修行中の遭難 〜理穴〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/06/20 00:34



■オープニング本文

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 天儀本島の北西に広がる国『理穴』の首都、奏生にも開拓者ギルドは存在する。
 理穴・開拓者ギルドを任されているのが『大雪加 香織』である。
 理穴出身故に幼き頃は弓術を習っていたようだが現在の彼女が扱う武器は銃砲。ある時から砲術士に転身したようだが、その理由を語る事は滅多にない。
 理穴の東に広大な魔の森が鎮座しているのはあまりにも有名である。『緑茂の戦い』に勝利したおかげで浸食は後退し、現在では抑制状態になっていた。
 とはいえ過去には悲惨な現実が数多ある。魔の森に呑み込まれていった町や村、集落がどれほどあったことか。
 その理穴北東の海岸線付近に存在する魔の森内で村が発見された。
 長く魔の森に囲まれたまま存続してきたのだという。緑茂の戦いを機にして魔の森との境になる外縁が広がり、海岸付近までかなり安全に近づけるようになった。そこで取り残された人々は手紙を足に結びつけた鳩を飛ばし続けた。
 そのうちの一羽が大型飛空船『角鴟』で警戒中の大雪加に助けられる。そのおかげで五十九名が無事救出されたというのが顛末である。
 理穴の王『儀弐重音』から許可を得て魔の森に囲まれながらも呑み込まれなかった土地『遠野村』は当分の間、理穴・ギルドの預かりとなった。
 救出に続いて地上、地下と両面からの調査が行われた。その結果、地下にある石造りの迷路の正確な地図の入手に成功する。
 探索の結果、最奥で発見されたのは地底湖。そこに住まうは『湖底姫』と名乗る気位の高い女性の姿をした精霊であった。
 湖底姫は遠野村を再び人が朋友が暮らす土地に戻したいと考えていた。しかし出入りにも危険が伴う土地故に大雪加や開拓者の何名かは難色を示す。遠野村と海岸を隔てる帯状の魔の森を排除する必要が求められた。
 作戦は周到な準備の上で決行される。
 開拓者達がアヤカシを侵攻を阻止してくれたおかげで清浄の地下水の流れ変更による土地の入れ替えは完了した。帯状の魔の森は形骸化し、アヤカシは清浄の地下水によって一掃。ただ念のための焼き払いが理穴の兵によって行われた。
 しばらくして山間集落から移住を招き入れる。七十八名、十九家族が遠野村へと移住する。
 さらに村の今後を考えた円平は四名の若者を奏生に修行へと旅立たせた。二名の青年は船大工修行。二名の娘は漁網作りを習うため。
 同時期に円平は漁船二隻と漁網数反を購入して毛ガニ漁を開始。遠野村沿岸は毛ガニの宝庫であった。
 毛ガニを遠方で売るためには飛空船が必要なものの、新造を買う費用を用立てるのは難しかった。
 円平と湖底姫は結界外郭周辺に墜落していた飛空船を発見して宝珠回収の作戦を練る。高価な宝珠さえあれば飛空船の建造費用をかなり抑えることが出来るからだ。
 湖底姫、そして開拓者達の力を借りて無事回収に成功。浮遊宝珠七個、風宝珠六個は中型飛空船を造るには十分な数と能力といえた。
 やがて春の訪れと共に大地から子もふらが産まれる。遠野村は復興を成し遂げつつあった。


 今は六月。来月になれば朱藩安州・高鷲造船所で造船中の中型飛空船が納入される予定である。
 遠野の村人の中で飛空船を扱った者はおらず一からの修行が必要。男女一名ずつの若者と円平の三名が候補となった。
 大雪加の厚意で理穴ギルドの巡回飛空船に乗船させてもらい、操船の仕方を習うこととなる。
(「どうしているだろうか‥‥」)
 一週間程、遠野村から離れる場合もある。湖底姫を想う時、円平は懐の奥にあるお守りを握りしめた。
 操縦訓練は大切だがその他にも覚えることはたくさんある。浮遊宝珠、風宝珠の出力管理、操舵系の点検方法など多岐に渡った。本来ならばもっと時間をかけて修得すべきものを一ヶ月にも満たない期間で成し遂げなければならなかった。
 遠野村の三名が乗っていたのは大型飛空船『角鴟』ではなく、理穴ギルド所属の中型飛空船『鶯』である。
 造船中の飛空船に近い大きさがよいのではと考えた大雪加の配慮だったが、それが仇となった。天候が急変したある日、中型飛空船『鶯』は遭難してしまう。
 理穴ギルドが航空路の予定表を参考にして捜索したものの、丸三日が過ぎても未発見のままだ。急遽増やされた捜索要員の中には神楽の都を拠点とする開拓者達の姿もあった。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
御剣・蓮(ia0928
24歳・女・巫
一心(ia8409
20歳・男・弓
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志
パラーリア・ゲラー(ia9712
18歳・女・弓
針野(ib3728
21歳・女・弓
神座早紀(ib6735
15歳・女・巫


■リプレイ本文

●捜索開始
 行方不明中の理穴ギルド所属の中型飛空船『鶯』の捜索は行き詰まる。
 増やした動員の中には遠野村の者達と縁のある開拓者の姿もあった。彼、彼女達は理穴ギルド長・大雪加と共に中型飛空船『海猫』に乗船して再捜索にあたっていた。
「円平さん達が遭難するなんて‥‥すごく心配です」
 座席に腰掛けていた神座早紀(ib6735)は窓を覗き込んで見下ろす。
 現在『海猫』が飛んでいたのは海岸線に沿った空路。『鶯』が辿ったと思われる空路とほぼ同じである。
「今のところ手がかりといえるのは大きな鳥にさらわれた証言だけって聞いたんよ。その人、酔っ払ってたからひっくり返しちゃったみたいだけど‥‥。そこんとこどうなんよ?」
 焦り気味の針野(ib3728)が話しかけると大雪加は難しそうな表情を浮かべる。
「その通りです。証言を翻した後は知らぬの一点張りで‥‥私どもも協力を何度もお願いしたのですが――」
 大雪加はこれまでの経緯を詳しく話してくれた。
 証言者の名は『造一郎』。年齢は二十九歳。味噌造り蔵元の二代目だが家督はまだ継いでいない。
 朝から友人宅を訪ねた証言者は丸一日の間、酔っぱらっては寝てを繰り返し過ごしていたという。翌朝の酷い天候の最中、泥酔のまま帰宅しようとしたところ巨大な鳥に掴まれて飛び去って行く飛空船を目撃したようだ。
 その飛空船が『鶯』だと判明したのは、船体に描かれた鳥の鶯図案を造一郎が覚えていたからだ。翻す前の証言に含まれていたのである。
「おおっっきい鳥さんがいたとして‥‥ケモノさんならいいけど‥‥。アヤカシさんだと厄介かもっ。困ったのにゃ」
 口元をむにゅむにゅとさせたパラーリア・ゲラー(ia9712)が腕を組んで唸る。ケモノでも安心は出来ないが、もしもアヤカシだとするならば遭難者達の生存率が一気に低くなってしまう。
「とにかく『鶯』が巨大な鳥に掴まれていったという証言を正しいと仮定して、他にもこの証言を補強する事実がないか探してみようか」
「賛成です。仮に大きな鳥が連れ去ったとすれば『餌』として運ぶ可能性がありますので。その場合、運ぶ先は巣になるでしょうから」
 羅喉丸(ia0347)とルエラ・ファールバルト(ia9645)が交わして出した意見に仲間達も賛成する。とにもかくにも行き先は『鶯』を掴んで飛び去っていったのを目撃した造一郎が住む村と決まった。
「遠野村には円平殿達が絶対必要だ。目撃者殿にはもう一度思い出してもらいましょう」
 一心(ia8409)の言葉は淡々としながらも力がこもっていた。

●証言者
 『海猫』で村に到着した一行はさっそく味噌の蔵元を訪ねて造一郎との面会を求めた。しかし門前払いでとりつく島もない。
 困った一行は他の村人にも当時の話を聞いてみる。だが以前の調べと同じように造一郎以外の目撃者は一人としていなかった。
 当日はまるで台風のような酷い天候で外を出歩く者は皆無であったという。稀にいたとしても風に飛ばされないよう丸まりながら地面を踏みしめて歩いていたそうだ。あの状況で空を見上げる酔狂な人物など造一郎ぐらいだと冗談めかす村人もいた。
「証言の補強は無理‥‥いや、もう一人だけ当たってみようか」
「そういえば会っておくべき人物がいたんよ」
 諦めかけた一行だが、羅喉丸と針野の案でもう一軒だけ回ることにする。それは造一郎が長く酒を呑んでいたといわれる友人の家。さっそく家を訪ねて造一郎の友人に話を聞いてみるが要領を得なかった。
「悩みごとあるのなら相談にのるのにゃ〜。もちろん村のみんなには内緒にするよ〜」
「もし、自身の見たものが信じられないというのでも構いません。もう一度、思い出してみて貰えないでしょうか?」
 それでも一心とパラーリアが話しを続ける。
「私達の友人がその船に乗っているんです。あなた方の証言だけが手掛かり、どうか詳しい事を教えてください!」
 神座早紀の最後の一押しによって友人が口を開いてくれた。
 実は天候が荒れた前日から当日にかけて、造一郎はこの家には殆どいなかった。親に交際を反対されている恋人と会うための嘘に協力したのだと。
 辻褄を合わせるために造一郎が一度友人宅へ立ち寄って酒を呑んで帰宅したのは確かだ。ただ泥酔を演じていたものの、実際にはほろ酔い加減だったという。雨交じりの強風の中、無理に自宅へ戻ったのは嘘がばれそうになったからに他ならない。
「実は妹が病気で造一郎がいろいろと手を尽くしてくれているんです。世間では怠け者だとかいろいろいわれている造一郎ですが、とても優しい奴で。臆病なところもあるせいで誤解されやすいんですが‥‥。どうかそっとしてやってくれませんか?」
 話してくれた造一郎の友人の思いを汲んで一行は造一郎に接触を試みるのをやめる。友人は造一郎から大鳥が飛んでいった方角を教えてもらっていた。
 大雪加と秘密厳守の約束を交わした造一郎の友人が南南東の方角を指さす。お礼をいった一行は造一郎の一件を内緒にした上で再度村人に訊ね回る。
「教えてもらってきました。大鳥が飛んでいったと思われる方角には低めの山がたくさんあって、どれも一年中深い緑に覆われている土地だとか」
 ルエラがより詳しい情報を仕入れてきてくれた。
 この村から南南東に的を絞った場合、内陸に二十キロメートルも離れた森林一帯がとても怪しく感じられた。
 『海猫』に戻った一行は直ちに離陸。船首を南南東へと向けるのだった。

●緑の中に
「これだけ海から離れていてでうっそうとしているところじゃ、わからないのも無理ないのにゃ」
 『海猫』から下船したばかりのパラーリアは周囲をぐるりと見回す。
 たまたま拓けている原っぱに着陸していたが周囲は樹木と草だらけ。所々に五十メートルから百メートル程度の岩山が存在している土地であった。
「おそらくはここで見張るのが一番だろう」
 羅喉丸のいう通り、一行は無理に森の中を探索せずに留まって空を見上げた。大型の鳥なので飛んでいればすぐに見つかるはずである。
 一心と針野は周囲で一番高い木に登って見張る。二時間交代でパラーリアとルエラが行う。その次は羅喉丸と大雪加だ。
 神座早紀は調理のおにぎり作りを担当してくれる。また円平達が見つかった時のために余分な分も作っておかれた。
 なるべく早めに見切りをつけて仲間や船員達に食べてもらう。食べ物は大切にしなければいけない。特に今のような状況下では。
 一晩が過ぎて朝日が昇る頃、事態は進展を迎えた。
「あれは‥‥遠くで物の大小がわかりにくいですが‥‥間違いないでしょうね」
「きっとあれなのさー。‥‥飛び方は鷹に似ているんよ」
 木に登っていた一心と針野が大鳥らしき影を捉えたのである。即座に地上へといる仲間へと伝えられた。
 地上に待機していた開拓者の中で駿龍を駆るルエラとパラーリアが食べかけのおにぎりをくわえながら緊急離陸。大鳥の追跡を開始する。
 さらに駿龍に乗った一心と針野が追った。目立つ『海猫』は一心と針野の駿龍を目標にして追いかける。羅喉丸と神座早紀は甲龍のおとめと頑鉄と共に甲板で待機する。
 大鳥の姿は目撃証言に酷似していた。気づかれないよう注意しながらの追跡は続いた。
 やがて鷹に似た大鳥は岩山へと降下するのだった。

●ケモノの巣
 大鳥は絶壁の岩肌にある自然洞窟内に着陸して奥へと姿を消した。
 龍騎していた開拓者達は『海猫』の甲板に降りて大雪加と合流する。海猫は岩山を遠巻きにして空中を回り続けた。
「巣の中にびよーんって飛び出しているのがあるのにゃ。水色っぽいよ〜」
「あの旗の一部は‥‥大雪加さんに教えてもらった『鶯』のものそっくりなのさー」
 甲板の端に掴まるパラーリアと針野は洞窟内を観察した。巣は比較的洞窟の入り口近くにあったので鷲の目を繰り返し使える弓術師にとって簡単である。
「それはきっと『鶯』の翼部分です。みなさんが考えていた通り、あの大鳥に攫われたようですね」
 パラーリアと針野が語る情報によって巣の中の物体を大雪加は『鶯』だと断定した。その他にも大鳥の子供と思われる雛も一羽いるようだ。
 『鶯』の破損状況は外側から見た分には芳しくなかった。飛べるかどうか怪しい状態といえる。
 巣に閉じこめられてからこれまでに逃げ出す機会が一度もなかったとは考えにくい。乗員達が怖じ気づいて試さなかったのかも知れないが、おそらくそうではないだろう。『鶯』は飛行不可能だと結論づける。
「だとすればケモノ? 確認した方がよさそうですね!」
 神座早紀は駿龍・おとめに乗って岩山の裾野にある森の茂みへと隠れる。大鳥は巣から飛び立つ時、地表ぎりぎりまで降下しながら勢いをつけていた。その最下降点の真下で瘴索結界を使いながら息を潜める。
(「瘴気が感じられませんね。急いで戻って報告しなくては!」)
 ようやく巣のある洞窟から大鳥が飛び立ち、一瞬だが神座早紀の頭上を通り過ぎていった。『海猫』へ戻ると大鳥の正体はアヤカシではなくケモノだと大雪加と仲間達に報告する。
「ならば巨大な鳥が離れた時に龍で救出に向かおう。問題はどの程度で戻ってくるかだが‥‥。おっとどうした?」
 羅喉丸が巣の方向へ振り向こうとした時、『海猫』が急反転して姿勢を崩してしまう。そうした理由はすぐにわかった。大鳥がもう戻ってきたのである。
 機転をきかせた操縦士が岩山から離れてくれたおかげで大鳥から見つからずに済む。
「こんなに早く戻ってくるとは」
「いや、あれは大鳥であっても違います。別の個体でしょう。先ほどの大鳥のつがいなのではありませんか?」
 大雪加の言葉を一心がやんわりと否定した。
 針野とパラーリアにもう一度確認してもらうと確かに身体の模様がさっき巣を飛び立った大鳥とは違っていた。
「二羽の親鳥が離れる機会を待たなくてはならないのか‥‥。厄介だな」
 羅喉丸の危惧は現実となった。
 親鳥達が交互に餌集めをすることがわかったからだ。とはいえ完全な入れ替わりではなく、相手を待たずに巣から飛んでいくこともある。
「すぐに助け出したいのは山々だが勇気と無謀は違うか」
 羅喉丸は飛び出したい気持ちをぐっと抑える。
 巣の観察を続けるうちに夜が訪れた。二羽の親鳥も餌集めをやめて巣に戻り身体を休める。
 『海猫』は岩山近くの拓けた場所に着陸して一晩を過ごす。明日こそ円平を含めた『鶯』の乗員達を助け出そうと誓い合うのだった。

●巣の中へ
 朝日が昇る前から一行は準備を整えて岩山の洞窟の観察を始めていた。やがて片親の大鳥が飛び立ち、しばらくしてもう一羽も餌を探しに大空へ。
 機会をはかるうちにずるずると時が過ぎていくのを大雪加はよしとしなかった。乗員達の体力を心配したからである。大怪我をしている者がいたとすれば早く治療を受けさせてあげなければ命が危ないからだ。
 もしも救出中に親鳥が戻ってきてしまった場合は説得を試みることになる。大鳥が人語を解するケモノなのを期待して。
 一か八かの要素はかなり強かった。
 そうならないよう祈りながら開拓者達を乗せた龍達が森から飛び立って岩山へと向かう。遅れて『海鳥』も離陸する。
 速さも重要なので洞窟内の奥まで入るのは駿龍を駆る一心、ルエラ、パラーリア、針野の四名と決められた。
 甲龍の羅喉丸と神座早紀は洞窟の出入り口付近で待機。『海猫』もまた同様の周辺で待機となる。
 『海猫』を遠くで待たせる案もあったが龍に二人乗りは難しいので大雪加の考えによって同行した次第だ。
 平常時ならば龍に二人乗りも何とかなる。しかし戦闘や脱出などの緊張を伴う場合は無理といってよかった。強行すれば墜落してしまうだろう。
 駿龍四体を洞窟の出入り口付近に待機させて開拓者達は巣のある奥へ。やがて薄暗い中に太い蔓が使われていた巨大な巣が浮かび上がった。
(「大鳥の赤ちゃんはまだ眠っているのにゃ‥‥」)
(「今のうちですね」)
 パラーリアと一心が巣の中に飛び込んで吐息を立てる雛を監視する。巣の中に転がる多量の骨が不気味に感じられた。
 その間にルエラと針野は別方向から巣へ侵入。左側面を下にして倒れている『鶯』の甲板をよじ登る。
(「遠くからではわからなかったけど、こんなにぼろぼろだったのさー」)
(「飛べるはずもありませんね」)
 針野とルエラは乗降口扉へと辿り着くとさっそくノックを試す。
 乗降口扉に針野とルエラが耳を当てると返答の音がする。表情を明るくした針野とルエラは即座に手信号でパラーリアと一心へと生存者発見の意を伝えた。
 その直後、乗降口扉は内側から開かれる。
「みなさんの姿が窓から見えた時にはまさかと思いましたが。助けに来てくれるなんて。ありがとうございます」
 ギルドの乗員五名と円平を含めた遠野村の三名、つまり全員の生存が確認された。但し、乗員二名と遠野村の一名は骨折の怪我を負っていた。
 『鶯』は機関部の損傷が激しくて飛行不可である。熊ほどの大きさを誇る雛の気まぐれによって嘴でつつかれて穴がいくつも空いていた。
 大鳥の行動から察するに『鶯』を生き物と間違えて捕食したようである。雛が大きい故に大鳥も餌集めに苦労しているようだ。親鳥が啄んで軟らかくした肉を雛に与えるという。
(「急ぐのにゃ〜〜!!」)
 雛が目を覚ましそうな状況にパラーリアはブンブンと手を振って針野とルエラに連絡した。
(「もう少し寝ていてくれればすべてが丸く収まります。まだ起きないで欲しいのですが」)
 一心はもしもに備えて弓に手をかける。ただ雛とはいえ問いかけはするし、戦うというよりも自らが囮になるつもりでいた。
 自力で動ける乗員達には垂らした縄で巣の底まで降りてもらう。志体持ちの円平、ルエラ、針野はそれぞれに骨折して動けない者を背負って片手で縄を伝った。
 底まで降りれば巣の縁までなだらかな坂の部分を選んで辿り着く。再び、縄を使って洞窟の地面まで降下する。
 パラーリアと一心も志体持ちの身体能力で一気に脱出の仲間達まで追いついた。
 一心が振り向くと雛は瞼が開いてキョロキョロと周囲を見回している。ギリギリのところで間に合ったようである。
 しかし親鳥に対してはそううまくはいかなかった。戻ってきた一羽がちょうど巣に戻ろうとしていた。
「お願いです! 話を聞いてください! 『鶯』のみなさんを助けたいだけなんです!」
 神座早紀は甲龍・おとめに乗ったまま洞窟を塞ぐようにして立ち塞がる。
「ここは俺達が踏ん張るしかないだろう。まずは円平さん達を助けなければな」
 羅喉丸もまた龍騎した甲龍・頑鉄洞窟によって大鳥の進路を妨害した。
 大鳥の体当たりを甲龍二体で受け止める。その衝撃に神座早紀と羅喉丸は奥歯を噛みしめて耐え、二度目の攻撃に備える。
 その間にも問いかけは続けられたものの、暴れる大鳥に反応はなかった。どうやら人語を解する程の知能は持ち合わせていないようである。
 神座早紀と甲龍・おとめ、羅喉丸と甲龍・頑鉄が大鳥の突入を防ぐ。その間に駿龍騎乗の開拓者四名は洞窟の出入り口と『海猫』の間を往復して助け出した乗員達を運んだ。
 骨折した怪我人を優先して最後に円平が『海猫』へと乗船。狼煙銃による合図で甲龍二体は甲板へ着船。駿龍四体は『海猫』を護衛すべく翼を広げて甲板を離れた。
「この場より急速離脱! 進路北方!!」
 『海猫』操縦室の大雪加が操縦士に指示を出した頃、もう一羽の大鳥が戻ってくる。駿龍四体が囮になってくれている間に『海猫』は全力まで推進をあげた。一気に岩山周辺から離脱する。
 約三十分後、大鳥を巻いてきた駿龍に騎乗する四名が合流。行方不明の『鶯』乗員は全員救出されるのだった。

●そして
「無事でよかったです!」
 救出の後は神座早紀が大活躍する。
 怪我をした者には神風恩寵を施す。そして前もって握ったおにぎりを救出した者達へと配った。いつ巣から逃げられるかわからないかなり節制した状況だったので誰もが腹ぺこであった。
「湖底姫さん、きっと心配していますよ。かける言葉を考えておかないとダメですから」
 笑顔で涙ぐむ神座早紀は円平にお茶を差し出す。
「ありがとう。そうですね‥‥。とても心配をかけてしまったはずです」
 ようやく落ち着いた円平は肩から力を抜いた。
「きっとみんな心配しとるし、帰りましょ」
「今度、船の動かし方教えるのにゃ♪ あたし航海士なんだよ〜」
 針野とパラーリアが円平の前に座ってお喋りを始める。
「大鳥も生きるために大変なんだろうな」
「とにかく救出できてよかったです。大鳥もきっとかすり傷程度だと思いますので」
 羅喉丸とルエラは窓際で岩山がある方角を眺めた。
「大丈夫か?」
「ええ、骨折といってもヒビが入った程度だと思いますので」
 一心は骨折した遠野村の者へと話しかける。もう飛空船はこりごりだと言い出さないかと心配したものの、そのようなことはなさそうだ。
 遠野村はまだまだこれから。円平を含めた村人達の命あってこそではあるが、飛空船の運用も重要だといえた。
 それから一日後、円平と村人二名は無事遠野村への帰還を果たすのであった。