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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀本島の北西に広がる国『理穴』の首都、奏生にも開拓者ギルドは存在する。 理穴・開拓者ギルドを任されているのが『大雪加 香織』である。 理穴出身故に幼き頃は弓術を習っていたようだが現在の彼女が扱う武器は銃砲。ある時から砲術士に転身したようだが、その理由を語る事は滅多にない。 理穴の東に広大な魔の森が鎮座しているのはあまりにも有名である。『緑茂の戦い』に勝利したおかげで浸食は後退し、現在では抑制状態になっていた。 とはいえ過去には悲惨な現実が数多ある。魔の森に呑み込まれていった町や村、集落がどれほどあったことか。 つい先日、理穴北東の海岸線付近に存在する魔の森内で村が発見された。 その土地は理由がわからぬものの、長く魔の森に囲まれたまま存続してきたのだという。緑茂の戦いを機にして魔の森との境になる外縁が広がり、海岸付近までかなり安全に近づけるようになった。そこで取り残された人々は手紙を足に結びつけた鳩を飛ばし続けた。 そのうちの一羽が大型飛空船『角鴟』で警戒中の大雪加に助けられる。そのおかげで五十九名が無事救出されたというのが顛末である。 「普通に人が生活を営み続けるのにはとても厳しい土地です。とはいえ、しばらく調査を含めて理穴ギルドの管理下に置きたいのですが」 「それは構いません。何が隠されているのか興味はありますし、理穴のためにもなりましょう」 このままにしておくかどうか思案した大雪加は奏生の城に出向き、理穴の王『儀弐重音』に相談する。結果、当分の間は魔の森に呑み込まれなかった理由を調べるために理穴・ギルドの預かりとなった。 大雪加は改めて上陸部隊を編成。その中には生き残りの青年『遠野円平』も含まれる。彼は理穴氏族というだけでなく村唯一の志体持ちで首長を務めていた。ちなみに彼の名字をとって彼の地は『遠野村』と呼ばれることになる。 救出作戦で活躍してくれた開拓者達にも再び参加して欲しいとの声がかけられるのであった。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
バロン(ia6062)
45歳・男・弓
一心(ia8409)
20歳・男・弓
井伊 沙貴恵(ia8425)
24歳・女・サ
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
ルエラ・ファールバルト(ia9645)
20歳・女・志
パラーリア・ゲラー(ia9712)
18歳・女・弓
ニクス・ソル(ib0444)
21歳・男・騎
針野(ib3728)
21歳・女・弓
神座早紀(ib6735)
15歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●遠野村 奏生を離陸した大型飛空船『角鴟』は理穴北東部の海岸線へと空路をとった。 目指すは海岸線に近い、魔の森に囲まれながらも瘴気に浸食されていない地域。その名は遠野村。 数キロメートルといったわずかな距離ながら、アヤカシが屯する危険な魔の森上空を越えて角鴟は遠野村へと着陸する。 乗員していたのは理穴・ギルド長、大雪加香織。村の首長であった遠野円平。角鴟を運用するためのギルド職員三十名。そして探検、調査を担当する開拓者十名だ。 ギルド職員の内二十名は角鴟をいつでも飛び立てるようにして待機。十名は魔の森に浸食されていない範囲の詳しい測量を担う。 「遺跡は北、東、西に三カ所。地下迷宮の入り口は南だっけ? カオりん」 「その通り‥‥ですが、村雨殿。屈んで自分の足に語りかけるのはやめて頂きたい」 大雪加に話しかける村雨 紫狼(ia9073)の傍らには土偶ゴーレムのミーアの姿があった。キョロキョロとせわしなく辺りを見回し、飛んできた蝶にあたふたと驚いている。 「大雪加ちゃん、鬱陶しかったら皆を代表して撃ってくれて良いから」 そう大雪加の耳元で囁いたのが井伊 沙貴恵(ia8425)。わざと村雨紫狼の耳にも届く声の大きさだ。『冗談よ』と沙貴恵は高笑いをする。 「それぐらいにしておきましょう」 「踊り子さんには‥‥いやカオりんには触れてないぞ。あぁ〜れぇ〜〜」 ニクス(ib0444)が軽々と村雨紫狼を持ち上げて大雪加から引き離す。空中の仰向き状態で村雨紫狼はだだっ子のようにじたばたとする。 (「浸食されないなんて不思議なコトもあるんだね〜。雪絵おねえさんの宝珠とかにも関係あるのかな〜?」) パラーリア・ゲラー(ia9712)は駿龍に留守の守りを頼んでから、えいっ!と格納扉から跳んで着地した。 「地図を作るために活躍してもらいます。周囲は魔の森なので普段よりも注意してくださいね」 ルエラ・ファールバルト(ia9645)は駿龍・絶地に語りかけながら一緒に地上へと舞い降りた。 「ヴァルさん、狭い場所があったらお願いしますね」 柊沢 霞澄(ia0067)は胸元に隠してある宝珠に手を当てる。この宝珠には管狐のヴァルコイネンが眠っていた。 「道具の確認は確かか?」 タラップを降りるバロン(ia6062)は大きめの装備袋を担ぎながら後方の針野(ib3728)と一心(ia8409)へと振り向く。 「大丈夫、ばっちりさー」 「点検は出発時と昨晩の二回行っています」 針野は右腕をあげながら元気に、一心は軽く跳ねて背中の装備袋を揺らしてみせる。 バロンと針野が連れてきた忍犬のブルーノと八作は地面に辿り着くとさっそく鼻をつけるようにして周囲を警戒し始めた。 迅鷹・天藍は一心の肩から大空へと舞い上がる。村の上空を少しでも外れたのならアヤカシに襲われるので一心は自分の真上から離れないよう指示を出す。 「まずはこの近くにある北側の遺跡からですね」 神座早紀(ib6735)は甲龍・おとめに龍騎して十五メートル程浮かび上がってみた。 すぐに遺跡らしき建物を見つけて指さす。地上から神座早紀を見上げていた仲間達が指し示された方向へと視線を向ける。 「あれで間違いありませんでしょうか?」 「はい。あれが古くからある得体の知れない建物になります」 大雪加は遠野と共を木々の向こう側に佇む遺跡を眺める。石造りのその建物は周囲の景色とは異質で非常に浮いていた。 ●遺跡の様子 角鴟の着陸地点からさほど離れていない場所に北の遺跡は存在する。 周囲に人家はなく自然に紛れていた。石柱に蔓が巻き付く。樹木が石畳を割って空へと伸びる。 それでも朽ち果てて土へ還るには悠久の年月が必要であろう。石造りの遺跡はそれほどに強固な造りであった。 大雪加、遠野、そして開拓者を合わせた十二名は北の遺跡の調査を開始した。目処がついたところで迷宮探索班は南にある出入り口から地下へと潜る予定だ。地上に残る班は引き続き遺跡調査を行う。 「このままでは調査どころではないな」 バロンの呟き通り、絡みつく蔓植物のせいで遺跡の全貌を確認することさえままならない。遺跡そのものは非常にこぢんまりとしていて、探検するといった構造ではないからだ。 仕方なく観察の邪魔になる植物の除去を行うこととなった。 龍を連れてきた開拓者は遺跡の上部に絡みつく蔓を引き剥がす。遺跡そのものは頑丈なので場所によってはスキルを駆使して薙ぎ払う。 約三時間をかけて北の遺跡にまとわりついていた草木を一掃する。 迷宮探索班にこれ以上の時間を割ける余裕はなかった。遺跡調査班と分かれて南にある迷宮の出入り口へと足を運ぶのであった。 ●遺跡 遺跡調査のために地上に残った者は針野、一心、神座早紀、遠野の四名。沙貴恵とルエラは龍騎による上空からの調査が終わってから行動を共にする約束である。 針野、一心、神座早紀は北、西、東に分かれて調査するつもりでいた。さすがに一人で草木を除去するには時間がかかりすぎるので、地上に残った六名で手つかずの西と東の掃除を行う。本格的な調査に取りかかれたのは二日目の早朝からであった。 「あ、円平さん。ちょい聞きたいことがあるんだけど、いいさー?」 西側の遺跡を担当した針野は一緒に作業をしていた遠野に訊ねた。村に昔からあった行事や、言い伝え等について。 「確かに村のような集団ではあったのですが――」 魔の森に閉じこめられたばかりの記録は忘却の彼方になっていた。 伝わっているのは円平の先祖達が瘴気の浸食から逃げる最中にたまたまこの地に留まって助かったことぐらい。つまり大昔からの村として存続していたのではなかった。 便宜的に遠野村とつけられたこの地にも祭りや風習は残っていたものの、それは一度過去と断絶した記憶だ。遺跡について何一つわかっていないのはそのせいであった。 一応、針野は円平から風習などを教えてもらう。しかしその中に遺跡に関わっていそうな事実は見あたらなかった。 遺跡の石壁には多数の意味不明の図形が描かれてある。その内の壁の一角で忍犬・八作が吠え続けた。 針野は特に注意深く正確に図形をメモに写し取っておく。その後、魔の森との境界近くに足を運んだ。 「すごい数がいるさー」 『鏡弦』や『鷲の目』を使ってみればアヤカシがうようよと見つかった。八作は戦闘態勢で常に境界の外に対して睨み呻り続ける。 「測量については、わしド素人だからね。どんな些細なことでもいいんよ。なんかあったら教えて下さいさー」 針野は測量を担当していた角鴟の乗員達にいくらかの話しを聞く。 まだ測量の途中であったが、遺跡の位置、そして魔の森との境界となる一部に幾何学的な関連性が判明していた。ただ、全体から見れば遠野村の外縁がいびつな円になっているのは間違いなかった。 東の遺跡を担当したのは一心。迅鷹・天藍を上空に飛ばして警戒をさせながら壁の一つ一つを調査する。 (「アヤカシに取り囲まれているのは確かか‥‥」) 一心は東の遺跡を訪れる際、遠野村の外縁付近を歩いて魔の森の観察を行っていた。その時の様子を思い出しながら石壁の模様を紙に写し取る。北、西、東のどの遺跡の石壁にも似たような模様は存在していた。 作業の途中で石で出来た床や壁を拾った太枝で叩いて音で空洞を探ってみる。しかしそれらしき存在は感じられなかった。 一心は腰を据えて石壁に描かれた模様を眺め続ける。象形文字らしき羅列は専門家に任せるべき。ここで問題にすべきはその他の幾何学的な図形だ。 図形が何を示しているのか。それさえわかればこの地が魔の森に呑み込まれない秘密を知る取っかかりになるかも知れなかった。 「天藍、この手紙を届けてください。ルエラ殿にお願いします」 一心は迅鷹・天藍を伝書鳩代わりにして足に取り付けた筒に手紙を入れる。情報を突き合わせ、秘密へと繋がる細い糸を見つけるにはまだもう少し思案の時間が必要だった。 北の遺跡に残って調査を進めたのは神座早紀。 (「使ってみた『術視「弐」』ではそれらしき呪術は見つかりませんでした。この遺跡も‥‥」) 神座早紀は調査の手を止め、あらためて『術視「弐」』を使ってみる。しかしやはり何も感じられなかった。 西と東と同様に北の遺跡の石壁にも意味不明の模様が描かれている。その中で針野の忍犬・八作が吠えたという石壁にそっくりなものを特に注意して写し取った。これについては一心も同様だ。東側の遺跡にもよく似た石壁があって一心も注意深く写し取ったようだ。 二日目の夕方、神座早紀は甲龍・おとめの背に乗って北の遺跡上空を高く飛んでみた。 測量の情報通り、北、西、東、そして南の地下迷宮への入り口の位置を結ぶ正方形が確認できる。何者かの意図が隠されているように思えて仕方がなかった神座早紀だ。 「村を去る際、急いでいたとはいえ貴重な品は持っていたはず」 「この地にまつわる品が見つかればと思っているのですが」 空いた時間を使って神座早紀は村人が住んでいた家屋を訪ねてみた。許可をもらう意味も含めて遠野円平と一緒に。 ここでも『術視「弐」』を使ってみたが、疑わしき物品を発見出来なかったのが残念である。 滞在の三日目になると測量が終わって正確な遠野村の地図が完成した。 地上に残った者達は地下迷宮へと潜った仲間達が戻るまでの間、石壁の模様が何を示しているのかを考察するのだった。 ●上空からの観察 ルエラは駿龍・絶地を駆って上空から遠野村全体を監視する。時には沙貴恵と手分けをして。 低空を飛びながら注意を払っていたのは『心眼「集」』の反応。アヤカシとは別に危険な生き物が潜んでいるかも知れないからだ。 ただ、発見したのは兎などの小動物のみ。遠野円平によれば生き残った草食の野生動物を家畜にしていたという。 生物の分布も重要な判断材料の一つ。簡易な地図上に情報を書き入れる。途中からは測量された地図が手に入ったのでそれに移し替えた。 詳しく調べるうちに、北、西、東の遺跡、南の地下迷宮への出入り口の正方形以外にも幾何学的な構成要素を発見する。 それは地上からみると非常に低い一メートルにも満たない六本の石柱。これは遺跡、地下迷宮の出入り口の正方形を囲むように正六角形の配置になっていた。 「どのような理由で建てられたものなのでしょうか‥‥」 ルエラは意味までを探ろうとする。結果としては時間切れだったが、新たな判断材料を手に入れたといえた。 ルエラと同じく上空から遠野村を探ったのが沙貴恵だ。 「気にして飛んでみると、結構起伏があるものね」 駿龍・政恵の背中に乗っていた沙貴恵が呟く。山ほどのものはないが丘といえるものはいくつか存在した。 そういえばと気になって沙貴恵は水源を探す。浸食されなかったとしても瘴気の濃い魔の森から水が流れ込んできているとすれば影響の懸念があるからだ。 ゆっくりと飛んで見つけたのは非常に小さな湖。今でも澄んだ湧き水が溢れ出ているものの水量は少なく、海岸方面に伸びている小川は魔の森に差し掛かる前に干からびていた。 「遠野村のちょうど中央付近の湖は昔からあるのかしら?」 沙貴恵は遠野円平から話を聞く際、湖に触れる。 「はい。おかげでご先祖から私たちまで生き延びられました。魔の森に閉じこめられた直後に現れた湖と亡くなった祖母がいっていたのを覚えています」 「‥‥まるで奇跡のようね」 沙貴恵は右の人差し指でブリッジに触れ、眼鏡を持ち上げる。 最終日の午後。ルエラと沙貴恵は遺跡を調査した四名と合流して情報の精査を行う。その結果と地下迷宮で得られた情報が合わさった時、真実が浮かび上がる。 ●地下迷宮 到着初日。 出入り口に拠点を築いてから地下迷宮へと足を踏み入れたのは大雪加、村雨紫狼、パラーリア、バロン、柊沢霞澄、ニクスの六名。補助役として朋友の姿もあった。 「石造りの迷路とはね‥。誰かが作ったものなのか‥?」 ニクスは聖十字の盾を構えながら一歩一歩、慎重に進んだ。ひんやりとした冷たい空気が緊張感を高まらせる。もしもに備えて背中には駆鎧・シュナイゼルが仕舞われているアーマーケースを担いでいた。 「これはマッピングのし甲斐がありそうだぜ」 村雨紫狼が筆と紙を手にしたまま呟いた。隣で照らすためのたいまつを掲げていた土偶ゴーレムのミーアが首を傾げる。 「これは大変そうです‥‥」 柊沢霞澄も村雨紫狼と同じく、二重の確認として迷宮の地図作りを行っていた。実行していたのは歩数を計る形での作成方法を用いる。 村雨紫狼と柊沢霞澄が難しい表情を浮かべたのは仕方がないことだ。 天井から床まで五メートルはあって歩きやすいが問題は迷宮の構造だ。 水平な面に通路が配置され、さらに階層が存在する形ならばわかりやすい。しかしそうではなく、例えるならば迷宮は蟻の巣の中のような入りくねった構造をしていた。 曲線ばかりであるのに石材の組み上げは完璧だ。余程、高度な建築方法が用いられているのだろう。 「香織おねえさんから借りた方位磁石は西を向いているにゃ」 南瓜提灯を片手に二人の地図作りを補助したのがパラーリアである。水平かわかりにくい微妙なところでは球を置いて傾斜を確かめた。 「ここが最初の分かれ道だな」 バロンが最初の分かれ道近くの壁に白墨で印をつける。さらに訓練を兼ねて忍犬のブルーノににおいを覚えさせた。スキルこそは持っていないが通常の犬程度の能力は期待できるはずと。 探索に熱中するせいでどうしても散漫になりがちな危険に対して忍犬のブルーノにも注意してもらう。そうして発見したのが迷宮に巣くう鼠の存在だ。 「眠っているうちに囓られそうだな」 鼠一匹では脅威になり得ないものの、数が多ければ対処に困る。バロンは仲間達に注意を促す。 「これは‥‥地図を作るとなれば相当な苦労が必要です。想定が甘かったといわざるを得ません」 地図作りの様子を鑑み、真っ当にやったとすれば三日間の内に成果が出せる状況ではないと大雪加は判断する。 大した結果を出せないまま一日目の探検は終了。地上にあがったのは宵の口。出入り口付近の拠点で身体を休めていると地上に残った仲間達がやってきて互いの情報をやり取りする。その後、解散して翌日に備えた。 そして二日目の早朝。迷宮探索班は再び地下へ。 初日に調べたところまで一気に移動して続きを行う。ただやはり地図作りは遅々として進まなかった。 「肌に感じるにゃ」 パラーリアが持ってきた煙草に火を点けて煙の流れで風を調べる。隙間を発見するものの、小柄なパラーリアでも入るのは難しかった。そこで柊沢霞澄の管狐・ヴァルコイネンの出番となる。 「危なかったらすぐに戻ってきてね‥‥」 優しい言葉をかけて柊沢霞澄はヴァルコイネンを送り出した。 「っしゃ! 第一回! チキチキ!! 謎の地下ダンジョン大探索〜〜〜ぱふぱふ☆」 少しでも場が和むよう村雨紫狼が元気いっぱいに筆を紙の上で踊らせる。大雪加、パラーリア、相棒のミーアの協力を得て牛歩の歩みだが地図を書き足してゆく。 戻ってきたヴァルコイネンが報告を終えて宝珠の中へと戻る。おかげでいくらか地下の様子が判明した。 (「アヤカシはいないようだが‥‥」) バロンは定期的に鏡弦でアヤカシを探っていたが反応はなかった。 二日目は地上に戻らずに迷宮内で調査を続行する。特に時間を惜しんだからである。 そう決断出来たのはニクスが鍵開けで隠し部屋を発見してくれたからだ。そうでなければ鼠だからけの通路で過ごさなければならないところだった。 「まさかこんな形でシュナイゼルを使うとはな」 ニクスは小部屋と廊下を繋ぐ扉の上部を駆鎧で破壊する。これで閉じこめられる心配はなくなって呼吸も大丈夫になる。鼠も扉下部の垂直面を簡単には登ってはこられないだろう。 睡眠を含めた休憩を挟みながら調査が続行された。 「ここまでですね」 三日目。地下迷宮の探索は大雪加の決断で終わりを告げる。判明したのは地下迷宮の約五百メートル。ここまでの分岐もまだ全部は調べ切れていなかった。 ●そして 迷宮探索班が地上に戻った時には完全に日が暮れていた。大型飛空船『角鴟』で地上に残った仲間達と再会を果たす。 書き留めた記録だけでなく頭の中に残る記憶が薄れないうちに話し合いの場がもたれた。 「ここの部分は‥‥同じではないのでしょうか」 遠野円平が指摘した通り、地上三カ所の遺跡に描かれていた模様の一部と地下迷宮の地図の形が一致する。 北、西、東の遺跡にあった石壁の模様は地下迷宮の三面図に相当したものであった。地上の調査、地下の調査。どちらが欠けても判明しなかった事実であろう。また正攻法な地図作りだと一年程度の時間が必要だったかも知れない。 今回の調査はここで終了になるが次へと繋がる手がかりは得られる。 翌朝、角鴟は遠野村を離陸して脱出。理穴の首都、奏生へ帰還する。 「これでお終いではありません。それまでに三面図から地下迷宮の立体模型を完成させておきます」 別れ際、大雪加は開拓者達に次こそ地下迷宮の秘密を解き明かすつもりだと協力を求めるのだった。 |