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■オープニング本文 前回のリプレイを見る とある川の源流の近くに森がある。 緑は豊かだが棲息するケモノの数が多く、危険すぎるため猟師が森に入ることもほとんど無かった。 森を含んだ土地を領地に保つ貴族も、被害を恐れて森に兵を出すことを考えすらしない場所なのだ。 しかし状況が変わった。 森からケモノが溢れ、付近の農村とその田畑を荒らし始めたのだ。 襲来したケモノは貴族の私兵団によって撃たれたものの被害は大きかった。しかも、どうやらケモノは何かに追われて森から出てきたらしく、戦闘後に行った調査によると私兵団と戦う前から傷ついていた。 ケモノの相手で精一杯の私兵団では森の中に潜むものへの対処が難しいと判断した貴族は、開拓者ギルドへの依頼を決断した。 内容は森の異変の調査。 森は広大なため、何回遠征するか、1回の遠征で何日かけるか等は全て開拓者に任せるという条件になっている。 森の上空を飛ぶ龍を見たという証言もある。付近の村の古老によると、森の中で妖精を見たという話も伝わっているそうだ。 早期の解決が望ましいが見落としが有っても大問題だ。慎重に調査を進めてもらいたい。 |
■参加者一覧
茜ヶ原 ほとり(ia9204)
19歳・女・弓
ベルナデット東條(ib5223)
16歳・女・志
スレダ(ib6629)
14歳・女・魔
にとろ(ib7839)
20歳・女・泰
棕櫚(ib7915)
13歳・女・サ
ラビ(ib9134)
15歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●死骸は語る 「すれだー、これは切り傷じゃないか?」 掘り起こした地面からケモノの死骸を引っ張り出した棕櫚(ib7915)が、腐敗の進んだ足を棒で突きながら発言する。 「ちょっと待つですよ」 棕櫚と同様に、臭い避けのマスクを被ったスレダ(ib6629)が現場に向かい、臭いを通り越して目が痛い刺激臭に耐えながら慎重に確かめていく。 猪から変じたケモノらしく骨は太くて大きい。しかし腐敗して形が変わっているのを考慮に入れても肉が薄い。 皮膚の状態を確かめて見ると、いくつか切り傷はあるものの全て浅い。 「こんな状態ですから確言はできねーですが」 マスク越しのくぐもった声で発言しつつ、ケモノの死骸を埋め戻すように身振りで指示する。 棕櫚は高速で首を上下に振り、遺骸を穴に落としてから全力で土を投げ込んだ。 「なるほど。へーしがつけたらしい矢傷や刀傷しかないというのは、つまり」 もっともらしく聞こえることを言いながら重々しくうなずいてみる。 「つまり、どういうこと?」 「異変の原因は特殊な能力を持つ存在か、餌不足である可能性が高いということです」 「なるほど!」 満面の笑みを浮かべてうなずく棕櫚に、スレダは生暖かい視線を向けていた。 ●引率 「かのか、行って!」 深い森の中で、ラビ(ib9134)の声に草を踏み砕く音と刃が振るわれる音が続いた。 「待て、ステイステイ!」 さらに続こうとした足音を、ラビが大声を出して停止させる。 「倒したらすぐ周囲を警戒! 瘴索結界を使える人がいないんだから五感と知覚力の全てを使わないと駄目だよ」 いつでも術を発動できるよう陰陽甲を構えながら、ラビは先程かのかが倒したケモノを確認する。 最初にラビが呪縛符による強烈な一撃を決めていたとはいえ、駆け出し開拓者と同程度の華乃香の一撃で倒せたのは妙だ。 「レダちゃんが言ってたように、食糧不足かな」 毛皮の上からでも骨が見えるケモノの死骸を確認し、ラビは小さくつぶやいた。 焦りながら忙しなく周囲に目を向ける華乃香と異なり、ラビはそうしている間も自然な動きで周囲の確認を行っていた。 「よっ、頑張ってるなっ」 突然頭上から上下逆の人型が降振ってくる。 木漏れ日に照らされた角が不気味に光り、艶やかな緑の髪がぬらりと蠢いたように見えた。 「きゃうんっ?」 かのかは驚愕のあまり大型の鉈を放り捨て、腰が抜けてその場にへたり込んでしまう。 「あぶないぞー」 棕櫚は、太い枝に足をかけ、上下逆になった状態で華乃香の鼻をつんつんとつついた。 「何やってるですか」 小さな岩山のふもとの状態を調べていたスレダが、呆れたような視線を向けてくる。 「木の上での偵察さっ。ケモノだけだじゃなく動物もカリカリしてたぞ」 「やっぱり食糧不足が原因なのかな…。かのか、1枚ずつお願い」 「は、はい」 からくりは自らの体勢に気付き、慌てて膝を揃えながら背嚢からパンと水筒を取り出す。 「ぱさぱさするー」 慣れない味に困惑しながら、棕櫚は小さな口で勢いよく平らげ、一口で小型の水筒を空にした。 「なーんかやな予感がするんだよなっ」 宙で半回転して見事な着地を決め、スレダに背後から抱きつきながら、奇妙なほど真剣な表情になる。 「外にあったケモノは腹減らしてたけど他に変なところなかった。森の中で何かが暴れた跡も見つからないし…」 棕櫚が真剣に話しているのに気付き、スレダは口を挟まずふりほどきもせず傾聴することにした。 「ここに住んでいるのに聞ければいいけど、たぶん無理だ。ペースを落としてでもしんちょーにいくべきだと思うぞ」 予想されていたより過酷な依頼になつことを悟り、かのかがごくりと唾を飲み込むのだった。 ●遭遇 背後から忍び寄ってきた毒蛇を一太刀で切り捨て、ベルナデット東條(ib5223)は心眼「集」を使い周囲数十メートルの範囲の索敵を一瞬で終える。 緑豊かな森の割に反応が少ない。技を使わずに気配を伺ったところ、こちらを伺う気配はあっても殺意を感じさせるものはなかった。おそらく今ここは通常の森程度には安全なのだろう。 「今回は鉈の方が良かったかも」 ぽつりと呟いてから、進路上の蔓を鞘で払ってから斜面を登っていく。 森に入ってから既に数日が経過している。 棕櫚の提案に従って慎重に調査し、日が暮れるより早く山小屋に戻って徹底的に警戒しつつ夜を過ごす。それを繰り返して今は4日目の昼だ。 「へびっ?」 ベルナデットの背後を守っていたはずの華乃香が、奇妙な声を出してから慌てた様子で鉈を振り回していた。 妙に色彩豊かな、おそらくは毒を持っているであろう、ケモノですらないただの蛇を近付けまいと必死になっている。 少し呆れながら助けに向かおうとするが、ベルナデットより早く動いた者がいた。 茜ヶ原ほとり(ia9204)が放った矢が木々の隙間をすりぬけ、蛇の頭を地面に縫い止めたのだ。 「ほとりさん! 少し行ったところに人工物があります」 人魂を上空に飛ばして偵察していたラビが報告する。岩山と池で見かけたのと同種の、明らかに知性ある者による建物らしきものがあったのだ。ただし人間には小さすぎる作りであり、何が何の目的で作ったのか不明であった。 「了解。…敵襲に備え小声にすることを勧める」 「あっ。ごめんなさい」 ほとりに冷静な口調でたしなめられたラビは、声だけでなく人魂による小鳥の羽音も小さくすることで忠言を活かす。 「ほとりおねえちゃん、一度戻る?」 ベルナデットが微風にすら吹き消されそうな小声でたずねる。近くにいた華乃香は全く聞き取れなかったようだが、付き合いの深いほとりにとっては、離れていてもベルナデットの雰囲気とかすかな唇の動きだけで十分だった。 「この地形なら日が暮れるのが…」 ほとりの言葉が不自然に途切れる。 ベルナデットが再度心眼「集」を使っても新たな反応はない。が、姉を信頼するベルナデットは即座に戦闘を開始できるよう心身の状態を整えた。 ほとりは感情の無い曖昧な表情を浮かべたまま、弓を構えず、懐から小さな包みを取り出した。 見た目より頑丈な包みを破ると、アル=カマルらしい濃厚な果実の香りが辺り一面に広がっていく。 すると、この場にいる開拓者とからくり以外の何かから、唾を飲み込む音が聞こえてきた。 ベルナデットが視線だけで捕縛を提案するが、ほとりは同じく視線だけで否定する。 ほとりは、おそらく買えば結構な値段になるはずのドライフルーツを、音が聞こえた場所からわずかに離れた場所へ親指で弾く。 「わっ」 茂みから人型の、人の数分の一の全長しかないものが飛び出し、宙を舞うドライフルーツを受け止めた。 その人型を、いつの間にか背後に忍び寄っていたにとろ(ib7839)が、猫が哀れな獲物をとらえる動きで捕獲する。 「ぼ、ぼくおいしくないよ?」 簡素ではあるが粗末ではない衣服を身につけ、甘酸っぱい香りを漂わせるお菓子を抱きしめた人型は、開拓者の朋友として知られている羽妖精であった。 ●案内人ゲット! 小さな客人を小屋に招き入れ、ほとりは机の上にあるだけのドライフルーツを積み上げた。 この場まで素直に付いてきた羽妖精は、らんらんとと目を輝かせながら視線を甘味に固定している。 「我々は開拓者…アヤカシ退治を仕事にしている」 ほとりは自己紹介から入った。 「あっと、えっと」 礼儀正しくされるのに慣れていないらしく、羽妖精は人間サイズの椅子の上で背を伸ばしてほとりを見上げた。とはいえ濃厚な甘味に魅せられた妖精は、ちらり、ちらりと机の上に視線を向けている。 「おっきなおねーちゃんたちは何しに来たの?」 「異変の調査に。森から出てきたケモノが付近の田畑を荒らして皆が困っている」 即座の返答に、妖精は目を瞬かせる。 「おしごと?」 「そう。仕事。…どうしたの?」 椅子から降りて椅子を盾にしようとする羽妖精に気づき、ほとりは表情を変えずに 「おねえちゃんこわい」 「ほとりおねえちゃんは怖くないっ」 思わず口を挟んだベルナデットに驚き、羽妖精は頭を抑えて涙目になる。 「ああもうそうじゃなくて、おねえちゃんも子供相手に仕事の顔をしない!」 「お茶が入りましたよ。お茶菓子が甘いので少し濃いめに」 混沌としてきた小屋の中に、携帯用のカップを複数手に持ったラビが入ってくる。 「君には甘めの茶葉を使ってみたんだけど、どうかな?」 ベルナデット達にカップを渡してから、ラビは腰を落とし、視線の高さをあわせて小型の木製カップをそっと差し出す。 羽妖精は甘い香りに誘われ、おそるおそるカップを受け取った。 「あまい」 一転して満面の笑みを浮かべる羽妖精に、開拓者達は内心安堵で胸をなで下ろしていた。 山小屋に戻ってくるまでに会話した結果、この羽妖精は森に迷い込んだのではなく森を活動範囲の一部としていることが判明している。 どうやら、長い時間をかけて森を調査しなくてもなんとかなりそうだ。 ●特定 開拓者ギルドに帰還した棕櫚は、ほとりが羽妖精から聞き出した情報が列記された報告書を眺めていた。 ドライフルーツを複数もらって鼻歌交じりに山に戻っていった羽妖精は、本人の主張によると山の羽妖精のまとめ役らしい。 他の羽妖精は嫌な気配がするので山に籠もっているらしいが、まとめ役だけは麓の見回りじみたことをしていたそうだ。 以上のことを聞き出すまで、ほとりは睡眠を挟んで丸一日近くかかっている。羽妖精が注意散漫で話がいったりきたりして最初に戻ったりを繰り返したためだ。 「龍のえさばがここでー」 地図を開き、池の1つの周辺に指で丸を描く。この池は調査する前に物資が尽きてしまった池だ。 「わかい龍が何かにやられたのがここ」 池の東にある、地図上では難の変哲もない森を指でつつく。 「つぎはいくさだなっ」 棕櫚は軽い足取りで、資料返却のため職員を捜しに向かうのだった。 |