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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 希儀の羽流阿出州に不穏な噂が流される。 それは全長十八メートルに及ぶ巨人ギガに希儀の人々の魂が宿っているというもの。今は復活させてもらった興志王に従順だが奪還の機会を虎視眈々と狙っているといった内容だった。 当初は聞き流していた興志王もあまりの酷さに腰を上げる。 新興のかわら版『真実眼屋』が噂の根源なのは事前に判明していた。 開拓者達に依頼し、資金を供給していたのが朱藩安州の土木請負業者の『石塔屋』であることが新たにわかる。余談だが羽流阿出州にも支社が存在した。 石塔屋は悪い噂が絶えない業者である。表の顔として修復を生業としているが、裏では盗掘が本業といわれていた。 羽流阿出州のすぐ近くにある古代遺跡の発掘調査、修復などの選定から外されたのを根に持ったようだ。真実眼屋が興されたのもその直後である。 開拓者に依頼する以前、興志王からの調査の任を帯びた『弥之助』と『博座』が行方不明になっていた。 博座が幽閉前に負わされた怪我でこの世から去った。その後、弥之助は自力で脱出に成功する。 羽流阿出州近郊には地下遺跡を改造した真実眼屋の隠れ家が存在していた。 興志王と開拓者達は踏み込んだものの、もぬけの殻。博座の遺体と破損激しい巨人の部位が発見される。 同じ頃、羽流阿出州の真実眼屋が襲撃される事件が発生する。四メートル級の巨人二体によって建物が完全に破壊されたのである。 それからすぐに真実眼屋はかわら版を無料配布した。巨人ギガが仲間に真実眼屋の建物を襲わせたに違いないと叫びながら。 自作自演。 真実眼屋がやった悪事はまさにこれである。 但し現状で確たる証拠はなかった。現状で奉行所などの官憲を動かした場合、世間は完全に巨人ギガを敵と見做す。そう興志王は考えていた。 (「先手を打たれるとは、俺も焼きが回ったぜ」) 羽流阿出州の海岸に座る巨人ギガの膝から興志王は釣り糸を垂れる。 真実眼屋の噂に惑わされていない民も多い。巨人ギガはこれまで羽流阿出州を救ってきたのは事実なのだから。 (「正面から叩けねぇとするならば、残るは搦め手か」) 興志王は作戦を練った上で開拓者ギルドに協力を求める。 羽流阿出州から数十キロメートル離れたところに発見されたばかりの地下古代遺跡がある。この遺跡探索に真実眼屋の母体である石塔屋を誘い込もうとする作戦だ。 わざと石塔屋の関係者に遺跡探索の優先権を与える。同時に開拓者一行にも同等の権利を与えて地下に潜ってもらう。 見張られている状況で盗掘はしないだろう。しかし後日、行動に移すのは間違いない。盗掘の現場を抑えて石塔屋をがさ入れする大義名分を得ようという作戦であった。 (「まるで悪党のやり方だな」) 捉え方によっては卑怯な手だと興志王は理解している。しかしこれ以上、巨人ギガに批判が及ぶのは避けたい。それに亡くなった博座の無念を早く晴らしてあげたかった。 興志王は鬼神となる覚悟を決めた。 |
■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
十 砂魚(ib5408)
16歳・女・砲
七塚 はふり(ic0500)
12歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●集合 ここは羽流阿出州から数十キロメートル離れた地。 朱藩国の警備兵達が守っていたのは石で組まれた社である。それは未探索の地下遺跡への出入り口だった。 ある日の早朝、二隻の飛空船が社周辺に着陸する。先に降りた飛空船からは開拓者一行が下船した。 もう一隻は古物鑑定の『為人屋』が所有する飛空船だ。表向きは無関係を装っていたが、実は石塔屋と密接な関係があった。 興志王は騙されたふりをしてこの業者をわざと選んでいる。 両飛空船の一同は地下遺跡へ潜る前に挨拶を交わす。 「なああんた、そっちの頭だよな。ちょっと話しがあるんだが、いいかい?」 「用があるのなら早めにな。そっちも忙しいだろう」 竜哉(ia8037)は目つきの鋭い為人屋の頭に近づいて相談を持ちかける。 「何分‥‥こっちの人員見て判るだろ? あの趣味人王が報酬ケチったせいかはしらねぇが調査の意味を判ってるのかすら不安な子供さえ居てな」 小声で話す竜哉が指さしたのはリィムナ・ピサレット(ib5201)だ。為人屋の恰幅のよい調査員にまとわりついていた。 「ねーねーおじさん、どんなお宝があるかな〜? 知ってる?」 「当然知らない。ていうか、それを調べるために潜るんじゃないのか?」 「え、そうか。いわれてみればその通りだね。でもいいや。ほら可愛いでしょ、うちのサジ太だよ♪」 「ああ、かわいい‥‥な。ほんとかわいいよ」 恰幅のよい調査員が投げやりな態度でリィムナの相手をしている。 「飛空船の中でもあんな感じでな。調査を遊びかなにかと間違えているんだ。満足な調査ができるか不安で仕方ない。すまないが手を貸してくれないか?」 「頭といっても会社の命令には逆らえん。独自にやれといわれているんだ。ただ個人的にというのであれば吝かではない」 竜哉は為人屋の頭と協定を結ぶことに成功する。 七塚 はふり(ic0500)はブロンド髪の女性調査員に声をかけた。片手に真実眼屋のかわら版を握りしめながら。 「おつであります。少しよろしいですか?」 「私に用かしら?」 「実はいろいろと困っていまして、不躾ながら探索に詳しい方からお話が聞けたらなと思う次第でありまして‥‥ご迷惑でありますか?」 「まあ、袖ふれあうのも何とやらっていうしね。具体的にはどのような感じ?」 七塚は最初に希儀の事情がさっぱりわからなくて困っていると愚痴をこぼす。気楽に仕事を引き受けたのだが今は不安でいっぱいだと。 「依頼人と面識がないのも要因の一つなのであります。それと黄金なら自分でも価値はわかりますが、古物となるとさっぱりなので‥‥教えて頂けると助かるのであります」 「鑑定、ねえ」 七塚は金髪女性調査員から鑑定の協力を得ることに成功する。 フィーネ・オレアリス(ib0409)は忍犬・シュロの首に袋をぶら下げた。中身は装飾品の類いである。 (「ギガ様が無実の罪を着せられる前に何とかしなければなりませんね」) フィーネは興志王から借りたこれら装飾品をシュロにこっそりと仕掛けてもらい、囮として使うつもりでいた。 十 砂魚(ib5408)は隣でおとなしくしていた轟龍・風月に話しかける。 「奥が狭いと大変なので残って欲しいですの」 主人のいうことを聞いた風月が木陰で昼寝を始めた。 (「まさかあのような手を使ってくるなんて。迂闊でしたの」) 十砂魚があのようなと表現したのは、ギガ以外の巨人の存在である。 (「これ以上、遅れを取るわけにはいきませんの。叩けば、何かしら動く筈。でも、博打ですの」) 身体は動かさず、目だけを動かして為人屋の面々を観察する。同じ五人体制だが朋友がいる分、こちらの方が有利であった。 開拓者班と為人屋班、双方の準備が整う。 警備兵によって社の石扉が開かれる。たいまつを片手に遺跡調査が開始された。 ●七塚 遺跡に潜った七塚は金髪女性調査員の後をついていった。そして金銭的価値がなさそうな物品に絞って質問をする。 「この豊満な女性の像はどのようなものでありますか?」 「豊穣の女神を象ったものでしょうね。祀られていたんじゃないかしら」 黄金や宝石が填められた高価な装飾品や、好事家が欲しがりそうな綺麗な模様の石版などには無関心を装う。 「歴史的価値はあっても金銭的価値はあまりないでしょうね」 「なるほど。本職はさすがなのであります」 七塚は感心した素振りで女性像をまじまじと眺める。その背後で金髪女性調査員が他の像に填められていた宝石をくすねた。 それに気づいていた七塚だが今しばらく泳がせる。 「収穫なし。退屈であります」 休憩がてら昼食をとった。七塚はお弁当を食べながら真実眼屋のかわら版に目を通す。 「この巨人に関する記事は本当なのでしょうか。気になるのであります」 黙々と読みふける七塚。 ようやくしつこい相手から解放されたと金髪女性調査員はこれまでに目にした中で価値がありそうな小物を集めようとする。 七塚が側にいる状態で欲しかったすべてを浚うのはさすがに難しかったからだ。 ボンクラを演じていたからくり・マルフタがこっそりと金髪女性調査員の後をつける。 「どこにいっていたのでありますが。お弁当、ここに置いてあるのであります」 「あ、ありがとう。頂くわ」 戻ってきた金髪女性調査員は七塚のお弁当を頂いた。 「古物商では傷んだ貴重品の修復も行うのでしょうか?」 「そういうのは小遣い稼ぎをさせるために贋‥‥いえ修復家に頼むことが多いわね」 七塚はそれとなく為人屋の内情を聞きだそうとする。 総人数十五名。新興で羽流阿出州に出来たばかり。その他についてはのらりくらりと答えてくれない。ただ同業者について訊ねると石塔屋の話題を避ける傾向にあった。 調査が再開されて暫し後、七塚は金髪女性調査員に声をかける。 「何故、そんな石を持っていくのであります?」 七塚がここで初めて突っ込みを入れた。 「えっと。宝石には肌に当てて真贋を探るって手段があるのよ」 「そんな方法があったとは」 「ま、あまり知られていないし」 「それで先程からたくさん身につけていたのでありますね。もう充分でありますか?」 七塚にはすべてお見通しである。 金髪女性調査員は不機嫌な態度で元にあった場所に宝石などの貴重品を戻す。 『袖の下に金の指輪がありやがるでございまし。どうぞ』 これで全部と金髪女性調査員がいった後で、マルフタがまだ残っていた貴重品を指摘する。 夕方の時刻。身軽なまま地上にでた七塚と金髪女性調査員であった。 ●十砂魚 「危険な敵が隠れているかもしれませんの。私たちが、先に中を確認しますの」 十砂魚は地下遺跡に潜ってすぐに二つの班が一緒に回ることを提案する。 それでは遺跡のほんの一部しか調査できないと為人屋側が拒否をした。アヤカシの危険性を説いてもまったく聞く耳を持たなかった。 「一部の者は協力関係を結んでいるようですか、それはあくまで個人的なものです。依頼主からも一緒にやれといわれていませんしね。報告書を別々に提出する以上、独自行動が妥当でしょう」 真面目そうな眼鏡をかけた調査員が正論を並べる。 「わかったですの。それなら手分けしての調査もあきらめるということですの」 ここで引く十砂魚ではなかった。 (「先に大事な品の場所を確認してしまえば盗んでもバレバレですの」) 十砂魚は眼鏡調査員が調べようとした部屋に飛び込んだ。さっさと貴重品の目録を作ってしまい、盗める機会を潰してしまう。 眼鏡調査員は知識こそはあったが体力は人並み以下である。志体持ちの十砂魚にとっては大人が赤子の這い這いと競争するようなものだ。 「この部屋はもう調べたのですの。あれ? ここにあった宝玉が填まった像が見当たりませんの」 「あ、いや‥‥」 十砂魚は眼鏡調査員が小さな像を懐に隠したのを見破る。 「人間、魔がさすこともありますの。でも、それはダメですの」 見なかったことにすると宥めながら元あった場所に戻させた。それからは諦めたのか高価な小物に手を出すことはなくなる。 それからの眼鏡調査員は巨大な精密レリーフの石版や古代騎士の像などを重点的に調査していた。 (「後々盗みだすための調査に切り替えたようですの」) 十砂魚は遺跡内の地図を描く。それを一枚わざと忘れて眼鏡調査員の手へ渡るようにした。 「ここで調べた結果を基にして数日中には朱藩の軍が運びだすらしいですの」 十砂魚が飲み水を眼鏡調査員に分けてあげるときに罠へと誘う。 (「目の色が変わったですの。やっぱり後で盗掘するつもりですの」) 眼鏡調査員の背中を眺めながら十砂魚は心の中で呟くのだった。 ●リィムナ (「みんながんばっているね」) リィムナは超越聴覚を切らさぬようにして常に遺跡内の状況を耳で把握する。その上で恰幅のよい調査員をちょこちょこと追いかけまわした。 「これ何かの目印じゃない?」 黄色い声で呼び寄せた恰幅のよい調査員の服を引っ張る。 「遺跡が崩れてできたただの割れ目だ」 「そうなんだ。秘密の部屋に繋がっているっておもったのにな〜」 リィムナはとても残念がってみせた。それでもめげずに次を探す。 「おじさん、これすごく高いものなんじゃないかな?」 「小さくても金製品だからな」 高価そうな小物を発見したときには恰幅のよい調査員にわざとばらした。こうすることで盗みにくくしてしまう。 「おじさん、死んだパパにちょっと似てるんだ‥‥」 一緒に食事休憩をとったときに身の上話的なものをぽろりと吐露する。 「そうか。これでも食べるか? まだ手を付けていないから」 恰幅のよい男が自分の弁当の中からリィムナに秋刀魚の味醂焼きをくれた。 「ありがと、おじさん♪」 食べ終わったあとでリィムナは抱きついてみせる。 恰幅のよい調査員は物静かな男であったが、盗掘の一味であることは間違いなかった。一人で高価そうな小物を前にするとやはり目の色が変わる。 「わー! きれいきれい! すごーい!」 そういうときリィムナは猛ダッシュで近づいて気分を削いでしまう。それでも一回だけくすねようとするところを目の当たりにした。 リィムナは夜で時間を止めたうえでヴォ・ラ・ドールを使う。恰幅のよい調査員に気づかれぬまま高価そうな小物を取り返す。 (「後で同じ場所に戻しておこうっと」) 高価そうな小物はひとまず別所に隠しておく。しばらくして恰幅のよい調査員は気がついたようだがそれだけである。探さず語りもしなかった。 「これは‥‥」 恰幅のよい調査員が難しそうな顔をして巨大な石碑の前で佇んだ。たいまつで照らされた石碑には意味不明な文字の羅列が刻まれていた。 輝鷹・サジタリオが石碑に留まって小さく鳴く。 「これの意味わかる?」 「‥‥いやわからんな」 リィムナは直感した。読めるのか、もしくは解読方法を知っているのだろうと。 後日、リィムナはこの石碑を重要な遺跡物だと興志王に報告するのであった。 ●フィーネ 「この腕輪は貴重ですよね」 フィーネがある部屋で宝を見つけると痩身の女性調査員が現れた。 発見された腕輪は忍犬・シュロが先回りしてこっそりと棚に置いた装飾品である。貴重な宝石がふんだんに使われており、最上級に高価な小物だった。 「ちょっと退いて」 後から現れたというのに痩身の女性調査員は図々しい。自分からぶつかり、フィーネを弾いて退かそうとする。 「ごめんなさいね。ですが無理矢理はいけませんよ」 それに負けるフィーネではなかった。反対に石床へと倒れたのは痩身の女性調査員である。 「ふ、ふん! これぐらい協力してくれたっていいじゃない」 痩身の女性調査員の身勝手にフィーネが苦笑いする。このままでは埒があかないので、士道で懐柔しつつ罠に誘っていく。 「そういえば二つ先の部屋に宝珠らしき石がありましたね」 「は、早くいいなさいよ」 フィーネは本当と嘘を織り交ぜにしつつ、宝物庫の場所を教えた。 一個だけだが宝珠の原石はフィーネが持ち込んだものである。もう一つ、宝珠がたくさんあったような記述の偽石版を転がしておいた。 「すでに盗掘されている? いえそうは思えないわ」 痩身の女性調査員は宝珠が眠る隠し扉がないか宝物庫内を必死に探し回った。 フィーネと痩身の女性調査員がいる宝物庫は遺跡奥にあるので、地上の出入り口から辿り着くまで非常に時間がかかる。 盗掘を行う際にこの部屋まで訪れようとしたのならば一苦労。それをフィーネは狙っていた。 「こちらをどうぞ」 「揚げ物を挟んだパン? 変わった食べ物ね」 フィーネは余分に作ってきた弁当を痩身の女性調査員に振る舞う。 彼女が為人屋に勤めだしてから三ヶ月程度らしい。上に実力を認めさせたいがために焦っている素振りが見受けられた。 シュロがフィーネの元に戻ってくる。 言いつけ通り、こっそりと為人屋の職員達の臭いを一通り覚えてきた。最後に痩身の女性調査員の臭いを再確認させて終了である。 痩身の女性調査員は高価そうな小物を盗むような真似はしなかった。だがしっかりと価値のありそうな品には目を光らせる。 「まさか」 「こんなところに」 フィーネと痩身の女性調査員は最後に調査した部屋で四メートル級巨人の胴体らしき石物を発見するのであった。 ●竜哉 竜哉は為人屋の頭と行動を共にする。 「遺跡発掘もギガの怒りを買うと思うとおっかねェよなァ。ってかわら版に書いてあったぜ」 「俺も読んだ。あれは酷いな」 竜哉は仲間達の調査結果も受け取りつつ、発見された物品を帳面にまとめていく。高価そうな物からがらくたまで。見かけは一冊でも実は二冊がまとまった帳面である。 為人屋班に見せるときには表向きの帳面部分を見せて、真実の内容は裏向きに記しておく。 表向きにはわざと大事な品々を書き忘れをして不完全なものにした。ときには一つの部屋まるごとの結果を抜かしておく。 (「馬鹿の真似をするのは大変だな」) 心の中で呟きつつ竜哉は為人屋の頭の前で脳天気に振る舞った。 「何かありそうだな」 為人屋の頭が厚い石扉で封印された出入り口を発見する。人力で開けようとしたものの、びくともしなかった。 「集合をかけて全員でやれば何とかなるだろう」 「いや、ちょっと待て。この天井の高さなら大丈夫だ」 為人屋の頭を止めた竜哉は担いでいたアーマーケースを床の上に置いた。展開して中からアーマー「人狼」改・NeueSchwertを出現させる。 「こういう使い方はしたくはないんだが」 搭乗した竜哉はアダマントプレートを石扉の隙間に滑り込ませつつ開いていく。 大人が一人通れる程度まで広げたところで終了。NeueSchwertから降りて為人屋の頭よりも先に内部へと足を踏み入れた。 あまりに広い空間で二人のたいまつで照らしても全体は窺えない。 「これは」 巨人部位の石物が整理された形で保存されていた。埃こそ被っていたものの、どれも削りだしたばかりの綺麗さである。 (「あれはギガと同等の十八メートル級の部位だな」) 竜哉は一つずつ確かめる。部位はたくさんあったが、肝心と思われる頭部はここに保存されていなかった。 念入りに探してみたが頭部を見つけることは叶わずに今回の調査は終了した。 ●捕り物 調査から二日後の深夜、正体不明の飛空船が石組みの社を急襲する。 接近戦が不得手な砲術士で組織された警備兵だったので一旦現場から撤退。その間に飛空船から降りた一団は地下遺跡内部へと突入した。 遠距離同士での小競り合いが続く中、地下遺跡から次々と貴重な品々が運びだされる。それらの中には四メートル級巨人用と思しき部位も含まれていた。 「そこまでだぜ。てめぇら」 盗掘者の仮面が一発の銃弾で弾け飛ぶ。 撃ったのは興志王。仮面を剥がされたのは為人屋の頭だった。 警備兵だけでなく多数の興志王配下達が社を取り囲んでいた。 積み込み途中の盗掘者の飛空船が仲間達を見捨てて空中に浮かび上がろうとする。しかしそれは叶わなかった。 十砂魚が駆る轟龍・風月が飛空船の操船室周辺に爪を食い込ませて掴まる。 「このまま飛んだらどうなるのか、わかっていると思いますの」 クロウの背中から十砂魚が警告する。 「まったく、卑怯者はこれだからな」 アーマー・NeueSchwertで盗掘者飛空船の船倉に突入した竜哉は珍品を発見した。それは鎖で縛られて横たわる四メートル級巨人一体である。 船倉にはフィーネと忍犬・シュロも乗り込んでいた。四メートル級巨人に命令を出そうとしていた痩身の女性調査員に飛びかかってやめさせる。 フィーネはさらに盗掘者等をハーフムーンスマッシュで退かせた。 「そこまでです。これ以上やるのならば怪我ではすみませんから覚悟してくださいね」 睨みを効かせて盗掘者等の戦意を削ぐ。 飛空船の外側にいた七塚は刀を抜いて迫ろうとする黒ずくめの盗掘者に気功波を食らわせる。 「自分は怒っているであります」 別の盗掘者が銃を構えたのに気がついて瞬脚を使う。 渠に拳をめり込ませて動けなくした後で仮面を剥いだ。それは七塚が調査の際に目をつけた金髪調査員だった。 「一人だけ逃げようとしてもダメだよ。おじさん」 混乱に乗じて茂みへ逃げ込もうとした盗掘者の前にリィムナが立つ。いくら顔を隠していても体つきからして恰幅のよい調査員なのは丸わかりである。 リィムナに抵抗することなく恰幅のよい調査員は捕まる。興志王の配下へと引き渡された。 「なるほど。金目のものよりも巨人関連の物を優先して持ちだそうとしているな。それに謎の石版か」 興志王は地上にまで運ばれた遺跡の品々を詳しく確認するのであった。 ●そして 夜が明けたばかりの羽流阿出州。石塔屋と為人屋が根城としていた建物でがさ入れが行われる。資料が洗いざらい没収されて関係者は取り調べを受けた。 重視されたのは真実眼屋との関連性である。 安州にある石塔屋の本社でも行われたのだが、責任ある立場の者は全員が姿を消していた。 真実眼屋は想像していたよりもおとなしかった。 石塔屋と為人屋へのがさ入れに関する事件はかわら版にされたが、挑発するでもなくごく普通の内容だ。 また今回の地下遺跡で巨人の部位が発見された事実についてはまったく触れられていなかった。 「知らねぇはずはないんだがな。適当な理由をでっちあげて巨人を悪者にするのは奴らにとってお手の物のはずだ。なのに仕掛けてこねぇとは」 興志王の疑問はもっともである。 報告のために面会した開拓者達はいくつかの推測を興志王に話す。 そのうちの一つに現実味があった。世間を煽動するためのネタとして取っておき、ここぞというときに使うつもりなのではと。 「そうだとするならば、その前に何とかしねぇとな」 興志王は手にしていた真実眼屋のかわら版最新号を眺めながら呟いた。 その後、地下の古代遺跡に眠っていた巨人部位は優先して発掘される。それらは巨人ギガが寝床とする羽流阿出州に隣接する遺跡内へと運ばれるのであった。 |