【祭強】ギガ弱点〜興志王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/02/12 00:36



■オープニング本文

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 朱藩の国王『興志宗末』が主導し、希儀の羽流阿出州に程近い海岸線から地中海に向けて大規模な運河建設工事が行われていた。
 運河の名称は『オケドリッツァ』。合成語のようである。
 工事に投入されている巨人は全長十八メートルのギガ級二体、全長八メートルのメガ級二体、全長四メートルのキロ級七体に及ぶ。四メートルよりも小型のヘクト級も二十五体投入されていた。
 人が動かす駆鎧も参加しているが昼夜問わずの作業は不可能。疲れ知らずの巨人達のおかげで作業は進んでいる。大型船がすれ違っても問題のない幅にもかかわらず、もうすぐ全長の四分の三に達しようとしていた。
 ある日、興志王と双子の妹を乗せた高速中型飛空船一隻が羽流阿出州から飛び立つ。
「ほら、もう見えてきただろ」
 三時間後、興志王が船窓の外を指さす。興志王の妹二人は船窓を覗いた後、甲板へとあがって大きく手を振った。
「ギガ、久しぶり〜♪」
「あいかわらずの力強さですわ」
 巨人ギガも深紅と真夏に気づいて作業を一時中断する。
『深紅、真夏、久しぶりだ。元気か?』
 ギガの言葉遣いは以前よりもしっかりとしていた。
 飛空船が近くに着陸。興志姉妹はギガの右掌に乗せてもらう。そして短い時間ながらギガ自ら工事の状況を説明した。
 大地を掘った際にでる大量の土砂は運河の左右に盛られて土手になる。
 運河は真っ直ぐではなく、山などの難所を避けて掘り進められてきた。時に避けられない難所もあったが、これまで幾度も越えてきたという。
 この場に駆鎧が少ないのには理由がある。
 多くの駆鎧は運河の両端となる海岸付近と地中海付近の工事を担当していた。水位差を段階的に調節するための構造が複雑なためだ。この構造を興志王から教えてもらったとき、ギガはとても感心したという。
 目ざとい耳ざといものはいるもので、運河沿いにはいくつかの集落ができつつある。今のところ工事関係者への商売を続けているようだ。
 姉妹への案内が終わったギガは同型のベータと並んで掘削作業を再開した。
「このままなら三月の下旬に地中海側と繋がるはずだ。そうしたらしばらく巨人達には休んでもらう。文化的なことを教えてやるつもりだ。運河はもう二本通すが何年か先になるだろうな。まずはオケドリッツァで運用実績を示さんとな」
 興志の兄妹達は羽流阿出州には戻らずに着陸中の飛空船で一晩を過ごした。
 そして翌日。工事現場で思いも寄らぬ事件が発生する。掘削の際に突き破った地下空洞から大量のスライム型アヤカシが出現した。
 一体一体は大して強くはなかった。しかし巨人達が踏むと足を滑らせて転んでしまう。
 興志王が魔槍砲で倒しても地下空洞から湧くように次々と現れた。
「参ったな。こりゃ」
 興志王は配下を羽流阿出州のギルドに向かわせる。大量のスライム型アヤカシを退治する依頼が急遽募集された。


■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ワイズ・ナルター(ib0991
30歳・女・魔
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
十 砂魚(ib5408
16歳・女・砲
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂


■リプレイ本文

●運河工事の現場へ
 深夜零時、開拓者一行は神楽の都を出発する。精霊門を潜り抜けて希儀羽流阿出州で飛空船に乗船。夜明け前には現地の興志兄妹達と合流を果たした。
「気をつけてくださいませ」
「兄ちゃんに開拓者のみんな、頑張ってね」
 興志姉妹の深紅と真夏を安全な場所に残し、開拓者一行と興志王が土手を登る。
「気持ち悪い音が聞こえてくるな」
 頂に着いたリューリャ・ドラッケン(ia8037)は眼下の闇に眼を凝らしてみるが何も見えない。その晩は曇り空で月明かりは望めなかった。
 スライム系アヤカシの単体は非常に弱いとはいえ、視界が確保しにくい状態で群れに呑み込まれたら面倒だ。これ以上の接近は控える。
「ちょっと待ってねぇ。よいしょっと♪」
 リィムナ・ピサレット(ib5201)は轟龍・チェンタウロの背中に登って『暗視』を発動させた。そして土手に挟まれた掘られたばかりの巨大な溝底を眺める。
 運河の水流の代わりにスライム型アヤカシが蠢いていた。多くが重なり合っているので一体の巨大スライムが大地を覆っているように見える。
 重なるスライムの一部が時折膨らんでは萎む。その周辺に地下空洞の穴があるのだろう。今も少しずつスライムが地下から這いだしているようだ。
「大量のスライム‥‥砲術士の私とは少し相性が悪いですの」
「昨日の明るいうちに少し戦ってみたんだが。普通の銃砲で倒せないわけじゃないんだが、確かに効率は悪いな」
 十 砂魚(ib5408)と興志王は銃砲での攻撃方法を模索した。必要に応じて興志王が予備の魔槍砲を十砂魚に貸すこととなる。
「スライムは厄介なんだよな」
 クロウは『バダドサイト』を自らに付与してから手にしていた松明を溝底へと放り投げた。落ちた松明がスライムに踏まれて消えるまでの間に状況を観察する。
 リィムナがいっていた通り、今もスライムは地下空洞から次々と現れ続けていた。放っておけばどれだけの被害に繋がるかわからない。
 飛空船が着陸している安全な場所まで一旦退いた。
「羽流阿出州で飛空船まで案内してくれた王様の部下に手配を頼んでおいた。今日の昼までには大量の油が届けられるはずだ」
「油でまとめて燃やしちまう作戦か。そりゃいい」
 クロウ・カルガギラ(ib6817)が興志王にスライム殲滅作戦の段取りを説明する。リューリャも加わって詳細が伝えられた。
「穴を掘っての作戦のようです。怪我をしない範囲で一緒に頑張りましょうね」
 ワイズ・ナルター(ib0991)は鋼龍・プファイルの頭を撫でる。
 プファイルは興志王が提供してくれた地中海産のチョウザメ肉を美味しそうに食べた。仲間の龍達や鷹も同様にチョウザメ肉で空腹を満たす。
 大急ぎで準備を整えてやって来たので、開拓者達のお腹も空いていた。
「食材はたくさんあるぜ。ちょっとだけ待ってな。すぐに料理人に作らせるから」
 真夜中にも関わらず料理が振る舞われる。開拓者達はチョウザメ肉ソテーのキャビア添えを頂いた後、暫し飛空船で眠ることにした。

●スライム殲滅作戦
 開拓者の多くは船外の騒がしさで目覚めた。羽流阿出州からやって来た飛空船がたくさんの油樽を運んできたのである。
 軽食を食べた後、昨晩の間にできなかった巨人達との挨拶を交わす。そして各朋友の力を借りて上空から被害の現場を確かめた。
「リィムナさんがいっていたように、運河の溝にちょうど溜まっている感じですね」
 鋼龍・プファイルを駆るワイズが手綱から片手を離して指さす。
 夜とは違って誰の目にもはっきりと状況がわかった。
 ギガとベータによれば、掘削している最中に地下空洞と繋がったという。そのせいか運河工事の先端部分に大量のスライムが溜まっている。
 大抵は溝底に留まって蠢いていたが、一部は土手をよじ登って運河の外まで到達していた。
 ちなみに土手の一部が崩れているのはギガとベータがスライムを踏んで滑って転んだ名残だ。大地の窪みが巨人による尻餅の結果だと想像すると、誰もがくすりと笑いが零れる。
「あたしは土手を登ってきた、ぬるぬるスライムを倒そうかな♪」
 リィムナは轟龍・チェンタウロを滑空させて、はぐれているスライム群の真上を通過した。
「私もそうしますの。落とし穴で燃やしたあとに生き残ったスライムも倒しますの」
 轟龍・風月を駆る十砂魚は慎重に手綱を捌く。スライム系アヤカシの殆どは酸を吐きだして攻撃を仕掛けてくるので近づきすぎないように注意する。
(「空洞に繋がっている穴そのものはそれほど大きくはなさそうだ‥‥」)
 クロウは安定して飛ぶように翔馬・プラティンへ声をかけてから『バダドサイト』を使った。
 湧きでるように現れ続けているスライムの重なりのせいで地下空洞に繋がる穴は目視しにくい。だが稀にうねりが起こって全体が垣間見える。それを見逃さず状態を把握。クロウはいびつながら直径十メートル前後の穴だと断定した。
「運河の中に更に深い穴を掘ればよさそうだな。おーい、ギガ。ちょっと手伝ってくれ」
 リューリャは輝鷹・光鷹と『大空の翼』で同化しながら飛んでいる。反転して巨人ギガへと近づく。
『どうした、リューリャ殿』
「あのねばねばぬるぬるを埋めて燃やそうと思ってな。そのための穴を掘ってくれないか?」
 承諾したギガはベータにも手伝わせて落とし穴を掘り始める。ギガ級専用の巨大な掘削道具が振り下ろされると大地が震えた。
 翔馬・プラティンで宙を駆けるクロウがギガの近く通り過ぎる。
「ギガ、穴掘りだが俺からも宜しく頼むぜ」
『わかった、クロウ殿。任せてくれ。惚れ惚れするような落とし穴を用意しよう』
「それはいいな」
 ギガに軽く手を振ったクロウはプラティンの後部に積んでいた油樽の栓を抜いた。
「なるべく岩肌部分にかけようか。その方が滑りやすいだろう。いざとなれば燃やせばいい」
 そして土手の両側に油を撒いていく。これ以上、スライムが運河の溝から逃げださないようにと。
 ワイズは鋼龍・プファイルを急降下させて超低空を飛ぶ。
「夏にはものすごかったんでてしょうね。あの茂みをお願いします」
 プファイルが枯れた茂みを両の足爪でしっかりと掴んで翼を羽ばたかせる。次に掘っている最中の落とし穴へと近づいた。
「ギガさん、枯れ草の上には土を被せないでくださいね。それと最後、できあがった穴に落としてもらえるでしょうか?」
『わかった。避けておこう。それに落としておこう』
 プファイルが掴んでいた茂みを離して地面に落とす。それを繰り返し、落とし穴周辺に嵩のある枯れ草の塊を集めていった。
 リューリャは蠢き重なるスライムの群れと、ギガとベータが穴掘りをしている中間の溝底に立つ。
「ギガとベータが頑張っているんだ。俺は押し戻しに専念しようか」
 輝鷹・光鷹と同化中のリューリャが使ったのは『鷹睨』。
 その眼光に戦慄した多くのスライムの動きが緩慢になる。繰り返すうちに尻込みするスライムと落とし穴の方向へでようとするスライムとの間でせめぎ合いが発生した。
「溝の東側の方が溢れたスライムが多いような気がしますの」
 轟龍・風月に乗って偵察を終えた十砂魚が興志王に報告する。
「んじゃまあ、俺と砂魚殿は東側をやるか。リィムナ殿には西側を頼めるか?」
「わかったっ。西側はあたしとチェン太に任せてね♪」
 興志王が振り返りながら言葉をかけると、リィムナは元気に飛び立っていく。
 十砂魚と興志王もそれぞれ龍の背に乗ってスライム退治を開始する。
「見晴らしのよい地形でよかったですの」
 十砂魚は『マスケット「クルマルス」』で順にスライムを狙う。的を決めて銃爪を絞り込んだ。
 銃弾が命中する度に千切れたスライムが周囲へと飛び散る。その様は状況が判別しやすくてとても助かった。但し、近接戦闘ならばスライムに対してそうは思わなかっただろう。酸が飛び散る悲惨な状況が脳裏に浮かぶ。
「後で広範囲に渡って部下に捜索させるから心配しないでいい。中には小せぇスライムもいるかも知れねぇしな」
 興志王はまとまって蠢くスライムの塊に向けて魔槍砲の炎を浴びせかけた。
「それじゃ、チェン太。あまり高度を下げすぎないように気をつけてね」
 リィムナは周辺すべてのスライムに歌声で奏でる『魂よ原初に還れ』を聞かせた。苦しむように蠢きながらスライムが次々と瘴気に還っていく。
 漂う黒き瘴気の塵を『瘴気回収』で吸い込み練力の回復をはかる。わずかな時間で溝底から土手を登ってきた西側スライムを倒しきった。少しでも後の退治が楽になるようにと溝底のスライムにも『魂よ原初に還れ』を浴びせかけていく。
『落とし穴、完成した。枯れ草も落とした』
 まもなくギガの声が辺り一面に響き渡る。わずかな間に直径二十メートル、深さ十五メートルの落とし穴が完成した。
「油樽はすでに積んであるからな」
 クロウは翔馬・プラティンで落とし穴の底へ油を撒いていく。
 リューリャ、リィムナ、十砂魚、興志王がスライムの侵攻を抑えているうちに、落とし穴は油まみれとなる。
「落とし穴の準備整いました。いつでもいけます」
 ワイズがプファイルを駆って落とし穴の準備が整ったことを交戦中の仲間達に伝えた。
 リューリャとリィムナは落とし穴へスライムを追い込むために反対側の上空へ。十砂魚と興志王は土手の上から這い上がろうとする単体スライムを魔槍砲で叩き落とし続ける。
「スライムが落ちだしたな」
 クロウはギガの側で状況を判断した。
「次々とドロドロが溜まっていくような‥‥何だか変な気分になります」
 ワイズはプファイルで高度をとって全体を監視する。突発的な異変が起きた場合に危険を知らせる役目を担う。
 最初のスライムが穴に落ちてから三十分が過ぎ去る。
「よし。ギガ、ここにある樽すべてを頼む。なるべく全体に行き渡るのが理想だ」
『わかった。必ず壊れるように山なりに投げていこう』
 ギガはクロウの指示で油樽を摘まんで落とし穴の中に投げ込んでいった。穴底に落ちた樽が壊れて散らばった油がスライムに絡まっていく。
「‥‥よし。頃合いだな。派手に行こうぜっ!」
 興志王が懐から取りだした狼煙銃を空に向けて撃つ。一筋の赤い煙が輝きを纏いながら天に昇る。
「確か‥‥最初は氷ではなく炎がよいといっていたはずです。ブリザーストームはとっておきましょうか」
 上空のワイズは興志王に『ファイヤーボール』を頼まれていた。眼下の巨大落とし穴を見つめながら呪文詠唱。宙に発生した真っ赤な火球を真下に飛ばす。
 大地へと吸い込まれた火球は炸裂して一部のスライムを散り散りに。さらに撒かれていた油に引火して穴底全体へと炎が広がった。
 濛々と落とし穴から立ちのぼる煙。炎が消えるまでの二十分程度かかったものの、地下空洞から這いだしてきた大多数のスライムがこれで瘴気に還元する。
「まだチョロチョロといるんじゃないかな。確かめたほうがよさそうだし‥‥ギガ、頼めるかな?」
「俺も行こう。乗せてくれ」
 リィムナとクロウは地面に下ろされたギガの右掌に乗り込んだ。そのまま地下空洞の穴へと近づけてもらって内部を覗く。
 リィムナによる『暗視』と、クロウによる『バダドサイト』で地下空洞内の検分が行われた。
 長さ十五メートル前後の三本の鍾乳洞の柱のようなものを伝って地上に這いでているようだ。未だ百数十のスライムが地下空洞内に留まっていた。
「そろそろ追い込みだな」
 興志王の指示で全員が地下空洞に繋がる穴を囲むようにして並んだ。
「あと三樽、これで全部だ」
 クロウが栓を開けた油樽を地面に転がす。
 残っていた油をすべて地下空洞内へと流し込み、ワイズが『ファイヤーボール』での攻撃ついでに点火させる。
 地下空洞内が炎に包まれた。これで誰の目にもはっきりと内部が見えるようになる。
「たくさんのスライムも、これでお終いですの!」
「まったく人騒がせなアヤカシだぜ! これはギガの苦労、次はベータの分だっ!」
 十砂魚と興志王はこれでもかと銃弾を撃ち続けた。炎から逃れようとしているスライムを狙い撃つ。
「これ以上、這い上がらせるつもりはない。そのまま地下にいるんだな」
 リューリャはスライムをまとめて『鷹睨』で睨みつける。登ろうと柱に張りついていたスライムが剥がれて地下空洞の炎の中へと落ちていく。
「これで締めだな。想像していたよりも早く終わりそうでよかった」
 クロウは『魔槍砲「アールレイ」』でスライムを撃ち抜いた。集団のスライムを狙うときには『ヒートバレット』で熱気を浴びせかける。
(「無理しないで追い込めてよかった。チュン太もたくさん飛んで頑張ってくれたからあとで誉めてあげようっと♪」)
 リィムナは『魂よ原初に還れ』と『瘴気回収』の繰り返しでスライムを倒し続けた。この状況下で瘴気に不自由することはない。全力でスライムを塵にする。
「プファイル、もう少し離れていたほうがいいですよ。‥‥これで止めです」
 終盤、ワイズが渾身の詠唱で『ブリザーストーム』を叩き込んだ。『霊杖「カドゥケウス」』の先端から巻き起こる吹雪が地下空洞内で猛威を振るう。鎮火だけでは済まずに一気に周囲が凍りついた。スライムがボロボロと崩れてから瘴気の塵へと還る。
 何人かの開拓者が地下空洞内を偵察してスライムの殲滅を確認した。
 その後、地下空洞はギガとベータによって完全に埋め立てられる。同様に落とし穴も多量の土砂で塞がれるのだった。

●安らぎのひととき
 当然ながらスライム退治が終わっても現場に静けさが戻ることはなかった。ギガを中心とした巨人達による運河工事が再開される。
 それでも日が暮れる頃には工事の音は止んだ。特別な事情がない限り、夜間の作業を興志王が禁止していたからである。疲れ知らずの巨人にも休憩は必要だと。身体は丈夫でも心は違うといった考えからだ。
「さあ、じゃんじゃん食べてくれ!」
 興志王が野外に用意された食卓に開拓者達を招いた。一同は今日一日の出来事を話題にしながら料理を食べ進める。
「みんな食べて食べて! この海鮮パスタ、特に美味しいよ♪ 実はあたしも手伝ったんだ♪」
「遠くから見させて頂きましたが、みなさん本当にお強いですわ」
 真夏と深紅も大事になる前に解決したことを喜んでいた。
「ギガ達用の装備があれば今回、楽だったかもね。滑り止めのスパイク靴あれば転ばずにスライム踏み潰せたし。ギガ達サイズの魔槍砲あれば一気にどかーんできたかも♪ ギガ達に練力がない場合は他の志体持ちや相棒達が練力供給源になればいいし♪」
 リィムナが岩塩包み焼きのフォークとナイフで肉塊を頬張る。それを聞いた興志王は高笑いをした。
「巨人用のスパイク靴はすぐにでもできそうだな。滑る地形は他にもあるだろうし、あれば便利そうだ。さすがにギガ用の魔槍砲は大変だが‥‥、宝珠砲の改良でどうにかできるかもな。それに駆鎧と同じように作業現場でも役に立つかも知れねぇ」
「あたしってこの『斥候改』みたいに宝珠を使った装備の開発してるんだけど、相棒の練力を使用して開拓者が撃つタイプの魔槍砲のアイデアを練ってたんだよね」
 興志王とリィムナの間で会話の花が咲いた。
「お疲れ様。ありがとうね」
 ワイズは傍らに鋼龍・プファイルを座らせている。なでなでしてあげながら獣肉に魚肉などを食べさせてあげた。
「この周辺にはまだ地下空洞があってスライムがいるかも知れませんの。今後もこの辺りの工事には注意が必要そうですの」
「それはいえるな。瘴気探知の術や備品で事前に調べておいた方がよさそうだな。地下に閉じ込められている状態がわかっていりゃ、志体持ちじゃなくても何とかなるだろうからな」
 興志王は十砂魚の意見を心に留めて配下に実行させた。後日、二回似たような状況に遭遇するのだが、事前に察知できたことで速やかな対処で穏便に済ませられる。
「それにしてもギガはすごいな。穴を埋めるのもあっという間だった。これで滅多に夜も作業していないんだからな」
「人だけでこの運河工事をやったとすれば、どれだけの工期と労力がかかったことか。現状よりも超効率的な駆鎧があれば変わってくるんだろうが、そんなのは夢物語だ‥‥いや、待てよ‥‥」
 クロウと話している間に興志王は何かを思いついたようである。
 夕食の後、リューリャは休憩中のギガの元を訪ねた。
『酒か。少しもらおうか』
「まさかいける口とはな」
『興志王と一晩、飲み明かしたことあるのだ』
「あの王様らしいな」
 リューリャはギガの肩に腰かける。そして時折、味覚用の開閉口へと酒を注いだ。
 寒空に浮かぶ月を眺めながらリューリャが語る。
「所詮、俺らは人間でしかないんだからよ。五十年もしたら土に還る程度さ? 長く在れるギガ、君は人の良い所を学んで未来の子達の為に生かして欲しいと思うよ」
『‥‥そうか。皆と暮らせる時間は永遠ではないのだな。私自身がそうなのでわかっていてもつい勘違いをしてしまう。大切に過ごしていかねばな』
 リューリャは夜遅くまでギガと酒を愉しんだという。

●そして
 開拓者達は興志兄妹達と共に羽流阿出州へと戻った。
 数日間、豪華な持て成しを受けたので身体はすべて元通りである。まるで羽流阿出州に来た理由が観光だったかような気分で帰路に就いた。
 運河工事は更なるペースで進められる。
 二月の後半には外海側と地中海側の両方の水位調節設備が完成。残る未完成水路はわずかであった。