|
■オープニング本文 前回のリプレイを見る 武天と朱藩の国境付近に広がっていた魔の森は『武州の戦い』と名付けられた一連の戦いによって落ち着きをみせる。 大アヤカシ『大粘泥「瘴海」』は撃破され、また多くの虫の姿に似たアヤカシも退治された。しかしまだ瘴気溜まる魔の森が残っていた。 核となる瘴海がいなくなったことで魔の森は衰退の道を辿るだろう。しかしそれを待っている余裕はなく、また新たなアヤカシの巣となるのは避けねばならなかった。 一度焼き払いさえすれば自然の復活を期待出来る状況を鑑みた上で、武天の王『巨勢宗禅』と朱藩の王『興志宗末』は会談の場を設ける。そしてこの地域に限っての互いの軍の派遣を承認した。また開拓者ギルドへの協力要請も良しとする。 国境付近の魔の森を焼き払いすべく様々な立場の者達が集まろうとしていた。 先頃、興志王と朱藩の未来についてを語り合った『餅平利家』の領地は東部に存在する。 餅平領地と隣接しているわけではないが国境付近の魔の森とは近い。興志王の希望もあって朱藩国軍との魔の森共同焼き払い作戦が立案された。 地上の焼き払いは餅平軍が担当。約百名が任にあたる。 魔の森東部の一部を焼き払う予定だ。小分けに行うのは意図しない土地に燃え広がるのを防ぐ意味がある。ひとくくりに森とはいっても川や丘陵などによって地形が分断されていた。完全に切り離すには草木の伐採が必要だろうがその労力はわずかなものだろう。 興志王が乗船する超大型飛空船『赤光』を含む船団は上空で待機済みだ。 魔の森内に潜伏しているアヤカシは焼き払いの際に飛び出してくるはず。おそらく飛翔可能な甲虫型アヤカシだと推測出来た。そう判断しての空中での待ち伏せである。 (「果たして‥‥」) 赤光艦橋の興志王は懸案に奥歯を噛んで瞼を半分落とす。自分と餅平利家を亡き者にしようとした主犯格についてだ。 浮上していた名前は『宇田俊史』。歳は四十一。興志家に代々仕える氏族の重鎮であり、安州の飛空船基地建設における功労者でもある。故に興志王はこれまで疑いをもったことなど微塵もなかった。 しかし実行犯の下っ端の賊による証言以外にも証拠は存在する。密書の類が安州内の宇田の屋敷から多数発見されていた。 興志王自らが本人に質したところ、濡れ衣であり潔白との申し開きがあった。密書の類は何者かに嵌められたのだと。 沙汰については保留。逆に重用し、今回の作戦に同行させて護衛の中型飛空船一隻を任せてある。 もしも宇田に反旗を翻す意志があるのならば中型飛空船一隻であっても赤光に重大な損害を与えられるはずだ。船首を少し振ってわずかに進むだけで赤光の横っ腹があるのだから。 興志王はわかっていてわざとそうしていた。もしもアヤカシとの混戦の最中、裏切られたのなら無傷では済まないのも覚悟の上で。 信じるのは難しいものだと興志王はそう心の中で呟くのだった。 |
■参加者一覧
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
和奏(ia8807)
17歳・男・志
磨魅 キスリング(ia9596)
23歳・女・志
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
エラト(ib5623)
17歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●真っ赤に輝く戦場 大空に浮かぶ超大型飛空船『赤光』の船底を真っ赤に照らす地上の炎。これは武天と朱藩の国境近くに広がる魔の森を焼き払うためにわざと放たれたものだ。予定された区画分を焼き尽くすまで約三日間を要すと考えられていた。 眼下で展開する餅平軍は魔の森の焼き払いと同時に大地を這うアヤカシの殲滅も担当する。 赤光へと乗船した開拓者六名に任されていたのは、燃えさかる魔の森から飛んで遠くへと逃げようとする飛翔型アヤカシの退治。 飛翔型だと移動可能な距離が地上のアヤカシの比ではなかった。朱藩と武天の広範囲な各地にアヤカシが散らばってしまうのを最小に防ぐために、この魔の森で瘴気の塵へと帰さねばならなかった。 赤光乗船の砲術士達が行う射撃、精霊砲によって砲火が大空を覆っていた。肝心なのはアヤカシをやり過ごすことではなく殲滅である。 甲板に待機するサムライ三名が咆哮にて飛翔型アヤカシを赤光へと招く。禍々しい賓客を手厚く持てなすのが開拓者達の役目だ。 赤光甲板上、アーマー・ロートリッターで待機するのはフィーネ・オレアリス(ib0409)。興志王も魔槍砲を担いで自ら参戦である。 上空にて飛翔型アヤカシを殲滅するのは駿龍・夏香を駆る玲璃(ia1114)。鷲獅鳥・漣李を駆る和奏(ia8807)。駿龍・ブリュンヒルトを駆る磨魅 キスリング(ia9596)。炎龍を駆るジークリンデ(ib0258)。駿龍・アギオンを駆るエラト(ib5623)の五名。 「盛大に出迎えてやろうじゃないか。せっかくの火祭りといった風情だからな!」 興志王は眼下に広がる炎で赤く染まる大地を眺めながら高笑いをする。 「順調にいけば主亡き魔の森は焼き払われることでしょう」 「おうさ!」 フィーネが搭乗中のアーマー・ロートリッターに興志王が左腕をかけて寄りかかる。右手には専用の魔槍砲が鈍い光を放っていた。 興志王とフィーネはしばし単独飛行中の仲間達の活躍を見守ることになるだろう。二人も重々承知しての待機である。実際、フィーネはまだ乗り込んだだけでロートリッターを起動すらさせていない。長期戦が想定されているが故だ。 (「宇田様がシロであれクロであれ暗殺の首謀者は確実にいるのですから‥‥」) フィーネは機嫌の良い興志王を横目で見る。そして宇田俊史が指揮を執る赤光右舷方向の中型飛空船『京駒』が気になっていた。京駒に危険なそぶりがあれば興志王へと即座に伝え、または守護するつもりである。 空を駆けて戦う開拓者五名は飛翔型アヤカシの第一陣と相対する直前であった。燃えさかる森から立ちのぼる煙に混じって浮上してきた多数の黒点こそがそれである。 多数の黒点の中へと突入する赤光と護衛飛空船二隻。開拓者五名も赤光に導かれるまま黒点の群れへと接近する。 「事前にお話した通り、笛を三回吹いてから一分後に天鵞絨の逢引か剣の舞を演奏します。必要と感じた方はどうか私の周囲に集まってください」 エラトは駿龍・アギオンの背の上で『リュート「激情の炎」』を奏でた。最初に選択した曲は攻撃力をあげる剣の舞である。 エラトの演奏と殆ど同時に赤光甲板で待機していたサムライ達が咆哮を轟かせてアヤカシの群れの注意を引いた。これによってかなりの数の飛翔型アヤカシが赤光へ集ろうと動きを一つにする。 「数が多いです。囲まれないよう、機動力を活かして回避行動をメインでお任せしますね。もちろん、余力があれば手を出しても構いません」 笑顔で鷲獅鳥・漣李に話しかけた和奏は腰の『刀「鬼神丸」』を抜いた。刹那、急速に迫る鴉妖の一羽を紙面をなぞるように両断。そのまま戦いに突入していった。急上昇をした上で旋回し、その勢いのまま和奏が刀を振り下ろす。 黒点に見えていたアヤカシの実体が間近になってはっきりと輪郭を露わにした瞬間には、瘴気の塵へと還元する直前。和奏が引導を渡してゆく。 和奏が甲板上空東側なら西側を守っていたのがジークリンデである。 (「長期戦とのことなので、任せられるところはお任せしていきましょう」) ジークリンデは炎龍の背で砲術士の遠隔攻撃を眺めていた。練力消費の激しい精霊魔法を連発したら愚の骨頂である。最大効率で練力を使うことこそが興志王の役に立つ道だと考えて状況を見守った。 「この敵数をすべて銃砲で防ぐのは難しいでしょう。私の出番ですね」 ここぞというところでジークリンデが唱えたのはメテオストライク。 地上の森を燃やし尽くす炎とは別に大空の一角で巨大な火球が膨れあがった。大爆発に巻き込まれた飛翔型アヤカシの多くは一撃で瘴気の塵へ。わずかに生き残った強靱な巨躯を持つ飛翔型アヤカシは砲術士達の集中砲火によって止めが刺されて無に還元す。 駿龍・ブリュンヒルトを駆る磨魅は仲間達よりも赤光から距離をとって飛翔型アヤカシと戦っていた。駿龍故に移動範囲に余裕があったからだ。 「ここでお終いです! 我が剣に、断てぬ物無し!」 駿龍・ブリュンヒルトの背に立った磨魅は頭上に掲げたグニェーフソードで巨大鯰型妖の腹をかっ捌いた。電撃の光を撒き散らしながら巨大鯰型妖は身を捩らせる。 磨魅は反転してもう一度攻撃をしようとしたが必要なかった。巨大鯰型妖を形作っていた瘴気の塵は魔の森から立ちのぼる煙と混じって正体不明になる。 (「今のところ何事もありませんが‥‥」) 磨魅は戦闘中でも中型飛空船『京駒』の動向を把握するよう努めていた。離反の意志は真実なのか、それとも濡れ衣なのか。もしも離反だとわかったときには全力を尽くして赤光を守る覚悟をもっていた。 玲璃は駿龍・夏香でなるべく赤光を基点とした戦闘の中心で状況を把握し、仲間達へと伝えていた。呼子笛の間隔で敵の密度が濃い方角を報せる。瘴索結界「念」のおかげで周辺の飛翔型アヤカシの位置は手に取るようにわかっていた。 (「森の焼き払いも順調のようです」) 玲璃は傷ついた仲間がいれば精霊の唄で癒す。なるべく効率がよいようたくさんの味方を呼び集めた上で。 最初の戦いが一段落したところで開拓者達は玲璃が提案した順番で休憩をとった。最初は玲璃とジークリンデである。急いで食事を摂取し、回復が期待できる六時間目一杯の睡眠をとった。 飛翔型アヤカシの活発さには波があった。 魔の森の中で火の手から逃げ回り、追いつめられてからようやく空へ逃げているのだろうと興志王は想像していた。理由は定かではないが、アヤカシが魔の森に固執しているようにも考えられる。 「信じているぞ‥‥俊史」 興志王が赤光右舷方向へと目をやって呟く。興志王の瞳に映った中型飛空船『京駒』は集る飛翔型アヤカシへと砲火を繰り返していた。 ●甲板にて 午後を越えると徐々に赤光甲板まで無傷でたどり着く飛翔型アヤカシの数が増えた。そこで興志王とフィーネが咆哮で呼び寄せているサムライを守るために武器を振るう。他にもいる砲術士達は支援を行う。 「興志王様! ここはお任せを!!」 アーマー・ロートリッターのフィーネは大剣を半月薙ぎで振り回して寄ってきたアヤカシ等を散らした。千切れたアヤカシの物片が甲板に激突して跳ね返る。 「炎のお代わりだ! 満腹になりな!!」 興志王が構えた魔槍砲の先端から炎球が放たれた。腹の一部をえぐり取られた巨大蟷螂妖は甲板へと衝突。再び起きあがることはなく瘴気の塵が風に乗って散ってゆく。 「これで!」 フィーネは巨大鍬形妖の片鋏を叩ききるとさらにもう一歩踏み込んで眉間の部分に深く突き刺す。痙攣する巨大鍬形妖が事切れて波にのまれた砂城のように崩れ去っていった。 一日目の山場はこの時であり、約三十分後には戦いが一旦収束した。 新たな飛翔型アヤカシの群れが燃えさかる魔の森から飛び立たない限りは危険はなかった。最低限の人員を残し、約五分の四にのぼる兵達が休息をとる。 定期的に交代していた開拓者達であったが、この機会に全員で食事と睡眠をとって身体を休めた。 燃えさかる魔の森のおかげで日が暮れても視界の確保には困らなかった。煙は邪魔であったが地上の餅平家の兵達が風向きを考慮した上で先回りの伐採をし、炎を制御してくれているおかげでそれほど酷くはなかった。それを知った興志王は餅平利家への信頼を厚くする。 (「俊史‥‥連絡ぐらいよこせ」) 興志王は薄暗い艦橋の座席で頬杖をつきながら並行して飛んでいる中型飛空船『京駒』に目をやる。日中にも何度も眺めていた。 安州に飛空船基地を造ると宣言した際、言葉そのものは穏やかであったが多くの反対と批判に晒された。そんな興志王を守ってくれたのが宇田俊史である。 その宇田俊史が謀反を企てるなどあり得ないと興志王は考えていた。しかしそれが自分の甘さなのかも知れないと思う気持ちも興志王の心の隅にわずかながらあった。 ●巨大なアヤカシ 疲労を溜めながらも二日目の飛翔型アヤカシの殲滅も無事に終わった。宵の口、餅平利家からの伝令によれば予定の約五分の三を焼いたとのことである。 夜になると飛行型アヤカシの行動が一段落する傾向は一日目と同じであった。しかしこれまでの経験からいってそう思い込むのは早計だと興志王は判断する。 魑魅魍魎跋扈する闇での蠢きこそアヤカシの本領。それが集団になったからといって変わるはずもなかった。 日中に余裕があった開拓者達は交代しながらも夜間の警備に当たっていた。 眼下の燃え燻る魔の森の輝き。そして飛空船に多数取り付けられた輝く宝珠のおかげで視界は二日目も良好である。 「百、は倒しましたわ」 「かなり魔の森には残っていたようですね。果たしてどのくらい残っているのか――」 フィーネはアーマー・ロートリッターを降りて甲板に降りていた玲璃と話す。全員揃っての相談が難しいので玲璃が各自の元を回ってくれていたのである。 「よく寝てまた魔法が詠唱できるようにしないといけませんし」 「私もたくさんの演奏をして援護しなければ」 現在、開拓者達に割り当てられた個室で休憩中なのはジークリンデとエラト。それぞれの龍も甲板下の格納庫で休んでいた。ただ警戒態勢なのでいつでも飛び出せる用意はされている。 「少し離れて探ってきます。これから燃え広がる場所を見てきますので。行きましょうブリュンヒルト」 「ここは任せてください。御武運を」 鷲獅鳥・漣李を駆る和奏が風のように遠ざかってゆく駿龍・ブリュンヒルトに乗った磨魅を見送った。 和奏は赤光と京駒の間に位置しながら警戒。磨魅はまだ火の手が広がっていない予定の区画上空を飛ぶ。 今回の作戦で魔の森のすべてを焼き尽くすわけではないのだが、朱藩の国王が指揮を執るだけあって広範囲なのは確かである。それを磨魅は炭と灰になった魔の森を見渡すことで実感していた。 「な!」 突然の地響きに磨魅は驚きの声をあげる。すぐに静寂が戻るのだが再び覆された。土煙をあげて地中から巨大な何かが飛び出してきたのである。 「蝉!」 磨魅の叫び通り、それは蝉であった。だが大きさは中型飛空船と大型飛空船の中間といったあたり。つまりとても巨大な飛翔型アヤカシ。まるで蛹から抜け出たばかりの蝉のように真っ白な姿をしていた。 磨魅は駿龍・ブリュンヒルトに言い聞かせて全速で戻る。途中で並飛行した和奏に話し、そのまま甲板へと降りて伝声管にて艦橋の興志王へと伝えた。 「戦闘態勢発令!」 即座に休憩時間は解かれて激しい鐘音が赤光船内に鳴り響く。当然護衛の二隻にも伝達された。 休憩していた開拓者も相棒に乗って夜空へ。フィーネはビーストクロスボウを準備してアーマー・ロートリッターを甲板で起動させる。 「迷いのない動き‥‥。赤光へと向かっているのでしょうか?」 フィーネはブリザーストームで的を絞り、大型蝉妖を吹雪で包み込んだ。 今は大型蝉妖一体のみなので赤光甲板上でサムライによる咆哮は行われていなかった。それにも関わらず大型蝉妖は赤光を目指して飛んでいた。 「柔らかい?」 鷲獅鳥・漣李を操って大型蝉妖の腹部へと潜り込んだ和奏は『刀「鬼神丸」』で斬りつけた。相手の巨体故に大した傷は負わせられなかったものの重要なことが判明した。大型蝉妖は本物の蝉のようにまだ白いうちは柔らかであった。倒すのならば今のうちだと和奏は叫んで仲間へと教える。 「蝉が見えました!」 エラトは駿龍・アギオンを駆って自ら仲間の元へと出向いて剣の舞をかけた。和奏、磨魅は大型蝉妖の右羽の付け根を狙う。急速接近して一撃を加えて離脱。立て続けにジークリンデのブリザーストームが浴びせかけられた。 「かなりの強敵ですね」 玲璃は駿龍・夏香で傷ついた仲間達を精霊の唄で癒す。何人かには加護結界も施して支援する。 「近いです。興志王は船内へ」 「いや、そうはいかないな。俺もやるぜ」 赤光甲板ではフィーネが興志王の盾になるよう前へと出てビーストクロスボウを構えた。 その時、中型飛空船『京駒』が船首の向きを赤光へと向ける。一番に気づいたのはフィーネ。わずかに遅れて興志王。もし赤光を沈めるのならば、今は絶好の機会といえた。 「俊史!!」 だが京駒が目標としたのは赤光ではなかった。赤光の間近まで迫っていた大型蝉妖へと体当たりを敢行したのである。 京駒の船体が拉げて破片が飛び散った。赤光の甲板にも降り注いだが、フィーネはアーマー・ロートリッターの巨躯によって興志王を守りきる。 大型蝉妖も無傷では済まない。見えないほど高速だった羽の動きが緩慢となっていた。 失速した大型蝉妖に開拓者が駆る龍や鷲獅鳥が攻撃を仕掛ける。鋭い爪や体当たりが右羽を集中。ついに千切れて吹き飛んだ。同時に大型蝉妖は落下を始めた。 「トドメです!」 離れたのを確認したところでジークリンデが火球を飛ばす。膨らんだメテオストライクが大型蝉妖を包み込む。激しい閃光と共に瘴気の塵を撒き散らしながら大型蝉妖は燃えさかる魔の森へと墜落。激しい轟音と共に消滅するのだった。 ●そして 破損した中型飛空船『京駒』は戦闘継続不可能のために離脱する。長距離飛行も難しいので魔の森の外縁へと着陸して応急修理が行われることとなった。 京駒の船員だが怪我人こそ多数でたものの死者がなかったのが幸いである。 宇田俊史については大型蝉妖と激突の際に転倒して左足を骨折していた。だが命に別状はなかった。 三日目も飛翔型アヤカシとの戦いは続いた。 一隻を欠いた戦力でアヤカシ殲滅。そのためには一層の尽力が求められた。 暮れなずむ頃には予定した区画すべてが焼き払われる。炭化途中の燻りを見守るのは餅平家の軍に任せて作戦終了となった。 戦いが終わると興志王は龍を駆って地上へ降りた。そして修理中の京駒内で療養していた宇田俊史を見舞う。開拓者達も護衛として同行していた。 「俊史のおかげで俺は今もこうして立っていられる。よき働き、覚えておくぞ」 「有り難き幸せ。宗末様、この命いつでも差し出す覚悟でおります」 興志王と宇田俊史の和やかな表情に開拓者達は安心する。 宇田俊史を罠に陥れようとした輩が誰なのかの謎は残った。しかし時間がかかるとしても、いずれ真実は明かされるはずである。 興志王も開拓者達もそう信じるのであった。 |