屑扱いの原石〜興志王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/10 02:07



■オープニング本文

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 銃。
 砲術士にとって欠かせないものだが天儀刀などと比べれば未だ発展途上の武器だ。ジルベリアから伝来し、天儀の宝珠技術と合わさって現状の性能がある。
 砲術士の国『朱藩』においては日々改良が重ねられている。奨励した朱藩の王『興志宗末』自ら先導することも珍しくなかった。


 希儀から一時帰国した興志王は安州城に届けられていた一通の文に目を通す。
 それは戸上保波からのものだ。銃砲に関して大切な相談をしたいと綴られてあった。
「銃がらみなら、こうしちゃいられねぇな」
 疲れ気味の興志王だが龍に跨って銃砲工房『紅蓮』まで飛んだ。
 興志王と保波に加えてジルベリアの技師・キストニア・ギミック、鉄砲鍛冶・小槌鉄郎が同席しての話し合いが行われる。
「母が構想していたものを私なりにまとめたものがこちらです」
 保波が用意した資料はとてもぶ厚い。その中でも銃砲の機構説明が大半を占めていた。
 練力を宝珠に順次溜めておける機構を採用することで銃砲の連射を可能とするものだ。
「これがうまくいけば‥‥」
 資料に目を通す興志王の手が震える。
「残念ながら母は構想を形にするまでに至りませんでした。銃砲に関して知識が足りなかったこと、それに適切な宝珠を用意出来なかったからです。ですが、亡くなる数日前だと思われますが、宝珠についてはよい案を思いつきました。それがこの形見の指南書に走り書きとして残されていたのです」
 保波が指南書の頁を捲って一同に見せてくれた。だが保波を除いて全員がちんぷんかんぷんである。研磨師同士にしかわからない暗号のようなものである。
「んで、俺らはどうすればいい?」
 鉄郎が唸ったあとで保波に真っ直ぐな視線を向ける。
「鉄郎さんとキストニアさんは、こちらの設計図を参考にして機構を完成させてもらえますか?」
 保波は他の資料の下敷きになっていた設計図の一枚を引き抜いて床へと広げた。
「これこそ秀逸。任せて頂こう」
 キストニアはさっそく別の紙を取り出して計算を始める。
「ってことは‥‥宝珠はどうするんだ?」
 胡座の興志王が設計図から顔をあげた。
「これまで滅多に見つからない希少性がありながらも、使い道がなくてどのみち屑扱いだった類の宝珠原石があります。それを神楽の都近郊の遺跡で発掘してきて欲しいんです」
「わかった、任せてくれ!!」
 保波の前で張り切る興志王だがすぐに困った表情を浮かべる。
 現在、興志王はとても忙しい身。巨勢王に啖呵を切って引き受けた以上、希儀での精霊門建設を放り出すわけにはいなかったからだ。
 あああっと頭をかきむしった興志王が大きくため息をつく。
 興志宗末は自分の思いを託せる開拓者に原石探しを頼むことにするのであった。


■参加者一覧
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
和奏(ia8807
17歳・男・志
磨魅 キスリング(ia9596
23歳・女・志
フィーネ・オレアリス(ib0409
20歳・女・騎
十 砂魚(ib5408
16歳・女・砲
ライ・ネック(ib5781
27歳・女・シ
藤本あかね(ic0070
15歳・女・陰


■リプレイ本文

●遺跡
 神楽の都からほど近い徒歩で向かえる距離に宝珠が眠る遺跡は存在していた。都を出発する前に和奏(ia8807)の考えで荷物の総点検が行われる。
「予備の松明と食料、食料に縄、提灯と‥‥」
 興志王から提供された探検に必要な物資が公平に分配された。和奏は以前にうっかりして酷い目に遭ったこともあると、とても慎重に点検する。採掘に必要な道具類は嵩張る上に重いので順番に担いで運ぶこととなった。
 日が昇る前に神楽の都を出発。程なくして遺跡前へと到達する。
「地図の再確認もしましょうか」
「すでに写させて頂きましたので、もしも紛失しても大丈夫です」
 フィーネ・オレアリス(ib0409)が切り株の上で広げた地図を玲璃(ia1114)がランタンで照らす。潜る遺跡は以前の調査と採掘によって地下四層までの構造は判明済みである。
 普通に考えれば地下四層よりも深く潜るべきだが、目的の物が屑石と思われていたのであれば事情は変わる。
「これまでの採掘で屑扱いされていたとすれば、調査済みの区域にも残っている可能性があります」
 地下一層から四層までの空間も探してみるべきだと玲璃は仲間達に提案した。
「調査済みの区域で必要量が入手できればいいんですが、多分未調査区域での調査も必要になるでしょうね」
 ライ・ネック(ib5781)が玲璃に一番に同意。相談の末、地下一層から四層も探索の範囲に加えることになった。
「連射が可能な銃。完成すれば、面白いと思いますの」
「何にしても宝珠を外に運び出して太陽光でチェックする役割が必要だわね。私がやろうかしら」
 十 砂魚(ib5408)と藤本あかね(ic0070)は全員分の天幕を張り終える。
 遺跡内のアヤカシは地上に出てこないと聞いているが、だからといって安心は禁物。重要な品物は地上に残しておかないことにした。いざとなれば神楽の都まで歩いて戻れるのが気楽である。
 探し出す屑石は六角柱の形状をした青紫色の宝珠原石。大きな結晶だと使い物にならず、小石程度が望まれるという。宝珠研磨師の保波曰く、太陽光に翳してから暗所でぼんやりと輝けば本物とのことだ。
「王の悔しさの思いを汲んで、炭鉱『婦』の私が必ず宝珠を持って帰りますわ。さて行きますわよ!」
 気合いを入れる磨魅 キスリング(ia9596)の格好はまさに採掘の仕事人といった仕様である。ツルハシ諸々、首に巻いた手ぬぐいも完璧だ。
 準備が整ったところで照明の灯火を手に遺跡内へと全員が足を踏み入れた。
「鉱滓が積まれているところがあれば楽かも知れませんね」
 磨魅の案でまずは出入り口に一番近い採掘跡へと向かう。地下三層の奥が一番盛んに掘られた場所との記述が残っていたので、地図に描かれた順路に沿って進んでゆく。
「遺跡なのに採掘とはどういう意味かよくわかりませんでしたが、こういうことだったんですね‥‥」
 和奏は遺跡内の様子を自らの目で確認して納得する。原因はわからないものの、崩壊して一度埋まった場所を掘りかえした形跡が多々あった。
 地下一層は約半分に崩壊の跡が見て取れる。地下二層は四分の一。地下三層にまで降りるとアヤカシと遭遇した。鼠・妖二匹を倒すのみで一行は地下三層奥の採掘跡へと辿り着く。
「ここで探すのは難しそうですね」
 鉱滓があればと考えていた磨魅だが現場を見るなり諦めた。
 最初は土砂を外に運び出したのだろうが、途中から他の坑道を埋める形で掘り進めたようだ。つまりずさんに宝珠を探し求めた形跡がありありとしている。
「とにかく地下四層までを一通り確認してみるべきかと」
「それがよさそうですわ。ついでにアヤカシがいれば倒してしまいましょう。外へ出て屑石が本物かどうか調べる役目の者が楽になるように」
 ライとフィーネの意見に誰もが賛成してくれる。
 一度地上に出た開拓者達は遺跡の地図を再確認し、潜むアヤカシを地下四層奥まで追い込むような経路を選んで進む。
「前人の痕跡を探しつつ‥‥見落としのないよう行きましょう」
 和奏が闇の向こうに目を凝らす。
(「ここは何者も通させはしませんわ」)
 磨魅が通路の中央で待機して時折心眼で探る。交差箇所には誰かが残って逃げ道を塞いだ。
「明かりはお任せを!」
 氷咲契を仲間に施した玲璃が松明を高く掲げて戦う仲間を支援する。
「早めにすべて見つかって欲しいですの」
 通路奥から迫るアヤカシには十砂魚のファイアロックピストルが火を噴いた。
 横壁を駆け上りながら向かってくる鼠・妖に命中。床に落ちて跳ねているところを強く踏んで止めを刺しながら、他に敵が迫っていないかを確認する。
 最終地点と定めた場所へ到着する間に鼠・妖三体、蚯蚓・妖五体、鬼・妖三体、蝙蝠・妖十体を瘴気へと還元する。
「ここが地下四層の一番奥みたいね」
 藤本は治癒符で仲間を癒した後で周囲の状態を確かめた。周囲は石組みで覆われており完全な行き止まりだ。壊された形跡もない。
 全員で地上へ戻ると日は暮れていた。これで一日目の探索は終了。腹を満たし明日に備えて天幕で一晩を過ごすのだった。

●地下五層
 二日目。
 地下四層から五層に至る階段は途中から天井と横壁が崩れて埋まっていた。
 普通なら半月はかかる瓦礫撤去を半日で通れるように出来たのは、人並み外れた力を持つ志体の七名だからである。
 とはいえ疲労はかなりのもので、その日の残りは休まざるを得なかった。単に探索するだけなら問題ないが、アヤカシと遭遇した場合を考えてのことである。
 地上で休憩しながらも開拓者達は宝珠探しを忘れない。どのようにすれば屑扱いされていた宝珠原石を探し出せるかどうかを相談を続けた。
 単なる鉱山ではなく内部が崩れたことによって保管されていた『宝珠原石が詰まった宝箱』がどこかにいってしまったのが遺跡の現状といえる。
 崩壊を免れた場所に保管されている宝箱を探し出せたのなら一番楽。
 二番目に簡単なのが崩壊に巻き込まれてしまったものの、原型を留める宝箱の発見。
 一番大変なのが崩壊のせいで宝箱が破損してしまい、散逸した宝珠原石を回収しなければならない状況だ。
 そして地下一層から四層まではどこも一度以上採掘済み。
 疑問として浮かぶのは屑扱いされていた宝珠原石が果たして宝箱に仕舞われていたのかどうかである。これについては発掘記録帳に記述が残っているところからして安心していた。逆にこれまで利用価値がないのに関わらず、宝箱に仕舞われていたことが多くの関係者にとって疑問だったらしい。
 残念なことにこれまで発見された屑扱いの宝珠原石については散逸してどこにあるか不明とされていた。
 三日目。開拓者達は昨日開通させた階段を使って地下五層へと降りる。
「傷んではいますが、殆ど当時のままのようですね」
 玲璃の呟き通り、灯りで照らされた遺跡の通路は埃こそ積もっていたものの、壊れてはいない。上の層と比べれば雲泥の差といえる。
「少し待ってくださいね」
 玲璃が『瘴索結界「念」』で探ったところ、アヤカシらしき瘴気は感じられなかった。
「すぐ戻ってきますので」
 暗視と忍眼を持つライが先行して安全が確かめられる。一行は慎重に歩を進めた。
「湿気が多いのが気になっていましたが、やはり‥‥」
 宝箱が仕舞われている部屋を見つける前に地下六層への階段を和奏が発見する。落ちていた石壁の欠片を蹴って落とすと水音が。地下六層から先は地下水で満たされていた。
「水をどうにか出来ないとなれば、この五層で探し出すしかありませんわね」
 きりぎりまで降りたフィーネは地下水に指先を浸す。わずかだが流れている感触を得た。
「まだ先はあるので希望はありますの。その前に――」
 十砂魚は朝早くに作ったおにぎりを取り出す。少し早いが昼食をとることにした。
 地下五層は今までの層よりも天井が高くて幅も広い。高さ四メートル前後に幅五メートルといったところだ。捉え方によっては細長い部屋が続いているようにも思える。最初と手つかずと思えたが、奥に向かうにつれて破損個所も目立つように。
 充分に休んだところで奥への探検が再開された。
「待ってください‥‥」
 ライが仲間達を制止して目を細める。闇の中で蠢く何かに気がついた。
「ここからではわかりませんね」
「私でも無理でした」
 磨魅は『心眼』、玲璃は『瘴索結界「念」』で探ってみる。距離がありすぎて大きさすらわからない。
 ライの視力でも正体が見極められない状況で開拓者達は判断に迷う。そうこうしている間に相手側が動いた。
 ライはその眼、磨魅は心眼、玲璃は瘴索結界で相手側を捉えた。牛に似た巨体が迫る。
「牽制しますの!」
 十砂魚の銃撃が敵の肩へと命中。めくれて千切れた皮が瘴気に変貌するのをライが目撃する。
「あれはアヤカシ、瘴気を目にしました!!」
「そうです。アヤカシです!」
 ライと玲璃の叫びで攻撃を躊躇う必要がなくなる。
「元気になられた保波さんのためにも!」
 フィーネが突きの構えで『蛇矛「張翼徳」』からオーラショットを放つ。前足に命中させて見事、牛・妖を転倒させた。
「こちらを!」
「攻撃力を奪います!」
 玲璃は氷咲契を和奏へとかける。和奏は秋水を持ってして牛・妖の武器であろう角二本を先に斬り取った。
「一体、こんなところで何をしていたのでしょうか?」
 炎を纏わせたグニェーフソードで頭蓋を割って磨魅が止めを刺す。喉で呻く牛・妖は瘴気の塵となって消えてゆく。
「これってもしかして‥‥」
 藤本が牛・妖が消えた場所で小石を拾う。それは探し求めていた青紫色の六角柱の形をしていた。
 本物かどうか確認するために藤本とライが一緒に地上へと向かう。陽光に翳した後で日陰へと移動すると小石はぼんやりと輝いた。
「本物‥‥」
「ですね」
 藤本とライは吉報を伝えるために急いで地下の仲間の元へ戻るのであった。

●採掘 そして
 偶然か必然か。とにかく目的の宝珠原石が一つでも手に入ったことに開拓者達は喜んだ。
 肩の荷が下りたところで、さらに求めるべく地下五層が隈無く調べられる。但し、発見された小部屋から宝箱は発見されなかった。
 退治した牛・妖が暴れていたのだろう。奥については崩れた場所が多い。瓦礫の中から宝箱の断片らしきものが見つかったことで、その周辺を掘り返すこととなる。
「さて、ここからが本番ですわ!」
 磨魅がツルハシを振り下ろすと一撃で大きな岩が割れた。土砂に混じって岩もかなり含まれていた。運びやすいようまずは細かく砕く。
「ここは頑張りましょう‥」
 和奏はかつて遺跡の壁や天井を構成していた石を手際よく一カ所に移動させる。
「まさか最初に発見したときには役立つと思いませんでした」
「面白いものですね」
 土砂に埋もれてしまった原石探しには地下水が利用される。玲璃とフィーネが水を汲んだ桶の中で土塊を洗った。そして残った石はすべて別に分けられる。
「ここの山の石はすべて違いますの」
「この石は‥‥どうなんだろ?」
 十砂魚と藤本は屑石の選別を行う。目的以外の宝珠原石に関しても見つかれば依頼主の興志王に渡すつもりである。
「では確認して参りますね」
 ライは陽光での屑石が本物かどうかの確認を引き受けてくれた。十砂魚や藤本との持ち回りで選別も行う。
 土砂の本格的な移動は全員で汗を流す。
 地道な作業の中、五日目にしてようやく二つ目の青紫色をした宝珠原石が発見される。
 その日の夕方。開拓者達は地上で味噌仕立ての大鍋を全員でつついた。
 調理に使った石鯛などの食材は興志王が事前に手配した商人が運んできてくれたものである。
「何度も地上と地下を往復している間に思ったのですが、遺跡内の破壊はあの牛に似たアヤカシの仕業だったのではと」
「私もそう思いましたの。地下四層と五層の間にある階段の辺りもきっとそうですの」
 ライと十砂魚の会話が膨らんだ。
「つまりあの牛が暴れ放題をしたせいで、自らを五層に閉じこめてしまったというわけですか」
「瓦礫を退かす、といった発想はできなさそうでしたわね。あの単純な攻撃方法から想像すると」
 和奏がよそってくれたお椀を磨魅がこぼさぬよう丁寧に受け取る。
「地下六層から他に繋がる通路があったのかしら。そうだとしても‥‥あの水の中を移動するのは無理よね」
 藤本あかね(ic0070)は鍋の残り汁にご飯を足しておじやを作る。
「今のところ二つ。せめてもう一つ、石が見つかればよいのですが」
「アヤカシはいないようですので、集中して掘り返しましょう」
 玲璃とフィーネは〆のおじやを頂く。石鯛の出汁のおかげでとても美味しかった。
 探索最終の七日目、待望の三つ目が発見される。開拓者全員で朱藩安州へと赴き、保波に屑石と蔑まれていた宝珠原石三個を手渡した。
「ありがとうございます。間違いありません。これさえあれば‥‥」
 保波は興志王の願いを叶えるべく宝珠研磨をさっそく開始するのであった。