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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ●泰国正史の主流説 割拠時代の宮廷における最高権力者は、「三公」と呼ばれた。 行政を司る、大司徒。監察を司る、大司空。軍事を司る、大司馬。 天帝が天から授かりし、三本の鍵。泰国を治める者の証を、管理する者達。 どれが欠けても、泰国は成り立たぬ。どれが突出しても、泰国は成り立たぬ。 大司空と大司馬が欠け、大司徒が突出したのが、割拠時代の始まりであった。 当時の泰国は、飢饉と水害に見舞われ、一揆が頻発。三公は国家を安定させるための策を、天帝に申し上げる。 大司徒の言「国の安定を祈るための建物を建てとう御座います。そこには、天帝の御印である、三本の鍵を収めることをお許し下さい」 大司空の言「民が安心して田畑を耕せるよう、土地を改める事をお考えください。水が行き渡れば、土地は蘇ります」 大司馬の言「各地で暴動が起きております。今は反逆者を討伐し、治安維持に努めるべきでありましょう」 天帝が採用したのは、大司徒の言であった。 ●料亭の書物 曾頭全との戦いは、ようやく一段落する。猫族の兄妹は、実家の料亭で舞い上がっていた。 「まさか、天帝さまのお姿を直接拝見できるなんで、夢みたいなひと時だったね!」 「ええ、私なんて謁見出来たうえに、会話までしていただけたのよ♪」 泰国に住む一般市民にとって、春華王は天上人。泰国の命運をかけた作戦会議で、お目通りが叶う。 不謹慎と分かっていつつも、司空 亜祈(しくう あき:iz0234)と兄の喜多(きた)は夢見心地だった。 「兄上。すぐに、記録に書き加えてちょうだい。 天帝さまとの謁見よ、謁見! それから、伝説の羌大師との遭遇よ、遭遇! 他にも、精霊さまとか、魔神とか…、とにかくいっぱいなの!」 「はいはい、分かってるよ」 料亭の跡取り息子は苦笑。妹に急かされ、なにやら、ぶ厚い書物を取り出した。 「亜祈。あれは、なんですか?」 烏龍茶を飲みながら、同席した開拓者の一人が尋ねる。開拓者達は、司空家の料亭で昼食を食べていた。 「うちの記録よ」 「記録? 料亭の記録かい?」 「ええ、うちの記録よ」 おおらかな虎娘、おおらかに伝える。別の開拓者の表情が曇った、…意味不明。 「こら、亜祈。きちんと、分かりやすく説明しないダメだよ」 「だって、うちの記録じゃない。他に言いようが無いわよ?」 「もう…亜祈は、ギルド職員には向かないね。絶対、無理!」 料亭の跡取り息子が、会話に割り込んだ。長兄は、開拓者ギルドの受付係でもある。 「まぁまぁ、兄妹喧嘩はしないでください」 「じゃあ、ギルド職員を代表して、あたい達に分かるように説明してくれるカナ?」 「そんな大層な物じゃないですよ。うちに代々受け継がれている、日記帳みたいなものです」 「日記帳? 料亭の営業記録なの?」 蒸し饅頭を食べながら、別の開拓者達が尋ねた。水餃子にも、手が伸びる。 「言うなれば、民間の歴史書ですね。これには泰国で起こった出来事を、書き留めているんです。」 「民間の歴史書…、なにを書いているのでございますか?」 「そうですね…近い所では『天儀との国交樹立』や、『泰国製の飛空船の製造開始』でしょうか」 今では普通に行き来できる、泰国と天儀。でも、国交開始から百年に満たないのだ。 「どれくらい前までの歴史が、刻まれているのかしら?」 「曹孫劉・割拠時代の初期…約四百年前のご先祖さまが始まりと、伝え聞いています」 「天儀では、三国時代と呼ばれている頃なのね」 「…あの口伝、『大司徒は姿無き鬼に憑かれた』と残した方ですか?」 「そうです。口伝は、うちの膨大な記録書を、簡単にまとめたものらしいです。 でも、うちの家系が、本当に大司空に連なる血筋かどうか、分かりませんよ」 「兄上、なんてこと言うの。ご先祖さまは、偉い役職に決まってるじゃない!」 「妹はああ言って、譲らないんですけどね。でも泰国の民間の家系図は、アテになりません。偽物も横行していますから」 「ご先祖さまは、大司徒に宮廷から追い出された被害者よ! うちの記録は、正史と違うんだから!」 「まぁ、確かに始めの方の記録は、かなり違いますけどね。三本の鍵の行方を書いてあったりしますし」 猫族兄妹の言葉に、開拓者たちは顔を見合わせる。そして、書物に視線が集中した。口々に主張する。 「えっと、皆さんが言うのは、朝廷さえも知りえなかった、宝珠の鍵の秘密を知りたいんですよね?」 「残念だけど…、うちの記録には、鍵の秘密なんて書かれていないわよ」 困惑する、猫族兄妹。大地を動かすための鍵という話自体、初耳だったのだ。 「それでも割拠時代について興味があるのでしたら、ちょっと待ってくださいね」 料亭の跡取り息子は、席を立つ。妹を伴い、料亭の奥へ。下の双子を呼ぶ声がした。 「…勇喜(ゆうき)、伽羅(きゃら)、居る? ちょっと手伝って」 元気な返事が聞える。しばらく待つと、双子が数冊の本を携えてやってきた。 「がう、お待たせなのです。これ、ご先祖さまの記録です」 「にゃ、お待たせなのです。これ、泰国の歴史です」 白虎しっぽを揺らす弟と、折れた虎猫耳の妹から、ぶ厚い書物を受け取る。 泰国の言葉で書かれた、歴史書。料亭の四人兄妹が、天儀の言葉に翻訳して読んでくれるらしい。 「うちの記録は、異説の一つと言ったところですね。正史の主流説と読み比べると、面白いと思います。 ああ、曹孫劉・割拠時代前後に成立した三冊の実用書『三書』とは、別物ですよ」 「大丈夫よ。割拠時代の初期の記録だから、合わせてたったの六十冊くらいですもの♪」 のんきに言い放つ、長兄と虎娘。次々と運ばれる書物に、開拓者たちは絶句した。 |
■参加者一覧
デニム・ベルマン(ib0113)
19歳・男・騎
晴雨萌楽(ib1999)
18歳・女・ジ
劉 星晶(ib3478)
20歳・男・泰
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔
狭間 揺籠(ib9762)
26歳・女・武
クロス=H=ミスルトゥ(ic0182)
17歳・女・騎
零式−黒耀 (ic1206)
26歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●割拠時代の章 正史 『処世術に長け、人民の心を最も分かっていた若者。天帝すら、一目を置く者として覚えが早かった』 異説 『どういうわけか、重要な役職の者が次々と亡くなった。私の古き友も。年は取りたくないものである』 「六十冊…亜祈の家は、由緒ある家柄なんです。 うちは巻物一つでしたし。…本当に大司空だったのもしれません」 黒猫耳を伏せる、劉 星晶(ib3478)。恐る恐る、分厚い本を手に取る。 三国の割拠時代、西を制したのは、劉の地を治める者。泰国出身の黒猫獣人、星晶の名字も『劉』だ。 だが、今となっては調べようもない。幼い頃に、アヤカシの襲撃で故郷を失ってしまった。 「前回と違って、ゆったりと書物を見る事ができますね」 ぶ厚い本を受け取りながら、デニム(ib0113)は視線を落とす。変色した表紙。 「とても古い時代の貴重な資料です。時間の限り、見て行きたいですね」 声にも、本を置く動作にも、喜びが混ざっていた。 「…ふふ、別の視点で綴られた歴史。楽しみですね」 強い好奇心を持つ星晶に、軽い笑みが浮かぶ。ピコピコ楽しげな、黒猫耳。 と、勇喜が新しい本を運んできた。重そうに地面に置くのを、デニムが助ける。 聞けば、まだ奥にあるらしい。手伝う為に、青年二人は勇喜の後をついて行く。 「しかし、それにしても、六十冊。…歴史が重いです」 「…ちょっと量が多いですが。その辺は、まあ、努力と根性とで。そこは得意です。騎士ですので」 言い淀む星晶に、デニムの視線が虚ろだ。 「時間が掛かるようなら、完徹も使用して頑張ります。あ、ご飯は食べます。抜くのは勿体無いですから」 完徹は、一切の眠気を感じず過ごせる技法。明後日の方向を向きながら、星晶は断言する。 「すごいお宝が出てきちゃったわね♪ 気合い入れて読まないとね♪」 雁久良 霧依(ib9706)は、身を乗り出す。各地の伝承や伝統文化の調査が趣味。 「割拠時代、ねェ…ここは青龍寮生として、陰陽師的観点から!」 龍花を握りしめ、モユラ(ib1999)は燃えていた。四神が一、木行を司る青龍が彫り込まれている硬貨を。 「私家本だとしても、泰国の歴史が記された本を読めるのは楽しみだな♪」 神座亜紀(ib6736)はウキウキ、ワクワク。分厚い本の一冊を、丁寧に開く。 上から下まで読んで、顔を上げた。難解な漢字ばかりで、ものすごく泰国らしい。 さまざまな地域独自の言語に興味を持っている身としては、挑みがいがある。 「これ写せないのかな。数が多すぎて無理だろうけど、父さんなら上手く検証できると思うんだけどな」 研究者である父を尊敬している、神座家三女。年相応な子供っぽい面が顔を出す。 「これだけ大量の記録、全て読み終えられるでしょうか」 狭間 揺籠(ib9762)は、長い黒髪を耳にかける。その姿勢のまま、本の山に手を伸ばした。 「子供の頃、まだ寺院に居た頃は、座学などで書物を読む機会も多かったのですが、お山に入ってからは、殆ど読んでいませんでしたし」 先日の天帝図書館では、久しぶりに沢山本を読めた。曾頭全の手掛かりを探す調査なので、思うようには行かなかったが。 「山に入るってなんです?」 勇喜が揺籠を見上げる。天儀の僧侶の生活が、思い浮かばない。 「本を読むのは好きなのですが、山での生活ではなかなか」 揺籠は黒い目を細めながら、笑った。いろいろと天輪宗の事を教える。 「全てのアヤカシを討ち払う為にも、日々精進を。それが武僧の生き方です」 愛用の武僧頭巾や武僧服も見せた。勇喜は、白虎しっぽを振って大喜び。 そのまま話が弾んだ。揺籠は、ついでにお願いをする。 「泰国の文字ですので、読んで頂く事になりますけど、多少は自分でも読める様に、教えて頂こうかと」 「朗読、得意です♪」 「今日は、どうぞよろしくお願いします」 勇喜は吟遊詩人、兄妹の中で一番の本好き。自身の興味の向くままに、色々と読んで見たい揺籠と気が合いそうだ。 「さて、狂気(フェンケゥアン)や美狐龍(メイフーロン)の脅威もさったようですし、異説を堪能させていただきたく」 零式−黒耀(ic1206)も、本に視線を注いでいた。淡々としゃべるが、ものすごくやる気。 「何処の国でもそうだけど、歴史なんてのは権力者が権力の正統性を守る為に綴るものだからね」 ダナスティブーツを脱ごうと、クロス=H=ミスルトゥ(ic0182)は身をかがめる。 赤い瞳が瞬きした。甲の部分に彫刻された、ある紋章に視線を走らせる。 「国の関わってない民間なんかだと異論は沢山あるとおもうよ。そして、そのどれもがある意味正しくもなるし、違うとも言えるね」 ブーツを脱ぎ飛ばした。金属製の履物は、温暖な泰国南部では必要ない。 「正史はいたる所で配券できますが、異説はそうもまいりません。 今回は口伝の詳細をじっくり拝見させていただく、いい機会と判断いたします」 黒耀の性格は無表情、無感動、真面目、天然のからくり四拍子。でも、泰国に来て変わりつつあった。 黒い瞳に、僅かな感動の光が宿った。少しずつ、少しずつ、感情を知りかけている。 「前々回で知り得た正史との相違は軽くメモに纏め、今後の研究といたしましょう。 ライフワークが増えるのは、良い事だと考えます」 クロスやデニムに教えて貰ったのだろうか。ライフワークなる、ジルベリアの言葉も流暢に扱えるように。 ●大司徒の章 正史 『天寿を全うした大司徒が無くなる。朝廷の多くの者が後継者として、彼の者を指名した。 天帝みずから、一本の鍵の授け、管理者として命ずる。新たなる大司徒の就任である』 異説 『私の古き友が、又一人亡くなる。大司徒と呼ばれし役職であった。 我が君は、ある若者を大司徒にするとおっしゃった。三十路にも満たぬ若者を。 大司空たる私も、同僚の大司馬も、『あの者の任命は早計過ぎる』と帝に申し上げる。 …聞き入れは、されなかったが。彼の者は、我が君を、我が国の臣下の心を捕らえたようだ』 「まっ、今に繋がられば大体いいんじゃないかな」 クロスは軽い口調で、明るく笑い飛ばす。ジルベリア辺境の貴族の肩書も、ここでは必要ない。 「正史の正統性が崩れる事はないでしょうが…本当は、どうだったのか。それを探るのは、浪漫だと思うんです」 デニム個人として、過去の出来事や活躍していた人たちの行跡に大いに興味あり。 正史・異説以外の資料を喜多に求める。泰国ギルドに届いた、最新の研究結果を読ませてもらった。 「…ここにも、大アヤカシ「狂気」が関与していた可能性がありそうですね」 デニムのアッシュペンダントが揺れた。細長い筒状の納骨棺がつけられたペンダントが。 十年の間に亡くなった、重役たちの名前を辿った。大司空は老齢や病のためと記してある。 でも、宮廷重要役職が、短期間に次々と代替わりを起こすなど、あり得るのだろうか。 偶然は続く。後を継いだのは、後に「大司徒派」と呼ばれる派閥の者が多い。 「歴史は面白いですね。最初は大変かと思いましたが、不思議と飽きません」 星晶は、純粋に歴史を辿る。頭の中にある正史とされる知識と異説を比較していた。 「三公の意見は、正史も異説も変わりませんね。今でも、どの意見が良かったか、研究家に寄って意見が分かれているんですよ」 「大司空の意見が、一番にきまっているわ!」 「あはは…、亜祈なら、そう言いますよね」 「笑わなくても良いじゃない!」 白虎しっぽを震わせる恋人に、星晶は慌ててジン・ストールで口元を隠した。 ●姿無き鬼の章 正史 『三公の直訴のうち、採用されたのは大司徒の言であった。大司空は、大司徒に詰め寄る。 年老いた大司空は、嫉妬を起こし、若き大司徒の地位を乗っ取ろうとしたのだ』 異説 『私は彼の者に話しかけた、諌めつもりであった。そして確信した。 彼の者は、策士である。姿無き鬼に憑かれていた。 すでに我が君は、彼の者…否「姿無き鬼に憑かれた者」の傀儡と化していた。 …我が国は、魅入られていたのであろう。姿無き鬼に』 「亜祈さん達の先祖の歴史を辿ってみるのも面白いと思っています。 ジルベリアではあまりこういう機会が無かったので、わくわくしていますよ」 デニムは、異説に興味を示した。 「僕も故郷では…騎士として、一応、書物の見方などを教わってはいますが、鍛錬が中心でしたからねぇ」 故郷に戻れば、デニムはシュタインバーグ家の次期当主。兄が夢を諦めて…家出してまで譲ってくれた道、それを歩むと決めた。 「司空様の家に伝わる書を、初めから最後までじっくり読了させていただきます」 亜祈の隣に、陣取る黒耀。ペンダント「スターライト」が胸元で揺れる。 「恐らく知識欲を満たすため集中して読んでると思いますが、他の皆様が読まれる際はその部分だけお譲りしますのでご安心ください」 ペンダントには、星の不思議な力が宿っているといわれる。今の黒耀も『感情』という不思議を宿しつつあった。 「そもそもの疑問なんだケドさ、国自体がそんだけの内輪モメしてる間、アヤカシへの対処ってどうなってたのカナ」 モユラによる分析。最近の傾向で言えば、人間が大きな内戦をやれば、必ずといえるほど、後ろでアヤカシが動いている。 「気になるのは『大司徒は姿無き鬼に憑かれた』って口伝。ソレって、今回みたいに『狂気』が動いてたってコト、なのかな」 癖のある毛先を指先でいじりつつ、モユラは言葉を続ける。もう一つの可能性を。 「もしくは、大司徒は旧春王朝の血を引く者だった…とか? 勝った側の歴史書じゃその辺詳しくなさそうだし、ここは亜祈んちの御本を借りて調べてみるのがよさげかな?」 正直、ちょいと話が見えないことばかりだ。 「歴史は勝者のもの。当時は大司徒がその勝者であったのなら、政敵の事など詳しくは書かないでしょう。 むしろ忘れさせたいと思います。天儀での修羅の皆さんが、そうだったように」 星晶の青い目は、揺籠の額に向けられる。二本の角に。 修羅が知られて居なかった頃、周辺住民から鬼ではないかと疑われたらしい。 ●大司馬の章 正史 『大司徒は聡明であった。大司空と大司馬の陰謀を看破したのだから』 「前に亜祈さんの話を聞いて、一つ気になってた事があるんだよね」 亜紀は真面目な顔つきだった。天帝宮大図書館で聞いた、司空家の口伝。 「大司徒、大司空の間に諍いがあったとして、その時大司馬は何をしてたんだろう? 結局大司馬も消えたみたいだけど、それは何故なのか? その理由が知りたいな」 三公の一としてどちらにも味方せずに中立を保ったのか、それともどちらかに肩入れしたのか? 問いかける、亜紀の黒い瞳。猫族の双子は、微妙な表情になる。 「それから、その他の役人達の動きも調べれば面白いかも。うーん、知りたい事が多すぎるよ!」 無邪気な声に、猫族兄妹は黙る。正史を知る星晶も。 「こちらが、三公が意見を申し上げた後の記録です。…面白いかどうかは、保証できませんけど」 喜多が、本の一角を指し示した。何とも言えぬ声音と共に。 正史 『大司徒は、すぐに帝に申し上げる。 「両者は結託し、国家転覆を謀っております。大司空は梁山時代より禁忌とされる、土地を動かそうと。 大司馬は軍を強化し、帝を亡き者にするつもりで御座いましょう」 大司馬は、すぐに処刑となった。大司空は温情により、一族郎党南方へ追放されることが決まる』 異説 『もう宮廷内に私の味方は居なかった。全てが狂っていた。大司徒の思うがままでる。 唯一の救いは、私が幼少よりお仕えせし、若君の存在だけであった。若君の口添えにより、私の命は救われる。 我が君よりお預かりした鍵を、私は若君に返還する。大司徒は異論を唱えるが、私は論破した。 「元々、帝よりお預かりした鍵である。なぜ、大司徒に渡さねばならぬのか。 黄帝の時代より天より授かりし、泰を治めし者の証。 次代の天帝たらんとする、若君がお持ちいたすのが筋であろう」 これに対しては、我が君も賛同される。…おそらく、まだ姿無き鬼に毒されていない、最後の理性であったはず』 「亜祈さんが言う所の「姿なき鬼」に憑りつかれた大司徒が残った後って…」 フィフロスを使い、本を読み進めていた亜紀。護身羽織の胸元を合わせた。無意識に。 「これって、当時の朱春が、この前の『皆知の街』になったってこと?」 当時の首都は、混沌としていた。住民全体が、姿なき鬼に憑りつかれたとしか思えない言動だったようだ。 「…民衆はいつだって意外と敏感だから、何かを感じ取っていたかもしれないね」 亜紀の思った通り、真っ当な住民は、逃げ出した。元大司空を頼って、南部に逃れた者も居る。 今の料亭の街の住民は、「祖先は朱春に住んでいた」と言い伝えが残るらしい。 「もう一つの疑問は、泰の軍事ダネ。天儀にゃ陰陽師がいる。ジルベリアやアル=カマルにゃ、魔術師が。 じゃー泰では、軍団の中で知覚攻撃を担う術師が居たのカナってね」 指先をフリフリ、モユラは例を挙げて行く。黒い瞳が、きらりんと輝いた。…ように見えた。 「陰陽術には泰の考え方が少なからず入ってると思うケド、それでも天儀で独自に発展したものの気がするし。 あたいらに近しい、あるいは陰陽師の原型みたいな職業の人たちがいたんじゃないカナ」 「陰陽術は天儀の物って、お師匠さまから教えて貰ったわ。泰では、道士よ。羌大師が代表格だと思うわ」 モユラが読んだことある、古い本の仙人や道士。亜祈に言わせると、神話時代の伝説が始まりだと言う。 「当時の軍の構成の記述があれば、判りそうだよネ」 モユラは料亭の記録を漁る。割拠時代だけの話でもないし、本題からは少し外れているかもしれないが。 「これがあればフィフロスの効果も上がるわね♪」 片目を閉じる、霧依の強い味方。泰語の辞書の登場。今までの習慣で、持ち込んでいた。 「伽羅ちゃん、見つけた所はお願いね」 「にゃ!」 「んふふ、よろしくね〜♪」 霧依の呼びかけに、元気よく虎猫しっぽが振られた。 「キョンシー系が出てきたら、こちらに優先権を頂きたく…」 モユラの言葉を聞き、黒耀が言葉を紡ぎだす。人と変わらぬ仕草で、立ちあがった。 「同じく人に使われるものとして、作られた存在であります」 黒耀に湧く、親近感。キョンシーは人に寄って、死体から作られる事もあると言う。 「われらとなにかしら似た技術が使われた形跡はないか、我々に分岐する何かがあったのか、個人的に気になるのでございます」 真剣な瞳だった。黒耀は、言葉に感情を込めた。抑揚をつけてしゃべることを覚えた。 「そうね…役に立つかどうかわからないけど。うちの裏山には、からくりの眠っていた洞窟があるのよ」 軽く考え、亜祈は語りだす。三年前、亜紀と伽羅たちが探検した洞窟だった。 「からくりの洞窟でございますか?」 「ええ。その洞窟は、ある日突然現れたの。見たことない仕掛けだったんですって」 黒耀は当事者たちに、当時の話を聞いた。「しっぽ冒険記」として、ギルドに記録されているとか。 今も解けぬ謎。アル=カマルで、最初のからくりは発見された。天儀には、からくりたちの神がいた。 からくりの眠る洞窟は、天儀に多かった。が、なぜか泰でも発見されたのだ。 「ふーん、道士って大きな街には必ず一人居るんだネ」 霧依の魔法の力を借りた結果、モユラが行きついたのは、料亭に手紙を届けた将軍の記録。 将軍は、料亭のある街の統治者「大守」の祖らしい。街の東に住まう道士の家系は、将軍の軍師が祖だとも。 大守の役職を退いた、元大司空。将軍が役職を引き継いだのなら、街の歴史と料亭の記録が合致する。 「道士は、泰国の知覚攻撃を補う存在と考えます。からくりとの相違点は、現在、不明ですが」 キョンシーについて、モユラと議論した末の黒耀の結論。 「でも、もしもだけど、時代の中で失われた知識があるってンなら…」 黒い瞳は真剣さを増した。自由な学問を求め流人の道を選んだモユラ。 「追い求めてみる価値は、ありそうじゃない?」 研究分野として、その力をどう用いるのかという『道理の学問』に重きを置いている。 ●三本の鍵の章 正史 『まさに地獄絵図であった。天帝宮から流れ出る血潮は、朱春を真っ赤に染め上げる。 数多の重臣の屍は積み上げられ、山を成す。悲鳴は轟音となって、大地を揺るがした。 天帝と大司徒は、大司馬の息子の手により、朱春の民衆の前で処刑される。大司馬による国家転覆が、実現されたのだ。 次期天帝は、僅かな兵に守られ、密かに朱春を脱出する。天帝を守りし勇敢な兵は、曹を治める者。北に逃れる』 異説 『将軍から、朱春の噂を聞いた。民を護り、私の元まで送り届けてくれたのだ。 私は宮廷を去ったことを悔いる。同時に、天に感謝を捧げた。 若君は無事らしい、将軍が手紙を持ってきてくれた。私がお返しした鍵は、今も若君の元にあるようだ。 しかし、大司徒の鍵は、戦乱の中で行方不明になったらしい。 大司馬の鍵は、大司馬の息子が形見として、西に持ち帰ったと聞く。あの劉の地へ』 揺籠の興味は、三本の鍵に向いていた。 神話時代。初代天帝たる黄帝が、天から授けられたとされる鍵。 「流石に、全てをじっくりと…と言うには、時間が足りませんね。でも、推測できることもありました。 梁山時代には、鍵は大地を操る鍵と知られていたのかもしれません。『割れた柿』のお伽噺があるように」 割れた柿。日陰の民が人工的な災いを起こそうとして、陽光の王がそれを阻み、日陰の王を倒した物語。 「ですが、割拠時代の正史は『権力の象徴』としか記述がありません。 異説にも『三公任命の際に、天帝から信頼の証として管理を委ねられていた』としか」 決定的なのは、正史の記述。「梁山時代より禁忌とされる、土地を動かそうと」の一文。 二百年の間に、鍵の秘密は失われた。故意か偶然かは、解らぬが。 「大司徒の鍵は、今まで行方不明でした。『東の孫の地を治めた諸侯が、鍵を持っていた』という記録が、最後の正史ですね」 「曾頭全が持っていた鍵は、大司徒の鍵…と考えるのが妥当でしょうか? 桃園に保管されていた鍵は、おそらく大司馬の鍵でしょう」 「でも、当時の大司馬の血筋は、絶えました。天帝に逆らった逆族として、討たれたんです。」 喜多の言葉に、揺籠は考え込む。空白の歴史は埋まらない。 「今の天帝さまの持っている鍵は、『曹から返還された』と正史に残っています」 ふいに途切れる、喜多の言葉。ぽつりとこぼす。 「…ご先祖さまの思いは、今も受け継いでいるんです。猫族の「三山の送り火」をご存知ですか? 僕の家が関わる時は、北の曹組に参加するんですよ。昔から、ずっとね」 揺籠は、改めて喜多を見た。先祖代々、折れた虎猫耳を受け継いでいる、料亭の跡取りを。 ●大司空の章 異説 『南部に下った私の周りに居る者は、私を頼って朱春から付いて来てくれた。 また、私を慕い、集ってくれた者もいる。 皆のお陰で、治水工事も順調である。来年には、水田も作れるであろう』 「料亭の初期のお品書きとか無いですかね?」 通訳を必要としない星晶。のんびりと調べていた、あちこち本も寄り道。 「あ、荷香糯米肉(イェシャンヌオミイロウ)の原型ですね♪」 蓮の葉に包んだ、蒸しおこわ。聞きつけた霧依が、本を覗きこむ。 じぃっと文章を読む。解らない部分は辞書を引きつつ、星晶に確認。 「この辺りって、三国時代初期は水辺だったのよね。だから、水に強い植物が使われたのかしら?」 「水に強い植物…ですか?」 「ええ、蓮とか、もち米が食材に使われているでしょう。米は酒や酢の醸造原料にもなるわ。 逆に、小麦は水が多いと育たないの。小麦粉が手に入らなかったはずよ」 「ああ、だからお酒はあっても、『包(パオ)』が無いんですね」 星晶によると、餃子や、蒸し饅頭の皮に包んだ点心を「包」と言うらしい。 「私が重点的に調べたいのは当時の食文化、農耕技術、作物の品種についてよ。ほら、私も農家の出身だから♪」 霧依の実家は、蒟蒻と葱の名産地にある。 「四百年前と現在とでは農法も違うでしょうし、生産力が低かったかも。治水の問題もあったでしょうしね」 作物も品種改良が進んでいなかったようだ。主食となる穀物自体、現在とは異なっている。 「家畜についても同じ事が言えるはずよ…あら?」 霧依の予想は外れ。当時の料亭に飼われていたのは、なぜか甲龍だった。 側に居た伽羅と亜祈に聞いてみる。 「うちの甲龍です? 元々、将軍の龍って聞いたです」 「私や父上の相棒の甲龍は、その子孫らしいわ」 話をまとめると、元大司空が大守の任を譲渡する際、将軍から甲龍の子供を贈られたらしい。 将軍にとっては、共に戦場を翔けた、大切な相棒の子供。将軍なりの敬意だったのだろう。 霧依の探し物は、はかどらなかった。ハイヒールの踵が、コツコツと地面を叩く。 「大司空さんの栽培していた植物や調理の記録は調べたけれど、見つからないのよね」 意気消沈したまま、食事の時間に突入。お向かいの亜紀が、小首を傾げた。 「何を探していたの?」 「大司空さんが、何らかの品種改良や調理の考案を行った結果なのだけど…。 もしかしたら、現在広く普及している作物の品種や、料理が生まれたのかもしれないじゃない?」 目の前の煮込み料理をつつきながら、霧依はぼやく。豚の角煮料理だ。 「これみたいに東坡肉(トンポーロウ)ならぬ、司空肉(スーコンロウ)とかね♪」 「少なくとも、うちの叉焼包(チャーシューバオ)は、ご先祖さまの努力の賜物ですよ」 霧依の目の前に、出来たての肉まんが置かれる。 「この地で小麦が育つようになったから、皆さんに点心をお出しできるんです!」 運んできた喜多は、虎猫しっぽを揺らし、胸を張った。 ●料亭の章 異説 『都の暮らしよりも、田舎暮らしの方が、私には合っていたようだ。農耕のなんと素晴らしきことか。 汗を流し働く。夜明けと共に起き、夕日と共に眠る生活。なんと自然の有りがたきこと』 「こういう頭の使いかたは苦手でさあ」 本の山に飽きたのか、クロスはあくびを一つ。口元を手で隠そうとしない辺り、女性としての自覚に薄い。 金の髪を揺らすと、思いっきり背伸びをした。中性的な顔立ちと相まって、少年にしか見えない仕草だ。 「所で僕は料理に興味があるんだけど、どんなのがあるのかな?」 クロスは立ちあがり、料亭の厨房を拝見する。ジルベリアと違った雰囲気、異国の厨房。 おてんば猫娘も、じっとしているのが苦手。クロスにくっついて、料亭の末っ子が動き出す。 「にゃ、これで料理作るです」 伽羅の指差す先には、鉄鍋が一つ。半円形が特長の泰国式の鍋だ。 焼いたり、揚げたり、蒸したり。泰国鍋一つで、ほとんどの調理がこなせるらしい。 「思ったより、軽いね。こうやって動かすのかい?」 「にゃ、凄いです! 片手で鍋軽々です!」 虎猫しっぽを揺らし、伽羅は尊敬のまなざし。クロスが普段振るう槍に比べると、鍋は赤子も同然の重さだ。 「野菜炒めするです!?」 「じゃあ、教えて貰おうかな♪」 ノリノリの伽羅に、ノリノリのクロスが受け答え。切った材料を分けて貰い、青椒肉絲(チンジャオロース)に挑戦。 鉄鍋を素早く動かし、強い火力で一気に仕上げれば、泰国式野菜炒めの完成だ。 「うん? 双子君、どこ行くんだい?」 「がう、お魚捕まえるです。一緒に海で泳ぐです?」 「海!? やめときなって、真冬に泳いだら、凍死しちゃうよ!」 「にゃ? 今のジルベリアは、天儀の冬みたいに寒いです?」 クロスは、形相を変えて双子を止めた。南国育ちの双子は不思議そう。一年中泳げるのが、当たり前の場所で育った。 「寒いどころか極寒だね。きっと、吹雪いているよ」 「吹雪って、なんです?」 「そうですね…雪が嵐のように襲ってくると言えば、分かりますか?」 「がるる…分からないです」 クロスやデニムの故郷、ジルベリアは雪の国。今の季節は、雪が吹き荒れるのが当たり前。 夏の短い国から来た二人は、料亭に来た当初、暑さに辟易してしまった。 「機会があれば、ジルベリアに来ると良いよ。寒さ対策は万全にね」 百聞は一見にしかず。クロスは軽く笑うと、双子の頭を撫でる。 「せっかくですから、僕も泰国の海を体験してみましょうか。魚を使った、泰国料理も楽しみですね」 書物を閉じ、デニムは身支度を整える。可愛らしい双子たちとも遊んでみたい。 嵐が過ぎ去った後の泰国。自然と書物の海を満喫するのも、良いだろう。 「作ってもらうばかりでは心苦しいですから、少しは手伝えれば、とも思います」 …個人的な事情で、料理を覚えたいという思いは、口に出さず。 実際、薪を割ったりする力仕事がメインになると、デニムは予想していた。 「で、何を作るんだい?」 クロスの質問。亜紀・御所望のフカヒレ用のサメは確定として。 「がう、蝦餃(ハーガウ)作るです」 「にゃ、鹹水角(ハムスイコー)作るです」 勇喜の言う、蒸し海老餃子のエビは、すぐに理解できた。伽羅の料理が分からない。 「分かった、揚げ餃子の中身を獲りたいんだね!」 クロス、ようやく理解できた。ジルベリアの揚げパンに似ているからと、伽羅が選んだ料理。 「あ、そうです、お茶を準備しておいて頂けますか? 読書の最中、きっと欲しくなると思いますので」 「だったら、菊花茶(コッファーチャ)を用意しておきます。目の疲れを和らげる効果があるんですよ」 デニムの提案に、喜多は即答。薬膳を売りにする、料亭らしい選択だった。 「いやーっはっは。皆お疲れ様だったねえ」 双子達と料理を作っていたクロス。本の虫たちの前に、湯気の上がる点心を並べた。 「…あ、あたいは春巻きとか食べたいな」 赤毛を揺らすモユラの前には、二種類の春巻が出された。油で揚げた春巻は、天儀でも見たことがある。 「こっちは潤餅(ルンビン)?」 焼いた薄皮に巻く、生春巻。料亭の地域では、年越しに食べるとか。 幸福を大切にし、毎年不自由なく豊かに過ごせるようにとう願いが込められているらしい。 「そうですね…、お願いする料理は悩みましたが『今日のおすすめ』とかそういったものがあれば。 何が出てくるか分からないから面白そうですよね」 料亭にお任せする星晶。食前酒として、桂花陳酒(ケイファチンシュ)が出された。 「美味しい驚きが待っていましたね♪」 黒猫耳が、感慨深く動く。白葡萄酒に、金木犀の花を三年ほど漬け込んだ、お酒。 亜紀が、羨ましがった。十四才にならないと、お酒は飲めない 「ボクにも、何か飲み物ちょうだい」 亜紀には、芒果汁(マングゥォヂー)が出された。気を利かせた双子が、飲み物の上に飾りつけを。 「苺が乗っかった、マンゴージュース? 美味しいね♪」 青い空と青い海の国。南国ならではの味わいに、亜紀はご機嫌だ。 「そうそう、泰国料理食べ放題なんだよね? ボクはフカヒレ料理が食べたいな」 この際、普段食べられない料理と、意気込む亜紀。値の張る料理を片っ端から頼む。 「あと子豚の丸焼き。皮がすごく美味しいって聞いたよ」 「がう? カオルーヂュです?」 勇喜によると、火偏に考と書いてカオ、乳猪でルーヂュと読むらしい。 生後一月に満たない子ブタを使った豪華な料理だ。 「泰国料理はアヒルの丸焼きを頂きたいわ♪」 「にゃ? 朱春填鴨(ヂュチュンティンヤー)です?」 「折角だし、全鴨席(チュアンヤーシー)で♪」 霧依の発した泰国語に、伽羅はビックリ。食通さんの御来店だ。 アヒルの様々な部位を、無駄なく使用したフルコース料理を「全鴨席」と言う。 亜紀と霧依のご要望は、高級料理。料亭の大旦那が、特別に腕をふるってくれることに。 食材の準備の関係で、開拓者達はしばらく料亭に泊めて貰うことになった。 ●四経三書の章 『それは、古の記録、古の知恵。泰国の全てがここにある。 天帝に使えし者が治めるべき、学問であった』 「こんなに良くして頂いて、本当に良いのでしょうか」 ご馳走の数々に、揺籠は恐縮。本当に至れり尽くせりで、何だか申し訳無い気も。 「嫌いなものあるです?」 「好き嫌いは無いです。こちらのお料理はどれも美味しいですので、ゆっくり味わって頂きます」 勇喜が不安げに見詰める。揺籠は首を振って、箸に手を伸ばした。 少し迷い、湯円(タンユェン)を頂く。餡入りの団子スープ、正月に食べる縁起物。 「司空様の家の料理ですから、きっと全て美味しいのだろうと判断しております」 料理を頼まなかった、黒耀の一言。芝麻球(チーマーカオ)こと、ゴマ団子を頬張る。 一応、からくりも、その気になれば食事をとることが出来るらしい。 そして、最後のデザートは杏仁豆腐♪ 亜紀が満面の笑みで頼んだ。 「出来れば四経三書も調べてみたいな」 ご機嫌麗しく食べながら、亜紀は空を見上げる。ぽつりと、本音がこぼれた。 亜紀の呟きに、霧依が反応した。 「四経三書…確か科挙必携の書物よね」 「そうですよ。よく御存じですね」 「知り合いで、科挙を二回受けた子がいるのよ♪」 星晶の声かけに、霧依は片目を閉じる。 「今回調べた文献との差異も知りたいし、通読してみたいわね」 「四径の書も、少し見ただけですが、なかなかに興味深く。機会があれば読んでみたいと思います」 杏仁豆腐を飲み込み、揺籠も異口同音。結果、近いうちに料亭で見せてくれるらしい。 四経。それは、春王朝・梁山時代前後に成立した四冊一組の思想書。 得形、知理、拠道、至徳。形を得て、理を知り、道に拠りて、徳に至る。 三書。こちらは、曹孫劉・割拠時代前後に成立した三冊の実用書。 戦立、徳治、物済。戦にて立つ、徳にて治める、物にて済す。 |