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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 興志王が統べる朱藩。 再びの鎖国を勝手に宣言した『矢永』の領主に対し興志王は使者を送っていた。対外的にも同族が戦う事態は避けねばならないのだが説得は難関を極める。引き続き行われたものの、いつ解決するのか不透明な状況だ。 今の状勢で避けなければならないのが矢永に同調する領地を出さない事である。 問題は山積していたものの、かといっていちいち悩んでいても仕方がない。対応策を打ったのならあとは結果を待つしかないと考えていた興志王だ。 ある日、興志王は地方から届いた報告に心踊らせる。 それは新たに発見された遺跡について。地元で簡単な調査をしたところ、過去に隠されたと思われる宝珠の原石がいくつか発見されたと認められてあった。 調査が行われたのは遺跡のほんの一部であり、まだまだ宝珠の原石が眠っている可能性は高い。 「行くしかねぇよな!」 冒険心を刺激された興志王は自ら調査に赴こうとした。 当然、臣下達に止められるのだが頑として自らの意見を押し通す。臣下達から出された志体持ちの護衛を連れてゆく条件だけは承諾して。 臣下達は朱藩の氏族の中から志体持ちの護衛を用意するつもりでいた。しかし興志王は先に手を打ち、ギルドを通じて開拓者達を集めてしまう。護衛という名の監視者を嫌った為である。 超大型飛空船『赤光』では大げさ過ぎるので中型飛空船で現地に赴く。 さっそく自然洞窟に見せかけた遺跡に足を踏み入れた興志王と開拓者達であった。 |
■参加者一覧
紅鶸(ia0006)
22歳・男・サ
守月・柳(ia0223)
21歳・男・志
白拍子青楼(ia0730)
19歳・女・巫
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
和奏(ia8807)
17歳・男・志
セシル・ディフィール(ia9368)
20歳・女・陰
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
長渡 昴(ib0310)
18歳・女・砲
鉄龍(ib3794)
27歳・男・騎
千鶴 庚(ib5544)
21歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●探検 「用意は万全。んじゃあ〜出発だぜ!!」 興志王が一歩を踏み出した洞窟は自然そのものの状態ではなかった。古くに何者かによって手が加えられたとされている遺跡である。 朱藩の安州から離れた地であり、中型飛空船で到着したのは昨日の夕方だ。一晩休んで夜が明けるのを待ってから探検は実行された。 「探検はわくわくですの!」 張り切って遺跡に入った白拍子青楼(ia0730)はキョロキョロと辺りを見回す。暗くて怖くもあるが、興味がないといえば嘘になる。 「足下に気をつけろ。苔で滑るからな」 「はいですの♪」 松明片手に興志王の後ろをぴったりと追いかける白拍子だ。 「やれやれ、直々に遺跡調査とは‥‥相変わらずですねぇ。興志王も」 「これぐらいの役得はねぇとな」 紅鶸(ia0006)の一言を興志王が笑い飛ばす。 「興志王の為ならばどんな場所にも付いていきます故。何が起ころうとも安心召されよ」 「堅苦しいのはなしだ。でも期待しているぜ。守月よ」 守月・柳(ia0223)の背中を興志王は笑顔のままぽんぽんと叩いた。 (「噂通りの伊達男っぷりのようね」) 興志王のやり取りを後方から見守っていたのが千鶴 庚(ib5544)。持ち込んだ銃二丁の装填は確認してある。闇に包まれた洞窟の奥に銃口を向け、耳を澄ませながら一歩一歩進む。 玲璃(ia1114)は列の前方で少しでも明るくなるようにと松明を高く掲げていた。 「ここが宝珠の原石が眠る遺跡ですか。未だにそんな手つかずの場所があるんですね」 「らしいんだがな。自然洞窟に見えるせいでこれまで遺跡と認識されていなかったと報告書にはあったが――」 玲璃はしばらく興志王と遺跡の成り立ちについて雑談を交わす。 (「こうして陛下とご一緒できるのは嬉しいですが、城の方々は心配なされているのでしょうね」) 苦笑するジークリンデ(ib0258)は出発前に興志王から預かった地図の事を思い出す。今歩いてる出入り口付近こそ描かれてあったが、奥の部分は何も記されていなかった。 「新たに発見された遺跡とは興味深いですね」 セシル・ディフィール(ia9368)は遺跡の状況を確かめながら奥へと進んだ。しばらくすると自然洞窟というよりも人の手で掘られた坑道といった景色に変わる。 「報告にはかなり昔の遺跡のようだとありましたが‥‥」 和奏(ia8807)もセシルと同様に遺跡の特徴を気にする。報告書にあった内容と違和感が持った和奏だ。相談するとセシルも同じように感じていた。 「ここから先はかなり分岐しているな」 先頭を歩いていた鉄龍(ib3794)が巨大な穴の前で立ち止まり、持っていた松明で照らす。縄ばしごが途中で切れてしまっているのわかったが、灯りは底まで届かずに真っ暗で何も見えなかった。 「精密な地図作りは俺の趣味じゃねぇからな。宝珠の原石を発見したいだけさ。迷わないような印をつけながらとにかく奥へと向かおう。迷子はなしだぜ」 興志王に賛成した開拓者達は穴を降りる準備を整えた。石を落として返ってくる音から大体の深さを想像し、相応の長さの縄を垂らす。 籤で決めた順番通りに紅鶸が降りようとした時、振動と共に遠くからものすごい音が轟いた。 騒然とした状況が収まるのを待っていると土煙が一同の元に漂ってくる。和奏と鉄龍が斥候として調べに向かうのだが、しばらくして戻ってきた二人は土埃にまみれていた。 「興志王と入ってまもなく落盤事故なんて‥‥」 セシルは深い闇のような陰謀を感じ取る。和奏と鉄龍によればかなり大規模な落盤で出入り口から五十メートル前後まで埋まっていたという。 「偶然にしちゃ出来すぎな感じだが、まあ、こうなったら仕方がねぇ。まずは奥に進むしかねぇな。頼む、紅鶸」 「期待に応えましょう」 興志王の一言で紅鶸は穴を縄を使って降りる作業を再開する。 蝙蝠に絡まれながらも紅鶸は無事に底へ着地。穴の深さは二十メートルに達していた。全員が降りたところで一番大きな横穴を進むのだった。 ●憔悴と脱出 遺跡に入って五日目。さまよい続ける間、一同は自分達が置かれた立場を想像していた。 宝珠の原石がこの遺跡から本当に発見されたかどうかは別にして、話自体は興志王を誘い出す罠であろうと。落盤は故意に起こされたものであり、興志王を亡き者にしようとする陰謀の可能性が非常に高かった。 証拠の一つとして一行は遺跡内に潜んでいた何者かに三度も襲われていた。撃退に成功しているものの、普通に考えればこんな場所に人が住んでいるはずもない。おそらく暗殺を命じられた何者かだ。 「決死でここに忍び込んでいる場合もあり得ますが‥‥。普通は逃げ道を用意しているはずです」 ジークリンデはこの遺跡のどこかに脱出口があるのではと想像する。 「そうだな‥‥。次はひっ捕まえて吐かせるとしようか。とはいってもすばしっこいんだよな。奴ら」 非常食の干し芋を囓る興志王の瞼の下は寝不足のせいで黒ずんでいた。それもそのはず。暗殺者だけでなく遺跡内にはアヤカシも存在し、度重なる攻撃を受けていたのである。 遺跡内にいるアヤカシは興志王や同行する開拓者達にとっては他愛もない弱さの敵だ。倒すのは造作もなかった。だが絡まれる回数が半端ではない。まるで真夏の睡眠時にまとわりつく蚊のように苛立つ存在。見張りに任せて眠ろうとしても奇声や雄叫びのせいで目が覚めてしまうのが常である。 「興志王様、あれはなにかしら。何か動いたような」 「ん? また隠れているシノビかも知れんな」 興志王と一緒に干し芋を食べていた白拍子がさりげなく遠くの空洞斜面を指差す。 「お待ちを。私が調べますので」 興志王と白拍子の会話を聞いていたセシルが人魂で小柄な梟を出現させる。飛ばした梟の眼で確認したのは岩と岩の狭間に隠れる暗殺者『シノビ』であった。 「今はアヤカシの攻撃も一段落していますし‥‥。悟られないように‥‥」 守月柳は心眼によって潜むシノビの正確な位置を割り出す。その情報はこっそりと仲間に伝えられた。 (「任せてもらったからには必ず当てるわよ‥‥」) 自ら買って出た千鶴庚は仲間の影に隠れながらマスケット「バイエン」を構える。引き金を絞って隠れていたシノビの右太股を撃ち抜いた。 銃声と同時に動いたのが紅鶸、和奏、鉄龍の三名である。一気に駆け抜けてシノビへと近づく。 「何処へ行くつもりだ?」 槍の長さを利用して奥へ逃げようとするシノビを遮る鉄龍。 「まずは安全を確保させていただきますね」 和奏はシノビが持っていた苦無を刀ではじき飛ばす。その他の武器も紐を斬ったりして外してしまう。 「死ぬのはなしだからな」 紅鶸は後ろからシノビに近づき、仮面を外すと手ぬぐいで猿ぐつわをする。毒でも飲んで自害されたら元も子もないからだ。調べると案の定、奥歯に毒が仕掛けられていた。年の頃は十二、三歳といった男の子であった。 「他に痛いところがあったら頷いてください」 玲璃は捕まえたシノビの怪我の手当した後で閃癒をかけてあげる。 「生きるってぇのは大変だ。俺を狙うのにもしがらみやらの訳があるんだろうさ」 そういいながら興志王は縄に縛られ、猿ぐつわをされたままのシノビの前に袋を投げる。地面に落ちる瞬間、金属がふれ合う音がした。 「脱出に手を貸してくれるのなら後で仕事をやろう。望むのであればだがな。だがまあ、互いに信頼なんて皆無。外に出たらその金を持って逃げても構わん。これは信じてもらうしかねぇが、そうなってもここにいる護衛に手出しはさせねぇ。どうだ?」 興志王はシノビに考える時間を与えた。 そんな時にもアヤカシは襲ってくる。巨大なミミズのようなアヤカシを開拓者達が瞬く間に退治した。その様子をシノビは間近で目撃する。 「‥‥わかった。オラは天涯孤独の身。信じて協力する。直接の上役に指示されて狙っちまったが、あんたこそがこの国の王。オラは従う。殺したければ殺してくれ」 玲璃に猿ぐつわをといてもらったシノビは頭を垂れたまま興志王に忠誠を誓った。 シノビの名は風歩。鎖国を宣言した『矢永』から刺客として送り込まれた者だと自らを語る。この遺跡のある地の領主と矢永の領主が裏で結託して興志王を亡き者にしようと画策したのだという。風歩以外のシノビは失敗を悔やんで全員自害したようだ。 風歩が教えられたこの遺跡の情報の中に宝珠の原石に関するものは含まれていなかった。 事情がわかったところで一同は風歩の道案内で移動する。 ここにいるアヤカシ等にはテリトリーがあり、そこから外れた場所ならば襲われないと風歩が説明した。開拓者達は疑いながらもついてゆく。 案内されたのはこぢんまりとした空洞。 罠を考えて見張りは厳重に行われる。だが風歩のいう通り、案内された周辺にアヤカシが現れる事はなかった。各自十分な休憩をとる。 「宝珠の原石がねぇとわかった以上、全力で脱出するべきだな‥‥」 食事をとりながら興志王が力無く呟いた。 「まだ見つかっていない遺跡もあるでしょう。ですから‥‥その時にはまた俺達をお呼び下さい」 紅鶸は水が入った竹筒を興志王に渡しながら元気づける。 全員の睡眠と腹ごしらえが済んだところで風歩が知る脱出口へと向かう。 (「怖いですの‥‥」) 白拍子が怯えたのも無理からぬことだ。見える範囲でもたくさんのアヤカシがたむろっていたのである。 風歩によればこの先にあるのは空洞で約五十メートルの長さがある。その先に直径二メートル前後の坑道があって奥まで二百メートル前後。行き止まりと思われる壁面に隠し扉があるので、そこから外に出られるという。 シノビの風歩なら壁面の岩の出っ張りを足がかりに八艘跳びで狭い坑道まで辿り着けるようだ。興志王を含める一同もこなす身体は持ち合わせている。だが修練を積まなければ百発百中とはいくはずもない。ここは別の作戦を考える必要があった。 「一気に突破するしかなさそうだ。俺が血路を開こう」 片鎌槍を手にする鉄龍が一歩前に出る。 「道先案内は私が。暗闇でも瘴索結界ならアヤカシの位置がわかりますので」 玲璃はアヤカシの群れを避けて進むには自分が適任だと告げた。 先頭を駆ける玲璃を鉄龍が守るという形で話はまとまる。他の全員はアヤカシを退けながら二人を追いかける作戦である。 可能な限りたくさんの松明が灯された。 「行くぜ!」 興志王の合図で敵中突破が始まった。 玲璃に近寄ろうとするアヤカシを鉄龍の槍が弾く。仲間が持つ松明の輝きだけを頼りにして。 二人に続いて仲間を守りながら駆けるのは紅鶸、守月柳、和奏の三名。興志王、白拍子、セシル、ジークリンデ、千鶴庚の五名は松明で行き先を照らす。風歩は空洞の壁面に張り付いて囮をしてくれた。 傷つきながらも全員が坑道まで辿り着く。 「塞き止めてしまいましょう」 ジークリンデがストーンウォールで石の壁を出現させて坑道を塞いでしまう。しかし追ってくるアヤカシの勢いは留まることはなかった。破壊しようと衝突を繰り返す。それでも時間稼ぎにはなった。 何重にも石の妨害壁を作り上げると全員で坑道の奥へと向かう。興志王は遠くからでも状況が確認できるように炎を灯したままの松明を坑道の壁に突き刺してから駆ける。 「そんな‥‥」 「どうしたのですの?」 風歩が座り込む様子に白拍子が首を傾げる。 「この崩れている箇所に隠し扉があったはずなんだ‥‥。ここからオラはシノビ仲間と入ったんだが、いつの間にこんなことに」 うつむいたまま風歩は大地を拳で何度も殴る。 「水の音がします‥‥。外までどのくらいの距離だったか覚えていますか?」 疑問に思った和奏が風歩に質問する。かなりおぼろげだが三、四メートルほどだったと風歩は答えた。 「迷っている暇はないですね」 「そうですの!」 セシルと白拍子が協力して穴を塞ぐ石を持ち上げた。崩れた出入り口の岩石や土砂を退ける作業が開始される。 ジークリンデはストーンウォールを唱え、可能な限り石の壁を作って迫るアヤカシを妨害する。石の壁による妨害が終わると、ここからは砲術士の出番だ。 「こういう事になるとはね。ここで王を死なす訳にはいかないの」 地面に伏せてマスケット銃を構える千鶴庚。突破してきた蝙蝠に似たアヤカシを松明の炎を頼りにして撃ち落とす。反響の中、装弾して次のアヤカシを狙う。焦らず冷静に素早く、そして確実にと。 「なかなかやるな」 興志王も長銃を構えて蝙蝠に似たアヤカシに弾を命中させる。 数が数だけに二人の砲術士だけではアヤカシの進攻を押しとどめるのは不可能だった。 「ここが踏ん張りどころだ」 紅鶸が砲術士二人を守るように迫り来る牙を剥いたアヤカシを斬り伏せる。 「危ないから下がれ」 鉄龍が渾身の槍の一撃で邪魔な巨大な岩を砕く。岩石や土砂を取り除く作業を始めて二時間後、ようやく向こう側へと到達する。 そこは絶壁を落ちる滝の裏側へと繋がる洞窟だった。 「これ以上は無理。限界だ! 飛び降りろ!」 アヤカシに追いかけられながら興志王が叫んだ。覚悟を決める暇などない。全員が高さもわからないまま、落下の滝中へと飛び込むのだった。 ●そして 水の冷たさに凍えながらも全員が無事に川岸へと泳ぎ着く。泳ぎが得意でない者は仲間が手を貸してくれた。 この地の領主が興志王の敵と判明した以上、秘密裏に脱出しなければならなかった。苦労したものの三日後には隣領へと脱出。生きて朱藩の首都、安州へと戻る。 「あそこの領主も敵か‥‥。ま、何とかなるさ。おかげで命拾いした。助かったぜ」 感謝する興志王のもてなしで開拓者達はしばし安州の城に滞在した。十分に休養してから神楽の都へと戻る。 ちなみにシノビの風歩は何処へも逃げず、興志王に従える事となるのだった。 |