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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀から離れた希儀には拠点といえる場所が二カ所存在する。 一つは宿泊地『明向』。そして南部の海岸に面した『羽流阿出州』だ。どちらにも精霊門は建設済みで開拓者達への便宜が図られている。 羽流阿出州は建設地近くの遺跡外縁の石壁に刻まれていた綴りから朱藩の王『興志宗末』が命名したという。当て字でありパルアディスと読む。 遺跡東側の土地にて羽流阿出州は今も発展中。遺跡を貫くように流れる川の上流に取水口を完成させて用水路で繋ぎ、羽流阿出州内には生活水が供給されていた。 興志王主導の元、遺跡内で不思議な品が発見される。 それは人型の部位であり、すべてを適切に接続すると巨人が組み上がった。 人語を話すものの、過去の記憶は一切ない。巨人は自分の名さえ知らなかった。 全長は当初十五メートルと思われたが、正確に計ると十八メートルにも及んだ。 ずんぐりとした鎧姿は天儀のそれよりもジルベリアに近い意匠だったが、より古風な印象が強かった。 興志王の意向によって巨人は遺跡中央の塔内に隠されたまま一般には秘密にされたが転機が訪れる。 ギガと名前が決まった数日後、羽流阿出州は嵐に襲われた。増水によって用水路が決壊寸前。その時、興志王と開拓者達が巨人ギガを連れて現れる。 手分けして作業に取りかかり、仕上げとしてギガが丘を切り崩す。そのおかげで水の流れは変わる。羽流阿出州は大規模浸水を免れた。 数日後、興志王は巨人ギガの存在を公にした。 とはいえ場所は羽流阿出州。噂こそ精霊門を利用する者達によって各地に広まったものの、半信半疑の者も多かった。 そこで興志王はギガを朱藩の首都、安州へと連れて行くことに。ギガを破壊兵器と畏れた朱藩氏族によって刺客が超大型飛空船『赤光』送り込まれたものの、開拓者達がこれを阻止。おまけの出来事としてギガは安州の地でお好み焼きの味を覚える。 興志王はギガを羽流阿出州に戻す際にも同行するつもりであったが、監獄島での囚人暴動の鎮圧に出向く必要に迫られた。 ギガの輸送は臣下に任せて開拓者と共に島へと潜入。苦労の末、首謀者を取り押さえるのであった。 朱藩国の興志宗末と武天国の巨勢宗禅。 互いに血気盛んで水と油に例えられやすい二人だが、公式非公式を含めて会談の回数はかなり多い。また両国で進めた事業の数もかなりにのぼった。とはいえ友好国というにはほど遠い関係である。 そのような二国だが希儀発見後、飛空船建造の協力体制をとっていた。 飛空船の建材としてありったけの木材が武天から朱藩に提供されている。天儀本島最大の国土を誇る武天には豊富な森林資源があったからだ。 しかも長年の乾燥を終えたものですぐに使える在庫が豊富。もちろん朱藩にも乾燥済み木材の蓄えはあったものの、比較にならなかった。 代わりに朱藩側は超大型飛空船『赤光』に代表される建造技術を武天に提供していた。設計士や職人を武天の造船所へと派遣した形で。 急な飛空船建造を進めれば当然のことながら将来の資材が不足する。それを補うために興志王は希儀の地において自然木の伐採に力を入れていた。 長年手つかずであった土地故に素晴らしい成長を遂げた森が多かったからだ。 もちろん注意しなければならないことはいくつかある。 開拓の土地以外には植樹を推奨。また川の源流となる山の森に手をつけるのは厳禁。そして最後にこの地の精霊との関わり合いを大切にすることだ。 「あの森の伐採は駄目だ。周辺の精霊達と約束をしているからな」 「しかし、川のおかげで丸太を運び出すのも楽でして」 森伐採の審議は臣下に任さず、興志王がすべてをとり仕切った。これについては無法が入り込む隙を生じさせたくなかったからである。 「他の森を探せ。ついでにいうが、その理由には正当性がねぇ。どのみち伐った樹木は何年も山の中で乾燥させるんだからな。それに数年も経てば今以上に大型の飛空船が増えているからなぁ。輸送の問題はなくなっているさ」 前もって達しを発布していても安易な伐採申請をする者は後を絶たなかった。当然、許可をとらない伐採の取り締まりも強化される。 興志王は空いた時間があると海岸に足を運んだ。趣味の釣りをするのではなく、全長十八メートルの巨人ギガに会うためだ。 ギガは専用の投網を作ってもらって漁の手伝いをしていた。ようは地引き網である。羽流阿出州周辺では急速な人口増加に食料供給が追いついていない現状があった。 「よう、たくさん獲れているようだな」 『王、よく来た』 漁のお裾分けを焚き火で焼いて食しつつ、ギガとお喋りをするのが興志王のささやかな楽しみである。ここのところ決めごとや事務処理で追われる日々を送っていた。 「興志王様ぁ。た、大変で御座います!」 焼けたばかりの魚を一囓りした興志王に遠くから声がかかる。 臣下の報告は興志王の表情を強ばらせた。 「火の手が森に広がっているのか」 羽流阿出州から北西遠方の森が燃えているという。 「ギガ、一緒に来てもらう。羽流阿出州の西門外の辺りで待っていてくれ」 『わかった』 ギガに指示を出した興志王は羽流阿出州内の開拓者ギルドへと駆け込んだ。 そしてその場にいた開拓者に急遽の依頼をした。森林火災を鎮めるのを手伝って欲しいと。 |
■参加者一覧
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
和奏(ia8807)
17歳・男・志
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
十 砂魚(ib5408)
16歳・女・砲
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●突然の依頼 「ギガのこと、よろしく頼むな」 「王さま、任されたぜー」 興志王は巨人ギガの肩に乗るルオウ(ia2445)に声をかけてから中型飛空船へと乗り込む。 ルオウを除く興志王と開拓者達はいち早く状況を確かめるために現地へと先乗りしようとしていた。 徒歩の巨人ギガは興志王配下で構成される二百を越える馬群と一緒に向かうこととなる。ルオウは巨人ギガの一時的なお目付役だ。 「いいなー。あたいもギガの肩に乗りたかったな」 ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)は飛空船の窓に顔をくっつけて、遠ざかるギガを眺めた。 飛空船が全速力で飛んだおかげで移動そのものは二十分足らずで終わる。夜の静かな森中の拓けた土地へと着陸する。 「あれがそうですか‥‥。水の樽を持ってきてよかったです‥‥」 飛空船を下りたばかりの和奏(ia8807)は北西の方角へと振り向く。宵の口にも関わらず空に浮かぶ雲は森林火災に照らされて真っ赤に染まっていた。 運んできた水は消火に使うのではなく自分達が飲むためのもの。今はまだ冬の寒さが身に染みるが、作業の終盤には熱さとの戦いになると考えてのことである。 「冬のせいかかなり乾燥していますね。雨がしばらく降らなかったのでしょうか?」 屈んだフィーネ・オレアリス(ib0409)が足下の落ち葉を掴んでみる。どれも少し触るだけで脆く崩れてしまった。森林火災において最悪の環境といえる。 「早期に気づけたのは不幸中の幸いです。さっさと処理をしてしまいましょう」 ジークリンデ(ib0258)はフィーネの掌に乗る粉々の枯れ葉を眺めてそう呟く。 似たことを十 砂魚(ib5408)も感じていた。 「空気も乾いてますし、これ以上広がれば大変なことになりますの」 十砂魚はランタンを手にして近くの樹木に近づいた。目測になるが幹の太さは直径一メートルを越えている。 周囲の樹木はすべてこのぐらいの太さが普通。数十年、もしかすると百年を越えて育まれた森が灰燼に帰そうとしていた。 フランヴェル・ギーベリ(ib5897)と人妖・リデル・ドラコニアは身を乗り出して渓谷の底を眺めようとする。 さすがに真っ暗で何も見えなかった。強く冷たい風が吹き上がる。風の吹き荒ぶ音の他に耳を澄ませば地響きが聞こえてきた。 『ふーん、落ちたら死ぬわね。絶対に』 「足を踏み外したら真っ逆様か。皆にも教えておかないと」 人妖・リデルが崖端で我慢できたのは五秒ほど。それ以降はフランヴェルの足にしがみつく。 『い、いいから行くわよ! ほら、みんな集まっているし』 人妖・リデルがいう通り、仲間達が興志王の周りに集まろうとしていた。小走りに近づいてフランヴェルも加わる。 地面に広げられた地図がランタンで照らされた。 「伐採しなくちゃならねぇ防火帯の列びはここからここまでだ。うまくいけばこれより東の森は燃えないで済むだろう。で、これらの樹木には俺の配下が朱色の印をつけている最中だ。それを目印にしてくれ」 興志王の説明が終わる頃、小さかった地響きがかなり大きくなっていた。 地響きの正体は巨人ギガの足音。巨人ギガは渓谷下の川を歩いてやってくる。 興志王が狼煙銃を夜空へと打ち上げて自分達の位置を知らせた。ルオウの指示で巨人ギガが渓谷の崖をよじ登る。 途中で別れた興志王配下の馬群も森の木々をすり抜けて到着するのであった。 ●伐採開始 延焼を防ぐために樹木を倒して作り上げなければならない防火帯は大まかにいって南西から北東にかけて一キロメートルに渡る。 基本は渓谷の東側に沿ってだが、途中で幅が狭まって大地が完全に繋がっていた。対策を講じなければここを中継して火災が森の東側にまで広がってしまう。 ちなみに繋がっている大地の下には洞窟があり、渓谷下の川の水はそこを流れていた。 一同は作業を開始したが、巨木生い茂る森の中を巨人ギガが移動するには時間がかかりすぎる。そこで巨人ギガは現在地からほど近い南西の端から取りかかることになった。 巨人ギガの身長は十八メートル。樹木の種類は様々だがどれも十メートル以上の高さがある。巨人ギガよりも高く伸びている樹木も珍しくはなかった。 特に巨木はギガでも単に腕や足を振り回してどうにかなる対象ではない。体格に見合う鉈や斧でもあれば別だが、そのような便利な物は遺跡の塔にも残されていなかった。 樹木の根本を叩いたり蹴ったりして倒す。そして延焼に繋がらないよう遠くへと放り投げる作業を繰り返す。 ルオウと代わって興志王配下の何名かが巨人ギガと一緒に行動する。倒すべき樹木を間違えたりしないための配慮である。 興志王と開拓者達は飛空船に再度乗り込んで北東へ移動。志体持ちの運動能力を持ってして空中から飛び降りる。 フィーネとジークリンデはケースを所持していなかったので、アーマーに搭乗して投下された。誰もが樹木の枝などを利用して無事着地を果たす。 真似のしようがない興志王配下の者達は馬の手綱を引きつつ徒歩で森の中を移動。興志王と開拓者達と再合流するには暫しの時間を要する。 「それじゃあ頼むぜ!」 興志王が速攻で開拓者達に受け持ち区間を割り当てた。 開拓者達の仕事を優先して樹木を倒すこと。倒木を運ぶのは後からやってくる興志王配下の者達の役目である。 「ヴァイス、今は休んでいてくれよなー。いざというときにがんばってもらうぜ!」 ルオウが肩に担いでいた斧を構えて大木の幹を睨む。そして激しい勢いで伐り始めた。 ルオウは森の延焼状態を上級迅鷹・ヴァイス・シュベールトに確認してもらおうと考えていた。それは移動にも使われた飛空船が担当してくれるようなので迅鷹・ヴァイスは暫しお休みである。同化についても緊急の事態までとっておかれた。 フランヴェルと人妖・リデルも担当する区間で斧を振るった。近くの二股の枝に松明を挟んで灯りとしながら。 『この私が斧を振るう事になるなんて‥‥こういうのは向いてないのよっ!』 人妖・リデルは若木を担当。小柄な身体であったが力強く斧を幹へと叩きつける。 「安全を考えると、地道に一本ずつ伐っていくしかないからね。リデルが手伝ってくれるから捗るよ♪」 『し、仕事だからよ! あんたを助けようなんて思ってないんだから!』 「はいはい‥‥」 『今、最後フフッって笑ったでしょ!』 フランヴェルと人妖・リデルは仲良く喧嘩しながら伐採を続けた。 『ううーん‥やっぱり重いわねぇっ』 人妖・リデルは若木伐採の他に吹き溜まりの枯れ葉の山を袋に詰めて東側へと捨ててくれた。延焼の要因を少しでも取り除こうと。 和奏と上級人妖・光華も協力して樹木を伐っていた。 「破壊消火の一環とはいえ、これだけの大木を適当に伐ってしまうのはちょっと惜しい気も致しますね‥‥」 和奏は一抹の後悔を感じつつも斧を振るい続ける。幹の一点に刃を当てていく。 人妖・光華は小さめの鉈で次に和奏が伐る際に邪魔になる枯れ草の茂みなどを事前に処理してくれた。おかげで和奏は木を伐る作業を滞ることなく進められる。 十砂魚は炎龍・風月と協力しながらの倒木作業である。 「この斧はよく伐れます。これなら体力の消耗も少ないはずですの」 十砂魚が使っていた斧は興志王の一声で急遽羽流阿出州中から掻き集めた中の一挺だ。伐っている途中で跳ね返ることが少なく幹にすっと刃が入る。おかげで効率よく伐採を続けられた。 炎龍・風月は駆けつけた興志王配下の者達と一緒に倒木を移動させる。 興志王配下の者達は倒木を鋸で二つか三つに伐り分けた。倒木の下に丸太棒を敷いて転がす。その際に炎龍・風月と馬達が力強く引いて動かした。 「木が倒れますの。注意して下さい!」 十砂魚は樹木を倒す際に大声で注意を促すのであった。 伐採の当初、ルゥミは『魔槍砲「翠刃」』の威力を最大限に利用する。 『ルゥミ、でかいギガを殴るんじゃなかったの?』 羽妖精・大剣豪が巨人ギガがいるはずの南西の方角を指さした。 「そうじゃないよ♪ ギガは王さまの友達なんだ♪ 一緒に森の木を切って火事を食い止めるんだ! 行くよ大ちゃん!」 『そうなんだ!』 ルゥミは樹木の列びに魔槍砲の銃口を向けた。 自然木なので綺麗に並んでいるはずもないが、大まかに三列程度を倒してしまえば目的は達せられる。そのためには『魔砲「ブレイカーレイ」』の技は非常に適していた。 「ブレイカーレイ!」 構えたルゥミの魔槍砲の先端から練力が奔流となって放出される。激しい轟音と共に範囲にあった九本の樹木が一瞬のうちに薙ぎ倒された。 『ルゥミ、だいじょうぶ?」 「へいきへいき! でもちょっと連続はたいへんかな」 幹の千切れた部分の触ってみればかなりの熱を持っている。ルゥミは羽妖精・大剣豪と一緒に木々同士が擦れた際に発火していないかを確かめた。 ルゥミは羽妖精・大剣豪と一緒に落ち葉集めもする。途中から興志王配下の者達もやって来て手伝ってくれた。 ルゥミは少しの休憩を挟みつつ『魔砲「ブレイカーレイ」』を放つ。 練力が足りないと感じたら梵露丸と節分豆で補給。ちなみに消費した分は後で興志王がこっそりと補充してくれたという。 「ふぅー」 『ルゥミ、おつかれ。はい、お水』 ルゥミが疲れて岩の上に伏せると羽妖精・大剣豪が竹の水筒を渡してくれる。 「王さまにブレイカーレイを使うって話したら、俺もそれでやるっていってたけど‥‥」 ルゥミが羽妖精・大剣豪に話している間に遠方から轟音が届いた。その方角で伐採しているのは興志王である。 「王さま、がんばっているね。よし! あたいも」 『そうだよ、ルゥミ!』 元気よく立ったルゥミは岩に立てかけてあった魔槍砲を手に取って再開する。 ジークリンデは当初、アーマー「火竜」改を使わなかった。 「速やかに一気に薙ぎ払ってしまいましょう」 少し進んでその度に使った技はトルネード・キリク。暴風の竜巻の流れに乗った真空の刃が辺りのすべてを切り裂いた。 一度のトルネード・キリクでは耐える巨木もあったが、三度目になると音を立てて倒れていく。もしもの発火に備えてブリザーストームの使用も考慮にいれていた。 残りの練力を計算しつつ、途中で『アーマー「火竜」改』に搭乗。樹木の根本へと大斧を振るう。 フィーネは伐採最初からアーマー「人狼」・ロートリッター弐に搭乗していた。 長時間の使用を考慮して効率稼動を発動。クラッシュブレードを斧代わりにして樹木の根本を削る。 程々の切れ込みが出来たら体当たりで強制的に倒す。地味な作業ながら非常に効率の良いやり方といえた。 「大分近づいてきましたね‥‥」 操縦席のフィーネは西の方角に目をやる。 作業開始より一時間強が過ぎていた。当初よりも明るくなって作業がしやすい状況だが、それは森の延焼が近づいてきた証拠でもある。 まだ熱気を感じるまでには至らなかったが、冬に感じる肌寒さではなくなっていた。 ●迫る炎 互いに協力し合い、第一次の担当区域を処理し終えた開拓者達は興志王の元へと集合する。作業開始から二時間強が経過していた。 北東端から南西に向けて三百五十メートルのところまでの十五メートル幅の樹木はすべて倒される。但し、倒木の移動処理が終わっているのは二百メートルまでだ。 南西端から始めた巨人ギガは三百メートル弱のところまで樹木を処分したとの報告が入っていた。こちらは倒した木をすべて巨人ギガが東方面に投げているので移動処理は必要なかった。念のために落ち葉や枯れ草の処理を興志王配下の者達が行っている。 興志王や開拓者達は樽の水で喉を潤す。 フィーネの判断でジャムを持ち込んでいたが、こちらはジュースなどにしている暇はなかった。 「甘いは旨いだなー」 疲れた者達は少しでも身体を回復させるためにジャムを壺から直接舐めて水で胃袋に流し込んだ。行儀が悪いのは百も承知だが今は緊急の事態。上品なことはいっていられなかった。 「これだけ火災が近づいてくると熱風が気になりますね‥。これまで大丈夫でも風向きが突然に変わって晒される危険があるかも‥」 「外見は大した火傷じゃなくても、熱い空気を吸って死んじまった火消しは多いって聞くしな」 和奏に頷いた興志王は全員に注意を呼びかける。練力の限界に達した者も多く、これから先は担当範囲を決めずに伐採することになった。 とはいえ尋常ならざる身体能力を持つ志体持ちの興志王と開拓者達。常人では考えられないほどの力強さで樹木に深く斧刃を叩き込む。 「この辺りを先にやった方がよさそうだなー」 迅鷹・ヴァイスと同化したルオウは韋駄天脚で一番火の手が近いと思われる辺りの樹木に手をつけた。 和奏とフランヴェルは一本の樹木を二人で協力して伐る。直径三メートルを超える巨木だったからだ。 「伐り倒してもそのままでは運べませんね‥」 「四つ‥‥いや五つには輪切りにしないと」 斧を振りつつ和奏とフランヴェルが言葉を交わす。しかし途中から疲れてきて口数も少なくなる。 「ここまでですね」 ジークリンデはアーマー「火竜」改から降りた。 魔法、アーマーを駆使した後は自ら握る斧のみ。迫る炎に一度目をやってから樹木の幹へと斧を振った。 「ちょっと飛んで見てきてくれるか?」 「わかったですの」 興志王と一緒に伐採していた十砂魚は頼まれて夜空を飛んだ。炎龍・風月の背中から眺めた森林火災の風景はとても美しく見え、それでいて地獄のようにも思える。 延焼の状況を確かめると地上の興志王に報告。それらの情報は興志王配下の者によって他の仲間達にも伝達された。 (「間に合うか‥‥?!」) 興志王が気にしていたのは、いつ延焼が防火帯のところまで到達するかどうかだ。すでに一時間を切っていると判断せざるを得ない状況にある。 『ルゥミ、はやく!』 「よし! 大ちゃん、行くよ!」 炎のせいで真っ赤に染まる景色の中、ルゥミと羽妖精・大剣豪は倒木を東側に移動させていた。二十メートルほど引っ張ったところで退散。熱くてルゥミは汗びっしょりである。 作業は終盤に差し掛かっていた。 「これですべて伐り終えたはずです」 アーマー操縦席内のフィーネは最後の樹木を倒す。その倒木を近くにいた巨人ギガが放り投げてくれるのを目で追いながら呟いた。 南西端から巨人ギガ。北東端から興志王と開拓者達が頑張った伐採がすべて終わった。但し、大地に転がる倒木運びはまだ残っている。 「頼んだぜ、ギガ!」 興志王が巨人ギガを見上げながら叫んだ。 倒木を取り除く作業は巨人ギガに任せられる。 その他の全員が一部の大地に残る枯れた茂みや落ち葉、枯れ枝の除去に専念した。まばらに落ちている程度なら問題ないが、まとまっていると飛び火して延焼の原因となり得るからだ。 肌が焼けるような熱気を感じながら、真っ赤に染まる世界で一同は奮闘する。 理想の対処は迫る延焼に迎え火を放ち、予め防火帯の幅を広げておくこと。しかし開始当初からその余裕はまったくなかった。 力ずくで仕上げた防火帯だけが延焼阻止の頼りとなる。 「風向きが変わったですの!」 炎龍・風月に乗って上空監視をしていた十砂魚は、興志王から借りた狼煙銃を夜空に放つ。それから数秒後、凶悪な熱風が作業現場を襲う。 しかし被害者は一人も出なかった。巨人ギガが身を挺して壁になってくれたからである。 「ありがとう、ギガ!」 『かっこいい!』 枯れ草を抱えるルゥミと羽妖精・大剣豪はギガにお礼をいって駆け足で東側へと立ち去る。作業はこれにて終了。後は一同の作業が完璧であったかどうかを祈るのみになる。 防火帯から一キロメートル離れた場所から一同は監視を続けた。 一時間が経って二時間が経過。三時間後、防火帯直前の森の炎が弱まり出す。風向きが東から西へと変わったことも相まって延焼はそこで止まる。 北西側の森が完全に鎮火するまでには丸三日を要す。南東に広がるかなりの森林部分は無事に済むのであった。 ●骨休め 大雑把に倒された防火帯の樹木の一部は回収された。長年の乾燥を経ていずれ木材に生まれ変わることだろう。 開拓者達は興志王の勧めでしばらく羽流阿出州に滞在して休養をとった。費用はすべて朱藩持ちである。 「さあ、たくさん食べてくれ。いくらでもいいぞ。俺はこのチョウザメ卵入りのやつがお気に入りだぜ。うん、うめぇ!」 最近の興志王は羽流阿出州のピザがお気に入り。開拓者達を開店してまもないピザ屋へと誘う。小麦やトマト、上に乗せる食材はすべて希儀産である。 「燻った状態が長く続いて気になって仕方なかったですの」 十砂魚が興志王に訊ねると希儀中央の巨大な湖にはチョウザメがたくさん棲んでいるらしい。そこまで漁師が出向いてチョウザメの卵を採っているようだ。 「みなさん大した怪我がなくてよかったです‥」 和奏は人妖・光華と分け合いながらピザを楽しんだ。 「ギガにも一枚、持っていっていいかな?」 興志王の許可をとったルオウは迅鷹・ヴァイスと大空の翼で同化。皿を抱えて大空を飛び、海岸線にいた巨人ギガに海産ピザを食べさせてあげた。ピザ屋を出てわずか三分の早業である。 『うまい』 自分で獲ったエビの味に巨人ギガは喜んでいた。 「火災現場では頂けなかった果物のジュレです。どうぞ召し上がれ」 ピザを楽しんだ後、フィーネが作ってくれたジュレもみんなで頂く。 「これは美味しいです」 ジークリンデも以前にジュレを作ったことがある。互いに自分の作り方を教えあうフィーネとジークリンデだ。 「これは美味しいね。リデ‥‥ル?!」 『くー‥‥』 さっきまで人妖・リデルはフランヴェルの側でピザを美味しそうに頬張っていた。なのにフランヴェルが一瞬目を離した隙に卓の上で寝ている。 「頑張ってくれてありがとう、リデル」 疲れているのだろうとフランヴェルは自分の上着を脱いで人妖・リデルにかける。食べ終わった後は宿までおぶって運ぶ。 「うぁ、高いー! 飛空船にのっているときとはちがう感じだね、大ちゃん」 『うん♪ ギガってかっこいいよ! ボクとルゥミの次くらいに!』 ルゥミと羽妖精・大剣豪は巨人ギガの肩に乗せてもらって大満足である。感想はまるで歩く塔のよう。羽流阿出州の郊外を一回りした。 十分に休んでから開拓者達は帰路に就く。興志王は精霊門で去る開拓者達を見送るのであった。 |