【新大陸】興志王冒険心
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/05 20:49



■オープニング本文

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 嵐の門の向こうにあると推測される、新たな儀『あるすてら』を発見せよ。
 『あるすてら』を見出すために、飛空船使用を許可する。

 一三成か、大伴定家か。
 その文書に花押を記した者の名には二通り、文書の内容は受け取る者の立場で幾つかあれど、目指す場所は一つ。
 嵐の門解放がなり、いよいよもって『あるすてら』の存在が現実味を帯びてきたと判断した朝廷は、その探索を改めて命じていた。朝廷に忠誠を誓う者には命令を、新たな土地に利益を求める者には許可を、居並ぶ国々には要請を。

 受ける側には功名心に逸る者、まだ形のない利益に思いを馳せる者、他者への競争心を熱くする者、ただひたすらに知識欲に突き動かされる者と様々だ。
 人の数だけ動く理由はあれど、嵐の門も雲海も、ただ一人で乗り越えることなど出来はしない。
 『あるすてら』を目指す者は寄り集まり、それでも心許ないと知れば、開拓者ギルドを訪ねる。
 新たな儀を求める動きは、これまでとは異なる多くの依頼を生み出していた。


 鬼咲島上空で陣取っていた超大型飛空船『赤光』は一旦朱藩の首都、安州の基地へと戻る。必要な物資を一気に運ぶ為であり、補給を終えるとすぐに飛び立った。
 物資はかなり積まれていたものの、これでもまだ足りない。それだけ新大陸発見に関わる一連の動きは大がかりなものだといえた。
 無事に鬼咲島上空まで辿り着くと必要分の物資が地上へと降ろされる。赤光が島に着陸するのは非常に大変なので中型飛空船を接舷させての運びとなる。作業は深夜になっても終わることなく続けられていた。
(「やっぱり一度ぐらいは見ておかねぇとな」)
 そんな真夜中、こっそりと赤光甲板から龍に乗って地上へ降りた男が一人。巨大な銃砲を背負う興志王だ。
 忍び足で移動すると今回の補給作業に参加している開拓者達が休む小屋の戸板を叩く。起きた開拓者に中へ入れてもらうと興志王は話しを切り出した。
「ちょっとばかり嵐の門の奥を覗いてみたくてな。手伝って欲しいのさ。中型ぐらいの飛空船を飛ばすのを」
 興志王の提案に驚く者、興味津々の者など様々であったが、最終的には全員が受け入れる。どうやら興志王は冒険心がうずいて仕方がないようだ。
 興志王を先頭にして朱藩所属の中型飛空船を適当に見繕って乗り込む。
「少し味わったら戻ってくるだけだ。指示書を書いて赤光へ置いてきたしな。気にするな」
 心配する開拓者に興志王は笑顔で答える。
 だがこの時、中型飛空船『隼』に乗り込んだ興志王一行は知らなかった。隼は改装中で方角を示す宝珠が外され、磁石の羅針盤も壊れていた事に。


■参加者一覧
紅鶸(ia0006
22歳・男・サ
守月・柳(ia0223
21歳・男・志
白拍子青楼(ia0730
19歳・女・巫
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
和奏(ia8807
17歳・男・志
磨魅 キスリング(ia9596
23歳・女・志
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
長渡 昴(ib0310
18歳・女・砲
フィーネ・オレアリス(ib0409
20歳・女・騎
不破 颯(ib0495
25歳・男・弓


■リプレイ本文

●ひっそりと
「小太郎、ぼーけんですわっ! ほらほら、この船ですの〜。きゃあ!」
 闇のどこからか響く若い女性の声。それは興志王と共に中型飛空船『隼』へ乗り込もうとしていた白拍子青楼(ia0730)のものだ。
 白拍子は「しーっ」っと仲間に囲まれた後、興志王に抱えられて船内へ。ちなみに小太郎とは白拍子が連れてきた忍犬である。
 中型飛空船『隼』はすぐに鬼咲島から夜空へと飛び立った。冒険心が興志王一行を嵐の壁へと向かわせる。
(「やれやれ、興志王は本当に好奇心旺盛な御方ですねぇ。まあそれも若い者に慕われる一因なのでしょうね」)
 紅鶸(ia0006)は鬼咲島の小屋の中で興志王に話を持ちかけられたことを思い出しながら座席にもたれ掛かる。
 しばらく飛び続ければ夜明け前には嵐の門を通過できるはずである。おそらくその頃には興志王の不在がばれているはずだが。
「いや〜俺も一度中を見てみたかったんだよねぇ。どんなんだろうな〜♪」
「だよな。ほら、今のうちに食っておいたほうがいいぞ。食べる暇もねぇかも知れねぇしな」
 不破 颯(ib0495)はおにぎりを頬張りながら操船する興志王と談笑する。
(「それにしてもこの隼。係留されていたとはいえ見張りの一人もいないとは‥‥」)
 飛空船が放置されていた事に不思議を感じたのは長渡 昴(ib0310)。首を傾げて考えたがこれといった理由は想像できなかった。それは嵐の門を潜った後に判明する。
「何が待っているのやら‥楽しみでも不安でもあるな‥」
 船倉で炎龍・風花の防具点検をする守月・柳(ia0223)は操縦室のある天井を見上げた。鼻歌混じりでご機嫌な興志王の様子が脳裏に浮かぶ。
 中型飛空船『隼』は夜明け前に嵐の門を潜り抜けた。想定していた通りに事が進んで喜ぶ興志王だがそれも長続きはしない。
「なんじゃこりゃ!!」
 激しい振動に晒されて興志王は叫ぶ。
 嵐の壁の中に入った途端、中型飛空船『隼』は錐揉み状態で強風に流されてしまうのだった。

●上を下への大騒動
「どこだろうな。一体‥‥」
「ええっ!? 位置が分からないのですか!?」
 箱に詰められてかき回されているみたいな状況でようやく操縦室に辿り着いた磨魅 キスリング(ia9596)は興志王の返答に一瞬驚きの表情を浮かべる。とはいえこの程度は覚悟してきたと磨魅は比較的冷静であった。
「他の飛空船の航行はほとんどないらしいので衝突はあり得にくいのですが‥‥それでもこの状況は大変です」
 嵐の門や壁の中について情報を集めたかったジークリンデ(ib0258)だが、突発的な状況下ではそれもままならない。第一にして嵐の壁に向かうという興志王の提案は突然であったからだ。
「気が付けば迷子に‥‥ってことでしょうか」
「ま、そういう事だ。おっとっ!」
 椅子にしがみつきながら和奏(ia8807)はぼんやりと興志王を眺める。
 興志王が忙しく操縦をしていたものの船体の揺れや振動は収まらない。船窓から外を眺めてみれば雷光のせいで暗雲の世界が明るい始末。雷鳴の轟きが頭上からでなく足下からも聞こえてきた。
「嵐の壁の縁を辿ったら如何でしょうか?」
「いい案だが、この状況下で隅っこを飛んだら何が起こるやら。まずは何もねぇとこを漂うしかなさそうだぜ!」
 フィーネ・オレアリス(ib0409)の提案はもう少し天候が落ち着いてからと採用すると興志王は答える。
「風に流されているので絶対ではありませんが、昼を過ぎた頃にわずかながら雷と風は収束するでしょう。繰り返しますがほんのわずかです」
「わかったぜ! それまで持たせなけりゃあな」
 あまよみを使った玲璃(ia1114)は今後の天候を興志王に報告する。
「とにかくこのしっちゃかめっちゃかな状況は長丁場だ。用がねぇ時は全員船内であっても縄で体をどこかに固定だ!! それとだ――」
 興志王は伝声管で指示を各所に伝えた。
 船に無理をさせるので宝珠が固定されている動力室に人員配置。翼やプロペラも心配なので確認可能な船窓近くにも監視を立てた。屈強な開拓者でも船酔いになりそうな状況なので、早めの報告を義務づけさせる。
「龍はいつでも飛び立てるようにしないといけませんね‥‥。警戒もそうですがこの様子だと」
 船倉にいた紅鶸が炎龍・大火の傍らで軋む船体に眉をひそめる。今の状況だと斥候として龍を飛ばすのも自殺行為である。中型飛空船『隼』大破の可能性も考慮に入れた紅鶸だ。
「これは酷い‥酷すぎるな」
 飛翔こそしなかったものの守月柳は炎龍・風花と共に甲板へ出ていた。縄で支柱に固定して吹き飛ばされないように注意しながら。
 叩きつける雨粒はまるで鞭のようである。痛みに耐えながら守月柳は心眼を使ってアヤカシの気配がないかを探る。
「龍で飛ぶのは落ち着くのを待つべきですね。興志王がおっしゃっていたように」
 下部前方の船窓を覗きながら磨魅も心眼でアヤカシを警戒する。
「ここまでの嵐だとは思いませんでしたね‥‥。つくづくやっちゃったのが身にしみたり‥‥」
 下部後方の監視は和奏が担当だ。駿龍・颯の様子が心配なものの、何かあれば紅鶸が教えてくれる約束になっていた。
「こりゃ大変だねぇ〜。今ぐらいならなんとかなりそうだけど、これより酷くなったら――」
 そんな中、不破颯は通路で金槌を振りかざして釘打ちを始める。船体がねじれたせいで外装の一部が剥がれかかっていたからだ。
「か、雷なんてこ、怖くありませんの、ありませんの〜」
 不破颯が釘を打ち終わるまでの間、補強の板を支えていたのが白拍子。忍犬・小太郎に抱きついて目をつむりたいのを我慢しながら必死に腕を伸ばす。
「無理をしているとは思いますが、今のところどの宝珠もおかしな挙動はしていません」
 長渡昴は宝珠が固定されている動力室を回り、伝声管で興志王のいる操縦室へ状況を報告する。方角や位置を示す器機は機能しなかったものの、その他についてはよく整備されていたのが幸いであった。
「ここは冷静にスケッチを残しておくべきですね――」
「気を抜いて外から目を離すとわからなくなってしまいます――」
 操縦室の片隅で嵐の壁の中を観察していたのがフィーネとジークリンデだ。方角こそわからないものの、周囲の状況を把握すれば堂々巡りだけは回避できる。二人で協力し、地図を描き足しながら印を入れてゆく。
「怪我をされた方はいませんか? すぐに手当しますので」
 玲璃は船内をくまなく回って仲間の治療に専念する。閉じこめ振り回されている状態なので誰もが生傷が絶えない状況である。
(「こんな時に出ねぇでくれよ」)
 操縦桿を握る興志王は嵐の上にアヤカシの襲来を受けたら厄介だと心の中で呟いた。
 ひたすら我慢の時が過ぎ去り、ようやく光明が見え始めたのが暮れなずむ頃。
 嵐が収まった訳ではないものの、絶えず天井と床が入れ替わるような状況ではなくなって誰もがほっとするのだった。

●ここはどこ
 未だに雨と雷の洗礼を受け続けていた中型飛空船『隼』。それでもようやく一同は本格的に動き始める。
 龍を駆る開拓者は順番を決めて斥候に飛び出す。船内に残ってた者は操縦の補助や監視を担った。
 アヤカシについては前もっての探知を心がけて可能な限り避ける。どうしてもの場合にのみ接触するものの、基本は中型飛空船『隼』の速さを生かして脱出をはかった。
「小太郎、何を吠えて‥‥あの光は何かしら〜?」
 昼食の焼き餅を頬張る白拍子は忍犬・小太郎の遠吠えのおかげで行き先に輝く点を発見する。すぐさま報告すると操縦室の全員が沸き立つ。それはすぐに外で併飛行している仲間達にも伝えられる。
 龍を駆る開拓者達はもしもを考え、中型飛空船『隼』の甲板に降りて待機する。近づくにつれて光点は大きくなり最後には突き抜けた。
 眩しさの正体は輝く太陽と青い空に白い雲。
 誰もが後方を確認してみるが天儀本島側の嵐の門ではなかった。中型飛空船『隼』は今、嵐の壁を越えた空間に漂っていた。
 龍を持つ者は新たな空に浮かび、その他の者も甲板に出て新たな風を身体に浴びる。
「いや〜方角がわからないでこっち側に来ちまったのか。よく当てれたよなぁ俺ら」
 不破颯は羅針盤の修理をひとまず止めて駿龍・瑠璃で飛び立つ。
「少なくてもこの辺りにアヤカシはいないようですね」
 フィーネは駿龍・ヴァーユと共に中型飛空船『隼』を中心にして空に大きな円を描く。
「逆の方向に進んでしまいましたか。ですがこれも一興です」
 ジークリンデは炎龍を連れて甲板へ出て日に当たる。久しぶりの太陽は非常に眩しかった。
「どこかに何か‥‥」
 飛翔する駿龍・ブリュンヒルトの背の上で磨魅は改めて辺りを見回したが、太陽、空と雲、そして嵐の門と自分達以外に何もなかった。浮遊大陸の影はどこにも。
「瓢箪から駒といったところでしょうかね‥‥」
 和奏も駿龍・颯に乗ってひとまず飛んでみる。偶然で辿り着いたものの、気分はとてもよかった。嵐の壁の中、見たこともないアヤカシとの接触が増えてきたので何となくは想像していた和奏である。
「アヤカシとの戦闘は大したものでなくてよかったな‥‥。帰りもそうだといいのだが‥‥」
 炎龍・風花で飛翔する守月柳は大きく深呼吸をする。どこか天儀とは違う空気だと感じ取った。
「どこにも浮遊大陸はないみたいだが‥‥」
 甲板に出た長渡昴も周囲を見回して新大陸を探したが見つからなかった。
 それでも新しい世界に辿り着いた事には心躍る。しばらく景色を眺めていると直した六分儀を思い出す。嵐の壁内ではあまりに天候が悪くて天体の確認ができなかったがここならば別だ。夜になったらすぐに位置を確認しようと長渡昴は考えた。
「天候は大丈夫そうですね」
 人妖・蘭と共に甲板に現れた玲璃は真っ先にあまよみで今後の天候を確認する。何日滞在するかはわからないが、しばらくは晴れた天気が続きそうである。
「さっそくお茶会♪ お茶会っと♪」
 白拍子はさっそく甲板にゴザを敷き始めた。そして嵐に揉まれながらもあり合わせの食材で作った煎餅や饅頭をのせた皿を並べてゆく。食べたそうな忍犬・小太郎を「メッ」と軽く叱る白拍子だ。
「何もないということはなさそうですね。おそらくこの空の向こうに‥‥」
 紅鶸は炎龍・大火の傍らで遠くに思いを馳せる。この先に何が待っているのだろうと。
「おい! 俺も!! あああああああああっ!!」
 突然、伝声管を通じて外まで響く絶叫。操縦席を離れられない興志王のものだ。はたと思い出したように何人かの開拓者が操縦室に戻って代わってあげる。
「やっほーーっ!!」
 ようやく甲板に出た興志王は何回転も跳びはねた。
 それから龍にまたがって飛翔するなどはしゃぎ続けた興志王だが、ある時を境にして行動が鈍くなる。このまま飛び続けて冒険をしたい気持ちと、鬼咲島に戻って指揮を執らなければならない責任感がせめぎ合っていた。
 ようやく興志王が出した結論は一晩をこの空域で過ごしてから戻るというものだ。当然、嵐のせいで傷んだ船体の修理もそれまでに終わらせなければならない。
「この新しい空を眺められたんだ。贅沢はいっちゃいけねぇからな」
 そう興志王は開拓者達に話しかけてからお茶会用の煎餅を頬張るのだった。

●そして
 長渡昴によって夜間に六分儀で位置が計られる。
 中型飛空船『隼』は夜明けと同時に再び嵐の壁の中へと飛び込んだ。やはり激しい嵐に襲われたものの、慣れたおかげで驚きはしなかった。
 アヤカシとの遭遇についても興志王の操縦の腕があがったせいか、それとも中型飛空船『隼』が本来の性能を発揮したせいか、振り切るのに苦労はしなかった。相変わらずの強風のせいで龍の飛行は大変だったが、それでも開拓者達はこなしてゆく。
「今度こそ天儀だな!」
 暗雲立ち込める空間に射し込む一条の光を興志王が見つける。
 まもなく中型飛空船『隼』は嵐の門を突破。鬼咲島に戻るまでもうすぐであった。