【未来】銃大好き〜興志王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/02/27 17:24



■オープニング本文

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※注意
このシナリオは舵天照世界の未来を扱うシナリオです。
シナリオにおける展開は実際の出来事、歴史として扱われます。
年表と違う結果に至った場合、年表を修正、或いは異説として併記されます。
参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。

このシナリオではPCの子孫やその他縁者を登場させることはできません。



●もふらがたり
 とある資料室――一人の青年が、過去の報告書を整理していた。
 足元には暖房器具の中で宝珠が熱を発し、もふらが丸まって暖を取っている。
 彼は眠そうな瞳をこすりながら紙資料の山をめくり、中に少しずつ目を通していく。
 そこに記されているのは、遠い昔の出来事だ。
 それはまだ嵐の壁が存在していて、儀と儀、地上と天空が隔てられていた時代の物語。アヤカシが暴れ狂い、神が世界をその手にしていた時代の終焉。神話時代が終わって訪れた、英雄時代の叙事詩。
 開拓者――その名は廃されて久しく、彼らは既に創作世界の住人であった。
「何を調べてるもふ?」
 膝の上へ顔を出してもふらが訊ねる。
 彼が資料の内容を簡単に読み上げると、もふらはそれを知っているという。
「なにせぼくは、当時その場にいたもふ!」
 そんな馬鹿なと彼は笑ったが、もふらはふふんと得意満面な笑みを浮かべ、彼の膝上へとよじ登る。
「いいもふか? 今から話すのはぼくとおまえだけの秘密もふ。実は……」
 全ては物語となって過ぎ去っていく。
 最後に今一度彼らのその後を紡ぎ、この物語を終わりとしよう。



 天儀歴一○二○年。
 朱藩の国王『興志宗末』が収集する銃砲は今も増える一方である。安州城の敷地内にある収集用の蔵は三棟目に突入していた。
「何というか、最近集めた銃はどれも似たり寄ったりだな‥‥」
 蔵三号に立ち入った興志王は飾られている銃砲を眺めながら呟く。
 この二、三年で集めた銃砲は彫金などの装飾を施したものばかり。
 当代随一のかぶき者の興志王なのでそういった方向性に凝った銃砲も気に入っている。精密な細工を眺めているだけで心躍るものがあるからだ。
 だが銃砲の本質は威力。そして機構から織りなす命中精度だと興志王は考えていた。
「そういや、これまでにいくつも銃の案を酒の肴にしてきたな。特に開拓者から」
 忙しさを言い訳にするつもりはないが、やり残したことを今になって思いだす。
「ものすごく久しぶりになるが、ここはいっちょ試作銃を開発してみるか!」
 銃砲のさらなる進化。そして収集を増やすために興志王は動きだす。良い銃がこの世になければ自分で造ればよい。そんなところである。
 以前、魔槍砲製作に協力してくれた銃砲工房『紅蓮』の鉄砲鍛冶『小槌鉄郎』は未だ健在だ。ジルベリア出身の技師『キストニア・ギミック』はあれから安州に居着いて鉄郎の娘『銀』と結婚していた。
 酒を手土産に紅蓮銃砲工房を訪ねた興志王は鉄郎に協力を願う。快諾を得るとその帰り道で開拓者ギルドに立ち寄った。
「興志王様、どのようなご用件で」
「新作銃の開発案を開拓者に頼みてぇんだ。んじゃ依頼書にでっかくよろしくな」
 興志王は椅子にも座らず受付嬢にそれだけをいって立ち去ろうとする。あっけにとられた受付嬢が、はっと我に返って急いで興志王を追いかけた。
「ま、待って下さい。さすがにそれだけではわかりませんので」
「そうか?」
 何とか受付の席に興志王を座らせた受付嬢は細かく依頼内容を聞きだす。それから一時間後、神楽の都のギルドに興志王の依頼書が張りだされるのだった。


■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
十 砂魚(ib5408
16歳・女・砲
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂


■リプレイ本文

●それぞれの希望
 深夜、開拓者一行は精霊門を通って朱藩・安州城を訪れる。用意されていた部屋に一泊して早朝に興志王と合流した。
「ふっ、元気そうねこごしー! 天才のあたいが最強の大筒を作ってあげるわ!」
「来てくれたか。この間の銃も試し撃ちさせてもらったぜ」
 ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)がバタバタと興志王に駆け寄る。
(「興志王も相変わらずだなあ。まあ俺も銃は好きだしな。新型銃と聞いてワクワクしてるぜ。気になることもないではないが‥‥」)
 クロウ・カルガギラ(ib6817)はルゥミと冗談を交わす興志王を眺めながら心の中で呟いた。
「クロウも調子よさそうだな」
「今も開拓者を続けています。私事ではいろいろありましたが――」
 クロウはジルベリア皇室に仕えている女性を伴侶に迎えていた。そのことを興志王に伝える。
「よう、リューリャ。ここんとこの調子は」
「自然体でやってるさ。銃に関しては出来るか判らねーけどな?」
 リューリャ・ドラッケン(ia8037)の惚けた物言いに興志王は大笑いした。
「よく来てくれたな。砂魚」
「興志王様からの依頼とあれば、参加しないわけにはいきませんの。半分引退したようなものですけど」
 十 砂魚(ib5408)は噂に聞いた蔵所蔵の銃コレクションを後日見学させて欲しいと頼んだ。バンバンと肩を叩きながら興志王は快諾する。
 さっそく一行は城下へ。途中で朝食をとってから銃砲工房『紅蓮』を訪ねた。
 小槌一家の『小槌鉄郎』『小槌銀』『小槌・キストニア』に出迎えられた一行は応接間に通される。そして銃砲の相談を始めた。
「俺はいつでも頼めるからな。それよりみんなの考えた銃が欲しい。リューリャから右回りで頼むわ」
 興志王が最初にリューリャを指名する。
「まずは前置きというか、懸念から話させてもらおうか。‥‥俺はね? 今後志体持ちの犯罪が増えると思っている。他者を上回る力は、容易に人を増長させる。力があれば何をしても良い、何でもできる。文句を言う奴はその力で圧してしまえばいい。そう考えて理性を捨て去ることもある。温泉宿のこともあっただろう? 銃は数少ない、持ち手の体力や腕力に依存しない武器で、女子供が護身用にも用いれるものだ。だが世の中うまくいくとは限らない。万が一も起こるだろう――」
 興志王はリューリャの話しを茶を啜りながら聞いた。一段落したところで口を開く。
「その通りだな。弱者の悲劇は避けなくちゃならねぇ。それらを防ぐためにどんな銃砲が必要だと思っているんだ?」
「ただの人が対抗できる力としての銃を作って欲しいんだ。これを見てくれ」
 リューリャは視線を送ると天妖・鶴祇が座卓の上に筒に入っていた紙を広げる。二つの図解が記されていた。
「トリモチ砲、みたいなものは難しいだろうか? 投網でもいいのだが、動きを止められる銃砲の類だな。そこまで丈夫でなくても良い。五分程度動きが止まれば安全な距離は稼げるだろう」
「なるほど。逃げる時間を稼ぐ銃ですね」
 リューリャの第一案にキストニアが興味を示す。続いて次案も説明した。
「こちらは錬力を奪う、或いは抑え込む効能のある銃弾を開発できないかと考えてな。麻酔効果や誘眠効果のある弾丸でもいい。銃身だけじゃなく、弾丸に手を加える、といった発想もありじゃないか? この図のように、空中で砕けて粉になって吸引させるとかな」
「とてもユニークですね」
 次案には銀が乗り気だった。キストニアとの結婚を機にして錬金術に興味を持ったとのことだ。
 続いては十砂魚の番である。
「私は遠くからでも正確に狙い撃てる威力と命中力を求めたいですの。志体持ちのスキルや装填機構の改良で、ある程度の連射が可能になっているとはいえ、やはり即応性に欠けるのが長銃の弱点ですの。使う者の腕次第ではありますけど、ぶれずに真っ直ぐ飛んでくれなければ、腕も何もありませんの。興志王様はどう思われますの?」
「真っ正面からの改良案だな。それと銃に脚をつければ安定するかもと前から考えていたんだが‥‥」
「脚があればより遠距離から狙えますの。相手が直ぐに反撃できないところからの攻撃が一番重要ですの。射撃の精度は確実に仕留めることにも、仕留めないことにも使えますの」
 十砂魚は前々から火薬の爆発力を無駄なく銃弾に伝えたいと考えていた。具体的には銃身内と銃弾の隙間をより少なくする方法の模索である。
「銃身が破裂する危険も上がりますし、匙加減が難しそうですの。命中性を上げるのに威力を絞っては、そもそも遠くまで弾が飛びませんし。威力と正確さを両立させなければいけませんの」
「銃弾の改良も必要だろうな。火薬とかも」
「そうですの。円柱や錐体の弾も撃ってみたいですの」
「俺も試射を手伝うぜ」
 興志王と十砂魚の話しが終わったところて鉄郎が膝を叩く。
「わかった。銃そのものは俺に任せろ。弾は銀とキストニアに頼むとするか」
 十砂魚は喜びつつ「お願いしますの」と鉄郎達に頭を下げる。
 三番目はルゥミだ。
「あたいが作るのは分厚い装甲を貫通して内部を破壊できる砲弾とそれを発射する大筒よ! 泰大学彫金学科・鍛錬学科卒の底力を見せてあげるわ!」
 ルゥミが指を弾いて鳴らすと羽妖精・大剣豪が丸めてあった紙を座卓の上に広げる。非常に精密な設計図であった。
「砲弾の仕組みはこう! 円柱形の炸薬の片側を漏斗状に抉ってへこんだ部分に同じ形状にした銅板を被せ、先端に衝撃を加えると起爆する仕掛けを入れた砲弾に入れる。へこんだ部分から先端にかけては中空よ! これを発射して目標に当るとへこんだ部分の反対側から起爆して、物凄い圧力が銅板にかかってまるで液体の噴流みたいに超高速で砲弾の先端部分から外に飛びだすのよ!」
「そりゃすげえな」
 ルゥミの説明に興志王が瞳を輝かす。
「あたいはこの現象を偶然発見してから長年研究してるの! ただちょっと行き詰まっちゃってね。そしたらこごしーがうってつけの依頼をだすんだもん!」
「おっ!」
 ルゥミが興志王の背中に抱きつく。そして鉄郎から工房の機材を自由に使ってよいとお墨付きをもらう。
 最後はクロウの番となる。
「俺が挑戦するのは、魔槍砲を馬上槍として扱えるように改良することだ。前に話したかも知れないな」
「ちゃんと覚えているぜ」
 クロウに興志王が頷いて見せた。
「これまでの魔槍砲は両手持ち仕様で騎乗して扱う際にはやり難い。ランスを参考に、長さやバランスを改良して騎乗で片手で扱えるようにしてみたい。なぜかといえば‥‥」
 クロウも用意してきた紙を座卓上に広げる。
「銃器が発達すればその火力を活かすために、こういう感じで歩兵は横列を組むようになる。その状態の歩兵を破砕する上で、軽装の騎兵で回りこんでの突撃が有効になるはずだ」
「最初の攻撃はいいとして乱戦になったら取り回しが大変そうだな」
「その通り、長い魔槍砲は乱戦には不向き。そこで副兵装としてサーベルか短銃を持つのがよいだろう」
 クロウの新魔槍砲は主にキストニアが担当することとなった。試してみたい技術があるらしい。
 どの銃砲も作り上げるには数ヶ月かかる。時にでかけることもあるが、開拓者達は紅蓮に留まって開発を手伝うのであった。

●試行錯誤
 新しい物を開発するのに必要なのは試行錯誤である。失敗する度に理由を考えて改良を加えていく。
『ルゥミ、張り切ってるね♪』
「この大筒は自信作になるからね!」
 羽妖精・大剣豪が旗代わりに大剣を振り回してルゥミに声援を贈った。
 準備が整ったところで二人は地面の穴へと身を隠す。縄を引っ張って遠くの試作大砲を発射させようとする。
 プスンと音がした後、大爆発。黒煙が立ち上って部品の雨が降り注ぐ。
 ルゥミは鉄鍋を被りながらどこがいけなかったのかを考えた。

 クロウ、キストニア、銀の三人が郊外の野原を訪れる。
「では行きますか」
 夫妻が見守る中、クロウは翔馬・プラティンに騎乗して片手で扱うことを想定した試作魔槍砲を構えた。
 藁と縄で作った仮想の騎馬に試してみる。
 砲撃は成功するが照準がブレ気味。槍の穂先での突きは魔槍砲全体が大きくしなってしまう。
「全体的に剛性が足りないような気が」
 クロウが問題点を告げる。キストニアと銀は更なる改良を約束するのだった。

 ある日、リューリャと天妖・鶴祇は古着に着替えて実験につき合う。
 銀は催眠や網の銃弾などをこれまで試してきたがすべて失敗に至る。唯一、実用になりそうなのはトリモチ式だけとなった。
「発想を変えてみました。この玉には銃弾に詰める予定の液体が入っています」
 銀が二人にやさしく玉を投げる。すぐに割れて液体がかかった。
「地面に足がくっついた感触はないな」
 失敗かと思われたが効果はすぐに現れる。人と地面をくっつけるのではなく、衣服の布地同士を合わせてしまう粘着剤であった。ズボンの両足が張りつく。着物の裾は窄まって両足に絡みついた。
「無理をして破けば真っ裸‥‥いいんじゃないか?」
『感心しておるでない!』
 リューリャが足元を見ると鶴祇が身体を後ろに反らせて雁字搦めになっていた。

「‥‥どれがよいのか、分からなくなってきましたの」
 長距離銃の製作は鉄郎だが試験担当は十砂魚である。
 毎日、庭で射撃試験の繰り返し。想像していたよりも過酷な作業が続いていた。
「よ、どうした。床に俯せで倒れてるなんて」
 興志王は毎日のように現れて試験を手作ってくれる。十砂魚はお茶を淹れて彼が持ってきた土産の饅頭を一緒に頂いた。
「銀が開発した新しい火薬、もう一度使ってみたらどうだ? これまでの火薬と調合して爆発力を調節してみるとか」
「その発想はなかったですの」
 何気ない会話で考えがまとまることもある。十砂魚は再試験をして、そこから導きだした結論を抱えて鉄郎に相談。開発を次の段階に推し進めるのだった。

●リューリャ
 一ヶ月、二ヶ月とあっという間に過ぎ去っていく。三ヶ月目の初旬、リューリャの望んだ銃が完成に至る。
「どうでしょう。最終的にこうなりました」
「この形に収まったのは必然だな」
 リューリャがキストニアから銃を受け取った。鶴祇が宙に浮かんでまじまじと見つめる。
 銃は護身用を想定して非常に小さくまとまっていた。再装填可能だが狼煙銃と似た感じで扱う。片手で安全装置が外せる構造である。
「よし、俺を撃て」
『遠慮なくやらせてもらおうかのう』
 女子供使用前提の銃なので天妖・鶴祇が試す。
 この身で効果を確かめるためにリューリャ自身が的になった。汚れても構わないよう今回も古着に着替えている。
 約二十メートル離れて鶴祇が銃爪を絞った。放たれた銃弾がすぐに破裂して液体の粒となり、それがリューリャに降りかかる。
「前より‥‥強力だ‥‥」
 二歩、三歩進んだだけでリューリャは身動きできなくなった。妙な姿勢で固まったせいで服を脱ぐこともままならない。
 無理矢理に力を込めて上半身の服を破り、自由になった両手で下半身部分の引っ付きを剥がす。ここまでかかった時間は五分余りである。
「志体持ちでもこの効果。動けるようになったとしても、こんなボロボロの格好で追いかける奴は早々いない‥‥。よい銃だ」
 リューリャは鶴祇とキストニアがいる場所へと近づく。
「何と名前をつけようか?」
「凝ってわかりにくい名前よりも機能そのものを示す方がいいだろう。前は『トリモチ砲』といったが、形からいって『トリモチ銃』でどうだ?」
 リューリャの説明にキストニアが納得する。トリモチ銃が正式名となった。
 それから数時間後、紅蓮にやってきた興志王に完成したばかりのトリモチ銃を見せる。
「素晴らしいできだぜ。全体が小さめの銃だから成人の野郎には非常に使いづらい。悪用を防ごうといった心遣いもある。‥‥なるべく安価に売りだそうか」
 興志王は試作された十挺のうち一挺を収集用にもらう。一挺は紅蓮所蔵。残り八挺はリューリャに贈られる。
「他の試作銃が完成次第、トリモチ銃の量産をしてもらいたいんだが」
 そう興志王はキストニアに依頼するのだった。

●クロウ
「銃器の発達は、砂迅騎の戦い方を時代遅れのものにしてしまうのではないか。ふとそんな懸念が頭を過ぎることがある」
 新型魔槍砲の開発が佳境を迎えた頃、クロウと興志王は安州繁華街の酒場で酌み交わす機会があった。
「ジルベリアの言葉でぶれいくするーとかいうやつだな。画期的な技術で戦いのあり方が変わるというやつだ。あまり気にするな。完全に廃れた戦術なんてねぇからな」
「どういうことだろうか?」
「今だって長銃持って狭い場所で戦ったら長所が潰されるだろ。砂迅騎の機動性と銃の破壊力を想定した場合、入り組んだ都市部での大規模戦闘では非常に有利に働くはずだ。ま、適材適所ってやつだ」
「今回の魔槍砲が完成したら、実行しようと考えてきたことがある」
「面白そうだな。聞かせてくれ」
「砂迅騎の騎乗術に砲術師の銃術、さらにジルベリア騎士の槍術を組み合わせて新たな戦技、引いては新たなクラスが創設できないかと」
「なるほど。そのための今回の馬上用の魔槍砲というわけか」
「名付けて『魔槍騎兵(ウーラン)』。それで砂迅騎の技術を少しでも長く後世に伝えることができればと思う。俺自身は砂迅騎から転職しませんがね。時代遅れと言われようと、俺は生涯砂迅騎であり続ける」
 その晩、二人とも酔いつぶれるまで呑んだという。
 一週間後、ついに片手で扱える馬上用魔槍砲の試作品が完成する。
 同時に仕上げられたのは三挺。一挺が興志王、一挺が紅蓮で所蔵、そして最後の一挺と設計図面がクロウに手渡された。
「よし、調子よさそうだな。プラティン」
 クロウはこの日のために多数の的を野原に設置済みである。翔馬・プラティンに跨がり馬上用魔槍砲を構えた。
 『イェニ・スィパーヒ』を発動させて野原を駆ける。
 まずは遠隔攻撃。射程、威力ともに以前の魔槍砲と遜色がない。半分程度の軽量化を果たした上での成果だ。
 さらに直接攻撃。走り抜けながら馬上用魔槍砲の穂先で的を次々と貫く。
 最後に分厚い鋼鉄の板を仕込んだアヤカシ型の的目がけて突き刺す。見事貫いて千切れ飛んでいった。
 クロウは手綱を引いてプラティンを停め、馬上用魔槍砲を高く掲げた。

●十砂魚
「やけに長い銃弾だな」
「これが試行錯誤の末に辿り着いた結論ですの」
 十砂魚から渡された銃弾を興志王がつぶさに眺める。薬莢と呼ばれる金属製の筒に弾頭が仕込まれていた。
 銃弾が銃身内部で発射される際、火薬の爆発によって大量のガスが発生する。そのガスが外に逃げようとする力で銃弾は飛んでいく。
 発射時、薬莢はわずかに膨張して銃身内と弾頭の隙間を埋める。結果、ガス漏れがわずかになって威力が増す。
「銃弾そのものを長くしたのは安定した軌道を得るためですの」
 実は繰り返し実験してみたところ、溝が刻まれていない銃身で撃ったほうが弾の威力は強かった。但し、命中率はさんざんな結果だったが。
 そこで溝を緩やかにして威力を損なわない程度の回転与に留める。銃弾の安定性は長くすることで補う。長くなったことでたくさんの火薬を詰め込めるようになった。
「俺も試し撃ちして構わねぇか?」
「是非にですの」
 十砂魚、興志王は小槌一家と仲間達を連れて郊外へ。百メートルの距離から的を狙う。新型長距離銃には照準器も装備されている。
 射撃後、興志王がより倍率の高い望遠鏡で確認した。二人ともそれぞれの的に命中。試しに的近くの岩を撃ってみると派手に砕け散った。
「ここから更にですの!」
「そうか。俺がいっていた三脚か」
 十砂魚が新型長距離銃に二脚を装着させる。的から離れて座射で試したところ百二十メートルまで実用になった。
「どえらい銃になりましたなあ」
「ここまでの物に仕上がっていたとは」
 製作した本人である鉄郎とキストニアがその成果に驚く。
 仕上がっていたのは三挺。十砂魚、興志王、紅蓮所蔵で分けられる。量産されても朱藩軍専用の特注品になるが、いつかは世に放たれることだろう。
 翌日、十砂魚は約束通り興志王の蔵に招かれて見学する。そして新型長距離銃が飾られる瞬間を見届けた。

●ルゥミ
 その日、興志王が紅蓮を訪れたのは宵の口であった。
「こごしー、遅かったじゃない! 待ってたんだよ!」
「お、おい?!」
 ルゥミが興志王の腕を引っ張り、羽妖精・大剣豪が背中を押す。そうやって庭まで連れて行かれる。
「じゃんじゃじゃ〜ん! ついに完成したの!」
「こりゃでけぇ!」
「でしょ! これがあれば駆鎧の装甲だって貫通して、内部を爆風で破壊できるわ! 勿論、タフなアヤカシもね!」
「聞いてはいたが‥‥小型の宝珠砲並の大きさだな」
 ルゥミが紅蓮の協力を得て完成させたのは銃砲ではなくまさに大筒だった。車輪が取りつけられており、もふらや牛馬が牽けるようになっている。
「この砲はね。大口径で宝珠砲に似ているけど練力で威力を増加させているわけじゃないから、訓練すれば一般人でも使えるの! これを村々の自警団に配備すれば大鬼にだって対抗できるわ!」
「これまでは対抗手段がないに等しいからな。以前よりもアヤカシの出現が減ったとはいえ、油断は禁物だ」
「じいちゃんの名前を取って、『ハユハ砲』って名前にしたわ!」
「いい名前じゃねぇか」
 威力を確かめたいところが今日はもう遅い。楽しみは明日にとっておかれる。
 翌日、試射のために全員で郊外へと向かう。
「これまたごつい弾だな」
「ハユハ砲専用弾だからね!」
 興志王が見守る中、ルゥミが砲弾を担いで装填させた。
『だいじょうぶだよ、ルゥミ!』
「よーし!」
 大剣豪が各部点検を終えて準備が整う。ルゥミはさっそくハユハ砲で狙いを定める。
 的にしたのは一ヶ月前に興志王が運んでおいた駆鎧の残骸だ。胸部装甲部分に破損がなかったので威力を試すにはちょうどよかった。
 ルゥミは説明しなかったが宝珠砲よりも命中精度は上のはずである。
「耳を塞いだほうがいいよ!」
 ルゥミは自家製の耳当てを被った。そしてハユハ砲の発射桿を倒す。
 凄まじい轟音と共に煙が大量発生。砲弾はまっすぐ駆鎧の残骸へ。そして胸部装甲に刺さった。同時に駆鎧の隙間から炎と煙が噴き上がる。
『すごいねルゥミ!』
「えへへっ!」
 ルゥミが作ったハユハ砲は彼女の狙い通りに完成した。興志王はその光景を眺めてしばし言葉を失う。
「‥‥砲弾の配給制限は必要だな。だが量産の暁には必ず町や村に設置させよう。絶対にそうする。約束だ。こいつは俺の蔵で預かるけどいいか?」
「元々そのつもりだからね! こごしー、大切にしてね!」
 興志王はルゥミを抱き上げて肩車し、完全に破壊された駆鎧の残骸を長く眺め続けた。

●そして
 すべての銃砲が完成する数日前から紅蓮の庭にある桜の木が花を咲かせていた。
 滞在の最終日、関わった全員で花見を楽しむ。美味しい料理を食べて酒を酌み交わす。
「朱藩の空は今日も晴れ渡っているな」
 興志王は春の青空を仰いでそう呟いた。