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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 森の中、アヤカシが草木を揺らす。 木々の付け根には、白く丸い物体が多勢並んでいたり、繭に覆われた物体が張り付いていたりする。じわりと空気が重くなった。周囲に暗き気配が漂いはじめる。 やがて、その一角を食い破って現れた蟲は、がちがちと歯を噛み鳴らして鳴いた。 アヤカシの卵――瘴気から生ずる筈のアヤカシの卵。面妖である。何故かは解らない。どのような妖術を用いたのかも。しかし眼前に突きつけられた事実は覆しようも無い。 ひときわ大きなどす黒い卵が、どんと脈動した。 ● 魔槍砲。それは本来アル=カマル製の特殊銃を指す。 宝珠が組み込まれた長銃身型であり、先端には槍のような刃が装着可能。宝珠近くの樋口から火薬や専用の薬品を詰め込む構造を持つ。 しかし魔槍砲には銃口が存在しない。そして多くの魔槍砲は弾丸を込める手順さえ必要とせず、練力消費によるスキルを代替えとする。 銃身の先端から時に放たれる火炎、爆炎は一見すれば精霊魔法のようだが物理的な攻撃能力を有す。 これまで改良が続けられてきた魔槍砲だがここにきて停滞気味。アル=カマルの宝珠加工技術の行き詰まりが原因といわれている。 このような状況下で朱藩国王『興志宗末』と万屋商店代表『万屋黒藍』は魔槍砲に注目していた。 ● 朱藩の首都、安州の街の外れにある銃砲工房『紅蓮』は小槌鉄郎の屋敷兼仕事場である。 娘の銀と二人で暮らしてきた鉄郎だったが、朱藩国王『興志宗末』の願いでアル=カマル伝来の魔槍砲の新規開発に着手してからは人の出入りがとても激しかった。 誰もが魔槍砲に熱心な人達だ。 ギルドを通じて集められた開拓者達。 アル=カマルから招聘された鉄砲鍛冶。 宝珠の研磨を専門とする職人。火薬調合の職人。 数々の試作魔槍砲の耐久試験は約一ヶ月前に終了済みである。今はそれらの機能を集約した新たな魔槍砲が完成したばかり。 最終的にまとめられた魔槍砲は三種類。 朱藩・魔槍砲壱号。 朱藩・魔槍砲弐号。 朱藩・魔槍砲参号。 名称はどれも仮のものである。 朱藩・魔槍砲壱号は次の通り。 中折れ式を伸ばすと全長約三メートル。厳選した素材を使用し、新規の中折れ式機構を考案したおかげで剛性を保ちながら軽量化に成功している。とはいえ重さは二メートルから二メートル半のものと同程度だ。 宝珠は三種が各部に取り付けられていた。 銃把周辺から練力を採り入れるための宝珠が一つ。火薬を利用して触媒的な効力を促す宝珠の欠片が一つ。そして練力を炎などの物理攻撃に変換する銃身先端の宝珠が一つ。能力に余裕がある宝珠を厳選して使ったおかげで安定化に成功していた。 名前が示す通り魔槍砲には槍の機能もあるのだが、その部分についてはウィングド・スピアを参考にして防御に徹しやすい形状になっている。 宝珠の欠片を動かすための火薬は使用三回まで持つ。火薬の再投入が必要かどうかは使用者の練力の残り次第だ。 銃砲としての傾向は距離をとっての射撃と威力の安定性に向けられていた。槍としては守りに特化したのが朱藩・魔槍砲壱号といえた。 朱藩・魔槍砲弐号は次の通り。 長さは二メートルといったところで魔槍砲としては中庸の部類に入る。そして興志王の希望通り、普段は短くできるよう中折れ式が採用されていた。強度的に弱くなりがちな中折れ部分には可動式のフィンが被さる構造だ。 最大の特徴は火薬室を手元の位置から銃身の先端部へと内部移動させられる取っ手。これによって火薬装填の手間がかなり改善されている。 装填方法は独自なものだ。紙に包まれた火薬を利用するのだが、火口を通る際にわざと破られるよう出来ていた。火薬室が先端に移動する際の衝撃で触媒宝珠の欠片を中心にして火薬が分散する仕掛けになっていたのである。 紙巻き式は当初扱いが難しかったのだが、耐久試験で得た情報のおかげで実用化にこぎ着けた。 銀と銅の合金を導線に採用したせいか銃砲の威力も想定していたよりも増していた。導線の二重化で練力の自然な流れも考慮されており、一本が切断しても作動可能といった効果もある。 複雑な機構を採り入れた故に心配されていた耐久力だが克服したといってよい。 槍としての機能にも不足はなかった。充分な強度を保っているので少々乱暴に扱ったところで銃砲にも影響はないだろう。 興志王の特別仕様として銀と銅の合金ではなく、金製の導線を採用した朱藩・魔槍砲弐号が用意される。また興志王専用・朱藩・魔槍砲弐号の槍部分は螺旋状の刃になっていた。これは開拓者の試作魔槍砲を見学した興志王が強く望んだものであった。 朱藩・魔槍砲参号は次の通り。 二つ折りを伸ばすと長さは三メートル強。銃把から銃床までが大きく弧を描いているので地面に設置させて支えにすることが出来る。これによって銃撃の反動をかなり抑えることが可能だ。 更なる工夫はフルエレメンタル方式の採用。変換効率からいって威力が減少する代わりに火薬交換が不要になっていた。 魔槍砲はどれも練力消費が激しいので実質的に撃てる回数は限られてしまう。しかし練力が豊富な者にとって火薬交換の必要がなくなるのは非常に重要だ。 火薬室の火口がなくなったおかげで密閉性は高まっている。副次的に宝珠の保護や安定性にも寄与していた。 朱藩・魔槍砲の数が揃ってきた頃、実戦投入を考えていた興志王の元に一報が入った。 それは隣国武天で勃発していたアヤカシとの戦いについて。朱藩との国境に近い地域であり、解釈によっては自国も戦場といえた。 (「配下を引き連れて乗り込むと騒ぎになっちまうな。俺だってバレバレだろうし‥‥。ここはいっちょ内緒で行くとするか」) 興志王はよからぬ考えを思いつく。 こっそりとギルドに依頼して開拓者を集める。そして秘密裏に朱藩の首都、安州を中型飛空船で旅立つのだった。 |
■参加者一覧
美空(ia0225)
13歳・女・砂
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
パラーリア・ゲラー(ia9712)
18歳・女・弓
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
クルーヴ・オークウッド(ib0860)
15歳・男・騎
ノルン・カペル(ib5436)
18歳・女・砲
赤い花のダイリン(ib5471)
25歳・男・砲
ローゼリア(ib5674)
15歳・女・砲
サクル(ib6734)
18歳・女・砂
リラ=F=シリェンシス(ib6836)
24歳・女・砂 |
■リプレイ本文 ●発見 薄暗い深き森、武天・花ノ山城周辺。 武天と朱藩の境となる土地に興志王は開拓者十名と共にあった。 鉄砲鍛冶の小槌鉄郎とその娘である銀は移動手段として用いた中型飛空船で留守番中だ。興志王配下のシノビの風歩が残っているので余程の状況に陥らない限りは安全である。 「何だ‥‥あれは? 丸いものがたくさんあるな」 茂みをかき分けながら先頭を歩いていた興志王が何かに気がついた。急いで近づこうとする興志王の服を後ろから引っ張って止めたのはローゼリア(ib5674)だ。 「ちょっと、ちょっと。まったく、無茶はいけませんの」 「ローザ、どうかしたのか?」 ローゼリアが遠くの空中を舞う影を知って興志王に伝えた。それは事前の情報にあった昆虫に似た形のアヤカシのようだ。ちなみにローゼリアは自分のことを『ローザ』と呼んで欲しいと一同に告げてある。 「一匹だけではなさそうなのです。あちらにも」 美空(ia0225)が他の浮かぶ影も発見して報告する。ひとまず全員が背を低くして茂みに身を隠す。 「危ないところだったな。すまんすまん。いや、ほら、あそこにある黒いのが先に目についちまってな」 興志王が指さしたのは遠くにある大木の根本。 「あの黒くて丸いの。あたしには卵に見えるよ〜」 目を凝らしたパラーリア・ゲラー(ia9712)には巨大な卵にしか見えなかった。 「俺にもそう見えるけど‥‥ってもしかしてあれが化甲虫や化鎧虫の卵か?」 ルオウ(ia2445)は目を細めて今一度確認する。あれがアヤカシの卵だとすれば大変な事態だと考えながら。 「こりゃ魔槍砲の出番だな」 赤い花のダイリン(ib5471)は背中に担いでいた朱藩・魔槍砲弐号を手に取る。全員が普段の武器ではなく魔槍砲を携帯していた。 完成した魔槍砲は三種。仮に『朱藩・魔槍砲壱号』『朱藩・魔槍砲弐号』『朱藩・魔槍砲参号』と名付けられていた。 「私も魔槍砲弐号を使わせて頂きたく存じます」 サクル(ib6734)はダイリンと同じ魔槍砲の二つ折りを開放する。長さ約二メートルに及ぶ魔槍砲は名前の通り槍にもなりうる武器だ。 「僕はこの班に入ればいいのですね」 クルーヴ・オークウッド(ib0860)はダイリンが考えた班分けに従って居場所を変える。 「改良案を考案したり試作品を使ったりしたけど、ようやくって所かな。‥‥感慨深いね」 到来した戦いを前にしてリラ=F=シリェンシス(ib6836)は一瞬だけだが思いを馳せた。興志王は小槌鉄郎との魔槍砲製作とは別に改良依頼を他で行っている。それを手伝った経緯を持つのがリラであった。 (「?! ピースメーカーを置き忘れるとは‥‥!?」) ノルン・カペル(ib5436)は愛銃を持ってこなかったことについて少々の後悔をしていた。船を離れる際に興志王から魔槍砲だけをといわれていたのは確かだが。 (「興志王様の蔵がどうして、あのように散らかっていたのか判るような気が‥‥」) フィーネ・オレアリス(ib0409)はここまでの一連の流れを思い出しながら軽いため息をついた。興志王の行き当たりばったりぶりに感心するやらあきれるやらといったところだ。 一行十一名は四つの班に分かれる。 壱班は興志王、美空、クルーヴ。 弐班はルオウ、リラ、ローゼリア。 参班はノルン、パラーリア、サクル。 肆班はダイリン、フィーネ。 全員が魔槍砲の二つ折りを開放した時に化甲虫の一匹が一行に気がついて激しく羽音をたてる。これによって周辺の蟲アヤカシにも一行の存在がばれた。 「行くぞ!」 興志王は自分専用の朱藩・魔槍砲弐号を抱えるように持って茂みから飛び出す。 これが戦いの狼煙となった。 ●激戦 茂る樹木の枝葉のせいで戦いの場は薄暗くあった。最初に卵を発見した地点に残ったのが肆班である。 「こりゃ新しい敵がひょいと後ろからも出てくるかも知れねぇな! 見ろ! 俺達の魔槍砲の威力を!!」 ダイリンはまず化甲虫よりも強いとされる化鎧虫を優先的に狙った。すでに火薬を先端に投入済みの朱藩・魔槍砲弐号をどっしりと構える。両足を広げ気味に放った火球が化鎧虫・壱の頭を一撃で吹き飛ばした。 その刹那、ダイリンの真横にあった樹木の幹が凍り付く。他の化鎧虫の攻撃によるものだが、敵が簡単にはやられてくれそうもないのを肆班は実感した。 「任せてください!」 足下に土煙をまといながら急停止するフィーネの手元にあったのが朱藩・魔槍砲弐号。ダイリンと同じ肆班だ。 「小癪な!」 ダイリンが朱藩・魔槍砲弐号の槍の穂先で羽音を激しく鳴らしながら飛来してきた化鎧虫の軌道を逸らす。 「ここです!」 そこへフィーネの砲撃。 火球が化鎧虫・弐の羽根の付け根部分をごっそりと削り取り、残る部分が雑草茂る地面へと落下して何度か跳ねる。止まった時にはすでに化鎧虫・弐の息の根は止まっていた。 「あそこにも卵が」 フィーネが大木の烏鷺を魔槍砲の先で示した。中にはたくさんの黒い卵が転がっていた。 「屯っている化甲虫はこの赤い花のダイリン様に任せろ! 卵の破壊は任せた!!」 ダイリンが振り向き様に魔槍砲の槍先で化甲虫・壱の羽根を斬り落とす。続いての一匹をかわしながら三匹目は近くの幹に隠れて盾とする。 足下で蠢く化甲虫・壱に槍を突き刺しながら幹に衝突して落下した化甲虫・参を見下ろすダイリン。大振りにして槍先に勢いをつけて化甲虫・参を引き裂いた。 頭上で旋回する化甲虫・弐をダイリンが睨む中、フィーネは巨大な幹の烏鷺へと到達する。 「急いで正解でしたね」 フィーネがたいまつで烏鷺内を照らすと並ぶ黒い卵の中に孵化寸前と思われるものをいくつか発見する。枝の二股部分にたいまつを挟み込んで灯りとしたフィーネは槍先で卵を次々と破壊していった。 「警戒は怠っていませんので残念でした」 フィーネは背後から襲ってきた化鎧虫・参へと振り向き様に砲火を叩き込んだ。化鎧虫・参は木っ端微塵となって跡形もなく消え去る。 肆班からそれほど離れていない位置で他の班もアヤカシと対峙していた。参班は東側にあった。 「まずは敵戦力を減らします」 三メートルにも及ぶ朱藩・魔槍砲参号をノルンはゆっくりと構える。すべては強烈な一撃のために。 「わかったよ〜。合わせるにゃ」 パラーリアも使用していたのは朱藩・魔槍砲参号だ。反動を極力抑えるために曲線を描く銃床を地面へと当てた。 「私が撃てるのはおそらくこの一発のみです。後は支援に回ります」 サクルが手にしていたのは魔槍砲弐号。実際にはもう一発撃てたようで後に使用する。 参班の三名は射程距離ギリギリのところから一斉に砲撃を行った。森の低空をひた走る三つの火球がアヤカシの群れへと吸い込まれてゆく。 狙うは強敵たる化鎧虫。 もがれた甲殻が枝の葉を散らし、辺り一面に転がった。瀕死の一匹が吐き出した炎が近くの岩を焦がす。 生き残った化鎧虫や化甲虫が騒ぎだした頃、二射目が叩き込まれた。これらの攻撃によって化鎧虫六匹が一掃される。仲間が殺されたのを憤怒するかのようにたくさんの化甲虫が羽音を鳴らし始めた。 銃砲の玉のように飛んできた化甲虫が酸を吐き散らしても参班は冷静に対処した。 空中を飛んでくる化甲虫には槍の穂先で串刺しにして樹木の幹や大地へと叩きつける。地面を駆けてくる個体に対しては別の作戦だ。 「うんしょっとね〜」 パラーリアは魔槍砲をテコ棒のように使い、巨大な化甲虫をひっくり返してしまう。暴れているうちに元通りになってしまうが、しばしの時間稼ぎにはちょうどよかった。数で押される状況は不利に他ならないからだ。 「陽が落ちてきましたがもうしばらくは大丈夫でしょう」 サクルは視界を確保するためにたいまつをいくつか用意して地面に突き刺す。自らは槍先で瀕死の化甲虫に止めを刺してゆく。 「化甲虫達が守ろうとしている方角は‥‥」 「あっちに行こうとすると必死になるかんじがするよ〜」 ノルンとパラーリアは戦いながらアヤカシの動向を探った。行動に一貫したものがあるのならば、それは卵を守る行動に他ならないと。 「あの茂みの下にありました! かなりの数です!」 サクルが卵の巣を発見する。 ノルンとパラーリアが迫る化甲虫の壁となった。その間にサクルが卵を虱潰しに破壊する。卵をすべて瘴気に戻すとサクルも再び化甲虫退治に加わった。 参班と同時期に弐班は西で展開していた。それなりに拓けた土地になっており、最初から乱戦状態である。 「なかなかの切れ味。朱藩って鍛治とか開発が発達してるのは本当みたいかな」 リラが振るう朱藩・魔槍砲壱号の槍先が化甲虫の厚い甲殻を突き破る。千切れた殻や体液が大地へと落ちて瘴気へと戻ってゆく。瘴気の霧を振り払いながらリラは奮戦していた。 「よし、これで。ローザ、いくぜええええええ!」 「それでは合わせて撃ってみますわ」 リラの頑張りによってルオウとローゼリアが一時的に敵の狙いから外れていた。ここぞとばかりに少し下がった二人は魔槍砲を構える。 ルオウが構えたのは朱藩・魔槍砲壱号。守りに特化した槍先で寄ってきた化甲虫を弾き飛ばす。 ローゼリアが選んだのも朱藩・魔槍砲壱号だ。壱号の特徴は遠距離攻撃においての安定性。均衡した戦いを弐班の有利に持ち込むためには、自らの土俵にアヤカシ側を引き込む必要があった。 ルオウとローゼリアの魔槍砲が火を噴いた。 リラに迫ろうとする化鎧虫・玖を火球が弾き飛ばす。勢いのまま樹木の幹へとぶち当たってひしゃげた甲殻が四散した。 もう一発の火球は化鎧虫・拾が炎を吹き出そうとする瞬間に頭部をえぐる。化鎧虫・拾が羽ばたきの力を無くしてリラの足下に転がった。 「もう一発!」 「これを食らっても飛んでいられるかしら?」 練力の限りルオウとローゼリアは魔槍砲を撃ち続けた。 「これで六匹目だ!」 リラの槍攻撃も冴え渡り、一気に戦いの流れが弐班へと傾く。弐班が担当した周辺の卵は比較的目立つ場所に転がっており、壊すのは容易であった。 弐班、参班、肆班がある程度の目処をつけていた頃、北側の壱班の戦いは始まったばかりであった。 卵が隠されていた巧妙な場所とは岩盤と表現した方が正しそうな巨石の真下。雨水の浸食によって削られてぽっかりと空洞が出来ていたのである。 「これは?」 それを発見したのはクルーヴのお手柄だった。たいまつで照らされた足下に違和感を持って探ったところ、一匹の化甲虫がわずかな隙間から出て行くのを見かけたのである。 「こりゃ思案のしどころだな‥‥。何かいい案はねぇかな?」 さっそく入ろうとした興志王だが踏みとどまる。さすがに敵の巣のような場所へ無策で立ち入るのには躊躇があった。自分だけならまだしも壱班として美空とクルーヴもいるからだ。 「卵が隠されていたとして、壊すのは後で構わないと思うのであります」 「たいまつに余裕はありますので灯りは大丈夫です。ですが狭い場所では魔槍砲の長所がなくなってしまいそうです」 美空とクルーヴの意見を聞いた上で興志王が採った作戦は燻し。果たして効くかどうかは未知数であったが、少なくともアヤカシでも異常事態だと感じ取るだろうと。 草や葉を集めて一気に入り口近くへと放り込む。枯れ気味なものは火付け用。青い草葉は煙を出すために混ぜられていた。 「これで点くはずなのです」 美空が火種となるたいまつを入り口へと放り込むと明るくなった。簡単に点くように魔槍砲用の火薬を草葉の中に紛れ込ませておいたのである。 煙は一気に広がりみせる。壱班が草葉を放り込んだ以外の場所からも煙が洩れだしてきた。ちなみにその他の穴については出来るだけ岩を動かして塞いであった。 「それじゃ今いった通りに。やるぜ」 興志王は専用の朱藩・魔槍砲弐号。 「ついにアヤカシにこの砲が役立つときが来たのですね」 美空は感慨も一塩だ。鍛冶場に泊まり込んで思考錯誤を繰り返した日々を思い起こす。 「僕は撃てなくなったら宣言して槍攻撃に変更します」 クルーヴは今一度手元の魔槍砲を眺める。 美空とクルーヴは共に魔槍砲弐号。 興志王も専用とはいえ魔槍砲弐号。 魔槍砲弐号を選んでいた。それぞれにかけられる技を使用しての射撃が開始されたのはアヤカシが穴から飛び出して来た時から。 美空が放った火球が化鎧虫・拾壱を岩に押しつけるようにして砕いた。黒い瘴気に戻って雲散霧消してゆく。 クルーヴの射撃によって身体に穴が空いた化鎧虫・拾弐は自らの動きによってねじ切られて真っ二つ。地面へと落下して動きを止める。 狭いだけあって出てくるのは一匹か二匹が限界。化鎧虫を優先してうち砕く。興志王が取っ手を動かしての火薬交換を行ったが動作は完璧であった。 クルーヴと美空は入り口近くに待機して倒し損ねたアヤカシに止めを刺してゆく。白い煙に混じって還元した瘴気が立ちこめる。 長く続いた戦いであったが、やがて一匹も出てこなくなる。そうこうするうちに弐班、参班、肆班が壱班に合流し、全員で岩下の空洞を確認することとなった。 たいまつの灯りで照らした空洞内は異様な状況にあった。黒いアヤカシの卵が大量に並ぶ様は嫌悪感を抱かせるのに充分なものだ。 全員で卵を処理をして岩下を出る頃には完全に日が暮れていた。たいまつを片手に周辺にアヤカシと卵が残っていないかを探る。安全を確認した一行は一旦中型飛空船へと引き返すのだった。 ●そして 魔槍砲の実戦投入とアヤカシ殲滅の成果が得られたと感じた興志王一行は朱藩の首都、安州へと帰還する。 「飲んで食って休んでくれ。ホント助かったぜ」 開拓者達は安州の城で興志王から持てなしを受けた。おかげで練力のすべてを回復するまでには至らなかったが、かなりのところまで持ち直す。 「後はこいつらの数を揃えられればと考えている。ここまで仕上がってりゃ、鉄郎やみんなが探してきてくれた鉄砲鍛冶の力で何とかなるさ」 興志王は朱藩における魔槍砲の目処がついたことに対して開拓者達へと深く感謝する。 帰還から二日後の真夜中、精霊門を通じて神楽の都へと戻った開拓者達であった。 |