【貧乏旅行記】食い道楽
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: やや易
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/07/25 03:45



■オープニング本文

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 天儀、アル=カマル、ジルベリアと様々な場所で活動を続ける開拓者一行とおまけ1名。
 彼等はいつの間にか有名になっていた…というのはおまけ1名の願望だが、仲介料代わりに開拓者ギルドに治められた干物と薬草と乾し肉は、ギルドの中で少しだけ目立っていた。

●今日の無理難題
「携行糧食が不味いんですわ」
 依頼の申込みを終えた地方貴族が、茶菓子代わりに出された乾し肉を食いちぎりながら職員と駄弁っていた。
 害獣駆除やアヤカシ討伐では私兵を率いて現場に出る武闘派であり、実用的な筋肉と顔についた向こう傷が特徴的な中年男である。
「予算の制限がありますからねー。見栄を張る必要がない場面じゃ仕方がないんじゃないですか」
 出涸らしの茶を美味そうにすすりながら、開拓者同心は適当に聞き流しつつ堂々と仕事をさぼっていた。
「そういう訳にもいかんのです。長期作戦中に不味い飯ばかり食ってると体力以前に心が参るんですわ。そうなると注意散漫になって索敵に失敗するわ粘りが無くなるわで、命がいくつあっても足りなくなる訳で」
「なるほどー」
 荒事はさっぱりな開拓者同心は、少し興味をひかれたらしく比較的真面目に返答していた。
「なんとかならんですかね? 都には大雪の国や砂漠の国から新しい食材や調理法も入って来ているという話ですし、予算を抑えつつ美味い携行糧食を作れれば助かるんですが」
 領地経営は上手くいっているらしく、製法を確立した上で試作品を納めれば報酬を支払いつもりらしい。
「それ、出入りの商家に任せた方が良いのでは?」
 面倒臭そうと表情で主張しながら断ろうとするが、領主が机の上に小判を積み上げると露骨に態度を変える。
「そういうことなら是非お任せを! 開拓者は様々な環境での活動の経験を持っています。味だけでなく携行食糧として万全のものを仕上げるでしょう!」
「ははは、期待してますよ」
 一抹の不安を感じながら、貴族は2つめの依頼を申し込むのだった。


■参加者一覧
茜ヶ原 ほとり(ia9204
19歳・女・弓
ベルナデット東條(ib5223
16歳・女・志
スレダ(ib6629
14歳・女・魔
にとろ(ib7839
20歳・女・泰
ラビ(ib9134
15歳・男・陰


■リプレイ本文

●お部屋拝見
 その部屋に入ったとき、花の香りがラビ(ib9134)の鼻孔をくすぐった。
 板張りの部屋は綺麗に片付いていて、礼法や地理についての専門書が部屋の一角を占拠している。
 埃避けの布をかけられているのはからくり用の白兵装備だろうか。
 ラビは生唾を飲み込み、おそるおそる異性の部屋に入ろうとした。
「時間がないですからとっとと入るですよ」
 スレダ(ib6629)がぽんと背中を押すと、ラビはバランスを崩しながら部屋に入り、とうとう完全に体勢を崩して倒れてしまう。
 高価そうな本への直撃だけはなんとか回避したのだが、あるものに気付いて激しく同様してしてしまったのだ。
「あわわっ」
 ラビの名誉の為明言するが、決して故意では無かった。
 気をとられ、体勢を崩したあげくに突っ込んでしまったのは、几帳面に折りたたまれた華乃香の肌着であった。
「えっと…。寝具には向いていないと思いますよ?」
 戸惑った表情でずれたコメントをする華乃香。
「そそそそうだねっ」
 ラビは顔を真っ赤にして立ち上がりスレダに対して抗議の視線を送るが、スレダだけでなく華乃香も含めた面々は全く気にせず寝具を部屋に運び込む。
「ラビ殿、製粉済みライ麦は土間に置けばいいの?」
「香辛料は他と離しておいとかないと匂いが移るですよ。材料が多すぎて華乃香の部屋と台所以外はつかえねーですね」
 複数の魅力的な女性と同じ部屋で寝ることが確定したことに気付き、ラビは顔だけでなく首筋まで赤くするのだった。

●試作は続くよどこまでも
 ベルナデット東條(ib5223)は、染み一つ無い額に浮かんだ汗を手ぬぐいでぬぐい息を吐いた。目の前の机にあるのは、小麦と塩と水のみで作った生地を折りたたんだものだ。
 それを大きな包丁で切っていくと、絶妙の歯応えと味を兼ね備えたうどんが完成する。
「パスタとは違うですね」
 スレダは一言断ってからうどんを一本手に取る。
 目で形状と色を確認し、指で弾力を確認し、鼻に近付けて味を知る。
「これなら味付けに幅が出るですから、飽きねーように出来ると思うです」
 持ち込んだ香辛料との組み合わせを実に楽しそうに思い浮かべていく。
「どうかな。1週間以上保たす必要があるから、もう少し加工する必要があるかも。ほら、アル=カマルほどではないけれど天儀も夏は暑いし」
「ですね」
 スレダはがくりと肩を落とす。
 この家に到着してから既に3日が到着している。考慮する必要のある要素が当初予想よりかなり多いため、現時点では1つも完成品が仕上がっていない。
「ん…。これなら2週くらい保つかな」
 ラビは笹の葉の包装を解き、3日前に焼いたライ麦パンの状態を目と舌で確認していく。
「皆さんのに比べると味は落ちるかも」
「その分長期保存に向いてるですよ。試作完成第一号ですかね。しかしどうしてここまで味にこだわった依頼になったのか」
 一口味見をしたスレダがコメントする。
「おねえちゃんも言ってたのだけど、危険な戦いの前に振る舞うご馳走として使うつもりじゃないかな」
 開拓者ならどんなときでも己の全力を出せるかもしれないが、本来それは非常に難しいことだ。士気をあげて実力を発揮させる美味い携行食糧を用意するのも、迂遠ではあっても有効な手段かも知れない。
「ふ、ふひひ」
 地の底から沸き上がってくるような異様な声が、庭のある方向から聞こえてくる。
 声そのものは美しいが、その美しさがより一層不気味さを引き立てている。
「これで試作品が…」
 澄んだ不気味な声は、修羅場をいくつも越えてきたはずの開拓者の肌を粟立たせる。
「この声…」
「言わないで、お願いだから」
 ベルナデットは涙目で華乃香の発言を遮った。
 開拓者とおまけ1名がおそるおそる庭に出ると、そこでは臭いに配慮した燻製用釜から茜ヶ原ほとり(ia9204)が何かを取り出しているところだった。
 4人に気付いたほとりは、既に見慣れた穏やかな顔で、盆に複数の皿を乗せて4人に近づいてくる。
 笑顔の裏に潜んだものに気付いてしまい、4人は逃走しようにも足が動かなかった。
「ちょ、それ生の豚肉…んむっ」
 優れた俊敏性を容赦なく活かし、ほとりは絶妙に熟成させた新鮮な豚肉をスレダに食させる。
 未加工なせいか不気味な形状に腰が退けていたスレダであったが、口の中に広がる豊潤な香りに目を細めて食べ始める。
「華乃香ちゃ〜ん」
「え、あの自分で食べられま…ふにゅっ」
 味噌玉を口に詰め込まれた華乃香は、最初に玄妙な味わいに驚き、続いて強烈な塩味に襲われ半ば意識を飛ばしてその場に座り込む。
「ラビ君にはこれ」
「漬け物? へえ、これ結構いけますよ」
 香辛料大目の漬け物を差し出されたラビは、マイスプーンですくって汗を掻きながら美味しそうに食べ始める。辛さのため汗が出てくるが、若く生命力に溢れた少年にとってはこのくらいが丁度よい。
「ベルちゃん、なんで逃げるのかなー?」
 甘く濃厚な干し柿をつまんだ白く細い指が、ベルナデットの口腔に侵入する。
「おねえ、ちゃ…」
 舌が指と柿を舐める音が、淫靡に響くのであった。

●夜
「ラビ君、どうしてこっち向かないのかなー」
「し、知りません!」
 ラビは部屋の隅に移動して布団を被る。
 が、女性陣の風呂上がりの香りがラビに緊張を強いる。
 穏やかな顔で容赦なく純情少年を弄るほとりの横では、スレダと華乃香が向かい合って話し込んでいた。
「かのかはやりたいこととかあるですか?」
「進路でしたら、開拓者ギルドに関係する職につくことになると思います」
 現時点では職員が私費で雇っている見習いでしかないが、このままいけば同心として採用される可能性が高い。
「いえそうではなくて。かのか個人としてやりたいことですよ。開拓者同心は仕事ですしね」
「え」
 かのかは布団の中で考え込み、1分近く経ってからようかう口を開く。
「えーと、そうですね。興味があるというか、やってみたいのは、レイシーさんのような活躍です」
 自分のからくりの名前が出たことに気づき、ラビが布団から顔を出す。
「ギルドのお使いのついでに戦うことはありますけど、私の場合戦うのは目的ではなく手段なので避けることがほとんどで…」
 かのかは布団の中から手を出し、手刀に練力をまとわせてみる。
 光輝刃という攻撃術の一種なのだが、実戦で使ったことは一度もない。
「マスターには知識と技術の習得を優先するよう言われていますけど、私は戦えるようにできているのですから、一度くらいそういう形でお役に立ちたいなあって」
 普段より幼い顔でとつとつと語る華乃香を、スレダは妹を見守る姉の顔で見守っていた。

●選考
 魅惑のカレーうどんをすすり、器の底に残ったカレーを黒パンで拭って食し、梅干しを齧ってから豪華な味噌玉を一口で完食する。最後の〆は杏を含むドライフルーツだ。
 いつの間にか審査員席に潜り込んでいたにとろ(ib7839)は、普段のフリーダムさからは想像し辛い上品な仕草で口元を拭い、そして、席の上で丸くなって寝息を立て始める。
「開拓者というのは、すごいな」
 依頼人である領地持ち貴族はなんとかそれだけ言ってから、かのかによる自主的な毒味が済んだ試作品を口に運んでいく。
 舌が肥えた開拓者による品々は、田舎育ちではあるが生まれながらの貴族の舌を楽しませる。
「料理人兼業の兵士として雇いたくなるな。味は合格点以上だ。すまんがレシピと材料費の一覧を」
 貴族は差し出された全ての試作品に合格点を出すと、部下と開拓者を呼んで携行食糧大量生産のための実務的な話し合いを開始する。
 領内の生産者に対する大量の発注が決まったのはラビの具沢山ライ麦パンだったが、戦闘直前に士気を高めるための食料として、今回試作された全ての料理が採用されたという。