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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 銃。 砲術士にとって欠かせないものだが天儀刀などと比べれば未だ発展途上の武器だ。ジルベリアから伝来し、天儀の宝珠技術と合わさって現状の性能がある。 砲術士の国『朱藩』においては日々改良が重ねられている。奨励した朱藩の王『興志宗末』自ら先導することも珍しくなかった。 朱藩のお抱え宝珠研磨師『戸上絹』。 先日、銃身用特殊旋盤の動力源として彼女が残した宝珠を手に入れるために興志王は地方の工房跡に巣くうアヤカシの掃討を行った。 元が不確かな情報なので軍は使えず精鋭の開拓者と共に実行。別動の協力者達のおかげもあり、かなりの成果をあげる結果となった。 アヤカシが散って密集度が薄まるのを期待して日を待つこととなる。一旦引き上げる際、興志王は戸上家の墓参りに寄った。墓は工房跡周辺からかなり離れた土地に立てられていた。 「保波?」 「宗末様」 墓の前で興志王と再会したのは幼なじみの『戸上保波』。絹の娘であり、長い行方不明によって死亡とされていた人物だ。 保波からアヤカシに襲われた当時の事情を詳しく聞きたいこともあり、興志王は半ば強引に安州へと連れ帰る。城内で波風が立たないよう口が堅い宿へと滞在させた。 本人には知らせずに調べたところ、普通の人間だと判明する。保波はケモノでも精霊でも、ましてやアヤカシでもなかった。 「あの周辺は瘴気の森じゃねぇ。それでもアヤカシはうじゃうじゃといやがる。理由がありそうなんだが‥‥保波は知らねぇか?」 「相済みませんが存じ上げません」 保波は過去を含めてあまり話したがらなかった。これまでどうして暮らしてきたのかについても口が重い。 訊ねはした興志王だが返答を無理強いしない。それでも徐々に示唆になりそうなことを保波は教えてくれた。彼女も宝珠研磨の修行をしていた一人である。 ある日、母親の絹がある宝珠の研磨を終えてからアヤカシが多く土地で見かけられるようになったという。 その宝珠はどのような外見的特徴を持っているのか、また特性がどのようなものなのか。それらについて保波は首を横に振る。 特殊旋盤の動力源に使えそうな高精度制御が可能な宝珠については覚えがあるらしい。澄んだ黄色をしていた拳大の真球だったそうだ。こちらは地下深くの倉庫に仕舞われている可能性が高い。ただアヤカシが巣くっている場所でもある。 (「宝珠にアヤカシが近寄ってくる特性があるとすれば‥‥、このままにはしておけねぇ。だがそれだけの為に造られたものだとも思えねぇ‥‥。」) 危険な宝珠だと判明した時点で戸上絹は廃棄を考えたはずである。幼い頃の興志王の印象ではあるものの、戸上絹は非常に賢明な女性だった。簡単に愚を犯す人物だとは到底思えない。あり得るのは他にも利用価値が高い効力を宝珠が宿しており、迷っている間に厄災を招いてしまった場合だ。 アヤカシを引き寄せる宝珠が工房のどこにあるのかは不明。地下探索のため、そして今後の憂いを無くすために破壊することを決意する興志王であった。 |
■参加者一覧
和奏(ia8807)
17歳・男・志
磨魅 キスリング(ia9596)
23歳・女・志
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔
エラト(ib5623)
17歳・女・吟
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ
サラファ・トゥール(ib6650)
17歳・女・ジ
嶽御前(ib7951)
16歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●到着 精霊門にて安州へ到着した開拓者八名は、偽装された朱藩所属の中型飛空船へ興志王と共に乗船。途中で下船し徒歩にて『戸上絹』の工房跡を目指す。 以前の掃討作戦によりアヤカシの分布はかなり薄まっていたが、それでも工房跡の敷地内は危険に満ちていた。 「アヤカシを招きよせる特性とは不可思議な宝珠もあるものですね」 「そうと決まったわけじゃないんだが‥‥現象としてはそうとしか思えねぇんだよな」 フィーネ・オレアリス(ib0409)の呟きに興志王が頬を指先でかきながら答える。 一行は工房跡の敷地外縁から二百メートルほど離れた茂みに潜んで様子を窺っていた。 「どうであれアヤカシを呼ぶ宝珠なら、アヤカシさんが沢山集まっている所にあるのでは?」 「行き先の目安として賛成です」 和奏(ia8807)と磨魅 キスリング(ia9596)の意見を聞いた興志王は唸る。決定的な情報がない以上、それが一番正しい選択だからだ。 和奏の機転で保波から得た知識により、再構成された工房跡の見取り図は手元にある。ちなみに危険性を考えて興志王は保波を同行させなかった。 約三十分前に見取り図を頭に叩き込んだシノビのライ・ネック(ib5781)が一行から離れて敷地内に潜入中。一行はその帰りを待つ。 「お待たせしました」 しばらくして戻ってきたライによれば見取り図は信用に足る仕上がりのようだ。大して奥には入っていないものの工房跡の構造はどの箇所もかつてを反映したものだったという。 「この人数でひっそりと最奥までの潜入は難しそうです」 「だろうな。派手に突っ込む分にはどうにでもなるんだが、それで調査なんてできるはずもねぇ。大暴れして撤退するのが関の山だ」 朽葉・生(ib2229)へと振り向いた興志王が左手で顎をさする。 「夜の子守歌でできる限り多くのアヤカシを眠らせ、無力化すればある程度の時間稼ぎはできると思います」 「それがいいだろうな」 エラト(ib5623)の案を興志王は採用する。なるべくアヤカシ側にこちらの動きを悟られないような潜入方法が選択された。 「宝珠が発見されたなら鑑定はお任せください」 サラファ・トゥール(ib6650)はラ・ラ・モォドと呼ばれる貴金属、宝石、宝珠の真偽を見破る術を身につけていた。 「瘴気の察知からアヤカシの位置もわかるはずです」 嶽御前(ib7951)の『瘴索結界「念」』も非常に頼もしい。 「これだけの頭数が揃っている。みんなの力を合わせりゃ何とかなりそうだな」 興志王は魔槍砲を携えていたが砲撃は使わず、先端の刃のみ使うつもりである。なるべく音を立てずに潜入行動を重視する。 一行は敵であるアヤカシから視認づらい朝焼けの機会を狙って工房跡の敷地内へと突入するのだった。 ●帳面 「進行方向左、廊下の扉の向こう八体」 嶽御前は『瘴索結界「念」』で知った瘴気の存在を小声で簡潔に呟いた。 続いて前へと出るエラトだが仲間達が周囲を囲んで守ってくれる。もちろん興志王もだ。 (「先ほどはすべてのアヤカシが眠りましたが‥‥」) エラトはリュートを奏でて『夜の子守唄』によってアヤカシの眠りを誘った。それで周辺のアヤカシすべてが眠ればよし。そうでない場合には興志王と開拓者達の刃が光る。 (「深追いはせず最低限に」) 和奏は秋水の抜刀で骸骨型アヤカシの頭蓋を真っ二つにする。 (「一気に叩きませんと」) 磨魅は巨体のアヤカシが激しい音や雄叫びをあげる前に背中を踏み台にして跳び、首を真一文字に刎ねた。 (「なるべく静かに」) 朽葉生は土床からアイアンウォールを出現させてアヤカシの逃げ道を塞ぐ。 (「行かせません」) ライは鉄の壁の前に行き場を失った犬型アヤカシの胴を『忍刀「暁」』で斬り裂いた。止めに額へ突き刺すと瘴気に還元して跡形もなく消え去った。 一息つける時間を確保するためにすべてのアヤカシをこの部屋から一掃する。興志王の魔槍砲による突きによってこの部屋最後のアヤカシが瘴気の塵となった。 「ここに何か書いてありますわ」 フィーネは埃だらけの机の上にあった帳面二冊を発見する。 「書いた主は誰だろうな」 フィーネから受け取った興志王がざっと眺めたところ、研究資料というよりも日々の出来事を綴ったもののようである。 床には机から外された引き出しが転がっていた。足下に目を凝らして探してみると汚れた宝珠が見つかる。 「天儀刀に使われる予定だった宝珠のようです。どれも破損していますが‥‥、磨き直せば使えるのかも知れません」 サラファ・トゥール(ib6650)によって宝珠の鑑定が行われる。どれもよい品質であったが、残念ながら目指しているアヤカシを引き寄せる特性を持つと思われる宝珠ではなかった。 「これで工房跡の東側は一通り確認しましたが見つかりませんでしたね」 和奏が小さく折り畳んだ見取り図を取り出して再確認をする。 「勘が外れたか。俺もまだまだだな‥‥」 興志王が腕を組んで唸る。突入の際、宝珠の位置について見当がつかないので興志王が工房跡東側探索を選択したのである。 工房跡敷地内に入ってからはアヤカシが多く屯っている場所を選んで進んでいる。それについても今のところ成果には繋がっていなかった。 「アヤカシを引き寄せる宝珠は、実はそのようなものではないのでは?」 朽葉生の疑問は誰の頭の中にも浮かんでいた。しかし答えはすぐに見つからない。 「たった今見つかった帳面の他にも、工房内でいくつかの資料が手に入った。‥‥ここは退いてそれらの内容を精査した方がよさそうだな」 興志王の判断で一旦工房跡の敷地内から撤退することになる。アヤカシの隙を掻い潜って志体持ちの身体能力で脱兎。一行は無事、安全なところまで工房跡から離れるのだった。 ●解明しなければならない謎 夏を間近にした季節だが野外だと日が暮れれば炎が欲しくなるもの。野営の準備の際に焚き火が用意されていた。 簡易な食事を終えた一行は身体を休めながら語らう。 興志王はフィーネと共に帳面の内容へと目を通した。 工房の主『戸上絹』が記したものではないかと期待したものの、そうではないようである。単なる一使用人が残した雑記のようなものだ。板前も兼任していたようで日々の献立から誰彼の食べ物の好き嫌いなどが細かく記されていた。 「この日が最後か。この記述を信じるとすればアヤカシの襲撃はある日突然であったようだな。その前後に特別なことは何も起きていねぇ」 呟いたあとに興志王は白湯を口に含む。 「宝珠が突然に効力を発したと考えれば辻褄はあいます。ですが――」 フィーネは興志王から受け取った二冊目の頁を捲って最後の日から半年を遡る。理由はわからないものの、この頃から辺鄙な田舎が賑わうようになったと書かれてあった。 「さらにこの一ヶ月前、祝いをしたとあります。わざわざ沿岸地から鯛を取り寄せたとか。しかも工房の全員分といった豪勢なものだったようで」 フィーネの説明を和奏が目を瞑りながら頭の中で反芻する。 「アヤカシさんが多く集まる場所こそ、アヤカシを引き寄せる宝珠があるとそう考えていたのですがもしかしたら違うのかも知れません」 「どういうことだ?」 口を開いた和奏に興志王が聞き返す。 「アヤカシさんではなく人間、つまり普通のみなさんが惹きつけられる宝珠なのではと思いついたのです」 和奏の自らの推測を興志王と仲間達に告げた。 「ですが私たちは別に惹きつけられているような気持ちにはなっていないと思います」 「私もそうですね。興志王様から引き受けた仕事だから向かうのであって、特にそのような気持ちにはなっていないかと。そう考えさせてしまうほど高度なものなのかも知れませんが」 エラトとライの意見はもっともで異論を唱える者は誰もいなかった。 「惹きつけられる方々には何らかの条件があるのかも知れませんね」 「逆に私達のような者が除外されるようなものなのかも」 磨魅と朽葉生も意見を述べてくれる。 「どうであれそのような宝珠があれば非常に画期的に感じます」 サラファがこれまでラ・ラ・モォドで調べてきた宝珠の中にそのような効力を持つものなかった。 「宝珠の探し方についてもう一工夫が必要なようです。ただ現状からいいますとこれといったものは考えつかず‥‥」 嶽御前と同じく誰もすぐには思いつかない。 さらに二時間話し合いは続けられたもののよい案は浮かばなかった。だが深夜、奇妙な出来事から解決の糸口は見つかる。 (「足音?」) 見張りのライが超越聴覚で遠くの足音に気がついた。一行が野営している場所を目指しているのではないようだが、工房跡の方角へ進んでいることは確かだ。 何人かの開拓者が出向いて足音の主に声をかける。嶽御前の『瘴索結界「念」』で瘴気は感じられなかった。普通の男性だと興志王は判断する。 「こんな夜更けにどうして歩いていたっていわれても‥‥。普段はしないんだが今日は月が綺麗だったんでな」 男性を野営場所に招いていろいろと話しを聞いた。 彼は長く放浪の旅を続けているという。本人に自覚はないようだが工房跡を目指していたのは確かである。和奏の仮説が現実味を帯びてきた。 さらにもう一人、今度は女性を発見する。彼女は数日前、夫の暴力に耐えかねて家を飛び出したものの、特に当てもなく彷徨っていたという。 「お月様を見上げていたら何となくね。別に輝いている方角へ歩いているとかはなかったのよ」 女性からも『月』という言葉を一行は聞かされる。 この先はアヤカシが巣くう危険な土地だと説明すると二人は特に疑う様子もなく信じてくれる。 「月か‥‥」 興志王は答えを見つけたような気がした。 ●宝珠の正体 興志王と開拓者達はものは試しと月を見つめ続ける。すると何となくではあるが気持ちが傾いてくる。ある方角に引っ張られるような、そんな感覚に。 「もしかしてこれでしょうか? 月を眺める者を呼び寄せる効果とは」 「そうだろうな。どれだけの範囲まで効果があるかはわからねぇが、少なくともこの場所ぐらいの距離なら十分に効力があるんだろうさ」 ライに振り向く興志王は合点がいった表情を浮かべた。 おそらく志体持ちの身体能力の高さによって知らぬ間に宝珠の力をうち消していたのだろう。わざと隙をつくることによってようやく片鱗が掴めた格好だ。 餌となる人が勝手に集まってくるが故にアヤカシはこの地に留まっているようだ。田舎なので余計な邪魔が入らないのも奴らにとって好都合に違いない。 戸上絹がこの効果を発揮する宝珠を壊すのに躊躇ったのにも興志王は理解できる。 まさかアヤカシが宝珠の効果を間接的に利用するとは普通思い至らない。事態に気づいたときにはすでに手遅れだったのだろうから。 「急ぎましょうか」 立ち上がった磨魅に仲間達が頷く。ある方角へ引っ張られるような感覚の継続に月が必要ならば、雲に隠れてしまう前に宝珠を見つけださなくてはならなかった。 「こちらの方面に瘴気は感じられません」 「廊下の先に曲がり角がありますね」 月を眺めることで得られる感覚。探る瘴気と見取り図の経路を組み合わせて進んだ。 再び工房跡の敷地内へと足を踏み入れた一行はすみやかに移動する。必ずしもアヤカシがたくさんいる場所を目指す必要はないので経路の選択には余裕があった。 二人がかりで一体のアヤカシ相手ならばわずかな時間で片づけられる。 「この辺りが特に怪しいと感じますが」 朽葉生はかつて作業場だった広間を見回す。錆びた工具類が多数転がっていた。 「柱の隙間に隠れているとは」 フィーネが流し斬りで骸骨型のアヤカシを真っ二つ。 「こんなところにも」 磨魅は狼型アヤカシを一気に仕留めた。 天井が壊れているせいで見えていた夜空の月がついに雲へと隠れてしまう。当然、室内は真っ暗となった。 「みなさん手を繋いでください。誘導します」 ライは術を使って暗闇の中を視認しながら一行を誘導する。 「これか」 興志王が触れた巨大な箱の隙間からは光が漏れていた。箱を取り除くと直径一メートルにも及ぶ黄緑色の宝珠が姿を現す。 「推測は当たっていました。これは人を呼び寄せる宝珠だと思われます」 ラ・ラ・モォドで鑑定するサラファの指先と瞳が輝いた。 「絹さんよ。すまねぇが壊させてもらうぜ」 射程ギリギリまで遠ざかった興志王は魔槍砲を腰で構える。火球によって人を呼び寄せる宝珠は粉々に砕け散った。 その破壊音は周囲に響き、離れた位置のアヤカシ共の元にも届く。 「今しばらくは私が抑えます」 エラトがリュートで夜の子守唄を奏で、迫るアヤカシ共を眠らせていった。 「今回の仕事は完了です。撤退しましょう」 その間にライが素早く天井まで登って縄を垂らす。 縄をよじ登って全員が屋根の上まで辿り着く。 月はまだ隠れたままだが野外ならば星明かりがあればなんとなる。暗視の術を使ったライが先導して一行は工房跡の敷地から脱出した。 (「これでもう人を呼び寄せることはありませんね‥‥」) 和奏は駆けながら、自覚のないまま宝珠に呼び寄せられてアヤカシの犠牲になってしまった人々のことを思うのだった。 ●そして 狼煙銃による合図によって一行は偽装飛空船との合流を果たす。そのまま朱藩の首都、安州へ戻った。 興志王は城へ帰る前に保波を匿っている宿へ開拓者達と一緒に立ち寄る。 「そうでしたか‥‥」 顛末を聞いた保波は言葉少なに頷いた。まだ何か隠していると興志王は感じたものの、深く訊こうとはしなかった。 開拓者からの質問にも保波は通り一遍のことしか答えず席を外してしまう。 彼女が心の中に抱えている闇は一体何なのか。興志王と開拓者達は城までの道中話題にするが答えは見つからなかった。 |