巨人の組立 〜興志王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/04/27 21:10



■オープニング本文

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 天儀から離れた希儀には拠点といえる場所が二カ所存在する。
 一つは宿泊地『明向』。そして南部の海岸に面した『羽流阿出州』だ。どちらにも精霊門は建設済みで開拓者達への便宜が図られている。
 羽流阿出州は建設地近くの遺跡外縁の石壁に刻まれていた綴りから朱藩の王『興志宗末』が命名したという。当て字でありパルアディスと読む。
 羽流阿出州の街そのものは遺跡東側の土地を開発して作られている最中。つまり羽流阿出州の街から見れば遺跡は西側となる。
 遺跡内を貫くように流れる川の上流へと用水路を繋いで羽流阿出州内に水を供給する工事が終了する。
 開拓者ギルドを通じて精霊門を利用し、朱藩安州と羽流阿出州を行き来していた興志王も一段落がついたと判断し、開拓者を連れて調査したところ不思議なものを発見する。
 それは巨大な人型の部位。最初に発見したのが胴部分。その他に頭部、右腕、左腕、右足、左足とすべて揃っているようであった。
 あまりに巨大だが天儀でいうところ土偶のようなものだと推察。適当に繋げてみるが作動はしなかった。
 発見は興志王の意向で秘密にすることに。巨人の部位が仕舞われた羽流阿出州側の遺跡の塔内への出入り口は多量の砂によって隠された。
 あれからかなりの日数が経ったが、興志王はその存在を一日として忘れたことはなかった。
「おそらく動く‥‥いや絶対に動くはずだ!」
「お、王様!」
 心の中で呟いているつもりが思わず叫んでしまったこともある。周囲にいた者達に笑って誤魔化すときもあったという。
「これはもしや‥‥」
 身動き出来ない王の務めの合間に興志王は目を留める。
 それは開拓者が描いた壁画の写しの一枚。事情がわかった上で眺めれば巨人の組み立て図にしか見えなかった。
「それにしても‥‥また‥‥無茶な組み立て方だな‥‥」
 どうしてそうしなければならないかの理由は不明だが、とにかく組み立て方は無謀といえた。
 巨人の各部は非常に重いのに関わらず、微妙な持ち上げ方をして宙で仮接合。維持しつつ金具を使って繊細な接続作業を行わなければならなかった。
 専用の足場を用意すれば一般の者でも組み立てられるかも知れない。しかし今のところ多くの者の目に触れさせたくはないし、第一専用の足場の用意だけでゆうに三ヶ月は必要と考えられる。
(「開拓者なら‥‥なんとかなるか‥‥」)
 興志王は志体持ちの開拓者に頼ることにした。同じく志体持ちの自分も加われば持ち上げられるだろうと。
 巨人が動き出したとして危険がないとわかれば公開するが、しばらくは内密にしたい。なるべく以前に協力してくれた開拓者を集めて欲しいとギルドに依頼する興志王であった。


■参加者一覧
音有・兵真(ia0221
21歳・男・泰
和奏(ia8807
17歳・男・志
磨魅 キスリング(ia9596
23歳・女・志
フィーネ・オレアリス(ib0409
20歳・女・騎
十 砂魚(ib5408
16歳・女・砲
鹿島 紫(ic0144
16歳・女・砲
鹿島 綾(ic0145
20歳・女・騎
国無(ic0472
35歳・男・砲


■リプレイ本文

●眠る巨人
 希儀の羽流阿出州までは神楽の都から精霊門でひとっ飛びである。
「よう、よろしくな」
 開拓者八名は真夜中に羽流阿出州の精霊門前で興志王と合流を果たす。彼は臣下を連れず一人であった。
 全員で秘密裏に頼んだ業者の倉庫へと出向いて事前準備しておいた品を受け取る。なるべく目立たないよう夜明け前に街の外へと出た。
 物資を載せたもふらさま達が牽く荷車を交代で後ろから押しながら進んだ。
 遺跡はすぐ近くだが中心部の塔に辿り着くまでの道のりには多量の砂が積もっている。大したことない距離にも関わらず悪路のせいで到着まで小一時間を要す。もふらさま達と一緒に霊騎・名無シが牽いてくれなければもっと二時間はかかったことだろう。
 続いて塔の出入り口を使えるようにするために被せておいた砂山の除去を開始。約一時間後、ようやく隠れていた出入り口の塔扉が姿を現す。
 さっそく中へ入ることに。
「たしかに大きいな。土偶って大きさでもない気もするが。オリジナルアーマーより大きそうだな。そういや轟砲ってのがいたな」
 塔の扉を潜ったばかりの音有・兵真(ia0221)は篝火を掲げながら横たわる巨人の足部位を眺める。暗くて全貌は把握出来なかったものの巨大さはよくわかった。
「これを組み立てたら、一体どんな物が出来上がるのかしら。想像するだけでもワクワクしてくるわよね? 紫」
「ぉー‥‥結構大きな指ですね、おっきいのが出来そうです。見上げたらさぞ壮観でしょうねー。一寸重労働ですけど、頑張りましょう、りょーさんっ」
 鹿島 綾(ic0145)と鹿島 紫(ic0144)は右の手のひらに乗っかって大きさを確かめる。二人で指に抱きついてみた。
「街の様子は帰ってから見ることにして‥‥それにしても元気だわね」
「どうしてもこいつのことが頭の中から離れなくてな。これ、重いぞ」
「あら、力仕事が得意なの、意外かしら?」
「そりゃ助かる、じゃ、いくぞ、せぇのーで!」
 国無(ic0472)は鎖が収まった重い木箱を降ろそうとしていた興志王を手伝う。
 興志王と国無が呼吸を合わせてわずか床から数センチの高さから落としただけで激しく砂埃が舞い上がった。それだけ鎖が重く、また塔内に砂が侵入しているのがよくわかる。
「巨人の部位を持ちあげるにしても結構、力仕事ですね‥‥平和なのは良いことですけど。それにしてもこの部分の繋がりはどういう感じなのでしょうか‥‥」
 和奏(ia8807)は興志王から預かった巨人の組み立て図をまとめた紙束に再度目を通していた。以前に塔の上階に存在する壁画を写したものの一部である。そのときには組み立て図と理解しないまま描き写したので重要な部分が端折られているかも知れなかった。
 音有兵真と鹿島綾もその点には同感で三人はあらためて組み立て図の壁画を写しに階段を登る。
 他の者達は朝食の準備を始めた。もうすぐ夜明けだが働きづめだったので仮眠をとるためだ。お腹が空きすぎてこのままでは眠れないと興志王がいったからだが、開拓者の中にも賛同する者が多かった。
「腹が減っては戦は出来ぬ、ですよっ」
 鹿島紫は率先して料理を作る。さっそく包丁を取り出して野菜の皮むきを始めた。
「巨体を組み立てる作業はまさにアーマーにうってつけの作業ではありませんか。今から腕が鳴ります」
 磨魅 キスリング(ia9596)は火を熾してかけた鍋に汲んできた水を注いだ。
「そうですわね。しかしああやって横たわっている部位を眺めるとずんぐりとした姿にも感じられますね。実際に組み立ててみないとわかりにくいですけれど」
 フィーネ・オレアリス(ib0409)はソーセージに次々と切れ目を入れていった。
 興志王が用意したソーセージはそのままだと食べられたものではない。保存のため非常に塩っ辛く作られていたからだ。脂分も非常に多い。その代わり鍋用の具としては最高のもの。湯に放り込むだけで塩分と脂が溶けて味わいを豊かにする。
 天儀出身者が多いので軽く醤油が足され、ジャガイモなどの根野菜も一緒に鍋の中で煮込まれた。
「搭乗口は見当たりませんし、やっぱり土偶ゴーレムの様な物ですの? 石にも見えますけど金属のような気もするですの」
 十 砂魚(ib5408)は横たわる巨人の胴体の上で拳で各所を叩きながら開閉部分を探してみたが見つからない。頭部も調べてみたが同じであった。
「人が乗り込むとすれば手足はありえねえからな。どうなんだろうな。自立しているのかそうじゃねぇのか‥‥。俺は自立型じゃねぇかなって思っているぜ」
 十砂魚に答えながら興志王も胴体の様々な部分を触ってみた。前にも調べてみたが、やはりそれらしき箇所は見あたらなかった。
 鍋が出来上がって写しにいった上階にいる三人を鹿島紫が呼びに行く。全員が揃ったところで鍋をつつきながら巨人についてを考察する。食べ終わって見張りの順番を決めると各自天幕で睡眠をとった。
 組み立てが長丁場になるのは明白。無理をせず体力の温存と回復を図りながら作業を進めるのであった。

●重労働
 作業を再開したのは午後過ぎ。
 壁画を写す作業と準備が並行して行われる。すべては終わらず翌日への持ち越しとなる。
 そして二日目。一同はまず試しに半分の頭数で胴の部位を持ち上げてみた。半数で挑んだのは場合によっては二つの部位を同時に持ち上げる必要があったからだ。
 何とか持ち上げることは出来たものの一分持たずに断念する。
「人力で持ち上げるとして補助の支えは‥‥砂山じゃだめだな」
「持ち上げるだけならアーマーを使えばよいのですが、常時は無理ですし‥‥」
 興志王と磨魅が同時に呻る。
 試しに砂山を作って右腕を載せてみたが全然駄目。まるで豆腐の上に座ったかのように潰してしまう。アーマーを使えば楽になるとはいえ搭乗者の練力は限られている。第一にアーマーの手では精密な組み合わせが難しかった。
「砂を積み上げるよりも、土嚢を作って土台を組む方が良さそうね」
 呟いた鹿島綾に全員が振り向いた。
「土嚢はよい考えですね。袋の他に縛る縄も必要でしょうか」
「買い出しには駿龍の空電を使えばひとっ飛びだ」
 フィーネと音有兵真がさっそく案を発展させる。
「縄はいいとして問題なのは袋ね。土嚢の袋といえば麻袋。買い出しにはこの子も手伝うわ」
 国無が霊騎・名無シの首を撫であげると元気に啼いた。ぐっすりと休んだおかげで昨日の疲労も残っていないようだ。
「砂ならたっぷりありますし、土嚢袋だけなら畳めばすぐに運べますの。埋まっている場所を調べる為の砂止めに使うとかいえば、それ程怪しまれないと思いますの」
 十砂魚は羽流阿出州での購入方法を提案する。希儀の各地で開発が行われているので、土嚢用の麻袋は多く扱われているはずだと。
「土嚢を水で濡らせば中の砂が固まって滑りにくくなるはずですわ」
「自分も同じことを考えていました。この遺跡内では川が流れていますしね」
 和奏とフィーネは水の利用を思いついた。
 開拓者達のうち何人かは土嚢用の麻袋を購入しに羽流阿出州へと戻る。残った者達は組み立て図を読み解いた上で実作業方法を探った。
 鹿島紫は食事を一手に引き受けることに。
「昨晩のうちに川に罠を仕掛けておいたら鰻が獲れたんですよっ。ほらたくさん。綺麗な川なので泥を吐かせる必要もなさそうなので、夕食は期待してくださいっ」
 鹿島紫は出かける仲間達に手を振って見送る。
 最初の土嚢袋が届いて興志王も一緒に砂を詰める作業を行う。検討も終わって手伝いが増えた。
 土嚢袋の購入搬送は夕方までかかる。その日のうちに全購入の半分に砂が詰められた。後は必要に応じてやることになるだろう。
「力をつけてくださいねっ。はい、りょーさんさん」
「や、山盛りね」
 鹿島紫から受け取った鰻丼はうずたかい御飯の上に蒲焼きがのっている。どうやら御飯の山の中にも蒲焼きが隠れているようだ。
 誰もが驚いている中、興志王だけは当然といった表情で箸を手に取る。
「こりゃうめえな。あの川でたくさん鰻が獲れるようなら名物になりそうだぜ」
 興志王はあっという間に半分を胃袋に収めた。
 遠回りのように感じられても丁寧な準備こそが完成への近道。怪我も未然に防げる。明日からの接続作業に気合いを入れる一同であった。

●組み立て開始
 三日目の朝日が昇った。
 興志王の考えによって胴体と右腕が取り付けられることになる。
 まずは胴体の横に土嚢袋を積んで水をかける作業を開始。そして組み立て図では俯せた状態での接合になっていたのでひっくり返すことに。
 接合部分によっては仰向けの推奨もされていた。おそらく理由があるのだろうということでそのまま再現する。
「受け持った樽の分は終わったぞ」
「こっちもも空ですの」
 塔の中で垂直に飛び上がった駿龍・空電を駆る音有兵真と炎龍・風月を駆る十砂魚は上空から水を撒いた。おかげで土嚢袋の山にまんべんなく水がかかる。
「少し待ってください。少しだけかかっていない袋があるようですので」
 土嚢袋の山に乗って確かめる和奏の後ろにはふわふわと人妖・光華の姿がある。光華が教えてくれた土嚢袋に水をかけて準備が整った。
 開拓者搭乗済のアーマー四体が巨人の胴体横へと一列に並ぶ。
 磨魅はアーマー・ギュンター。
 フィーネはアーマー・ロートリッター。
 鹿島紫はアーマー・不知火。
 鹿島綾はアーマー・火竜。
 これだけの巨体ならば頑丈だろうと少々手荒な方法を用いることに。ようは勢いをつけてひっくり返す作戦だ。発案者は興志王である。
「ほらほら、ちゃんと声を出さないと、怪我するわよ。銃声に合わせるのよ、いい?」
 音頭をとったのは国無。『朱藩銃「天衝」』の銃口を砂山へと向けて合図の銃声を響かせた。
 屈んでいた四体のアーマーが一斉に立ち上がりながら巨人の胴体右側面を持ち上げる。その勢いのまま上方へと放り投げた。数メートル浮き上がった巨人の胴体は空中でひっくり返りながら敷かれた土嚢袋の山の上へ。
 一部を崩しながらも土嚢袋の山は何とか形を維持していた。そこからの微調整は直接の人力で行う。
「力持ちって訳でもないが、手の数、位にはなるだろう。みんな! 腕だけで持つなよ。腰がやられるぞ」
「支えるだけでも、なかなか重労働ですの」
 音有兵真と十砂魚が持ち上げている間に素速く和奏と磨魅が土嚢袋を挟み込んだ。これを繰り返して巨人の胴体を組み立て図が示す理想の角度へと傾ける。
 右腕の下にも土嚢袋は敷いたがこちらは胴体部分よりも大雑把だ。どのみち追い込みは担ぎながら人の手でやらなければならないからである。
「手足は、出来るだけ左右同時に取り付けたい所ね。でないと、バランスが崩れて大変な事になりそうだもの」
「そうしたいのは山々なんだが‥‥」
 鹿島綾の意見はもっともだ。しかしさすがに同時は難しいと興志王は考えていた。
 妥協案になってしまうが少しでも巨人の部位が歪まないように右腕が終わったらすぐに左腕にも取りかかることにする。
「お、重いですっー」
「も、もっと上ですわ」
 鹿島紫とフィーネが並んで右腕の付け根を持ち上げた。両腕だけでなく身体を潜り込ませて背中で支える。
「いくぞ!」
「あたしはいつでもいいわよ」
 興志王と国無は胴体右側面の微調整。力一杯に持ち上げるだけでは不十分。一定の高さを維持するのは非常に堪えた。
 右腕の下椀部分に鎖が取り付けられている。鎖は三本の支柱上部に取り付けられた滑車を経由して磨魅、音有兵真、十砂魚、鹿島綾の手に握られていた。
 一定の引っ張りを維持することで巨人の右腕の位置合わせを補助する。接続部分の最終調整は和奏が担当した。
「もう少し胴体に近づけます‥‥。ここです、このまま維持です」
 仲間が支えてくれている部位を微妙にずらして完全に填め込んだ。仮に楔と呼んでいる部品で接合してゆく。
 急いで楔を手渡す人妖・光華。焦らず確実に接いでゆく和奏。仲間達の顔がみるみるうちに真っ赤に染まる。
 接合にかかった時間は二分で済んだ。
 和奏がつけ終わったと告げると誰もが限界で部位から手を離す。誰も下敷きにはならなかったが息絶え絶えである。
 肩で息をする仲間達に和奏が水を運んだ。落ち着いてきたところで事前に用意していた甘い食べ物を手渡す。
「‥‥‥‥なんとしても今日中に左腕もつける必要がある。もう少し休憩したら‥‥‥‥やるぞ」
 興志王も疲れていたが力を振り絞って立ち上がる。その日のうちに巨人の胴体には左腕も取り付けられるのであった。

●巨人
 四日目は巨人の両足をどう接合をどうすればよいかの検討に費やされる。
 それはあくまで表向きの理由。本当は休憩のためだ。それほどに両腕をつける作業で全員が疲れ果てていた。
 興志王も例外ではなかった。眠ったときには大いびきをかいたという。
 五日目は巨人の胴体を仰向けにする作業から始まった。鎖で両腕を胴体に縛り付けた上で以前と同じようにアーマー四体によってひっくり返す。重量は増していたが、そこは二度目の慣れによって無事に成功させた。
 六日目の両足をつける作業でも磨魅、フィーネ、鹿島綾、鹿島紫がアーマーに搭乗して参加する。
 これから先は練力を温存する必要がない。また更なる安全確保の意味もある。最後に頭部の接続が残っていたものの、全員の協力さえあればさほど困難なものとは考えていなかった興志王だ。
 右足、左足と汗だくだくになりながら胴体への接続作業は完了。全員が身体を引きずるように川まで辿り着き、行水して身体を清めてから用意しておいた食事をとる。
 見張りを決める間もないまま全員の意識が落ちる。泥のように眠り、気がついたときには七日目の朝になっていた。
「さて‥‥鬼が出るか蛇が出るか‥‥」
 頭部と胴体の楔を取り付ける微調整作業は興志王が行うことに。開拓者達が支えてくれる中、楔を使って接いでゆく。
「大きさからしても、土偶よりも精霊力を使いそうですの‥‥」
 十砂魚は特に警戒していた。この巨人がもしも人に仇なす存在ならば脅威である。見かけの意匠は優しそうだがそれだけでは信じるに値しない。
「成功ですね。それとあちらを見てください。あれ、さっき動いたのですけれどおかしいですね」
 安穏とした表情で和奏が告げた。巨人の頭部と胴体が繋がった瞬間、右足首が動いたことを。ちなみに和奏は巨人を危険な存在とは捉えていないようだ。
 全員が遠巻きになって横たわる巨人を眺め続ける。和奏がいったことは本当で巨人はやがて上半身を起こし、その場であぐらのような座り方をした。
 無理に立ち上がらなかったのは塔の中だと理解しているからだろう。つまりかなりの知能が期待出来る。
「十五‥‥ぐらいですかねー」
「いやもう少しありそうね」
 鹿島紫と鹿島綾は巨人の身長を想像した。残念ながら座ったままなので正確な高さはわからなかった。
「すべてが繋がったらすぐに動き出すなんて面白いわね。あなた喋れるの?」
 国無が真っ先に巨人へと声をかける。
 最初は呻くような叫び声ばかりだったが、やがて徐々に理解できる単語を口にするようになった。
「俺は外の儀から来たもので名は興志宗末だ。朱藩って国を統べている。お前の名は? 作られた理由は何なんだ?」
 興志王の問いかけに巨人はしばらく無言だった。
『‥‥わからない‥‥。名も、どうして我がこうしているのかも‥‥‥‥』
 巨人は座ったまま口だけをわずかに動かす。嘘をついているのかどうなのか判断するにも得られる情報が少なすぎて判断に迷う。
「とても興味ありますわ‥‥。謎の巨人なんて」
 フィーネは時間が許す限り巨人の絵を描き続けた。
 塔の外に出たいかといった興志王からの問いに巨人は興味がないと答えた。興志王はしばらく塔の中に留まってもらうことにする。今はまだそのときではないと。
「仕方ありませんが残念ですね」
「次の楽しみにとっておきますっ」
 鹿島綾と鹿島紫は巨人の身長を知る機会を逃して残念がる。
「疲れをとるにはこれが一番だ。巨人を囲んでの酒宴なんてまあ滅多にない経験だろう」
 これで仕事はお終いだと興志王がいったところで、音有兵真がとっておきの酒をつまみを取り出した。さっそく酒を呑んでのどんちゃん騒ぎが始まった。
「そういえば昨日、巨人さんが持てそうな大きな道具らしきものを遺跡の中で発見しました。磨魅さんと水汲みをしにいった一緒のときです」
「槍のような形をしていたのですけど、実際にはどうやって使うのかわかりませんでした」
 和奏と磨魅が興志王に話す。気にはなったが数日間は何もしたくない気分でいっぱいの興志王だ。頭の隅にだけは置いておく。
「全員に擦り傷以外の怪我がなかったのは幸いだったわ。こうやって巨人も動いてくれたし‥‥」
「大人しい奴でよかったぜ。少しは過去を思い出してくれればいいんだがな」
 国無が酌をしてくれた酒を興志王が一気に飲み干す。
「ひとまず安心ですの‥‥」
 十砂魚は頭の上の狐耳を揺らしながら巨人を見上げる。とはいえ完全に気を許したわけではなかった。
「ずんくりとしているのは鎧風のデザインのせいですね。立ってみればスマートかも知れません」
 巨人をモデルに何枚も絵を描いたフィーネは一番細かく観察していた。
 滞在出来るぎりぎりまで一同は巨人との問答を繰り返し交流をはかる。
 興志王が事情を説明して再び眠ってもらいたいと願うと巨人は素直に従ってくれた。頭部を取り外すと動かなくなる。
「暇があればずっと調べていたいところなんだが‥‥出来るだけ早めにまた来るつもりだ。巨人が何者なのか気になって仕方がねぇ」
 巨人を塔に残したまま興志王と開拓者達は遺跡を去るのであった。