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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 理穴東部におけるアヤカシ侵攻を伴った魔の森拡大は一旦収束する。 但し、理穴の女王・儀弐重音(iz0032)は一時的なものと捉えていた。 朱藩国王の興志宗末(iz0100)、武天国王・巨勢宗禅(iz0088)の名代・綾姫、理穴ギルド長の大雪加 香織(iz0171)も同様の考えに至る。 かつて起きた緑茂の戦いにおいて現れた大アヤカシ『炎羅』によく似た個体の目撃例がいくつか報告されていた。しかも精査するに二体も。その特徴から『氷羅』『砂羅』と名付けられる。 氷羅討伐の命を受けたのは理穴名門の羽柴家の娘、麻貴。興志王は儀弐王の要請によって麻貴が率いる軍に協力することとなった。 「麻貴って娘、面白いやつだったぞ。作戦もあいつ自身も」 話し合いが終わり、興志王は超大型飛空船『赤光』へと帰還。艦長を含めた朱藩国重鎮と食事をとりながら作戦内容を伝えた。 予定として朱藩飛空船団はほんの数隻を残して着陸。地上砲台として大アヤカシ『氷羅』とその配下を迎え撃つ。 当然機動力を殺すことになるが、その代わりに宝珠砲の命中率は飛躍的に上がる。 大軍で押し寄せてくる敵を『下手な鉄砲数撃ちゃ当たる』では抑えきれない。砲術士の銃撃と合わせて宝珠砲で確実にアヤカシの先発を仕留め、『氷羅』攻撃への糸口を見つけることこそが朱藩飛空船団の役目だと興志王は考えていた。 「大地で踏ん張った方が銃も当たりやすいからな。俺達の役目は『氷羅』を麻貴達の前に引きずり出すことにある」 それからしばらくして朱藩飛空船団は『氷羅』率いるアヤカシ軍の出現予想地域へと次々と着陸する。 飛空船は綺麗に並んでいたが魔の森の境界線に対してわざと斜めの配置になっていた。これならばアヤカシから物理的な遠隔攻撃をされても外装で多少受け流せるからである。 塹壕を掘る作業も始まった。 数日後、理穴の首都、奏生から兵員用の大型飛空船が到着。その中には興志王が待ち望んでいた開拓者の姿が多数含まれていた。 |
■参加者一覧
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
和奏(ia8807)
17歳・男・志
磨魅 キスリング(ia9596)
23歳・女・志
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
十 砂魚(ib5408)
16歳・女・砲
スチール(ic0202)
16歳・女・騎
国無(ic0472)
35歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●待機の理穴東部 朱藩飛空船団が地上での待機を始めて数日が過ぎ去った。今日も太陽が地平線へと沈んで世界は夜闇に覆われる。 着陸の飛空船団が放つ宝珠光の灯りの他にも篝火や焚き火が辺りを照らす。 どのような方法を用いても真夜中に魔の森の境界線付近すべてを照らせるはずもない。それでも用が足りる程度の策は事前に施されていた。 「んっ? まただよな〜」 ルオウ(ia2445)が白い輝きに気づいて夜空を見上げる。ここ数日で何度目かの雪のちらつきである。 「嫌な予感は当たるものだわ」 国無(ic0472)は両腕を広げてくるりと回ってみせた。雪はすぐに止んだものの、氷羅の存在を感じるには十分な夏場の異常現象といえる。 晩飯は雑多な食材を煮込んだ雑炊が用意された。開拓者用の鍋から玲璃(ia1114)が仲間の椀によそってくれる。 「はい、どうぞ」 「頂こう」 スチール(ic0202)は玲璃から受け取った雑炊をまるで飲むように胃袋へと押し込める。そしてすぐに鎧磨きを始めた。いくら拭ってもとれない肩部の曇りが気になって仕方がなかった。 「よぉ! 元気にしているか? お土産のお裾分けだ」 全員が雑炊を食べ終わる頃、興志王が西瓜をぶら下げて姿を現す。 「よく冷えてますね」 「ちょうどいい小川があったんでな」 さっそく磨魅 キスリング(ia9596)が西瓜を切ってくれた。皆で頂きながら会話も弾んだ。 「そう言えば、私の姉も麻貴さんは面白い人だと言ってましたの」 「なかなかの奴だったぞ。朱藩に生まれていたら特別に取り立てていたところだ」 十 砂魚(ib5408)は話しの中で興志王が触れた羽柴麻貴のことを思い浮かべる。機会があれば会ってみたいと。 「アヤカシの再侵攻があったとしてお側で戦いたいと考えておりますが、お邪魔でしょうか?」 フィーネ・オレアリス(ib0409)の訊ねに興志王が一度魔の森の方角を眺めてから答える。 「志体持ちはばらけて戦うよりもまとまった方が何倍も強ぇと俺は思っている。是非に頼むぜ!」 興志王は自らも戦うという。興志王の直接護衛を開拓者の班が引き受けることになった。 日を跨いでしばらくして魔の森境界線が動き出す。報せのための狼煙銃が夜空に撃ち上がり、笛の音が鳴り響くのだった。 ●露払い 地上砲台化した多数の朱藩飛空船団から宝珠砲が次々と放たれた。周囲にいたすべての者の腹を砲撃音が激しく揺さぶる。 当初は闇雲であった各宝珠砲の照準も二射目からは侵攻のアヤカシ軍の密集へと向けられた。 それができるようになったのは予め主要地点に大量の油が撒かれていたからである。また油が詰まったままの樽もかなり置かれていた。宝珠砲の榴弾による炎が引火。火の手が広がり蠢くアヤカシ軍を暗闇から浮かび上がらせた。 第三段、第四段と宝珠砲は撃たれていたがかなり時間がかかっていた。ただ射程距離が銃砲の比ではないのでアヤカシ軍が塹壕近くまで辿り着くまでにはまだ余裕がある。 宝珠砲で不安があるとすれば射撃精度だが、地上砲撃化によってそれなりに解消されてはいる。とはいえ威力からいっても点ではなく面を狙う兵器故にアヤカシ軍の密集度が薄まると効率は悪くなっていった。 引き続き宝珠砲の活躍は望まれるとして、百メートル前後まで敵が近づいてきたのなら砲術士の出番である。 朱藩兵の砲術士達は塹壕にて魔の森境界線に向けて銃砲を構えた。多くの朱藩兵には連射可能な爆連銃が支給済。アヤカシ軍が射程内に入った瞬間に各砲術士が引き金を絞る。 闇夜に吸い込まれてゆく無数の銃弾。それらの多くはアヤカシ軍の最前列を蜂の巣にする。宝珠砲の威力と合わせて敵の侵攻を遅らせた。 塹壕の開拓者達は興志王と共に迫るアヤカシ軍から目を離さずに息を潜める。戦線は長く、戦いが始まるまで時間差が生じていたのである。 「来たぜ! 王さまは下手に前に出るんじゃねえぞ! あぶなっかしいんだからなあ!」 ルオウは偵察から帰ってきた上級迅鷹・ヴァイス・シュベールトを左腕に掴まらせながら、アヤカシ軍の最前線がどこまで迫って来ているかを報告する。 興志王が待機する塹壕から銃弾だ届く距離に敵の最前列が足を踏み入れた。 ルオウも借りた爆連銃を構え、炎に照らされてほんのりと闇に浮かび上がるアヤカシに照準を定める。 ルオウの一発目は外れたものの、二発目は蟷螂・妖の胴に命中。三発目は蟷螂に弾かれて四発目はわずかに外す。 「実戦だとなかなかうまくいかないもんだなー」 ルオウも練習ではそれなりに当てていた。 四発まとめての装弾を終えた後、深呼吸して焦る気持ちを落ち着かせる。その時、迅鷹・ヴァイスが鳴いた。おそらくルオウを応援したのだろう。 落ち着きを取り戻したルオウは再び爆連銃を構えて射撃。先程の蟷螂・妖は見失ってしまったものの、代わりに蚯蚓・妖に連続して三発の銃弾を叩き込んだ。止めの四発目が命中したところで蚯蚓・妖の身体が瘴気に変化するのを確認。倒したと判断して装弾をしながら次の標的を探す。 「陣形が崩れればこっちのものですの」 塹壕に作られた銃眼の間から狙う十砂魚はさすが本職の砲術士。狙い定めて一発ずつ確実にアヤカシへと当てていった。 宝珠砲の砲撃によってアヤカシの多くは負傷して陣形が乱れている。 十砂魚は巨体のアヤカシを選んでは足を狙って転ばす。最前線が滞れば当然後方の動きに大きな影響を与えるからだ。爆連銃も借りているものの、今のところは愛銃の『マスケット「クルマルス」』を使用していた。 (「どれだけ長引くか分りませんし、何より敵の数が膨大ですの」) なるべく技の使用を控えてこれから先に備える十砂魚である。炎龍・風月を塹壕内の後方で待機させているのも同様の理由からといえた。 炎龍・風月が待機する場所には国無の霊騎・名無シの姿もある。 国無は『マスケット「アスカロス」』を霊騎・名無シに預け、借りた爆連銃をぶっ放していた。 「この爆連銃って面白いわね。連射が効くってやっぱり便利ねぇ。おっと、邪魔なのが現れたわ」 装弾する国無は爆連銃を一撫でしてから再び構える。軽やかに引き金を絞り、淡々と銃弾を当ててゆく。 狙われたアヤカシは激しく地べたに転倒。次に胴、頭と撃たれて瘴気の塵と化す。 虫型アヤカシが多かったものの、獣や鬼に似た個体もそれなりに見かけられた。国無は特に鬼系のアヤカシに狙いを定める。 (「これだけアヤカシがいれば適当に命中するだろう」) スチールは借りた爆連銃の銃口を適当にアヤカシへと向けて引き金を絞った。土煙をあげながら迫るアヤカシのどこかしらには当たっているようである。仲間達と同じように甲龍・モットアンドベリーをすぐ側に控えさせていた。 (「今のところ大丈夫ですわね」) 磨魅は爆連銃装弾の合間に興志王にちらりと視線を向ける。 爆連銃の最大射程から三十メートル以内でアヤカシを抑えられている状況のおかげか、興志王は冷静さを保っていた。それでも血の気の多い興志王なので油断はできない。いざとなればアーマーケースからロートリッターを機動させるつもりの磨魅である。 フィーネは魔の森の方角に背中を向けさせた形でロートリッターをアーマーケースから取りだしていた。巨大なギガントシールドは興志王の側に立てかけてある。 アヤカシの中にも遠隔攻撃が得意な個体がいるので、塹壕内とはいえ安全ではないからだ。実際にアヤカシが放った棘状の触覚のようなものが、ロートリッターの背中に何度か当たっていた。射程としてはこちらの砲術と同じくらいの性能といえる。 「いざというときはこちらに」 「接近戦がないのが一番なんだがな」 アーマーを駆動させるのは後に取っておくとして、今は興志王と並んで爆連銃を撃ち続けるフィーネである。 玲璃は羽妖精・睦と共に仲間達の後方に待機していた。手にする『懐中時計「ド・マリニー」』が瘴気を高めていないか注意しながら。煙や闇に紛れて近づかれることもあり得るので、『瘴索結界「念」』も併用する。 「そうなって欲しくはありませんが負傷者はどうしても出てしまうことでしょう。治療の際には無防備になりますので守りをお願いしますね」 玲璃がお願いすると羽妖精・睦は手にしたデーモンズソードを掲げて意気込みを表す。 長期の戦いでは休憩が必要となる。寝ることはさすがに適わないものの、誰もが戦いの最中に交代で食事をとってわずかな時間だけ身体から力を抜く。 飛行可能なアヤカシは厄介な存在だが塹壕まで到達してくるのはほんのわずかである。空を守る武天飛空船団が踏ん張ってくれているからだ。 「しゃらくせぇな!」 興志王は空中から迫ってくる甲虫・妖。軌道を先読みし、一瞬の判断で撃ち抜いた。まるで投げた皿を的にしたように。 「神出鬼没なのですの」 「もう、面倒だわね〜」 砲術士の十砂魚と国無も負けてはいなかった。不意に飛んでくる飛翔アヤカシを見逃さず、大きく銃口を振りつつも撃ち落としてゆく。 「危険だが頼めるか?」 やがて油による魔の森の延焼が落ち着き始めてアヤカシを狙いにくくなる。興志王の願いによって龍騎可能なスチールと十砂魚が空から油樽を落とすことに。 ルオウの迅鷹・ヴァイスが先行して魔の森上空を旋回。囮となってアヤカシを引きつける。 迫る地上のアヤカシは理穴兵に任せて、興志王と国無は飛翔アヤカシへの警戒に集中した。もしもに備えて磨魅とフィーネはいつでもアーマーを起動させられるよう待機を維持する。 玲璃はアヤカシからの遠隔攻撃で傷ついた理穴兵の治療に専念していた。 「すべて燃えてしまえば楽なのにな」 甲龍・モットアンドベリーの背に乗るスチールは縛られていた縄を斬って油樽を魔の森へと落とす。 「火の手が広がらずに消えてしまうなんて不思議ですの。瘴気のせいなのかも」 炎龍・風月騎乗の十砂魚も油樽を魔の森へ。 これらの作業は何度か繰り返される。おかげで再び燃え上がり、闇夜での目視がしやすくなった。 直後、最初の侵攻を上回る規模でアヤカシ軍が迫ってきた。朱藩飛空船団はここぞとばかりに宝珠砲の砲火を集中させて応戦する。 響く砲撃音の最中、磨魅とフィーネはアーマーでの待機を続行した。 ルオウは戻ってきた迅鷹・ヴァイスを誉めてあげながら爆連銃ではなく『殲刀「秋水清光」』を手に取る。望まないもののアヤカシが間近まで迫ると判断したからだ。 同じように甲龍・モットアンドベリーから降りたスチールも接近戦を予感して『セントクロスソード』を抜いて握り締める。 国無と興志王は絶え間ない銃撃を遂行。戻ってきた十砂魚も加わって強力なアヤカシが遠くにいる間に撃ち倒す作戦に出た。 玲璃はいつでも『神楽舞「瞬」』を舞えるよう心構えを持つ。 宝珠砲による本気の砲撃は凄まじかった。魔の森の繁茂によって伸びる草木を根こそぎ抉って土煙に変えてゆく。 「すげぇな‥‥」 興志王でも驚くほどの宝珠砲集中攻撃が行われる。幸いなことに土煙は強風によってわずかな時間で魔の森奥へと押しやられていった。 土埃で霞みながらも歯抜けになったアヤカシ軍の最前線は炎に照らされて露わなまま。朱藩飛空船団にとって最大の好機が訪れる。それを見逃す興志王ではなかった。 宝珠砲に加えて砲術士による銃撃の嵐。 アヤカシ側も危機を感じたのか全力を振り絞って迫り攻撃してきた。そしてどこからかわからないものの、強烈な冷気が朱藩飛空船団の塹壕を襲う。 「用意してもらってよかったわ」 国無の案によって塹壕には事前にたくさんの毛布が用意されていた。身体に張りついた霜を手のひらで払ってから玲璃が渡してくれた毛布にくるまる。 国無だけでなくその場の全員が玲璃が配布する毛布で一時的な寒さを凌いだ。 「ここが踏ん張り所だな」 興志王は手を悴ませながらも正確な射撃を続ける。数は少ないものの敵は間近まで迫っていた。 「氷に砂。何だか氷の方が近いようですの」 十砂魚は目前の甲虫・妖の額を撃ち抜いてから呟いた。剥がれた胴の一部が塹壕へと落ちて瘴気が立ち上る。 「興志王様が仰る通り、ここが正念場です」 玲璃は今こそと最大の支援の時と考えて『神楽舞「瞬」』の舞いを繰り返す。舞いの効果によって周囲の味方は怒濤の攻撃を行う。 羽妖精・睦は玲璃を襲おうとした自分と同じくらいの大きさの蚊・妖に挑んだ。 長い生気吸収用の管を斬り捨てて羽根の根本を刃で削ぐ。さらに五匹が飛んできたがすべてを倒しきり、舞いを続ける玲璃を守りきる。 「あれはちょっと厄介ね‥‥」 国無は遠くの巨大蛞蝓・妖に気づいて眉をひそめる。巨大蛞蝓・妖の全長は推定で十三メートル前後。触れたすべてを溶かしながら塹壕へと迫っていた。 国無が呼び寄せると霊騎・名無シは即座に現れる。そして爆連銃よりも長距離が狙える『マスケット「アスカロス」』に持ち替えて狙い定めた。 弾が当たっても巨大蛞蝓・妖の内部へと吸い込まれてしまった。それでも苦しんでいる様子から攻撃は通じていると国無は判断する。 「砂魚よ、お前も頼むぜ」 「わかりましたの!」 興志王と十砂魚もじりじりと迫る巨大蛞蝓・妖が射程内に入ったところで銃口を向ける。触覚が生える頭部に集中して銃弾が次々と叩き込まれた。 磨魅とフィーネが搭乗するアーマー二機を起動させた。塹壕を飛び出してアヤカシに立ちふさがる。 「我が名は磨魅キスリング、正義の刃なり!アヤカシよ、ここからは逃がしません!!」 アーマー・ギュンターの磨魅は敢えて足を止めて戦った。 理由は二つ。一つは後方の興志王の盾となるため。もう一つは動き回って味方の攻撃射線を邪魔しないためだ。 大きく構えたクラッシュブレードで半月薙ぎを喰らわす。磨魅の周囲に集まっていた九体の蜂・妖の身体が斬られ飛び散る。 気になるアヤカシには印地紐で石を投げつけて注意を自らに引きつけた。突進してきた猪・妖の額にブレードを突き立てて串刺しに。高く掲げた後で地面に叩きつけるように深く突き刺す。そのまま横っ腹をギュンターの拳で殴りつけて倒しきった。 アーマー・ロートリッターを駆るフィーネも後方の興志王を守るためにできるだけ動かずに戦い続けていた。 (「私と磨魅が安定して戦っている間は興志王陛下も前に出ることはないでしょう」) フィーネは半月薙ぎで羽虫・妖を払った後で地面から飛び出してきた蚯蚓・妖を丸太切りに。直後に体当たりをしてきた猪・妖に転倒させられるものの、起きあがりながら猪・妖の前足二本を斬り落とす。頭を真っ二つに割って止めを刺した。 ようやく国無、十砂魚、興志王が戦っていた巨大蛞蝓・妖が倒される。三人は磨魅とフィーネのアーマー二機への援護射撃へと移行する。 ルオウとスチールはそれぞれに塹壕まで達したアヤカシを倒していたが、やり方には大きな違いがあった。 「こっちだぜ!」 咆哮でアヤカシの注意を引いたルオウはすたこらさっさと遁走。わざと追いかけさせてアヤカシをかき集める。 その上で事前に相談していた砲術士達の前へと多数のアヤカシを晒す。自らは大きく跳びはねてその場から消え去った。砲術士による一斉射撃でアヤカシはまとめて瘴気の塵へ。稀にだが強力なアヤカシが生き残ることも。 「ヴァイス、よろしくな!」 ルオウのかけ声で迅鷹・ヴァイスが輝く光に変化する。そしてルオウが握っていた『殲刀「秋水清光」』へと竜巻の刃なって纏った。 一気に倒すべくルオウは六枚羽根の虫・妖を斬り払う。強敵のはずだがわずか二撃で倒しきる。 元に戻ったルオウは再び咆哮を使ってアヤカシを集める作戦を続行する。 スチールは巨体の硬い甲龍・モットアンドベリーを盾にして戦っていた。騎士たるスチールは『魔槍「ピラム」』を手にアヤカシを挑発する。 「腰抜けめ。そんなに私が怖いのか?」 大熊・妖が鋭い爪を輝かせて振り下ろしてきた。それを前進した甲龍・モットアンドベリーが受け止める。 スチールは横から回り込んで大熊・妖の脇腹に魔槍を突き立てた。モットアンドベリーも爪で応戦。大熊・妖は激しく引き裂かれる形で瘴気へと還元するのであった。 興志王率いる地上の朱藩飛空船団の活躍によって戦闘開始から数時間でアヤカシ軍の先兵は激減する。 氷羅への道が拓けて羽柴家麻貴が率いる理穴軍が前進。その後も朱藩飛空船団は後方からの遠隔射撃で援護を続けた。 氷羅討伐の報を聞いた興志王は自分のことのように喜んだという。もちろん協力した開拓者達も。 開拓者の活躍に満足した興志王は褒美を多めに自ら手渡した。 戦いのすべてが終わった後にスチールは気がついた。あれだけ何度こすっても拭えなかった鎧の曇りが消えていることを。 |