賑わいの中で〜儀弐王〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/14 00:08



■オープニング本文

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 理穴の儀弐王が願った幼なじみである波路雪絵の失踪調査。消えたといわれる宿場町で開拓者達はいくつかの痕跡を発見する。
 特に鏃と矢羽根に関しては儀弐王の心を揺さぶった。非常に忠誠心の厚い理穴の有力氏族『綾記家』の特徴が見て取れたからだ。
 後日、儀弐王は開拓者達を連れて綾記家を来訪して調査。軟禁されていた雪絵と再会する。そして病に伏せていた当主の明全を問い質した。
 明全によれば雪絵が嫁ごうとしていた鶴時家には深遠な知恵を持つアヤカシが巣くっているらしい。真実を知るために間者を放ったものの全員が闇に葬られてしまい、確証は得られていなかった。
 鶴時家へ入る前に攫うしか雪絵を助ける術はなかったと明全は釈明する。
 明全の言葉を確かめるべく、儀弐王は開拓者達に鶴時家への急襲を依頼した。表向きは高価な黒茶碗の奪取。真の目的はアヤカシが本当に巣くっているかを確かめる為だ。
 結果、鶴時家当主の妻『梔』がアヤカシだと判明した。
 疑いから確固な状況に変化し、儀弐王は再三に渡って鶴時家次期当主『鶴時君義』に理穴の首都、奏生への上洛を命じる。
 謀反を起こすかと思われていたが君義は登城。儀弐王に無実の申し開きをし、そして婚姻がうやむやになってしまった波路雪絵との再会を果たす。
 その時、奏生の城を襲う二隻の飛空船。君義の救出と儀弐家に対する反旗を鶴時家が明白にした瞬間であった。
 逃亡した君義が残した問いの深い意味。
 開拓者達の苦労のおかげで雪絵の母である氷魅から儀弐王に送られた手紙によって真実が語られる。
 不思議なことに波路家の女性はある宝珠を体内に取り込んでいるという。その宝珠は生まれる次の女児に受け継がれる性質があるらしい。
 宿す女性の回りの瘴気をすべて消し去ってしまう宝珠の効果。しかし事実がわかると当時の王によって封印される。瘴気を消し去るのではなく、吸い込み蓄える性質を持っていたのである。
 万が一にも濃縮蓄積された瘴気が解放されたのなら。
 それはアヤカシにとっては希望であり、人々にとっては悪夢でしかなかった。


 判明した事実は波路雪絵の今後に大きく影響を与えた。
 アヤカシに再び奪われない為にも策は必要なものの、雪絵を生涯、軟禁状態にするのも酷である。とはいえ今はそれ以上の手だてがなかった。
(「鶴時家当主の妻『梔』はどこまで雪絵の体内にある宝珠についてを知っているのでしょうか。とにかく知りたいのは取り出し方‥‥」)
 理穴の首都、奏生の城。縁側で雪絵と一緒に栗きんとんを楽しむふりをしながら儀弐王は悩んでいた。
「重音、どうかしました? 深刻な顔をして」
「‥‥自分でいうのも何なのですが、普段から無表情といわれる私の顔からよく感情を読みとれますね」
 長いつきあいの雪絵には嘘はつけそうもないと儀弐王は心の中で呟く。だがまだ体内にあるという宝珠について雪絵に真実は伝えていなかった。
「今は豊穣感謝祭の季節。城下の往来で市が開かれています。機会をみていってみましょうか?」
「よろしいのですか? 不必要に私が城の外を出歩くなど。確かにこの間、開拓者と共に少しだけ出かけましたが‥‥あれから城の警備もさらに強化されている様子。状況が変わったと考えていたのですが」
「このままでは息が詰まってしまうはずです。雪絵に私がわかるように、私にも雪絵のことがわかるのですよ。もちろん目立ちすぎますので変装しなくてはなりません。さらに一騎当千の開拓者達に護衛をしてもらいましょう」
「重音がそう仰るのなら」
 儀弐王と雪絵の二人は約束を交わす。
 その日の夕方には開拓者ギルドに依頼が提出される。お忍びで出かける儀弐王と雪絵を護衛する内容であった。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
剣桜花(ia1851
18歳・女・泰
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
神鷹 弦一郎(ia5349
24歳・男・弓
只木 岑(ia6834
19歳・男・弓
井伊 沙貴恵(ia8425
24歳・女・サ
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志
パラーリア・ゲラー(ia9712
18歳・女・弓
アレーナ・オレアリス(ib0405
25歳・女・騎
朱華(ib1944
19歳・男・志


■リプレイ本文


 賑わいの理穴の首都、奏生。
 開拓者達は儀弐王と雪絵が出かける下見として豊穣感謝祭を訪れていた。普段はただの通りだがこの秋の時期に限って両側に市が開かれる。たくさんの屋台が並び、当然の事ながら人出も多い。
 一斑は井伊 沙貴恵(ia8425)、ルエラ・ファールバルト(ia9645)。
 二班はアレーナ・オレアリス(ib0405)、朱華(ib1944)。
 三班は柚乃(ia0638)、神鷹 弦一郎(ia5349)。
 四班は剣桜花(ia1851)、只木 岑(ia6834)。
 五班はルオウ(ia2445)、パラーリア・ゲラー(ia9712)。
 城で落ち合う約束をして解散する一同であった。

●一斑
「賑わっているわね」
 沙貴恵は鋭い眼光を瞳の奥に潜ませながら道のど真ん中で見回す。
「そうですね。これは気を引き締めて護衛をしないといけません」
 同じ一斑のルエラは焼き栗の屋台を覗きながら沙貴恵に相づちを打つ。
 豊穣感謝祭で二人が注意したのは混雑状況だ。人気の屋台や売り子、または大道芸が行われている周辺にはやはり人だかりがある。
「人払いには限界があるわ。とはいえすべてを避けていては面白くもなんともないし‥‥」
「さすがに袋小路で逃げ道がなくなる場所はあきらめてもらいましょう」
「それがいいわね。対処方法さえあれば」
「ここならあそこに裏道がありますね」
 沙貴恵とルエラは危険な個所を洗い出してゆくのだった。

●二班
「思い出の場所であっても、ここは少し目立ちすぎだな」
 朱華は儀弐王から聞いた雪絵との思い出の場所を眺めて呟く。見晴らしのよい小高い場所なのだが、今は屋台が並んでいて人気がとても多かった。
「豊穣感謝祭が終わるまでは落ち着きそうもありませんね。深夜は別でしょうけどその時間に儀弐王と雪絵嬢が訪れられるはずもありませんし」
 アレーナも朱華に同意見である。
 候補はいくつかあったので、まずは一通り回ってみた。二班と同じく儀弐王が雪絵に史実を告げるのに適切な場所探しをする仲間もいるので鉢合わせも起こる。
 状況を観察して場所の候補を絞り、その上で仲間達と相談して結論を出すつもりの朱華とアレーナであった。

●三班
(「‥最近は色々と重い事ばかり起こっていたからな」)
 神鷹はここしばらくの事を思い出しながら人波に混じって歩き続ける。
「天儀の食べ物も目に付きますね‥。焼き栗に混じって石焼き芋も売っていたり‥」
 柚乃は試しに石焼き芋を買ってみて神鷹と半分こにする。そして空き地にあった椅子に座って頂いた。
「甘味のお勧めが一つ、決まったようだな」
 神鷹に柚乃が頷いてみせる。
「でも話す場所の候補はまだ‥。屋外で見渡しが良く、‥2人の思い出の場所?」
 柚乃は秋空を見上げながら今朝会ったときに儀弐王が話していた昔話を思い出すのだった。

●四班
「明日の事、よろしくお願いしますね」
 市に出かける前、剣桜花は城の各門番達に挨拶回りをする。
 豊穣感謝祭に儀弐王と雪絵を連れ出す際に付け狙われるのを避けるために城周辺の警備強化を願った剣桜花だ。儀弐王によって達しは伝わっているが、加えてお願いしたのである。儀弐王によれば隠し通路を使うようだが注意は必須だ。出現場所は城の近くなのだから。
「見晴らしのよい場所は雰囲気はよいのでしょうけど、同時に狙われやすいですね」
 只木岑は剣桜花と歩きながら各所を確認する。
 市には広めの通りが使われていたが、枝となる裏道はそれなりに存在していた。儀弐王達の逃げ道にするのか、それとも逆に敵に利用されてしまうのかは自分達の心がけ次第であった。

●五班
「わりぃな、嬢ちゃんと兄ちゃん」
「お祭りは楽しいのにゃ☆」
 着流しの身軽な格好をしたパラーリアは豊穣感謝祭の運営を手伝う。同じ班のルオウも一緒だ。
「これ打てばいいんだな。あらよっと!」
 木槌を持ったルオウが告知の立て看板を大地に打ち付ける。
 それが終わると二人は運営の男性からおすすめのお店や催しについての詳しい情報を教えてもらった。さらに男性の知り合いの屋台からお礼として食べ物も頂く。
「このお饅頭、あんこがいっぱいなのにゃ。重音お姉さんと雪絵お姉さんも気に入るかにゃ?」
「こっちの蒸した海老もうめぇぜ。奏生も海に面した街だからな。最高だ!!」
 今日のところは調べのついでに賑わいを楽しんだ五班の二人であった。

●重音と雪絵
 出かける当日。城の一室では儀弐王と雪絵の着替えを含めた変装が行われていた。
 女性陣は二人を手伝い、男性陣は部屋へ誰も近づけさせないように気をつかう。
「もう少し濃いめがよいですね。横を向いてくださるかしら」
「こちらでよろしいですか」
 雪絵の化粧を担当していのはアレーナ。華美にならない程度に町娘を演出する。それが終われば儀弐王にも手を貸す。
 泰国風の変装を提案したアレーナだが、雪絵が恥ずかしがったので小物の範囲に収める事となる。その小物を用意したのはルエラだ。
「お二人分用意させて頂きました。こちらの飾りはどうでしょう」
 ルエラは用意した装飾小物を儀弐王と雪絵に選んでもらった。
「駄目?」
 とGスーツを手に儀弐王の前で大きく瞳を開いて可愛らしく声を出したのは剣桜花。儀弐王はいつもの淡々とした表情のまま首を横に振る。
 その様子を見守っていた他の者達は安堵する。何かあれば止めるつもりだったらしい。部屋の外にいる男性陣から頼まれた者もいたようだ。
「そちらはとてもよいですね。私もしてみましょう」
「え? は、はい‥。予備がありますので、こ、こちらを‥」
 柚乃がかけていた伊達眼鏡を儀弐王が気に入る。かけてみて鏡を眺める儀弐王。これで黒縁眼鏡男子の完成である。
「これ、お姉さんたちでよかったら使って欲しいのっ。ルオウくんと作ったのにゃ☆」
「ありがとう。パラーリアさん」
 パラーリアが儀弐王と雪絵に渡したのはお勧めの甘味処など二人で楽しめそうな場所がしたためられている旅の栞だ。
「陛下は歌劇団の男役でも務まります」
 着替え終わった儀弐王を眺めて剣桜花は何度も頷いた。
「さすがね。お似合いの恋人同士に見えるわ。では参りましょうか」
 部屋全体を見張っていた沙貴恵が襖を開いて儀弐王と雪絵を廊下へと導いた。
「これは見事な変装だな。それでは豊穣感謝祭を楽しまれている間、俺はアレーナさんと一緒に遠くから見守っていますので」
 城周辺の見回りから戻ってきた朱華は変装した二人を見て感心する。少々華がありすぎるがその点は仕方がない。
 一行は廊下を渡って離れにある小部屋へと足を踏み入れる。
「暗いのでお気をつけて」
 神鷹が装飾を動かして押すと壁が動く。そして行灯を片手に先頭を進んだ。
 儀弐王から事前に教えてもらった場内から外へと繋がる隠し通路である。ちなみに城外から侵入不可能なように工夫がなされているものだ。
(「Gスーツを着ていなくて本当によかったです」)
 前を歩く儀弐王と雪絵の後ろ姿を眺めてほっとしていたのは只木岑だ。もしGスーツを二人のどちらかでもまとっていたのなら、苦無を剣桜花に投げていた事だろう。
 しばらくしてある屋敷を通じて一行は地上にあがる。
 注意をしながら街中へと移動して、やがて目的の豊穣感謝祭が開かれている通りへと出る。
「しっかり警護するから任せといてくれよな!」
 ルオウはパラーリアと共に姿を消す。それを合図に各班に分かれての行動が始まった。
「それではカンナ、行きましょうか」
「はい。亮様」
 儀弐王は偽名として雪絵をカンナと呼んだ。雪絵は儀弐王を亮と呼ぶのだった。

●祭り
 恋人同士に変装した儀弐王と雪絵は祭りを散策する。
 近くで護衛をしていたのは一斑と二班。離れた場所から監視していたのは三班、四班、五班という役割になっていた。
「最初から飛ばすともっとおいしそうなものがあった時に困りますよ」
「その時にはお土産として持ち帰りましょう」
 寄り添い、人混みの中を歩く儀弐王と雪絵。
「そちらの席、よろしいかしら?」
 すらりとした足を武器にして沙貴恵は屋台横にある椅子を確保する。さりげなく儀弐王と雪絵に譲って自らは人の流れに意識を向けた。いつ何時、緊急の事態が起こっても二人を逃がせるようにと用心を心がける。
「こちら、とてもよい品ですね。他も見せて頂けますか?」
 屋台の主の前で、さっと長いブロンド髪を手のひらでなびかせたのはアレーナ。
 変装しているとはいえどうしても目立つ儀弐王と雪絵に代わって周囲の視線を自分に引きつけておく作戦だ。
(「あの男性には注意が必要ですね。ちらちらと儀弐王を見ていますし」)
 アレーナとは逆に市目笠に外套を纏って雑踏にとけ込んで儀弐王と雪絵を見守っていたのがルエラ。不審な人物を見つけるとしばらく監視し、時には他の仲間に伝えて続行してもらう。
「この栗饅頭はいけますね。お茶ととっても合っていて‥‥うん、うまい!」
 朱華は守る二人よりも早く屋台の料理に口を付ける。自然な態度に見せかける意味も含まれていたがいわゆる毒味役も兼ねていた。
(「人混みではスリにも注意‥一見は普通に見えるけど‥‥悪い人、許さない」)
 伊達眼鏡を左の人差し指で持ち上げて周囲を監視していたのは柚乃だ。人混みの中なので出来るだけ控えたいものの、いざとなれば白霊弾をお見舞いする覚悟である。
 この後、見かけた女のスリ行為を一度防止した柚乃だ。雪絵を狙おうとしていたスリらしき人物もいたが、儀弐王の存在を知るとそそくさと姿を消してしまう。儀弐王のただ者ではない気配がそうさせるのであろう。
(「よい時間を過ごされているようだな」)
 神鷹は路上の空いた椅子に腰掛けながら少し離れた位置で戯れる儀弐王と雪絵を眺める。雪絵の笑顔が何よりも物語っていた。儀弐王は相変わらずの淡々とした表情だが、おそらく楽しんでいるはずだ。
 鶴時家の間者がいたとしてもこの人だかりの中で人さらいをするのは難しいはずである。暗殺の危険性は考慮しておかなくてはならないが、今のところ大事は起こっていなかった。
「旦那と一緒にお祭り楽しみたかったんですけれど‥旦那が『私の方が弓の腕は上だ!』とか言い切るもので泣く泣く断念‥せめてお土産だけでも‥」
 剣桜花は同じ四班の只木岑にぼやいてみせる。
 四班は守る二人の行き先を読み、先回りして安全を確保した。その為に祭りが行われている通りを今日のうちにもう一度確認した剣桜花である。
「それにしても賑わっていますね。この雰囲気なら気晴らしにちょうどいい」
 只木岑は話題を変えて周囲に目を配る。目の端に置いたのは雪絵だ。常に注目し、すぐに胸元の苦無を放てるように心構えを忘れない。
 人混みの中だと邪魔なので弓は持たずに普段より身軽な只木岑だ。
「このサツマイモのお菓子、おいしいのにゃ☆」
「どれ‥‥。お、うまいなこれ。もう一皿、頼もうか」
 パラーリアとルオウは儀弐王と雪絵と一緒の屋台か、もしくはすぐ近くでさりげなく恋人同士を演じる。二人を邪魔しそうな者達が現れるとさりげなく盾になって災いを未然に防いでゆく。
(「楽しんでなー」)
 儀弐王と雪絵が見ていないところでルオウは小さく手を振るのだった。
 しかし祭りの通りにやってきてから約一時間後。一人の怪しい人物が発見されて四班が監視体勢に入る。
 その人物は狐の面をした女性で、常に儀弐王と雪絵を中心にした五十メートル円の範囲内にいた。ただこれといった行動はとっておらず、開拓者側も無闇に手が出せない状況が続く。
 陽動の可能性も残るので、その他の開拓者達は狐面の女性を四班に任せるのだった。

●二人の刻
 やがて夕刻。儀弐王と雪絵が訪れたのは奏生の空き地に育つ柿の木の根本。
「子供の頃、この木に登って柿をもぎったこと覚えている? 重音」
 雪絵は熟れた枝にぶら下がる柿を見上げる。
「もちろん。二人でいっせいので囓ったらすぐに吐き出しましたね。まさか渋柿だったとは考えもせず‥‥」
 儀弐王もまた柿を仰いだ。
「その後で干し柿が渋柿から作られると誰かからか教えてもらった重音に誘われて一緒に採りにきた時にはもう残っていなくて‥‥あの頃のことはなぜかよく覚えています」
 雪絵の視線から儀弐王は逃げられないでいた。隠している何かを話して欲しいとその瞳が訴えているように儀弐王には感じられる。
「雪絵の母君から教えてもらった事実です。覚悟して聞いて欲しいのですが、最初に一つだけ。わたしはどんなことがあろうと雪絵の味方です。それを忘れないで欲しい‥‥」
 儀弐王は雪絵が頷くと彼女の体内にあるという宝珠についてを説明する。
 赤く染まる世界で雪絵の表情が崩れてゆく。膝を地面に落とし、額までもつきそうなほどにうなだれてしまう。両手で顔を覆って嗚咽をもらす雪絵の背中を儀弐王は抱きしめるのだった。

●そして
 狐面の女性は四班の二人が接触しようとすると消え去ってしまう。長屋の通りを曲がった瞬間にどこかへと。そこにからくりがあったのか、それともアヤカシによる術だったのかまではわからずに終わる。
 狐面のせいで顔はわからなかったものの、腰まである黒髪で身長は百七十センチ強。朱色の着物をまとい、その立ち振る舞いから妖美な印象がうかがえた。
 狐面の女性が手にしていた風車のおもちゃが消え去った地面に置かれてあった。特別な仕掛けがないのを確かめてから、後に只木岑が儀弐王へと提出する。
 雪絵は事実を聞いて衝撃を受けたものの、翌日には笑顔で儀弐王の前に現れたという。新たな決意を胸に抱いて。