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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 武天と理穴の国境付近にあった魔の森の焼き払い。 地上は餅平利家が率いる軍が担当。 飛んで逃げようとするアヤカシへの対処は超大型飛空船『赤光』と中型飛空船二隻が行った。赤光は興志王が、中型飛空船の一隻は宇田俊史が乗船指揮。開拓者達の力も借りて計画された範囲の焼き払いは無事完了する。 アヤカシ殲滅の活躍によって宇田俊史の謀反の疑いは晴れたもののすべてが解決した訳ではなかった。朱藩を再び鎖国へ戻そうとする首謀者がわからないままであったからだ。 「これは?」 城の一室で書物に目を通していた興志王が首を傾げる。 書物は朱藩各地に放った間者からの報告をまとめたものであったが、千代が原諸島にある無人島の一つが空欄になっていた。正確にいえば行方不明の文字が隅に小さく三回繰り返して書かれてあった。 書物をまとめた配下を呼び出して確認すると、三名の間者を送ったものの誰も戻ってきていないという。 「ふむ‥‥」 興志王はしばし考え込む。 単に海が荒れて辿り着く前に溺れてしまったのかも知れない。アヤカシやケモノ、または獰猛な鮫にやられてしまった場合も。しかし興志王の勘はどれでもないと心の中で囁き続ける。 (「俺が直接調べてみよう」) 自ら足を運ぶと宣言すれば引き留めようとする臣下がいる。そこで興志王は内緒で計画を進めた。開拓者ギルドで秘密裏に募集をかけて飛空船も用意する。 決行の日はもうまもなくであった。 |
■参加者一覧
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
和奏(ia8807)
17歳・男・志
磨魅 キスリング(ia9596)
23歳・女・志
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
エラト(ib5623)
17歳・女・吟
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●潜入 暗闇の海面を照らす宝珠の照明。その日の夜は曇り空のせいで星さえ見えなかった。 着水したばかりの中型飛空船の後部扉が開放されると、いくつかの影がわずかな灯火によって浮かび上がる。 「では行ってくるぜ!」 興志王は扉の操作桿に握っている配下の者に声をかけてから海へと飛び込んだ。無人島に向かうのは興志王と開拓者の七名のみ。他乗員二名は飛空船を守るための留守番である。 興志王に続いて開拓者達も海へ。 (「これは冷たい‥‥。そ、それよりも巨大鮫が出ませんように‥‥」) 冷たさに震えながら和奏(ia8807)は興志王の姿を探す。興志王を示す浮かぶ工夫がされた長い布が波間に漂うのを目印にして。 その他の者達は全員浮き袋を利用していた。 (「どうか濡れませんように」) エラト(ib5623)が掴まる大きめの浮き袋は二重の構造になっており、リュートを含めた装備品が仕舞われてある。 「疲れたら興志王も掴まってください」 「おう、わかったぜ」 ライ・ネック(ib5781)は先頭の興志王に追いついて声をかけた。彼女の浮き袋にも装備品が詰まっていた。暗視の術を絶やさぬようにして島への方角を間違わないように努める。 (「相変わらずの無茶をなさります」) 冬の海、しかも夜に泳いで島へ渡ると聞いたとき、フィーネ・オレアリス(ib0409)は興志王らしいとも思ったが同時に心配もした。浮き袋で泳ぎながら興志王の動向を常に後方で確認し続ける。 (「明後日の天気が心配です」) 浮き袋で泳ぐ玲璃(ia1114)は海へ入る前にあまよみで天気を確認していた。 しばらくは曇り空の日が続くようだが問題なのは明後日。本格的に天気の荒れる様子が見えたのである。 「もう少しです。頑張りましょう」 磨魅 キスリング(ia9596)は島までの途中にあった岩礁を慎重にすり抜けた。岩の突起に引っかかって浮き袋が破れないよう注意を払いながら。 潮の流れのせいで予定よりも遠泳となってしまったものの七名は無事島へと泳ぎ着いた。 無人島であるはずだが、戻ってこなかった三人の密偵のことを考えるとそうではないかも知れない。用心して光が洩れにくい崖の窪まったところで焚き火をして暖まった。薪は海辺に打ち上げられている流木を集めて利用する。 煙は間近にある大木の枝で拡散されるだろうし、今晩は月や星が雲で覆われているので視認は難しいはずだ。 着替えをし白湯と保存食を口にしてようやく身体の震えが止まる。 交代で見張りを勤めながら、まずは体力の回復を優先して夜明けを待つ一同であった。 ●調査 無人島はいびつながら約直径三・五キロメートル円の形を成していた。日中、志体持ちの健脚をもってすれば調べ尽くすのは簡単な広さ。しかしそうはうまくいかなかった。 最初の発見がそのまま障害となって一同を阻んだ。無人島とはどこ吹く風。多数の見張りが島のいるところで目を光らせていたのである。 ここはまとまっての行動すべきだといった興志王の考えに開拓者達も賛同する。 「この島で行方不明になった三人をどうにかしたのが、あのみなさんなのでしょうね。だから再び誰か来ないか警戒していたと」 和奏は人食いの民ではなさそうだと思いながら囁くような声でライに話しかける。 「それで間違いないでしょう。きっとあそこを守っているはずですので」 ライは木々の隙間から遠くの崖を眺めた。 よく見れば崖がくり抜かれて建造物になっている。内部の広さまでは伺い知ることは出来なかった。 わずかにある外部の構造物も土や木の色に模していてわかりにくい。飛空船から見下ろした程度では絶対に判別出来ないように偽装されていた。 「全員で中に侵入したいところなんだが‥‥」 興志王は岩の上に胡座をかいて胸の前で腕を組んで呻る。 「見張りの状況がわかれば、侵入の方法がわかるかも知れません」 玲璃は持っていた宝珠の中から管狐の紗を開放する。人魂によって鳥に化けた管狐・紗が謎の建築物近くを飛んでから戻ってきた。 管狐・紗によれば三階建て相当の高さにある小窓から内部を覗いたところ、プロペラのようなものが見えたという。 「飛空船、でしょうか?」 「それ以外は考えにくいですね」 エラトと磨魅の想像に誰もが同調した。問題なのはその大きさだ。もう一度、鳥になった管狐・紗が再確認する。 「それなら間違いなく大型飛空船ですね。まさかこんなへんぴな土地に造船所があるとは」 フィーネが驚くのも無理もなかった。資材搬入の効率を考えれば、このような離れ小島で造船するのは現実的ではない。 有利な点があるとすれば目立たないこと。朱藩の中央、つまり興志王に気づかれないようにする以外に考えられなかった。 「なるほどな‥‥。大量の資材を運ぶとすれば朱藩の港から一般の船で運び入れているに違いないな。飛空船では重量に限界がありすぎる。とすれば海岸線付近に港が造られているはずだ」 興志王の想像は当たっていた。引き潮のときだけ現れる岸壁の洞窟から夜陰に紛れて出航する大型の通常船舶を発見。一同は改めて作戦の練り直すのだった。 ●潜入 一同は岩礁に潜んで機会を図り、通り過ぎようとした大型の船舶へと取りついた。 鈎付きの縄を引っかけて側板の突起に引っかけて甲板までよじ登る。寒さに震えながらも次々と船員達を捕縛して乗っ取りに成功する。エラトが夜の子守唄で船員達を眠らせてくれたおかげで傷つけないで済む。 船の進みを遅くして時間稼ぎをし、暖をとりながら船員達の服を奪って変装する。船員達は船倉奥の部屋に監禁した。 謎の造船所で怪しまれないために船長だけは一緒に行動させることにした。いうことを聞かせる途中で重要な事実が判明する。 「あそこからか‥‥」 船の積み荷は朱藩の海に面する領地『狩須貝』の港からであった。あの土地は開国の当初こそ反対していたが、説得の末に今では賛成に回ったはずである。 密かに物資を流すのに自領地は一番適している。大量で高品質な材木や鋼材を他の土地で用意するのは非常に難しいからだ。 船長とはいえ下っ端に機密を教えているはずもなかった。興志王は船長に協力すれば監禁中の船員も含めて身の安全を保証する。 「もうすぐです」 見張り台に立ったライから伝声管によって操船室内に報告が届く。 「任せてください」 操舵を任された和奏がうまく洞窟のど真ん中に大型船を進入させる。洞窟内の所々には輝く宝珠が埋め込まれていてかなりの明るさが保たれていた。 大型船が真っ直ぐに進むとやがて洞窟は大きく広がる。地下空間に海と繋がった汽水湖が存在し、そこに港はあった。 興志王は船長に同行して秘密の造船所の責任者の元へと向かう。船長に逃げられないよう和奏も同行する。 磨魅は大型船に残って資材搬出の監視役を務めた。船員達を幽閉している事実がばれないようにするのも大事な役目だ。 搬出そのものは秘密の造船所内の職人達によって行われた。大型船に乗船していたのは船長を含めてたった七名。元々、荷運びの人頭には含まれていなかった。 「風邪で以前の方々は倒れられまして急遽集められたのです。気をつけられた方がよろしいですよ」 搬出の職人に初めて見る顔だと疑問をぶつけられて誤魔化す磨魅である。 玲璃とフィーネは造船中の大型飛空船を見学させてもらった。女性が極端に少ないらしくとても歓迎される。少々危険な視線が飛び交っていたが基本的に紳士であった。 「こちらはもう飛べるのでしょうか?」 玲璃の問いに案内してくれた技師は内装が残るのみで機能はすべて動作していると答えた。 「立派な精霊砲ですね。一体、何門あるのですか?」 フィーネは飛空船の性能についてを質問する。かなり高度な技術が使われているようである。 エラトは一室に潜んで管狐の紗に人魂で変化してもらって造船所内を探る。それが終わると食堂に向かった。 「島ですといろいろと大変ではないのですか?」 相席した技師に訊ねたところ、造船所には約百名が働いているという。技師は各地から集められたようだが、一番多くを占める職人は朱藩の領地『狩須貝』の出身者が多いようである。飛空船をたくさん造船し、興志王の手助けをしたいと相席した技師は笑顔でいっていた。 ライは天井裏から隠密に船長、興志王、和奏の後をつけていた。造船所の所長と三名が面会している間に隣室で資料を探る。 (「かなりの飛空船がすでに‥‥」) まとめの資料によれば、狩須貝の領主に引き渡された飛空船は大型が三隻、中型が三十一隻、小型はゆうに二百隻を越えていた。 重要なものと思われる資料を選んでライは持ち出すのだった。 ●節度ある破壊 大型船に載せられていた物資の四割は食料。残りは主に船内用の家具類。完成まで内装を済ますだけといった情報を裏付けていた。 「戻ってこなかった密偵と思われる者が一人幽閉されているようです」 「それは確認しなければなりません」 ライが得た情報に沿ってエラトが動く。管狐の紗を鼠に変化させて監禁部屋を発見し、密偵と接触を果たす。彼によればこの造船所内には四人の志体持ちがいるという。 大型船の一室で報告を聞いた興志王は眉をひそめて天井を見上げた。 「俺達で志体持ち四人が混じった約百人と渡り合うか。戦えなくはないが‥‥」 意味のない血を流すのは興志王の本意ではなかった。また騙されているとは知らず、かなりの技師と職人が自分の為に役立とうとして働いているようである。印象からいえば所長も同様のようだ。 興志王は開拓者達に改めて協力を頼んだ。 第一に完成間近の大型飛空船の竜骨を破壊。 第二に密偵の救出。 第三に造船所の大型工具の破壊。 造船所の者達の生存に必要なものはすべて残しておきたいと語る興志王である。 造船所を訪れたその日の夜のうちに急ごしらえの作戦は決行された。 竜骨破壊班は磨魅、和奏。 密偵救出班は玲璃、ライ。 大型工具破壊班はフィーネ、エラト、興志王。 船長も監禁すると興志王一行は動き出す。飛空船造船所の活動を停止させるために。 ●竜骨の破壊 磨魅と和奏は薄暗闇の中を駆けていた。 大型飛空船内の通路についてはすべて調べ上げられてあり、前もって選択した順路に従って進む。 より確実に破壊するためには飛空船内からの破壊が不可欠。すべてではないが船底を晒す飛空船では防護壁によって竜骨が保護されている。完成間近の大型飛空船もそのような構造になっていたからだ。 「止まれ!」 廊下で振り向いた見張りの二人組が大声で威嚇してくる。二人の手には長銃が握られていた。 走る勢いのまま磨魅は右壁を利用し、和奏は左壁を蹴って廊下の天井へと跳んだ。天井に取り付けられた宝珠の輝きに見張りの二人組の目が眩む。 二人組の腕を蹴り、または拳ではね除けて長銃を落とさせると磨魅と和奏は振り返らずに通り過ぎる。 当初、殆どの造船所の者達は眠りに就いていた。竜骨に辿り着くまでに磨魅と和奏が接触したのは六人程度で済む。 「この組み部分が弱点のようですね」 和奏は鬼神丸を上段に構えて呼吸を整えた。反対側ではグニェーフソードを抜いた磨魅が眼光を光らせる。 「かなりの丈夫さです。一撃で粉砕とはいかないでしょうが、これだけ近くなら」 磨魅がグニェーフソードに炎魂縛武を纏わせたのを合図にして破壊が開始された。鉄材で補強された巨大な組木に刃の筋が刻まれてゆく。 密閉空間のせいで攻撃音が反響によって増幅される。それは船外にも伝わるほどのものとなった。 磨魅と和奏は邪魔が入る前にと攻撃の手を強めるのだった。 ●密偵の救出 ライと玲璃は狭い天井裏を腰を屈め気味に進んでいた。 超越聴覚や暗視、忍眼を駆使しながら密偵が幽閉されている部屋を目指す。 幽閉の部屋は一般的な建物の構造から考えればあり得ない場所に造られている。例えれば一階の隣の部屋へ移動するために一度三階まで上らなければならないようなもので、もっと複雑であった。 「こちらです。足下に気をつけて」 小声で注意をしながらライは玲璃の腕を掴んで導いた。目的の監禁部屋に辿り着いても、暗くて殆ど何も見えない状態。連れ出して別の部屋へと潜り込んでようやく玲璃は密偵の様子を目の当たりにした。 「もう大丈夫です」 玲璃は閃癒で密偵の傷を回復させた上で念のため解毒も施す。あまりに酷い状態だったからだ。 密偵の名前は『里葦』。詳しい事情を聞くのは後にして脱出を優先する。ちょうどその頃、轟音が造船所内に響き渡り始めた。磨魅と和奏による竜骨の破壊音である。 寝ていた技師や職人が目を覚まして右往左往と騒然とした状態。この機に乗じてライと玲璃は里葦を連れて大型船へと帰還する。 ライと玲璃は里葦を安全な部屋で休ませると出航の準備を始めるのだった。 ●大型工具の破壊 造船のためには特別な加工工具が必要。その中でも巨大な工具はある一つの工程を成すため専用に造られたものなので他に代替がきかないものばかりだ。そして大規模な工具は再び造り直すとしても数ヶ月は要する。 「これはあなた方のためでもあるのです」 エラトはフィーネと興志王に守られながら『リュート「激情の炎」』を奏でた。迫ってきた技師や職人は眠りの世界へと誘われて次々と床へ転がった。 薄暗い造船所内で同士撃ちを避けるために技師や職人は銃を使うのを控える傾向にある。間近まで迫る前に音楽で眠らせてゆく。 「これは何かをくり抜く絡繰りですね」 フィーネは『蛇矛「張翼徳」』で可動部分の心棒を粉砕。木片が辺りに散らばると同時に巨大工具が姿勢を崩し瓦解していった。 「ここなら燃え移らないだろうからな」 火事を起こすのは本意でない興志王は慎重に魔槍砲を使って大型工具を破壊する。 いくら人員がいてもこれで当分の間飛空船建造は不可能。ようは接収までの時間稼ぎになればよかった。 大型飛空船の竜骨が折れる激しい音が造船所内に響き渡った。大型工具の破壊も程々にしてフィーネ、エラト、興志王は撤収。 全員が戻っていたのを確認して大型船は強行出航する。 銃で狙い撃たれたが大型船に効くはずもない。外海の天候は荒れ気味で波も高かったが大型船なのでこちらも問題なかった。待合い地点で中型飛空船と合流して脱出に成功する。 「俺の目を他に引きつけさせ、その裏で着々と戦力を整えていた‥‥。つまり二段構えの作戦だったということか。長く味方のフリをし続けていた狩須貝の領主よ」 興志王は遠ざかってゆく無人島を眺めながら呟くのだった。 |