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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 希儀の中央に広がる地中海と外海を結ぶ運河は完成に近づいていた。 本来ならばかなりの年月がかかったはずだが、ギガを始めとした巨人達のおかげで驚異的に短い工期で済みそうである。 朱藩の王、興志宗末は密かに巨人達に頼らない工期短縮の計画を立ち上げようとしていた。これが日の目を見るのは一年後になるだろう。 「今になって判明か‥‥。迂回はできねぇのか?」 ここは希儀・羽流阿出州に建てられた興志王の仮住まい。担当者から運河建設の進捗状況を聞いた興志王がわずかに両の瞼を落とす。 「他に選べる経路は、こちらとは反対に脆い土地ばかりです。掘削後の処理に日数が非常にかかり、うまくいったとしても後の憂いに繋がります」 担当者によれば掘削しようとした崖の内部に硬い岩盤層が隠れていたという。 距離にして約三百メートル。巨人ギガが持つ掘削道具では刃が立たなかった。 すでに外海側と地中海側の水位調節設備は完成している。ここが通れば完成したも同然であった。 「検証した結果、困難ではありますが一つだけ手がありました」 「話してみろ」 「岩盤の崖に小さな穴を開けて、その奥に大量の火薬を設置します。爆発させると亀裂が入りますので、後はギガ級に全力で叩いてもらえれば砕けます」 「それを繰り返すってわけか」 火薬の手配は何とかなる。 問題は硬い岩盤層の崖に穴を開ける方法だ。実験によれば魔槍砲で削ることができたという。一点に力を集中させる方法なら他にもやりようがあるだろう。 「志体持ち‥‥ってだけじゃだめそうだな。熟練度も必要そうだ」 興志王は臣下の一人をギルドに走らせた。火薬を仕掛けるための穴作りを開拓者に依頼する。 「んじゃまあ、先に俺がやっておくとするか」 「王様、それは‥‥」 「何故に止める? こういうときにこそ力ある者の出番じゃねぇか」 「ですが」 興志王は臣下達が止めるのも聞かずに出立の準備を急がす。そして飛空船に乗り込んで現地に飛んでいく。 それから一時間後、神楽の都ギルドに依頼書が張られるのであった。 |
■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
十 砂魚(ib5408)
16歳・女・砲
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂
サエ サフラワーユ(ib9923)
15歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●興志王の奮闘 真夜中の希儀・羽流阿出州。 精霊門を通って訪れた開拓者一行は興志王臣下達に出迎えられる。その者達の案内で早速高速型飛空船へと乗り込んだ。 地中海にほど近い現場に到着するまでかなりの時間を要する。開拓者達は用意された船室で身体を休めた。 やがて朝日が昇る。そして午後三時を過ぎようとした頃。 「あ、海が見えますよ! も、もしかして希儀の大陸を横断しちゃったのかな?」 サエ サフラワーユ(ib9923)が勘違いしたのも無理はない。山向こうに見えたのは海ではなく地中海である。 事情を知らなければ誰もが外海だと勘違いするだろう。水平線が見えるほどに地中海は広かった。 「ギガとベータがいるよ! 今崖のあそこが輝いたっ! こごしーがやったのかなっ?」 『きっとそうだよ!』 踏み台に乗ったルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が船窓から地上を眺める。羽妖精・大剣豪はルゥミの頭上に浮かんでいた。 まもなく飛空船が着陸。下船した開拓者達はさっそく現場へと向かう。 「お、来たな!」 魔槍砲を肩に担ぐ興志王は泥と埃まみれ。ちょうど彼が空けた崖の穴に職人達が火薬を仕掛けていた。 「穴をあけて、そこから爆破するなんて、随分豪快な方法ですの」 十 砂魚(ib5408)が遠巻きから作業を見守る。 「かなり乱暴だがこれしかねぇからな。そろそろ終わるから、もう少し離れたほうがいいぜ」 興志王の移動に合わせて開拓者達も場所を変えた。 火薬の仕掛けが終わり、すぐに点火。取り囲むような崖面に反響して爆発音が響き渡る。穴周辺に充満した火薬の煙が風に流されると、崖面に走った亀裂が露わになった。 『任せろ、王よ』 身長十八メートルの巨人ギガとベータが崖へと近づく。 二体とも片方の拳に鋼鉄製の武具を握っている。とても不格好な形からいって急ごしらえなのがよくわかった。 二体のギガ級がしっかりと腰を落としつつ、力を込めて岩盤の崖に拳を叩きつける。先程の火薬の爆発よりも凄まじい、脳天を刺すような反響音が全員を襲う。 「すまねぇ。いっとくの忘れてた。こうしてたほうがいいぞ」 両方の耳を塞ぐ興志王が開拓者達に話しかける。当然ながらその声は誰にも聞き取れなかった。 ギガとベータがそれぞれ五回叩いたところで崖面が揺らいだ。大岩が剥がれるように大地へと崩れていく。 「大きいのはギガとベータが運んで、それ以下のは他の巨人達が片付けるってわけだ」 興志王の奮闘によってすでに四十メートルほど進んでいるという。突破すべき岩盤層は残り約二百六十メートルになっていた。 「それにしてもギガ達だけだと歯が立たねえとは‥‥厄介な岩盤だな。まあここまで来た以上は何とかするしかねえよな」 クロウ・カルガギラ(ib6817)は現場の様子を今一度確かめる。運河は大型船がすれ違えるだけの幅があるので同時に作業ができそうだ。 硬いのは地上部分だけで地面より少し下は普通の土。こちらを掘るのは以前からの方法で何とかなる。 リューリャ・ドラッケン(ia8037)が数歩前にでて崖をしっかと見据えた。 「ここが通れば本格的にこの儀は生き返る。かつてギガ達が見たであろう、人々で賑わう儀に出来るだろう。こいつは只の穴掘りじゃない。未来への続く道への穴掘りだ」 「俺も同感だぜ」 前に出た興志王の足元がふらつく。リューリャは誰にもわからないよう彼と肩を組むことで人目を誤魔化す。 ここからしばらくは開拓者達の出番。興志王は後ろに下がるのだった。 ●頑張り屋のサエ サエは服の下に隠れている興志王の怪我を見抜いていた。 「こ、興志王様。あ、あのですね。ちょっとそこに立っててもらえませんか?」 「んっ? どうかしたのか?」 あたふたしつつもサエが『治癒符』の式を打つ。すると放たれた式が興志王の服の間に忍び込んでいく。これで式が傷口に覆い被さって綺麗に治療してくれたはずである。 「よくわかったな。俺が怪我をしているのを」 「いえ、できるのはこれでぐらいなので、わたし‥‥」 「実はさっきまで結構痛かったんだぜ。やせ我慢していただけなんだ、ありがとうよ」 「そ、そんな‥‥」 興志王に感謝されたサエは俯きながら顔を真っ赤にさせた。そして興志王から逃げだすように崖へと向かった。 「えっと、まず岩に穴をあけなきゃ。わたしにできる攻撃手段っていったら‥‥‥‥」 悩みつつもサエは構えの姿勢をとる。 「え、‥‥えぇーーいっ!!」 懐から取りだした符で打ったのは『火輪』の式。火の輪が崖に当たると、小石が三つ転がり落ちた。 「う、うえぇ‥‥」 涙目になって『火輪』を打ち続けたものの、岩盤の崖にはまったく歯が立たない。意気消沈したサエは肩を落としながら興志王の元に戻って相談する。 「さっきもやってくれたように、怪我の治療はものすごく助かるぞ。この現場はどうしても怪我が絶えないからな。徹底して治してやってくれ。あとはそうだな‥‥。調理担当が少ないから、手伝ってやってくれねぇか?」 「わ、わかりました!」 サエは興志王に教えてもらった着陸中の中型飛空船へと向かう。見たこともない調理設備に驚きつつ、包丁を握って下拵えを手伝った。 火薬の爆発音が聞こえた後は駿龍に乗って現場に急行。怪我人がでたらすぐさま治療する。そしてとんぼ返りで調理を手伝うのだった。 ●十砂魚の射撃 十砂魚は轟龍・風月に乗って崖へと近づいた。そして硬いと評判の表面をつぶさに観察する。これまでも木の壁などは射撃で破壊したことはあるが、岩盤層は初めてだった。 「跳弾が恐いですの。何より普通に撃っても穴なんてあきそうもないですの」 しばし考え込んだ十砂魚は所持していた二挺の銃砲を見比べる。『マスケット「クルマルス」』と『魔槍砲「瞬輝」』だ。 「‥‥技を使えば、何とかいけるかもしれませんの」 まずはクルマルスを使って『参式強弾撃・又鬼』を試してみることした。跳弾を想定して二十メートルの距離を確保。膝射の姿勢をとる。 「いきますの‥‥」 十砂魚が練力を込めて銃弾を放つと『又鬼』によって衝撃波が生じた。弾道の近くに転がっていた小石が軽々と吹き飛んでいく。その中心を貫くようにして銃弾が岩盤層に命中する。 「ふぅ、手応えありましたの」 十砂魚の呟き通り、岩盤の一部が崩れて凹んでいた。次弾装填してもう一発。火薬が仕込める穴が空くまで計四回の射撃を要す。 「練力が大半が切れましたけど、何とかなりましたの」 立ち上がって深呼吸。念のために近づいて穴の様子を確かめる。周囲に転がっていた砕けた岩の一部をついでに拾う。ずしりと重くてどれだけの硬さなのかがよくわかった。 まもなく火薬職人達がやってくる。穴の内部に残っていた砕けた岩を取り除いてから火薬が仕掛けられていく。 「あとはお任せしましたの」 職人達にそう声をかけた十砂魚は風月に乗って後方にさがる。 仲間達の穴空けも終わり、すべての準備が整う。興志王のときは一回ずつだったが、この際まとめて点火することとなった。 「同時爆発の相乗効果で、亀裂が一気にたくさんできるかも知れねぇからな」 結果は興志王の期待通りになる。これまでよりも激しい爆発音がそれを物語った。 崖面にはそれぞれの穴が繋がるような、くっきりとした亀裂がいくつも刻まれる。ギガとベータによる殴打が加わると、豆腐のおからのようにガラガラと崩れていく。 「初めての大工事だからこそ、ケチを付けられる訳にはいきませんの」 十砂魚は次の穴を空け作業を始める前に風月に乗って岩盤の表面を観察した。 落下の危険が伴う迫りだしている岩場があれば、あらかじめギガかベータに取り除いてもらう。平面ではなく突起状ならギガ級単体でもやりようがあった。 ●大威力 「任せといてよ、こごしー! あたいと大ちゃんがでっかい穴を開けちゃうよ!」 『今回は魔槍砲でね♪』 ルゥミは自分の身長よりも長い『クラッカー大筒』を両手で持ち上げた。羽妖精・大剣豪は『相棒魔槍砲「轟雷気炎」』をブンブンと振り回す。 「頼んだぜ!」 崖へと駆けていくルゥミ達に興志王が声援を送る。 「よいしょっと♪ これなら飛空船も一撃で沈める威力だよ! 動かない岩盤なら絶対外さないしね!」 ルゥミは『クラッカー大筒』を設置する。目前の岩盤に当てるだけなので、命中率はさほど気にしなくてもよかった。 ただ『クラッカー大筒』の命中率の低さは筋金入りだ。仲間の元へ砲弾が飛んでいかないよう良さげな岩に載せて縄で固定しようとする。 『ボクは先に頑張ってくるね!』 「任せたよっ!」 大剣豪はルゥミの元を離れて崖へと近づく。ちょっと悩んで十メートルの距離から撃つことにした。 『ルゥミと王様にいいとこ見せないとねっ!』 大剣豪は深紅の魔槍砲を構えて銃弾を放つ。 第一射撃、第二射撃、第三射撃。装弾し直して第四射撃目。 ここで練力が尽きかける。練力回復の薬を使おうかと考えたが、せっかくなので槍の穂先での攻撃を試す。 砲撃には及ばないがそれなりに削れた。全力で六回突いたところで充分な穴が空く。ルゥミのところへ戻ると『クラッカー大筒』の準備が終わっていた。 「大ちゃんの次はあたいの番だよっ!」 『いっけー!』 ルゥミが『クラッカー大筒』を発射。円錐形の銃身から放たれたのは『参式強弾撃・又鬼』の効果が含められた弾丸だけではなかった。光の粒と大きな音が周囲に広がる。 狙った崖面から数メートルずれていたが、それは些細な誤差に過ぎない。しばらく濛々と立ちこめる煙のせいで何も見えなくなった。 「もう大丈夫かな?」 『かな?』 口元を布で抑えながらルゥミと大剣豪が確かめに向かう。崖面には充分な穴が一撃で空いていた。 「これならこごしーに自慢できるねっ!」 『誉めてもらえるよっ!』 そして現れた火薬職人達にルゥミは手伝いをお願いする。 「あとで自分で爆薬や弾頭を作るときの参考にしたいんだ!」 火薬は金属と陶器に容れ物に納められていて指向性もたらす構造になっていた。ルゥミも火薬の設置を手伝った。 そして着火のときがくる。ルゥミと大剣豪はドキドキの気分で眺めた。爆発の最中、轟音にかき消されながらも二人は叫んだ。 「ばんざーい!」 ルゥミと大剣豪は両腕をあげて大きく跳ねる。そして興志王の手を取って踊りだすのだった。 ●全体を俯瞰 クロウも興志王と同じように魔槍砲で崖に穴を空けるつもりでいた。そこでコツのようなものがあるかどうか、作業を始める前にいくつか質問をする。 「穴の微調整をしたいときには槍の穂先で突くと何とかなるぜ。相性がいいのか、結構削れるからな。ただ怪我は覚悟すべきだ。お勧めはできねぇ」 「飛空船からではよくわからなかったからな」 納得したクロウは翔馬・プラティンへと跨がって宙に浮かぶ。真っ先に確かめたのは到達予定の崖の反対側である。 「東側に寄っていけば陥没している岩盤層の部分を経路に含むことができるな。そうすればかなり楽ができそうだ。到達の後はわずかに西側にそらしていけば、工事済みの向こう側とも繋がるだろう」 今後の進め方も含めて検討した。 「どの程度、時間がかかるかだな。その前に――」 クロウは先に効率的な削り方を模索しようとする。『魔槍砲「アールレイ」』を構えて岩盤層剥きだしの崖を睨みつけた。 「あまり近すぎると、散らばる岩盤の余波を被りそうだ」 最適な距離の割りだしは非常に難しい。ひとまず二十メートルの距離をとる。そして銃弾に『ヒートバレット』を纏わせて三連続で岩盤を削っていく。 まだ削り切れていないのはわかっていたが、プラティンに跨がって穴の様子を確かめた。 「それでも半分は削れた感じだな」 次に『戦陣「槍撃」』を使い、槍の穂先で破壊を仕掛ける。 興志王の助言通りに削れないことはない。飛び散る岩の破片が鋭利で危ないのもその通りだ。『ストライクスピア』も試してみるが、どうしても接近の危険を取り払うことはできなかった。 「長丁場だからな。遠隔攻撃に徹した方がよさそうだ」 クロウは再び距離を取り、射撃で穴を開け終える。槍の穂先での攻撃をしなければ五発から六発といったところに収まった。 次に穴を空けたときには借りた砂時計で時間を計る。 早めに削り終わったときには火薬を運ぶ役目を担う。プラティンの後ろに木箱を載せて空中を駆けた。 「あとでブラシをかけてやるし、美味しい草も食べさせてやるからな。わかった、甘藍もやろう」 不機嫌なプラティンを宥めながら、クロウは作業全体を手伝うのだった。 ●アーマーの有効性 そして夜明け リューリャが搭乗した『アーマー「戦狼」・RE:MEMBER』には特別な武器が装備されていた。 それは『ドリル』。高速回転で対象物を破壊する代物である。 「こいつはうってつけの道具になるはずだ」 アーマー・R:Mを立ち上がらせてさっそく崖へと近づいた。 リューリャの練力によって発現した『ヴォルフストラーフ』で『ドリル』が青白く輝きだす。すかさず高速回転の切っ先を硬い岩へと押し当てる。破片をまき散らしながらも、わずかな時間で穴を空けることができた。 「試したい気持ちもあるんだが‥‥やめておくか」 余裕のあるときならば『グランツ・オーバードライブ』も試すところだ。しかし充分な成果がすでに得られている。穴を四つ空けたところでドリルの使用を一時中止した。 「こいつも使っておくか」 リューリャはアーマー・R:Mのもう一つの武器である『相棒魔槍砲「ピナカ」』を使用する。穴の奥に撃ち込んでおけば岩盤に歪みが生じるのではないかと考えていた。 二回目の火薬設置が行われている間、開拓者達は興志王の元に集まる。そして作業の進め方が変更された。 一班はルゥミが担うことになった。興志王配下の志体持ちが『クラッカー大筒』を一緒に支えれば固定の必要がいらなくなる。羽妖精・大剣豪は最後の一押しに『相棒魔槍砲』を撃ち込んでもらう役目だ。 二班は十砂魚、クロウ、興志王が力を合わせて崖に穴を空ける。サエは仲間の治療担当だ。怪我が絶えない現場において重要な役目といえた。 三班はアーマー・R:Mを駆るリューリャの単独掘削である。 夕日の中、爆破が行われた。ギガとベータが崖を砕いたところで今日の作業は終了となる。 「風呂に浸かってうめぇもん食って明日への英気を養おうしゃねぇか」 興志王から風呂があると聞かされた開拓者達はこぢんまりとしたものを思い浮かべた。男女には分かれていないので、じゃんけんで決めて先に女性が利用する。 「すごい飛空船だね!」 『こんなの驚きだよ!』 ルゥミと大剣豪がはしゃいで転びかけた。 「なんだか眠く‥‥」 とても疲れたのかサエがずるずると湯船に沈んでしまう。 「だ、大丈夫ですの?」 サエを湯の中から助けたのは十砂魚だ。 女性陣が風呂からあがり、男性陣も汗を流す。 「わかっていたが王様は本当に新しいものが好きだな」 「その意欲が未来の何かに繋がるんだろうさ」 クロウとリューリャが頭の上に手ぬぐいをのせて肩まで湯船に浸かる。 「よっ!」 少し遅れて興志王も風呂場に現れた。 男性陣が風呂からあがると夕食の時間になる。 飛空船の食堂には希儀の料理がずらりと並んだ。チョウザメの肉を使ったフライ。チーズたっぷりの料理の数々。天儀料理のご飯と味噌汁もあった。 「フライにソースをかけて食べると美味しいよっ!」 『ボク、まるごと一つ食べちゃったよ』 ルゥミと大剣豪がほくほく顔で料理を頬張る。 やがて就寝の時間になった。 リューリャはベットで寝付かれず、よい寝場所がないかと野外を彷徨う。そして寝転がったのがギガの足元にあった枯れ草の山だ。 『動くときには起こそう。寒くはないのか?』 「希儀は天儀よりも温かいからな。この毛布があれば大丈夫だ」 月明かりに浮かび上がる自然の景色を眺めながら眠りに就く。リューリャが目覚めたのは夜明け寸前の時刻だ。 「風もある、太陽もある、水もあるしこうやって地面もある。なぁギガ。君達はこの世界は好きかい?」 『正直、よくはわからない。だがこれでいい。ただの塊ではつまらないからな。生まれてこそ何かがわかるというものだ』 リューリャはその通りだと笑うのだった。 ●興志王の野望 岩盤に穴を空けて火薬を仕掛け、そして爆破。亀裂が生じた岩盤の崖をギガ級が叩いて壊す。これらの作業は十日間続けられた。 想像していたよりも早めに岩盤層を取り除くことができて関係者全員が喜びに浸る。細かい調整が行われる間に五日が過ぎ去った。 ついに門が開放される日が訪れた。地中海側と外海側の両方から流されるという。 地中海側に残った開拓者達と興志王は、ギガやベータの肩や掌に乗って高見からの見物としゃれ込む。 「運河の開通が見られるとはついているな」 クロウは興味深く地中海を眺める。やがて遠方からき銅鑼の響きが耳に届く。地中海側の堰が外された合図だった。 開放されたのはわすがなはずだが流れ込む水量は凄まじい。 「まるで新たな川が生まれたようだ」 クロウの呟きを耳にした興志王が大きく頷く。 「よい見物ですの。すごい勢いですの!」 「こ、こんこんなの初めてです。すっすごいです!」 十砂魚とサエが悲鳴に似た歓声をあげる。 「こごしー、ものすごいの作ったねっ!」 「まさかこんなに早く繋がるとな。巨人達のおかげ、みんなのおかげだぜ!」 ルゥミと羽妖精・大剣豪が興志王の背中へと抱きついた。 「未来へと繋がったんだ。この水の流れは。わくわくするだろう? 歴史に名を残すとか小さい小さい、こうやって自分の手で未来の為に道を切り拓く方が何倍も楽しいさ。開拓者なんだぜ? 俺らはよ」 リューリャは心の内を言葉にする。このときの瞳の輝きはまるで少年のようであった。 興志王は帰路の飛空船内で開拓者達に新たな相談を持ちかける。 「実はな、前々から考えていたんだ。リューリャのアーマーが後押ししたのも確かなんだが――」 興志王は土木工事に特化したアーマーを開発するつもりらしい。 現在のアーマーは戦闘に特化しているので、土木作業用としては無駄が多かった。それらを取り除いてもっと効率的な機能を目指したいようだ。 「ただいろいろと問題が多くてな。準備に時間が必要だ。大体一年後ぐらいになるだろう。そのとき、また手伝ってくれたら嬉しいぜ」 未来を語る興志王は無邪気な笑顔を浮かべていた。 |