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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ※注意 このシナリオは舵天照世界の未来を扱うシナリオです。 シナリオにおける展開は実際の出来事、歴史として扱われます。 年表と違う結果に至った場合、年表を修正、或いは異説として併記されます。 参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。 このシナリオではPCの子孫やその他縁者を登場させることはできません。 天儀歴一○一六年。 朱藩の王である興志宗末はこの一年間、アーマーとも呼ばれている駆鎧の改良に心血を注いだ。彼は技術者ではないので実際の設計や組み立ては専門家が行う。そのための資金提供や方向性を定める監督の役目を担ってきた。 田畑を耕す農耕用駆鎧。掘削作業と資材運搬をこなす土木建築用駆鎧。この二種類の駆鎧を完成させるために必要な技術を模索し続けた。 これらの作業に瞬発力はいらなかった。一定の力を継続的に出せさえすればよい。その分、効率的な練力消費が求められる。 「やっとか‥‥しかしまだまだだな。始まったばかりだ」 ようやく二台の試作機が完成した。耕作用の駆鎧が鍬零号機。土木建築用の駆鎧が螺旋零号機と名づけられる。 完成したのはよいのだが動かす度に故障や破損が続いた。そこで興志王は開拓者に協力を求めることにする。 試乗してもらい、どこが悪いのか指摘してもらう。また技術がある者には開発の力を貸してもらいたい。とにかく駆鎧を完成させるための情熱を持っているのならば大歓迎だ。 「これだけで終わるつもりはねぇぜ」 依頼の際、興志王はギルドの受付係に夢を語る。この二台から得た技術を発展させて、もっと生活に役立つ駆鎧を造りたいと。 |
■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
十 砂魚(ib5408)
16歳・女・砲
アナス・ディアズイ(ib5668)
16歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ●拠点へ 精霊門で羽流阿出州を訪れた開拓者一行は宿で一晩を過ごす。 「作業用アーマーなんて、王様も面白いことを思いつきますの」 早朝、十 砂魚(ib5408)は轟龍・風月に乗って一足先に向かう。 駆鎧の開発拠点は希儀・羽流阿出州から歩いて三十分の郊外に建てられていた。三人は徒歩で向かう。 『リィムにゃん、流石に働き過ぎだと思いますにゃ』 上級からくり・ヴェローチェがリィムナ・ピサレット(ib5201)の身体を心配する。泰大学の三学科に在学中でギルドの依頼にも参加。更に駆鎧開発が加わるからだ。 「だいじょーぶ! もっと自分を鍛えたいんだ♪」 リィムナは至って前向きである。 「拠点は変わった土地にあるようですね」 アナス・ディアズイ(ib5668)がギルドからもらった地図を確かめた。開発拠点はカルデラ状に凹んだ土地の内部に記されている。 「自然の要塞を選んだわけだな」 リューリャ・ドラッケン(ia8037)が目を細めて坂道の先を眺めた。途切れている付近に樹木は殆ど生えていない。 ちなみに天妖・鶴祇はふわりとリューリャの頭上を飛んでいる。 まもなく到着。全員で興志王と顔を合わせた。 「よく集まってくれたな。ちょうどいい。まずは見てくれ」 興志王は試作駆鎧の野外実験に一行を立ち会わせる。 「巨人を小さくしたような形ですの」 「ずんぐりむっくりとしています」 椅子に腰かけた十砂魚とアナスが鍬零号機の形状を話題にした。 興志王と一行が見守る中、鍬零号機が大型の鍬で大地を耕す。約三十分後、両腕の間接部分が故障して実験は終わってしまう。 別の場所で行われた螺旋零号機の実験も見学していく。 「ドリルは強そうだけど‥‥」 「やけに重心が高いな。二本足で大丈夫なのか?」 リィムナとリューリャの心配は的中する。 両腕に取りつけられたドリルのせいで姿勢制御がおぼつかない。不整地に入ると移動速度が極端に遅くなった。練力効率化によるパワー不足の弊害である。 二機の実験を見学したところで施設の建物に移動。会議室で話し合った。 「まずは報告からだ」 リューリャは個人的に以前から動いていた。興志王から駆鎧の新規開発の構想を聞いていたからである。 一年前、ジルベリア皇帝と謁見して駆鎧技術交流を願い出ていた。皇帝に紹介してもらった機械ギルドで長期に渡って首脳部を説得。駆鎧の機密資料を手に入れている。 「これが資料。それと技術者を派遣してもらえる算段もつけてきた。だがそうするためには訊いておかなければならないことがある」 「どのようなものだ?」 リューリャの瞳を興志王が真っ直ぐに見つめた。 「ジルベリアへの対価の用意だ。希儀にジルべリアの衛星都市を作るというのもよいと思う。避寒地としても、生産拠点としてもあの儀は価値がある」 「あちらがそれを望むのならこちらも考えよう。両国の文官同士で話し合うのが一番だろうな」 本日のところはこれで終わる。一行は宛がわれた部屋でゆっくりと過ごした。 ●正式会議 そして翌日、興志王、開拓者、技術陣による会議が開かれた。 興志王主導の下、開拓者側から改良案や新規案が提示される。重複案もあったので、そこは興志王が間を取り持って修正が加えられた。 開発期間は約一年。それまでにすべての試作機を完成形にまで持っていかなくてはならない。機能を統合するかどうかは成果次第である。 練力消費の効率化については独立して研究開発が行われる運びとなった。 三週間後、ジルベリアとの交渉が成立する。新型駆鎧の技術資料と完成機体の提供で折り合いがつくのだった。 ●試行錯誤 「駆鎧って別に人型に拘る必要ないと思うんだ。だから、こういうのとかどうだろ?」 『拝見しますのにゃ』 リィムナはからくり・ヴェローチェに描き終わったばかりの絵を見せた。一枚目は耕作用駆鎧の全身図である。 『リィムにゃん、この後ろに取りつけられたのは何なのにゃ?』 「それは重量有輪犂だね。ジルベリアでは昔からこれを牛とかの家畜に引かせて地面を深くまで耕してきたんだっ。これを駆鎧に合わせたらどうかなって」 駆鎧には四つの車輪と犂が取りつけられていた。すべて車輪に置き換えるのか、足を残すのかは技術者との相談で決定する。 『思いだしたのにゃ。犂って長い鍬のような形ではないのかにゃ?』 「これは新型の犂でね。シャフトの動きが横棒に伝わるようになっているんだ。回転する横棒にはたくさんの金属棒が取りつけられていて、それが地面を耕してくれるんだっ♪」 『よく見ると操縦席がないのにゃ』 「うん。後ろから駆鎧を押すように操るんだよね」 二枚、三枚、四枚目の絵は土木建築用駆鎧だった。 『こっちはたくさんの案があるのにゃ。四本足、四車輪に‥‥この両側についてる平たい輪っかはなんなのにゃ?』 「それは複数の金属パーツを繋げたベルトを回転させることで前進後進できるんだっ。無限軌道って名前にしようかな。試してみないとわからないけど、より安定するんじゃないかって」 他にも固定用の補助支柱や操縦の簡略化による練力消費の軽減等の案が盛り込まれていた。 約一ヶ月後、技術者達の手によって耕作用駆鎧と土木建築用駆鎧の試作一号が完成する。 早く形になったのは既存の鍬零号機と螺旋零号機を流用したおかげ。ちゃんと重量有輪犂と無限軌道が取りつけられていた。 まずは耕作用駆鎧から本格的な試験が行われる。リィムナが自ら動かす。 「あれ? このままではダメかな」 目の前で金属棒が回転しているのはかなり恐かった。 カバーでも取りつけようかと考えていると金属棒が千切れて宙に飛んでいく。背筋が凍ったリィムナだ。 「形の工夫の他に冶金技術が足りないのかも」 耕作用駆鎧の試験は終了。引き続いて土木建築用駆も試す。 「こっちはいいかも♪」 動かしてみたところ不整地でもラクラクと移動できる。ところがドリルを使う段階になって止まってしまう。 検証の結果、無限軌道の練力消費が想定よりも激しいことが判明した。 二週間悩んだリィムナは更なる案をだす。 金属棒に関しては天儀刀作りに長けた武天の鍛冶屋に協力を求める。 重量有輪犂は後方ではなく胴体の真下に設計を変更した。車輪の回転も歯車で同期させて練力効率の向上に繋げる。 無限軌道は将来の研究に期待して一旦廃案にした。代わりに巨大車輪の採用と鋼板バネを採用する。ちなみに練力消費が激しくても構わないのであれば実用化可能だ。 新案が採り入れられた駆鎧は三ヶ月後に完成する。 「今度のはどちらもいいかも♪」 『リィムにゃん、さすがですにゃ♪』 どちらも想定通りの機能を発揮した。 耕作用駆鎧は効率よく地面を耕す。土木建築用駆鎧は不整地でも安定して移動が可能になっていた。 ●創意工夫 アナスは会議の三日後、技術者や興志王の前で改めて設計思想を語る。 「両方に言えることですが、私が推奨する基本概念はチェーンソーの回転構造です。ただ実現不可能な部分もありますので、複数の段階案を提示したいと考えています」 施設内の広い空間でアーマーケースからアーマー「戦狼」・轍を展開させた。乗り込んでチェーンソーを動かしてみせる。構造の説明を終えると操縦席から飛び降りた。 「耕作用駆鎧からお話しします。鍬でなく犂を取り付けて牽引する形に設定して、田畑を耕す方式ではいかがでしょうか? この場合、駆鎧に複雑な動作は要求されません。従来の牛馬の役割を駆鎧が担うやり方になります」 懐から取りだしたオルゴールの蓋を開ける。そしてドラム部分を一同に見せた。 「次案です。チェーンソーのように回転する仕組みを作り、回転して土を耕す形です。このドラムのような形状です。チェーンソー自体複雑な構造ですので、まずければ却下して下さい」 「そうだな。次案がそっちなら犂の方で煮詰めてもらえるか?」 興志王が判断する。 このときアナスは知らなかったが、次案はリィムナと同じ発想だった。アナスの耕作用駆鎧は犂を極める方向性で開発が進められることとなる。 土木建築用駆鎧に関してはドリル以外の掘削方式としてチェーンソーを推した。ただこれには興志王から難色が示される。 「前にチェーンソーで試して難しいと結論がでていてな。その代わりなんだが、穴を掘るだけが土木用じゃねぇ。木材伐採用の駆鎧を考えてはくれねぇかな?」 「わかりました。ではそちらでやってみます」 木材の伐採は平地だけと限らない。山の斜面を想定しなければならなかった。移動方法について二案考えていたアナスだが四本足を選択する。 話し合いは一旦終了。一週間かけて提案内容に大幅な手が加えられた。 最初は両腕の代わりに前足を用意して、四本足を実現しようとする。だがこれだけではチェーンソーの扱いがおろそかになってしまう。 そこで任意に切り替えられる構造を採用した。移動時にはチェーンソーが強制的に止まるようにしておく。不用意な事故を未然に防ぐ事前の策だ。 再提案から二週間後に耕作用駆鎧用の試作犂が完成する。有用性を確かめるために既存の駆鎧に取りつける外付け方式が採用されていた。 試作犂が背部に組み込まれる。動かす際には駆鎧を反らせて後方に加重をかけながら前へと進んだ。この操作が少々難しい。 「いい感じだ」 耕作の様子を眺める興志王が呟いた。試験を終えてからアナスに話しかける。 「構造が単純だからこそ安価で壊れにくく、またすぐにでも市販化ができる。一体化はすべきだが、まずはこの形状で販売しようじゃねぇか」 「わかりました。様々な駆鎧に取りつけられるように接続部分に改良を加えます」 先に外付けの犂が完成を見た。土木建築用駆鎧は試作機が形になるまで三ヶ月を要す。 「安定性はよいですね」 アナスが動かす伐採用試作駆鎧が森の斜面を登っていく。機能としては申し分なかったが問題は大きさである。 「左右に突きだした両肩の部分がなければ、もっと奥まで登れたはずです」 「移動時だけ両肩を折り畳めねぇかな?」 土木建築用駆鎧と伐採用試作駆鎧の新しい試作機が完成したのはさらに三ヶ月後のことであった。どちらも専用に作られただけあって安定性と信頼性が増している。 既存駆鎧用の外付け犂の販売もこの頃に始まるのだった。 ●日々精進 「アーマーで鍬を持って普通に耕すのは、特別な効力がない限り、効率が良いとは思えませんの。せめて志体持ちが働いた以上の成果が出ないといけませんの」 会議の四日後、十砂魚は準備した絵を見せながら興志王や技術者に改めて説明した。 最初の絵には水車式の脱穀機が描かれている。 「水車の回転動力は、なで棒によって杵の上下運動に変換されますの。これを利用するですの。アーマーを車輪式にして、耕しながら進むようにすれば良いですの」 十砂魚は強く車輪式を推していた。ある程度の加重がないと機体が浮いて地面を耕せないからだ。 「今のアーマーは足で歩く仕様ですけど、意図的に重量を増やすのなら脚部の負担を考えて、いっそ車輪式にしてしまうのが良いと思いますの」 ついでに回転機構を利用するのなら鍬よりも刃を直接つけてしまったほうがよい。そう考えていた。 「この回転部分を交換できるようにすれば、色々使い道が広がりそうですの」 「すごくいい案だが、他の開拓者も似た案を進行させている。そこでなんだが回転部分を交換するといった辺りを最初から発展させてもらねぇかな? たとえば稲や麦の収穫に使うとかさ」 「回転でそのまま取り込むと稲や麦が酷い状態になりそうですの」 「それをうまくこなす機構の開発を頼みてぇ」 十砂魚は興志王の要望を聞き入れて改良案に取りかかる。 回転方式は早々に諦めた。鎌の動きを再現する方向へと傾く。一束ずつ刈る方式、まとめて刈る方式等、考えているうちに二週間が過ぎ去った。 十砂魚はまとめて稲や麦を刈り取る方式を再提案した。 両腕は長いまっすぐなレール形状にする。両側から稲や麦を挟み込んで鋏状の鎌で刈っていく。レール形状なのは刈った稲や麦をまとめる必要があったからだ。刈った稲や麦はやさしく地面へと置かれる。束ねるなどの作業は人力で行う。 一ヶ月半後、試作機がひとまず形となった。動かしてみたものの、五分も経たずに仮想の麦わらを噛んで止まってしまう。 「なかなか難しいですの」 「これでいい。ちゃんと動いたからな。後は問題点を洗いだそう」 そこから一ヶ月間は試作機に改良を加えていく。少しずつ成功率が上がり、目処がついたところで一から作り直す。 そうやって稲・麦刈り用試作駆鎧弐号機が完成した。季節はちょうど秋頃。実際の田んぼへと出かけて本物の稲を刈ってみる。 一度だけ位置換えをやり直したものの、稲が引っかかる失敗はなかった。十人が一斉に取りかかった場合の五倍の早さで一つの田が刈り終わる。 「よくやったな」 「成功ですの!」 「専用の機体で運用した方がよさそうだな。胴体には新規の技術を導入させよう」 「少ない練力で動けば、願ったりですの」 十砂魚と興志王は刈り終わった田を眺めながら声を弾ませた。 ●悪戦苦闘 リューリャの尽力によって朱藩国とジルベリアとの技術協力は順調に進んだ。 会議から一ヶ月後、ジルベリアの機械ギルドから三名の技術者が派遣される。朱藩出身の技術者と共同で練力の効率化を主題にした研究が始まった。 試作機開発の部署とは別々だったが、情報交換は密に行われる。 リューリャもまた耕作用駆鎧と土木建築用駆鎧の開発に尽力していた。 「俺はこう考えたんだ。人間がやる場合と同じように考えるから上手く行かないのではないかと」 リューリャは駆鎧の模型を使って説明を試みた。汎用性を捨てれば両腕の構造を単純化できるので耐久力が向上する。 「耕すとは地の中の土を外に、外の土を中にすることだ。土寄せをして作物を植えやすい状況に整えるのが一般的な鍬の使い方だろう。鍬を傾けながら引き上げるとき、振動で細かく砕くようにしたらどうだろう? 高振動を起こすナイフならあるぜ?」 「なるほどな。リューリャの案は稲や麦に使うよりも、野菜畑に役立ちそうだ」 耕作用駆鎧についてはその方向性で開発を進めてくれとリューリャは興志王に頼まれた。 もう一つ、土木建築用駆鎧についてである。 「他の生き物で考えてもいいんじゃないか? 不安定な足場でも生きているもの。例えば蜘蛛型、とでもいうのだろうか? 足を多くするのもよい手だと思う。不整地だけでなく、城等も高台とかにも使えるからな。足場があるだけでも充分に役立つ」 「絶壁をよじ登ることに特化した駆鎧の脚部開発か‥‥。そりゃ面白れえな」 興志王が瞳を輝かせた。どうやら彼の心の琴線に触れたようだ。 リューリャが考える耕作用駆鎧は形にするだけなら難しくはない。一ヶ月もかからずに試験が行われた。 「一番の危惧がこれか」 難しいのは練力消費を抑えつつ鍬を振動させることである。これについてはジルベリアの技術者が協力してくれた。 非常に困難を極めたのが土木建築用駆鎧の脚部開発だ。 「まずい!」 試験に事故は付き物。脚部が折れたり、外れたりして高所から落下することもある。安全用に網が張られていても怪我は避けられない。 「本日二度目の落下か」 『これ、静かにしておれ』 額から血を流すリューリャに天妖・鶴祇が『神風恩寵』をかけてくれる。 脚部の試作数は半年後に六十を超えた。リューリャと興志王は試乗する度に問題点を技術者に報告する。 開発終盤のある日、リューリャと興志王は夕食の席を同じくした。 「俺のも含めてだが、かなり多種多様な駆鎧が完成しそうだな」 「嬉しいねぇ。新型の胴体は完成したぜ。あとは各機構を採り入れた専用機を完成させるだけだ」 「どれも技術としては完成の域だからな」 「最後の研ぎ澄まし、頼んだぜ」 ここ一年、生傷が絶えなかった二人は未来駆鎧の完成を願って酒を酌み交わすのだった。 ●開発完了 開拓者達が開発に携わるようになって一年が過ぎた。 最初は朧気だった構想が芽吹いて育ち、ついに巨大な果実を実らせる。 練力最大時、どの駆鎧を一般人が使っても約八時間の稼働が達成された。その分ゆっくりとした動きしかできなかったが、作業用としては充分である。 「どっちもあたしの自信作なんだっ♪ ね♪」 『リィムにゃんの言うとおりですにゃ♪』 リィムナ版・耕作用駆鎧肆号機は下部に備えた重量有輪犂で簡単に土を掘り返すことができる。田んぼ、またはこれまで手つかずの新規開拓地の掘り起こしに役立つ。肥料を田畑に撒いたあとで土とかき混ぜるといった応用も可能だ。 土を掘り起こす鉄棒部分は折れないように改良されていた。さらにカバーが付けられたので怪我の心配がなくなっている。 リィムナ版・土木建築用駆鎧参号機は巨体な車輪を採用したおかげで不整地を簡単に乗り越えられた。心配された揺れも改良を重ねた鋼板バネのおかげで大幅に軽減されている。 「どちらもうまくいった思います」 アナス版・伐採用駆鎧伍号機は荒れた斜面を四本足で楽々と登ることができた。移動時には両肩を折りたたんで幅を縮められる。木材伐採に特化した専用チェーンソーを使えば太い樹木でもわずかな時間で倒せた。 安全にも配慮がなされており、万が一樹木の下敷きになっても駆鎧が潰れることはない。頑丈なフレームで搭乗者の命は守られる。 アナス版・耕作用駆鎧参号機は一体化した犂が特徴だ。これはより深く大地を掘り返すときに役立つ。過程で開発された一般駆鎧用の外付け犂はすでに市販化されている。興志王の耳には好評が届いていた。 「これでかなり楽になりますの」 十砂魚は開発の労力すべてを稲・麦刈り用試作駆鎧に注いで完成させる。十砂魚版・稲麦刈用駆鎧陸号機は非常に特異な形状をしていた。 足はなくて幅広の車輪を採用。両腕はあるのだが、正面下部に取りつけられた鋏状の鎌と連動している。 長い両手で稲や麦の茎を抑え、鋏状の鎌で刈り取ることができた。ただ先鋭化した機能なので使いどころが限定される。 「こいつを個人で持つのはきついだろう。だが人手が足りない農村では役立つはずだ」 興志王は稲麦刈用駆鎧陸号機の量産版を飛空船に載せて各地を回る計画を立てた。しばらくは格安で請け負う。将来は集落や村単位で購入してもらえればと想定している。 「どちらも完璧に動作するところまで煮詰めたからな」 リューリャ版・野菜畑耕作用駆鎧捌号機は鍬を振るうことに特化していた。 特徴は振動する鍬と頑丈さだ。これを使うことで篩にかけたような土に化ける。この土で育てた野菜はとても美味しいと評判だ。 リューリャ版・垂直作業用駆鎧捌号機玖号機は、胴体から複雑な形状をした六本足が伸びている。これを使えば建物の壁や絶壁で安全に作業ができた。 崖に射出型アンカーを撃ち込んで命綱を自前で用意できるのも特徴の一つである。 「稲や麦の収穫用駆鎧の貸し出しを先行させるが、他の駆鎧もそうするつもりだ。買ってもらえるのが一番だが、まずは有用性を知ってもらわねぇとな」 興志王は駆鎧開発に携わった全員を晩餐に招待する。 それから半月後、作業用駆鎧の量産が始まった。 実りは人を幸せにする。駆鎧は今後その手伝いをすることになるだろう。 リューリャは大量の設計図と駆鎧を一両ずつ積んだ飛空船でジルベリアに帰郷。こうして約束は果たされた。 |