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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 天儀から離れた希儀には拠点といえる場所が二カ所存在する。 一つは宿泊地『明向』。そして南部の海岸に面した『羽流阿出州』だ。どちらにも精霊門は建設済みで開拓者達への便宜が図られている。 羽流阿出州は建設地近くの遺跡外縁の石壁に刻まれていた綴りから朱藩の王『興志宗末』が命名したという。当て字でありパルアディスと読む。 羽流阿出州の街そのものは遺跡東側の土地を開発して作られている最中。つまり羽流阿出州の街から見れば遺跡は西側となる。 遺跡内を貫くように流れる川の上流へと用水路を繋いで羽流阿出州内に水を供給する工事が終了する。 開拓者ギルドを通じて精霊門を利用し、朱藩安州と羽流阿出州を行き来していた興志王も一段落がついたと判断した。 人が住みやすいよう整備してあげれば、後は勝手に賑やかになるものだ。治安維持に関しては常に注意が必要だが。 (「そろそろ手をつけるか‥‥。このままにはしておけねぇからな」) 沿岸に浮かぶ超大型飛空船『赤光』。その側に小舟を下ろして釣り糸を垂らしていたのは興志王である。 考えていたのは羽流阿出州の西にある遺跡について。街の開発を優先して遺跡探索についてはこれまで禁止にしてあった。 (「やはりここは‥‥開拓者を連れて行くか」) 朱藩軍の編成で調査しようか、少人数での探索から始めようか。少人数だとして部下にするか、それとも外部から招くか。いろいろと想定してみたところ、ここは開拓者ギルドに協力を仰ぐことにする。ちなみに最初から自分を外す選択肢はなかったようだ。 あたりを感じて竿をあげてみると見慣れた魚が釣れていた。 「こっちの海にもアジがいるのか。アジの開きなら多少は持つから天儀に持っていて商売も出来そうだな‥‥」 興志王は釣りを終えた後、龍で羽流阿出州までひとっ飛び。 「ちょっと頼まれてくれるか?」 「こ、興志王様! 今日はどのようなご用件‥‥。いえ、まずは奥へご案内します」 未だ慌ただしい出来たての羽流阿出州ギルドにて開拓者募集の手続きを自ら踏むのであった。 |
■参加者一覧
和奏(ia8807)
17歳・男・志
磨魅 キスリング(ia9596)
23歳・女・志
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
十 砂魚(ib5408)
16歳・女・砲
嶽御前(ib7951)
16歳・女・巫
ナザム・ティークリー(ic0378)
12歳・男・砂
国無(ic0472)
35歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●夜明け前 開拓者九名は精霊門で神楽の都から羽流阿出州へとひとっ飛び。そして現地で待っていた興志王と合流して宿に向かう。 「んでな、これなんだがが――」 興志王と一緒に宿の卓を囲んで腹ごしらえ。これから探検する羽流阿出州のすぐに近くに存在する遺跡についてわかっていることを再確認した。 「あら、これはいけるわね。味付けはオリーブオイル?」 国無(ic0472)は宿の者に希儀料理指南書を貸してその中にあったレシピを再現してもらった。その中の一つ、『かるぱっちょ』はとても美味である。 本来なら牛肉を使うのだが、海辺の街だけあって海産物で代用されていた。鮪の赤身かるぱっちょは大好評だ。 「これ、あたし前にイワシで作ったことがあるよ〜♪」 リィムナ・ピサレット(ib5201)もかるぱっちょを頂きながらもぐもぐと頬を膨らませる。 (「生の魚に味付けしたものか‥‥。ラクダと一緒に砂漠を歩くときには絶対に食べることのない料理だな」) 悩んだ末にナザム・ティークリー(ic0378)は一口だけ食べてみた。美味しいと感じたかどうかはナザムのみが知ることである。 (「興志王陛下がお怪我などなされないようしっかり注意しなければ‥‥。ですがやんちゃな方ですから‥‥」) フィーネ・オレアリス(ib0409)も料理を頂きながら興志王の説明に耳を傾けた。探検を通じて、希儀にかつて住んでいた者達の痕跡が見つかればと考えながら。 嶽御前(ib7951)も興志王のことを心配していた一人だ。 (「一緒に行動して頂ければ加護結界で常に護ることが出来ます。力を貸してくださいね」) 後ろに立っていた、からくり・鏡に振り向いて嶽御前は微笑んだ。 和奏(ia8807)も自分の朋友に期待していた。 「石ばかりの建物が並んでいるはずです。逆に考えればその他の素材で出来た品物は貴重といえるでしょう」 和奏は人妖・光華に事前の情報を聞かせながら自分自身も再確認する。 (「その石造りの希儀の遺跡をみたいのですの」) 十 砂魚(ib5408)は真っ先に上空からの遺跡の様子を確かめたいと考えていた。だが今は箸で料理を摘む。 外は月が出ていない真っ暗な夜。炎龍・風月で滑空しても危険なだけである。ただ夜が開けてすぐに興志王から時間をもらって確認するつもりでいた。 「興志王、探検中の寝泊まりはどうなさるおつもりで?」 フレイア(ib0257)がふと気になっていたことを興志王に訊ねる。 「これだけ近いんだから街のこの宿に戻るつもりだが、もし気になるもんが見つかったら現地に留まるつもりだぜ。天幕もいくらか用意したからな」 興志王の返答を聞きながら心の底から楽しそうだとフレイアは心の中で呟いた。笑顔で興志王の犬歯は輝きっぱなしである。 「そうなると思って食料の調達も万全ですわ♪ お任せくださいませ!」 磨魅 キスリング(ia9596)はすでに宿の主に頼んであった。宿の在庫で足りない分は朝市で調達してくれる約束である。 しばらくして夜が明けたが普段の旅や冒険と違って急ぐ必要はなかった。空からの偵察を望んでいた十砂魚にとってもその方がよいはずである。 日が昇ってから二時間後、食材などの準備や偵察も終了する。 興志王と開拓者の探検隊は羽流阿出州の近くに佇む遺跡へと足を踏み入れるのだった。 ●埋もれた遺跡 探検隊は城塞の崩れた石材の山をよじ登って遺跡の中へと到達する。 「上空偵察の報告で知ってはいたがこりゃ、凄まじいな‥‥」 興志王が砂埃で思わず咳き込んだ。 「特に海に近い南側が酷いようです」 屈んだ十砂魚が足下の砂を掴んでみる。 空中偵察によって遺跡内部に砂が堆積していることは判明していた。口を覆うための布はちゃんと用意されている。使っていなかった者も急いで口元を塞いだ。 「海風で飛んできた砂が長い年月の間に溜まったのですね」 和奏は布と同じく急遽用意したゴーグルを仲間達に配った。自らは所有するゴーグルで目を保護済みだ。 「それでも建物はちゃんと考えられて造られたようですの」 十砂魚が石造りの建物を指さす。南側の壁面には入り口や窓が非常に少ない。あったとしても風除けの壁と併せてだ。とはいえあまりの量に北側まで回り込んで堆積している砂山もあった。 「砂に埋もれようとしている遺跡なのね。片づける人がいないせいなのでしょうけれど」 国無は曲線が多く用いられた建物に興味を示す。建物だけでなく転がる日常的な雑器にもそのような傾向が見られた。建物に関しては完成直前にわざわざ外壁を削ることで曲面を表現しているようだ。 「まずは大まかに遺跡を調べないといけませんわ」 磨魅の意見に誰もが同意する。 遺跡は一辺約一キロメートルの正方形を成している。なので適当に歩き回っても大した時間はかからないはずである。一週間といった日数を用意したのは発見した何かを精査するためのものだ。 まずは全員で幅の広い道を選んで散策する。 「これは‥‥違う? 違うようね」 国無は建物を見上げながら足を止めた。 「どうしたんだ?」 「削ったのではなく粘土のようなものを塗りたくって造形したみたいなの」 興志王に答えながら建物に近づいた国無はなだらかな表面を撫でた。最初に確認した建物のように削って曲面を整形したものあるが、これのようにそうではないものもある。 「粘土ではないような」 「石材と似た粉を捏ねて固めたようなものではありませんか?」 フレイアとフィーネも建物の表面に顔を近づけて確かめる。 「そのような技術があってもおかしくはありませんね」 嶽御前はどこかで似たような建築方法を聞いたことがあるという。天儀の漆喰とも違うジルベリアかアル=カマルのやり方だと。もっともすでに失われた技術の可能性もある。 「ジャザウ、頼りにしてるぜ‥‥今日は隅から隅まで走り回ることになりそうだからな」 ナザムは建物の外壁を拳で軽く叩きながら霊騎・ジャザウ・カスワーウに話しかけた。 「あの塔もこれと同じ建築のやり方で造られているのかな?」 リィムナが振り向いた先にあったのは遺跡中央にそびえる巨大な塔だ。 「どうだろうな。やっぱ自分達の目で確かめるとするか!」 興志王はにやりと笑いながらリィムナに視線を送ってから歩き始める。 誰もが塔には興味があった。また興志王を護衛しようと心に決めた者も。 美味しい物は先に食べるのが興志王の中の決まり。散策を取りやめて全員で塔へ向かうのだった。 ●塔の上部 塔の一階部分は砂で完全に埋もれていた。 「まずは取り除く作業からだな」 興志王は自らスコップを握って掻きはじめる。 中に入るにはいくつかの方法がある。 砂山の上に登って塔の壁面に穴を開けて中に入る方法。また十砂魚の炎龍・風月で高層部の小窓まで運んでもらって途中の階から突入する方法も。だがどちらも興志王が難色を示した。せっかくの機会なので正攻法でいこうと。 「少し離れていてくださいね」 砂地を掘り下げることによって本来の地面と壁の位置が大体わかる。そこでフレイアが確実に砂山だと思われる部分をララド=メ・デリタによってより体積の少ない灰へと変化させた。 そしてアーマー二機の出番である。アーマー・ギュンターを駆る磨魅とアーマー・ロートリッターのフィーネだ。 「ここは一気にやってしまいますわ」 「このような作業は早く終わらせるに限ります」 アーマーを動かす磨魅とフィーネは大量の砂を即席スコップで掬って退かしてゆく。 即席スコップはそれぞれのアーマー用武器に急ごしらえの木製部位を取り付けたものだ。 十砂魚が炎龍・風月に乗って羽流阿出州に戻っていち早く大工に注文。完成した木製部位は霊騎・ジャザウを駆るナザムと走龍・名無シに乗った国無が塔近くまで運んでくれた。 「こりゃすげえな」 開拓者の協力によって身長を軽く超える砂の山が瞬く間に整理されてゆく。入り口らしき箇所が見つかって、そこだけは丁寧に行うために人力で取り除いた。 いや人力というのは正しくない。からくりのヴァナディース、ヴェローチェ、鏡の活躍は素晴らしい。志体持ちに負けず劣らず砂を運んでくれた。 取りかかって三時間後には塔の一階内に吹き込んでいた砂まで取り除かれる。調査を再開する前に腹ごしらえとして持ち込んだ握り飯を頬張った。 「さてと中は安全だと思われますけど、注意していきましょうか」 和奏は塔一階の中央で『心眼「集」』を使う。 人妖・光華も人魂で小動物に変化して危険を探ってくれた。少なくとも二階、一階、地下一階に敵になりそうな存在は隠れていなかった。 「地下もあるんだね〜。どっちを先に調べるのがいいと思う?」 腕を組んで首を傾げるリィムナはからくり・ヴェローチェに相談する。 『迷いますにゃ〜』 からくり・ヴェローチェもリィムナそっくりに悩み、二人で唸り続ける。 「こいつの丁半に任すか。丁が上、半が下な」 興志王は賽子二つを取り出して転がす。合わせて八で丁。まずは登ることに。 「極端に窓が少ないですわ」 外壁に沿った螺旋階段を登りながら磨魅が辺りを見回す。 採光用の窓はあったが小さいせいで非常に暗かった。吹き込んだ砂のせいで完全に塞がっている箇所も多い。昼間だというのに用意してきた提灯を点けての探索となった。 「あそこに壁画があるようですね」 五階に到達したときに和奏が暗闇の向こうを指さす。人妖・光華が暗視で発見して教えてくれたのである。 「確かにありますね」 嶽御前が『瘴索結界「念」』で安全を確かめてから全員で近づいた。 からくり・鏡が提灯を掲げると闇に壁画が浮かび上がった。絵の具などの塗りで描かれたものではなく、ノミなどの道具で深く刻まれた線画である。 「砂といい、故郷を思い出すな。ここにラクダの絵があればアル=カマルだと錯覚しそうだ」 ナザムは目を凝らして壁画の内容を確認した。 麦の穂がたなびく景色、枝から垂れる葡萄の房などなど。どうやら一年に渡る農作物の種まきや収穫の機会を記したもののようだ。その他の内容も闇の向こうにありそうである。 「祭事のための塔なのかも知れませんの。でもそれだけにしては大げさ過ぎるような‥‥そんな気がしますの」 「あまりに物がないのが気に掛かりますわ」 十砂魚とフレイアは、この塔が何のために建てられたのかを推理する。 「何かがあった‥‥のかも知れないわね」 国無は膝を折って石床に注目した。 加工がされており、何かを固定させるための複雑な突起がある。また幾何学的に彫られた溝も存在した。 「こちらがあれば、もう少し明るくなるでしょう」 フィーネは提灯の他に用意してきた南瓜行灯を灯した。 「この壁画‥‥十分な価値がありそうだ」 興志王が頷く。 今日から明日の朝にがけてはこの壁画の内容を描き写すことになる。その前に塔の天辺まで登ってみることにした。 途中の階にも気になる図形は彫られていたものの、五階の壁画程の鮮烈さはなかった。 数えて十二階の塔の天辺はとても狭い。無理をすれば全員が登れたが、三、四人ずつ交代にあがることにする。 「アタシには国が欲しい、王が欲しいと思う心情は理解できないわ」 最初に天辺へ登った一人、国無が景色を見下ろしながら呟いた。その方角には開発中の羽流阿出州の街が佇んでいた。 「でも幸せに暮らしている人の生活を見るのは好き‥‥」 懐かしむような国無の声は近くにいた興志王の耳にも届く。 「数年後、ここに住む人たちは、どんな顔をしているのかしらね?」 そういって国無は興志王へと振り向いた。 「小数なら別だが人が多くなればまとめ役は必要さ。王と生まれた俺にとってそこは譲れねぇ。まあ、頑張ったやつがなるべく報われるようにはするつもりさ。名のある裕福な商売人への特権は控えさせるつもりだから‥‥おっとこれは内緒だぜ」 残しておいた握り飯を囓りながら興志王も羽流阿出州の街並みを眺めた。 全員が塔の天辺から景色を楽しんだところで五階へと戻る。 「絵ばかりで文字は殆どありませんね‥‥」 和奏は人妖・光華に照らしてもらいながら筆を動かした。役立つところを和奏に認めさせようと光華は懸命に提灯を掲げて壁を照らす。 『リィムにゃん、これおかしいのにゃ』 からくり・ヴェローチェがリィムナを呼び寄せる。リィムナと一緒に興志王もヴェローチェの側へと近づいた。 「大きい人が立っているだけに見えるけど、王様はどう?」 「俺にもそうにしか見えけどな」 リィムナと興志王の意見は同じ。目の前の壁画は農作業をしている様子にしか見えなかった。 『この小屋、小さいのにゃ。人が大きすぎるしなんだか太っていておかしいと思うのにゃ』 からくり・ヴェローチェは手振り身振りを交えて懸命におかしな点を説明した。 「そういわれると大きさが変だよね」 「う〜ん、出鱈目が普通の絵ってあるからな。特に昔のは」 リィムナは曖昧ながら納得しかけていたが興志王はそうではなかった。ただこれが後に真実を写していることがわかる。 ここに泊まることになったので、十砂魚と嶽御前が調理を担当した。砂掃除をしている間に集まった枯れ木があったので燃料に問題はない。 空気の問題がないところで転がっている石を組んで窯を作る。そして火を熾した。 「御飯はお任せくださいの。赤子泣いても蓋とるなですの」 十砂魚が飯炊きを担当。 「ジャガイモと塩漬けの豚肉で肉ジャガにしましょうか」 嶽御前はおかずを作り始める。 「水はこんなもんでいいか」 水は霊騎・ジャザウを連れたナザムが運んでくれた。石瓶がたくさん落ちていたのでそれらを利用して。 偵察がてらだったので川に向かう前に遺跡を一周したナザムだ。今のところ、敵らしき存在は皆無であった。 「塩の害を考えると海岸線付近に畑を作ったりはしないはずです。そう考えるとこの塔の農作物の壁画はちぐはぐのような気がしますね」 夕食時、フレイアが疑問を口にした。 「川は流れていますのでこれより北の土地なら絶対に無理とは思いませんが‥‥確かにそうですね」 「遺跡内で耕作に利用された土地は皆無のような気がしますわ。だって建物ばかりですし。わずかにある空き地も、とても畑に使ったとは思えませんわ」 フィーネと磨魅の意見ももっともである。 夜になって就寝。交代で見張りをしたが何事もなく朝を迎えるのだった。 ●地下 それは地下四階に眠っていた。 最初に発見したのは人魂でフクロウになって偵察をしていた人妖の光華である。急いで戻って和奏に伝えられた。 「巨大な胴が横たわっているそうです」 和奏の言葉に全員が注目する。 「胴? それは人型の胴ってことか?」 興志王の問いに和奏は「はい」と大きく答えた。 全員で階段を急いで駆け下りて地下四階へと辿り着く。暗くてよくわからないが、広い空間の中央に確かに巨大な何かが横たわっていた。 最初に登った国無が持ってきた荒縄を垂らす。 全員が胴と思われる物体の上に乗って確かめる。確かに人妖・光華が表現する通り、巨大な胴にしか考えられない形状をしていた。 『あの壁画はこれだったのにゃ』 「ヴェローチェ、すごいよ〜♪」 リィムナとからくり・ヴェローチェは両手を挙げて大喜び。 「からくりというよりも‥‥土偶の形状に近いようですね」 フレイアは均整のとれた、からくり・ヴァナディースを眺めた後で呟いた。 「‥‥他の部位はないのか、優先して探すべきだな」 興志王の意見に反対する者はいなかった。 「何とかなりますわね」 「大丈夫でしょう。行きます」 フィーネと磨魅は仲間達が塔の地下を探っている間に胴と思われる部分をアーマーを起動させて一階まで運ぶ。幸いに胴は巨大な台車に載せられており、また幅広の螺旋状溝付き斜面も用意されていた。 アーマーのロートリッターとギュンターの活躍によって無事に運ばれた頃、仲間達も一階に集まった。残念ながら他の部位は塔内で見つからない。 一旦、羽流阿出州へと戻った探検隊は宿で休みながら今後を相談。遺跡のどこかに他の部位が隠れている可能性が高いと踏んで翌朝から調査を再開する。 「頭っぽいのを見つけたぜ!」 ナザムが頭部を発見。場所は城塞に併設された兵の休憩所のような施設だった。 「腕と思われるものを見つけましたの」 十砂魚が右腕を発見。ある建物の屋上に分解されて置かれていた。 「あの砂山を鏡が気にしてくれたのが発見のきっかけでした」 嶽御前が左腕を発見。砂山の下敷きになっていた。 「ふと見たらあるんですもの。驚いちゃったわ」 国無が左足を発見。まるで柱のように遺跡の風景に紛れて立っていたという。 右足は興志王と一緒に行動した全員が発見する。川岸に転がっていたが季節によっては川の中だったに違いない。そうなれば発見は困難。運がよかったといえた。 すべての部位は塔の一階へと集められる。この作業がとても大変で滞在日数の殆どが費やされる。 応援を呼ぶことも考えられたが、しばらくは秘密にしたいという興志王の意向で探検隊の一同のみで行われる。 「動きませんわ」 磨魅が首を横に振った。 適当に部位を繋げてみたものの、巨人像は動かないまま微動だにしなかった。 「それにしても大きいですね」 フィーネが歩数で横たわる巨人像の身長を測る。余裕で十五メートルはありそうだ。接合の仕方がわからないので、もっと高いかも知れない。 「これを造るための工場かも知れないですね」 「造らせたのは為政者に間違いないと思います‥」 フレイアと和奏は二階に至る途中の階段の上から巨人像を眺めた。 期間が過ぎると誰かに発見されないよう出入り口を砂で埋め直してから一行は遺跡を去った。 「また調べにこないとな。あの巨人像をそのままにはしておけねぇし」 後ろ髪を引かれるように興志王は何度も遺跡へと振り向いた。 「あの刻みがもしかして羽流阿出州の由来かしら?」 国無が壊れた門の一部らしき石柱へと近づく。 「そうだ。これを見て俺があの街の名をつけたのさ」 興志王も国無の背中から覗き込んで文字の刻みを眺める。 羽流阿出州という文字は当て字。確かに石柱には『パルアディス』と刻まれていた。 |