、軽く脅しただけだ。
 祟り神を倒せたかどうかは分からないが、ほとりも仲間達も、既に戦う力は残っていない。アヤカシの襲撃に備えて見張りをする必要があるだろうが、見張り以外は休むしかないだろう。
 辛うじて体力を残したにとろに見張りを任せ、開拓者達は元飛空船の上で泥のような眠りにつくのだった。