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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 興志王が統べる朱藩。 再びの鎖国を勝手に宣言した『矢永』の領主に対し興志王は使者を送っていた。対外的にも同族が戦う事態は避けねばならないのだが説得は難関を極める。引き続き行われたものの、いつ解決するのか不透明な状況だ。 現在の状勢で避けなければならないのが矢永に同調する領地を出さない事であったが、すでに一つは興志王を狙う形で態度を顕わにしていた。 「興志王様、宗末様! どこにいらっしゃいまする!」 朱藩の首都、安州の城内では臣下達の声が響き渡っていた。 それもそのはず、王たる興志宗末が昨晩を境にして姿を消してしまったのである。何者かに攫われたのかも知れないと心配する臣下達であったが、調べるうちに事情が判明してきた。 総合して考えるに興志王は矢永の中心地『日坂』に向かったらしいと。お供にしたのは先日仕えたばかりのシノビ『風歩』のみだ。 興志王が内緒で女中の一人に手配してもらった小道具から察するに、二人は女装している様子である。 興志王の行動理由が不明であるものの、朱藩であっても現状において矢永の地は敵の陣中。このままでは興志王の命が危なかった。 様々な案が検討された末、興志王と懇意の開拓者に探してもらう形になる。さっそく開拓者ギルドに内密の募集がかけられるのであった。 |
■参加者一覧
守月・柳(ia0223)
21歳・男・志
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
和奏(ia8807)
17歳・男・志
セシル・ディフィール(ia9368)
20歳・女・陰
磨魅 キスリング(ia9596)
23歳・女・志
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●日坂 難所を乗り越えて開拓者達が訪れようとしていたのは、朱藩の領地『矢永』の中心である街『日坂』。興志王の考えに異を唱えて再びの鎖国を宣言した反逆の領主が治める土地である。 「全く、興志王の行動力には言葉がありませんわね。家臣からすれば、たまったものではないでしょうねぇ」 往来の片隅で苦笑するのは磨魅 キスリング(ia9596)。 仲間達と共に日坂への出入り口となる門を眺めていた。それなりの人通りはあったものの、どこか活気が感じられない。 「女装で敵地に侵入とは大胆と申しますか‥‥」 玲璃(ia1114)は軽いため息をつく。 「興志王もまた思い切った事をされる‥‥」 守月・柳(ia0223)は民草の考えを知りたいという興志王の心情を察しながらも苦笑する。 「‥女装、ですか‥。興志王が女装‥‥」 こみ上げる笑いを必死にこらえていたのはセシル・ディフィール(ia9368)。とんでもない興志王の姿を想像してしまったようである。 「女装とは相変わらず興志王様は楽しい方ですね」 フィーネ・オレアリス(ib0409)は興志王配下の者達の心労を考えると気の毒になった。とはいえそれが興志王なのだから仕方がないともいえる。おとなしくしている姿は興志王に似合わない。 「日坂の街に入る前に集合場所を確認しておきますか」 和奏(ia8807)は事前に調べた中から必要な情報を掻い摘んで話した。 ちなみに興志王の女装については関心を示さなかった和奏である。ありのままを受け入れるのが信条だからだ。 「所見、わかりました。それではお先に」 ライ・ネック(ib5781)は市女笠を深く被り直すと先に門へと向かう。今回ライと同じく目立たないように市女笠を用意した開拓者は多い。 一人一人、日坂の街へと足を踏み入れた開拓者達だった。 ●守月とセシルの捜査 「ああ、それりゃものすごい食べっぷりの二人だったさ」 食事処を訪ねた守月柳とセシルは主人の話しに耳を傾けながら顔を見合わせる。 二十五歳と十三歳前後の女の二人連れを見なかったかとセシルが訊ねると矢継ぎ早に主人の口が動いたのだ。身につけていた着物の色についても紅と黄のようで間違いなさそうであった。 興志王と風歩はこの地の名物である味噌鍋を十人人分も平らげたらしい。主人が勘弁してくれと懇願したらすぐやめて謝ったようだが。 「あの‥‥容姿はどうでしたか?」 「容姿? そこらにいるねぇちゃんって感じだったがな」 主人の言葉にセシルは店内にいる女性達を横目で眺める。 顔の良し悪しは別にして化粧や着飾っている女性は非常に少なかった。主人の普通はセシルの考えるところとは違うので話し半分に聞いておく。 「その女性二人はどこにいったとか、知らないものだろうか?」 「さあ。旅の人って感じだったから、どこかに泊まっているじゃないのかね。まだ日坂にいればの話だが」 守月柳は主人に礼をいうと興志王と風歩が注文した味噌鍋をセシルの分も含めて頼んだ。有用な情報を教えてくれた礼として。 「宿屋は私、気になっていたんです」 「そうだな。食べ終わったら回ってみるのがよさそうだな」 キノコたっぷりの味噌鍋をセシルと守月柳は頂く。それから夕方まで宿屋を回ってみたが、興志王と風歩らしき二人組が泊まっている証言は得られなかった。 訊ねた相手が嘘をついているのか、それとも宿屋には泊まっていないのか。思案する守月柳とセシルであった。 ●玲璃の賭け 玲璃はつい最近までは流行っていた風情を思わせる茶屋に入ってみる。店内に自分以外の客はいなかったが、すぐに看板娘が茶を運んできた。団子を一皿頼むついでに玲璃は世間話を振る。 「実は仲間うちで賭けがありまして」 「賭け、で御座いますか?」 「はい。仲間の二人が『変装した自分達を見つけられるか』と宣言しまして。時間切れで二人を見つけられない時には食事を奢らなくてはなりません。それらしき二人をご存知でしたら教えて頂けませんか?」 「それだけではさすがに――」 玲璃は看板娘にその二人は女装していた可能性があると付け加えた。 「大きな声ではいえませんが、このように閑古鳥が鳴いていますのでお越しになるお客様の数も‥‥。そういえば女装かどうかはわかりませんが、つい先日、ものすごくお団子をお食べになられた二人組がいらっしゃったようで。私は休んでいたので詳しくは知らないのですけど」 看板娘を知っている限りのごとを玲璃に話してくれる。その二人は店にあった団子すべてを食べ尽くしたらしい。いくら客が少なくなっていたご時世とはいえ、串数は膨大であったようだ。 二人組がこの茶屋に訪れたのが二日前。玲璃はその情報を頼りにして調査を続行するのだった。 ●静かなるライ 寂れてしまったとはいえ、曲がりなりにも日坂は領地の中心地である。多くの人が住んでいれば自然と物音や声が響くものだ。 ライは街の片隅に佇みながら様々な音に耳を傾けていた。 (「‥‥喧嘩。‥‥罵声。‥‥噂話――」) 取捨選択をし、手がかりになりそうなものだけをとっかかりにして場所を移す。夜になれば暗視も活用して闇に紛れた存在も知覚する。 ライは街の裏から興志王と風歩を探そうとしていた。 しばらくして粗暴な女二人組の噂が耳に入る。男達に攫われそうになったかと思いきや、こてんぱんに伸してしまったと。場所についても話していたのでライはそこへと向かう。 「これは‥‥」 そこは確かに噂の場所であった。土塀に大穴が空き、真っ二つに折れた木材が散乱。まるで台風が通り過ぎた後のような有様だ。 ライはこの周辺の住人の会話に集中して調査を続けるのだった。 ●フィーネが見た街の様子 フィーネがまず訪れたのは庶民の台所の食料品市場である。 (「物の流通がうまくいっていないようですね」) 市場周辺に人はそれなりにいるのだが問題は店先の棚だ。並んでいる品々はほんのわずかで、しかも高い値がつけられている。 何人かの店主に訊いてみたが女装らしき二人組は知らないとの返事ばかりであった。とはいえ、二人が市場に来ていてもおかしくはなかった。 仲間からの報告によると様々な場所で騒ぎを起こしているようだが、たまたま市場てはおとなしくしていたのかも知れない。 名物を食べてみようと考えていたフィーネは、守月柳とセシルが話題にしていた味噌鍋の食事処を訪れてみる。 (「聞いていたのとは違うような気がします‥‥」) 美味しかったと二人から聞いていた料理とは別物に感じられたフィーネだ。 常連らしき客と店主の会話に耳をそばだてると、どうやら食材が手に入らなくて困っている様子であった。 ●行商の磨魅 「こんなに早く‥‥」 磨魅が道ばたで商売を始めたところ商品の傷薬が次々と売れてゆく。商いは各地で決まり事があるので、ばれないようにこっそりとやったつもりである。しかしそんな気遣いをしている暇もなく、あっという間にすべてが売り切れてしまう。 「ちょっ、ちょっと、お話しませんか? この土地は初めてで」 「それでか。こんなに安いなんて変だと思ったんだ。知ってたらこの値で売るわけないもんな」 磨魅は最後の客を呼び止める。そして興志王と風歩が変装している格好を話しに織り交ぜながら様子を窺った。 「そういえばそんな流行りの格好をした女二人連れを見かけたかも。どうやって外から矢永に入ってきたんだろうね。境は厳重らしいから」 「きっと鎖国前に入って来られたのでは? 出られなくて困っている私のように」 客が興志王と風歩とおぼしき二人を見かけたのは三日前である。大声を張り上げたりして結構目立っていたという。 「遠目では女に見えたんだけど‥‥。なんだか変だったよ」 「妙な方々もいるものですね」 磨魅は客に調子を合わせてより深くを知ろうとするのだった。 ●聞き役の和奏 「日坂は大変なようですね」 「特に物の値がどんどん高くなっちまって困っちゃってね」 和奏は井戸端会議の女性達に混じっていた。井戸に桶を落とし、滑車に通された縄を引っ張って水汲みを手伝いながら。 自然と領主が宣言した再鎖国についての話題になる。賛美しているのはほんの一握りで、市井の者達の大半は反対しているようだ。 「そりゃ鎖国の時の方がよかったこともあったさ。今よりのんびりしてたしね。だからといって、もう後戻りは難しいよ」 「あんた、小さい声で話したほうがいいよ」 役人らしき者が近くを通り過ぎるのを待ってから女性達のお喋りは続く。 (「興志王もきっとこれらの話を聞いたに違いないですね」) 和奏は話しを合わせながら心の中で呟く。 女性達に気に入られたようで長屋の一室で夕食をごちそうになる。心が込められた料理であったものの、物不足のせいか質素であったのが和奏の印象に残った。 ●興志王と風歩 到着二日目の昼頃。磨魅が興志王と風歩が起こしたと思われる騒ぎに駆けつける。すでに二人は立ち去っていたが近くにいるのは間違いなかった。仲間を呼び寄せて現場一帯を捜索する。 「興志王様?」 「よお!」 フィーネが神社の境内で興志王を見つけたのはまもなくのことである。すぐに全員が境内に集まった。 (「こ、興志王様‥‥」) セシルは笑いをこらえるのに必死で守月柳の背中に隠れる。 お澄まししている興志王の姿は女性に見える。しかし一度動けば粗野で乱暴だ。ちなみに焚き火で飯を炊いていた風歩の女装はそれなりであった。 神社は寂れていて誰も住んでおらず、二人はしばらく夜露をしのがせてもらっていたのだという。 「日坂、ひでぇもんだろ。まだ何とか体裁を整えてはいるが、もうすぐボロがでまくりだろうさ」 興志王は鍋をつつきながら飯をかっ食らう。 「その通りですね。みなさん困っている様子でした」 和奏はお茶を淹れて湯飲みを興志王に手渡す。他の仲間達も同じ感想を持っていた。 「これからどうするおつもりか? よければ調査に一役買う用意で参ったのだが」 「大体のところはわかったんで街の観察についてはもういいのさ。だが、守月よ。ちょいと手伝ってもらいたいことがあるんだ。他のみんなも頼まれてくれねぇか?」 守月柳をまっすく見つめたあとで興志王は全員の顔を眺める。そして思いついた作戦を説明した。 「面白いです。ならば調べておいた方がよろしいでしょう」 ライはすぐさま下調べに出かける。 「俺達もいった方がよさそうだな」 「人魂があれば調べやすいでしょう」 守月柳とセシルもライと同じ場所の調べに向かった。 「長屋の位置も把握しておくべきですね」 「私も付き合います」 玲璃とフィーネは正確な日坂の地図を手に入れる為に出かけた。 「街の人達と知り合えたので大八車を集めてきます。きっと役立つでしょうから」 「私もいくらか心当たりがあります。運ぶ際に必要な縄も借りてきます」 和奏と磨魅は何かを運ぶための用意を始めるのだった。 ●真夜中の行動 作戦が実行されたのは到着三日目の深夜であった。 それは領主の倉から年貢として集められた米俵を運び出す事。 興志王曰く、朱藩で収穫された年貢米の所有権は自分にあるので盗人にはあたらないという。自分の物をどうしようと勝手だという理屈だ。 かなり強引ではあるものの、領地を授けた立場において興志王の筋は通っていた。 この時すでに興志王の覚悟は決まっていたのかも知れないと開拓者達は後で振り返ることになる。現領主の討伐をだ。 「今、見張り二人が通り過ぎました。前と同じなら戻ってくるのは五分後です」 ライが超越聴覚と暗視で警備状況を把握する。 「早く見張りが来たら揺すってください」 セシルは人魂で形作った梟の視覚を借りて倉の中へと潜入する。中の警備状況を確認して仲間達へと報せた。 「オラに任せてくれ」 居残りの見張りは風歩が引き受けてくれる。開拓者達は物陰から飛びだし、興志王と共に見張り達を一瞬のうちに気絶させてしまう。 「なるべく目立たぬようにしなければな」 「この者達の服を着たらどうでしょうか?」 守月柳の言葉にフィーネが倒れている見張りのオデコを扇子で軽く叩く。それがいいと興志王がさっそく着替え始めた。他の者達も空気を読んで見張りから服を借りる。 見張りを裸に近い格好で放置するのはかわいそうなので、猿ぐつわに加えて簀巻きにしておく。この方がかわいそうなのではと思った開拓者も何名かいたのだが。 「こ、このっ!」 縛っている途中で突然気絶していたはずの見張りが目を覚ます。磨魅はとっさに握った葱でぺしんっ!とお尻を叩こうとした。 普通は効くはずがないのだが、見張りはもう一度気絶する。どうしてそうなったかは磨魅だけが知っている秘密だ。何故か磨魅の頬はしばらく真っ赤だったという。 「この鍵ですね」 和奏が見張りの一人から鍵を手に入れる。さっそく倉の扉にかけられていた錠前に鍵を差し込む。鈍い音を響かせながら観音開きの扉が開いた。。 「物流が滞ったこの日坂にも備蓄がこんなにもあったのですね‥‥」 玲璃は倉の中に入ると持っていた提灯で照らす。薄暗い倉の中には米俵が堆く積まれていた。 「こりゃ運びがいがあるな」 興志王はさっそく米俵を担いで大八車に載せる。開拓者達も米俵を載せては縄で固定する。 倉には玲璃、セシル、風歩の三名が残って引き続き米俵を積み込む作業と監視を行った。その他の開拓者達はそれぞれに大八車を牽いて夜の日坂を駆け抜けた。 担当の長屋前へと運び込み、先に米俵を下ろしてから大きく息を吸う。 「興志王様からの土産だ!」 守月柳は空になった大八車を牽いて立ち去る。何事かと思って長屋の者達が出てくると、そこにあるのは米俵の山。張り紙には興志王からの贈り物と大きく書かれてあった。 他の者達も守月柳と似たような感じで米俵を贈った。 「ちゃんと考えていらっしゃるようですね」 和奏は小さな俵を興志王の指示通りに土地の氏族の屋敷前に置いてゆく。こうすれば長屋の者達を非難しにくい状況になるだろうと。 おそらく米をもらえなかった者は不満を漏らすだろうが、興志王は土地の奪還後に遇するつもりであった。まずは一番困窮してる人々を救わなくてはならないという使命感が興志王にそうさせた。 倉にあったほとんどの米俵を運び出すと興志王と開拓者達は真夜中にも関わらず日坂の街を脱出する。 紆余曲折があったものの、三日後には待機していた飛空船と合流。全員が朱藩の首都、安州へと辿り着く。 最後に興志王が馴染みにしている寿司屋で酒盛りをして盛り上がった。 「さすがにあのままにはしておけねぇ。他にも朱藩の危機は山積みなんだが‥‥やるしかねぇな」 準備が整ったら手伝って欲しいと開拓者達に願った興志王であった。 |