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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ● 魔槍砲。それは本来アル=カマル製の特殊銃を指す。 宝珠が組み込まれた長銃身型であり、先端には槍のような刃が装着可能。宝珠近くの樋口から火薬や専用の薬品を詰め込む構造を持つ。 しかし魔槍砲には銃口が存在しない。そして多くの魔槍砲は弾丸を込める手順さえ必要とせず、練力消費によるスキルを代替えとする。 銃身の先端から時に放たれる火炎、爆炎は一見すれば精霊魔法のようだが物理的な攻撃能力を有す。 これまで改良が続けられてきた魔槍砲だがここにきて停滞気味。アル=カマルの宝珠加工技術の行き詰まりが原因といわれている。 このような状況下で朱藩国王『興志宗末』と万屋商店代表『万屋黒藍』は魔槍砲に注目していた。 ● 朱藩の首都、安州。 国王の興志宗末は街の外れにある銃砲工房『紅蓮』を訪ねた。どこまで魔槍砲の開発が進んでいるのか気になったからである。 「かなり頑張ったようだな!」 壁掛けしてあるたくさんの魔槍砲を眺めて魔槍砲は眼を見開いた。 「どれも開拓者から出された案を形にしたもの。まだ殆どが造りかけですわ。そちらは――」 鉄砲鍛冶の小槌鉄郎が興志王が手に取った一挺の説明を行う。 「――完成したとしても普通の者では練力とやらが足りずに撃つことすら叶わぬ銃砲。果たしてうまく可動するのかどうか‥‥」 鉄郎は難しい表情を浮かべた。冒険した構造ばかりなので動くのかどうかわからない。ここのところずっと眠れない日々が続いていた。確かめられないもどかしさは心を蝕むものである。 「何挺かは仕上がっているようだな。よし!」 試しにと興志王が試射を行うが引き金を絞っても何も起こらなかった。顔を近づけようとしたら銃身先端に取り付けられていた宝珠が粉砕爆発。さすがの興志王も尻餅をつく。 「王様!」 「大丈夫でございますか!」 鉄郎とその娘、銀が興志王に駆け寄る。 「平気、平気だ。‥‥しかしやっぱ大変なもんだな。新開発ってのはよ」 一人で立った興志王は服についた土埃を片手で払う。無惨に壊れた魔槍砲をもう片方の手で持ったまま。 懲りずに興志王は別の一挺を試した。こちらは撃てたものの、練力が一気に消費される。 魔槍砲開発の旅路は始まったばかりであった。 |
■参加者一覧
美空(ia0225)
13歳・女・砂
芦屋 璃凛(ia0303)
19歳・女・陰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
パラーリア・ゲラー(ia9712)
18歳・女・弓
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
クルーヴ・オークウッド(ib0860)
15歳・男・騎
ノルン・カペル(ib5436)
18歳・女・砲
赤い花のダイリン(ib5471)
25歳・男・砲
ローゼリア(ib5674)
15歳・女・砲
サクル(ib6734)
18歳・女・砂 |
■リプレイ本文 ●鉄砲鍛冶 朱藩の首都、安州を訪れた開拓者十名は銃砲工房『紅蓮』の門を叩いた。まだ夜が明けぬ、白んだ空の頃に。 「また会えて嬉しいです」 鉄砲鍛冶『小槌鉄郎』の娘『銀』が以前のように工房へと招き入れてくれる。開拓者達はさっそく鉄郎の元へと向かった。 鍛冶屋の朝は早い。炎を熾すための炭の用意や藁灰を得るための作業など鉄を鍛えるだけでも前準備が必要だからだ。鎚を振るうのはその後である。 「おう、さっそくだがこれを運んでくれるか」 すでに汗まみれの鉄郎を開拓者達が手伝う。 「任せてくれ。まずはこいつだな」 「静かに運びましょう」 赤い花のダイリン(ib5471)とノルン・カペル(ib5436)は汲み置きの水瓶を台車に載せて運んだ。不純物を沈殿させてから使うのである。 「私は‥‥薪割りをさせてもらいますね」 薪は鍛冶作業にも使うが日常生活においても必要不可欠なものだ。世話をしてくれる銀のためにもサクル(ib6734)は勢いよく薪割りの斧を振り下ろす。 「わたくしは出迎えにいってきます。宝珠に詳しい人とお話したかったので願ったりですの」 「あたしも一緒に行くのにゃ〜♪」 ローゼリア(ib5674)とパラーリア・ゲラー(ia9712)は鉄郎から紹介状を受け取るとさっそく出かけた。向かう先は安州近郊に住む宝珠加工の職人の住処。昼過ぎには戻れるはずである。 「美空はアル=カマルの鉄砲鍛冶のみなさんを連れてくるのであります」 美空(ia0225)は興志王の招聘で異国からやってきた鉄砲鍛冶達を連れてこようと城を目指す。美空も尽力した経緯が過去にあった。 「炭一つとっても大変なんだな」 「袋に一杯になりましたので火床まで運んでおきます」 ルオウ(ia2445)とクルーヴ・オークウッド(ib0860)は大きすぎる炭を割ったり、悪い質のものを選別する。 「アヤカシやケモノの骨とか手に入らないかな‥‥」 「アヤカシの殆どは倒すと瘴気に戻ってしまいますので無理かと。ケモノならあり得ますね。特殊な能力が宿っているかはわかりませんが」 芦屋 璃凛(ia0303)とフィーネ・オレアリス(ib0409)は作業場の床を箒で掃いてから雑巾がけを続ける。 工房に残った者達は準備が終えたところで銀が用意してくれた朝食を頂いた。出かけた者達のために銀はおにぎりを用意しておくのだった。 ●パラーリア 「うまくいくといいのにゃ」 滞在期間後半、パラーリアは完成したばかりの魔槍砲を試射しようと庭先へ出る。パラーリアの一文字をもらって『パ魔槍砲』と仮に呼んでいる一挺だ。小槌親子、宝珠職人も一緒であった。 「大変だったのにゃ‥‥」 軽くだが珍しくパラーリアがため息をつく。 出力と制御の宝珠を組み合わせて安定化及び反動の抑制を狙ったのがパ魔槍砲。 宝珠職人の住処から二百を越える宝珠を工房へと運び入れたまではよかった。しかしすべての組み合わせを調べるのには膨大な手間が必要である。パラーリアは昼夜関係なく、試射で練力を消費して休息で回復させる毎日をここしばらく送っていた。 そんな中、よさそうな組み合わせを偶然にも発見する。 パラーリアは半日前に三回撃ったパ魔槍砲を火薬交換なしでそのまま撃った。薬室の投入口こそ残っていたがパ魔槍砲にはフルエレメンタル方式が組み込まれていた。 火薬投入なしに撃てるようになったものの問題は残る。射程距離が非常に短くなってしまったのだ。 反動を軽くする石突については手を入れる必要が残っていたものの、ひとまずの成果をあげたパラーリアであった。 ●赤い花のダイリン 「練力を伝える導線は針金みたいなものって聞いたが、鉄以外を使えばまた違ってくるんじゃないかなって思ってよ」 ダイリンは応援にやってきたアル=カマルの鉄砲鍛冶に相談を持ちかける。 彼によればあくまで針金のようなものであって素材が鉄だけとは限らないという。特殊な加工も必要なようだ。そこで様々な金属を使用し、可能ならば融かし合わせた合金も使用してみる。特殊な加工については天儀由来の宝珠精霊力を利用した鋼の鍛え方も試された。 薬室が引き金付近に移動されたダイリンの試作魔槍砲『ダ魔槍砲』は二挺完成する。 ダイリンが試射し、鉄砲鍛冶が導線を交換する。宝珠が暴走しない限りはかなりの射撃回数をこなせたダイリンだ。 火薬を詰めて取っ手をわずかに動かすと、組み込まれた歯車によって二メートル前後の筒の中を薬室が一気に移動する。中折れ式故に難しいからくりであったが鉄郎は見事完成させてくれた。後は耐久がどこまであるのかを試さなくてはならなかったが。 「練力変換がうまくいった導線は?」 ようやく試射が撃ち終わった日にダイリンは鉄砲鍛冶に訊ねる。純金が一番。二番目によかったのは銀と銅の合金であった。 ●クルーヴ 「ありがとうございました」 クルーヴはダイリンからダ魔槍砲を借りて試し撃ちをさせてもらう。注目したのは薬室ごと火薬を先端部へと送り込むからくりだ。 「上手く紙巻き火薬が作れたとしても、使用後に紙屑が残る気がするのです。火薬のカスを排出させてもっと時間を短縮できませんか?」 「そうだな――」 ダイリンも試してみる価値はあると判断してくれた。クルーヴは鉄郎と共に導線の実験を終えたダ魔槍砲の一挺を分解して再検討する。 耐久性の確認もまだなので完成までたどり着けるかは未知数である。紙屑を排出出来たとしても耐久性に影響があったのなら取りやめざるを得なかった。 滞在期間の半ばに火薬職人が工房へやってきた。 「火薬を固形化する‥‥のは非常に難しいですね。ただ紙巻きにして密封を施すのはそれほど難しくはありません」 火薬職人はさっそく開発に着手してくれる。 一度は完成した四メートル級のクルーヴの試作魔槍砲『ク魔槍砲』だが、ダ魔槍砲を参考にしてさらなる改良が加えられることとなった。 ●ノルン 「小槌様、分析結果からこちらの案が。具体化するには、更なる分析が必要ですが。一つの案としてお考え頂きたいと思います」 ノルンは魔槍砲の複製協力をしながらまとめた内容を鉄郎に提出する。 安定化のために導線の効率化を為し、火薬については何らかの包みとからくりを用意して発射毎に入れ替える方式を提案していた。 「導線の効率化は他の開拓者もしておるし懸案だからな。手をつけるべきだろう。ただ発射毎に火薬を入れ替える方法というのは‥‥」 鉄郎は難色を示す。面白い案なのは認めるが、からくりの部分がどうすれば造れるのかがさっぱり思いつかなかったからだ。少なくともここ数ヶ月の間に目処をつけるのは無理だと答える。 その後ノルンはダイリンがアル=カマルの鉄砲鍛冶と一緒に行っていた導線の研究に参加する。試射を含めて多大な貢献で成果を導いた。 「‥‥どうにも気が乗りませんね。体を動かしますか」 ある日の夜、ノルンは『短銃「ピースメーカー」』の二挺拳銃を握りしめて庭の大木に歩み寄る。月下のノルンは頭上に小石を投げて木の葉を落とし、二つの銃口で狙い定めるのだった。 ●サクル 「恐らく実際にこれを扱う方々は砲術士の方も含まれるでしょうから、『中折れ式で砲術士の方も扱える魔槍砲』があれば、と思います」 サクルが望んだ『複製魔槍砲』は十挺が完成する。希望する仲間には提供した上でサクルも改良の基礎にしようと何度も分解しては組み立て直す。 (「ルオウさんの『引き金近くに宝珠を』という案とクルーヴさんの『火薬・薬品の後ろ込め』案‥‥」) サクルは仲間のやり方を参考にしながら自らの案を絞り出す。それは宝珠や薬室を中折れ式の手前側にすべてを集約する構造。先端までは通常の銃砲と同様に空洞にして物理攻撃が発射されるように変更する。 「技術的に可能でしょうか?」 「何とかなるだろう。問題があるとすれば――」 鉄郎に相談したところ仕掛けが一所に集中するので安全がはかれるかどうかが完成への鍵だという。宝珠が暴走して爆発した場合、先端にあれば大丈夫でも手元となればとても危険だからだ。 ものは試しとサクルの試作魔槍砲『サ魔槍砲』は完成する。その後、サクルは情報をとり続けた。その間に一件、先端の宝珠にひびが入る事象が発生するのだった。 ●ルオウ 「すぐにも手をつけたい所なんだけどなぁ」 深夜、呟きながらルオウは設計図を見直していた。 ルオウ案の試作魔槍砲『ル魔槍砲』は一応の完成をみたものの、未熟な部分が見え隠れしていた。特に問題なのが複数の宝珠を離して使う構造のために中折れの継ぎ目の強度が足りていなかった。 試射の際に遭遇した宝珠の暴走も中折れ部分の不備のせいで練力がうまく伝わらなかったからだとルオウは考える。 「でも‥‥こうするとやっぱし強度に不安があるよな‥‥」 次の素材は鉄郎が鍛えた鋼を使用してくれるという。後は形状の問題だ。なるべく作りやすく頑丈な構造にしなければとルオウは頭をひねる。呻りながら何度も設計図を描いては捨てる。 「これならいけるかな」 それから数日後。ルオウは改良したル魔槍砲の試射を終えて手応えを感じ取った。寸法を含めた全体の再調整をするためにもう一度造り直す必要はあるのだが。その際、ウィングド・スピアを参考にして防御に徹ししやすい形状の槍先を鉄郎に頼むつもりでいた。 背水心で覚悟を決めて鍛冶を手伝い、爆睡で完全回復して不良箇所を洗い出すルオウであった。 ●ローゼリア 「銃身を長くしてみますの」 ローゼリアは少しでも命中精度を得るために銃身を長くしてみた。完成したローゼリアの試作魔槍砲『ロ魔槍砲』は全長三メートルを誇る。 覗き窓に関連する問題点は魔槍砲が立射で撃つのが基本なことから発生する。両腕を垂らし気味にして抱え込むような構え。槍としての機能を兼ね備えるとなれば自然にこのような姿勢にならざるを得ない。覗き窓に関しては解決の糸口が見えないまま終わる。 ルオウも危惧していた中折れ部分の強度も由々しき問題である。こちらはローゼリアの意見も含めて構造の改良と素材の変更によって達成の目処がついた。 「軽量化の追い込みはまだですけど何とかなりそうですの。問題なのは――」 ローゼリアは練力の変換効率が優れた宝珠の見分け方を探った。滞在期間後半に発見したのは、灯火へと照らして宝珠内に特徴のある歪みがあるかどうかで判別する方法だ。これでかなり判別が楽になったものの、最終的には魔槍砲に組み込んでみるしか方法はなかった。 ローゼリアは残った二日間を試作魔槍砲『ロ魔槍砲』の欠点洗い出しに費やすのであった。 ●フィーネ (「新型の武器を一から構築していくのは難しいものですが、諦めてしまえば止まってしまいます」) フィーネは鉄郎を手伝って試作魔槍砲『フ魔槍砲』を撃てるところまで組み上げる。それからしばらくは試射を繰り返す日々を過ごした。 中折れ式の可動部付近にある可変フィンはうまく連動した。バランスが整ったおかげで反動を分散して抑えられるようになる。片手で扱えるまでには至らないだろうが両腕で構えれば充分な状態だ。ただ可動フィンを今以上に大きくするのは難しい。 (「火薬の入れ替えをし易くするには――」) 反動の調整はこのまま進めるとして、火口を中折れ式の辺りに変更出来ないかを検討するものの暗礁に乗り上げてしまう。 フ魔槍砲は中折れの部分に可動フィンが存在する。火口を近くに移動させるとなればあまりに集中して安定性を悪化させると予想された。別のアプローチを考えざるを得ないようである。 練力を伝達する導線の強化もフィーネは試してみた。 「導線の二重化はよいかも知れませんね」 荒削りな方法であったがかなりの手応えを感じたフィーネであった。 ●芦屋璃凛 「うーん、これ大丈夫かな試射とか」 芦屋璃凛は仕上がったばかりの試作魔槍砲『芦魔槍砲・螺旋』を手に庭へ出る。 アル=カマルの鉄砲鍛冶の協力をあおいで造りあげた魔槍砲の先端には螺旋状の槍が取り付けられていた。力を一点に集中させるための工夫である。 芦屋璃凛が重量のある芦魔槍砲・螺旋を仮想敵である丸太に突き刺して火球を放つ。その際、火薬爆発の衝撃が螺旋の槍部分に伝わって威力に相乗効果が生まれた。 もう一つ芦屋璃凛が検討していたケモノの骨を槍の部分に使う魔槍砲の案は長期保留にされる。 理由の一つは望む効果を持つケモノの骨が簡単には手に入らないからである。よしんば手に入って利用出来たとしても量産は難しく稀少品にしかならないだろう。それは興志王の発注から外れていた。 ●美空 「闇雲に作ってもらちが明かないのであります。まずは安定して出力の得られる仕組みを確立するのです」 分解された原型・魔槍砲を美空と共に囲んでいたのはアル=カマルから招聘された鉄砲鍛冶である。美空自らがスカウトしてきた娘『ダリア』。老齢だがやる気に満ちた『オマール』。実直な中年男性の『サーレハ』の三名だ。 美空は鉄砲鍛冶の三名に各々が知っている安定した魔槍砲がどのようなものだったかを訊ねる。アル=カマル産宝珠の各種特性についてもだ。 改良点を掲げて試行錯誤が行われる。キーワードは基幹となる『宝珠』、入力となる『火薬』、出力たる『物理攻撃』の三点。 美空の推論は『出力が安定しないのは入力にばらつきがあるためであり、安定した点火法が確立できれば出力はおのずと安定する』といったもの。 最終的には二つの方法に辿り着く。 一つは宝珠の一点のみに火薬の威力を集中させて練力変換を促す方法。もう一つは宝珠全体を火薬で取り囲み、爆縮をもって練力変換を達成させる方法だ。 繰り返し実験を試みたところ、火薬を取り囲んで練力変換を成した方がより安定すると判明する。この事実は工房の全員へと伝えられるのであった。 ●そして 最終日の午後。一同はパラーリアと銀が一緒に作ったハマロールとフィーネが用意した紅茶でおやつの時間を過ごした。 もちっとした生地にチーズクリームを巻いたハマロールに樹糖をかけて頂くと疲れた身体に染み入った。お酒の方がよい者もいたが後で鉄郎と一緒に楽しんだことだろう。 朱藩独自の魔槍砲完成にはもう一頑張りが必要であった。 |