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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 理穴の儀弐王が願った幼なじみである波路雪絵の失踪調査。消えたといわれる宿場町で開拓者達はいくつかの痕跡を発見する。 特に鏃と矢羽根に関しては儀弐王の心を揺さぶった。非常に忠誠心の厚い理穴の有力氏族『綾記家』の特徴が見て取れたからだ。 後日、儀弐王は開拓者達を連れて綾記家を来訪して調査。軟禁されていた雪絵と再会する。そして病に伏せていた当主の明全を問い質した。 明全によれば雪絵が嫁ごうとしていた鶴時家には深遠な知恵を持つアヤカシが巣くっているらしい。真実を知るために間者を放ったものの全員が闇に葬られてしまい、確証は得られていなかった。 鶴時家へ入る前に攫うしか雪絵を助ける術はなかったと明全は釈明する。 明全の言葉を確かめるべく、儀弐王は開拓者達に鶴時家への急襲を依頼した。表向きは高価な黒茶碗の奪取。真の目的はアヤカシが本当に巣くっているかを確かめる為だ。 結果、鶴時家当主の妻『梔』がアヤカシだと判明した。 疑いから確固な状況に変化し、儀弐王は再三に渡って鶴時家次期当主『鶴時君義』に理穴の首都、奏生への上洛を命じる。 謀反を起こすかと思われていたが君義は登城。儀弐王に無実の申し開きをし、そして婚姻がうやむやになってしまった波路雪絵との再会を果たす。 その時、奏生の城を襲う二隻の飛空船。君義の救出と儀弐家に対する反旗を鶴時家が明白にした瞬間であった。 逃亡した君義が残した問いの深い意味。 開拓者達の苦労のおかげで雪絵の母である氷魅から儀弐王に送られた手紙によって真実が語られる。 不思議なことに波路家の女性はある宝珠を体内に取り込んでいるという。その宝珠は生まれる次の女児に受け継がれる性質があるらしい。 宿す女性の回りの瘴気をすべて消し去ってしまう宝珠の効果。しかし事実がわかると当時の王によって封印される。瘴気を消し去るのではなく、吸い込み蓄える性質を持っていたのである。 苦悩の末、儀弐王はその事実を雪絵に伝えた。絶望に苛まれた雪絵だが信頼と希望を取り戻す。 万が一にも濃縮蓄積された瘴気が解放されたのなら。 それはアヤカシにとっては希望であり、人々にとっては悪夢でしかなかった。 深夜の理穴の首都、奏生。 足音が耳につく程の静まる最中、儀弐王からの呼び出しで登城する者が一人。 その名は大雪加 香織。理穴・開拓者ギルド長の肩書きを持つ齢二十六の女性である。到着してすぐに儀弐王との目通りが許された。 「儀弐殿、どのようなお話でしょう?」 「察しはついていると思いますが、私の庇護にある波路雪絵についてです――」 儀弐王は大雪加にこれまで経緯を説明する。大まかには伝わっているはずだが、直接儀弐王が話す事に大いなる意味があった。 「その鶴時家の『梔』を倒したとしても、新たなアヤカシが狙うかも知れません。そうであるならば体内の宝珠を処理しない限り、雪絵殿の一生の軟禁を解く訳にはいきませんからね」 「開拓者に調べてもらいましたが当時の資料はあまりに少なく‥‥。妙な話ですが、雪絵の体内に潜む宝珠について知り得ているのはその梔のみといってよいでしょう。鶴時家の領地を攻めると同時に梔を尋問する状況にもっていかなくてはなりません。理穴・開拓者ギルドの協力を要請したいのです」 大雪加を真っ直ぐに見つめながら儀弐王は淡々と言葉を紡いだ。 「一国の政にギルドが深入りするは慎むべきと考えます。とはいえ、それぞれ独立した依頼ならば、これまでの通り引き受けるにやぶさかではありません。‥‥また今回のお話、心の隅に置いておきましょう。将来の憂いに対応するには様々な準備が必要ですので」 大雪加もまた表情を変えずに儀弐王に返答する。 程なく話し合いは終わり、大雪加は接見の前に預けた銃砲を背負って城を後にした。 翌日、複数の訪問者によって儀弐王の意向を汲んだ依頼が開拓者ギルドに並んだ。 その中の一つ。 鶴時家の領地を攻めるに際して、いくつかの拠点を制圧する必要があった。 まずは領地境から三キロ程度にある城塞・鶴を攻め落とす前準備として、斥候が求められる。しかし真の依頼内容はそうではない。城塞・鶴だけの戦力ならば軍のみで圧倒可能だ。 城塞・鶴の近辺に潜むアヤカシの排除こそが開拓者達に課せられた本当の使命だった。 |
■参加者一覧
剣桜花(ia1851)
18歳・女・泰
神鷹 弦一郎(ia5349)
24歳・男・弓
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
只木 岑(ia6834)
19歳・男・弓
井伊 沙貴恵(ia8425)
24歳・女・サ
ルエラ・ファールバルト(ia9645)
20歳・女・志
パラーリア・ゲラー(ia9712)
18歳・女・弓
アレーナ・オレアリス(ib0405)
25歳・女・騎
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
朱華(ib1944)
19歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●危険な土地 鶴時所領と隣接する地は儀弐王率いる理穴軍が制圧済みである。 理穴の首都、奏生から飛空船で移送された開拓者十名は儀弐王と目通りした後ですぐに出発する。今から三日の期限内で鶴時家が構える城塞・鶴周辺を調べ尽くすのが開拓者達の役目とされていた。 だがそれは表向き。 開拓者達の真の務めは潜んでいると考えられるアヤカシ等の排除であった。軍は対人を主として編成されているので、城塞・鶴を陥落させる最中にアヤカシによる横槍があると厄介なのがその理由だ。鶴時家当主の妻『梔』がアヤカシと判明している以上、邪魔が入るのはほぼ確実といってよい。 開拓者達は円陣を組みながら寒風に靡く雑草をかき分けながら進んだ。場所によってはむき出しの地面だが多くは枯れ草で覆われている。現在進んでいる周辺のように膝上程度の雑草が生えている箇所も珍しくはなかった。 (「やはり俺は弓を引いて戦う方が性に合う‥‥」) 神鷹 弦一郎(ia5349)は弓『緋凰』に矢をかけ遠くに意識を向けながら歩を進めていた。 (「これだけ鬱蒼としていると背の低いアヤカシなら枯れ草の中に隠れられるなぁ」) 巨大な弓『レンチボーン』を手に下げていたのは雲母(ia6295)。儀弐王と初対面した時を思い出しながらクスリと笑う。 (「正面衝突が避けられないのなら‥‥。儀弐王軍の妨げになるアヤカシは排除しないと」) 只木 岑(ia6834)は戦弓『夏侯妙才』を構えて狙いを定めながら辺りを見回す。 (「う〜ん‥‥。雪絵お姉さんに封印された力を使えば大アヤカシになれるのかにゃぁ〜」) パラーリア・ゲラー(ia9712)は弓矢で警戒しながら雪絵の身体に埋まっている宝珠についてを思い出す。彼女が所有していたのも戦弓『夏侯妙才』だ。 神鷹、雲母、只木岑、パラーリアの四人は遠隔攻撃を得意とする弓術師である。円陣の四方を弓術師が担当し、その狭間を近接戦闘が得意な開拓者が埋める。 (「人の戦にアヤカシが入るべきではないな」) 志士の朱華(ib1944)は両腕を交差させて刀『長曽禰虎徹』と刀『鬼神丸』の柄に手をかけながら周囲を睨む。気になる時には心眼で探った。 (「雪絵嬢の宝珠が発端で、アカヤシがそれに気付いて欲した故に戦争にまで発展したことを考えると何かやるせない気が致しますわね」) 騎士アレーナ・オレアリス(ib0405)が持つ忍刀『風也』の刃先が枯れ草に触れて、千切れた先端が大空へと舞い上がる。 (「まずは草原。それが終われば森林地帯とのことですし」) 志士ルエラ・ファールバルト(ia9645)はベイル『翼竜鱗』を構えながら反対の手で太刀『阿修羅』の柄を握った。 (「こんな所で、ばったりと‥‥なんてあったらそれは偶然ではないわね」) とてつもなく巨大なグレートソードを背負っていたのが井伊 沙貴恵(ia8425)。沙貴恵の脳裏に浮かんだ人物とは奏生で目撃された怪しい狐面の女性である。 強固な仲間の円陣に囲まれながら移動していたのは巫女と吟遊詩人。剣桜花(ia1851)と琉宇(ib1119)の二人だ。 (「なんか頑丈なわたくしが真ん中というのも微妙ですが‥‥」) 剣桜花はつい先程あまよみで天候を調べた。ここしばらくは天候が崩れる心配はなかった。 (「きっと僕でも出来る事はあるはず。妙な予感がするし‥‥」) 琉宇はバイオリン『サンクトペトロ』を肩に乗せながら、冷風に混じる毒々しい雰囲気を感じ取る。 状況の変化は領地境に陣を構える理穴軍が見えなくなるまで進んだところで起こった。 一羽の鳥が開拓者達の遙か上空を舞い始めてやがて増えてゆく。遠すぎて影の輪郭しかわからず、最初はただの鳥と思えた。 「飛んでいるあれらはアヤカシじゃないのか?」 『眼突鴉』だと気がついたのが雲母。 次の瞬間、眼突鴉・壱が翼を畳んで急降下を開始する。 「まずは空からとはな。とはいえ退屈な射的だなぁ‥‥まったく」 最初に気づいた雲母は巨弓を引いて矢を放ち、頭上から迫る眼突鴉・壱へと当てた。矢の衝撃に速度を一気に落とした眼突鴉・壱が錐揉みしながら地面へと激突する。そして瘴気の霧となって散っていった。 空を舞っていた他の眼突鴉も次々と急降下を始める。 「これも陛下のご依頼。無心で弓が引けるのは気持ちがいいな」 神鷹が放った矢は衝撃波と共に眼突鴉・弐を貫く。バーストアローの勢いはそのまま直線上の背後を飛んでいた眼突鴉・参にも影響して姿勢を崩させた。 「先は長いので練力の使い方には注意しておきましょう」 まだ余裕があると踏んだ只木岑は普通に矢を放って眼突鴉・肆と伍に当ててゆく。今は仲間に任せて温存をはかる。 「ここはまだ城塞・鶴からとおいにゃ。ってことは‥‥少しずつ軍の戦力を削るつもりだったのかな?」 パラーリアも状況の把握に務めながら眼突鴉・陸と漆を弓矢で落とす。 眼突鴉の群れによる急降下攻撃は弓術師四人によって排除された。 それからも円陣を崩さないように移動を続けた開拓者達は、先に倒したのとは別の眼突鴉の群れと接触。さらに草むらに隠れた『かまいたち』との戦闘も体験し、どれも一体残らず排除に成功する。 空が赤く染まる夕暮れ時、開拓者達は夜を過ごす準備を始めるのだった。 ●野営 開拓者達は森外縁の風が防げる所を野営地に選んだ。 アヤカシが寄ってきても排除すればよしの心持ちで集めた枯れ枝で焚き火を熾す。冬場の野外で何もなしはいくら開拓者達でも辛いものがあるからだ。 三つの班に分かれて順に周囲を見張る。 壱班は剣桜花、沙貴恵、雲母。 弐班は只木岑、神鷹、ルエラ。 参班はパラーリア、アレーナ、琉宇、朱華。 朝まで三時間ずつの交代制である。 「はい、煙草ですね」 「もう少し、ほら。寒いだろ」 壱班の雲母はくわえている煙管にさっと火種でつけてくれた剣桜花に肩を寄せた。 「狐面の変なのが出てきたら全力で狙撃しちゃってくださいね? 結構強そうなので」 「ま、退屈しのぎぐらいにはなりそうだな」 剣桜花と雲母は狐面の女性を話題にする。 二人に背中を向けて星空を眺めていた沙貴恵も狐面の女性を気にかけていた。 (「何でこれほどに頭にこびりついているのかしらね」) とはいえ沙貴恵は狐面の女性を倒すというよりも出方を見るべきとの考えを持っていたのだが。 次の三時間は弐班の見張りである。 「アヤカシはいないようですね」 只木岑は鏡弦で周囲を探ってみたが何事もない。だが虫のように小さなアヤカシもいるので油断は禁物である。 「ではしばらくしたら次は私で」 ルエラはしばらく経ってから心眼で周囲を探る。練力を出来るだけ温存する為に只木岑と順番に探知をする約束を交わしていた。 「やはり不意打ちが多いですね。今日は草原でしたが森だとより視界が悪くなります。どうしたものか‥‥」 神鷹は見張り中に眠らないようにと只木岑とルエラに話を振る。 しんしんと冷えてきた頃、弐班は参班と交代した。実質的に参班の休憩時間は終わりである。 「まだ薪として使う枯れ枝はあるな」 朱華は焚き火の番をしながら寝る前に書き留めた日中の戦果を記した用紙を眺める。襲ってきたアヤカシの種類、時間、出現場所などに敵の意図が隠れていないかを探りながら。 「けっこう起伏があるから、逆にあたしたちが利用して奇襲できればいいとおもいまっす」 「先に見つけられれば、そういう手もありますね」 パラーリアとアレーナは夜明け後の戦い方についてを相談する。 「見つけるのが難しいのであれば『怪の遠吠え』という音楽があるよ。アヤカシだけに聞こえるんだよね」 パラーリアとアレーナの会話に琉宇も参加した。怪の遠吠えをうまく使えばアヤカシ退治も楽になるかも知れないと。 現地に着いて二日目の夜明け。開拓者達は再び円陣を組んでアヤカシ退治を再開するのだった。 ●謎の女 二日目の暮れなずむ頃、開拓者達は草原周辺のアヤカシを一掃し終わった。 『怪の遠吠え』によってわざと目立つことにより、眼突鴉、大蛇のアヤカシ、かまいたちなど全部で三十二体を倒す。 練力こそ消費したものの、開拓者達は戦闘可能な状態を維持していた。睡眠時間を考慮にいれて回復をはかったのがとても大きい。 しかし、しっくりと感じていない開拓者もいる。アヤカシの襲い方に意図が隠れているような、そんな気がしてならないと。 日が沈むまでの時間を草原に点在する森林に潜んでいるであろうアヤカシ退治に費やした。二体の化猪を倒したところで野営である。 一日目から二日目にかけてと同じく三つに分かれて見張りを行った。 寒く長い冬の夜は終わり、空が白み始めた頃。 「あれ? なんだろう?」 突如として参班の琉宇が妙な音に気がつく。それはカタカタと硬質な連続した音。その正体が複数の狂骨だとわかるのに大した時間はかからなかった。 同じ参班のパラーリア、アレーナ、朱華の三人も即座に気がついて武器を手に取る。琉宇が壱班と弐班の仲間を起こし、夜と朝の狭間における戦闘が雪崩の勢いの如く始まった。 弓術師四人による遠隔攻撃の援護の中、前衛が迫り来るアヤカシと対峙する。 「おかしい‥‥。これはおかしいわね。いくらこの程度の相手だとしても――」 身体を捻った勢いのまま沙貴恵は大剣で狂骨・壱を吹き飛ばしたのだが、変な手応えを感じる。軸足に力を込めて狂骨・壱の首を弾いた瞬間、確信した。 狂骨はすでにかなりの力を失っていた。まるで先程まで戦っていたかのように。 沙貴恵は叫んで仲間に報せる。 「だとすれば、ここまで何者かが誘導した可能性がありますね」 ルエラは盾で狂骨・弐を木の幹に押しつけて仕留めて呟く。沙貴恵のいう通り狂骨は戦う前から弱っていたようだと。 「狂骨だけではないようです。化猪もいます!」 「頼みます!」 アレーナは神鷹の弓矢の援護を得て前進しながら化猪・壱の脇腹を掻っ捌いた。やはり元々弱っている印象がある。 (「誰かが仕掛けている‥‥そんな気がして仕方がない」) 目前の狂骨・参を倒すと朱華は心眼で周囲を探る。そして間近にあった大木の上部に人並みの存在を感じた。 「あそこに何者かが隠れているはずだ!」 「任せてください!」 朱華が指さす方角に只木岑が威嚇として矢を乱射する。敵か味方か、もしくは関係のない一般人なのかわからなかったからだ。 「にゃ‥‥なんだろ?」 化猪・弐の額に止めの一矢を当てたばかりのパラーリアの足下に落ちてきたのは狐面である。 「狐面の女。そんな顔をしていたのですね‥‥」 剣桜花が見上げた先には月光に浮かび上がる女性の姿。面長な顔立ちで鋭い眼光を放っていた。 「そいつらは私がここに誘い込んだのさ。初めまして開拓者達のみなさん。鶴時家の京香よ。何人かは初めてじゃなさそうだけどね」 笑い声を混じらせながら京香は開拓者達に挨拶をする。 (「捕まえてから吐かせればそれでいいだろうさ。これぐらいで死ぬなよ」) 雲母は剣桜花が気を引いている間に京香に向けて一矢を放つ。その威力は木の幹が千切れる程。しかし京香には避けられてしまう。 (「これならどうだろ」) 琉宇が奏でる夜の子守唄でも京香は眠ることはなかった。注意を逸らしてみようと怪の遠吠えも使ってみるのだが、まったく反応がないのを琉宇は逆に不思議だと感じた。そこで只木岑に鏡弦で調べてもらってはっきりとする。京香はアヤカシではなかった。 「お姉さんは人なんだにゃ?」 「そうよ。ま、あなた達と同じ志体持ちだけれど。それじゃまたね、あなた達のやり方と力は見せてもらったから。参考にさせてもらうわ」 パラーリアに手を振ると京香は逆光の朝焼けに紛れて姿を消す。その手際から忍者ではないかと想像する開拓者達である。 襲ってきたアヤカシ共は数こそ多かったが弱くて開拓者達の敵ではなかった。開拓者達はそのまま森林に潜むアヤカシ一掃の戦いに赴く。三日目の太陽が沈むまでに点在する森林で接触したすべてのアヤカシを倒しきるのだった。 ●そして 儀弐王が待つ理穴軍の拠点へと戻った開拓者達は報告をする。もちろん狐面の女性『京香』についても。 儀弐王は開拓者達にアヤカシ一掃について感謝した。京香については調査してみるとの言葉を残す。 城塞・鶴の攻略はすぐに始まった。それから理穴軍が陥落させたのは四日後である。開拓者達は見届けてから神楽の都へと至る帰路に就くのだった。 |