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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 戦いの場となった朱藩国内の矢永はここ数ヶ月間を経て平常を取り戻していた。 ただ戦を選ばざるを得なかった朱藩国王『興志宗末』にとっては苦い思い出である。魔槍砲の開発を手伝っている際にもそれはずっと心の底で燻っていた。 「敵は外にいるっていうのに俺ってやつは‥‥」 安州海岸線の岩場に座り、釣り竿を握っていた興志王は奥歯を噛んだ。 鎖国を勝手に宣言した領主がいれば征圧するしか道は残っていなかった。話し合いは決裂に終わったのだから。 それでも同族が戦う状況は失うものが大きすぎた。特にアヤカシの勢力が増している現在において愚かな行為に他ならない。 朱藩の開国に未だ反感を覚えている者はいる。物資や流通を独占をしてきた立場の者は既得権益を奪われるからだ。 (「矢永のようなことは出来るだけしたくねぇ」) それから数日後、興志王は迷いを吹っ切る。自分と同じような比較的若い者が台頭するような国家状況に持っていこうという考えに辿り着いたのである。以前から思い描いていたものだが積極的に実行しようと決断したのだ。 総じて老人よりも若者の方が柔軟といえる。もちろん若い連中にも他を省みない者がいるだろう。その逆もしかり。だがここで問題にすべきは割合だ。 開国に沿った形での政を思考する若者が氏族の長など重要な立場になれば朱藩も変わるはずである。 興志王は幼き頃からつき合いのある『餅平利家』を呼んで話し合いの場を持つことにした。彼はすでに二十歳を過ぎた頃から朱藩東部の領地を治めていた。 しばらく疎遠になっていたこともあり、今一度忠誠を確かめる必要があると興志王は判断したのである。 これは賭けといってもよい。 利家の力を得られれば他にも若い力が興志王の元に集まるだろう。しかし失敗したのならさらなる混乱をもたらすかも知れない。 久しぶりの再会は一週間後に決まった。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
和奏(ia8807)
17歳・男・志
磨魅 キスリング(ia9596)
23歳・女・志
長渡 昴(ib0310)
18歳・女・砲
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ
パニージェ(ib6627)
29歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●暗殺阻止 朱藩の首都、安州の城。国王興志宗末と謁見していたのは東部の一部領地を治める餅平利家である。 朱藩の未来に関する話し合いの場であったが、それらは追々相談するとして一番に心砕かれたのは二人の親睦についてだ。 その頃、開拓者八名は安州の外れを目指していた。二人の安全確保が任務であるのに城を離れたのにはわけがあった。 興志王臣下の信頼できる筋からの情報として興志王と餅平利家の暗殺計画がもたらされたのである。悪事を成そうとする賊が潜伏しているのが急行中の宿屋であった。 「それでは先に探って参ります」 ライ・ネック(ib5781)が早駆で先行する。龍騎などの空中移動は目立ちすぎるために地上からの移動のみを開拓者達は選択していた。 (「お城で静かにお留守番していてくれてるかな‥‥?」) 柚乃(ia0638)はもふらの八曜丸を城に置いてきていた。 (「毒味はお任せしてきたので大丈夫でしょうが、出来れば早めに戻りたいところですね」) 玲璃(ia1114)は興志王と餅平利家が毒殺される危険をお付きの護衛達と相談している途中で城を飛び出したことになる。 「散策の順路の警備は大丈夫そうでしたが、それをも上回る戦力を賊が有しているとなれば問題ですからね」 「こちらも油断しないように致しましょう」 和奏(ia8807)とフィーネ・オレアリス(ib0409)が心配していたのは、午後に行われる興志王と餅平利家の安州内散策についてだ。 「会談が終わるまでに片づけないといけませんね」 磨魅 キスリング(ia9596)は屋根を跳び越えて近道する。 城内ならば安全だろうが人の多い城下ではどのような殺意が紛れ込んでいるのかわからない。賊が動く前に叩いてしまうのが得策だと開拓者達の考えは一致していた。 目的の宿『上中須屋』の近くまで辿り着いた開拓者達は暫し様子見の時間とする。 (「人相だけでは決められませんが柄の悪い者ばかりが集まっていますね」) 長渡 昴(ib0310)は高い建物の屋根に腹這いになって上中須屋に出入りする者達を観察した。 (「一気に制圧しないと周辺にも迷惑がかかりますし」) フィーネは見つけた空き小屋でアーマーケースを展開し、アーマー・ロートリッターの起動準備を整える。 (「砂漠の一件での縁故、来てみたが‥‥王は、トラブルを誘発する体質なのか。それだけ狙われる御身であるのはわかるのだが」) 裏路地から上中須屋の様子を窺っていたパニージェ(ib6627)は興志王の豪快な笑顔を思い出して苦笑する。 ライを除く開拓者七名は上中須屋をぐるりと囲むように待機していた。 「これは‥‥ライ殿からの文ですね」 磨魅が拾った石を包んだ天儀紙には潜入した宿内の賊の状況がしたためられていた。 賊の手下共の会話によれば興志王と餅平利家の決裂を画策しているのは確実。あわよくば命をも奪おうとする算段である。 首魁は二階奥の間、襲撃用として蔵にある荷車三両に駆鎧六騎が載せられているとのこと。加えて上中須屋の働き手すべてが賊の一味だ。かなり以前から乗っ取って入れ替わったらしい。 磨魅は密かに集合の合図を出す。 「さっき聞いたの‥‥」 「自分もそのように」 柚乃と和奏が近所の者達から教えてもらった情報として上中須屋はここ一ヶ月間、客もとらずに休業中だということだ。乗っ取られたとすれば辻褄が合う。 「すぐに仕掛けませんと。会談がもうすぐ会談が終わる頃です」 「それがいい」 玲璃の考えにパニージェが即答で賛同する。 「一般客がいないのであればとてもやりやすいです。私も賊が動き出す前に仕掛けるべきと考えます」 「賊の首領が毒蛇の頭、駆鎧が毒蛇の牙だとすればどちらも叩くべきでしょうね。駆鎧が起動したら私が対処します」 長渡昴とフィーネの意見に続いて他の仲間達も賛成する。 開拓者達は急いで二つの班に分かれた。 首領がいるはずの上中須屋二階奥の間に向かうのは磨魅、和奏、玲璃の三名。駆鎧を載せた荷車がある蔵にはフィーネ、長渡昴、柚乃、パニージェの四名。潜入中のライとはおそらく宿屋内で合流できるはずであった。 ●宿屋の奥へ 「何者だ! 貴様ら!!」 上中須屋一階に響く激しい足音。土足の者達が廊下にうっすらと積もった埃を巻き上げながら駆け抜けてゆく。 磨魅、和奏、玲璃の開拓者三名は賊等の虚を突いた。 「推して参ります! 我々への抵抗は無意味です。降伏なさい!!」 磨魅がグニェーフソードを振るう度に紅い燐光が辺りに散り乱れた。輝きを纏い、刃を振り下ろす。 廊下を転がって縁側から庭へと落ちる者、弾き飛ばされて壁に張り付く者。閉められていた戸板がぶち抜かれて薄暗かった廊下に陽光が差し込んだ。 磨魅がまず優先したのは賊の戦力を削ぐこと。賊の溜まり場を心眼で探った上で玲璃にかけてもらった『神楽舞「脚」』で素早く攻め込んだのである。 倒した人数は五名。賊の誰もが戦う為の装備や身なりをまとっていた。 物音がして磨魅が振り向いた先は庇向こうの外。戸板と一緒に賊の一人が庭の池に落ちた。和奏が上りかけの階段で邪魔だった賊の一人を剣撃で弾いたのである。 「階段はこっちにあります」 和奏の声が聞こえて磨魅と玲璃が追いかける。階段近くには和奏が倒したと思われる賊がうめき声をあげていた。 「怪我は大丈夫ですか?」 玲璃は和奏と磨魅を心配したが今のところ無傷。階段の途中で新たな賊が襲ってきたものの排除して三人は二階へとのぼりきった。 「一気に仕留めてください」 玲璃は戦いの状況を見定めながら『神楽舞「脚」』を舞って和奏と磨魅を支援する。賊の数は多く、ここに至るまで倒したのは二十を越えていた。ただ志体持ちが一人もいなかったのは幸いであった。 「こちらです」 突然、屋根裏から廊下へと飛び降りてきたのはライ。一人増えて陣を組みながら襖を次々と開けて奥の部屋へと進んだ。誰も逃がさぬように磨魅は心眼で隠れた者がいないかどうかを探りながら。 目前の襖から刀の切っ先が飛び出し、そのまま迫ってきても磨魅は冷静に対処して受け流す。賊が襖と共に転ぶと自らの刀で深手を負う。 和奏は秋水の抜刀で天井からの刺客を弾くように斬る。賊は勢いのまま二階の窓から庇を転がって落ちてゆく。 すでに気づいていた首領の存在であったが磨魅は一撃を刃で受ける。その太刀筋は本物。手応えから賊の首領は志体持ちだと勘づいた。 互いに刀剣同士弾くようにして磨魅が離れる。入れ替わるように刀を構えた和奏が首領との間合いを一気に詰めた。 すれ違い様に金属音と火花が飛び散る。 首領と和奏が負ったのはそれぞれ軽傷。和奏の狙いは首領を仕留めることではなかった。それは首領の反対側に回って逃げ道を塞ぐことだ。 開拓者四名が首領を取り囲む。 「観念してください。もう逃げられません」 そしてライが仕掛けた影縛りが決まる。動けなくなった首領を縛り上げようとしたが、すでに毒を口に含んで自殺をはかろうとしていた。 すかさず玲璃が解毒をして事なきを得る。首領には真相を語ってもらう役目が残っていた。興志王と餅平利家が手を結ぶのをよしとしない黒幕の正体についてを。 「さて、情報を洗いざらい提供していただきますわよ。最も平和的な方法で」 ニヤリと笑った磨魅は懐から鳥の羽根を取り出すのだった。 ●駆鎧 賊の首領を倒そうとする班が宿屋内に踏み込んだ頃、フィーネ、長渡昴、柚乃、パニージェの四人は庭に建つ蔵へと向かった。 「扉を壊すのは任せてください!」 アーマー・ロートリッターを駆るフィーネがクラッシュブレードを叩きつけると鉄枠で補強された木製の扉が拉げる。繰り返すうちに閂が折れて門が開放された。 真っ先に蔵へ飛び込んだパニージェはスタッキングによって一気に賊との距離を縮めて七星剣を浴びせる。今は無力化さえすればよいと手加減をしながら戦力を奪うのに徹する。屈んで賊の刃を避けて懐の中へ。賊の集団を霍乱していった。 (「そうはさせませんから」) 長渡昴は蔵に踏み込むと即座に高い場所を確保する。黄金短筒で指すは駆鎧を起動させようとする賊等。荷車にかけられていた藁束を退かしている賊を次々と狙う。手や腕を優先し、それが難しい時には足を撃ち抜く。 「一騎、お願いします!」 ただ長渡昴が射撃体勢に入る前に駆鎧へと乗り込み済みの賊が一人だけいた。長渡昴は叫んでフィーネへ状況を伝えようとする。 (「柚乃にできることを‥‥」) 柚乃は主にパニージェへと加護結界を施しながら白霊弾で援護射撃をしていた。長渡昴にもかけていたが、射撃による遠距離攻撃だったので必要性が薄かったからだ。 広い蔵であったが戦う場としては狭い。特にアーマーにとっては致命的だ。混沌とした最中、賊の駆鎧が立ち上がって近くの土壁を叩き始めた。 やがて穴が空き、勢いをつけた賊の駆鎧が外へと飛び出す。機会を窺っていたロートリッターを駆るフィーネは庭から回り込んで賊の駆鎧と対決する。 「慣れていないようですね。これなら!」 ロートリッター・フィーネが低姿勢でギガントシールドを構えて体当たりを敢行。姿勢を崩した賊の駆鎧であったが片膝を地面につけながらもしつこくブレードを振り回す。だがロートリッター・フィーネが放った水平斬りで賊のブレードが手から離れて宙に舞う。そのまま地面へと突き刺さって戦いは決した。 蔵の中も戦闘も開拓者の優勢で終了する。 「よいしょ‥‥」 柚乃は賊を縄で縛ってから閃癒で治療を施す。 パニージェ、長渡昴、フィーネはそれぞれに賊を尋問した。 「‥‥さて、洗いざらい吐いて貰おうか」 剣先を賊の喉元に突きつけたパニージェは鋭い眼光を放つ。 「ほう? 戸惑った目をしているな‥‥今協力的ならば、王に刑の減免を掛け合わんでもないがな‥‥?」 パニージェはほんのわずかだけ剣を突いて喉元から血を流させた。賊はようやく口を割る。 長渡昴が詰問した賊は自分達が金で雇われたものだとすぐに吐露した。 「狙っていたのはここに待機していた賊のみですか?」 長渡昴は何度も賊に尋ねる。 他にも城下に潜伏中の賊はいるようだが戦力の中心は蔵の駆鎧六騎に他ならない。それが差し押さえられた今、形骸化したといってよかった。フィーネが行った賊側の駆鎧操縦者への尋問でもあきらかになる。 「駆鎧は簡単に手に入るものではありません。誰の手引きでしょうか?」 フィーネに問いつめられた操縦者だが命じた人物の名を語るのは頑なに拒んだ。背後に隠れている存在を吐かせるにはそれ相応の時間がかかりそうだ。 やがて浮かび上がってくる真実もあるだろうと考えるフィーネであった。 ●城下 捕まえた賊の身柄と上中須屋の現場保護は後から駆けつけた安州の官憲に任せる。開拓者達は急いで城へと戻った。ちょうど興志王と餅平利家の散策が始まるところで合流を果たす。 (「お話はうまくいったみたい‥‥。二人とも笑顔だもの‥‥」) 柚乃は後ろをチョコチョコとついて行きながら、うち解け合っている興志王と餅平利家を眺めた。横を歩くもふらの八曜丸もよい雰囲気を感じて嬉しそうだ。 「甘味を食べにいきませんか? お二人は安州に詳しいのですよね? 私、この辺りの事に疎くて‥‥」 「おう、食い物なら任せておけ!」 ふとしたときの柚乃の提案に興志王は乗る。 「それはよい。童心にかえってみましょうか」 餅平利家の賛同も得てさっそく団子屋へと向かった。柚乃が二人の手を引いたまま店内に入っておはぎを注文する。 「いくらでも食べてくれ」 興志王は酒を嗜むが甘いものも好きだ。食べ物に好き嫌いがない人物である。とはいえ毒味役としてまずは玲璃が先に頂いた。 (「例え疎遠になってしまっても、絆は消えないって柚乃は信じています。それはきっと、忠誠よりも大切なモノ‥‥」) 二人をお兄さんのように感じた柚乃はそう心の中で呟くとおはぎを頂くのであった。 開拓者達は興志王と餅平利家とつかず離れずの距離で周囲をさりげなく見張り続ける。一度だけ若者同士の喧嘩に遭遇したものの、それ以外に問題は起こらなかった。 その夜、開拓者達は興志王とゆっくり話す機会を得た。ざっくばらんとした宴の席で興志王の性格がうかがえるものである。 「鎖国し通しだと、商売の都合上、渡らなくて済む危ない橋が増えてしますので。人と物の流れが出来る事は商売をするうえで大事な要素なのです」 朱藩氏族の長渡昴は本家筋と連なる一族の考えとして興志家への賛同を言葉にした。 「そうなっては欲しくないが‥‥きっと朱藩の未来にも何かが起こってしまうのだろうさ。よろしく頼むぜ。本家にもそう伝えておいてくれ」 興志王自らが長渡昴の杯に酒を注いだ。 「賊を生かして捕まえてくれたそうだな」 「犯人に興味はないが、王にとってはその方がよいと考えたまで」 パニージェに酒を注いだときの興志王は愉快に笑う。 「証拠となりそうな品をいくつか臣下の方にお渡ししてあります」 「調べればきっと何かわかるだろう。ごくろうだったな」 ライには鯛のお造りを新たに運ばせた興志王だ。 「大事が起こらなくてよかったです」 「こんなところで躓くわけにはいかなかったからな」 和奏と話した興志王は海老の天ぷらを侍女に持ってこさせる。自分の好物だといって和奏に勧めた。 「背後に勢力があることは確かですね」 「賊を絞り上げればもっと何かわかるだろうさ。捕らえてくれて助かったぜ」 磨魅にはふんだんに松茸が使われた料理が運ばれた。 「駆鎧まで用意してきましたのは想定していませんでした」 「だな。敵を甘くはみてねぇから安心してくれ」 フィーネにはジルベリア風の調理を施した魚料理である。ヒラメのムニエルなどの特別な料理が並ぶ。 「食べ物には特にご注意下さいませ」 「毒は嫌だが、だからといって腹減るのも嫌だからなあ」 玲璃には野菜を主とした料理を用意させた興志王だ。食いしん坊の興志王にとって空腹は何よりの敵らしい。 「お、食べているな」 「心遣いありがとうございます‥‥」 柚乃はもふらの八曜丸と一緒に食べるために少し離れた席に座っていた。一緒で構わないと興志王はいっていたがここは城内だからと柚乃が遠慮したのである。 運ばれた料理はどれも豪華で目移りしそうなものばかりだ。柚乃と八曜丸は一緒に秋の味覚をたらふく頂いた。特に美味しかったのは栗御飯であった。 ●そして 開拓者達が戻った後も賊への尋問は続けられる。やがて会談を壊し、隙あらば興志王と餅平利家を亡き者にしようとした人物の名が割れた。 それは興志王にとって非常に身近な者であった。 |