【貧乏旅行記】空の旅
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/07/04 04:17



■オープニング本文

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 飛空船。
 別の儀に渡ることが可能な高度技術の結晶であり、富や力の象徴として扱われることもある。
 しかし華々しいものもあればそうでないものもある。
 具体的には、辛うじて飛べるだけの船も、現役で使われていたりするのだ。

●灼熱の空の下で
「船長! この先の航路でアヤカシの目撃情報が…」
「あー、あー、聞こえなーい」
 ボロ船の船長は両手で耳を塞いで現実逃避する。
 ここはアル=カマルの地方、というより辺境。
 このボロ船は、陸路での交易が難しい街や村を結ぶ重要な役割を果たしていた。
「現実逃避すんなこの馬鹿親父。船がアヤカシに落とされたら俺達全滅、ついでに食料や資材不足で人死が大量に出るんだぞ」
 親指で喉を掻ききる仕草をしながら、航海士は容赦なく話を進めていく。
「開拓者ギルドに護衛を頼むぞ」
「そんな、ただでさえ金が…」
「俺も船員もアヤカシに食われる趣味はねぇんだよ!」
 このような事情で依頼が行われたが、報酬が安いためなかなか人手が集まらなかった。

●天儀開拓者ギルドにて
「あの、なんでアル=カマルの依頼がここに?」
 ギルド内の掃除をしていたからくりの少女が質問すると、受付で暇そうにしていた係員は欠伸をかみ殺しながら答えた。
「条件が悪くてアル=カマルギルドで受理されなかったの。こっちでも成立しなかったら…あれ? ひょっとして興味あるの?」
 依頼書をじっとみつめるからくりに気付く。
「飛行船に乗ったことがないですから、少し」
「普通の依頼より危険だからお勧めはできないのだけど…。とりあえず依頼が成立したら着いていけるよう手続きしておくから」
 成立したとしても参加人数が極少数と予測していた係員は、安堵の表情を浮かべ必要書類の用意を始める。
 飛行船の予定ルートは無人の砂漠と荒れた海。絶景ではあるかもしれないが過酷な旅になるはずだった。


■参加者一覧
茜ヶ原 ほとり(ia9204
19歳・女・弓
ベルナデット東條(ib5223
16歳・女・志
スレダ(ib6629
14歳・女・魔
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
にとろ(ib7839
20歳・女・泰
棕櫚(ib7915
13歳・女・サ
ラビ(ib9134
15歳・男・陰


■リプレイ本文

●青空の中で
 空をいく船は、遠くから見ていると全く動いていないように見えた。
 そのくせ強い風が吹くと派手に揺れ、限界近くまで積載された荷物が今にもこぼれ落ちそうだ。
 龍や船を使う賊はこの航路には現れないが、アヤカシには手頃な獲物に見えたらしい。
 凶光鳥を初めとする数体の鳥型アヤカシが編隊を組み、その脅威を見せつけるようにしてゆっくりと近づいていく。
 距離が80メートルまで詰まったとき、荒れ狂う高空の風を貫いて1本の矢が飛来し、音を置き去りにして凶光鳥の巨体に突き立った。
 船に、正確には船の上の脅威にようやく気づいたアヤカシ達は、急角度で降下を開始し高度を速度へ変えていく。
 最大最強の戦力である凶光鳥の動きは明らかに鈍っており、第二、第三の矢は辛うじて直撃を避けるものの、続いてまとめて放たれた第四第五の矢に頭部と貫かれ、虚しく瘴気に戻り散ってしまう
「浪漫を邪魔するひとは、こうです!」
 キャラ崩壊が著しい茜ヶ原ほとり(ia9204)が、矢を放った体勢のまま雄々しく言い放つ。
「ぼろいくて小さいとはいえ浪漫は浪漫。飛行船には指一本出させません!」
 空飛ぶ乗り物は、彼女にとっては義妹に次ぐほどの大好物なのだ。
 客観的に見て非常にはしゃいでいるほとりではあるが、飛行船の護衛に関して手抜かりはない。
「後はなんとかなるですね」
 スレダ(ib6629)が精霊の祝福を受けた矢を放つ。
 ほとりの弓と比べると射程も使用可能回数も劣るが、ひとつ圧倒的に優れた点がある。
 この術は、抵抗することはできても回避することはできないのだ。
 高速で回避を始めた怪鳥や大怪鳥に百発百中させ、アヤカシに甲板を踏むことを許さないまま全滅させてしまった。
「おーい。全部済んだかー?」
 船の下から男の声が聞こえてくる。
「済んだでっ」
 慣れない大声を出そうとして、一瞬声につまる。
「済んだですよー! 警戒はにとろさんが引き継ぐので上がってきて欲しいです」
 改めて腹の底から声を出す。
「ほーい。…うおっ、船板が剥がれかけてやがる」
 アルバルク(ib6635)が舷側の向こう側から顔を出し、不規則に加速しつつ上昇する。アルバルクが乗っているのは長期間の使用で古ぼけてしまった滑空艇であり、彼は優れた膂力と敏捷性で無理矢理なんとか姿勢を保っていた。
「そういや、自分で操縦ってのはあんまりなかったかねえ…」
 甲板の定位置に止めて滑空艇から降りてから、飛行船下方の戦闘で撃ち尽くした弾を再装填していく。
 先程までの不安定な操縦とは正反対に、再装填の動作には無駄が無く美しささえ感じられた。
「また出番がなかった」
 ベルナデット東條(ib5223)はスレダ達の反対側を警戒しながら、ほとりに結んでもらった命綱の位置を直し、拗ねたようにその場にしゃがみ込む。
 アル=カマルの主要都市の1つから飛び立って今日で3日目。アヤカシの襲撃は既に20回近いが、襲撃のほとんどは小規模であり今日のように比較的大規模であったとしても遠距離攻撃の使い手だけで撃退を完了してしまっていた。
 要するに、これまで一度も剣を振るっていないのだ。
「いいもん。頑張るもん」
 はしゃぎすぎた義姉にあまり構って貰えていないせいか、ベルナデットは明らかに情緒が不安定気味だ。
 様々な思いを乗せて、おんぼろ飛行船は着実に予定を消化しつつあった。

●空の旅
 空と海ははるかに遠く、巨大すぎる空間が広がっている。
 上には青い空、行く手には大海原と砂の海、下方にはわずかな農地。
 棕櫚(ib7915)が上空から見るアル=カマルは、その自然の厳しさを完全に表現しきっていた。
「おおぉっ、すごいなっ、本当にここまで上がったぞっ」
 アヤカシではなく悪天候を避けるため限界まで上昇した小舟が、今度は姿勢制御可能なぎりぎりの速度で高度を下げていく。
「うおおっ、空気がかべっぽい、砂もまじってる!」
 目を瞬かせ、入り込んだ砂粒を押し流そうと涙が流れていくが、棕櫚はどこまでも朗らかに笑っていた。
「2時方向から、2体、迫って来てます…っ!」
 そんな棕櫚に対し、ラビ(ib9134)が大声で警告し…風に負けて甲板に転がった。
「すごいぞっ。アヤカシの前で芸をするなんて余裕たっぷりだ!」
 舷側に移動し、精一杯体と槍を伸ばして怪鳥をたたき落としながら完成をあげる。
「は、ははっ。楽しんで頂けると」
 偵察目的での人魂の多用により、ラビは一時的にではあるが練力が底をついてしまった。朦朧としながらもなんとか体勢を立て直し、頭上から一斉に舞い降りた鳥アヤカシを両手の小手で辛うじて防ぐ。
「私が囮になる。ラビ殿!」
 ベルナデットが敢えて目立つ動作で剣を振るい、船のまわりを旋回中のアヤカシに誘いをかける。
「はいっ、すぐに向かいますっ」
 旅を始めた頃に比べるとずいぶんと鋭さを増した蹴りで近くのアヤカシを蹴散らし、ラビはベルナデットを背後から襲いかけたアヤカシのさらに背後から奇襲を仕掛けるのだった。

●男達の夜
「星がおおいっ。月もでっかいぞー」
 かのかに渡された毛布にくるまり、棕櫚がきらきら光る瞳を晴れ上がった夜空に向けていた。
「さて」
 ほとりはベルナデットの髪で遊ぶことで…もとい凝った編み方をすることでベルナデットの動きを封じ、笑顔で宣言した。
「女子トーク、はじめましょ」
 何時も通りの上品な笑顔であるのに、ひゃっほー、とはしゃぐ気配が感じられた。
「うおおーい。勘弁してくれ」
 小さな瓶に入った蒸留酒をちびちび舐めていたアルバルクが、心底嫌そうに声をあげる。
「俺が寝ているときにしろよ」
「ええっと、アルバルクさんも恥ずかしいのでしょうか」
 数枚まとめて毛布を被ったラビが、それでも寒そうに体を震わせながら尋ねてくる。
「逆だ逆。いい年した野郎が嬢ちゃん達の好みに合う甘い話なんぞできる訳ねぇだろ。おっさんに無茶な要求すんじゃねぇ」
 かのかにシャッター付カンテラを渡してから、アルバルクはラビの耳に唇を近付ける。
「下半身の武勇伝を披露なんてしたら確実にふられっちまうぞ。その手の話を聞きたいなら当直の時にでも話してやるから、せいぜい気をつけな」
 みるみる上気していくラビの肩をぽんと叩き、アルバルクは仮眠をとるため小さな船室に入っていった。
「何を話されていたのですか?」
 見張りは続けているが、明らかに注意が話に向かっているからくりが質問してくる。
「な、なんでもないよ、うん」
 ラビの下手くそなごまかし方に、かのかは戸惑うように首をかしげる。
「むぅ…。すこししねる…のだ…」
 出発してからずっと元気に動いていたから疲れが出たのか、棕櫚は隣のスレダの体温を感じながら、あっという間に眠りに落ちていく。
「それじゃあ私から。ベルちゃんの素晴らしさなら一日かけても終わらないから、どのエピソードにしよう?」
「おねえちゃん、お願いだから」
 ちょっぴり涙目になったベルナデットが抗議するものの、自重を投げ捨てたほとりは止まらない。
「やれやれですよ」
 スレダは棕櫚に命綱を結びつけてやりながら、延々と続くほとりの妹自慢を聞き流していく。
 最初の夜は真面目に聞いていたのだが、さすがに3日目となると内容が重複しており、最初の形容詞を聞いただけで何について語るつもりかだいたい分かる。
 船を漕ぎ始めたラビに毛布を掛けてやってから、スレダは顔を赤くするベルナデットを見物しつつ、時間を潰すためほとりに付き合うことにした。

●最後の襲撃
 閃光が大型の鳥の目を焼く。
 しかし翼持つ異形の勢いは衰えず、灯りを持っていたからくりが回避し損ねて風に吹き飛ばされる。
「おもーいっ」
「そんなっ」
 とっさに拾い上げる棕櫚に、涙目で抗議するかのか。
「ええい畜生速いなおいっ」
 アルバルクは銃撃を浴びせる。が、大型の鳥型アヤカシは機敏な動きで直撃を避け、棕櫚に片手でつり下げられたかのかを襲う。
「下がれ! 船尾は任せる!」
 ベルナデットはカマイタチを放って凶光鳥を牽制し、スレダと姉の矢が到達するまでの時間を稼ぐ。
「あの猫はどこ行った!」
「多分下ですね。仕事は真面目にこなしているはずです。多分」
 スレダは淡々と答え、かのかを振り回しながら船尾を防衛する棕櫚を援護していく。
「地図は?」
「そこに貼って…」
 ほとりは説明を途中で放棄し、荷物を固定する縄を狙ってきた蛇型アヤカシを大量の矢で迎撃する。
「おう、いつの間にか随分進んでたな」
 地図には毎晩アルバルクがつけた焦げ目があり、既に目的地の間近であることが一目で分かる。とはいえ現在周囲に見えるのは砂漠ばかりで、専門知識を持たない者には位置どころか方向を知ることも困難なのだが。
「あと少しだが練力の残りは考えながら戦えよ!」
 開拓者達は、練力が不足し疲労の溜まった体に鞭打ち防衛戦を継続するのだった。

●到着
 発着場に滑空艇が滑り込む。
 長期間の航海の疲れが出たのか、操縦者であるにとろ(ib7839)は今にもその場で眠りそうだ。しかし船長に懇願された内容が脳裏に浮かび、懐から一枚の書類を取り出し駆け寄ってきた役人に渡した。
「確認しました。愛しきマイサン号の寄港を歓迎します」
 降下してくる小型飛行船と書類の双方を確認し、役人は見事な営業用笑顔を浮かべる。
「にゃ」
 にとろは軽く手をあげてこたえると、風呂と食事を用意するために街中に走っていった。