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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 銃。 砲術士にとって欠かせないものだが天儀刀などと比べれば未だ発展途上の武器だ。ジルベリアから伝来し、天儀の宝珠技術と合わさって現状の性能がある。 砲術士の国『朱藩』においては日々改良が重ねられている。奨励した朱藩の王『興志宗末』自ら先導することも珍しくなかった。 深夜の銃砲工房『紅蓮』。 「これで‥‥」 作業部屋で研磨の泥にまみれた保波が立ち上がった。そして仕上がったばかりの宝珠を夜空の月に掲げる。 母の絹が構想したものを娘の保波が具体化に成功した瞬間。青紫色した非常に小さな宝珠が月光によって煌めいた。 屑石と蔑まれた原石は戸上保波の手によって生まれ変わる。練力の流れを効率よく平均化し、さらに触媒として増幅を行う画期的な性能を備えて。 完成した宝珠は三粒のみ。そのうちの一粒を使い、工房内で試射が行われることとなる。 「やはり駄目のようだな‥‥」 「残念ですが想像の通り。あわよくばは泡と消え去り」 鉄砲鍛冶・小槌鉄郎とジルベリアの技師・キストニア・ギミックは始めたばかりだというのに肩を落とす。 試射用の銃を造っている間に薄々とわかっていたことだが、一般人では練力の関係で宝珠による機構が作動しなかった。図らずも連射の恩恵を受けられるのは練力に余裕がある志体持ちに限定されると証明されてしまう。 このままでは試作もままならない。そこで鉄郎は希儀に滞在中の興志王へと手紙に事情をしたためる。すると興志王は直ちに志体持ちの砲術士を六名派遣してくれた。 嬉々として試射が再開されたのだが、これが悲惨な結末となった。弾が詰まるだけならまだしも暴発が繰り返されたのである。不幸中の幸いとして命を落とした者はいなかったが中断せざるを得なくなった。 「そろそろ完成したんじゃねぇかな〜と思ってな! 希儀の土産がある‥‥‥‥どうしたんだ? やけにしょんぼりとしてんな」 希儀から戻ってきた興志王が工房を訪ねて、ようやく状況を知った。失敗続きのために連絡が滞っていたせいである。 「鋼材の強度はギリギリだが何とかなっているんだな。問題はどうしても脆くなってしまう可動部分か‥‥。よし、試射は俺がやってやる! だから改良を続けろ!!」 「大事なお体! お、おやめくださいませ!」 自分が試射役を務めると興志王が言い出したから大騒ぎ。鉄郎の娘、銀や保波も含めてその場の全員が身体を張ってようやく止めさせた。 しかし興志王はまだ諦めていない。少しでも目を離したらその隙にやってしまいそうである。 「あ、あの‥‥、依頼はこちらでよいでしょうか?」 翌朝、鉄郎に頼まれた銀が朱藩安州の開拓者ギルドへと駆け込むのであった。 |
■参加者一覧
和奏(ia8807)
17歳・男・志
磨魅 キスリング(ia9596)
23歳・女・志
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
十 砂魚(ib5408)
16歳・女・砲
マレシート(ib6124)
27歳・女・砲
サクル(ib6734)
18歳・女・砂
津田とも(ic0154)
15歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●暴発 早朝の銃砲工房『紅蓮』を訪ねた開拓者達はさっそく試射の準備に取りかかる。 敷地内で待っていたのは小槌鉄郎と娘の銀、ジルベリアから呼ばれたキストニア、そして宝珠研磨師の保波。そしてもう一人‥‥。 「駄目ですわ、絶対に」 「お、おい! そりゃないぜ!」 磨魅 キスリング(ia9596)は興志王が手にしたばかりの銃を取り上げた。 手を伸ばして奪おうとする興志王はまるでおもちゃを取り上げられた子供のようである。 「興志王さまにとっては不本意かと思われますが、皆様の技術があれば必ず安全な銃が造れると信じておりますので、恐れ入りますがそれまで使用されないようお願いします」 サクル(ib6734)が磨魅と興志王の間に割って入る。そして天儀の礼儀として興志王にお辞儀をした。 「なあ、俺も少しだけ、少しだけ手伝わせてくれ。鉄郎とキストニアの奴ら、お前達が来るまで金庫に仕舞って触らせてもくれなかったんだぜ。まったくもってけしからん!」 興志王はその場で胡座をかいて両腕を胸元で組んだ。 「みなさま、まずはこちらを用意させて頂きました」 「大きさは大丈夫と思います」 保波と銀が運んできたのは試射用の防護服である。全体が厚い革製で、別に手袋や頭巾も用意されていた。 「注文の品はどうでしょうか?」 「そちらはこちらに」 銀が指し示した木箱をマレシート(ib6124)が開けると中にはゴーグルと耳栓が入っている。 「こちらの代金は」 「大丈夫、追加の道具も火薬も何もかも俺持ちだ!」 訊ねた和奏(ia8807)の前で胸を叩く興志王。大量の在庫の中からそれぞれにちょうどよい大きさの耳栓を探しだす。 離れて見学していても破片が飛んでくるかも知れないので、興志王のも含めて全員の分が用意されていた。 「そもそも鉄砲は少し前まで不完全で冷遇されてきた。それが認められたのも銃鍛冶や砲術師が努力を重ねて改良を続けてきたからだ。それが砲術師の仕事だと思うし、俺はこの手で参加できて誇りに思うよ」 「暴発が多いと言うのは、看過できませんの。ここは改良してうまく撃てるようにしますの」 砲術士の津田とも(ic0154)と十 砂魚(ib5408)は特に意気込みが違う。その会話を耳にして興志王はうんうんと頷く。砲術士として思うところがあるようだ。 「興志王陛下、ここは私達にお任せくださいね」 「お、お〜‥‥」 フィーネ・オレアリス(ib0409)は今一度、興志王に釘を差す。目をそらす興志王の態度にフィーネは常に注意が必要と心に刻んだ。 防護服を見た磨魅はキストニアに相談を持ちかける。 「アーマーが使えないのなら、自分の身体に合わせて『コ』の字に折った鉄板とかはどうでしょうね?」 「撃つだけではよしにはならぬ。命中の程度も知りたいが故に防護服なのだ。だがその意見、一考に値しよう」 相談の結果、防護服の前面部に袋を追加して中に鉄板を仕込むことにした。その重量は成人男子二人分に匹敵するのだが、志体持ちの開拓者ならこなせるはずである。 防護服の改良には半日がかけられた。 「では自分からですね‥‥」 普段なら率先することはないのだが和奏が一番目。くじ引きで決まった。 庭に用意された射撃の立ち位置の周囲には土嚢が積まれていた。鋭利な破片が飛び散らないようにする配慮だ。 「うーん‥‥」 和奏は立射、膝射、伏射のどれにしようか迷う。 そして暴発の際、身動きのとりやすい立射で撃つことにした。普通の者ならば不可能でも志体持ちならば何らかの反応は出来るはずだと。 一射目。特に問題はなく的に命中。土嚢の隙間から見守っていた全員が安堵のため息をついた。 「よい感じですが‥‥」 そして二射目。暴発の炸裂音と同時に膨らんだ煙のせいで和奏の姿が見えなくなる。 その時の和奏は腹に受けた暴発の衝撃で後方の土嚢へと背中を叩きつけられていた。 「だ、大丈夫ですか!」 「防護服のおかげで平気なようです‥」 駆け寄った銀に和奏は痛みに耐えながら微笑んだ。壊れた箇所はやはり装填の可動部分である。鉄郎とキストニアによって分解修理されて三十分後には再開された。 二番目は津田ともだ。 「まずは火薬量による変化を確かめてやるぜ」 キストニアに頼んで火薬量を変えた弾を装填して的を狙う。火薬の少ない弾から順に撃つ。 六射目、蓋の一部が真上に吹き飛んだ。 「たったこれだけで銃身の熱が酷いな。耐久度は大丈夫と聞いていたが、駄目なんじゃないか?」 津田ともは率直な意見を鉄郎とキストニアに伝える。 「別の冶金技術で造った鋼部品もあるが、遙かに値段が跳ね上がるのだ」 「そうはいってられぬ状況かも知れぬ」 鉄郎とキストニアが悩んでいると興志王がまずは完成されることが大事だと意見する。 暴発か二十発を目安にして射撃手を交代する決まりなので、三番目としてフィーネが試射銃を手にした。 (「粘土を狙いますわ‥‥」) フィーネは本来の的の側に粘土の塊を用意していた。それを的として引き金を絞る。 うまくいっていたが十五射目で幕を閉じた。銃身が耐えきれずに割れ、まるでナタで裂いた竹のようになってしまう。 「すまぬな。すべてを試さなくてはならぬのでな」 「いいえ。粘土で弾道がどうだったか調べさせてさせてもらいますね」 鉄郎に試作銃を手渡したフィーネが粘土を回収する。 鉄郎とキストニアは試作銃の機構全体に負荷がかかっていると判断。保波が研磨した宝珠を取り出して別の試作銃へと移し替えようとする。壊れた試作銃も後で分解されて不具合は何なのか検証されるという。 四番目は十砂魚。 「宝珠に、錬力をブーストする機能が有るそうですけど、一時的に抑えたりはできませんの?」 宝珠移植を見守る保波に十砂魚が質問を投げかける。 「出来ますが、その辺りの判断は鉄郎様とキストニア様にお任せしています」 保波と十砂魚の会話を聞いた鉄郎が唸った。そして一時的に抑える細工が施される。 試射は再開。四十射目を越えても問題起こらず。但し、威力が弱くて実戦投入に至る性能には達していなかった。それに弾詰まりが酷い。 ここから少しずつ威力が上げられてゆく。 五番目を担当したのは磨魅である。 「耳栓とゴーグルは自前で用意してきたので、それを使いますわ」 装備を再点検し、大きく深呼吸をしてから試射開始。発射音からして先程よりも威力が増しているのがよくわかる。 「あら?」 四十四射目で暴発はしなかったものの、やはり弾が内部で詰まってしまった。排莢して再開するものの繰り返される。 六番目はマレシート。 試しに威力をあげてみたところ弾詰まりは少なくなった。構造的に威力を落としすぎると装填の機構がうまく働かないようである。 「練力の制御がうまくいっていないのかも知れませんね」 単動作、ファストリロードも試したマレシートは六十七射目で担当終了。 交代のきっかけは銃身が熱を持ちすぎたため。すぐに分解してどのように損耗しているのかが確かめられた。 二回目の宝珠移植が行われて、試作銃は三挺目となった。 七番目はサクル。 「この銃を撃つ場合、必要となるのは練力・火薬、そして弾ですね。それぞれを調整して、安定化には何が重要か調べたいと思います」 さっそく狙いを定めてサクルは引き金を絞った。すると爆音と共に吹き上げる煙で辺りの視界が遮られる。 「サクル殿!」 「だ、大丈夫です。驚きましたけれど」 真っ先に駆け寄ったキストニアにサクルはゴーグルをあげて頷く。 キストニアは抱き上げようとするが重り付きの防護服を着込むサクルを持ち上げられるはずもない。それでもキストニアの気持ちは嬉しかったサクルだ。 初日の試射はこれで終了。六十八射目の暴発によって明日以降へと持ち越しとなった。 ●怪我 暴発は繰り返される。 屈強を誇る志体持ちの開拓者達が木の葉のように吹き飛ばされる事態は尋常ではなかった。 防護服のおかげで大きな裂傷にまでは陥らなかったが、打撲による青あざは体中に。防護服の継ぎ目に飛び込んだ小破片による傷は誰もが負っていた。 日が暮れてきたので四日目の試射が終了。ここまで合計二百五十二射。明日は設計し直した部品を新造するために試射はお休みとなる。 「今、抜きますから」 「はい‥‥」 和奏の右上腕に刺さった小金属片を銀が小型の工具を使って引き抜いた。ささくれだっていたせいで大きさの割に痛さは凄まじい。 普段表情を変えない和奏も眉間にしわを寄せて奥歯を噛んだ。それでも悲鳴はあげなかった。 女性陣は先に風呂を頂いた。普段は使わない大き目の湯船に湯が沸かされていたのである。 「火薬とか湿り気には強かったけど、暴発には参った」 津田ともは手ぬぐいを頭の上へと乗せて天井を見上げた。 「一つ一つは悪くない感じですの。調整がとれれば問題ないと思うのですけれど、さじ加減が難しいですの。それにしても‥‥玉のお肌が傷だらけですの」 十砂魚は腕に出来たいくつものアザをお湯につけながら反対の手でさする。専用の頭巾のおかげか顔が無傷なのは奇跡といってよい。 (「宝珠の練力増幅機能の平均化、どうなるでしょうか‥‥」) サクルが鉄郎とキストニアが提案した一つに練力を一時的に溜めて平均化して流しなおす宝珠の追加がある。 十砂魚の練力を抑える案もこれを使って微調整が可能になるだろうが、今のところ未知数。成功を願うサクルだ。 「宝珠の共有化は難しいようですね。研究の余地はあるといっていましたが‥‥」 マレシートは他の志体持ちから練力の供給を受けた上で射撃が行えないかの案を提出していた。 練力関係についてはジルベリア出身のキストニアの担当だが、さすがに長銃の内部に駆鎧と同様の絡繰りを仕込むのは難しいという。やろうとすれば新規の開発が必要になるだろう。 マレシートはお茶の用意で場を和ませてくれた。危険な試射だったが、おかげで必要以上に深刻になることはなかった。 「粘土で軌道と威力をみたところ、試作銃の素性はよさそうですわ。食べ物に喩えれば、どれとも合わせられるご飯かパンといったところでしょうか」 フィーネは言葉の最後に弾が発射されたのならばと付け加えるのを止めた。 少しずつ進展しているものの、大きな技術的な山場はまだ越えていないような気がしていたからだ。 「きっと大丈夫ですわ。連射に威力が加われば鬼に金棒ですわ♪」 フィーネに微笑む磨魅。だが引き戸の音がした瞬間に首を傾げる。振り返ったフィーネも嫌な予感がした。 「お、みんな入っていたんだな。んじゃまあ、ちとお邪魔し‥‥痛っ!」 風呂場に乱入してきた興志王のおでこに磨魅が投げた木桶が見事命中。次々と投げられる中には何故か刃物まで。恐怖を感じた興志王は駆け足で撤退する。 「どうなされたのですか‥?」 「いや、風呂に入ろうとしただけなんだが――」 廊下の途中で会った和奏に困った表情の興志王が事情を説明した。 王として生まれてきた興志王はこういう場合の女性への気遣いをまったく知らなかったようだ。 「――というわけです‥」 「そりゃ悪いことしたな」 和奏が世間ではどうなのかを話すと興志王は納得いった様子。後でちゃんと謝る興志王だ。 ちなみに女性全員は湯船に浸かっていて湯気が立ちこめていた。互いがわかったのは声のおかげで視認したわけではなかった。 ●一歩一歩 一時期、暴発の連続で全員が気落ちしたものの、次第に改善されていった。 三百八十射を越えた頃から暴発はなりを潜めた。あったとしても弾詰まり程度で済むようになる。 ただそれ以前の酷い暴発の連続で開拓者達の身体はかなり痛めつけられていた。一晩寝ても回復しきれずに次の日をむかえる。 「そぉ〜す味のたこ焼きだぜ。こっちは焼きそばだ!」 最後のあたりになると興志王は試射の参加を完全に諦めた。その代わりになのだろうか、城下に出かけて美味しい食べ物を購入して差し入れてくれる。 「銃の中で完結しているから‥‥少々の雨では‥‥びくともしないのがいいな! あ、もう無くなった!」 津田ともはハフハフとたこ焼きを頬張りながら試作銃の感想を口にする。 「暴発がなくなって、しばらくすればお肌も元に戻るのですの」 醤油味とそぉ〜す味で迷う十砂魚。箸が倒れた位置で占ってそぉ〜す味の焼きそばを食べることにする。 試射はついに通算五百射を越えた。 「目処がついたと判断するに至り」 「おかげでどうすればよいのかわかった。もう暴発させるようなものは造らんで済む。開拓者達のおかげだよ」 鉄郎とキストニアから試射完了が告げられた。 最後に一発ずつ撃つことに。 「よい銃が生まれればよいですね‥」 和奏が的の中央に命中させる。 「暴発が続いたときにはどうなるかと思いましたわ」 磨魅はわざと的の右端を狙って当てた。 「厚手の手袋でも撃てるのはとてもよいですね。試作銃とはいえ重量配分が素晴らしいのでしょう」 フィーネは磨魅が右端を当てたので左端に。 「手に入るようになるのを楽しみにさせてもらいますの」 十砂魚は真下の端。 「暴発で叩きつけられた痛さはしばらく忘れられそうもないです。それでも完成に導けてとてもよかったです」 マレシートは真上の端。 「少量生産とお聞きしていますが、早く店先に並ぶのを待っています」 サクルは和奏と同じ中央に重ねて当てた。 「こういう怪我は勲章のようなものだ。仕上がりが楽しみだぜ」 津田ともは的を支える柄へと命中させる。わずかに残って今にも折れそうに。 「いいのか?」 最後、興志王にも撃たせてくれた。 狙ったのは柄のぐらついている箇所。見事に当てて的が吹き飛ぶ。 これにて試射は終了する。 別れ際、保波は興志王と開拓者達に深く頭を垂れたのであった。 |