監獄島の暴動〜興志王〜
マスター名：天田洋介
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| ■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀から離れた希儀には拠点といえる場所が二カ所存在する。 一つは宿泊地『明向』。そして南部の海岸に面した『羽流阿出州』だ。どちらにも精霊門は建設済みで開拓者達への便宜が図られている。 羽流阿出州は建設地近くの遺跡外縁の石壁に刻まれていた綴りから朱藩の王『興志宗末』が命名したという。当て字でありパルアディスと読む。 遺跡東側の土地にて羽流阿出州は今も発展中。遺跡を貫くように流れる川の上流に取水口を完成させて用水路で繋ぎ、羽流阿出州内には生活水が供給されていた。 興志王主導の元、遺跡内で不思議な品が発見される。 それは人型の部位であり、すべてを適切に接続すると巨人が組み上がった。 人語を話すものの、過去の記憶は一切ない。巨人は自分の名さえ知らなかった。 全長は当初十五メートルと思われたが、正確に計ると十八メートルにも及んだ。 ずんぐりとした鎧姿は天儀のそれよりもジルベリアに近い意匠だったが、より古風な印象が強かった。 興志王の意向によって巨人は遺跡中央の塔内に隠されたまま一般には秘密にされたが転機が訪れる。 ギガと名前が決まった数日後、羽流阿出州は嵐に襲われた。増水によって用水路が決壊寸前。その時、興志王と開拓者達が巨人ギガを連れて現れる。 手分けして作業に取りかかり、仕上げとしてギガが丘を切り崩す。そのおかげで水の流れは変わる。羽流阿出州は大規模浸水を免れた。 数日後、興志王は巨人ギガの存在を公にする。 とはいえ場所は羽流阿出州。噂こそ精霊門を利用する者達によって各地に広まったものの、半信半疑の者も多かった。 そこで興志王はギガを朱藩の首都、安州へと連れて行くことに。ギガを破壊兵器と畏れた朱藩氏族によって刺客が超大型飛空船『赤光』送り込まれたものの、開拓者達がこれを阻止。ギガは安州の地でお好み焼きの味を覚えるのであった。 安州でのお披露目を終えた巨人ギガは希儀の羽流阿出州へと帰還の途に着いた。 輸送に使われたのは超大型飛空船『赤光』だが船内に興志王の姿はなかった。乗船寸前に緊急の一報が入ったためだ。 千代ヶ原諸島に属する島の一つ『大曲島』。流刑地として一般には『監獄島』と呼ばれている。その監獄島で大暴動が発生したのである。 「で、今はどんなことになっているんだ？」 興志王はご機嫌斜めなしかめっ面で報告の役人を横目で眺めた。 役人は冷や汗をかきながら島の状況を説明する。 独房に幽閉されていた志体持ちの翁、的場甚右エ門が少人数の罪人によって解放されたのが暴動の発端である。 囚人に彼以外の志体持ちはいない。監視側には三名いたのだが全員が叩きのめされてしまった。六十歳を越えているにも関わらず的場の徒手空拳の技は現在も冴え渡っているという。 的場が指揮することで暴動は島全体に波及する。隙をつかれた監視側は撤退を余儀なくされた。結果、飛空船や一般船を使って島を脱出。 暴動の際に倒されたり捕まったり、また乗り遅れた監視側の者は二十五名にも及ぶ。 「起きちまったことは仕方がねぇ。そうだな‥‥。武器満載の飛空船で空から脅してやれば奴らも降参するだろう」 「それが実は‥‥早めに解決しなければならないのです。大きな懸念が残っていますので――」 顎から汗を落としつつ役人が興志王に上申を続ける。島にはまだ大型飛空船が一隻残されたままだと。 「地下格納庫に仕舞われていまして、島の管理長と直接の部下二人以外はおそらく知らないはずです。二年前の汚職発覚で大規模な人員移動が行われたばかりですので。管理長を含む三人は行方不明者に含まれています。このままでは囚人達が島を脱出してしまい――」 興志王は役人の説明を聞きながら考える。 （「大型飛空船か‥‥。島の囚人は三百人前後だったな。無理矢理に乗っても一度にせいぜい百名か。甚右エ門って奴がどれだけの豪傑かわからねぇが、残りの囚人を助けるために島に戻ってくるなんて説得しても誰も信じるわけがねぇ‥‥。二度目以降があり得ない以上、相当に揉めるわな」） 囚人達に大型飛空船の存在がばれたとしても、すんなりと飛び立つことはないだろうと興志王は推察する。 赤光はギガ輸送に使われているので、その他の飛空船で対処しなければならない。安州をもぬけの殻にする訳にもいかず、そうなるとすぐに離陸できるのは大型飛空船一隻と中型飛空船五隻に限られた。 興志王は指揮を執るために大型飛空船へと乗船。王の側には急遽集められた開拓者の姿があった。 |
■参加者一覧
ルオウ（ia2445）14歳・男・サ 
和奏（ia8807）17歳・男・志 
フィーネ・オレアリス（ib0409）20歳・女・騎 
十 砂魚（ib5408）16歳・女・砲 
松戸 暗（ic0068）16歳・女・シ |
| ■リプレイ本文 ●冷たい海 深夜の朱藩南方の千代ヶ原諸島。監獄島の沖から約五キロメートルといった海上に一隻の中型飛空船が漂っていた。 「水中呼吸器か。まかせなって、何度か使った事があるしよ」 多く跳ねたルオウ（ia2445）は暗く冷たい海へと飛び込んだ。 「泳いでいくなら、銃を持っていくのは大変ですの」 十 砂魚（ib5408）は皮袋を抱えて海中へ。 皮袋は中に詰めた着替えや道具を海水から守ってくれる。また浮き袋の代わりにもなった。他の仲間達も同じように皮袋の中へ荷物を詰めていた。 （「監獄島で暴動とは厄介なことが起きましたね」） フィーネ・オレアリス（ib0409）は保温のために脂を身体に塗ってから出発。おかげで冬の海でも何とか耐えられた。 （「できるだけ顔をつけないでいきたいですね」） 和奏（ia8807）は水中呼吸器を借りてはいたものの潜らずに泳いだ。 夜空に一つだけ輝いているのは星ではなく味方の飛空船が放つ宝珠光である。監獄島の方角を遠泳中の興志王一行に示すためにゆっくりと高空を飛行していた。 「こちらだ。迷わぬようにな」 シノビの松戸 暗（ic0068）は水蜘蛛で海上を歩ける。だが波が荒いことを考慮に入れて仲間と同じように海面上を泳いだ。暗視が使えるので一番先を泳いで道しるべとなる。 （「やはりここでかなり体力を奪われてしまうか‥‥」） 興志王は松戸暗の後方を泳いでいた。背中の荷物には長物が一本混じる。 油紙で厳重に包まれた魔槍砲だが、それでもおそらく海水が染みるはず。錆を考えればこの一挺は今回限りの使用になるだろう。 約一時間をかけて一行は監獄島への上陸に成功した。危惧していたが幸いなことに人影は見あたらなかった。 「潮の流れは私達に味方してくれましたわ」 フィーネは事前に調べておいた海岸沿いの無人洞窟を発見。洞窟内は十分な広さがあったので砂浜にうちあげられた流木を拾って焚き火を熾す。 「やはり誰もいなかった」 松戸暗が洞窟の周囲を探って戻ってきた。少なくともこの洞窟から五百メートルの範囲に仲間以外はいない。 「暴動を起こした囚人等は所詮素人か。的場って輩がいたとしてもそれは変わらねぇようだな」 興志王が流木をへし折って焚き火へと投げ込んだ。まともな組織ならば島の周囲を警戒するのが常識である。 「このままでは風邪をひいてしまいますね」 「さ、寒いもんだなー」 和奏とルオウが脱いだ服を絞ると大量の海水が地面へと染みこんだ。 代えの服を持ってきた者は即座に着替える。そうでない者は震えながら焚き火の前に座り込んだ。濡れた服は近くの小川の真水で濯いでから焚き火で乾かす。 「首魁が寒空の下、うろうろしているとは思えませんの。きっと暖かい建物の部屋にいますの」 十砂魚は監獄施設の見取り図を取り出す。 「今晩の活動はこれで終わりにするか。話し合いは飯を食ってからだな」 興志王は全員の体調を心配して明日に備えることにした。非常食で腹を膨らませてから小一時間話し合う。そして見張りの順番を決めて就寝する。 南方の島でも冬となればそれなりに寒い。焚き火は一行の命綱となった。 ●尋問と本格的な相談 そして翌日。洞窟内で海泉が発見される。 「非常食はあまりうまくねぇからな」 「釣れてくれよー」 こんな時でも釣り好きの興志王は釣り用の糸と針を常備していた。ルオウと一緒に手釣りで根付きのアジなどを釣り上げる。これらは全員分の食事となった。 昼過ぎ、フィーネと十砂魚は海岸沿いで囚人服の男を発見する。磯で貝などを獲っていた。 「呑気ですわ」 「散歩しているようですの」 二人は近づいて囚人を気絶させる。そして目隠しの上に縛り上げて洞窟まで連れ帰った。仲間達と相談してから頬を叩いて目を覚まさせる。 「私は海賊の船長です。島のことを話してくれたのなら悪いようにはしません。ただ、気が荒い仲間もいますので」 囚人を尋問する和奏が合図を出すと興志王とルオウが声だけの喧嘩を演じてくれた。 十砂魚が見張ってくれているので洞窟の外に音が洩れても大丈夫。派手に物騒な雰囲気を醸し出す。 「そうそう、お腹が空いているようですね」 「こ、こりゃ？！」 和奏は焼き魚の欠片を一口だけ囚人に食べさせてあげた。すると堰を切ったように口を割る。 監獄施設内の食料は持って一ヶ月。ちなみに保存性ばかりが優先されていて、とてもまずいようだ。 囚人の殆どが監獄島からの脱出を望んでいたが、それには飛空船か普通の船が必要。しかし一隻も残っていないと肩を落とす。 （「まだ地下の大型飛空船の存在は知られていねぇのか‥‥？」） 興志王は囚人の吐露に耳を傾けながら遠火で炙られる木の枝に刺した魚を回す。 魚の皮が熱せられた脂で弾ける音、さらに漂う美味しそうな香り。数年に渡って質素な食生活を送ってきた囚人にこれ以上の拷問はないだろう。 「そういや昨晩、島に来る前の仕事はなんだと酒を配っていた奴に聞かれたな‥‥。みんなに声をかけていたみたいだけんど‥‥。いや、これは関係ない話か。忘れてくんだせぇ。そ、それにしても美味そうな香りやな、美味そうやな‥‥」 興志王と和奏は囚人の話しを聞いて互いの顔を見合わす。 逃げ遅れた管理長が喋ったのかはわからない。だが地下格納庫の大型飛空船の存在は囚人の一部にはばれている。 回りくどい方法で船乗りを探しているのは、すべての囚人を連れて島から脱出出来ないからだ。 首魁の的場は連れて行く囚人をおそらく三十から四十名程度に絞ろうとしている。空賊でも始めるつもりかと興志王は心の中で呟いた。 「的場の旦那はよ。腕っ節が強ぇことをいいことにやりたい放題だからな。一部の太鼓持ちを除ければ、みんな心の中では嫌っているのさ。まあ、看守達を追い出したぐらいだから頭もそれなりに切れるんだろうけどもよ」 和奏は目隠しを外さない約束で囚人の両手を自由にしてあげる。そして焼き魚を十分に食べさせてから再び縛った。 囚人に聞こえない位置で一行は相談する。 「想像していたよりも事態は進んでいたな‥‥」 興志王はやはり首魁の的場を捕らえるのが解決の鍵だと確信した。 やり方は乱暴だが効率的ともいえる。的場を放っておけば地下の大型飛空船を使って監獄島からの脱出を成功させるかも知れない。 「今日の明るいうちに離陸させるのは無理ですね。集めた者全員が元船乗りだったとしても、慣れない初めての大型飛空船で夜間飛行に挑むのは無謀ですから」 「明朝から先はいつ飛空船が飛び立ってもおかしくはないですの。それまでに首魁を掴まえなくては‥‥」 フィーネと十砂魚の考えに異論を挟む仲間はいなかった。 「監獄の施設内に至る道筋については確認しておいた。いくつか危険な難所はあるが、夜間なら大丈夫だろう」 松戸暗の斥候によって成功率もあがったようである。 「的場がいそうな場所は監獄施設内の管理長用執務室。次は地下の大型飛空船の周辺。大穴で食料庫って辺りだな。ずっと幽閉されていた独房は余程の変人でもない限り見るのも嫌だろうさ」 興志王によって的場がいるであろう探すべき場所もまとめられる。 一行は日が暮れるのを待って潜入を開始した。 ●監獄の奥へ 厚い雲で星が見えない夜。 （「全員ついてきているな」） 暗視を使う松戸暗が先導して一行は闇の道を進んだ。 途中、和奏の『心眼「集」』に助けられながら、孤島には不釣り合いな立派な石造りの壁に突き当たる。 高い石塀は城塞を想像させた。また明るい日中なら内部に建てられた建物を城と見間違えるであろう。しかし現実には巨大な牢であった。 松戸暗がするすると石塀をよじ登って小窓から潜入。中から一階部分の隠し扉を開放してくれる。 資料によれば収容されている囚人は約三百名。それらの輩は一行が探さずともそこかしこで見かけられた。 囚人等はだらけきっている。どこも酷く散らかっていて、廊下のど真ん中に寝転がっている者もいた。 腐った心根の持ち主ばかりだからと決めつけるのは簡単だが、フィーネはそうではないと判断する。何故ならば誰もが酔っぱらっていたからである。 縄を緩めて洞窟に残してきた囚人は確かに監獄内で酒が配布されたといっていた。だが一行の誰もが泥酔を許すほどとまでは想像していなかった。 首魁・的場の性格は身勝手で傍若無人といわれている。そうであるなら貴重な酒類を単なる親切心で他人に振る舞うはずがない。 「――切り捨てる邪魔な囚人は酔わせておいて、自分達は脱出用の飛空船の準備をしているのでは？」 「毒を盛っていないだけましってやつか」 フィーネと興志王がどんちゃん騒ぎの囚人等を眺めてため息をついた。 「手応えなさすぎるよな」 おかげで囚人に不審がられても容易に倒すことが出来た。ルオウは死なない程度に拳を当てて近寄ってきた囚人を気絶させる。 一行はそのまま秘密の地下格納庫を目指した。 施設内の状況からいって大型飛空船の離陸準備が佳境だと判断したからである。それが正しければ的場は飛空船の側にいるとはずだと。 「それにしても馬鹿なやつらだよな。置いてけぼりにされるとも知らずに酔ってぐでんでんなんてさ」 「明日の朝になれば気づくよ。自分たちはどんなに間抜けなんだって」 二名の囚人が運んできた木箱を台車ごと昇降機の上に乗せる。続いて手車を回そうとした瞬間、膝を床につけて倒れこんだ。 「これぐらいの距離なら余裕ですの」 埋伏りで潜んでいた十砂魚が袖矢を撃ち込んで囚人二名を倒したのである。囚人二名かから剥いだ服に和奏と興志王が着替えた。 気絶している囚人二名と木箱の中の食料は近場の空き部屋へと隠す。和奏と興志王以外の者は空になった木箱の中に隠れる。 和奏と興志王が手車を回すと昇降機が下降する。やがて地下の広大な格納庫へと辿り着いた。 もっと人がいるものと考えていたが遠くに数名が確認出来るのみ。選ばれた殆どの囚人は飛空船内部の作業に従事しているようである。 飛空船内に潜り込もうと和奏と興志王がそれぞれに木箱が載った台車を押す。 「おい、それの中身は何だ？」 誰も近くにいなかったはずなのに後方から突然男の声が聞こえた。立ち止まった和奏と興志王がゆっくりと振り向いた。 そこにいたのは老人らしからぬ筋骨隆々の白髪の人物。誰もが事前に似顔絵で確認している。間違いなく首魁『的場甚右エ門』であった。 「みんな飛び出せぇ！」 興志王は的場の肩の動きを読みとって叫んだ。勘は当たり、木箱の一つが的場の右拳で壊される。 破壊直前に飛び出した松戸暗とフィーネは床に転がりながらも無事。もう一つの木箱に隠れていたルオウと十砂魚は先に攻撃へと転じた。 「行くぜぃ！」 剣気を当てつつ『殲刀「秋水清光」』を構えたルオウは的場へと突進する。 的場は急ごしらえと思われるが鉄製の拳当てを装備していた。自らに放たれた刀の軌道を逸らせつつルオウの背後へと回る。 気づいたルオウだが避けきる余裕はない。的場が放った拳を左の肘を受けながら自ら離れるように跳んで衝撃を相殺する。 十砂魚はルオウを追撃しようとした的場の邪魔をした。放った袖矢は弾かれてしまったものの、注意を引くことには成功する。 （「まさかこんな風に遭遇するとは考えていなかったのですの」） 接近戦では分が悪いと判断した十砂魚は間合いをとる。代わりに復帰したルオウが的場の正面に立った。 「へっ、元気なじいちゃんもいるもんだな」 「子僧、どこのもんだ？」 「知りたかったら倒してからにするんだなー」 「それは無理だな。何故ならいつも戦った相手を屠っちまうからだ」 的場とルオウが戦いの火花を散らす。 「緊急離陸だぁ！ 決めた通りに飛びやがれぇ！！」 的場の大声が格納庫内に響き渡った。その声が届いたのか、まもなく大型飛空船は離陸のために各宝珠を作動させる。 ここで思いも寄らぬ事態が起こった。複数の爆発で天井が抜けて多量の瓦礫が落ちてきたのである。 ルオウだけでなく全員が落下物を避けるのに精一杯。的場を見失ってしまった。 しかしここで引き下がる興志王一行ではない。格納庫外に待避するのではなく、飛び立とうとする飛空船を目指して駆けた。 瓦礫が床に落ちる度に大量の埃が舞い上がって視界が奪われる。さらに格納庫内を照らしていた篝火が倒されて暗がりが増していく。 （「こんなときこそ落ち着きましょう‥‥この状況での最善が何かを」） 飛空船の船底に潜り込んだ和奏は即座に心眼を使った。しかしこの状況下で一人一人を特定することは難しい。 「全員生きています！ 的場もそうです！！」 崩壊の最中、和奏は何度も仲間全員の生存を叫んで伝えようとする。 飛空船の外部にいると思しき者が自分を含めて七名。状況からいって仲間の数から差し引いた一名は的場しか考えられなかった。 激しく振動しながら飛空船が浮遊。意を決した瓦礫に構わず、垂れ下がった縄を利用して飛空船の外壁をよじ登った。心眼で確認すると仲間達もそうしていた。 「屈んで背を低くしてくださいね！」 甲板に辿り着いたばかりのフィーネは『蛇矛「張翼徳」』を即座に構えた。そして見つけた的場目がけてハーフムーンスマッシュを放ち、落下中の瓦礫をまとめてはじき飛ばす。 （「この機に乗じて‥‥」） 松戸暗は奇策を用いた。 フィーネが弾いた大量の瓦礫が的場に襲いかかる。松戸暗は瓦礫の後ろを追いかけるように駆けて的場との距離を縮めた。 瓦礫を避けるのに必死な的場は直前まで松戸暗の存在に気がつかない。 松戸暗は刃を的場の右上腕部に突き立てる。勢いのまま転がして甲板へと縫い止めた。 こうなってしまえばこっちのもの。飛びかかったルオウが的場の首を締め上げて意識を奪う。 的場の確保には成功した。 しかしこのまま飛空船ごと飛び去られてしまえば作戦は失敗。開拓者達の脳裏にそういった考えが過ぎった矢先、杞憂へと変わる。 興志王が魔槍砲で飛空船後部の噴射口を破壊したのである。 姿勢を崩した大型飛空船は地下格納庫の内壁に衝突して墜落の憂き目に遭う。落下距離はたかが十数メートルであったが激しい衝突音を島中に響き渡らせた。 一行と的場は無事。その場にしゃがみ込んだ興志王が狼煙銃を夜空に向けて撃つ。 三十分を過ぎた頃に朱藩軍所属の大型飛空船一隻と中型五隻が監獄島上空に到達した。地上への威嚇砲撃の後で囚人等に向かって投降が呼びかけられる。 幽閉されていた管理長と部下は生きたまま救出される。開拓者が協力してくれたおかげで監獄島の暴動は収束するのであった。 |
