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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ―――三神睡在塔來保護陵墓。我奉獻地之神在這個地方――― (三柱は墓所を護る塔に眠る。ここは地なる神を奉る場所) ●道(タオ) 岩山にある遺跡の入口の封印解除から、数日後。開拓者ギルド本部の奥の個室に通される、開拓者達。 「皆さんが持って帰ってくれた、遺跡入口部分の古代文字、少しだけ解読が進んだわよ♪」 白虎しっぽをぱたぱた動かす、白虎獣人。虎娘の司空 亜祈(しくう あき:iz0234)の声は、嬉しそうに。 「でも、見たことも無い文字らしきものが、大半を占めています。読めたのは、ほんの一部ですね」 解読結果の紙を持つのは、虎猫獣人のギルド員。虎娘の兄の喜多(きた)だ。 「どうして古代人の文字の一部が古泰国語に似ているのかは、全く不明です」 「あら? 『天』の所為じゃないの? 兄上もそう思うって、言ってたじゃない」 「コラッ、亜祈。余計な事を言わないの! ギルドの公式見解じゃないんだから!」 意味深な発言をする、虎娘。長兄は虎猫しっぽを膨らませて妹をしかる。が、もう遅い。 開拓者の興味深げな視線が向いていた。ギルド員に、どういう意味だと問いただす。 「…最初に言っておきますが、これは僕達兄妹の個人的意見ですからね!」 個人的意見だと、念押しする長兄。ギルド内部でも、話題に上がらない話だからだ。 「去年起こった、泰国の混乱はご存知でしょうか? そのとき、『宝珠で作られた三つの鍵』と言うものが登場しています。 この三つの鍵、千五百年前の神話時代にも、登場しているんですよ。黄帝…初代の天帝さまが『天から授かった』って」 「古泰国語は、その神話時代に初代春王朝…黄帝の政権が使っていた文字なのよね」 「古代人の文字と共通点のある、古泰国語といい。鍵を授けた『天』ってなんだろうって、妹と話してたんです 虎猫しっぽを揺らす、ギルド員。現代に生きる自分には、分からない事だらけだと愚痴る。 「話しを戻しますね。僕が気になったのは、『陽が極まれば陰に変ず』って部分でしょうか。 これは、古代人の唐鍼(からはり)さんの伝承にも、遺跡の入口にも書かれています」 「天儀風に言えば…『精霊力が限界に達すると瘴気に変化する』かしら?」 泰国出身の猫族兄妹、ものすごく悩んだ末に、天儀の言葉に言い直した。 「陽や陰が上手く説明できないわね。道(タオ)に近い考えだと思うのだけれど…口で伝えるのは難しいわ」 「えっと…泰国の『道(タオ)』は、なんて説明したらいいでしょうか…万物の心理? 神話時代の羌大師が言ったように、道(タオ)は、全てをひっくるめて、『万物的道』なんです」 説明しているギルド員も、頭の中がこんがらがっている。半分くらい聞き流した開拓者も。 はっきり言って、理解が面倒になる話だった。 ●遺跡探検隊 更に数日後、開拓者ギルドに呼び出された。今回は、遺跡探索の依頼についてらしい。 「分かった範囲では、三柱の一つ、地の神とは、どうも陰に…ああ、つまり瘴気に関する神らしいです。 遺跡周辺に瘴気が強かったり、古代人のもたらした記述に『陰が多い』とあったのも、その為かもしれません」 「古代人の唐鍼さん達って、瘴気の神と護大を特に崇めているらしいわ。そう考えると、とても面白い遺跡よね♪」 真剣な長兄に対し、楽しそうな妹。妹を見る長兄の緑の瞳が、キラッと輝いた気がした。 「亜祈、遺跡に興味ある? 古代文字、もっと読んでみたい?」 「ええ、とっても興味あるわ。解読するのは大変だけれど、面白いんですもの♪」 「皆さんと遺跡行ってみる? 遺跡の内部には、古代文字がたくさんあるかもしれないよ」 「えっ…でも、真っ暗な遺跡なんて嫌よ! 真っ暗な夜にしか、入口開かないんでしょ? 入口周辺にあった霧だって、遺跡の中に吸い込まれたって、皆さん言ってたもの」 「じゃあ、行かなくて良いよ。泰国から双子呼ぶから。姉上が役に立たないから、兄上を手伝ってて」 「ちょっと待って、なんであの子達を呼ぶの? 私が役に立たないですって!?」 「あのね、瘴気多いから、兄上は遺跡内部に入れないよね。でも亜祈は入るの嫌なんでしょ? 姉上は霧が怖くて中に入れないって、双子にきちんと説明して、協力してもらうから安心してよ」 「兄上、待って! ちょっと、考えさせてちょうだい」 淡々とした口調の長兄。本気で双子の弟妹を、故郷から呼びつける気らしい。 虎娘は叫んだ。白虎しっぽが膨れて、ブンブン振られる。双子を呼ばれれば、姉の面目丸潰れだ。 「遺跡は瘴気が多い所だから、陰陽師の亜祈にはぴったりだと思ったんだけどね。 夜光虫で照らせば両手があくから、書き物もしやすいし、瘴気回収使えば練力は切れないよ。 それに入口の封印は解かれたんだから、わざわざ新月の日に行く必要も無いはずだけど」 利点を強調する長兄の言葉に、ぴくりと反応する白虎耳。ものすごく、考え込む。 「でも亜祈は、行かないよね? だったら、また兄上と留守番してようか。双子が情報持って帰ってくれるからね」 「私は遺跡に行くわ! 霧なんて、遺跡の上の方だけでしょう? 見てなさい、ちゃんと古代文字を探して、兄上を見返してやるんだから!」 ピンと、虎しっぽが天を向く。虎娘は人さし指で長兄を指差し、宣言を。 霧への恐怖と、姉の威厳の消失。天秤にかけた結果、姉の威厳が勝った。 「じゃあ、でかける準備しないと。皆さんは、もうすぐ出発するよ?」 「浪志組に行って、お休み貰ってくるわ。帰ってくるまで、待ってってちょうだい!」 白虎しっぽを立てたまま、虎娘は部屋の外へ出て行く。小さな足音は、遠ざかっていった。 「…というわけで、今回は妹が同行するので、よろしくお願いします。灯り係として、使ってください。 もしも古代文字が発見できれば、現地での解読も可能になるかもしれません」 我が道を行く虎娘を押し付けられた、開拓者達。ギルド員の説明に、顔が引きつった。 「あ、妹が何かゴネたら、たぶん、空腹で機嫌が悪いんです。食糧に月餅を持たせておきますね。 皆さんの分も妹に預けるので、適度に休憩取って、おやつにしてください」 開拓者に頭を下げる、ギルド員。料亭の跡取り息子は、妹の扱い方を心得ていた。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
リスティア・サヴィン(ib0242)
22歳・女・吟
海神 雪音(ib1498)
23歳・女・弓
劉 星晶(ib3478)
20歳・男・泰
神座早紀(ib6735)
15歳・女・巫
戸隠 菫(ib9794)
19歳・女・武
シマエサ(ic1616)
11歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●神話時代 最深部を守る扉に書かれた古代語、その書き始め。亜祈が解読し、読み上げた。 ―――まず混沌の暗闇があった。これが空であり、万物の道である。 混沌は混沌であるがゆえに唯一つであり、名前をつけることが叶わなかった。 時に一つにならんとするのは、元は一つであったが故である――― 「…それ、泰国の伝承に似ていませんか?」 「私も聞いたことあるですにゃ!」 黒猫耳がピクリと動いた。劉 星晶(ib3478)の顔色が変わる。 シマエサ(ic1616)の茶色い瞳も見開かれた。猫耳がピンと天を向く。虎耳を伏せる亜祈。 「ええ。泰儀を支える精霊さまに関する伝承よね」 三人の猫族たちは、驚きを隠せない。泰国の獣人は、猫族と呼ばれる。 泰国では、精霊が混沌を白と黒に境界を設け、白を持ち上げて天、黒に座してこれを地と名付けたとされる。 「古泰国語と古代人の文字の一部が似ているのは…起源が同じ…」 柚乃(ia0638)は、ぽつりとこぼす。最近、気になっているコト。 「つまり…儀に逃れた『世界派』の末裔だった、とか?」 『あら、おもしろい意見ね』 七本の狐しっぽを揺らす、玉狐天。柚乃の相棒、伊邪那(いざや)は頬杖をついた。 「私は古代人の文字が古泰国語に似ている理由は、元々、古泰国語は古代人の言語から生まれたからだと思いますにゃ」 猫耳をピンと立て、シマエサは主張。隣で頷く、容貌魁偉なからくり。みごとな禿頭が特徴の相棒、アタマウスである。 「『天』とは、古代人の世界派を指す可能性もあるか」 『なかなか興味深いのう』 柚乃の意見に、羅喉丸(ia0347)は考え込む。羅喉丸の肩に座った天妖の蓮華(レンファ)は、酒入り瓢箪を傾けた。 「言語だけじゃなく、儀の万物…儀そのものも含め…世界派の古代人達が、瘴気のない空で生きて行く為に作ったのではないかと思いますにゃ」 コクンと頷きながら、シマエサは続ける。 「…もしかしたら志体や、私達猫族もにゃ」 シマエサの言葉に、亜祈の虎しっぽが大きく振られる。 「護大派があれだけ肉体改造できるのだから、古代人は新しい人間を作る事も出来ると思いますにゃ」 第三の目や、二本以上の腕。護大派の古代人は、そんな身体を持っていた。 『雪音、雪音!』 「…どうしました…?」 上級羽妖精の雪花(きら)が、海神 雪音(ib1498)の服を引っ張る。 『あれを、見て下さい』 雪花の指差す先。扉の真ん中の高い所に、丸い宝石がはめ込まれている。 「…猫族にとって、満月は祖先の姿を映し出すのでしたね…?」 亜祈に尋ねる雪音。先日、星晶が口にした言葉を、反芻しながら。 「…それから、陽極まれば陰に転ずる…」 茶色の瞳は、ある確信を持って、扉の宝石を凝視する。 『これが満月なのでしょうか?』 ふわふわ飛びながら、雪花は宝石の近くへ。 「術視で、視てみますね」 術視「参」を発動させようと動く、神座早紀(ib6735)。力なく左右に首を振る。 瘴気が濃すぎるのか、瞳に集まるはずの精霊力の手ごたえが無い。 「護衆空滅輪の結界を張って、瘴気を払おう」 落ち込む早紀の肩をたたく、戸隠 菫(ib9794)。片目を閉じて笑うと、印を結んだ。東房の寺院に伝わる儀式を行う。 護衆空滅輪。力なき者を護り、邪を祓い寄せ付けぬ強固な結界を構成する、武僧の技法。 菫を中心に、六角形の方陣が出現し、強く輝く。精霊力が周囲に満ち溢れるのが感じられた。 胸元に手を当て、目を閉じていた菫。すっとまぶたを持ちあげ、青い瞳で岩壁を見つめる。 「八咫烏…うん、頑張るから」 昔の天輪宗の僧侶たちが祈りを捧げていた、空飛ぶ建物、八咫烏。冥越にある旧世界への精霊門を開く為に、頑張ってくれた。 今度は、菫がやる番だ。東房国の安積寺にて生を受け、天輪宗の僧侶から名前を授かった菫が。 ●守護者 遺跡の入口から、しばらく歩く。柚乃のマシャエライトと亜祈の夜光虫が、主な光源だ。 松明は、羅喉丸、雪音、星晶、シマエサが交代で灯してくれる。松明に照らされた先に、最初の扉があった。 岩壁で出来た扉には、丸い宝石が埋め込まれている。その周囲には、古代文字があった。 (父さんや妹なら大喜びかな?) 解読を試みる亜祈を見ながら、早紀はふっと思い起こす。 ―――神は岩の奥に眠られた。光なき場所へ――― 「光なき場所? 遺跡といえば、中には明らかに人工物と思しき、光源は備えてあったりするのですけど」 宝物の額飾りを傾け、柚乃は首も傾げる。自分の光源を移動させ、亜祈の側へ。 「あ、これをお日様と思えば…っ」 見上げる虎耳に向かって、光源を指差し笑った。少しだけ、亜祈の表情が和らぐ。 「…亜祈さん、どうぞ…。…甘い物で少し落ち着いてくれれば良いのですが…」 キャンディーボックスから、飴を取りだす雪音。淡々とした口調と、変化が乏しい表情は感情を読み取りにくい。 お礼をいい、飴を口に入れる亜祈。隣でシマエサから、大きな声があがる。 「見つけましたにゃ! ちょっと、目尻が下がりましたにゃ♪」 雪音の目元を指差し、満面の笑みを浮かべた。突然姿を消した「ご主人様」を発見した時も、こんな表情だったのかもしれない。 岩壁の脇には、小さな祭壇のようなものがあった。見つけた羅喉丸は、勘に従って祈る。 「三日月は秋刀魚に似てるにゃ」 「秋刀魚、まだ供えていませんよ?」 『だから御前はアホなのじゃ』 星晶の声かけに、蓮華は出来の悪い弟子の頭をはたいた。 祈りに答え、丸く光り輝く宝石。霧を吐きだす。霧は何体もの人型を取った。 亜祈の悲鳴、虎耳を押さえてしゃがみこむ。張り詰めた空気の中で、弦の音が響いた。 「…アヤカシ以外の何かのようです…」 乾坤弓を手にした雪音の声。鏡弦を使って、調べてみた。 柚乃は前方に右手をかざした。力ある言葉を唱える。 槍のように鋭い氷の刃が生まれた。霧の身体めがけて放つ。 続けて、雪音も弓を構えた。矢じりが黒い靄を纏う。氷の後を追い、矢が飛ぶ。 ところが、氷と矢は霧を突き抜けた。身体には効果が無い。 「何かの術で作られた物なら、術視で解析できるかもしれません。…右胸に結晶が!」 早紀の瞳が、不思議な色合いを帯びる。霧の中にコア結晶が見えた。 「霧のアヤカシはコアを破壊すると倒せたから、この霧の守護者が同じようになっている可能性あるよね」 早紀の前に立つ菫、不動明王剣を構えている。邪を払い、人々を導く力があるといわれる深紅の剣を。 「亜祈はあの霧状の相手は苦手のようですから、あまり時間を掛けてはいられませんか」 震える亜祈を背中にかばう星晶。大切な者の危機にはどこまでも懸命で、どこまでも物騒。 短い気合と共に、拳を突き出す。同時に紅の波動が放たれ、霧の右胸を撃つ。 小さな音がした。霧の中で、何かが割れる音。敵の身体が霧散する。 「中に核があるのなら、そこには打撃が有効だろう」 「左足の方です」 早紀の声に、羅喉丸は金剛覇王拳を握りしめた。鋭い眼光で、敵の観察を。見極めた。 目にも止まらぬ速さで、三発の拳を叩きこむ。とたんに霧散する霧。 武をもって侠を為す。それが、羅喉丸の生き方。 敵の居なくなった扉の前で、早紀はアロマキャンドルを点灯する。亜祈の側に置いた。 「なるべく早めに下の階層へ降りたいよね。やっぱり、大事なものは奥まった処にありそうだもの」 持ってきた節分豆を食べながら、菫は声に出す。護衆空滅輪の連発は、練力消費が大き過ぎた。 「少しは、落ち着きました? そろそろ季節ですし、どうぞ食べて下さい」 早紀が皆に差し出したのは、月見団子。今年は泰国の月敬い、三山送り火を見に行けなかったのが残念だったらしい。 (ここはショック療法という手もありかもしれませんね) 虎耳を伏せたままの亜祈を見ながら、早紀は真剣に考える。霧の中にとにかく突っ込ませる、とか。 白鳥羽織が身震いを起こす。すぐに考えを散らした。 早紀が男性の群れに突っ込むなんて、無理。自分が出来ない事を、他人にやらせる訳にもいかない。 「亜祈にゃん、あばばばばーにゃ」 猫耳を伏せたシマエサ。相棒のアタマウスが、シマエサの荷物から焼き秋刀魚を探しだす。 「こ、これ…亜祈にゃんにあげますにゃああ!」 シマエサは半泣きになりながら、亜祈の鼻先へ。止まらない涙を、天下無双羽織の裾で吹いた。 「遠慮しなくていいにゃ!」 秋刀魚の匂いに惹かれない猫族は居ない。大好物を上げる行為に、シマエサの肉体が悲しむ。 お返しの司空家の糠秋刀魚を食べて、シマエサが大喜びするのは、もうしばらく後の話だ。 ●地の神 遺跡の内部の扉の封印は、すべて入口と同じ手順だった。 持ってきた灯りを全て消す。真っ暗な部屋の中で浮かび上がる、宝石の丸い光。 祭壇と思わしき場所で祈りを捧げ、宝石を破壊する。すると岩壁の扉が開くのだ。 「何とか無事に入口は開きましたか。この中に何があるのか…とても楽しみです」 星晶の声は、期待に満ちる。普段から、暇さえあれば「面白いモノ」を探して世界を巡っていた。 「月の無い夜に解ける封印…さて、何があるのやら」 ぴこぴこ動く、黒猫耳。ジン・ストールをなびかせ、最深部に踏み込む。 「地の神とは一体何でしょう? 頑張って出来るだけ多くの情報を探り当てないといけませんね」 星晶と距離を取りながら、早紀も歩く。これ以上、近付くと条件反射で右ストレートが出そうだ。 「ここに護大を護っていると言われる三柱の一つが祭られていると言う事は、何か今後の鍵になるものがあるのかな?」 緊張気味の亜祈に、菫は声をかける。限界に達しないように、気をかけていた。 「ふふ、亜祈さん、双子達に負けないようにしないとね。もちろん、あたしも双子達に負けないようにしなきゃ」 明るい菫の声。歯に衣を着せぬ言動に、亜祈はきょとんとした。次いで姉の笑みを浮かべる。大丈夫そうだ。 「どうした? 歩けるか?」 「体がダルイですにゃ〜」 猫耳をぺたんこにしたシマエサが、地面に座り込んでいる。瘴気に当てられてきたようだ。 羅喉丸が背負うとすると、からくりが肩をつかんだ。無言で、首をふるアタマウス。 主を運ぶのは、相棒の自分の役目。仲間を守るのは、開拓者の務めだと。 「蓮華、頼めるか? 闇を見通す暗視、瘴翼による高所の探索、呪声による非物理攻撃だ」 『良い心がけじゃな』 アタマウスの意を組み、羅喉丸は蓮華を呼んだ。自分ではできない、苦手とする部分を相棒に任せる。 「…伊邪那、古代文字を探せます?」 『当然でしょ』 柚乃に召喚された、伊邪那の狐しっぽが自信ありげに動いた。周囲の探索は、相棒に任せる。 ひたすら空間の測定にいそしむ柚乃。懐中時計「ド・マリニー」は瘴気と精霊力の濃度を知ることができた。 「こう瘴気が多いと…古代人の住居に適してます?」 柚乃の声が、小さく震える。あまりにも、瘴気が多かった。魔の森のように。時の蜃気楼の発動も望めないだろう。 「すっごい濃度だね、アタシに任せてよ」 菫が印を握った、数度目の護衆空滅輪。精霊力が満ちると、少しだけ生き返った気がする。 『雪音、みつけました。あなたなら、古代文字読めますよね?』 雪花は、相棒の雪音と、亜祈の服を引っ張る。羽妖精の指差す場所の解読を試みた。 ――――――神は許さぬ、陰陽を持ちし者。空から外れし者を。 眠りを覚まそうとする者は、後悔するであろう。神の足が罰を下す、その瞬間に――― 「…陰陽を持ちし者…空から外れし者ですか…?」 雪音は眉根を寄せた。様々な意味に取れる言葉。おずおずと柚乃は切りだす。 「先日、箱庭の人工天球で時の蜃気楼を試したんですけどね…遠くに林立する四角い塔を見たんです…」 箱庭。天儀の北に発見された、精霊力に満ちる小さな儀。創られた天の国。 「三柱は墓所を護る塔に眠るか、護大の眠る墓所と関係があるんだろうな」 羅喉丸は先日、精霊門を通り、旧世界へ行ってきた。昼夜はあるようだが、陽の当らない瘴気だけの世界。 ―――いくつもの足を持っておられる、地の神たるゆえん。最も太き四本は、神の御身を支える。 眠りし塔は神の眷属が守る。ある者は羽を持ち、ある者は角を持ち、ある者は姿を持たぬ――― 「唐鍼によって伝えられた墓所には、三つの封印と、それぞれに対応した三柱なる存在が安置されているという」 『この遺跡はその内の一柱を奉る場所なんじゃな?』 「おそらく」 羅喉丸の肩に腰掛ける蓮華は、出来の悪い弟子に問い掛けた。 「あ、こっちの部分は、俺でも少し読めそうです」 ピコピコ動く、黒猫耳。星晶は最初の部分を読み、翻訳しようとして耳を伏せる。 「どうです?」 「なんて書いてありますにゃ?」 早紀と、からくりに背負われたシマエサは興味津々だ。亜祈を手招きし、応援を求める星晶。 ―――目覚めし神は、大いに怒られた。地を割りし炎は、全てを溶かす。 呪いの声は響き渡り、植物は神にひれ伏した。赤き眼光は、全てを塵に返す――― 「すみません、こっちに来てくれませんか?」 遠くの方で、柚乃が皆を呼ぶ。伊邪那が見つけたのは、行き止まりだ。 行き止まりの奥は、一段高くなっていた。大事そうに置かれた物がある。 いくつもの赤い瞳に、何本もの足のようなもの。いびつに開いた口と、鋭き牙。奇妙にねじれた身体。 生きる者としての本能が、視線を反らさせる。おぞましさを集約させたようなモノだった。 「…直視できるものじゃないな」 羅喉丸にすら、そう言わしめたもの。台座に書かれた古代文字を解読して欲しいと、蓮華が指差す。 ―――神は知っておられる。大いなる者の一部であることを。 常に神は陰と共にある。御身が欠けることなし。 我らが神、「アマガツヒ」の真なる姿は、陰なる物。硬き結晶なり――― |