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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ● 魔槍砲。それは本来アル=カマル製の特殊銃を指す。 宝珠が組み込まれた長銃身型であり、先端には槍のような刃が装着可能。宝珠近くの樋口から火薬や専用の薬品を詰め込む構造を持つ。 しかし魔槍砲には銃口が存在しない。そして多くの魔槍砲は弾丸を込める手順さえ必要とせず、練力消費によるスキルを代替えとする。 銃身の先端から時に放たれる火炎、爆炎は一見すれば精霊魔法のようだが物理的な攻撃能力を有す。 これまで改良が続けられてきた魔槍砲だがここにきて停滞気味。アル=カマルの宝珠加工技術の行き詰まりが原因といわれている。 このような状況下で朱藩国王『興志宗末』と万屋商店代表『万屋黒藍』は魔槍砲に注目していた。 ● 朱藩の首都、安州の街の外れにある銃砲工房『紅蓮』。 鉄砲鍛冶の小槌鉄郎が住む屋敷兼仕事場である。弟子が巣立ってから娘の銀と二人きりで暮らしてきた鉄郎であったが、ここのところは人の出入りが非常に激しかった。 朱藩の王『興志宗末』からアル=カマルを発祥とする魔槍砲の独自開発を託されたからである。 たくさんの案を提示し、鍛冶などの作業を手伝ってくれる開拓者達。 アル=カマルから招聘された鉄砲鍛冶。 宝珠の研磨を専門とする職人。火薬調合の職人。 多くの人に支えられて魔槍砲は形になってゆく。 欠点を一つ一つ克服し、果たして戦いの場でも能力を十分に発せられる武器にまで昇華出来るのか。 手応えは感じられていたものの、開発は未だ途上にあった。 |
■参加者一覧
美空(ia0225)
13歳・女・砂
芦屋 璃凛(ia0303)
19歳・女・陰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
パラーリア・ゲラー(ia9712)
18歳・女・弓
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
クルーヴ・オークウッド(ib0860)
15歳・男・騎
ノルン・カペル(ib5436)
18歳・女・砲
赤い花のダイリン(ib5471)
25歳・男・砲
ローゼリア(ib5674)
15歳・女・砲
サクル(ib6734)
18歳・女・砂 |
■リプレイ本文 ● 銃砲工房『紅蓮』から中型飛空船二隻が朝焼けの空へと飛び立つ。 前日の宵の口。安州の城にすべての新規試作魔槍砲が仕上がったとの報が伝わった。 待ってましたとばかりに興志王は紅蓮へと赴く。深夜に手配した飛空船が到着。朝を待って耐久試験を行う山奥に移動を開始したというのがここ半日の経緯だ。 朱藩内の山奥へと降りたのは興志王と配下二十名、小槌親子、開拓者十名の計三十三名である。 拠点設営の準備が整うと、さっそく魔槍砲の耐久試験を開始された。 ● 「ここがよさそうだな」 「岩が並んでいて的には不自由しなさそうですの」 ルオウ(ia2445)とローゼリア(ib5674)は試験に適当な場所を見つけると担いでいた荷物を下ろす。 二人は互いが試作した魔槍砲の長所を採り入れた新型を完成させようと自分達が手がけられる最後の作業に取りかかった。 魔槍砲の射撃は練力の消費が激しいので興志王の配下である砲術士四名も協力してくれた。 吹いた炎が空間を支配し、地面には岩の破片が落ちて散らばる。 「調子はよさそうだ。ちゃんと壊れずに試験を終えてくれよな」 ルオウは一発目を撃って手を伸ばし、ル魔槍砲を今一度眺めた。 中折れ式を成立させるためにルオウが採ったのは宝珠の複数化。銃身先端の練力変換宝珠とは別に引き金近くの手元周辺へ練力取込用の宝珠を設けるやり方だ。 正確にいえば触媒に使う火薬使用の宝珠の欠片も使われているので、計三個が一挺の魔槍砲に使われていた。さらに先端の槍はウィングド・スピアを参考にして防御に徹しやすい形状を採用済みである。 「そちらもよさそうですね。ではわたくしも撃たせてもらいますの」 ローゼリアは反動で後方にずらされながらも制御。ロ魔槍砲の火球で岩の真ん中を深く窪ませる。 ロ魔槍砲は鉄材を厳選して剛性を犠牲にすることなく重量を抑えてある。とはいえ全長が三メートルに達しているので実質的には相殺されて他の魔槍砲の重さと変わりはない。その分だけ安定性が高いのが特徴といえるだろう。 事前に灯火で照らして選別した宝珠を交換しながら続ける。紅蓮の庭でも行ってきた試射だが、今回は補助の砲術士四名もいてとても効率がよかった。 疲れ切ったところで約六時間の就寝。練力を回復させてから耐久試験を再開する。食事の用意を含む世話係は銀と共に興志王配下の者達がやってくれた。 おかげでルオウとローゼリアだけなく全員が余計な雑務に惑わされず、耐久試験に集中出来たのだった。 ● 「フルエレメンタル方式で火薬交換なしで撃てるようにしないとね〜。それとビシッと安定させるのにゃ」 木漏れ日の下、パラーリア・ゲラー(ia9712)は二つ折りになっていた魔槍砲を軽く振るようにして射撃可能状態へと変形させた。 三メートル強の全長もフルエレメンタル方式と並んでパ魔槍砲の重要な機能の一つ。銃床が引き金の後部分から大きく弧を描いているのは地面に設置させて反動を抑えるためだ。 「うんと‥‥。こんな感じかな?」 二回の射撃反動を感じ取ったパラーリアは岩の上に座って木製の銃床を小刀で削り始める。仕上がったところで手伝いの砲術士達にも撃ってもらい、さらに微調整を施す。よいと感じられる形状になったところで新規の銃床に交換。修正作業を繰り返した。 パラーリアはいくつかの銃床を作り上げ、その中から一番よさそうな形状を選ぶつもりでいた。 宝珠の耐久力を調べるのも重要である。わざと水をかけてみたりもしてみた。火口などの開口部が少ない故に高い機密性を保っているのがパ魔槍砲。副次的なものだが性能の安定に繋がっていた。 「おいしいのにゃ〜♪」 「ふふふっ♪」 銀が運んできてくれた具だくさんの汁をパラーリアは夕食として頂く。耐久試験が終わったら一緒にチョコケーキを作ろうと銀と約束するのだった。 ● 「万全、万全。赤い花のダイリン様の魔槍砲ならこうでなくてはな」 赤い花のダイリン(ib5471)は薬室に火薬を投入して高笑いをする。次に取っ手を押して内部のからくりを連動させた。薬室が練力変換宝珠近くの先端に移動して射撃準備が整う。 構え、撃ってみると轟音をまといながら火球が発射される。銀と銅の合金を練力の導線に使ったのがよりよい結果を生んでいるようだ。 「この追い打ちでどうだ!!」 ダイリンは射撃の直後に身体を翻しながら的とした岩へと急接近。槍を岩に深く突き刺した。ダ魔槍砲の射撃構造だけでなく槍攻撃を含めた耐久力を試したかったからである。「このぐらいでは歪みもないな‥‥。やるな、さすが興志王が選んだ鉄砲鍛冶だ」 槍として使った後でダイリンはダ魔槍砲に損傷がないかを確認。何度も行ってどこまで耐えられるかを試験する。 この試験を前提として槍にも心得がある配下を興志王から手伝いに回してもらっていた。自らが手応えを感じとる以外に他人が使う様子を観察するのも大いに意義があるからだ。 「薬室移動のからくりと、槍としての使い勝手を考えればこのぐらいが妥当か。砲撃重視の魔槍砲へと発展させるにはよい素体じゃねぇんかな」 ダイリンは魔槍砲の長さについて、当初から想定していた通りに二メートル前後がよいと再認識する。 故障がまったくなかったわけではないが、ダイリンが行ったダ魔槍砲の耐久試験は非常に実のある結果を残すのだった。 ● 「提案致します。ダ魔槍砲についてですが、金属が異なる導線を使ってみてもよろしいでしょうか」 「やってみる価値はあろう」 ノルン・カペル(ib5436)は鉄郎の許可を得た上でダイリンから借りたダ魔槍砲の一挺に手を加えた。すでに銀と銅の合金導線が使われていたが、以前の試験で一番効果があったといわれている純金の導線をあらためて試してみようと交換する。 「過負荷試験につきましては、危険かつ長丁場の試験となります。私も尽力させて頂きますので、ご協力をお願い致します」 ノルンは一緒に試してくれる砲術士達に丁寧な挨拶をしてから耐久試験を開始した。 確かに純金の導線は銀と銅の合金と比べて効率がよいように感じられる。一発における練力消費は同じだが威力が増していた。 但しその差はわずか。費用対効果を考えるのならば銀と銅の合金の圧勝といってよい。 ただ興志王などの特別な立場の者が使用する特注魔槍砲の需要はあるはずなので、鉄郎の手元に詳細な情報を残しておくべきだと実験を続行する。 純金の導線の耐久性については特に問題は起こらなかった。 ● 「錬力集積用の宝珠を銃床に配置したかったのですが、時間が足りなかったようです」 クルーヴ・オークウッド(ib0860)は両足を開き気味にク魔槍砲を構えて大爆炎を発射した。 威力そのものは満足出来るものだ。的にした岩を貫通し、近づいて軽く揺すったところでガラガラと崩れ落ちる。ダ魔槍砲と同じく導線を銀と銅の合金に交換したのが功を奏したようである。 ク魔槍砲は四メートルを超える全長を誇る。火薬は紙巻きしたものを投入する方式。さらにダイリンが発想したダ魔槍砲の火薬移動機構が採り入れられていた。銃身先端の練力変換宝珠近くまでわずかな動作で火薬を運べる画期的なからくりである。 ただ三回目の動作で紙巻き火薬の詰まりを起こしてしまった。その後も四苦八苦するはめとなる。ダイリンが予言した通り、あまりに長い銃身だと火薬移動機構が不安定になるようだ。 ここでさらなる工夫をこらしたいところだが機構の開発期間はすでに終わっていた。後は機能を集約させる際に期待を残すのみ。少しでも判断材料を増やすためにクルーヴは耐久試験の回数をこなすのであった。 ● 「いろいろと槍の穂先を用意してみましたが‥‥」 フィーネ・オレアリス(ib0409)もダイリンのダ魔槍砲に注目した一人である。 薬室移動のからくり、また銀と銅の合金製の導線の採用。これらダ魔槍砲の特長をフ魔槍砲に採り入れた上でより発展形を目指す。 導線の二重化は安定性を図るために非常に有効に働いた。練力伝達の消耗を最小限にし、さらに不慮の事故にも強くなったからである。実際、耐久試験において一度も導線に支障を来さなかったのは二重化を施した魔槍砲のみであった。 中折れ部分の可動フィンも姿勢安定に一役買っていた。重量そのものよりもバランスこそが一番大切なのだと手伝いの砲術士が感想を洩らすほどに。 砲撃についてはそつなく耐久試験が終わる。 「槍の耐久試験も行わなければなりませんね」 次にノルンが手をつけたのは槍の穂先の改良だ。『芦魔槍砲・螺旋』のような特殊形状の槍の穂先をいくつか試してみるノルンであった。 ● 「どの形になるにしても、独自に生産可能になりましたら、各部品の簡略化とコスト改良が課題になると思います」 「需要が果たしてどのくらいになるのか‥‥」 サクル(ib6734)は耐久試験の開始前に鉄郎としばし談笑する。 その際に引き金付近に宝珠を置くとして、それらの部品を発射ごとに新しいものと交換する構造は可能かと訊ねてみた。 鉄郎の答えは『非常に難しい』である。よりからくりが複雑化してさらなる故障の起因となる可能性が高かったからだ。 サ魔槍砲はルオウとクルーヴの試作魔槍砲を参考にして造られている。宝珠や薬室を中折れ式の関節部分に集約させた上で、通常の銃砲と似たような筒状の銃身内を通じて物理攻撃が発射される仕組みになっていた。 まるごとの部品交換が無理ならばサクルが採れる安定化の方法は練力変換宝珠の威力を抑え気味にすることだ。宝珠の交換のみで済むので対処自体は無理なく行える。 「安定性さえ確保出来れば、将来的に少しずつ性能を伸ばしていくことも可能でしょうから」 サクルは砲術士達の協力を得て試射を行った。交換した宝珠は最終的に百以上にものぼったという。 ● 「さて、これがどこまで耐えうるが問題だな」 芦屋 璃凛(ia0303)は自らが発案した魔槍砲の先端を眺める。 螺旋状の槍が取り付けられたそれは試作の段階で『芦魔槍砲・螺旋』と呼ばれていた。 的に槍を突き刺す際に予備動作として火薬爆発による振動で深く食い込ませて、その上で練力変換の火球を撃ち込む構造である。 耐久試験は実戦を想定して砲撃と槍攻撃を同時に行う。 芦屋璃凛は岩へと急接近して螺旋の槍を的の中心に当てた。衝撃で薬室内の火薬は爆発し、螺旋槍が振動。同時に練力変換宝珠が発動する。火花を散らせて岩を粉砕した。 「結局は、特異な形状と一撃必殺だけ。集約化するなら、うちのは槍の形状くらいかな‥‥」 弱気な発言が続く芦屋璃凛だが螺旋状の槍は評判がよかった。 「へぇ〜面白い形をしているな」 興志王も興味を示して試験を手伝ってくれるのだった。 ● 「美空の発火方式の安定性が証明されれば皆さんに使ってもらえるのであります」 美空(ia0225)はマスクの下に隠れる瞳をキラリと輝かせて一挺の魔槍砲を片手で掲げる。 それは美空が『美空式魔槍砲発火機構』と名付けたからくりを組み込んだ原型・魔槍砲。発火用の触媒宝珠の周囲に火薬を配置し、全方位からの爆縮によって練力変換の触媒効果を増進安定させる仕組みになっていた。 仲間達の魔槍砲に組み込みたかったものの時間的に余裕はなく、あらかじめ数が揃っていた原型・魔槍砲を改造して間に合わせた経緯がある。 欠片のような発火用の宝珠の回りに火薬を配置したものを換装させて使おうと考えていた美空だが費用面で難しかった。欠片のような宝珠でも貴重でそれなりの値段がするからだ。 そこで制作を担当した鉄郎は紙に撒いた火薬をまとめて入れ、軽く振ることで各所に収まる方法を採用する。一つや二つ火薬の位置がずれても問題がないような工夫を施して。 排出のからくりはダイリンのダ魔槍砲を参考にするつもりである。とはいえ、魔槍砲の機能を集約する際には課題になってしまうのだが。 「昔は箸より重い物は持てなかった美空ですが、今は力もついたので無問題であります」 「よしゃ! それじゃ次はこいつをやろうぜ」 美空は改良した原型・魔槍砲の他に、興志王と仲間達の耐久試験を手伝うのだった。 ●集約 数日間の山籠もりで魔槍砲の耐久性を洗い出した興志王一行は、朱藩の安州へと帰還する。興志王が工房に留まれる間に魔槍砲をどのように集約するのかの話し合いが行われた。 「そうですな‥‥」 あぐらをかいた鉄郎が難しそうな表情で目前の皿にのっているチョコケーキを眺めた。 チョコケーキは安州に戻ってきてからパラーリアと銀が一緒に調理したおやつ。ナッツ入りでとても甘い仕上がりになっていた。すでに興志王は一皿平らげて次に箸を付ける。 鉄郎は悩んだ末、三種類の魔槍砲に集約させたいと一同に告げた。 一つ目はルオウとローゼリアの魔槍砲を合わせたもの。 二つ目はダイリンの魔槍砲を基本に。 三つ目はパラーリアの魔槍砲を基本に。 この三種類に各開拓者の案やからくりを集約して完成させたいという。 画期的なからくりについては複数に採用されるかも知れないが、微調整でどうなるのかわからないのでここでの言及は避けられた。 それから丸一日、すり減らした練力を回復させるために開拓者達はゆっくりと休息をとる。 「ちょっと面白いもんが手に入ったんでな」 興志王は開拓者達に土産として泰国産のめろぉんを贈った。これを食べて元気になってくれと帰路の開拓者達に手を振るのであった。 |