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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 災いは期待を裏切って最悪の状況をもたらす。 遠野村のみならず、理穴東部の魔の森との境界線すべてで異変が起きたのである。 理穴の女王『儀弐重音』と理穴ギルド長『大雪加 香織』は理穴東部の境界線でも何事かが起こると睨んですでに策を講じていた。しかしこれほど広範囲なものとは想定していなかった。 距離にして約四百キロメートルにも及ぶ魔の森との境界線すべてでアヤカシが騒ぎ出す。瘴気を溢れさせながら魔の森が繁茂開始。同時にアヤカシの侵攻が始まった。 海沿いを除いたすべてを魔の森に囲まれた遠野村。アヤカシが鈍い動きに制限されるのは以前と同じ。しかし多勢のアヤカシが遠野村へと足を踏み入れてきた。 理由は定かではないが水精霊の湖底姫のおかげなのか飛翔出来るアヤカシは遠野村の中にはやってこなかった。 まだ夜が明けぬ薄暗闇の中、待機していた理穴兵達は応戦に奔走する。 「村人を頼みます!」 村唯一の志体持ちの若き村長、遠野円平は理穴兵で編成された防衛隊に村人達のことを頼んで戦場へと飛び出していった。いつの間にか姿を消した湖底姫を探すために迫るアヤカシの直中へと。 円平に賛同した護衛任務の開拓者達もまた共に戦うためにアヤカシの群れへと急接近する。 優先すべきは湖底姫を探し出すこと。 円平と開拓者達はアヤカシの間をすり抜けて前へと進んだ。遮られてどうしようもない時に限って武力を持って突破する。円平の振るった刀がアヤカシの手足を斬り落とす。 円平には湖底姫が向かった先の想像がついていた。それは海岸線の反対側になる南南東の境界線付近。魔の森と遠野村が接触する最深部といってよい場所である。 (「湖底姫のところまでたどり着けたとして‥‥どうする?」) 円平は駆けながら心の中で迷う。 湖底姫を安全な場所に避難させたいが賛同する彼女ではないだろう。そもそも逃げるつもりがあるのなら最初から一番危険な場所へ行くはずがない。 「いた!」 円平は叫んだ。 朝日が昇ろうとする景色の中に佇む湖底姫の姿を。 彼女を中心に大量の清浄の水によって巨大な水たまりが広がっていた。すでに地面は見えないものの、湖底姫の足下から清浄の水が溢れ続けている。 踏みとどまって少しでも遠野村の縮小を阻止しようとする湖底姫。円平はそう受け取った。 清浄の水による効果のおかげか水たまりの周囲にアヤカシの姿は殆どなかった。 但し清浄の水にも耐えられる強靱なアヤカシ何体かが湖底姫を倒そうと足を引きずりながら少しずつ近づこうとしていた。 「ここで一緒に湖底姫を守りましょう」 円平と開拓者達は湖底姫を守るべく、清浄の水で形成された水たまりの中でアヤカシの排除を開始するのであった。 |
■参加者一覧
一心(ia8409)
20歳・男・弓
ルエラ・ファールバルト(ia9645)
20歳・女・志
玄間 北斗(ib0342)
25歳・男・シ
トゥルエノ・ラシーロ(ib0425)
20歳・女・サ
ジークフリード(ib0431)
17歳・男・騎
ニクス・ソル(ib0444)
21歳・男・騎
針野(ib3728)
21歳・女・弓
鉄龍(ib3794)
27歳・男・騎
神座早紀(ib6735)
15歳・女・巫
錘(ic0801)
16歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●水面の湖底姫 湖底姫に危機が迫る。 円平と開拓者十名は走ってきた疲れを残したまま、彼女へと迫るアヤカシの排除に動いた。 接近戦が得意な者は巨大な水溜まりの中を飛沫をあげながらアヤカシに向かって駆ける。遠隔戦が得意な者は射程に入った時点で武器を構えてアヤカシを的とする。 いくつもの矢が空気を切り裂きながら宙でかすかな弧を描く。水面に立つ湖底姫から三十メートルの距離まで近づいていた毛むくじゃらの巨漢鬼・妖の背中へと矢が突き刺さる。 (「こんな危ない場所に残って‥‥それだけ村のこと、大切に想っとるんよね」) 針野(ib3728)は絶え間なく鳴弦の弓の弦に矢をかけて放つ。遠方の巨漢鬼・妖の背中から視線を外さずにわずかな間も惜しみながら。 「天藍! 湖底姫を護れ!」 もう一人、矢を射ち続けていた一心(ia8409)は上空の迅鷹・天藍に指示を出した。 天藍は湖底姫の頭上で旋回し続ける。それでいて巨漢鬼・妖から視線を外さなかった。いつでも風斬波を放てるようにしているのだろう。 「こちらよ、アヤカシ!」 鷲獅鳥・レニを駆るトゥルエノ・ラシーロ(ib0425)が咆哮を轟かせる。少々の間を持って巨漢鬼・妖が振り向いた。 遠隔攻撃と咆哮によって巨漢鬼・妖はようやく湖底姫への前進を止める。この時、わずか十メートル強の距離まで近づいていた。 「相手をするのは俺だ!」 鉄龍(ib3794)が真っ先に巨漢鬼・妖へと辿り着いた。鉄龍が大柄なのでわかりにくいが周囲の水深はそれなりにあって動きを制限させる。 それでも鉄龍は力強く『剣「斬鉄」』を振り下ろす。金棒を真っ二つにし、巨漢鬼・妖の左下腕をも斬り落とした。 錘(ic0801)は巨漢鬼・妖を迂回して湖底姫の盾となれる位置へと陣取る。 「‥‥ここでから先には行かせません」 丁度、錘と鉄龍が巨漢鬼・妖を挟む形に。錘は隙をついて『斧「トリフィド」』の刃を深く巨漢鬼・妖の太股へと食い込ませた。 ルエラ・ファールバルト(ia9645)と玄間 北斗(ib0342)はもう一体のアヤカシ、巨大甲虫・妖と対峙する。赤色が所々混じった黄金虫型だ。 「今なのだっ!」 低空飛行の駿龍・月影の背に乗る玄間北斗は火炎混じりの風の刃『風焔刃』を巨大甲虫・妖の頭天に叩き込んだ。自らは『北条手裏剣』で巨大甲虫・妖の右触覚を切り落とす。 ルエラとからくり・泉は巨大甲虫・妖が玄間北斗と龍の攻撃で苦しんでいる間に背後の死角から急接近する。 「私は右、あなたには左からお願いします」 巨大甲虫・妖がルエラとからくり・泉の存在に気づいた時にはもう遅かった。『霊剣「御雷」』と『ギロチンシザーズ』が外殻の隙間へと深く突き刺される。捻りながら引き抜かれ、もう一度繰り返された。 巨大甲虫・妖は暴れながら瘴気を吹き上げてまもなく消沈。崩れてすべて瘴気の塵と化す。殆ど同時に巨漢鬼・妖も片づけられた。 「どうやらお話しできないようですね‥‥」 「そのようです」 神座早紀(ib6735)と円平は胸元より下を水溜まりに沈めながら水面に立つ湖底姫を見上げる。十メートルの距離にまで近づいたものの、これ以上は湧き出る清浄の水に阻まれて難しかった。 「任せて欲しいのだ」 玄間北斗は水蜘蛛の術が使える。水面を歩くことで湖底姫の側まで近づけた。 それまで閉じていた湖底姫の瞼がわずかに開く。瞳による訴えを玄間北斗は読み解いて一同に伝える。おそらく湖底姫はこの場に踏みとどまって遠野村と果てても構わない覚悟をしていると。 「それなら絶対に守りきらないといけませんね。‥‥第一、そんなこと許してあげませんから。そうですよね、円平さん」 神座早紀は涙目を浮かべながらも拳を強く握った。 「早紀さんの言うとおりです。何があっても姫は守ります。どうか力を貸してください」 円平はあらためて開拓者達に頭を下げてお願いする。 誰もが協力することを約束してくれた。そんなの当たり前だと。 一行は巨大な水溜まりの中にある小島のような小高い土地へと移動した。湖底姫が立つ水面から二十五メートル前後の距離。ここを待機地とすることに。 「湖底姫、あの仕業は確かに水精霊だ」 「そうだ。俺もあの姿には驚きだがな」 「それはそうと、これからする手伝い、貸し一だかんなあ!」 「わかった。覚えておこう」 ジークフリード(ib0431)とニクス(ib0444)は待機地へと背中のアーマーケースを降ろす。 一同で手分けして目視、鏡弦や心眼などを使って湖底姫の安全が確認される。 少し離れれば多くのアヤカシが徘徊しているのは承知済。あくまで水溜まりの直径八十メートルよりも少しだけ広範囲だけである。 アヤカシの侵攻については駐屯する理穴軍が抑えてくれると信じるしかなかった。 「天気は崩れる傾向にあります‥‥」 神座早紀はあまよみで数日間の天候を確認してくれた。 今は曇り空だが徐々に崩れて深夜には土砂降りになる。雨が上がるのは明日の昼過ぎ。そして明後日は朝から強風が吹き荒れるようだ。 この気象の読み解きは後に村へ一度戻った玄間北斗とトゥルエノによって理穴兵にも伝えられる。 今の状況がいつまで続くかはわからないものの、またアヤカシは湖底姫を狙いに来ることだろう。一同は体力の温存を考えて三つの班に分かれて担当の時間帯を決めた。 但し、状況によっては班の人員を入れ替える。迫るアヤカシに有効な攻撃手段を持つ者が対抗した方が味方全体の損耗を軽微にできるからだ。 上空からの監視は一心の迅鷹・天藍が引き受ける。駿龍・月影を連れてきた玄間北斗、鷲獅鳥・レニの飼い主トゥルエノも行うが、手伝いに留めて戦闘の事態に備えた。 周囲は拓けているので待機地から水溜まりの一帯を監視するのは容易かった。しかし水中はそうはいかない。濃い清浄の水なのでアヤカシが潜って湖底姫に接近するとは考えにくかったが不浄の水の件もある。もしも不浄の水を身体に纏わせられるアヤカシの個体がいたとするならば泳ぐことは容易いだろう。 瘴気だけに気を取られていると足をすくわれることもある。 『西を回るよ』 『それじゃオイラは東を回るぜ』 矢薙丸と葵が水中で異変が起きていないかを暗視を駆使して警戒してくれる。人妖なら三メートル前後浮かべるので水溜まりの巡回に適していた。 ●アーマー起動 一日目の夕暮れ時、迅鷹・天藍が上空で鳴いたのはアヤカシ接近を報せるためである。 空を覆う雲のせいですでに夜といってよい暗さになっていた。 担当の班に含まれていたトゥルエノが鷲獅鳥・レニに乗って再確認に向かう。 ニクスとジークフリードはそれぞれのアーマーに乗り込んで待機。 まもなくトゥルエノからのアヤカシ接近を報せる狼煙銃の輝きが暗闇の空に刻まれた。ちなみに狼煙銃の提供者は円平である。 狼煙銃の輝きは赤色。アーマー二体の出動要請を示していた。 「起きろ、エスポワール。お前の力を借りたい」 ニクスはアーマー人狼・エスポワール。 「レーヴェ三式! ジークフリード・マクファーレン。出る!」 ジークフリードはアーマー人狼・レーヴェ。 迅速起動で駆動状態にまで持ってゆき水溜まりへと突入する。 狼煙銃の輝きを頼りにして水溜まりの外縁へと駆け抜ける。上空のトゥルエノがかざす松明の輝きでぼんやりとアヤカシの正体が闇に浮かび上がった。 アーマーと同じ三メートル前後の身長を持つ大鬼・妖である。 「鎧をつけているのか」 ジークフリードの呟き通り、大鬼・妖は鋼の鎧を身に纏っていた。 一つ一つをよく見ればそれはアーマーの外装。つまり破壊したアーマーの外装を剥がして太い針金で結びつけることで自らの鎧に仕立てたようである。 視界が悪いので遠隔攻撃はとてもしにくかった。また鷲の目などで当てられたとしても鎧の厚さがとても厄介。アーマー二体の出番だとトゥルエノが判断したのは正解である。 「あの位置なら作戦・参が使えるな」 ニクスはアーマー・エスポワールの身振りでジークフリードへと作戦を伝えた。アーマー・レーヴェとエスポワールは走りながら左右に分かれる。そして大鬼・妖からそれぞれ二十メートル前後のところで立ち止まって大鬼・妖を挑発し続けた。 ニクスとジークフリードは日中の間にアーマーを使って水溜まりに細工を施していた。 湖底姫のところまでアヤカシが近寄れないようバリケードで囲むのが理想。しかし物資と作業時間が絶望的に足りていなかった。 計画を修正し、仲間に協力してもらって近場の樹木を伐ってもらう。先を尖らせた短めの太い杭を作り、水面から隠れるよう水溜まり下の地面へと打ち込んだのである。 (「もう少しね。もう少し‥‥」) トゥルエノは上空の鷲獅鳥・レニの背中から眼下を見下ろす。大鬼・妖を目で追いながらトゥルエノは心の中で呟いた。 大鬼・妖はまんまと罠に引っかかる。 挑発するニクスかジークフリードの方角には向かわず、その間を抜けようと鈍い動きながら全力で駆け出す。次の瞬間、水中の杭に足を引っかけて派手に転倒した。 この好機をニクスとジークフリードは見逃さない。 転倒による水飛沫が高く舞い上がる前から脚部駆動開始。アーマーソードを構え前傾姿勢で大鬼・妖へと急接近。迫激突による左右同時の攻撃を叩き込む。 鎧となっていたアーマーの外装が拉げて潰される。一部は高く弾け跳んだ。 吼える大鬼・妖は未だ水溜まりに俯せで倒れたまま。鎧が剥がれて露出した背中に向けて、二振りのアーマーソードが重量を乗せて叩きつけられる。 ここで実質的に勝敗が決す。後は大鬼・妖が瘴気に還元するまで膾に切り刻むだけだ。 それから単発的に三体の大鬼・妖が水溜まりに現れる。そのすべてをニクスとジークフリードが同様の作戦で倒しきった。 迅鷹・天藍による探索と鷲獅鳥・レニに乗ったトゥルエノの灯りも重要な役目を果たしたのであった。 ●ゆっくりと迫る敵 「湖底姫さん、大丈夫でしょうか?」 天幕の中にいた神座早紀が心配そうな声で外を覗いた。あまよみの読みの通り、深夜になって土砂降りの様相である。 薄ぼんやりと輝いていた湖底姫だが、雨粒の勢いに景色が霞んで待機地の位置からはよく見えなくなっていた。 「これは自分の想像が多分に混じっていますが――」 一心は雨が降っている現状を推測して仲間達に話す。 清浄の水が魔の森から流れてくる不浄の水に対抗しているのは間違いなかった。 湖底姫の足下から湧き出ている清浄の水が一番濃い。つまり湖底姫のところまで辿り着けるアヤカシは相当な強者。逆に言えば強固な防御幕を湖底姫が張っている状態ともいえる。 「清浄の水が遠野村の全体にうまく行き渡らないことが魔の森浸食の原因だとすれば、この豪雨は恵みの雨です。遠野村の土地の隅々にまで流水となって行き渡るのですから」 一心の説明に玄間北斗がふと思い出す。 「そういえば上空から見た限り、この辺りは他の土地よりもほんの少しだけ高くなっているのだぁ〜」 「そうなのですか。湖底姫殿はそれも考慮に入れてここに水溜まりの場としたのでしょうね。賢い方ですから」 玄間北斗の発言が一心の考えを補強してくれる。 「だとすれば雨が降れば降るだけ清浄の水は薄まります。アヤカシは湖底姫に近づくのが簡単になるということにはなりませんでしょうか?」 「それはとても気になります」 ルエラの想像が気になった錘は人妖・葵へと予定よりも早めの巡回をお願いする。 『任せておいて。そんなに気にしないでも大丈夫だよ』 『針野、オイラも行って来るぜっ!』 人妖・葵につき合って人妖・矢薙丸も天幕の外へと出ていった。あまりの豪雨で視界が悪く、暗視が使える人妖以外では難しい状況である。 そして五分後、人妖二体は大慌てで戻ってきた。 『針野ーっ、なんか虫みたいのがうじゃうじゃ来てるぞ、アヤカシじゃね!?』 『虫みたいなアヤカシがたくさんはいつくばっていたよ』 矢薙丸と葵によれば昆虫型のアヤカシが水溜まりの周囲に集まりつつある。 羽根のある個体が多く含まれているようだが、遠野村上空をアヤカシは飛べないので地面を這ってきたようだ。 一心と針野が鏡弦で再確認。ギリギリではあるが虫・妖が多数引っかかる。距離にして約八十メートルといったところ。 問題は暗闇だが緊急用の事態への対策は準備されていた。 日が沈むまでに玄間北斗とトゥルエノが油の詰まった樽を村から運んでくれている。その樽の油をたっぷりと染みこませた丸太が水溜まりの外縁の地面へと複数突き立ててあった。 豪雨でどうなるのか不安だったものの、駿龍・月影に乗った玄間北斗がかざした松明の火が移った。瞬く間に炎となって全体に広がり水溜まり外縁の闇を照らしてくれる。 一心の『弓「雷上動」』。 針野の『鳴弦の弓』。 どちらも矢の飛距離は申し分なかった。 また這いずる虫・妖の動きは非常にゆっくり。一撃必殺の矢が次々と虫・妖を粉砕。瘴気の塵が膨らんでは消えてゆく。 「鉄龍さんは寝てて欲しいんよ」 「‥‥‥‥そうだな。ここは任せた」 「ありがとうね」 「その代わり、夜が明けてからは俺に任せろ」 針野に微笑んだ鉄龍は天幕の中で横になる。湖底姫を守る戦いは長丁場になるかも知れず、仲間に任せられるのであれば身体を休めるべきであった。 (「針野‥‥」) なかなか寝付かれなかった鉄龍だがしばらくして夢の中へ。針野と一緒に餅つきをした夢を見る鉄龍であった。 ●嵐のような 「今のうちにお願いします!」 強風の三日目早朝。神座早紀は鋼龍・おとめと共に湖底姫と盾となった。 これまでにない早い動きの巨大アメンボ型・妖が現れて湖底姫に急接近を果たそうとしたのである。 数分前、神座早紀は鋼龍・おとめの背中に乗って上空に待機して神風恩寵で疲弊した仲間の回復に努めていた。それが幸いしていち早く発見できたのである。 硬質化した鋼龍・おとめが超低空飛行。スカルクラッシュで体当たりして巨大アメンボ型・妖を弾き飛ばす。 「しつこい奴だ!」 巨大アメンボ型・妖は起きあがって再び湖底姫を目指そうとする。オウガバトルで輝く鉄龍は巨大アメンボ型・妖の突進を真正面で受けながら剣を突き立てた。 血のように吹き出す瘴気の噴霧。 それまで鉄龍の背中を守っていたからくり・御神槌も加勢する。無痛の盾を持ってして鉄龍を巻き込みながら未だ動く巨大アメンボ型・妖に体当たりを敢行した。これでようやく巨大アメンボ型・妖の動きが完全に止まる。 「今のうちです」 「厄介なのは先に倒すのに限るのだぁ〜」 錘と玄間北斗が加わって巨大アメンボ型・妖の節足をすべて斬り落とす。鉄龍が止めに頭を叩き落とすと瘴気に還っていった。 「ここを凌げば余裕ができるはずです」 ルエラはからくり・泉と共に蚯蚓・妖と戦った。梅の香りを『霊剣「御雷」』に纏わせてしなる蚯蚓・妖の胴体を切り裂いた。 弾き飛ばされそうになった、からくり・泉がギロチンシザーズの爪を引っかけることで蚯蚓・妖へとしがみつく。そのまま大木に叩きつけられようとしたものの、身体を捻ってからくり・泉は衝突を防いだ。 あまりの強風で水溜まりの表面が激しく波立った。 水溜まりに足をとられるのは双方とも同じだが、円平と開拓者達は水面下の杭の位置を把握していた。アヤカシを転ばせるのとは別の利用方法として自らが寄りかかることで体勢を維持する。 転んだりぐらついているアヤカシを前にして円平や開拓者達は次々と攻撃を叩き込んだ。 やがてニクスとジークフリードはアーマーから降りて戦い始める。駆動させるための練力が尽きかけていたからだ。 「レーヴェだけじゃねえんだぜ! 俺は!」 ジークフリードの『大剣「テンペスト」』で大蛇・妖の胴体を捉える。切り裂かれた大蛇・妖の胴体が水面に落ちて高い水飛沫をあげた。 「まだ動くか」 ニクスが『黒鳥剣』で額を突くことで大蛇・妖はようやく動かなくなる。 トゥルエノはニクスの活躍を見て心の中で呟いた。 (「私にだってプライドがある、戦場に立った以上、足手纏いにだけはならない‥!」) ニクスに庇われるような自分は自分ではない。トゥルエノは鷲獅鳥・レニで上空からアヤカシ全体の動きを把握して仲間達に報せる。 約一時間後、湖底姫を狙うアヤカシは一旦途絶えた。 警戒態勢を一段階下げた円平と開拓者達は順番に休憩をとる。特に無理しても食べることだけは欠かさなかった。 「姫‥‥‥‥」 円平は清浄の水を湧かせ続けている湖底姫へと目を凝らす。再会した時点ですでに顔色は悪かった。今はそれよりも酷くて真っ青といってよい。 それから夕方までにもう一度、飛蝗・妖の群れが水溜まりを襲う。それらを倒しきったところでざわついていた魔の森方面が鎮まった。この時に遠野村を囲む魔の森の繁茂は止まっていたのである。 宵の口の暗闇の中で膝を落とす湖底姫。 それまで水面の上で立っていたのに水溜まりの底へと沈んでゆく。真っ先に気づいた円平は泳いで彼女を救出した。 数日間、湖底姫の昏酔は続いた。それでも湧き出す清浄の水が止まることはなかった。 「もう、絶対にお一人で行かないでください!」 『泣くでない、泣くでないぞよ』 円平の家屋で神座早紀が布団に横たわる湖底姫の手を取って涙を零す。 完全に過ぎ去ったのか、一時的な停滞期なのかわからないものの魔の森の浸食は落ち着く。遠野村は静けさを取り戻していた。 |