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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 銃。 砲術士にとって欠かせないものだが天儀刀などと比べれば未だ発展途上の武器だ。ジルベリアから伝来し、天儀の宝珠技術と合わさって現状の性能がある。 砲術士の国『朱藩』においては日々改良が重ねられている。奨励した朱藩の王『興志宗末』自ら先導することも珍しくなかった。 これまで戸上保波が興志王に心を開かなかった理由は母『戸上絹』の『仇』だからであった。アヤカシ『邪蛇地』にそう信じ込まされていた。 興志王が絹を幽閉して過酷な状況で宝珠を研磨させているというのが、彼女のいうところの真実だ。 それは誤解に過ぎないが、興志王は無言のまま保波への説得を諦めた。必死な表情で迫る保波にかける言葉が見つからなかったからである。 絹は遺体で見つかっており、埋葬されたのは事実。それをいっても保波は聞く耳を持つはずがない。 取り乱す保波を前にして興志王は静かに怒りをたぎらせた。 南志島の近海まで現れた邪蛇地だが、普段は保波の吐露から察するに工房跡周辺を根城にしているのだろう。以前の戦いで接触していないということは工房跡の地下施設にいると考えられる。 (「保波も連れていくべきか‥‥いや、あまりにも危険がでけぇ‥‥」) 興志王は悩んだ末に工房跡の地下探索に保波も連れて行くことにする。保波の目を覚まさせるのには邪蛇地に真実を吐かせるしかなかったからだ。 保波は戦力になり得ず、また足手まといになるかも知れないが工房の地下施設をこの世で一番よく知っている人物だ。高精度制御が可能な宝珠を探し出すのにもっとも適した人材ともいえる。 「俺を信じられなくても構わねぇ。邪魔をして邪蛇地に俺を殺させるつもりでもいいだろう。ただ変装をして一緒に来てくれねぇか?」 あらためて宿で保波と対面した興志王は地下探索に誘う。その場で返答はなく、二日後に承諾の手紙が城へと届いた。 工房跡の地下は過去にあった城塞の施設を利用したものだ。潜ってすぐの各部屋は倉庫代わりに利用していたが、奥は当時も滅多に使われずに放置のまま。澄んだ黄色の拳大の真球である高精度制御可能な宝珠はどこかに隠されていると考えられた。 興志王はギルドの依頼を通じて懇意の開拓者に連絡をとるのであった。 |
■参加者一覧
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
和奏(ia8807)
17歳・男・志
磨魅 キスリング(ia9596)
23歳・女・志
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●地下へ 朱藩・安州で合流した一行は工房跡周辺まで朱藩軍所属の飛空船で移動した。 到着したのは朝日が昇る頃。 さっそく工房跡の一角にある地下へと続く階段へと向かう。屋根や周囲の壁が壊されており、地下施設への階段は野外といってよい場所にあった。 「地上を彷徨いているアヤカシは偵察をしていたのでしょうか」 グニェーフソードを仕舞う磨魅 キスリング(ia9596)の周囲にはまだ瘴気が濃く漂う。瘴気は倒したばかりの蚯蚓のようなアヤカシの残り滓だ。 「これで憂い無しだな。んじゃまあ、潜るとしようか」 普段はあまり使わない短筒の銃を携えた興志王が率先して階段を下り始めた。 (「邪蛇地さんの目的は少し違うのかな‥‥」) 二番手で階段に足をかけた和奏(ia8807)は降りながら邪蛇地についてを考察する。 アヤカシが求めるのは人を恐怖させて喰らうこと。単に喰らうこともあるだろうが、恐怖は最高の調味料となるらしい。 しかし保波の言葉を信じるならば、邪蛇地は騙し唆しているとはいえ何人かの者と接触しても殺してはいない。また保波の母である戸上絹についても発見された遺体が墓に納められていることから考えても食されてはいないようだ。 より多くの人を喰らうためにアヤカシは謀ることがあるので、普段以上に注意は怠れなかった。 「ここが地下一層でしょうか」 平らな床に足をつけたフィーネ・オレアリス(ib0409)は南瓜行灯を掲げた。かなりの広さがある通路はひんやりと肌寒かった。 「少々お待ちを‥‥‥‥。この辺りにアヤカシらしき瘴気は感じられません」 「そうか。俺達が来るぐらいは把握してそうだからな。様子見しているんだろうさ」 『瘴索結界「念」』を自らにかけ直した玲璃(ia1114)は状況を興志王と仲間へと報告する。これからも定期的に行うつもりである。 「だとさ、ライ。いざとなったら偵察を頼むぞ」 興志王の側で頷くライ・ネック(ib5781)は本人ではなかった。小袖に市女笠、外套といった出で立ち。保波が変装した姿だ。 (「しばらく出番はなさそうですね」) 本物のライは秘術影舞という術を駆使しながら一行からつかず離れずの位置で隠れながら追う。アヤカシへの対処は仲間が倒しながら進むはずなので心配はしていなかった。 地下空間は工房建設当時から過去にあった城塞の施設を利用したものである。あまりに広いので出入り口付近の部屋のいくつかが使われていたのみだ。奥は迷路になっていて使われていなかったと伝えられているが真実かどうかはわからない。特に絹の娘である保波なら地下施設のすべてを知らないまでも、目的の宝珠が隠されている場所は知っていて不思議ではなかった。 「ここまで静かだと逆に怪しく感じますね」 潜ってから一時間後、和奏は地下に降りてからこれまでにアヤカシと接触していない事実に首を傾げる。正確にいえば玲璃が瘴索結界でそれらしき瘴気を二回探知したのだが、すぐに範囲外へと逃げられてしまっていた。 「何らかの方法でアヤカシ側もこちらを監視しているのでしょうか?」 「どこかに覗き穴でもあるのかも知れねえな。そこら中に窪みはあるからな」 玲璃と話しながら床へと座った興志王は竹皮の包みを取り出す。開くと中にはおにぎり。腹が減っては戦はできぬと昼食の時間となる。 「先程の話ですが、足音で位置を探っているといった手も考えられますね。これだけ広ければ飛空船の伝声管のようなものが張り巡らされていても不思議ではありませんので」 「あり得ますね。これだけの地下施設なら空気取り入れ用の路も張り巡らされていることでしょう。それを利用しているのでは?」 フィーネと磨魅はライに変装している保波へと振り向いたが彼女は黙ったまま俯いた。ちらりと見えた顔は無表情でわずかな協力でも拒否しているように感じられた。 半数が食事を済ませると残りの仲間達も腹を満たす。ライについては特に周辺で戦闘が起きた様子はないので心配はしていなかった。ついてきてくれているだろうと。 休憩が終わって探索を再開。しばらくしてようやくアヤカシと接触するようになったが、コウモリ型などの弱い個体ばかりだった。 「広いのか狭いのかわかりにくいな。っていうか、階段と坂道ばっかりだな」 「ある境界線から構造が変わり、四層を上下に突き抜ける形の立体迷路になっていますね。城塞の名残とはいえ当時の余程の趣味人が設計したと思われます」 興志王の疑問に答えながら和奏は仲間達にも地図が見えるように掲げる。地下構造は平面の紙上に記すにはあまりに複雑で非常にわかりにくい地図となっていた。 事態を打開するにはどう対応するにしろ敵の親玉である邪蛇地との接触が不可欠だ。それは探索前からわかっていたことだが、ここまでアヤカシが退いた作戦を用いてくるとは想像していなかった。 (「きっと脱出不可能というぐらいまで奥に踏み込ませてから叩くといった作戦なのでしょうね‥‥」) 邪蛇地が現れようとしない状況はフィーネにとっても想定外であった。 思案しながら歩いたフィーネが立ち止まって振り向いて興志王へと提案する。このままでは敵の思うつぼなので大胆な作戦変更が必要なのではないかと。 「新しい作戦か‥‥」 しばらく考えた後、興志王は奇妙な行動をとる。壁や床を足や手で激しく叩いたと思えば、座り込んで地図を凝視し続けた。 「‥‥かなり乱暴だが、これしかねぇな。この迷路を造った奴の規則に従ってやる義理はねぇ。俺達を追い込む作戦を立てやがった邪蛇地に対してもな」 興志王は円陣を組ませて一行に作戦を伝える。ライに変装している保波は驚きの表情を浮かべたものの、反対はしなかった。 了解した仲間達はそれぞれに武器を手にする。ひとまずライに変装している保波は灯りの係となった。 「んじゃ行くぜ!!」 興志王が布を巻いた右拳を大きく振り上げて壁を殴りつけると亀裂が入る。身体を返して左拳を叩きつけると破片を飛ばしながら大きく穴が空いた。志体持ちの力は並ではなかった。 「お母さまの消息を知る手掛かりは王さまの言下にあるのは事実ですから、足を引っていてはお互いの為によくない気がしますよ」 「‥‥それは‥‥」 ライに変装する保波にそう囁いてから和奏は埃舞う穴を通り抜ける。そして次の壁の前で構えて納刀から抜いた。壁面に大きく溝が刻まれ、そして二振り目で石組みが瓦解して通り抜けられるようになる。 二つ目の壁穴を真っ先に抜けたのは玲璃。灯りを持つライに変装する保波が続いた。 「‥‥います! この先に」 玲璃は『瘴索結界「念」』で強烈な瘴気を感じ取る。邪蛇地と思しき瘴気の塊だと判断した玲璃は駆けて止まって壁を指さす。この向こうに邪蛇地がいると。 「任せてください。我が剣に、断てぬ物無し!」 磨魅は抜いたグニェーフソードを全身全霊を持って壁に叩きつけた。穴が空くというよりも壁の一部が反対方向へと吹き飛んだ。 「もう一つ、壁があるようです」 「最後は私にお任せを!」 玲璃の判断に応えるようフィーネは『蛇矛「張翼徳」』を壁へと背中の正面を向けるほどに大きく構えた。 放ったのはハーフムーンスマッシュ。壁が大きく崩れる最中、瓦礫が落ちてくる状況にも関わらず一行は怯まず突入した。せっかく探知した邪蛇地らしき存在を逃がさぬために。 「私は開けたばかりの穴の左側に立っています。私から見て邪蛇地らしき瘴気は右に十五歩、前に二十四歩です!」 玲璃は邪蛇地らしき瘴気の位置を大声で叫んで報せた。ライに変装した保波が持つ灯りは舞う埃のせいでしばらくは役に立ちそうもなかった。 邪蛇地らしき存在だけでなく配下らしきアヤカシの瘴気も何体か周辺には存在していた。開拓者達は接触したアヤカシを倒しながら、玲璃の報告に合わせて邪蛇地らしき存在を追いつめてゆく。 「お前のせいで保波は俺達のことを信じられねぇとよ! この地下をよく知っているから、ついてきて欲しかったのに病気で伏せっているぜ!!」 興志王はようやく自らの眼で邪蛇地を捉えた。 「そうか。それは好都合だ! そしてお前がわざわざここに来てくれたこともな!!」 邪蛇地は畳んでいた尻尾を鞭のように操って興志王を攻撃する。身体を反らしながら避けた興志王は銃をぶっ放す。 「アヤカシさんの親玉はお任せします!」 興志王が邪蛇地と接触した後、叫んだ和奏と同様に仲間達は対峙したアヤカシと苦戦を演じる。少しでも邪蛇地が口を滑らせる余裕を保たせるために。 「俺も目的の一つなのか? そうは思えんがな」 「当初の計画を変更したのだよ。人を呼び寄せる宝珠の存在はこちらにとっても想定外だった。その絡繰りを知った時には笑いが止まらなかったがな。なんせ食いもんの人が勝手にやって来てくれるなんて面白すぎるだろ。ええ、おい?」 興志王は銃をわざと落として不利を装う。有利と判断した邪蛇地の口はどんどんと軽くなっていった。 「絹は敵ながら賞賛に値する凄腕の宝珠研磨師だったよ。手持ちの宝珠を駆使して同胞を倒しまくって逃げおおせたんだからな。まあ途中で命尽きたようだが。食ったらさぞかし美味かっただろうなぁ!!」 邪蛇地の尻尾攻撃を腹に受けた興志王は吹き飛んで天井へと叩きつけられる。床への着地は成功したものの、立ち上がろうとする足は震えていた。 「‥‥保波は自ら命を絶とうとここへ戻ったと聞いた‥‥。その時、何故嘘をついたんだ。俺が絹さんを幽閉して宝珠を作らせているなんて‥‥」 「気まぐれであの女の話を聞いてやっているうちに思いついたのさ。お前さんを操るようにし向けるか、暗殺させるかはまだ決めていなかったがな。しかしこうやってわざわざやって来たてくれた。人質にして朱藩の民を一人ずつを人身御供として頂いてやるよ!」 興志王が蹌踉けながら邪蛇地の攻撃を躱す。その時、何かが埃漂う空間を横切った。 興志王が受け取ったのは魔槍砲。すでに弾は充填されていた。 「?!」 邪蛇地が喋りきらないうちに興志王の魔槍砲が火を噴いた。 「体勢さえ立て直せれば、こんな奴らに負けるはずが‥‥」 炎の塊に弾き飛ばされた邪蛇地は出口を探す。壁穴以外にも空間の外へと通じる開閉部はあった。 跳ねるように駆ける邪蛇地。しかし開閉部を潜ろうとした時に八握剣が邪蛇地の足へと深く突き刺さる。 「邪魔をするな!」 転倒した邪蛇地の尻尾が保波に迫った。その前に突然現れたライが保波に抱きついて攻撃を避けさせる。 「大丈夫ですか?」 「は、はい」 保波が投げたと思わせた八握剣は秘術影舞で姿を消していたライが投擲したもの。また預かっていた魔槍砲を興志王へと投げたのもライであった。 「保波! お前が何故ここに!」 邪蛇地が保波の顔を見て大声をあげる。 「まんまと騙されましたわね」 磨魅の大剣が杭のように落とされて邪蛇地を床に縫い止めた。 「これがあると邪魔ですから」 和奏は即座に邪蛇地の尻尾を斬り落として攻撃手段を奪う。 「奥の手を隠しているかも知れません。どう致しましょう?」 「そうだな‥‥」 フィーネに頷いた興志王は魔槍砲の先端を邪蛇地の頭に深く突き刺した。興志王に応えるようにフィーネは蛇矛を振り下ろして邪蛇地を仕留める。邪蛇地のように有利な状況に酔って敵を倒し損ねるのを嫌ったからだ。 「アヤカシらしき瘴気が多数近づいています。この場は離れた方が良さそうです」 「一旦、立て直そう」 玲璃が感知した新たな瘴気から遠ざかるよう興志王は一時撤退の指示を出す。 保波は興志王に背負われる。一行は急いでその場を離れるのだった。 ●そして しばらく何も話さなかった保波であったが、地上が深夜と思しき頃にようやく口を開いてくれた。今は何を話したら伝えたらよいのかわからないが、とにかく目的の宝珠の隠し場所を教えると。 宝珠が隠されている場所は地下施設の奥ではあったが、地上へと繋がる階段の比較的近くに存在していた。一行は脱出の通路を選びながら隠し部屋を目指す。 アヤカシを排除しながら到達。黄色い拳大の宝珠は隠し部屋内でさらに隠されていた。 「これがそうなのですね。何やら書き物も一緒にあるようです」 ようやく見つけた小箱の中からライが取り出す。宝珠の他に絹直筆の宝珠作りの指南書が見つかった。高精度の宝珠をどう研磨して作製すればよいのかの秘伝が綴られているようである。 保波は泣きたい気持ちを押し込め、指南書を胸元で抱きしめたまま歩き続けた。 「母さん‥‥」 ようやく地上への脱出を果たすと泣き崩れる。 その後、一行は無事に帰還。手に入れた宝珠を使っての道具作りが開始されるのであった。 |