鳩からの届け物〜理穴〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/28 14:32



■オープニング本文

 天儀本島の北西に広がる国『理穴』の首都、奏生にも開拓者ギルドは存在する。
 理穴・開拓者ギルドを任されているのが『大雪加 香織』である。
 理穴出身故に幼き頃は弓術を習っていたようだが現在の彼女が扱う武器は銃砲。ある時から砲術士に転身したようだが、その理由を語る事は滅多にない。
 理穴ギルドを統括しつつも大雪加自ら陣頭に立つ事も多かった。この日もギルド所属の大型飛空船で理穴東部の魔の森・境界付近を上空から偵察していた。
(「あれはアヤカシのように思えます。何を追っているのでしょうか?」)
 甲板にいた大雪加は奇々怪々な蛇に似た飛行アヤカシを発見する。動きが妙なのでしばらく観察していると鳩を追いかけている事に気がつく。
 やがて鳩が大雪加が乗る飛空船目がけて飛んできた。当然、蛇アヤカシも迫る。
 これも縁だと考えた大雪加は愛用の銃砲を構え、蛇アヤカシの額を撃ち抜いて鳩の窮地を救う。
 しかし力尽きたのか鳩は墜落してしまう。大雪加は甲板の端で落ちそうになりながらも左の手のひらで鳩を受け止めた。
「怪我をしていますが、すぐに治療すれば大丈夫‥‥これは何でしょう?」
 船内で治療を受けさせようと階段を降りている途中で大雪加は知る。鳩の足に細切れの布が結わえられていたのである。
 鳩の治療を船医にさせている最中、大雪加は布を開いて確認する。布には救出を願う筆文字がしたためられていた。
(「もしやこれは‥‥魔の森に取り残された地域からの救援ではないでしょうか‥‥」)
 大雪加は一緒に描かれてあった非常に小さな地図をしばらく凝視し続けた。
 急いで奏生に戻った大雪加は救出作戦の準備に取りかかる。同時に万全を期すべく同行の開拓者を募集するのであった。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
更級 翠(ia1115
24歳・女・サ
一心(ia8409
20歳・男・弓
井伊 沙貴恵(ia8425
24歳・女・サ
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志
パラーリア・ゲラー(ia9712
18歳・女・弓
針野(ib3728
21歳・女・弓
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
神座早紀(ib6735
15歳・女・巫


■リプレイ本文

●捜索開始
 大空を飛翔する理穴・開拓者ギルド所属、大型飛空船『角鴟』(ミミズク)。
 理穴・ギルド長『大雪加 香織』指揮の元、理穴東部に広がる魔の森を目指して丸一日が経過していた。
 今作戦の目的は鳩の手紙によって判明した魔の森内に取り残された人里の発見と救出である。
 魔の森の浸食によって逃げ遅れた人々がいるのではといった危惧はこれまでにも幾度となくされている。
 実際に救出作戦が遂行された事実もある。だが魔の森に取り込まれたばかりの地域ならいざしらず、時間が経過して深くに埋没した地域についてはすでに全滅したと諦められてきた。
 アヤカシの能力は強い瘴気が漂う魔の森内で飛躍的に増大する。そのような地獄で一般の民が生き延びられるはずがないといった考えからだ。志体持ちであっても生存確率はほんのわずかであろう。
(「緑茂の戦いで魔の森は押し戻されたはず。そのおかげで瘴気の分布に影響があったのかも知れません。とはいっても全滅していたのなら意味のない現実。何らかの方法で魔の森内であっても生き延びられたということでしょうか‥‥」)
 艦橋の大雪加は眼下の海原を眺めながら鳩の手紙に書かれていた内容を頭の中で反芻する。角鴟は内陸部の魔の森を迂回して北側の海上空を飛行中である。
 角鴟には大雪加率いるギルドの運行要員の他に十名の選抜開拓者が乗り込んでいた。十名は三つの班に分かれて同船の護衛任務にあたる。二つの班が警戒中に一つが休憩をとる形の六時間交代制だ。
 壱班が柊沢 霞澄(ia0067)、一心(ia8409)、長谷部 円秀 (ib4529)の三名。
 弐班が羅喉丸(ia0347)、井伊 沙貴恵(ia8425)、針野(ib3728)の三名。
 参班が更級 翠(ia1115)、ルエラ・ファールバルト(ia9645)、パラーリア・ゲラー(ia9712)、神座早紀(ib6735)の四名である。
 昼を過ぎた頃、休んでいた参班と活動していた弐班が入れ替わる時刻となる。伝声管を通じて各室に交代が報される。
「にゃっす! 交代の時間だにゃ〜」
「もうそんな時間なんだね」
 パラーリアは参班の仲間達と朋友が待機する甲板下の格納庫を訪れる。そして弐班の針野と鳩の面倒をみる役目を代わった。
 奏生の離陸前、神座早紀が念のために神風恩寵で癒した鳩は籠の中で非常におとなしい様子だ。餌もちゃんと食べている。
「鳩さんの世話はちゃんとみるよ〜。しばらくごゆっくりなのにゃ☆」
「長丁場になりそうだからね。途中でバテたらじいちゃん達に叱られてしまうさー。それじゃあよろしく」
 パラーリアに籠を預けた針野が宛われている寝室へと向かう。
「しばらく休憩だ。ゆっくり休め、頑鉄」
 弐班の羅喉丸は甲龍・頑鉄に一声をかけてから近くの藁の上に寝転がる。緊急の事態に備えて格納庫を離れるつもりはなかった。
「ゆっくり休ませてもらうとするわ。それじゃ、よろしくねぇ〜」
「いざという時に戦えないんじゃお話にならないわよね。お休み」
 弐班の沙貴恵が参班の更級翠と入れ替わるように格納庫を立ち去る。
 その後、沙貴恵はシャワーを浴びてからベットに横たわった。早めに起きたのなら大雪加といくらか話そうかと考えていた。どのような人物か、とても興味深かったのである。
「ざっと外を見回ってきます。すぐに戻りますので」
 現場に復帰した参班のルエラはさっそく駿龍・絶地に跨り、甲板へと繋がる短い通路を潜り抜けてゆく。
「今のうちにおにぎりでも作っておきましょう。頼んでおいたご飯が炊けているはずですし」
 ルエラを見送った参班の神座早紀は格納庫に隣接する給仕室の扉を潜り抜ける。さっそく腕まくりをして手を洗い、仲間達の為に御飯を握り始めた。
「紅焔、少し休みましょう‥。余裕をもっておきませんと身体が持ちませんので‥‥」
 炎龍・紅焔に乗った壱班の柊沢霞澄が警戒を終えて格納庫へと戻ってくる。これからの六時間は格納庫に待機しながらの任務となる。
「地図の状態からすると‥‥普通の状況ではない、のでしょうね、きっと」
 壱班の一心は右舷側の窓辺で望遠鏡を片手に魔の森と化した陸地を監視し続ける。
 今のところ大きな変化はなかった。時折、アヤカシらしき飛行物体が見えるものの、通常の光景である。きりがないので襲ってこない限りは放置が基本だ。
「謎が多いですねぇ。とはいえ、もし救助を求める人がいたら助けたいのが人情というものですから」
 一心と同じく壱班の長谷部も角鴟右舷側から外を監視していた一人だ。海岸線に注目して何らかの兆候がないかを見定めていた。
 鳩の手紙に描かれた地図はあまりに簡易であらかじめ場所を特定するのが難しい。魔の森に近い空路をとっての危険な捜索作業はまだ始まったばかりであった。

●発見
 三日間に渡って元理穴の海岸線をなぞる形での調査が行われたものの、人が居住していそうな地域は発見されなかった。
 ただ視界良好な日中のみに行ったのが大雪加の心に引っかかっていた。考え方を変えて危険な夜間の視界不良状況下でも観察をしたところ、発光している地域が魔の森内で確認される。
 苔や茸、または蛍のような虫の中にも発光するものはある。群生していれば遠方から視認出来ても不思議ではない。また発光するアヤカシが存在するのも周知の事実だ。もちろん人の営みによる灯火の可能性も大いにあった。
 発光が必ずしも人の居住証拠とはなり得なかったが、取っかかりとしては十分だと大雪加は判断する。
 選抜の開拓者十名にも協力してもらい、ぎりぎりまで魔の森に近づいての確認が明るい日中に行われた。
 雲霞の如く大型飛空船・角鴟にまとわりつこうとするアヤカシの群れ。船員の何名かが目視で煙を発見する。夜に発光していた地域と一致する場所である。
 大雪加は即座に海岸線から離れるよう角鴟の船長に命じる。集るアヤカシは選抜の開拓者達が龍騎し、または甲板などの船外で戦って瘴気の塵へと帰してくれた。
 さらに離れた沖で安全を確保すると選抜の開拓者達も呼ばれて会議が開かれる。
 議題はどのようにして人の集落があると思われる地域まで辿り着くかだ。ここに来るまでにいくつかの案はすでに用意されていたが、現状を把握した上での最終決定が望まれていた。
 大雪加は角鴟での強行突入案を支持する。海岸線に横たわる魔の森の三キロから四キロメートルを飛び越えれば地域の一角に船首を捻り込ませられると考えたからだ。
 反論はなかったが修正案はいくつか提示された。そのうちのいくつかを採用した形で最終案がまとめられる。
 ようは選抜の開拓者十名に角鴟の守りを固めてもらう作戦である。人の集落があると思われる地域に角鴟が入り込めたのなら、今度は選抜の開拓者十名を援護をする形になるだろう。
 手紙を運んできた鳩と共に先発隊を潜入させられれば一番なのだが、魔の森のアヤカシの強さを考えれば採用は出来なかった。
 鏡による太陽光の反射と狼煙銃によって救援の意志を集落があると思われる地域に発信する。
 まだ明るい暮れなずむ頃、作戦は決行されるのであった。

●一丸となって
 龍騎した選抜の開拓者十名は大型飛空船『角鴟』の周囲、または甲板に待機してのアヤカシの迎撃任務にあたった。
 ただし、一部の開拓者は先行して沿岸に横たわる魔の森の精査を行う。
「まずは私たちで確認したかったのですが‥‥。魔の森が阻んでいる状況では仕方ないですね‥‥。紅焔‥一緒に頑張ろうね‥」
 壱班の仲間達に守られながら炎龍・紅焔で飛行する柊沢霞澄は瘴索結界で魔の森の状況を隈無く探る。
 アヤカシが迫る緊張の中、炎龍・紅焔は柊沢霞澄のいう事を聞いて細かく軌道を変更した。時には枝の葉が翼にかすれる程に接近しながら。
 以前の探索の際に人が住む里が発見されなかった理由があるとすればただ一つ。それは阻む魔の森が厚かったと考えるべきである。つまり現在はとても薄くなっているはずなので、もしかすると非常に狭い範囲ながら海岸線に横たわる魔の森が途切れている可能性が残っていた。
 駿龍・珂珀と駿龍・韋駄天は龍・紅焔を囲むように飛ぶ。一心と長谷部が柊沢霞澄を守る形だ。
「来たか‥‥まぁ、近づけさせはしませんがね、私が相手ですよ?」
 長谷部は身を屈めて駿龍・韋駄天の背中に添う。高速飛行で囮になりながら紅蓮紅葉による燐光を纏わせた『刀「長曽禰虎徹」』をすれ違い様のアヤカシに振るった。
 一瞬の斬撃音の後でアヤカシの翼が千切れ飛んだ。旋回の遠心力に身をさらしながら長谷部は確認をして次のアヤカシに備える。
「角鴟まで戻りましょうかね」
 柊沢霞澄の調べに目処がつくと一心は一旦角鴟まで引き返す。その際、ソニックブームによる衝撃波でアヤカシ等を煙に巻いた。
 甲板の柊沢霞澄が大雪加に伝声管で報告する傍らで一心は鏡弦でアヤカシの群れの動向を知った。
「船には近づけさせませんよ‥‥」
 構えた『弓「雷上動」』から次々と矢を放つ一心。
 目指す魔の森内の地域に人が住んでいるのならば瘴気の濃さは通常通りのはず。もしもアヤカシが追ってきたとしても自分達ならば排除可能。今さえ頑張れば後は凌ぎきれるという計算で動く。
 弐班の三名もすでに戦闘態勢に入っていた。
「残念だったな、俺が弓術士でなくて」
 遠方のアヤカシには弓を使っていた羅喉丸だが近づけば奮うのは拳。泰拳士の力を持って羅喉丸は甲龍・頑鉄の背中に立って拳をアヤカシの額にめり込ませる。
 守っていたのは船底の裏側。下からまるで打ち上げ花火のように上昇してくるアヤカシをぶっ叩いて軌道を逸らす。
 直撃さえなければ、後は仲間達がなんとかしくれる。時には甲龍の頑丈さをもって盾なってアヤカシの突撃を防ぎきった。
「まだまだだ。一人でも生きているのならば助ける!」
 傷ついても羅喉丸は退かずに守りとして角鴟直下で踏ん張る。
「これまであんまり近づいたことないんで肌では知らんかったけど、魔の森のアヤカシは厄介だね」
 針野は駿龍・かがほに火炎で補助してもらいながら甲板近くで矢を放つ。猟兵射を使って敵のアヤカシに悟られずに命中させた。翼を破られたアヤカシが錐もみしながら魔の森へと墜落してゆく。
「鳩はどうなってる?」
 気になった針野は格納庫室の船員に伝声管で訊ねる。するとそわそわし始めたと答えが返ってきた。
 向かっている魔の森の内部は鳩がいた場所に違いないと確信を得た針野は攻撃の手を強める。素早く抜いた矢を弦にかけ、迫り来るアヤカシの翼の根本を狙う。
「アヤカシが多すぎるわ。ここは私の出番よね」
 沙貴恵が駿龍・政恵の上ですっと右足を伸ばすと風でめくれて太股が露わになった。気にせず咆哮を発動。それによってアヤカシが一斉に沙貴恵へと集ろうとする。
 刹那、駿龍・政恵が高速飛行に移行。疾風の如く上昇して追いかけてくるアヤカシ等を一直線に連ならせる。協力してくれた針野が沙貴恵を追いかけるアヤカシの翼を矢で狙う。
「そのまま真っ直ぐ。突っ込め!!」
 大雪加の意を汲んだ船長が艦橋で檄を飛ばす。
 進路を微調整した角鴟は柊沢霞澄が発見した非常に狭い魔の森の切れ目に船首をねじ込んだ。
 参班は龍騎したまま攻撃の激しい左舷側でアヤカシを迎え討つ。
「角鴟の後方が大変だにゃ!」
 パラーリアは鏡弦で知ったアヤカシの分布を仲間に報せる為に呼子笛を吹いた。自らは駿龍の背上で『戦弓「夏侯妙才」』を構え、即射でアヤカシをなぎ倒す。
 魔の森の狭間ゆえに瘴気は薄くてアヤカシの強さはそれほどでもない。ただ数は尋常ではなかった。その分、矢を放てば必ずアヤカシに当たるといった状況であったのだが。
「まずは挨拶代わり。うふ、せいぜい良い声で啼きなさい! ――これからが、本番ね。麗月、行くわよ!」
 更級翠は構えたファイアロックピストルてアヤカシを出迎えた。続けて弾をお見舞いすると炎龍・麗月の手綱をしならせる。目指すはパラーリアが報せてくれた後方に迫るアヤカシの群れだ。
「ここは切り込むべきでしょう」
 更級翠と同じくルエラも後方のアヤカシの群れに対する。神座早紀から神楽舞・攻の援護を受けると駿龍・絶地のルエラと炎龍・麗月の更級翠は角鴟を追いかけるアヤカシの群れへと突っ込んだ。
「あはっ、この痛み、すっごい気持ちいいわ。でも、これでお終いよ!」
 武器を『珠刀「阿見」』に持ち替えた更級翠が次々とアヤカシの翼や羽根を切り落としてゆく。血しぶきのような瘴気が辺りに噴霧する。
「まずは追いつかれない事を第一にして」
 ルエラは駿龍・絶地に回避姿勢をとらせると次に高速飛行でアヤカシの群れを乱れさせた。時には衝突しながらもアヤカシの群れを突き抜けて大きく旋回する。
 先行する角鴟。それを追いかけるアヤカシの群れ。さらに後方の駿龍・絶地に龍騎するルエラ。こうなれば後方からアヤカシ等を斬りつけるのは簡単である。追いつき様に降魔刀でアヤカシの翼や羽根を切り落としてゆく。
「今すぐ治療しますので」
 甲龍・おとめで追いついた神座早紀は力の歪みで敵に隙を作ると更級翠の治療を行う。その間、パラーリアの弓矢による援護も行われた。
「もう少し、もう一発食らわせないとね!」
 程々に回復した更級翠は再びアヤカシの群れへ。
「無理はやめてくださいね」
 神座早紀は甲龍・おとめの龍尾でアヤカシを退かせる。そして角鴟の甲板へと戻って待機した。仲間達の治療を引き受けた神座早紀だ。
 先発の開拓者十名が奮闘する中、大型飛空船『角鴟』は目的の地域へと船体を滑り込ませた。
 アヤカシとの戦闘時間は五分にも満たなかった。しかし非常に激しく、当事者達にとっては一時間以上にも感じられた事だろう。
 作戦通りに選抜の開拓者十名が帰還すると代わりに船員達が甲板上でアヤカシと対峙した。
 ただ理由は不明であったがすぐにアヤカシ等は撤退してしまう。突然に訪れた夕日の静けさの中、一人の青年が着陸した角鴟へと一歩ずつゆっくりと近づこうとしていた。

●不思議な人里
 角鴟を訪れて大雪加と面会を希望した青年の名前は『遠野円平』。現在は農民のような格好をしているが理穴氏族の末裔である。
 後で真実かどうか確認をしなければならないが、提示された証拠に偽りは感じられなかった。
 様々な方法でアヤカシの変化ではないのを確認された後で、遠野円平は大雪加との面会を果たす。
「すでに放った鳩は五十羽目に達していました。曇っていたり星がない夜などの目立ちにくい日と時を選んで飛ばしていたのですが――」
 大雪加が助けた鳩は彼の指示で村人が放ったものだという。急激な魔の森の浸食が拡大される中、いびつながら直径三十キロ円が取り残される形となった。
 すべて浸食に至らなかった理由は未だ定かではない。
 近年になって浸食が減少し、海岸線近くにまで居住可能範囲が拡大して救援が呼べる可能性が高まった。そこで鳩を用いたと遠野円平は語る。
(「やはり考えていた通りのようですね」)
 遠野円平は知る由もないが浸食の減少時期は緑茂の戦いに勝利した時期と重なる。大雪加は一つずつ事実を確かめながら遠野円平との話し合いを続けた。
 生き残りの住民は五十九名。うち氏族は遠野家のみで円平を含めて七名だ。残りはほとんどが農民。他は医者一名とその助手一名。鍛冶屋は一名のみ。
 唯一の志体持ちが遠野円平である。つまり氏族出身のみで代表になった訳ではなかった。稀にアヤカシが迷い込んできた際には遠野円平が中心になって倒したという。
 円平の肌はどこも傷だらけだ。顔や腕にも生々しい痕が残っていた。
 大雪加と選抜の開拓者十名は遠野円平に連れられて集落を訪れる。細々とながら畑を耕し、家畜を飼って生活してきた様子が垣間見えた。
 この土地を今後どうするかは課題として残るものの、ひとまず脱出計画が説明される。渋る年老いた者もいたが何頭かの家畜も連れてゆく約束で納得してもらう。
 追加五十九名の乗船は大変だったものの、一部物資を廃棄することで重量の帳尻が合わせられた。
 脱出の飛行に関しては行きと逆の空路をとる。ただ、着陸を考えなくてもよいので最初から加速するのに躊躇はなかった。
 選抜の開拓者十名も二度目とあって対処に余裕があったといえる。大型飛空船『角鴟』は離陸から約三分でアヤカシの群れを退けて海の上空へと到達した。
「まさか本当に魔の森から脱出出来る日が来ようとは‥‥」
 感激にむせび泣いた遠野円平は目が合った一人一人に感謝する。
「嫌!」
「ぐはっ!」
 まさかその中に男性が怖くして仕方がない女性がいたとは思いにもよらなかったのだが。見事、神座早紀の右拳が遠野円平の左頬に決まった。
「ご、ごめんなさい! 私、男の方が怖くて‥‥。治さないといけないとは思っているのですが――」
 鳩が鉄砲を食らったような遠野円平に平謝りする神座早紀だ。
「これぐらい平気です。本当に感謝しているんです。ありがとう」
 遠野円平と神座早紀の頭の下げ合戦は三十分近く続いたという。
「危険だけど、あのままにしておくのもね」
「難しいところなのにゃ」
 大雪加の前で沙貴恵とパラーリアが浸食されなかった地域を話題にする。
「少なくとも調査が必要ですね」
 大雪加は引き続き関わる事を開拓者十名に告げるのだった。